沈黙の栄光   作:ノービス

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今回からできるだけ更新頻度を増やすために少し文字数を減らしています。
一気に書こうとするとやはり止まりやすいですね…。

書き溜めは一応まだ残っているので無くなるまでは定期的に投げます…。


第2話「温かな暗闇の先に」

 気が付けば、スズカは暗闇の中に一人ぽつんと立っていた。

 

「ここは……どこ……?」

 

 真っ暗で何も見えないその空間の中で不安が大きくなり、耐え切れず座り込んでしまいそうになった時、目の前に大きな光が現れた。

 闇を切り裂く眩い光を呆然と見つめていると、スズカの横を走り抜けていく影があった。

 白を基調として紫が散りばめられた勝負服の後ろ姿に、スズカは見覚えがあった。

 

「あれは、スペシャルウィークさん……?」

 

 走っていくその背中を見送っているうちに、彼女の姿は光の中へ消えていこうとしていた。

 追わないと。そんな気持ちが自然と胸の中に湧いてくる。

 

「待って……! どうして貴方が……!」

 

 後を追って走り出す。昔のように全力で、最速で。

 どうして走れるのかは分からない。けれど、それよりも大切なことが目の前にあった。

 

「教えて……! 貴方に会えば、何かが変わるの……!?」

 

 もうほとんど見えない背中に走りながら手を伸ばす。

 伸ばした手は光を掴み、そして光は弾けた。

 

「きゃあ!」

 

 溢れ出した光に飲み込まれ、スズカの意識はもう一度白に溶けた。

 

 

 ⏱ ⏱ ⏱ ⏱ ⏱

 

 

 ──ピピピ、と聞こえる電子音にスズカの意識は表に浮き上がった。

 

 もぞり、と手を布団から伸ばし、音の正体を掴むと慣れた手つきである1か所を押す。

 ピッ、と断末魔のごとく電子音が途中で止まり、一連の動作で目を覚ましたスズカはゆっくりと起き上がる。

 ぼーっとした目つきで壁に掛けられたカレンダーに目をやり、今日の日付を確認したところで一気に眠気が吹き飛んだ。

 

「え、ええっ!? 本当に戻ってきてる……!?」

 

 布団から跳ね起き、部屋を見回す。あまり変り映えがしない内装だが、スズカの知る今の部屋とは確かに少し違うことに気が付いた。

 過去に戻ってきたという実感が湧くと同時にある疑問が浮かんできた。

 

 ──女神様の言うように精神だけ(・・・・)が過去に戻ってきたのなら、身体は(・・・)……? 

 

 恐る恐る布団を捲り、全身を晒す。足に違和感はない。動かしても鈍い痛みは来ない。

 ゆっくり確認してから足をベッドから降ろす。床につけても何ともない。意を決し、そのまま立ち上がった。

 

「痛く、ない……!」

 

 立っても違和感は全くない。試しに左回りにクルクル歩いてみるが、引っ掛かるような感覚もない。

 全盛期のスズカの身体そのものだった。

 

「やった……! これでまた走れる……!」

 

 嬉しさのあまりピョンピョン跳ねてしまう。もう一度走れることがこんなに嬉しいことだなんて思わなかった。

 ウキウキ気分のまま制服に着替え、部屋を出てからスキップで学園へ向かうのだった。

 

 

 ⏱ ⏱ ⏱ ⏱ ⏱

 

 

 学園に向かう途中で昂る気持ちを静めたスズカは、過去へ戻る前に女神から受けた注意事項を思い出していた。

 曰く。

 

『一度過去に戻ったらやり直しはできない』

『過去と同じことを繰り返し続けた場合、過去は変わらない』

『女神から過去を変える手助けはできない』

『過去の人間やウマ娘も直接的な手助けは出来ないし、未来のことは話せないようになっている』

『身体は過去のものだが、精神は今のものなので、認識にズレが生じる』

『無事是名ウマ娘の精神を忘れない』

『ニンジンは1日5本まで。バナナはおやつに含む』

『ここまで言ったけど、やっぱり心配だから最後まで見守ってあげる』

 

 ……最後の方は結構な過保護が入っているような気がするが、多分気のせいだろう。

 兎にも角にも、女神の忠告を忘れなければ同じことは繰り返さないだろうとスズカは結論付けた。

 やり直しができないのなら、もう失敗は許されない。スズカは、むん! と気合を入れた。

 

「サイレンススズカさん、おはようございます」

「おはようございます、たづなさん」

「あら? 今日はとても機嫌が良さそうですね?」

「あ、い、いえ……夢見が良かったので、つい」

 

