それから、今まで散々更新を延ばしておいて言うのも烏滸がましいのですが、仕事の方が忙しくなってきたのと仕事の進捗に対して精神的負担がデカすぎるので、納期の7月いっぱいまでお休みをいただきます……。
更新を楽しみにしていた方、大変申し訳ございません。
消えていなくなると言う事は絶対無いようにしますので、今しばらくお待ちいただけると幸いです。
※9月23日追記:拙作の今後について
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=268147&uid=21044
※12月15日追記:[遅刻]リメイク版開始のお知らせ
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=272536&uid=21044
翌日。重大発表がある、と言う事でチームルームに集められた面々は、改めて茜からスペシャルウィークの紹介を受けた。
昨日の模擬レースはプールでトレーニングしていたシャムとリョテイ以外が見ていたが、面と向かって言葉を交わすのはこれが初めてであった。
「スペシャルウィークです! 皆さんよろしくお願いします!」
おー、よろしくな、やら、よろしくお願いしますぅ、と言ったそれぞれの挨拶が交わされている間、スズカはじぃ、とスペシャルウィークの事を見つめていた。
その瞳は、期待と不安に揺れていた。
⏱ ⏱ ⏱ ⏱ ⏱
話は昨日よりも少し前に遡る。
いつものように添い寝&抱き枕スタイルでシャムを抱えていると、彼女がふと思い出したように口を開いた。
「そういえば、ちょっと前の話になるけど、スペシャルウィークちゃんが寮に入ってきてたわよね」
「え? ……あっ」
その名前を聞いたスズカは一瞬首を傾げたが、とある事を思い出して声を上げる。
それはスズカが過去に戻る時に見た彼女の姿の事だった。
「そういえば、あの時に見えたスペシャルウィークさんは一体どういう事だったの?」
「えっとね、何というか……想いの継承みたいなのと言うか、彼女が来た時に分かりやすく頼ってもらえるかなって言うか……」
「そういう事だったの……」
結局私が来ちゃったし、あんまり意味無かったかも知れないけど、としゅんとするシャム。
よしよし、と撫でてあげると、耳がピコピコ動いて尻尾もフリフリと小さく振られてスズカの脚を擽った。大変可愛い。
「寮長に聞いた所、あの子はセイウンスカイちゃんって子の部屋になったらしいけど、本来なら……」
「ここって事? でも、私が居た未来だと居なかったわよね……?」
思い出すのはこの時間軸に来る前の事。あの日まで、自分の部屋に来た同居人はただの一人も居なかったはずだ。
それでどうして彼女が出てくるのか。スズカは首を捻った。
「そうね。スズカの居た世界だと、彼女は編入じゃなくて中等部からの入学だったものね。それで部屋割りの時に同期優先で組まれたから、スズカと同室では無かったのよ」
「えっ、そうだったの……?」
驚くスズカにシャムは頷いた。
だから、最後まで一緒になる事も、接点が出来る事も無かったのか。スズカは少し合点がいった。
それでもまだ謎な事は多い。この際だから全部聞いてしまおうかな、と思い、もう少し話を聞いてみる事にした。
「それじゃあ、ここでのスペシャルウィークさんが入学じゃなくて編入だったのは……?」
「えっと、それは、ね……」
同じ時間軸の過去なら、スペシャルウィークはそもそも既にトレセン学園に居なければおかしいはずだ。
それがどうして編入と言う形で、今になってやってきたのか。
その事をシャムに聞くと、少し詰まった様子で目線を泳がせ始めた。
スズカは、何となく嫌な予感がした。これ以上踏み込むと、大変な事になる。そんな気がしたのだ。
それでも、聞くしかなかった。否、聞いて確かめなければならない。
「教えて、シャムちゃん。この世界は……何?」
──ここが、自分にとっての過去の世界なのかどうかを。
「……」
シャムからの返事は、直ぐには来なかった。
まるで、どう伝えるべきなのか分からないと言った様子で、それが答えなのだとスズカは直感してしまった。
その考えの恐ろしさに思わずシャムの身体を強く抱き締める。潰れたような悲鳴が腕の中から上がった。
上がった悲鳴からややあって、ようやくシャムが口を開く。
「スズカは、さ。シュレーディンガーの猫って知ってる?」
「シュレーディンガーの猫?」
聞き慣れない言葉に首を傾げると、ぽつぽつと説明が始まった。
聞けば、シュレーディンガーの猫とは、1時間の内に50%の確率で死ぬ仕掛けが施された箱に入れられた猫が1時間後にどうなっているかは、開けてみないと分からないと言う思考実験の1つらしい。
それが今回とどう関係あるのかと問えば、シャムは首を後ろに向けて答える。
「つまりね。現在と未来はそういった不確定の可能性で出来ているのよ。それを認識することで可能性は確定に変わるの」
「じゃあ、過去はどうなの? 過去は既に終わっているから確定しているはずよね?」
「それは多分、スズカがここに来た方法が原因ね」
