近界プルルン奮闘記   作:ドドドドド黒龍剣

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第30話

 

「どうやら私達だけのようですわね」

 

 レーダーを展開して何処かに誰かが潜んでいないか葵は確認する。レーダー上には誰も写っておらず、残すところは俺と葵の2人だけになる。

 レグリットから俺と葵以外は全滅したとの報告は受けている……となると、やることは1つしかない

 

「葵、剣を抜け」

 

 この訓練は最後の1人になるまでは終わらないものだ。

 残すところは俺と葵だけになり、決着をつけなければならない。オレは【カゲロウ】を鞘から抜くのだが葵は抜こうとしない。相変わらず葵の闘志は見えないけれど葵が揺れている震えている事に気付く……やっぱりか

 

「口ではなんとでも言えるが、お前……斬る事が出来ないな」

 

 葵は人を斬る事が出来ない。

 人を斬ろうとは思っているけれどもいざそれを実際にすることは出来ない、肝心なところでチキってしまっており剣を抜くことが出来ない。

 

「どうして……」

 

「ん?」

 

「どうして貴方は普通に人を斬り倒す事が出来るの!生身の肉体じゃないとはいえ、やっていることは殺し合いじゃない!!」

 

「そう来るか」

 

 剣で人を切り裂く事を異常だと葵は主張する。確かに生身の肉体じゃないとはいえやっている事は殺し合いだ、生き残る為とはいえ誰かを切り裂く事が出来るのはハッキリと言えば異常だ。そもそもでバトル漫画に出てくる自称一般人達も生身の肉体なのに平然と殺し合いをしていたりするので異常としか言えない。

 

「おかしいならおかしいと思ってくれて構わねえ」

 

 葵の主張は間違ってはいない。平気な顔で人を斬り倒している俺達が異常だ。

 試合でもなんでもない命のやりとりをしている時点で論理的に大分間違っている……だからといって葵が全面的に正しいとも限らない。

 

「俺達は拉致された……奴隷として生きるしか道は無い」

 

「なんで貴方はそう平然としていられるの!!」

 

「……なんでだろうな」

 

 程よく生かさず殺さずの生活を数年も続けていれば牙の1つでも腐って抜け落ちる。

 葵から見れば俺の方が異常者……いや、そもそもで転生者な時点で異常者である事には変わりはないか。一歩前に進むと葵は一歩後退する。

 

「もう、もう私の負けよ!負けでいいから終わりにして!」

 

「(と、言っているが?)」

 

「(ダメだ、限界まで追い詰めろ。この手のタイプは限界ギリギリまで追い詰められて本性が出るタイプだ)」

 

 自ら降参をする葵。

 現場の総責任者であるレグリットと通話をするがレグリットは負けを認めない……攫ってきた奴隷がまともに人を斬れないのは使い物にならない。無駄飯食いを作るわけにはいかないと追い込む様に指示を受ける……これ、後で色々とネタバラシをするんだろうな……嫌われるだろうな、俺。

 

「悪いが今後の生活が掛かっているんだ、お前を倒して先に進ませてもらう」

 

「っ、いやっ!!」

 

 斬りかかりに行こうとすると葵は攻撃を受け入れる……なんてことはせずに抵抗してきた。

 死なないと分かっていても刃物の様な物で斬られるのは普通に嫌だ……あれも嫌だこれも嫌だと大分我儘なお嬢様だこと。

 

「そんな防御の姿勢じゃ俺は倒せないぞ」

 

 剣を振り下ろせば葵は教えていないのに受け太刀を用いて攻撃を回避する。

 防御は素人にしては中々のものだが、素人にしてはというレベルなので斬り崩す事は容易だ。リーナでも簡単に崩すことが出来る……追い詰められても防御の姿勢を見せている。限界ギリギリまで追い詰められれば本性を見せるとレグリットは言うのだが、葵は本性を中々に見せない。というよりかは葵からはなにも見えない。コレだけビビっているのならば秘められた闘志の1つや2つ見ることは出来るがなにも見えない。

 

「【ウスバカゲロウ】」

 

「っ!?」

 

 【カゲロウ】を鞘に戻し聞いたことのない単語を出すと葵は身構える。

 今回支給されている【カゲロウ】にブレードの長さを伸ばす【ウスバカゲロウ】は搭載されていない、葵からなにか来るという一手を奪うためのフェイクであり、一瞬で間合いを詰めるとしまったと言う表情をする。

 

