近界プルルン奮闘記 作:ドドドドド黒龍剣
醤油ラーメン擬きを作った結果、醤油が取り上げられた。
ルミエの奴を殺してやろうかと思ったが、そんな事をしても俺が殺されるだけなのでそんなバカな真似はしない。
「じゃ、植えますよ」
無くなったのならば、また新しく作ればいい。
醤油を作るための材料だけは沢山揃っているのでありがたく使わせて貰い、それとは別で育てていた米の苗がいい感じに育ってきたので、空閑親子とリーナと一緒に田植えをする。
「思ったよりも腰に来るな」
「トリオン体なのに、なに言ってるんだ」
中腰で一本、一本丁寧に田植えをする。
生身の肉体ならばとっくに根を上げているだろうが、そこはトリオン体と言うチートな肉体でカバーをする。
しかし、トリオン体がチートと言っても疲れるものは疲れる。遊真は疲れを感じたのか腰に手を当てるが、有吾さんに笑われる。
「トリオン体は生身の肉体と違って疲れることは知らない。もし疲れたと感じてしまうのなら、それはトリオン体を完璧に使いこなしていないからだ」
「田植えをする動きをまだ完璧にこなしていないからか……いや、なんだそれ」
田植えを完璧にこなしていないって、俺もリーナも空閑親子も農家じゃないんだ。
一応の作り方は教えてやると上から教わってはいるが、やっていることは傭兵と軍人の様なものだ……ホント、なにやってんだか。
「米が育てば、なににするつもりだ?」
「そうだな……オムライスか炒飯が無難なところだな」
苗も植え終わり、一息ついたところ。
この苗を育て終え、収穫して精米し米にした頃、なににして食べるのかを有吾さんが聞いてくるので答える。
「そこはおにぎりじゃないのか」
「海苔が無いんだ」
日本人ならばおにぎりだと思っているだろうが、おにぎりは米だけじゃない。
塩と何よりも海苔が必要だ……塩はともかく、海苔の作り方は知らない。なんかこう、海に浮いているワカメみたいなのをくっつけて乾燥させて炙ってるイメージしかない。
「海苔、か……色々と見て回ったが作ってる国は見たことないな」
「海苔は中国、韓国、イギリス、ニュージーランドぐらいでしか養殖していない。食用として古くから食べているのは日本と韓国と中国とイギリスだけだ」
日本食ブームだなんだで海苔を食べる機会が外国の人にも増えたが、それでも見ない。
英語で海苔のことを海の雑草とか言うところもあるし、なんか消化されないとも聞く。
「なんにせよ、美味い米を食べれるようになってよかったな」
「まだまだだよ」
今、終えたのは田植えだ。
苗を田んぼに移しただけで、ここから育っていかない可能性もある。更に言えば、今回収穫できる半分をもう一回、植える分に回す。自分で食う分がどれだけ必要なのか分からない。一年間食うんだから、俵(60kg)一個は最低でも居るだろう。リーナが気に入るかどうかは別だが……そういえばリーナって、なにが主食なんだろう?
「これを確か、こうしてっと」
リーナの主食はさておいて、トリオンで出来た柵を田んぼで囲う。
イアドリフには野生化している色々な動物がいる。その動物対策で、トリオンで出来ている為に物凄い頑丈だ。トリオンで出来た物じゃないと破壊できないだろう。
「……この米はおれ達は食べられないんだよな」
田んぼに植えられた苗を見て、口を3にする遊真。
そう、空閑親子はこの苗から生まれる米を口にすることはない。
「後、数日でお別れか……」
イアドリフに一月ちょっと滞在している空閑親子。
そろそろ次の国とイアドリフが近付き貿易の交渉が進んでおり、空閑親子は相手の国に渡る。因みにだが相手がどんな国かは知らされていない。ただ前回と同じく入国審査はしろとは言われている。
「ジョン、そんな暗い顔をしないで」
「してねえよ……」
別に一生の別れ……になるかもしれないし、この出会いは一期一会かもしれない。
リーナは俺の表情が暗くなっていると言うがそんな事にはなっていない。
「それよりもさっさと狩りにいくぞ」
