近界プルルン奮闘記   作:ドドドドド黒龍剣

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三輪の顔を曇らせたいんだ……更に時間を稼ぎます


第59話

 弓場が、迅が、三輪が俺を囲んでいる。

 至近距離におけるタイマン最強の弓場、未来予知で不意打ち不可避の迅、黒トリガー持ちの三輪と流石の俺もこの三人を至近距離で相手にしては負けるのは確定だ。弓場と三輪ならば対処法は思い浮かぶのだが迅だけは対処法を取ってきた未来を視て逆にカウンターをくらう。

 

「この遠征の目的はボーダーでなく日本とイアドリフの間に和平や同盟の様な物を結ぶ事だ……仮にボーダーと同盟みたいなのを結ぶ事に成功したとしても、近界民友好派の玉狛支部との間の秘密の同盟的なのしか結べないだろう」

 

 故に徹底的に時間を稼ぐ。心理フェイズに走る。

 迅のサイドエフェクトが確かならば残りは敗戦処理、動いているトリオン兵をぶっ倒すだけだ。弓場がここに居たり三輪が遠くに飛ばされなかったりレプリカが残っているなど色々と原作とは異なる部分があるがそれでも大体は原作通りに事が運んでいる。

 

「そしてその作戦を決行するには国の重役達が集まっている場所を狙うしかない。日本で一番偉い人は天皇陛下だが天皇陛下は政治の実権を握っているわけじゃない。式典等であれこれするが政策なんかを仕切っているわけではない……だから、天皇陛下は狙わない。国会議事堂を狙った」

 

「総理大臣達を人質にするつもりか!?」

 

「まさか、この遠征の真の目的は同盟や和平の様な物を結びに行くことだ。ペリーが来航した際に大砲で脅した時の様に軽い恐喝の様なものはするかもしれないが、この国に開国を迫る」

 

「迅……コイツは、コイツは本当にこっちの世界の人間なのか?日本人なのか?」

 

 俺と三輪との会話を聞いて弓場は疑問を投げかける。

 弓場は見た目も言動も体育会系のヤンキーみたいなものだが真面目で勉強が出来るインテリヤンキーだ。だから色々と頭が回る。

 

「弓場ちゃん、マジだよ……誰かにぶん殴られてる未来が見えるけど戸籍が確認出来てる。そいつはこっちの世界の人間だ」

 

「お前達からすれば近界民(ネイバー)もどきだろ?」

 

「っ……っ…………」

 

 迅に確かめると俯いて震える弓場。

 お前達からすれば向こうの世界から来た人間は近界民だ……話し合いを一切するつもりが無いんだから。

 

「……なぜだ……なんでお前は、お前はこんなふざけた真似をしている!!なんでお前は恨まない!なんでお前は憎まない!!お前の全てを奪った近界民(ネイバー)を!!」

 

 三輪は風刃の刃を俺に向けてくる。

 三輪は近界民に対して激しい憎悪を抱いている。正当な憎悪であり、だから分からなかった。目の前に居る俺は近界民による被害者の代表みたいな存在だ。普通ならば憎むだろう。殺してやりたいと殺意を抱くだろう。しかし俺からはこれっぽっちもそんな素振りは見えない。

 

「小学生の頃に拐われて戦場に立たされ、人を殺した。使ってはいけない知識を使った。作ってはいけない物を作った……俺を拐った奴は、拐おうと企てた奴は今でも憎い…………本当ならば友達と遊びたかった。学校で勉強をしていたかった。遊戯王をやりたかった。ラノベを読みたかった。家族で食卓を囲んで母の手料理を食べたかった」

 

「なら、どうして」

 

「死んだよ……俺を拐おうと計画を企てた馬鹿野郎は。アフトクラトルの国宝の黒トリガーの余波で……俺達は今でもそいつを憎んでいる」

 

 ルミエの事は例え別世界に生まれ変わろうとも許すつもりは一切無い。

 俺の、俺達の大事な時間を奪った。時間だけは誰も取り戻すことは出来ない。仮にそれが出来たとしてもやってはならない禁忌だ。

 

「怖いと思った。苦しいと思った。寂しいと思った。辛いと思った。憎いと思った。1年も2年も3年も……それが当たり前になって無自覚にならない様に自分が生き残る為にエゴに走った」

 

 リーナや葵、ミブを助けた1番の理由はエゴだ。

 可哀想だから助けてあげようとかコイツは使えるからとかもあるけれども1番の理由はエゴだ。

 