「あっ……!」

 

「安いな」

 

 限界ギリギリにまで追い詰められた葵は無意識なのかは分からないが【カゲロウ】を振るった。

 シールドの1つも搭載されていない【カゲロウ】だけなのでどうすることも出来ずに【カゲロウ】を持っていない左腕が斬り落とされる……が、この程度では緊急脱出する事は無いと【カゲロウ】を振りかぶり、葵の体を真っ二つに切り裂いた。

 

「(戦うことを拒む素人相手に腕一本持っていかれるとは随分と高い買い物をしたな)」

 

「(葵が限界ギリギリになってどうするか試したものだから安い……多分だけどアイツは人を斬る事は出来る、ただ単に馴れていないだけだ)」

 

 レグリットは俺が圧勝すると思っていたのだろうか。確かにまともに訓練をしていない素人に負けるつもりはないが剣一本だけだとやれることに限界がある。左腕の切断面から溢れるトリオン流出が納まるので緊急脱出していいのか尋ねると許可が降りたので緊急脱出をして葵達が飛ばされた一番最初の何もない真っ白な部屋に転送される。

 

「ジョ、ジョン……うっ……あっ……おぇ……」

 

 外国人が沢山いる中で葵は膝をついておりえづき吐いていた。

 自分は人を斬ってしまったと言う苦しみと実際に自分が斬られてしまったという2つの苦しみを背負っており、床には嘔吐物が流れ出ている。まともに食事をしていないから食べ物系のゲロは無し……

 

「私……貴方を……っ……」

 

 俺を見て葵は涙を流す。実際に俺を斬ってしまった罪悪感に悩まされている。

 どんな言葉を投げかければいいのだろう。元々人を斬る事に対して抵抗は無かったので最初から平然と出来る。どうしたものかと悩んでいるとレグリットが部屋に入ってきて拍手を送る。

 

「おめでとう、最初の訓練はコレで終わりだ」

 

うっ……うげぇっ

 

「何時まで嘔吐しているつもりだ?貴様は勝利をしたこの中での唯一の勝者だ、胸を張って誇れ」

 

「はぁはぁ……なんでこんな事に、それに勝者?最後に残っていたのはジョンの筈では?」

 

「ジョンは最初から此方側の人間だ」

 

「っ……騙していたのね!!……最低!鬼!悪魔!」

 

「……俺が好きでこんな事をやってると思ってるのか?」

 

 俺が運営サイド側の人間だと知ると葵は罵る。

 だが言わせてもらおう、俺だって好きでこんな事をしているわけじゃない。葵が戦えないのならば戦わなければいいと言う事は出来ない

 

「ジョンに関しては深くは攻めるな。いや、むしろ良かったと思え。お前がまともに戦えないのに最後まで生き残る事が出来たのは偏にジョンが力を貸していたからだ。でなければお前の様な弱者は直ぐに脱落していた」

 

「だそうだ……俺だって好きでこんな事をしているんじゃない。……俺もお前達と同じ立場なんだ」

 

 地球から攫われてきた人間であることには変わりはない。

 今でこそ成り上がっているがその道は容易くは無い、売国奴と言われても仕方無い事をしている自覚はある。

 

「ジョン、この女は使い物になるか?」

 

「……どうだろうな」

 

 結果として葵の勝利に終わったのだがレグリットは葵で良いのかと疑いを持つ。

 葵は最後の最後で俺を斬ることが出来た。斬ろうと思えば斬ることは出来るが……限界ギリギリにまで追い詰められないと斬ることは出来ないだろう。

 

「話にならないな。使い物にならない奴を好待遇にしても無駄飯食いだ……この女の前に落とされた奴を」

 

「……だったら俺が引き取る」

 

「なに?」

 

「葵は最後の最後で俺を斬ることが出来た、戦おうと思えば戦うことは出来る筈だ。この訓練と合わないだけかもしれない」

 

「愚問だな、この訓練で合わないと言うならばなにが合うと言う?」

 

「オペレーターなんかがあるだろう」

 

 俺は自分でなにを言っているんだろう。俺自体も苦しい立ち位置なのに葵を引き取ろうとしている。

 まともに戦えない、ゲロを吐かせながらでも戦わせるのが一番のやり方だろうがそれをすぐに選ぶ事が出来ない俺は甘い2流、優しいと温いのは訳が違う。

 

「葵はなんだかんだで最後まで勝ち残った、人を斬ることが出来ないからと切り捨てるのは無しだ、ズルだ」

 

