近界プルルン奮闘記 作:ドドドドド黒龍剣
『5年という歳月を経て水無月葵は日本へ帰還しました』
「ふぅ…………見事なまでの悲劇のヒロインを演じているな」
「もう満足してくれただろうか?」
国会議事堂にあるとある一室で葵と家族の再会を唐沢は見ていた。
水無月葵という日本人の帰還に世間は話題で持ち切りだ。三門市が2度目となる大規模な侵攻があったにも関わらず世間の目は葵に注目されている。無理もない。ボーダーですら見つけ出す事が出来ていない過去に連れ去られた人が巨万の富を生み出すものを持って帰ってきたのだから。
無論、ボーダーも記者会見をする予定だ。
今回の一件は秘匿する事が出来ない一件なので記者会見をする予定だが色々とハードルを上げられてしまった感が否めない。
「我々は日本という国に同盟を結んだ。ボーダーと言う民間組織でなく国そのものに同盟の様な物を結ぶことが出来た……今更なんの用だ?」
レグリットは唐沢の前で問う。
イアドリフという国はボーダーという民間組織でなく日本という国そのものに同盟を結ぶことに成功している。
世界中に向けて発信された口約束は今ではちゃんとした約束を交わしており、後戻りは出来ない。今更レグリット達を殺して最初から無かったという事には出来ない。
「勿論、交渉に来ましたよ」
「ほぅ、まだ火消しに忙しいのに私達に構っている暇があるというのか」
「……ええ」
レグリットが最後の最後で放った爆弾はデカかった。
確かに言われてみればこちらの世界にはトリガー技術という物は無かった。しかしどういうわけか表に出る前に極少数で動いていたボーダーは近界民の存在を認知してトリガー開発等をしていた。何かしらのコンタクトがあったという説は濃厚だろう。
諸悪の根源に近い奴等がなにを言っているんだと唐沢は内心思いつつも、交渉をする。
出来る限りボーダーに対して有益な交渉を、イアドリフは既に日本という国と交渉して同盟や和平を結ぶことに成功していると跳ね除けられれば詰んでしまう。ボーダー以外に政府公認のトリガーを用いた軍隊もどきを作ると言われて政府に色々とあの手この手言われてボーダーを乗っ取られてしまう可能性がある。
「君達はコレからどうするつもりだ?」
「この国と提携しトリオンと電気の2つで動くハイブリットな家電を開発する……葵が言っていた様に病院に近い国営の会社を起こす。街や国を守りたければ貴方達の好きにすればいい……ただし責任は取らない」
トリオンはこちらの世界では未知のエネルギーだ。
まだ正式にトリオンを発表していないが未知のエネルギーで扇風機やエアコンを動かすことが出来ると公表している。仮に普通に会社を起業してしまえばそれこそアラブの石油王とかが圧倒的なまでの財力で会社を買収してトリガー技術を乗っ取られるだろう。
だから世間に渡していい技術とそうでない技術を慎重に吟味し、どの技術を提供するのか。少なくともエアコンと洗濯機は作る気満々である。
シャーリーは国営の会社、病院みたいなのを組織すると言う。葵の宣言通りだ。
さて、ここからどう攻めるかと唐沢は考える。普通に攻めても意味は無い。あの国会議事堂での出来事でボーダーの株は急降下、イアドリフの株はうねる様に上がっている。調べてみれば水無月葵は日本人なら大抵知っている会社の重役で、お金に関してもスポンサーになりたいという人達はごまんと出てくるだろう。
「日本政府と同盟を結んだ様に我々ボーダーとも同盟を結んでほしい」
「ボーダーとか……メリットはあるのか?ボーダーは私達
色々とあの手この手使っても既にボーダーでなくボーダーよりも更に大きな日本政府との交渉に成功している。
シャーリーが嫌だと言えばその鶴の一言で全てが終わる。どうにかして話題を繋ぐことは、隙間は無いのかと手探りで探るとシャーリーはポロッと零す。
「……水無月葵やジョン・万次郎と名乗る男は他所の国でなくイアドリフが拉致したのか」