 俺は転生者だ。現在は19だが実年齢を考慮すれば、前世と今生の人生を合わせれば拐われたあの頃には二十歳を過ぎていた。

 自我というものや自己という物は殆ど出来上がってるも同然だ……だが、それでもまだ完全じゃない。完全な人間や完璧な人間なんて早々に居ない。完璧や完全に見えても何らかの欠点を有している人が居る。俺なんて前世はコンビニでアルバイトしたFateやテルマエ・ロマエから歴史にハマったただのオタクで横の知識が広い学生だ。

 

 だから分かっていた。自分の精神が未熟なのを。多分、1人だったら何処かで自分という物が崩壊していた。

 だからリーナを助けた。葵を助けた。ミブを助けた。全ては自分を崩壊させない為にだ。

 

「俺はお前が羨ましいよ……」

 

「なん、だと?」

 

「何処の国かは知らないが誰かを殺されたり拐われたりした、憎むのは当然だ……憎む時間が、心を憎しみに持っていくゆとりや余裕があるのを。俺には最初はあったが今では殆ど無くなっている」

 

 憎んだり怒ったり出来るのは心に余裕があるからだ。生活に余裕があるからだ。

 

「俺は昔と最近になって不幸を感じる…………分かるか?」

 

「…………なにがだ?」

 

「不幸を感じれるって事は幸せの味を知っているって証拠なんだ。俺はここ最近不幸を感じれる。幸せを思い出す事が出来ている」

 

「っ……っ……………」

 

「トリオン能力の優劣の問題があるからと動く事が出来る奴は好待遇を与えてやると剣1本で演習を行った。そこで女の子を騙して、殺し合いを生き残った。戦場に出て何処かの国の兵士を倒したと思ったら自爆して死んだ。まだ未熟だった他に拐われた人達はトリオン体を破壊されて生身の肉体に戻りトリオン兵に殺された、拐われたりした……時には拷問しても意味の無い捕虜の価値も無い奴を捕えたから殺せと上に指示され、殺した。自国を襲わない代わりに他国に傷手を負わせろと命じられて他国の農地に塩水をバラまいて塩害を起こした」

 

「もういい……もういい」

 

「嫌だね」

 

 俺を近界民(ネイバー)だと思って激しい憎悪を抱いている三輪は手に持っていた風刃を落としてしまう。

 迅はこれ以上は語るなと、三輪の中の大事な何かが壊れてしまうと言ってくるがまだまだ俺の不幸自慢に付き合ってもらう。

 

「母さんの味が恋しくなった事もあった……けど、そこにはもう手が届かないと思っている。迅悠一、お前なら誰よりも分かるだろう?時計の針は前に進ませる事は出来ても後ろに戻す事は出来ないのを」

 

「──」

 

「泣いた。叫んだ。苦しんだ。死にたくないとも思った。そして上は生き残るチャンスを、成り上がるチャンスを与えてくれた。きっとお前等には俺は売国奴に見えるだろう。感情論を抜きに理屈だけにすればその通りだ……だから俺を近界民(ネイバー)だと、近界民もどきだと思ってくれても別に構わない」

 

 

──そうなって当然の事をした以外はなにも思っていないから。

 

 

 コレを聞いているボーダー本部はなにを思っているだろうか?コレを聞いている迅はなにを思っているだろうか?

 まぁ、別にどうだっていい。既に後戻り出来ない事をしてしまっているという自覚はあるのだから。

 

「すまねえ!!俺は、俺ァ」

 

「謝るな……泣いたって叫んだって助けの手は来ない。ある人にアリステラ、ディクシア、メソンの3つの何処かに行けば帰れると言われたがそれも出来なかった大事なものを見捨てることが出来なかった愚か者が俺だ…………なによりお前は今のボーダーが出来てからの人間だ。お前の腕は確かだろうが、お前はB級、精鋭部隊のA級じゃない。遠征を手にすることは出来ない立ち位置だ……そこでお前が謝るのは、お前の中でケジメをつけたい……………ただのエゴだ」

 

「っ……」

 

 知らなかったとはいえ色々とやらかしてしまった事を弓場は謝ろうとする。

 だが、俺からすればそれはただのエゴ、自分勝手な自己満足に過ぎない。自分の中で謝罪を入れて終わりにさせたい、ケジメをつけたいと思っているだけだ。

 

「コレを聞いているお前等もだ……別に同情したいなら同情すればいいさ。だがどれだけやっても過去は変える事は出来ない、助ける事を出来なかった事を悔やみたければ悔やめばいい。だが謝ろうとするな。それはただのお前達の自己満足のエゴに過ぎない」

