久しぶりなので初投稿です。
「うぅ~……セイちゃん……」
「残念だったねぇ、スペちゃん」
怪鳥ならぬ刺客エルコンドルパサーによって【リギル】への入部を阻まれたスペシャルウィーク。
しかも、サイレンススズカが【リギル】にはもう居ないと知らされ、半泣きで部屋に戻ってきた所をセイウンスカイは慰めていた。
彼女は負けて悔しいから泣いているのだろうし、それに今の二人は同じチーム【ポラリス】の所属である。
明日には件のチームへの入部を試みているだろうとセイウンスカイは考えていた。
しかし、その考えはスペシャルウィークの次の発言によって吹き飛んでしまう。
「ぐす、サイレンススズカさん、どこ行っちゃったんだろう……」
「えっ、聞いてないの!?」
「移籍したって聞いてから頭が真っ白になって……」
「おおう……」
落胆の度合いが余りにも酷過ぎて、どうやら移籍先を聞きそびれたらしい。
素直に教えても良いのだが、泣き顔の彼女を見ているとなんだか心がムズムズしてくる。
もうちょっとだけ揶揄ってみても良いんじゃないだろうか? そんな悪魔な考えが浮かぶ。
「……ね、サイレンススズカさんが移籍した先、教えてあげよっか?」
「……!」
にまぁ、と悪い笑みを浮かべたセイウンスカイは、スペシャルウィークの耳元に口を寄せるとそっと囁く。ぴくり、と彼女の耳が揺れた。
ぐるん、と首が回ってセイウンスカイの方を向く。その目には先程までの絶望ではなく、希望に満ち満ちていた。
悪い笑みを浮かべていた筈のセイウンスカイは、こんな純真無垢な彼女に本当にこの悪戯をしていいのか悩んだ。
「……【ポラリス】、だってさ」
結局、その瞳に負けてしまい、本当の事を告げる。なんだかんだ言ってもスペシャルウィークには甘いセイウンスカイであった。
「【ポラリス】……確かマチカネフクキタルさんもそこだったよね?」
「そうだよー。良かったじゃん、二人とも同じチームにいるから悩まなくて大丈夫だね」
「やったぁ!」
気分がウキウキになり、尻尾をパタパタ、耳をピコピコさせるスペシャルウィーク。
セイウンスカイが守れて良かったこの笑顔、と思っていると、そういえば、とスペシャルウィークは居住まいを正してスカイの方へ向き直る。
「あの、セイちゃんも一緒に行く?」
「【ポラリス】に? ナイナイ。あそこ【リギル】に負けず劣らずの鬼トレって聞くし、私には合わないよ」
「そっか……」
スペシャルウィークは先程までのウキウキから一転、またしても絶望の淵に立たされたような表情を浮かべる。
感情の乱高下の渦中にある彼女を見て、セイウンスカイは先程感じたムズムズ感がスーッと消えるのを感じていた。端的に言うと満足した。
満足した所で、またぐずり始めたスペシャルウィークを必死に宥めるのであった。
⏱ ⏱ ⏱ ⏱ ⏱
時は変わり、翌日。
【ポラリス】へ入部志願をしに行ったスペシャルウィークを見送ったセイウンスカイは、入部するチームを探すためにぶらぶらと学園内を歩いていた。
募集のパンフレットが貼られた掲示板等を見ても、やはり中身の実態が分からない事には入る気になれない。
そこで、練習内容を見る為に練習コースへ足を向ける事にした。
到着すると上からコースを眺める。コースにはスイーツと連呼しながら走っている集団が居た。
「……!?」
目を擦ってからもう一度コースを見た。やはり、スイーツと連呼しながら走っている集団が居た。
セイウンスカイは頭がおかしくなりそうだった。
どうやら普通にランニングをしているようなのだが、それにしたってその掛け声は無いだろう。
しかし、そんな奇妙な集団からセイウンスカイは目を離せなかった。
まさに自分が求めていたような練習を、目の前の集団はやってみせているのだ。
あのチームなら、もしかしたら。そんな思いが湧き上がってくる。
