近界プルルン奮闘記   作:ドドドドド黒龍剣

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第62話

 

「DNA鑑定の結果、父親のDNAも一致しました。水無月葵と名乗る少女は大規模な侵攻が起きる少し前、約5年前に拐われた日本人です」

 

 私の髪の毛から採取したDNAを急いで病院に解析に回した。

 今やっているDNA鑑定を後回しにしろと命じ、最低でも2週間ほど掛かるDNA鑑定を終わらせた。芦屋に居るお母さんは急いで国会議事堂……ではなく病院に向かった。DNA鑑定をする事が出来る大きな病院で、直ぐにDNA鑑定を行った。

 

 その結果は直ぐに発表された。

 私のDNAの半分はお母さんのDNA、だから半分一致したと医者は世間に向けて発表する。

 ジョンが危惧していたボーダーが何かしらの圧力を政府や病院に掛けて私とお母さん達のDNAが一致しなかったという偽の情報を流す事は無くて私は旨を撫で下ろす。もしDNAが一致しなかったと言えば一瞬の内にイアドリフは敵だなんだとなりましたが、今は違います。

 

 私とお母さん達のDNAが一致したと世間に公表する事に成功した。

 コレで私は向こうの世界から帰ってきたという悲劇のヒロインになる事が出来た。イアドリフに対する敵対心や警戒心を薄める事に成功した……けど、まだ足りない。私が悲劇のヒロインになることでイアドリフと日本の間に同盟や和平を結びやすくしなけれなりません。

 

「皆さん、改めてはじめまして。水無月葵です」

 

 今の私は胸がドキドキ、ジョンが会得した無想と言う技術を私も会得しておけば良かったと思う。

 リーナは結局向いていないから別の精神修行をしたりしていたけれども……まぁ、今はリーナでなく私のターン。

 

「約5年前に芦屋で塾の帰りに近界民、いえ、トリオン兵に拐われました。私以外にも多くの人が拐われていて、日本人はその中で私だけ……言葉も通じない、なにが起きているのかさっぱりな状況でした。そんな中で1人の男が現れ、剣を渡してきました。ボーダーの戦闘訓練の様に生身の肉体から別の肉体に換装していますので怪我はしていないです。ただ……10歳の少女に人を斬らせました」

 

 質問する時間はありますが、今は先ずは語る時間です。

 目の前に大勢居るテレビ局の人達や新聞記者、雑誌記者には嘘と真実を語る。真実の中に嘘を交えて語ることで信憑性を増す様にしています。

 

「生き残った、勝ち残った私はそこからは兵士として防衛戦に立たされました……時には他の国に侵攻し、そしてイアドリフと言う国に侵攻しました。私は1人の兵士に破れて捕虜になり…………私がこの世界の住人だと分かれば手厚く歓迎してくれました。イアドリフは色々な人達の意見を取り入れて国を強化する富国強兵の様な政策を取っています。そしてどうにかしてこっちの世界と手を取り合えないかと考えていました……私はイアドリフに様々な知識を提供し、5年掛けて日本に帰ってきました……私の口から語れる事はコレだけです。質問がある方はご質問をお願いします。ただ、私も思い出したくない事もありますので答えれない事もあります。ご了承ください」

 

 私が剣を手にしたのはあの時だけ、私は人を撃つことも斬ることも出来ない兵士としては致命的な欠陥品。

 ジョンは後方支援のオペレーターが欲しいからと本人の思惑はどうあれ私に救いの手を差し伸べてくれた。それが無ければ私は狂っていた。

 

「兵士として戦線に出ていたという事は人を斬ったり撃ったりしたんですか?」

 

「はい……撃ちました、斬りました……イアドリフに流れ着くまでは」

 

「イアドリフでは具体的になにをしていたんですか?」

 

「この世界の技術を提供したりボーダーで言うところのオペレーターの真似事をしていました」

 

「提供していた、と言うのは?」

 

「向こうの世界には味噌や醤油が無いです。ですが大豆や米、麦などは存在しています。麦の麹と大豆で醤油や味噌を作りました、麦を濡らして炙って乾かして揉み込んでゴミを排除してボコボコにしてお湯に溶かして濾過した麦の搾り汁を、ビールの様な物を作りました……まるで異世界に召喚された日本人の様な真似で、お酒の飲めない作ってはいけない法律を破っていますが許してください」