 

『……』

 

 なにか1つでも言い返してくると思ったが、ボーダー上層部達は言い返してこない。

 もしかして葵達の方に集中しているのか?……この近辺にボーダー隊員は多く居る。唯一の懸念である片桐隊と草壁隊は国会議事堂付近には居ない。迅は不意打ちをくらった顔をしていた……出し抜く事には成功している筈だ。今頃は近界民=人間、トリオン兵=ロボットだと説明したりして総理大臣辺りに向こうの世界の技術について世界中に説明している筈だ。

 

「俺は成り上がる為に生き残る為に色々とやった。大豆と麦の麹があったから味噌と醤油を作った。麦があったからビールの様な物を作った。漆を塗った導線を巻き付けた鉄棒に雷をぶち当てて強力な磁石を作って発電機を作った。別の国から竹を入荷して、蒸し焼きにした竹のフィラメントで電球を作った。インディカ米じゃなくてジャポニカ米を入荷して田んぼを作った。オセロも作った。ぷよぷよやテトリスを作った。掘り当てた温泉がたまたま美人の湯だったから小麦粉と合わせてチャンポンを作ったりした……味は微妙だった。リンガーハットの方がまだ美味い。トリオン体が破壊されたら自動的に基地に送還される緊急脱出機能も提案した…………醤油や味噌は取り上げられたりしたし酒の味は知らないからビールもどきも取り上げられたなぁ……小説家になろうに出てくる、異世界転生物のスローライフを望む逸般人な事ばっかりしてるよ俺は……いや、タイムスリップした日本人……どっちでもいいか」

 

 きっと聞く人が聞けば小説家になろう?と疑問を持つだろう。実際それぐらいの事はやっているので否定はしない出来ない。

 

「10年はよくも悪くも人を腐らせる」

 

「お前は腐ってなんか……」

 

「腐る=絶対的な悪と考えるんじゃない。納豆やチーズだって考えようによっては腐っている食べ物だ、そしてそれを人は受け入れて食べる……腐るとは変わる意味だ」

 

 俺が腐った性根の人間じゃないと言いたげな弓場だが俺の腐ったはそういう意味合いじゃない。変わったという意味合いだ。

 

「で、どうする?俺をボコボコにするか?俺はある意味、今回襲撃してきたアフトクラトルよりも(タチ)が悪い事をしている。お前からすれば近界民もどき、半近界民、売国奴……言い方は色々とあるが裏切り者である事には事実は変わらない」

 

「……あんたは……………」

 

「コレを聞いてるだろ……騙して悪かったな。イアドリフはこっちの世界に侵攻はしない。こっちの世界の人を拐おうとしないと言った……だが、ボーダーにとって不利益になる事をしないとは言っていない」

 

 三輪は落ちている風刃を拾おうとしない。俺に対して敵対する意志を持てなくなった……全く、二十歳前のガキを多く採用しているんだったらその辺りをどうにかしておけよな。

 

『……ジョンさんは嘘は言ってないよ、ホントの事も言ってないけど……おれを騙したり利用した事については色々と思うことはあるけど、おれはそれを承知の上で、なにかあるって最初から気付いてた。けど……………』

 

「今すぐにでも連れて来た責任を果たす為に俺を殺しに来るか?」

 

『ううん。ジョンさん達はなにも悪くない…………多分だけどコレは誰が悪くて誰が正しいとかいう問題に当てる事が出来ない問題だと思う。リーナの言ってることが1番正しかった。それでも悪者が欲しいって言うならそのジョンさんを拐って死んだ奴だ』

 

「そうか…………迅、雨取千佳をここに連れてきても問題は無いか?」

 

「千佳ちゃんを?」

 

「渡したい物がある……無理ならお前を経由して渡すが、最低でも1週間は会うことが出来ない。武器を手に取り戦う事を決意した人間には無用な物だろうが、それでも渡さないといけない……そう約束を交わしたから」

 

「……そこにいる4人、こっちに来れるか?オレのサイドエフェクトは問題無いって言ってるけど、万が一が」

 

『万全の状態のユーマが居る。黒トリガーが来ない限りは問題は無いだろう』

 

 迅は万が一を想定するがレプリカは問題無いという。

 修のトリオン体は殆ど使い物にならない状態に近いのだが、黒トリガー状態の遊真がいれば問題無い。場所的に数分掛かるので少しだけ待てば修と遊真と千佳と夏目がやって来た……夏目が色々と浮いてるなぁ。