「それは…………」
「本人達の口から聞いてみてくれ」
イアドリフが拉致したかどうかを尋ねれば言い淀むシャーリー。
レグリットは直ぐにフォローに回った。もしこの会話が録音されているのならば上げられているイアドリフの株価が一気に急降下する。やっぱり近界民は敵だったと世間に認識される。
「その本人達が居ないから尋ねている…………他にもまだ居るんだろう?裏は取れている」
「………………なにが目的だ?」
「先程も言ったようにボーダーとイアドリフの間に正式な同盟を結びたい。無論、世間に公表しない秘密の同盟とかでなく公式な公文書を用意した同盟だ」
「私としては構わないが…………貴方1人の判断で決めていいことなのか?貴方が勝手にやっている事ではないのか?」
「とんでもない。ボーダーと正式な同盟を結ぶ……トップである城戸司令に同盟の話を確かめてもいいんですよ」
今回の一件は唐沢の独断で動いていない。
唐沢が上手い具合にイアドリフと交渉して来いと言われており、ある程度は唐沢の好きに出来る。
イアドリフと同盟を結ばないといけないところまで駒を進められているので色々と反感を買うのは確実だろうが、それでもだ。
「……私達は既に日本政府に交渉済みだ……そちらはなにを提示する事が出来る?」
「そうですね……三門市という街、迅悠一の予知と言ったところですね」
「……続けてくれ」
「三門市である程度の融通は効くほどにボーダーは三門市で力を持っている……今、電気とトリオンを用いた家電等を開発する予定だと言っていたが、それをどうやって販売する?大手の家電製品の会社がスポンサーに来ていたとしても普通に販売しても途中でトリオンが足りない等の問題で使えない粗品扱いされる可能性がある」
「……それで?」
「まず、三門市その物を数年以上の計画と見据えて改造する……一般市民からトリオンを回収するシステムを作り上げる。回収したトリオンと発電所で作られた電気を複合した街を作り上げる。こちらの世界の住人の大半はトリオン能力が1の人だ。故に普通にトリオンと電気を用いたハイブリットな家電を開発してもトリオンが足りなくなって電気で動かすしかない。それでは君達に利益が出ない。もし私ならば街ごと改築しておかないと、それこそ君達の世界の様にトリオンによって動く機械が当たり前の様なインフラ整備をしなければならない」
唐沢の言っていることは割とまともである。
こっちの世界の人は雨取千佳というとてつもない化け物が居るには居るが基本的にはトリオン能力は低い。大人になればトリオン器官が衰える。無論、トリガーを使い続けていれば衰えを防ぐことが出来るのだが基本的にはトリオン能力は1と考えてもいい。
そんな中でトリオンで動くエアコンや扇風機が作られたら……途中でトリオンが足りなくなって結局は電気に頼る羽目になる。
変えないといけない。試験しないといけない。街一つ改造してトリオンと電気のハイブリットな環境下を作って実際に暮らしていけるかどうかのデータは向こう側からすれば喉から手が出る程に欲しい代物だ。
「それは確実に保証できるのか?」
「勿論、約束しよう」
と言うよりはそうせざる負えないのである。
トリオンを用いて動く家電を作ったとしてもトリオンをチャージしたりする道具とか家の改築が必要になる。
どちらにせよトリオンと電気のハイブリットな次世代の生活が出来るかどうか何処かで実験をしなければならない。国の首都である東京はダメだろう。ならば第二の首都である大阪?札幌?名古屋?神戸?博多?人が多い政令指定都市?それは分からない。ならば今の内に三門市という場所にイアドリフを縛り付けておこう。そういう魂胆である。
「次に迅の予知だが……迅くんについては知っているかね?」
「確か予知のサイドエフェクトを持っているとか」