耕している畑の作物を食われない様に柵を張ってあるが、なにをしてくるか分からないしここ以外を荒らす奴もいるので狩る。
本当にここがワールドトリガーの世界なのか時折疑うことをしている自分がいるが、そんな事を気にしていたら美味い飯にはありつけない。
命のやり取りをすると言う意味合いでもこの狩りは非常に効率が良く、リーナも俺も最初はゲロを吐いたり生きるために殺す矛盾に葛藤したりしたが今ではなんの迷いもなく殺れるようになり、戦場で人を殺すことに対して多少の耐性が付いた。
「取りあえず、適当に狩るぞ」
「適当って、随分とざっくりね。一応、上からの依頼でしょ」
「上も適当に殺れってきてるんだよ」
この狩りもイアドリフの農林水産省的なところからの正式な依頼だ。
農作物を荒らす害獣を程好く殺して、程好く生かす。あまり狩りすぎれば絶滅してしまう恐れがあり、それだけは防がなければならない。人間と同じで動物は増やしづらい。いや、人間よりはましか。
「スーパーでママ達とお買い物をしていた頃が懐かしいわ」
「なら、ここでスーパー作ってみろ」
「無理よ。基本的に専門店しか無いんだから」
イアドリフにはと言うか近界にはスーパーは無い。
肉は肉屋で野菜は八百屋、魚は魚屋と昭和な感じである。
「お前等、本当に仲が良いな」
「まぁ、一緒に暮らしてるんだし、当たり前の事よ」
「普通はそうはならないだろ……」
俺とリーナの関係性を表すなら一緒にいるだ。
家族とか友達とか恋人とかそういうややこしい関係じゃない、一緒にいるが1番合っている。
「普通じゃないんだよ、俺達は」
「……すまん」
俺もリーナも拐われていった人達の貴重な生き残りだ。
だから、自分の事を普通の人間なんて言うつもりは一切無い。そもそもで俺は転生してるし。
「ジョンさん、居たぞ」
「……おい、待て」
害獣を探していると見つけたと言う遊真。
鹿か暴れ牛か野鳥かと思ったのだが、とんでもないのが居やがった。
「犬、いや、狼だな」
四足歩行のモフモフとした獣、狼だ。
今まで野鹿とかを相手にして来たがこれは珍しい……いや、珍しすぎる。
「あれ、ニホンオオカミじゃないのか?」
剥製で一度だけ見た記憶があるが、それにそっくりな狼。
まさかとは思うがなにかの拍子にこちらの世界に紛れ込んだ可能性はある……いや、あるのか?
「親父、ニホンの狼って珍しいのか?」
「確か絶滅したと言われてるが……まさか、こっちの世界に紛れているなんて」
流石にこれははじめてなのか戸惑う有吾さん。
これは殺っていいのか?中国とかでは犬を食するが、俺は日本人で犬なんて食ったことが無い。これからも食いたくはない。
「あ、倒れたわ!」
色々と考えていると、こちらを見ていたニホンオオカミが横になる。いや、倒れたと言った方がいいのだろう。
俺達を見てからなにもしてこないからおかしいとは思っていたが、ニホンオオカミは衰弱している。
「狼って、こんなに細いのかしら?」
「そんなわけないだろう」
痩せ細ったニホンオオカミに触れるリーナ。
ニホンオオカミは反発することは一切せずにただただ受け入れ、息を荒くしている。
「ジョンさん、リーナさん、どうすんの?」
上から害獣を何体かどうにかしてこいとの命令はくだっている。
遊真はやるならば自分が代わりに殺ろうかと二本の短剣を取り出す……迷いが無いな。
「……いや、殺らなくていい」
「変な同情は余計に苦しむだけだぞ」
「なんだったら、私がするわよ?」
お前といいリーナといい、あっさりとし過ぎだろう。
「俺達が狙ってるのは猪とか鹿とかで、こんな痩せ細った狼じゃない……」
倒れている狼に触れる。
犬は飼っていたので触っていたが、狼ははじめてだと少しだけ興奮しながらも狼がとても痩せ細っている事に意識が向く。
その手の感情は抱いていたら戦場を渡り歩くことなんて不可能なのは知っているが、どうしてか殺す気にはならなかった。何時も猪や鹿なんかは迷い無く殺せたのに……見た目が犬だからだろうか?