説明を受けると長くなったので割愛すると、スズカの精神を過去へ飛ばす際に、精神が時間の流れから浮いた存在になる事で過去を認識出来なくなり、その結果、過去も不確定の揺らぎに晒されて変化したのだろうという事だった。
スペシャルウィークが入学では無く編入でトレセン学園に来たのもその1つであった。
正直な所、ここまでの話を聞いてもスズカには何やら話が大きすぎて良く理解できたとは言い難い。
ただ1つ理解しているのは、ここが自分の知る過去とは似て非なるものだという事だけだった。
「ま、例え過去が変わっていたとしても、スズカが何もしなければ大なり小なり未来の結果は同じものになるわ。それは前にも言った通りよ」
「……そうね」
「だから、未来を変えるためにもまずは未来で無かった縁を増やしていきましょ。【ポラリス】の皆みたいにね」
そう言って身体を預けてくるシャムを撫でながら、ええ、とスズカの小さな呟きが零れる。
その後に心の中で続いた、それでも、神戸は変わらなかったわ。という言葉は終ぞ彼女の口から紡がれる事は無かった。
⏱ ⏱ ⏱ ⏱ ⏱
「あの、スズカさん!」
ぼーっと呆けて過去の会話を思い出していたスズカの意識は、目の前で声を上げたスペシャルウィークによって現実に引き戻された。
どうやら回想している間にメンバーとの挨拶は殆ど終わったようだ。声を上げた本人はキラキラした瞳でスズカを見上げていた。
「ぁ、えっと。スペシャルウィークさん?」
「あの! スズカさん、神戸新聞杯の結果は惜しかったですけど、最後まで真っ直ぐ走る所、すごく格好良かったです!」
「……っ!」
「あっ、そうでした! スペシャルウィークさんの夢って何ですか!」
何事かと問えば返ってきた何気無いスペシャルウィークの賞賛がスズカの心に突き刺さった。
何が格好良かったなのか。あの時、慢心して無様な走りをしてしまった挙句、フクキタルに差し切られたというのに。
──過去を変えられなかったというのに。
スズカの表情が変わったのを目聡く見つけたフクキタルが話題転換をしようと強引に割り込んでくるが、それがフクキタルだった事もスズカの神経を逆撫でする結果となっていた。
「私の夢ですか? 私は日本一のウマ娘になりたいです! お母ちゃんとの約束なんです!」
明らかに耳が絞られて不機嫌になっているスズカに気付く事無く、フクキタルの質問に答えるスペシャルウィーク。
憧れのウマ娘である二人を前にして完全に舞い上がっている様子だった。
フクキタルは、お母さんとの約束ですか、良いですね! と合いの手を入れているが、チラチラと視線をスズカの方に向けては冷や汗を流している。
触れば割れてしまいそうな程に膨らんでいる負のオーラに怯えているようだ。
そして、そこへ更に火種が投げ掛けられる。話を聞いていた茜までもが割り込んできたのだ。
「ほー、日本一のウマ娘かぁ。大層な夢やなぁ。なぁ、君らは何したら日本一のウマ娘やと思う?」
「何をしたら、ですか? うーん……?」
「やっぱりクラシック三冠じゃないですか? それだと私はなれませんけど……」
「ま、色々あるやろうな。スズカはどう思う? ……スズカ?」
「……」
「あわわわわわ……!」
水を向けられたスズカをうっかり見たフクキタルは尻尾を逆立たせた。
何て事をしたんですか、と茜に抗議の目線を送れば、茜の方も理解した様で、あっちゃあ、と顔を片手で覆っていた。もう滅茶苦茶である。
渦中のスペシャルウィークだけが状況が分からずに首を傾げていた。
そんな中、スズカは表情の抜け落ちた顔でじぃ、とスペシャルウィークを見つめながら口を開く。
昔のスズカであれば、この問いには『見る人に夢を与えられるようなウマ娘』と答えていただろう。
しかし、あの悪夢を迎えて以来、スズカの考えは変わっていた。
「……走り続ける事」
「はい?」
ぽつり、と零れた呟きに思わず聞き返すスペシャルウィークに構わず、スズカはその言葉の先を続ける。
「何があっても……ううん、何事も無く、ずっと先頭の景色を見続けられるウマ娘が日本一のウマ娘だと私は思うわ」
「何事も無く走り続ける……」
「だって、走らないと誰かに夢は見せられないもの。──そしてそれは、勝たなければ意味がないのよ」
それだけ言うと、私はトレーニングに行きますね、とスズカは背中を向けて立ち去っていった。
割り込む隙が無く、空気となっていたシャムが慌ててその後を追いかけていく。
「……なんや、その、無邪気て、怖いな。それでも答えてくれるだけマシなんやろけど」
ぽかん、と呆けて見送るスペシャルウィークを横目に見ながら茜が呟いたこの一言は、他の面々の気持ちも良く表していたのだった。
変わった過去と変わらない過去。
変わったけれど変わらない過去。
そのどれもが少女の心を乱し、惑わせていた。
それでも時間は皆平等に進む。秋の盾が、近づいてくる。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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