どこのチームだろうかと思い、下りて話を聞きに行こうとした矢先。
「おっと。ちょっと失礼」
「……っ!?」
突然、脚を誰かに掴まれる。見えない所からの奇襲に反応がたっぷり遅れてしまう。
その隙を相手は見逃さなかった。
ゆっくりと下から上へ、上から下へトモを撫で回し、後ろでふんふん、としきりに頷いている。
「な、な……!」
「うーん、良いトモだ……。この筋肉の付き方だと、長く走るのに向いてそうだな……」
後ろの不審者が訳の分からない事をぶつぶつ呟きながら触られている内に、セイウンスカイは漸く再起動を果たした。
「いきなり何するのさ!」
「ぐわっ!」
本能的に脚を後ろへ思いっきり蹴り上げる。蹴りは見事に不審者を捉えて吹っ飛ばした。
情けない悲鳴を上げて転がった不審者は仰向けに倒れたまま、ぴくりともしなくなった。
振り返ってそれを見たセイウンスカイは流石に顔を青くした。
つい蹴飛ばしてしまったが、相手は人間のようだ。ウマ娘の脚力で蹴られればどうなるのか、想像は容易い。
恐る恐る不審者に近付いて様子を窺う。男性のようで、顔を蹴っていたのか鼻から鼻血を出していた。
「だ、大丈夫……?」
自分で蹴り飛ばしておきながらそう聞くのもおかしな話だが、流石に傷害沙汰になりかねないのだから仕方がない。
声を掛けてから暫くすると、男がむくりと起き上がる。鼻血を出したままなので、絵面が大変怖い。
「なあ、お前さん、名前は? 何年だ? チームには入ってるのか? デビューの予定は? 」
「っ、ひ……」
そしてそのまま早口で捲し立ててくるものだから、さしものセイウンスカイもこれには恐怖した。
友人に悪戯するのが好きな彼女であっても、自分が驚かされる側は慣れないのだ。
引き絞っていた耳は今やすっかり垂れてしまい、脚が後ろに下がっていく。
どうにかして逃げようという算段を立てていると、男は真っ直ぐセイウンスカイを見ながらこう言った。
「それと……お前さんに夢はあるか?」
セイウンスカイの動きが止まった。思わず男の顔を見つめ返す。まだ鼻血が出ていて怖い。
それよりも、今言われた言葉を口の中で反芻する。セイウンスカイの夢は何か。
少し考えた後、セイウンスカイは男をじっと見つめながら口を開いた。
「貴方は……トレーナー?」
「あぁ、そうだ」
「私の夢を言えば、叶えてくれる?」
「それは出来ない」
セイウンスカイの問いに、トレーナーだと名乗った男は首を振った。
それを見たセイウンスカイの耳が後ろに絞られる。
無責任だと、そう感じたからだ。
「どうして。トレーナーはウマ娘の夢を叶えてくれるんじゃないの」
「俺が出来るのは夢を叶える手伝いまでだ。叶えるのは、あくまでもお前さんだ」
「……」
その言葉を聞いたセイウンスカイは目を閉じ、何かを考える素振りを見せる。
トレーナーはそれを黙って見ているだけだった。
やがて、セイウンスカイがゆっくりと眼を開いた。
「トレーナーは、どこのチーム?」
「俺はスピカの担当だ」
「そっか。あのね──」
セイウンスカイはトレーナーに夢を告げ、トレーナーは頷いた。
──この日、スピカに新しいメンバーが加わった。
静かな闘志を湛えた少女は、夢を叶える為に道を選んだ。
静かな意志を秘めた男は、夢を支える為に手を差し伸べた。
狂った歯車はもう戻る事は無く、それはもう狂ってはいないのだ。
長らくお待たせしました。復帰が閑話なのはご容赦ください。
少し仕事も忙しく、もしかするとまたお休みを頂くかも知れませんが、温かい目で見守って頂ければ幸いです。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
感想や誤字脱字等ありましたら送ってくださると今後の糧と励みになります。