「ああ、そうだ……イアドリフが起こすのは会社みたいな物で兵士を求めない。トリオン能力が低くてもエンジニアとして優秀な人材を採用する……が、それが産業スパイである可能性が高い」
ボーダーは若い学生連中を多く採用している。理由はトリオン器官とかの問題でだ。
運がいいのか悪いのか兵隊の産業スパイは少ない。しかしエンジニアとかには居るかもしれない。スパイというのは何処の時代も何処の国でも存在する物で気付かないだけで日本も色々なところに送り込んでいる。
トリガー技術は兵器の技術故に提供するのは難しい。
銃などの近代兵器をものともしないトリオン体だけでも十二分な平気である。故に他国の産業スパイ、FBI、MI6、CIA的なのが来ていないとは言えない。大半はボーダーの兵士として入隊試験を受けるのでトリオン能力の都合上落ちるが稀にエンジニアとして入ろうと企んでる連中もいる。そういうのを迅の予知で追い出したりしている。
「君達はトリオンを用いた家電を販売するかもしれないが、その技術を民間が徹底的に解析する事もある。そうしてトリガーという兵器を作る可能性だって0じゃない……そこで迅悠一の予知だ。彼ならば顔を見た人の出来事が分かる。採用するかしないか悩んでいる人が居るならば彼に顔を見せて判断してもらえばいい」
一般市民をバカにしてはいけない。
一般市民が3Dプリンターから拳銃を作ろうと思えば作れるこのご時世、トリオン技術の漏洩は防ぐのは難しい。もしかしたら一般市民が兵器としてのトリガーの開発に成功するかもしれない。
「……私達が作る商品に特許とやらを取れば」
「特許を取っても無意味だ……こちらの世界にはデ◯ズニーという権利関係に厳しくて有名な会社がある。そんな会社が存在してもお構いなしに無許可で色々とやっている国も存在する……情報や技術の漏洩は防がなければならない」
「…………トリガー技術が漏洩するのは好都合だ」
「どういう意味だね?」
「いや、なんでもない……そうだな……」
シャーリーがボソリと呟いた事を気にする唐沢。
シャーリーはなんでもないという素振りを見せるのだが、今の呟きで確実になにか裏があるのかと匂わせる。唐沢はブラフかなにかかと考えるのだが目の前に居るのはあの迅悠一を出し抜く事に成功した人達だ。まだ自分達の理解が及ばない何かを企んでいるのではないのかと考えておく。考えておくだけでいい、考えるのは金がかからない。万が一を想定しまくってそれでなにも無ければそれでいいのである。
「三門市という街よりも神戸や名古屋等の街の方が人が多くて集まりやすいが」
「……例えば三門市名物の蜜柑の農園でトリオン体を用いて蜜柑の採取を行う農業体験をする。三門市という街のインフラ整備の工事にトリオン体を用いる。ボーダーの息がかかった信頼も信用も出来る企業の人達がだ」
なんとしてでも三門市にイアドリフを縛り付けたい。
唐沢は使えそうなカードを軽くチラ見せする。ボーダーの息がかかった企業ならば信頼も信用も出来る……信頼と信用は1日2日で出来る代物ではない。
「しかしそれでは……そうだな……」
「他にお望みは……いや、もう1人居るのだろう?イアドリフが拐ったこちらの世界の人間で、この日本という国以外の人が」
「……」
「隠さなくてもいい、裏は取れている。ジョン・万次郎を含めて君達も扱いに困っているのだろう……迅悠一を使って彼女と彼女の家族を再会させこの国に永住権を与える。と言ってもFBIの証人保護プログラムの様に名前は切り替わるが。無論、仕事の方も斡旋しようじゃないか……この国の政府に言えば確実に揉める。もし何処かからかその人の存在が露呈されると困るのはボーダーもイアドリフも日本もだ」
「その言いぶりだとやはり居るのだな、ボーダーにも
「ああ、居る。彼等がこの国で永住権を手にした様にその人にも永住権を与える」
ここまで来た以上は嘘を言っても無駄である。