 

 イアドリフにはお酒を飲んではいけない年齢の規制はありますが、作ってはいけない法律は無い。

 私はノンアルコールのシャンパンの味は知っていますがビールの味は知らない……そもそもでジョンが独自に作っていた物、私はただそれを自分が作ったかのように見せつけているだけにすぎない。

 

「オペレーターの様な真似とは?」

 

「私を倒して捕虜にした兵士は後方支援が出来る存在を求めていました……働かない者は食べる事は出来ない。それは世界は違えども同じ事です。ボーダーのオペレーターと似たような真似をしていたと思ってくれて構いません」

 

 ここで畑を耕していた等を言えば奴隷感が溢れてしまう。

 だからそれは言わない様に胸の内に留めておく。言ったら余計に大変な事になってしまいます。

 

「向こうの世界の食事や生活はどうだったんですか?」

 

「食文化は日本の方が何倍も上です。レーション等の軍用食も含めてです。八畳一間の部屋で暮らしていました……あまり良い思い出ではありませんのでこれ以上は責めないでください。聞かないでください」

 

 ジョンが既に生活基盤を整えてくれていたから、生活苦はそこまで無かった。

 寂しい思いなどは色々とした。ジョンやリーナが見えないところでは何度も何度も涙を流した……。

 

「拐われた時は苦しくて辛くて涙を何度も流して助けを待ったりもしました……ですが、助けなんて誰一人来なかった。だから、5年という歳月を掛けてここに来ました」

 

「イアドリフは憎くないんですか?」

 

「向こうの世界は戦争が多いです……資源を求めての戦争で、生き残る為の戦争です。誰が悪で誰が善の正義の味方か決めてほしいのならば私を拐った国が悪です。手厚く歓迎してくれたイアドリフや私を後方支援のオペレーターに転身させてくれた兵士は善です…………そしてボーダーは頼れない。レグリットが言った様にきっとボーダーは向こうの世界に何度も何度も遠征している、でもなんの成果も上げる事は出来ていない。もし仮に成果を上げる事が出来たとしても向こうの世界の技術、トリガーを手に入れるぐらい……………向こうの世界の住人とボーダーはなにが違うんですか?仕えている国は違えども国を守るという使命は一緒の筈です……」

 

 

────コレは悪い王様や邪悪な魔王を倒す英雄の冒険譚ではありません。生き残る為の戦争です。正義も悪もありません

 

 

 私のこの一言で空気が凍りついた。

 分かっています。ボーダーが善で正義の味方じゃないといけないのを、近界民=悪だと認識させておかなければならないのを。私はボーダーが4年間掛けて積み上げてきた物を全て壊している……。

 

「私はボーダーに文句は言いません、ボーダーだって必死になって頑張っているのは分かっています……だからこの問題はコレで終わりです。私はボーダーを責めない……ただそれだけです」

 

 一線を引いておく。引いておかないと今の世の中が壊れてしまうから。

 ただでさえ未知の世界、未知の技術、未知のエネルギーと来たのだから100年以上掛けて発展した国をひっくり返す事が出来る。だからこれ以上は言わないでおく。

 

「何故今回こちらの世界に帰れたのですか?」

 

「こちらの世界にイアドリフが前々から興味を持っていました。私から日本の事を聞いて色々と行ってみたい等を思っていました……そして偶然にもこちらの世界から来た一団が居るという噂話を他国との貿易中に聞きつけました……今までは日本という国の人口が約1億人で若者は中高生の1000万人、更にそこにトリガーを使う才能を有した人が居るのを考慮しても最低でも10万人鍛えれば戦う事が出来る兵士が居るとイアドリフは計算していました。本格的な戦争になればどちらも傷手を負う。こっちの世界の小さな島国の日本ですら1億人以上の人が居ます……だからこっちの世界に交渉を持ちかけるのは危険だと判断していましたが、向こうの世界を知っている世界に切り替わっているのならば交渉を持ちかける事が出来るのでは?と判断し、こちらの世界に足を運びましたがボーダーは一切の話を聞かずに近界民(ネイバー)を理由に発砲されました。そしてボーダーは国営の民間組織……民営でもあり国営でもある病院に近い組織だと分かりましたので日本政府に交渉を持ちかけて今に至ります……私は5年の歳月を掛けて帰ってきました。これ以上はなにもありません。向こうの世界の生活もそんなに悪くはないです」