「ここで殺らないと他の動物達に食べられるだけよ」
それが万物の掟と言わんばかりに冷たい目で見るニホンオオカミを見るリーナ。
「コイツも俺達と同じだろう」
「あ……そうね」
このニホンオオカミだって、好きでイアドリフに居るわけじゃない。
最も日本に居たらいたで20世紀の始まりぐらいに絶滅しているのでどっちがいいなんて言えない。
「同情するならするで最後まで面倒は見るんだぞ」
有吾さんは俺のくだらない情けを否定しなかった。
結局、このニホンオオカミは俺達に抵抗することは無かったので、そのまま連れ帰って飼うことに。リーナはなにやってるんだかと俺の行いに呆れつつも狼を可愛がってくれている。
「有吾さん、一個だけ頼みがあるんだ」
「なんだ?」
「俺と本気で戦ってくれない?」
空閑親子は間もなく別の国へと移動をする。
それを引き留めることは誰にも出来ず、引き止まるわけでもない。だったら、喰らって強くなるまでだ。
「いいぞ」
「じゃあ」
「ただし、条件がある」
まさかの条件を提示された。
この人は嘘を見抜くサイドエフェクトを持っているので、何処かでついた嘘を見抜いて気になっているのだろうか?
「お前の本名を教えてくれ」
「……嫌です」
意外な事を聞いてきたな。
ずっとジョン・万次郎で通しているのに今更ながら本名を聞いてくるとは……でも、教えたくはない。
「もう、ジョン・万次郎が本名だと思ってる感じなんですよ」
「お前、つまんないウソをつくな」
適当にのらりくらりと避わしてみるものの、有吾さんには嘘は通じない。
俺だって本名が使えるなら使いたいが、使ってしまうとダメだと自分の中のなにかが言っている。それは多分、イアドリフの兵士としてでなく日本人として持っていた感情かなにかなんだろう。
「そんなに本当の名前を名乗りたくないのか?」
「今の自分はジョン・万次郎だと思いたいんですよ……そうじゃないと後戻り出来ないんです」
拐われてから今日に至るまで沢山、手を汚してきた。
原作知識や現代知識を悪用して越えてはならない一線を越えた。もし自分と同じ転生者が居たのならば、強く攻められるかもしれない。まぁ、いたらいたで仲間になることはまず無いだろう。
「お前はお前だろう……じゃあ、条件を変える。オレがお前に勝ったら、お前の本名を教えてくれ」
「また随分と自分に有利なルールですね」
「そうは言うが、お前はオレを倒して更に強くなりたいんだろ?」
普段から戦っている雑魚じゃない。
本当に強い強者を
「……分かりました」
「お、やってくれるのか?」
「でも、それだと有吾さんが負けた時に起きる俺のメリットがありません」
「この野郎、オレに勝つ前提で言ってるのか」
当たり前だろう、こっちは本名を教えたくないんだ。
有吾さんはオレの提示した条件をあっさりと飲んでくれた。自分が絶対に勝つことが出来る自信を持っているからだろう。
「っち!」
その自信は慢心じゃなかった。
遊真を相手に完勝する俺だが、有吾さん相手には手も足も出ない……分かっていたことだが、まだまだ未熟だ。
今まで必死になって積み上げてきた物を否定するかの様な大差を感じてしまい、思わず泣きそうになる。俺の1年半はいったいなんだって言うんだ。
「くそ……」
「そう落ち込むな。オレの知り合いとだったらいい勝負をするぐらいの腕はある」
「いい勝負をするぐらいじゃダメなんだよ……せめてあんたに互角で渡り合えるぐらいの強さを持ってないと」
この1年半、色々と積み上げてきたけどその積み上げてきた物が今、瓦解した。
有吾さんが使っているのは普通のトリガーで黒トリガーじゃない。黒トリガーはインチキ染みた性能を持っていて、一個あるだけで戦況が変わると教え込まれている。
「だったら、数年先を見据えろ。オレだっていきなり此処までの強さを持っていたわけじゃない。遊真が生まれるまでに色々と経験を積み上げてきた……たった1年や2年で抜かれるほど、柔な鍛え方はしていない」
「……数年先じゃ生きてるかも分からないこんな世界でか?」
「数年先まで生きていたら、それはお前が強いって言う証だ。お前はオレが知る限りの子供で1番強い兵士だよ」
「兵士、か……」
「そんな風に呼ばれたくなかったか?」
「いや、ジョン・万次郎にはそんな風で呼ばれた方がいい」
イアドリフの人間としてジョン・万次郎としては俺は兵士なんだ。
遊真の事をまだ半人前以下と見ている中で俺の事を一人前の兵士として見てくれているのは喜ぶべき事だ。
翌日、空閑親子はイアドリフを発った。
有吾さんには文字で本名を教えたが気を遣ってくれたのか、有吾さんはその名前で呼ぶことはせず、ジョンと最後まで呼んでくれた。人の暖かさを感じて涙腺が緩むのはまだまだ未熟者だと俺は思った。
今後の展開
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そろそろ原作にいけ
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もう少しオリジナルをやれ。