近界プルルン奮闘記   作:ドドドドド黒龍剣

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時間稼ぎ(話的な意味で)だぜぇ!


第60話

 

「ふぅ……疲れた」

 

「お疲れ様……飲み物取ってくるわね」

 

「お疲れ、大丈夫だった?」

 

 戦線に立っていたジョンが緊急脱出機能を用いて遠征艇に帰還した。

 ジョンはトリオン体から生身の肉体に切り替えて腰を掛けて大きく息を吐いたのでリーナは水を取りに行った。

 

「……アレがあんたの本音なの?」

 

 ジョンは1秒でも長くジンと言う男やボーダーを足止めしないといけない。

 ボーダーについて情報を提供してくれた情報提供者の頼みを引き受けないといけないのもあるけど、真の目的はシャーリー達の存在をボーダーに気付かせない為。なんで今日、他所の国が侵攻してくるのが分かったのかは不明だけれど、なにはともあれ作戦は成功した。

 

 だから気になったから聞いてみた。通信で聞こえた話が事実なのか。

 敵の国が帰還してからも作戦が成功するまでの間の時間を稼ぐ為にジョンは開こうとしない心を僅かばかりボーダーに対して開いた。少し前にハンバーグで涙を流していた。出会った頃にリーナと一緒に涙を流していた。感情で動かない様に、ルミエの様に合理主義な人間に徐々に徐々になっていったかもしれない。

 

 心の何処かで助けてほしいと思っている……それがジョンの本当の気持ち。

 

「どっちだと思う?」

 

「茶化さないで。あたしは真剣に聞いてるのよ」

 

「なら言い換える。どっちだったら嬉しい?」

 

「…………」

 

 ジョンは難しい質問を投げかける。

 アレがジョンの本音、本当は助けてほしいと、救ってほしいと思っている。でも、1年待とうが2年待とうが3年待っても助けの手は来ない。だからジョンはイアドリフの与えたチャンスを物にして成り上がった。リーナとアオイ以外の連れ去られた人やルミエを犠牲にしてまで今日まで生き残る事に成功した。

 

「…………どっちがいいのかしら?」

 

 ジョンの頭の中や心の中はとっくの昔に狂っている。

 ホントに越えてはいけない壊れてしまう線だけは越えない様に今日まで頑張ってる。

 頑張って頑張って頑張って頑張って頑張って、耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて……ジョンはさっき言っていた。不幸を感じれるのは幸せの味を知っているからと。不幸を感じなくなるのを避けている。

 

 ジョンが居なければ、今回の作戦は最初から無かったことになる。

 イアドリフに電球という明かりを灯すトリオンに成り代わる電気というエネルギーを齎す事が出来なかった。イアドリフにトリオンの余裕を持たせる事が出来なかった。緊急脱出機能を提案しなかったら兵士の死亡率が下がる事は無かった。ジョンは気付いていないだけでイアドリフに多くの功績を残している。イアドリフが国を豊かにする為に外部の意見を聞き入れる政策に変えたのが成功したいい一例よ。

 

「俺はどっちでも構わない……いや、どうでもいいと言う方が正しいか」

 

 私が変な同情心を持とうが持たないが全く興味無さそうなジョン……狂ってるわね。

 リーナが水が入った容器を片手に戻ってきたのでコレ以上はこの話題に触れるべきではないわ。

 

「扇風機1つで交渉出来るとかおかしいわね」

 

 葵の警護にあたっているデッカーとサイバーから流れる映像を経由してリーナはポロッと零す。

 今回の交渉の要はアオイに見えるけど、アオイはお涙頂戴の最後の一押しに過ぎない。決心をさせる情に訴えかける為の一手に過ぎないわ。

 

「まぁ……俺も半信半疑だったからな」

 

「そうなの?」

 

「知識としてはあったけど詳しい詳細は知らなかった……でも、こっちの世界も向こうの世界も技術の種類は異なれどもエネルギー問題は抱えている」

 

 トリオンで動く扇風機やエアコンを欲しがる向こうの世界の人達を意外そうにするとジョンは語る。

 今でこそイアドリフは電球で明かりを灯すことに成功しているけれどもそれまではトリオンを用いて明かりを灯していた。明かりを数時間灯すぐらいならトリオン能力が低い人でもどうにでもなるけれど、長時間付けっぱなしになるとどうしてもトリオンが不足してくる。ジョンは電球でその問題を解決した。明かりを灯すトリオンを無くす事に成功した。

 だからその隙を突いた。私達の世界がトリオンというエネルギーで困っているけど、向こうの世界は電気や石油とか言うので困っているのを。

 