 

 言うべき事は言った。

 私は悲劇のヒロインを上手く演じる事が出来ているでしょうか?遊真くん辺りが嘘だと気付いている……いいえ、ボーダーは私の口から出る言葉が全て嘘八百だと思っているに違いない。でも、世間を上手く欺く事に成功している。ボーダーの株を下げてイアドリフの株を少しだけ上げる事が出来ています…………。

 

「こちらの世界に帰って来れましたがやりたい事などありませんか?」

 

「今すぐにでもこの記者会見を終えてお父さん達に会いたいです……」

 

「家族と再会を果たした後は?やはりボーダーに所属するのですか?」

 

「ボーダーは話が通じない、日本政府は話が通じます……なので向こうの世界の技術とこちらの世界の技術を組み合わせた技術を開発して病院や電力会社の様に国の管轄下でありながら民営でもあるボーダーの様な公私混合な会社を起こしたいとは思っています」

 

「学校に通ってみたいとは思わないのですか?」

 

「いいえ……日本語の読み書きは充分できますし計算も出来ます。中学以上の勉強は考える力を養ったり、めんどくさがらない為にあるものです……今の私には不要です。田中角栄より学歴は下ですが差別はしないでくださいね」

 

 学校に通ってみたいとは思っていますが、もう間に合わない。

 来年から高校生になれる年齢ですが中学の勉強を殆ど出来ていない私に何処の学校に通えと?親に裏金を積んでもらって私立のお嬢様学校に通いなおせと?……私にはその道を選ぶ事は出来ない。それを選べばジョンやリーナを見捨てることになってしまいます。

 

「他に質問はありますか?私は出来れば早くお父さん達に再会したい……」

 

 なにか質問はありますか?

 

 私から放たれる威圧感に記者達は怖気たのか質問は何個か飛んできましたが、簡単に答えられてイアドリフの評判を落とすものではないので答えて私の出番は終わった。

 

「(なにか不備はありましたか?)」

 

『(今のところは問題は無いわ)』

 

 私の記者会見からなにか余計な情報は漏れていないのか?イアドリフの事を悪く言っている人達は居ないのか等をリーナに確認してもらう。

 今のところはなにも問題無い……1つの難しいポイントを終えたけれどもまだ油断する事は出来ません。次にボーダー側から何かしらのコンタクトを取ってくる筈、そこを乗り越えないといけない。

 

「……」

 

 1人、部屋でジョンが好きな漫画のキャラが被っている仮面をつける。

 下手に人前で素顔を曝すのが嫌だからというわけではない、ただ自分の気持ちを整理して落ち着かせるのに時間とかが欲しいから。

 

 私は5年、リーナとジョンはここに来るまで10年掛かった。

 5年という歳月は長い……ジョンとリーナの10年はもっともっと長い。私の倍です。だから会うのに勇気がいる。さっき記者会見で言ったのはジョンが行った事、発電機を作らなかったと言わなかったのは言えば色々と厄介な事になるから。

 

 ジョンは成り上がる為に、生き残る為にやってはいけない事を沢山やった。

 本当の名を1度も教えてくれないのはきっと後戻り出来ない事をしてしまったからだと思っているから…………私はジョンのおこぼれを貰っているだけに過ぎない。ジョンは自分という物を壊さない為のエゴで救ったけれどもそれでも私がジョンに救われていた事実は変わりはない。

 

 ジョンは強くなる為に貪欲でした。

 心を殺すのでなく無にするよくわからない特訓をしていた。人の生き死にでショックを受けないように家畜の解体法を1から学び実戦した。

 私やリーナには一切やれとは言ってきませんでした。ただ自分が強くなる為に色々とやった……私を拐ったルミエは死んで黒トリガーになった。私と一緒の時期に拐われた人達は死んだ、拐われた、反逆を起こして黒トリガーになる様に処刑されて失敗して死んだ。

 