 

「……迅さん、もう大丈夫なんですよね?」

 

「ああ、残っているトリオン兵達を片付ければ問題無く終わる。それは小南達がやってくれる」

 

「……無事に生き残る事が出来ました……教えてください」

 

「……俺の口から語れるのは僅かな事だ。奴は認識が甘かったと後悔していた……こちらの世界にアメリカやロシア、インドネシア等様々な国が存在している様に向こうの世界にも向こうの世界の住人が数え切れない程に国は存在している。そして何処も人という資源を求めて戦争していて……こちらの世界は狙いの的だ。いや、狙いの的だったと言うのが正しい」

 

 雨取麟児に関する情報はそんなに無い。そして言葉は慎重に選ばなければならない。遊真がいるからな。

 

「だから青葉と言う少女を探していた」

 

「っ……青葉、ちゃんを……」

 

「向こうの世界はどれだけ広いのかすら分からない程に広大な世界だ……探し出すのは難しいだろうがそれでも妹が前に進む為には必要な事だと言い、こちらの世界について教えるのを条件に色々と教えた。ズブの素人なのによくこっちの世界に来ようと考えたなと思うぐらいには酷かった。銃の撃ち方や剣の使い方を少しだけ教えて……今回の作戦の基礎を考えた」

 

 今でも思う。この作戦はあまりにもリスクが高すぎるのが。

 迅と言う障害が立ち塞がるだけでなくそもそもで作戦が成功しない可能性も高かった……だが、成功した。

 

「お前を勇気づけて一歩前に進ませる為に必死だったんだろう…………ほらよ」

 

 腕輪を取り出し千佳に投げた。

 

「コレは?」

 

「トリオンを消費する代わりにレーダーに映らなくなるトリガーだ……お前が狙われやすいのはトリオンが原因だからそれがあれば大抵は解決する。と言ってもお前には無用な物だ……ボーダーのトリガー開発班に回したいならば回せばいい。ただこっちの技術でも簡単に再現する事が出来るトリガー……あの人に作り方を教えた」

 

「っ…………兄さん……………兄さん……………なんで居なくなっちゃったの………」

 

「千佳……麟児さんは何処に?」

 

「俺は下請けの奴隷だから分からない。イアドリフから何処かの国に向かった…………俺の口から答えられるのはコレぐらいだ」

 

 千佳は俯いて震えている。涙は流さないが一歩間違えれば大泣きしてしまうだろう。

 そんな千佳を見て麟児が何処に行ったのかを修は聞くのだがあの人達があの後何処に向かったのかは俺には知らない存じないだ。

 

「……探すんだろ?」

 

「っ……はい!」

 

「……」

 

 雨取千佳からドラゴンの雛が見えていたが少しだけ成長した。

 まだ完全なドラゴンにはなっていないが何れはドラゴンに成長するだろう。それだけのポテンシャルを千佳は秘めている。

 

『ジョン、成功よ。シャーリーとこの国のトップの間で握手が交わされたわ』

 

「(…………最低でも1年は油断するな。流石に生身の肉体狙われたらどうしようもない)」

 

 千佳に渡すべき物と伝えるべき事を伝えるとルルベットから通信が入った。

 YouTubeで生配信をしているし国営のテレビ局のカメラが映っているから騙し討ちをしてくるという可能性は低い。

 イアドリフの価値を世界に知らしめる事に成功したから……厄介なのは国外の人間か?アラブとかの石油王とかは狙ってきたりするんだろうか?トリガー技術を我々にも寄越せとか言ってくるんだろうか?スパイを紛れ込ませるんだろうか?……気付かないだけでFBIとかMI6とかCIAとかこの国に来てるんだろうな。

 

「行くのか?」

 

「ああ…………お前達は火消しに忙しいだろう……迅」

 

「なんだ?」

 

「……葵を悲劇のヒロインとして家族に会わせてやってくれ」

 

「………………()っちゃんはどうすんの?」

 

「おい、グラサン叩き割るぞ…………俺はジョンだ……時間は十二分に稼がせてもらった。この勝負は完全に俺の勝ちだ、迅」

 

 もう後戻りする事が出来ない所まで来たのだから後戻りはしない。進むしかない。

 俺は搭載されている緊急脱出機能を用いてこの場から消え去り遠征艇に戻った。




感想お待ちしております

今後の展開

  • そろそろ原作にいけ
  • もう少しオリジナルをやれ。
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