「だがお前が居なければどうすることも出来なかったのも事実……ただでさえ厄介事を抱えているのに、その女を引き取ろうというのならば好きにしろ。部屋に関してはそのままにしておく……みっともない真似をするならばお前自身も落とす。覚悟はしておけ」

 

 レグリットから一応の許可は得る事が出来たのだが……あまり良好ではない。

 葵を引き受けると言ったが葵の目には疑いの眼差しが宿っており、俺を強く睨んでくる。騙していた人間を今からもう一度信じろなんて言うのは割と無茶な事であるがここではその無茶や道理が通らなければならない場所だ。レグリットは外国人達に今日から使う部屋に案内していく。

 

「大丈夫か?」

 

「っ、触らないで!!」

 

 手を差し伸べるのだが葵は拒む。裏切り者からの施しは受けたくないといった顔をしている。

 コレは困ったなと思いつつ普段遣いしている【カゲロウ】が搭載されたトリガーを起動すると葵の腕を強く掴んだ

 

「離して!貴方なんかの世話にはならないわ!!」

 

「ふぅ……………………この手は使いたくないから仕方無い」

 

 ホントならばこんなことはしたくはなかったが状況が状況だけにするしかない。

 葵の肩をガッチリと掴むと右手を構え……葵に思いっきりの平手打ちを叩き込んだ。

 

「キャッ!!」

 

「……うだうだと何時までも甘えた事を抜かしてるんじゃねえよ!俺だってこんな事を強要したくはねえよ。けどな、そんな事を考えている場合じゃねえんだよ!」

 

「暴力を振るうなんて最低な」

 

「ああ、そうだ。俺は最低な売国奴だ」

 

 キッと俺を睨みつける葵。俺は最低だ、自分の身勝手なエゴで動いているところもある。

 葵はまだ現実を見ることが出来ていないのだと腕を引っ張っていき、イアドリフの防衛戦の最前線に連れて行く。

 

「お前はまだ助けがあるとか希望を抱いているかもしれないけどそんなものは何処にもねえんだ」

 

「っ……」

 

 トリオン兵が現れてはトリガー使いやトリオン兵が撃ち倒す。

 日本人ならばこの光景が異常なのは嫌でも分かる。

 

「……ここは何処なの?」

 

「イアドリフと呼ばれる異世界だ……アメリカでもドイツでも中華人民共和国でも日本でもなんでもない、全く異なる異世界なんだ」

 

「っ……ハァハァ」

 

「過呼吸に対処する袋は持っていないんだ口で手元を覆え」

 

 改めて地球ではない日本でもないところに居ることを自覚した葵は過呼吸を起こす。

 ビニール袋は持っていないので手で口元を覆わせて過呼吸をなんとかして止めようとする……なんとかなるだろうか?

 

「……ホントに、ホントにここは日本でも地球でもないのね」

 

「ああ……ここは危険だから行くぞ」

 

 ここにこれ以上いたって仕方無い事だ。

 葵を連れてレグリットの元に向かうと葵の部屋は既に用意されている様で部屋に向かうと6畳の一部屋を与えられる。

 

「ここが私の部屋……狭いわね」

 

「一人で住むには充分過ぎる広さだろう……さて、ベッドとかはトリオンで構築する事が出来るから後に回すとして、今後の身の振り方についてだ」

 

 よっこいしょと床に座る。

 今後の事について大事な話し合いをすると分かれば正座をする……所作からして葵、良いところのお嬢様かなにかか?育ちの良さが滲み出している。

 

「お前はまともに戦う事が出来ない……ゲロを吐かせながらも戦わせる事は可能だ。だがそうすればお前の精神が崩壊する……お前はどうしたい?今後の身の振り方としてお前には2つの道しかない」

 

「2つの道……それはいったい」

 

「1つは泣こうがゲロを吐こうが戦わせる戦闘員だ。もう1つはオペレーターになり有事の際には現場に出て戦闘する戦闘員だ」

 

「戦闘員にならない道は?」

 

「そんな道が何処にある?俺だって戦いたくない。こんなところで美人を相手に拳骨を叩き込むよりも学校で馬鹿騒ぎをしていたかったよ」

 

 改めて思うよ、なんでこんな事になっているのか。今頃は学校で青春を送っていた頃だろう。

 おかげさまで今や田中角栄よりも学歴が低い、小卒すらしていない……小学生生活をやり直せるのならばやり直したい。いや、ホントに切実に願うよ。

 