「今回の交渉のカードは色々と意味がある……トリガー技術の中でも色々とあったのに扇風機を選んだ理由は分かるか?」

 

「…………皆に分かりやすいから?」

 

 ジョンの質問をリーナは必死になって考える。

 その結論の1つが皆に分かりやすいから扇風機を選んだ……こっちの世界は純粋に人の数が多い。兵器系のトリガー技術を下手に渡せばこっちの世界で戦争が起きたりこっちの世界に侵攻する可能性も大きいわ。だから、皆に分かりやすい扇風機を選んだ。

 

「そう、皆に分かりやすいから扇風機を選んだんだ…………怪物や化け物は人を殺す。人を殺す事が出来る怪物や化け物は英雄が殺す。じゃあ、怪物を殺すことが出来る力を持った英雄を殺すことが出来る存在はなんだと思う?」

 

「……もっと強い化け物か滅茶苦茶凄い神様?」

 

「それは力押しのゴリ技とジャンケンで言うグーでもチョキでもパーでもない、なにを出しても自動的に勝つ事が出来る負けることが出来るJOKERみたいなものだ……英雄を殺すことが出来るのは人間だ」

 

 リーナの答えが違うとジョンは否定して答えを教える。

 化け物を殺すことが出来る英雄を化け物に殺されるしかない人間が人を殺す事が出来ると言うのには違和感を感じるけど、ジョンはまだ続きがあると語る。

 

「化け物は悪であり個と言う力を持っていて個である事を構わないとする。英雄は正義や善であり圧倒的なまでの個の力を持っているが1人では生きられない。人間は悪でもあり善でもあり個と言う力を有していないが大勢居て皆で1つの力を持っている」

 

「でもそれだと圧倒的なまでの個の力を持っている怪物と英雄だけが有利じゃないの?」

 

「確かにそう捉えれる…………だから、今回の一例で考えてみればいい。俺達やアフトクラトルは化け物だ。ボーダーや政府の人間は英雄だ。ボーダー以外のこっちの人達は人間だ……化け物は英雄に勝てない仕組みになっている。現にボーダーは化け物であるアフトクラトルを退く事に成功した…………じゃあ、俺達化け物はどうすればいい?」

 

「英雄を殺すことが出来る人間を味方につける?」

 

 色々とリーナに教え、リーナは答えに辿り着く。

 化け物が、それこそジャンケンの様にチョキ(化け物)グー(英雄)に勝てない仕組みになっているのならば何処からかパー(人間)を持ってこないといけない。グー(英雄)を倒せるのがパー(人間)と言う話が本当ならね。

 

「そう。人間を味方につけるんだ……その為の扇風機と世界中に向けての動画配信だ」

 

「もっと効率がいい方法、あるんじゃないの?」

 

 武力による圧政っていう手段も無かったわけじゃない。

 力による圧政は相手側がより強い力を持ったら逆転される可能性が高いからあんまりよくないと思うけど……それでももう少しいい方法はあった筈よ。

 

「確かにルルベットの言うことも一理ある……だが、沿岸の火事は避けないといけない……そうだな。他所の国、他所の地方でナイフを持って暴れまわった人が居ると話題を聞けばどう思う?」

 

「どうって……まぁ、物騒じゃない?」

 

 あたしには全く関係無い事だけれど、ナイフを持って暴れまわった事件が起きたら物騒ぐらいの認識よ。

 

「じゃあ、それが家の近所で起きたらどうする?」

 

「…………フィラの送り迎えをするとか、1人で行動しないようにする」

 

「ああ、そうだろうな。それが普通の対応だ……日本という国は細長い極東の島国で、今は情報通信技術が発達して色々な地方のニュースがテレビで放送される。やれ殺人事件だ、やれ交通事故で子供が撥ねられただ……それを見た人の大抵は少しだけ可哀想だな物騒だなと思うぐらいで終わる。だが、事件の当事者ならば?その事件が身近に起きていれば?……危機感等を感じる」

 

「そりゃそうでしょ。他所の知らない手が届かない事より自分の事の方がより親身になるわ」

 

 なにを言っているの?と言いたげな顔をするリーナ。

 あたしはなんとなくだけどジョンの言いたいことが分かってきた。けど、リーナがまだ完全に理解する事が出来ていないからジョンは話を続ける。

 

