沈黙の栄光   作:ノービス

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タウラス杯、みなさまどうでしょうか?
私はオグリが3回育成失敗したのでエース級が居ないまま登録しました。
頼む…勝ってくれ…。


第18話「誰かの夢が駆け抜けた先に」

「シャムちゃん」

 

 ターフを走り去ったシャムを見たスズカは、急いで地下道へ向かっていた。

 果たして、向こうからシャムがぽつぽつと俯いたまま歩いてくるのが見えた。

 声を掛けると、顔を上げてスズカを見上げてくる。その顔はひどく憔悴しきっていて、今にも泣きだしそうだった。

 

「スズカ……」

 

 スズカの名前を呼んだシャムがスズカに抱き着いてきた。小さく嗚咽が漏れて、肩が震えるのが分かる。

 そっと頭を撫でてあげると震えはますます大きくなった。

 

「わた、私……っ!」

「良いの。良いのよ、シャムちゃん。勝負の世界ですもの。誰かが勝てば、誰かは涙を呑む事になるわ」

「でもっ! でもっ、その勝てるはずだった、誰かの夢を壊して……っ! 私の後ろにいた子だって、あんなに頑張ってたのに……!」

「シャムちゃん」

 

 ガクガクと震えるシャムの身体を強く抱き締める。小さな身体はすっぽりと腕の中に収まり、ポッキリ折れてしまいそうな弱々しさを感じた。

 腕の中で、シャムがぽつり、ぽつりと語り始めた。

 

「……私、最初は勝ちたいって思ってたの。周りの子の夢を邪魔することになっても、勝ちたいって」

「うん」

「それからずっと前で走って、あの坂で崩れそうになった時、スズカの声が聞こえたの」

「うん」

「それを聞いたら、もう最後まで走る事しか考えられなくなって、気が付いたらそのままゴールしてたの」

「うん。良く頑張ったわね」

「でも、ゴールした後のみんなを見て、私、本当にあれで良かったのかなって思っちゃって……」

「良かったのよ。だから、大丈夫」

 

 シャムの頭を優しく撫でて続けていると、少し落ち着いてきたのか身体の震えが収まってきた。

 それから、先程よりは幾分かはっきりした声でシャムから言葉が紡がれる。

 

「ねぇ、スズカ」

「何かしら?」

「……誰かの夢を壊すって、すごく、苦しいわね」

「そうね。だけど、その分、シャムちゃんの夢は大きいものになるわ。みんなの破れた夢を貴方が背負うのよ、シャムちゃん」

「私が、背負っても良いのかな……?」

「ええ。勿論よ」

 

 下から見上げてくるシャムに、スズカは頷いた。

 そして微笑みかけながら、祝福の言葉を投げ掛ける。

 

「だから。──デビューおめでとう。シャムちゃん」

 

 その言葉を聞いたシャムの目から、大粒の涙が浮かんでは零れ落ちる。

 ぐす、と一度鼻を啜ってからぎこちない笑顔を浮かべた。

 

「ありがと……私、これからも頑張るから……」

「ええ。そしていつか一緒に走りましょう?」

 

 さ、ウイニングライブに行ってらっしゃい、と身体を離して背中を押してあげる。

 頷いて控室の方に向かうシャムの表情は先程より少しだけ柔らかくなっていた。

 

 

 ⏱ ⏱ ⏱ ⏱ ⏱

 

 

「シャムのメイクデビュー勝利を祝してぇ~かんぱぁい!」

「「かんぱーい……」」

 

 シャムのウイニングライブも無事成功に終わった所で、早速打ち上げがしたいと張り切った茜が皆を連れて来たのは、大阪の都市部にあるとある串カツ屋だった。

 何度か来ている馴染みらしく、あれよあれよと言う間に個室へ案内され、お任せで頼まれた揚げたての串カツが運び込まれてきた。

 茜は乾杯の音頭を取ってすぐにジョッキを傾けている。完全に酒飲みのそれだった。

 ごくごくと喉が鳴る度にジョッキの中身が勢い良く無くなっていく。葵が呆れた顔で従姉を見ていた。

 

「全く、新幹線で来てるからってバカみたいにお酒飲んで……」

「どうせ帰るんは明日なんやし、ええやないか葵~! ええ事あった時はこうやって飲むに限るやろぉ~!」

「悪い事があっても飲むでしょお姉ちゃん!!」

「人生何事においても酒や! 酒しか勝たん!」

「もうダメだこのお姉ちゃん……!」

 

 葵の制止も通じず、茜はガーッとジョッキを既に2杯も空けていた。

 葵は説得するのを諦めた。助けを求めるようにドーベルへ視線を向ける。

 

「はふっ、はふっ、ん、おいし……」

 

 ドーベルは上品に串カツを食べていた。見て見ぬ振りと言うか、もう慣れてしまって諦めている様子だった。

 触らぬ茜に祟り無し、と言う事か。首を振った葵は、続いてリョテイに視線を向ける。

 