 多くの命を犠牲にして私はこの足で、日本に帰ってきた。

 私にお父さん達に会う資格があるのでしょうか?ジョンほどと言わないですが、私も多くの命を犠牲にしてここに立っている……私が生き残れたのは偶然、奇跡に近いです。

 

『ねぇ、葵』

 

「なんですか?」

 

『私達は菜食主義者(ベジタリアン)じゃない。生きる為に魚や鳥を食べている……命の価値は人によって変わるかもしれないけど、命の価値は本来変わるものじゃない筈よ。遅かれ早かれ生き物は皆、死ぬ運命にある』

 

「だから必要な犠牲だったと?」

 

『ええ、そうよ…………自分の胸に聞いてみなさい。死にたくないのか家族に会いたいと思っているのか』

 

「…………会いたいです…………」

 

 リーナに問いかけられ、自分の胸の内を明かした。

 死にたくないとも思っていますし、家族に会いたいとも思っている。

 

『私もジョンも親に会いたいと思ってるわ……私はともかくジョンは最初の一歩と最後の一歩を踏み出す勇気が無い。だからね、葵。ジョンに勇気を与えましょう。それが出来るのは私とあんただけで私は色々とややこしい。だから、あんたにだけしか出来ない事なのよ』

 

「ジョンに勇気を………………ありがとう、リーナ」

 

『別に、お礼を言われる事じゃないわ……私だって怖いもの。最初の一歩を誰かが踏み出してくれないと……ジョンに恩義を感じてるならその義理を果たしなさい』

 

 リーナは少しだけ天邪鬼ですね。

 ともあれ覚悟を決めることは出来ました。私はゆっくりと仮面を外して深呼吸をして気持ちを整えて外に出る。外には取材記者達が大勢居る。私を撮ろうと必死になっている……思う存分、私を撮ってください。世間の目を意識を集める為にも、私は悲劇のヒロインになる。

 

「葵!!」

 

「葵!」

 

 車の中から人が降りてきた。

 

「お、とうさん……おかあさん……………………っ…………グス…………」

 

 降りてきた人の顔を見て私の我慢していたものが限界を迎えた。

 5年という長い時間を掛けて私はここに辿り着いた。取材記者達が眩くフラッシュをたいているのを全くと言って気にせずに私はお父さんとお母さんに抱きついた。

 

「ごめ、んなさい…………ご、めんなさい…………ごめんな、さい」

 

 

 ごめんなさい。

 

 

 私の口から出た言葉はコレしか無かった。もっともっと言いたいことは色々とあったけどお父さん達に謝る。

 お父さん達も涙を流して私の事を抱き締めてくる。

 

「お嬢様……」

 

「爺や、ごめんなさい…………門限を過ぎてしまって……早く帰らないといけないのに……お母さんのご飯が待っているのに……テスト勉強をしないといけなけないのに……」

 

「いえ、私がお嬢様を送り迎えしなかったからこうなったのです」

 

「それだと貴方が死んでいたわ」

 

 車の運転席から執事の爺やが出てくる。

 孫が出来なかった私の事を孫の様に可愛がってくれた爺やにも謝る。

 

「いいの……いいのよ…………謝らないで」

 

「ううん、謝らせて……私は悪い子。皆を心配させた」

 

「お前は悪くはない。悪いのは近界民(ネイバー)だ……最初は身代金目当てかと思った。だが、待てども待てども要求は来なかった。誘拐されたと警察や探偵に依頼をした。手掛かりは一切無く忽然と消えて……三門市に近界民(ネイバー)が現れた。ボーダーは近界民(ネイバー)が子供を拐っている神隠しにあったかの様な事件は近界民の仕業だと教えてくれた……ボーダーに依頼した、けどっ……この四年間何一つ手掛かりは無かった……もうお前に会うことが出来ないと思っていた……」

 

 お父さんは私が居なくなった後の事を教えてくれる。

 身代金目的の誘拐かと思ったが違った。近界民に拐われたかもしれないという針穴に糸を通す様な希望に縋っていた。

 

「お父さん……お母さん……爺や」

 

 言わないと、この一言を。ずっと言いたかったこの一言を。

 

 

 

「ただいま」

 

 

 

 

 やっと言えた。




この一言を言うのが割と大変なのである。
感想お待ちしております

今後の展開

  • そろそろ原作にいけ
  • もう少しオリジナルをやれ。
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