「日本の人間は政治に興味が無い……正確には若い世代が興味は無い。選挙、国の政治家や代表を投票で決める行為に、投票にすらいかない。投票する事が出来る様になるのが二十歳から18歳に切り替わっても若者は選挙の投票に向かわない。仮に俺が18や二十歳になっても国が義務化して投票しないと罰金を支払わないといけないという決まりを作らない限りは投票のやり方を覚える為だけの1回しか行かない……理由はまぁ、色々とある。俺の場合は誰が政治家になっても誰が当選しても今の自分の生活が大きく激変するわけでもないからどうでもいいと思ってるのとめんどくさいからだ」

 

「あんた……いや、あんただけじゃなくて大丈夫なの?」

 

「その辺は俺の管轄外だから知らん。この人を当選させたら自分の生活の何かが大きく激変する。給料が倍近くに膨れ上がる。確実に最低賃金が上昇する……皆、当選したらこうすると目標を掲げているが大半は叶わない願いだ。俺は誰が当選してもなんも変わらないし興味無いから投票にすら行かない。もし当選したら確実に給料を倍にする、電気代を値下げする等を保証してくれるなら投票するが…………お前ならどうする?」

 

「……」

 

 ニホンという国のシステムはジョンから大体聞いている。

 王様が居るけれども王様が政治を仕切っているわけじゃない。式典とか他所の国の首相が来た時に挨拶をしたりする程度で、総理大臣とかが政治を仕切っている。色々と目標を公約を掲げても大抵が叶わないのならば、上の上流階級の人間にしか成果を得られないのなら……誰に投票したって同じね。

 

「政治家になろうと選挙に出ている人達は叶うか叶わないかは別として様々な事を掲げる。それが果たして自分達に恩恵があるのか?具体的に自分達にどんな影響を齎すのか?……俺は政治に興味が無いから分からない。もし仮に半年に1回5万円を、お金を支給する制度ならば皆喜ぶだろうがそれがなんだかんだで無理なのを皆知っていて心の何処かで諦めてどうでもいいと興味を無くしてめんどくさがる」

 

「……まぁ、そっちの方が分かりやすいわね。難しい理屈を並べられるより、半年に1回5万円を支給してくれる制度が作られた方が皆喜ぶわ」

 

 政治に興味が無いけどリーナも一応は納得する。

 

「だから扇風機が皆の心を鷲掴みする鍵になるんだ」

 

「…………ごめん、意味が分からないわ」

 

「遠くで起きている事件は可哀想だなと思う程度で終わるが近所で起きた事件ならば危険だなんだと色々と考えて対策をしたりする……化け物である俺達は一般民衆を味方に付けなければならない。そしてこの国の人間は政治に興味が無い人が多い…………じゃあ、皆に具体的にどんな結果を齎すのか馬鹿でも分かりやすい事があるならば?」

 

「……あ……」

 

 ここでリーナがジョンがなにを言いたいのか気付く。あたしも理解する。

 

「扇風機やエアコンは余程の貧乏か田舎暮らししていなければ皆持っている物だ。皆にとって身近な物だ……政治に興味が無いけども年々電気代が高くなっているのは分かると言うのは大体の人は理解している。そしてそれを解決する方法が存在していると言うのならば……政治が皆にとって身近になる。皆、興味を抱く。政治家達はそんな夢の様な技術を提供してくれるのかと思う……そこでお前達は侵略者だ敵だと突っぱねる事が出来ないのが政治家だ……そこに葵と言うお涙頂戴な悲劇のヒロインが居ればどうなる……一般民衆を一時的かもしれないが味方につける事に成功したのならば英雄である政治家は突っぱねる事は出来ないんだ」

 

 チョキ(化け物)グー(英雄)を倒す為にパーを(人間)を味方につける。

 ジョンが語った方法は理屈はシンプルだ。上の上流階級の人間にしか分からない事じゃない、一般の人達でも分かる恩恵を与える事が出来ると世間に公表して大勢の味方を作る。大勢の人間(パー)英雄(グー)を叩きのめす……………

 

「これだけやっても成功率20%ぐらいなの?」

 

 ジンって奴が予知のサイドエフェクトで先回りしてくる可能性がある。

 国会議事堂に居るシャーリー達を悪の近界民だと適当な事を言って世間なんかに誤魔化される可能性もあったけどジョンが上手い事出し抜く事に成功した。それでも成功率が20%行けばいい方だと言っている。慎重に成り過ぎにも程があるんじゃないかしら?