「この串カツ、んめぇ~! なあ、鹿肉の串カツは無いのか? 無い? そっか……」

 

 ダメだった。もう目の前の串カツを食べる事しか考えていない。そもそもリョテイにブレーキ役は無理だった。

 何せ、自分に好きなようにさせてくれるから茜に付いてきているのだ。茜を止めてくれる訳が無かった。

 と言うか、鹿肉の串カツってなんだ。牛肉か豚肉ではダメなのか。なぜ鹿に拘るのか。

 他には、とドトウの方へ視線を向ける。

 

「あちゅっ! あぅ、す、救いは無いのですかぁ……?」

 

 それ以前の問題だった。串カツ1本に苦戦している。

 隣に近付いてふーふーしてあげると大変感謝された。

 ドトウが串カツを食べ進めていくのを見ながら、相方のフクキタルの方を見る。

 

「こ、こんなに美味しい串カツがあったなんて、流石ビリケン様の御膝元……!」

 

 いや、大阪はビリケン様の御膝元と言う訳では無い。ある意味ではそうかも知れないが。

 感動しきりで串カツを頬張っているフクキタルを見て、頭を抱える葵。

 残るは新人の二人だが──。

 

「シャムちゃん。あーん」

「あーん、はむっ。んーおいしー♪ ほら、スズカも、あーん」

「あーん。ん、本当、美味しいわ」

「今の世の中ってこんな美味しい食べ物があるのねぇ」

 

「……ぅぷ」

 

 ダメだった。一目見ただけでお腹が一杯になり、胸焼けがした。

 既に茜の事など眼中に無い様子だ。完全に二人だけの世界を作っている。

 誰か、誰かあの従姉を止めてくれ。ガックリ項垂れる葵の肩を何者かの手が叩いた。

 まさか、救世主!? と振り向くと、頬を少し赤くさせた茜がジョッキを2つ器用に片手で持っていた。

 サーッ、と葵の顔から血の気が引いた。神は死んだ。

 

「ほら、折角のお祝いなんやし、葵も辛気臭い顔してんで飲め飲めぇ~!」

「ふぎゅっ!」

 

 2つあったジョッキの片方を口に押し付けられ、思わず一口飲んでしまう。アルコールが体内に入り、じわじわと染み込んできて熱を持つ。

 仕方ない、こうなったらもう自棄だ。もう逃れられないと悟った葵は、茜からジョッキをひったくり、それを傾けてごくごくと飲む。

 まさかまさかのその姿に、その場の面々がおぉ……、と感嘆の声を漏らした。

 ダン、と空になったジョッキがテーブルに置かれる。顔を赤くし、半目になった葵は一呼吸置いて叫んだ。

 

「シャムさん!! メイクデビュー勝利おめでとうございます!!」

「ひゃい!? あ、ありがとう……」

「これから長い道程になると思いますが! 貴方ならきっと走り切ってくれると信じています!」

 

 それだけ言うと葵は串カツをむしゃむしゃし始めた。シャムは呆気に取られるばかりだった。

 それを見た茜が大笑いする。

 

「あっはっはっ! よう言うた葵! それでこそ桐生院や!」

「トレーナー、流石にアルハラはまずいんじゃないかな」

 

 ほれほれ、と串カツの追加を葵の皿に乗せる茜を見て、ドーベルが呆れた様子でようやく動いた。

 

「なんでや! 葵はまあまあ行ける口やし、ジョッキの1杯や2杯ぐらいはへーきやへーき」

「大人二人酔っ払ったら誰がホテルまで連れて行くのよ」

「これでも抑えてる方やから安心してええで」

「抑えるって単語、調べ直した方が良いんじゃない?」

 

 ジト目でドーベルが見た先には既に5杯空いているジョッキがあった。

 普段飲んでいると言う酒の種類を思えば、確かに抑えていると言えるのかも知れない。いや、その考え方はどうなのか。

 まあ、折角の打ち上げの席。細かい事を気にするよりは楽しんだ方が良いか、と思い至ったドーベルはそれ以上言わずに串カツを食べる方に戻る。

 みんな、好きなように食べ、好きなように騒ぐ。これが【ポラリス】の祝勝会のいつもの風景だった。

 

 シャム初勝利の夜は、こうして騒がしくも楽しく更けていくのだった。




1つの夢が壊れても、それを糧にまた新しい夢が生まれる。
誰かの夢だったものは自分の夢になり、そしてターフを駆け抜けていくのだろう。
少女は1つ、成長した。


※アルハラ及び一気飲みは現実では絶対にしないでください。


串カツ編書くの楽しかった(小並感
内容盛ってたら出遅れしましたが、まあ楽しかったのでヨシ!

ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想や誤字脱字等ありましたら送ってくださると今後の糧と励みになります。
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