 学園の校門まで来ると、緑の服に身を包んだ駿川たづな女史が登校してくるウマ娘たちに朝の挨拶をしていた。

 スズカもそれに返事を返すと、たづなはいつもより浮ついている様子のスズカに首を傾げて尋ねてくる。

 スズカは照れ隠しをするかのように耳と尻尾をぱたぱたとせわしなく動かしてそう言い訳すると、そそくさと学園へ入っていった。

 たづなはその後ろで笑顔のまま見送り、元気ならそれが一番ですね、と一言呟いた。

 そして、また一人やってきたウマ娘に気が付くと振り返り、また挨拶するのであった。

 

「おはよう、たづなちゃん!」

「おはようございます、──さん。あの、ちゃん付けは恥ずかしいので、出来れば控えてもらえると……」

「私からしたらみんな『ちゃん』だよ、『ちゃん』。それとも、──ちゃんって呼んだ方が良い?」

 

 ちゃん付けで呼んでくるそのウマ娘に少し困ったように返事を返したたづなだったが、その次に投げられた言葉に身体を硬直させた。

 自分の正体を知っている者など、理事長以外には居ないはずなのに。たづなは背中が凍るような感覚に襲われた。

 平静を装い、目の前のウマ娘に問いかける。

 ただのウマ娘であるはずの彼女の姿が、まるで何か恐ろしいものであるかのように見えた。

 

「どうしてその名前を……」

「あっ、遅刻しちゃーう! じゃあね!」

「あっ! 待ってください! ……もう」

 

 しかし、そこで予鈴のチャイムが鳴り、彼女は颯爽と学園の方へ駆けていってしまった。

 たづなは溜息を一つ吐くと、時間になるまで校門の前で生徒たちを待つのだった。

 

「ふふ、流石にスズカも驚くかしらね?」

 

 ──このやり取りを聞いていた者は、学園に吹く風以外に誰も居なかった。

 

 

 ⏱ ⏱ ⏱ ⏱ ⏱

 

 

 教室へ入ると見知った顔ぶればかりがそこに居た。違うのは今より少し若く見えるところだろうか。

 もちろん自分も若返っているのだが。

 

「ハウディ! スズカ!」

 

 懐かしさを感じて、ふ、と笑みを漏らしていると栗毛のウマ娘が声をかけてきた。

 同期のタイキシャトルだ。外国生まれで独特な日本語を話すが、あのサクラバクシンオーと双璧を成す速さを持つトップマイラーの一人である。

 

「おはよう、タイキ」

「……ホワイ? 今日のスズカ、妙にご機嫌デスネー。何か良いことでもありまシタカー?」

「そうね、少し夢見が良くて」

「ワオ! それは良いことデース! 今日も一日頑張りまショー!」

 

 スズカがご機嫌な理由に納得したタイキはふんふん、と嬉しそうに手を叩いて喜び、激励の言葉をスズカに掛けた後に自分の席へと戻っていった。

 底抜けに明るい彼女は、普段とは雰囲気が違うスズカの姿を見ても理由が分かれば「ワタシもベリーハッピー!」であった。

 

 しかし、他のクラスメイト達はそうはいかなかった。

 普段の寡黙な雰囲気を醸し出していた時とは全く違うスズカの様子に、声を掛けてきた何人かは揃って総毛立つようになり、早々に切り上げては席に戻っていった。

 ここまで一様な反応をされると、やはり、未来から飛んできたことで当時の自分と今の自分の印象に違和感が残っているんだろう、と若干ズレた思考をしながらスズカは席に着いた。

 

 それ自体は確かに間違っているわけではないが、周りが引いているのはスズカの気持ち悪い程のにやけ顔にである。

 ちょうど座ったところで担任の教師と一人のウマ娘が一緒に入ってくる。教師は壇上に立つと生徒たちを一瞥してから口を開いた。

 

「おはようございます、皆さん。今日は最初に編入生の紹介から始めます」

 

 そう言って隣に立つウマ娘に自己紹介を促す。

 綺麗な黒鹿毛を靡かせるそのウマ娘は大きな笑みを浮かべ、口を開いた。

 

「──私はシャム、と言います。これからよろしくお願いします」

 

 パチパチパチ、と拍手が鳴る中、スズカだけは目を真ん丸に見開いて彼女を見つめていた。

 

「今の声、昨日の……?」

 

 何故ならスズカはその声に聞き覚えがあったからだった。それも昨日聞いたばかりの声だ。

 間違えるはずもない。彼女は──

 

「え、えぇ~~~っ!?」

「サイレンススズカさん、静かにしてください!」

「すっ、すみません……」

 

 思わず叫んでしまったスズカに担任の怒声が飛ぶのであった。




本作品では「例の二人はウマ娘説」を採用しております。
そして、謎のウマ娘の正体やいかに。

感想や誤字脱字等ありましたら伝えてもらえると幸いです。
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