 

「石橋を叩いて渡る……注意に注意を重ねてとても慎重に物事を行なっても予想外の出来事は多々ある。例えば今やっている葵のDNA鑑定、鑑定結果が葵のDNAと親のDNAが合わなかったと言うだけで一瞬にしてひっくり返る。やっぱり近界民は敵だったのかとなる」

 

「そ、そこまでやるの?」

 

 トリガー技術という未知の技術、一般市民の身近に具体的にどんな感じに利益を及ぼすのかに加えて葵という情に訴えかけるお涙頂戴な悲劇のヒロイン。コレだけ交渉のカードを切ってもジョンは成功率が20%程度だと見ている。

 今現在やっている葵と葵の親のDNA鑑定とやらの結果が違うと言えば私達が積み上げてきた物は一瞬にして瓦解してしまう……でも、そこまでやれば人間として色々と問題があるんじゃないかしら?

 

「150年程前ならばともかく今の時代は金さえあれば犯罪履歴や入れ墨が無ければ大抵何処の国にも行くことが出来る。南米のアマゾン辺りには未開の地はありそうだが、この世界は、地球と言う星を世界は認識している。無論無人島や未開の地は無いとは言わないが空からどんな場所なのか見ようと思えば大体は見れる時代だ…………そんな中で、未地の大陸があったらどうする?……」

 

「それは…………」

 

「未開の地には大勢の人間が住んでいる。原始的な集落を作っているどころか俺達の文明に必要な電気や石油とは異なるエネルギーを用いて高度な文明が発展している…………日本は平穏な国だからまだいい。コレがアメリカやロシア、北朝鮮なんかのヤバそうな国に渡れば下手したらこっちの世界で戦争が起きるかもしれない……故にボーダーはトリガー技術を独占して慎重になっていた」

 

「…………大丈夫、なの?」

 

 あたし達がやろうとしている事が今になってとんでもない事だと自覚する。

 トリオン体の筈の私やリーナは冷や汗を流す。心が全然落ち着かない。

 

「知らん」

 

 心配するあたし達をジョンは一蹴した……知らんって……無責任にも程があるんじゃないの?

 

「俺達の目的はイアドリフと日本の間に同盟や和平を結ぶ事だ。そしてイアドリフがこっちの世界にもう一度近付くまでに色々と用意する。例えば電気とトリオン両方で動く洗濯機やエアコンなんかを……イアドリフには麟児達が持ち込んだ電気工学系の本のおかげで火力発電所とかが作られる話が上がっている。イアドリフが電気とトリオンの2つのエネルギーを用いたハイブリットな国家になるのは時間の問題だ……それでもイアドリフが滅んだなら滅んだで、こちらの世界でトリガー技術を用いた会社を起こせばいい。そして俺はめでたくどちらの国から見ても売国奴だ、何処にも帰る場所は無い」

 

 歴史上に稀に見るレベルのクソ野郎だと自分を卑下するジョン。

 

「…………あの歌は、あんたの思いなのね…………」

 

「否定はしない」

 

 この国の国歌とは別に最初に歌った歌はジョンの胸の内を表した歌……………

 

「大丈夫よ、ジョン…………私がジョンの帰る場所になるから」

 

「…………そうか…………でも、お前にも帰りたい場所が帰るべき場所がある筈だ」

 

「あるけど…………それでも貴方を見捨てる事は出来ないわ。例えこの思いが植え付けられた物だとしても、ジョンが大好きって気持ちはホントなのよ?」

 

「……そっか……ごめんな」

 

「謝らないで、私が好きでやってる事だから」

 

 好き……か。

 

 あたしがジョンに対して絶対に言うことが出来ない言葉をリーナは簡単に言った。

 この思いは胸に留めておかないといけない……ジョンにとってあたし達は憎い存在だから……でも

 

「あんたが望むなら、あたしもあんたの帰るところになるわ」

 

 少しぐらいは進みたい。

 

「………あ〜………ありがとう…………ちょっと抱き締めてもいいか?」

 

「な、なによ急に!?」

 

「嬉しいんだよ……後戻り出来なくても後に続いてくれる人が居てくれて」

 

「そう……」

 

 ジョンはあたしとリーナを抱きしめた。

 涙は流さなかったけれども、何処か嬉しそうにしていた。

 

『DNA鑑定の結果……母親のDNAと水無月葵のDNAが半分一致しました』

 

 そして数時間後、DNA鑑定の結果が世間に発表される。

 ジョンが危惧していたDNAが一致しないという事は無く、DNAが半分一致したとの映像が流れ込む。




尚、この後に(隊のエンブレムと順位以外を)モザイク処理された三輪がアシッドエースになってたルルベットを発砲した動画が流れる予定です。
感想お待ちしております

今後の展開

  • そろそろ原作にいけ
  • もう少しオリジナルをやれ。
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