「お前は戦おうと思えば戦う事が出来るんだ。人を斬ることが出来ないのは致命的だ、悪いがゲロを吐きながらでも前に無理矢理進んでもらうぞ」

 

「っ……」

 

 コレばかりは酷な話だが無理を強いる。

 人を斬ることが出来ないのは致命的な弱点だ、これからの事を考えると人を斬ることが出来るようにならなければならない。その為には色々とさせる。人間として大事な物を失う可能性は高いが、それでも殺ってもらわないと困る。

 

「オペレーターとして俺達を支援してくれ。ホントに危なくなった時に戦えばいい……限界ギリギリまで追い詰められればお前は戦う事が出来る筈だ」

 

「……俺()?」

 

「そうだ……ああ、そうだったな紹介をしていなかったな。俺の部屋には俺以外にもう1人、リーナと言う女が住んでいる……おい、なんだその視線は」

 

「年頃の男女が同じ部屋で住むなんて不潔だわ!!」

 

「……言っとくが俺がフォローを入れて置かなければお前はタコ部屋で見知らぬ外国人と同じ部屋で暮らす事になってたんだぞ」

 

 年頃の男女が一緒に住んでいると言うのは不潔なのだろうか?

 まぁ、リーナも美少女に分類されているだろうから部屋を別々にした方がいいとは前々から言っているけどもリーナは一向に部屋を出ていく素振りはない……まぁ、俺もリーナが居ないと寂しい気持ちでいっぱいになるから一緒なのはそれはそれでありがたい。

 

「私……恵まれていたのね」

 

「ああ、恵まれているな」

 

 たった1人の日本人と鉢合わせする事が出来たのでその時点で奇跡に近い。

 もしかしたらトリオン器官を抜き取られていた可能性だってあるんだ……生き残っているだけ奇跡なんだ。もし俺や葵のトリオン能力が低ければ今頃はトリオン器官を抜き取られて殺されてしまっていたんだ。

 話は大体纏まったので取り敢えず今の内にやれることはやっておくぞとリーナと顔合わせをする為に俺は自分の部屋に案内をする。

 

「おかえり!」

 

「ただいま、リーナ」

 

 俺が特別な仕事をしていると耳にしているリーナは嬉しそうに俺の元に駆け寄るのだが途中で足を止める。

 

「誰、そいつ?」

 

 葵の事を指差すリーナ。嫌悪感を剥き出しにしているので大きく溜め息を吐いた後に葵の肩にポンッと手を置いた。

 

「俺達のオペレーターになる予定の水無月葵だ」

 

「……hello. I'm Lina」

 

「……ええ、よろしく。私は水無月葵……貴方と同い年かしら?」

 

「I will be eleven years old this year」

 

「えっと……じゃあ、私が最年少かしら?」

 

「…………っち」

 

 英語が普通に通じる事にリーナは舌打ちをする。

 英語でマウントを取るつもりだったのだが葵はリーナがなにを言っているのか理解している。

 

「最年少って、いくつなんだ?」

 

「10歳……どうかしたの?」

 

「いや……俺は改めて外道になっていってるなって思ってな」

 

 10歳の女の子に人を殺す事を強要したりガチビンタを入れたり俺はなんて事をしているんだろうか。

 無理強いは良くない事なのは理解しているけども……人間、堕ちるところまで堕ちてしまえるんだな。

 

「とにかく葵が仲間に加わった事は大きいはずだ」

 

 俺達のチームを安定させるにはオペレーターが必要だ。

 オペレーターが居ることで色々と状況や戦況を理解する事が出来るようになる。それだけじゃなく暗視などの補助を受けることが出来る……ただまぁ、色々と問題が生じる。

 

「葵、お前外国語は得意な方か?」

 

「英語とフランス語なら喋れますけど……」

 

「オペレーターになるには最低でもこっちの世界の文字に馴れておかないといけない。こっちの世界の機材を使うからこっちの世界の文字に、日本語は一切通用しない。アラビア数字すら無い可能性もある」

 

「1から全く異なる言語を勉強しろと……ふふっ、いいじゃない。やってやるわ」

 

 因みにだがこっちの世界の文字は俺は読むことは出来ない。

 リーナはあっという間に日本語をマスターしこちらの世界の文字を覚える……リーナは冗談抜きで天才である。

今後の展開

  • そろそろ原作にいけ
  • もう少しオリジナルをやれ。
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