ボーダーに近界民が居るというのは紛れもない事実、遊真の様なハーフじゃない、紛れもない近界民のミカエル・クローニンがいる。そして戸籍偽造等をした事も認める……もし誰かに聞かれていたのならば割とヤバいのだが秘密の会議なのでバレないのである。
「……分かった。イアドリフは日本政府だけでなくボーダーとも同盟を結ぼう」
「シャーリー、いいのか?」
「私達にも利益が無いわけじゃない……ボーダーとの間に亀裂が生じて
「と言うと?」
「こちらの世界の記録を調べた。そちらが秘匿にしているかもしれないが、トリガー使いが来るレベルの侵攻はこの前ので2回目だが……何れはこちらの世界にトリガーを使う組織が出来た事を知られるだろう。そうなれば本格的な戦争が巻き起こる……ジョン達を有事の際には使ってくれ。そちらが市民に秘匿しようとするレベルの案件でもだ」
「戦力の提供はありがたい……だが、出来ればトリガー技術の提供を」
「ならばサンプルを1つ持っていけばいい」
「っ!?」
「イアドリフは凄い技術力は無いが、腕自慢の実力者が多い国だ……トリガー技術には期待はしないでほしい。緊急脱出機能を除いたイアドリフの標準装備であるトリガーだ……と言ってもこちらの世界の技術者達でも簡単に再現できる代物だ」
シャーリーがスッと差し出してきたトリガーに唐沢は驚く。
トリガーは兵器である。兵器であるので他国に漏れたりすれば色々と大変だったりする……それをなんの惜しげも無く渡すのは正気かと、まだなにか裏があるんじゃないのかと疑念を深める。
「太刀川慶や迅悠一の様に既に向こうの世界基準でも一流の兵を更に強くするのは難しい事だが、そちら風に言えばマスタークラスでない子をマスタークラスに近しい実力に持ち上げる事はジョンならば出来る筈だ……なにが目的かと聞かれれば同じ事をされない為にボーダーを、ひいてはこの国を鍛えておかないといけない」
「鍛える?」
「この国の外に行くには国際便とやらに乗らなければならない……私達は空閑遊真がこちらの世界に来ると同時にこちらの世界に足を運んだ。どういう理屈かは私は知らないが、この街に世界中から開かれる門を誘導する事に成功している……もし、海外に兵器としてのトリガー技術が流れ込んだ場合、恐らくだがこちらの世界の平穏の均衡は崩れるだろう。この国は内陸で他所の国に続かない国だが仮にこれが別の国だった場合……我々はそっちの国にトリガー技術を提供していた」
「……」
日本に留まらせることが出来てなによりだと日本が海に囲まれた国であった事に唐沢はホッとする。
「同盟を結んだ以上、ジョンを貸し出そう……無論、報奨は出してもらう。ジョンはそちらで言うところのA級レベルの実力を有しているのだから」
「ああ、分かった……しかし出資者の奪い合いをどう避けるか」
「そちらにはランク戦という軍事演習があるのだろう?ならばそれを有料で世間に公開すればいい……FPSというジャンルのゲームが世界を震撼させているのならば利益は出るはずだ」
「それだと色々と市民に反感が……いや、もう無理か」
異世界から人間が資源を求めて戦争を仕掛けに来ている。
その事が世間に露呈した以上は世間に害虫駆除や近界民=悪、ボーダー=正義、善と見せつけるのは不可能である。だって戦争に正義も悪もないもの。
「では、イアドリフとボーダーとの間にも同盟を結ぶということで……後日行われる記者会見に出ていただきたい」
「ああ、分かった」
「もしくだらない偽の情報を回すのであれば覚悟はしておけ」
レグリットは万が一を想定して釘を刺しておく……そして唐沢は部屋を出た。
「ふぅ…………疲れた…………」
唐沢が完全に出て行ったのでシャーリーはホッとする。
ボーダーという組織がこちらに対して何かしらの交渉を用いてくるのは読めていたので、ボーダーが出してくる条件等を想定していた。出来る限り自分達に被害が及ばない様にしようと色々と考えていた。
「ジョン、コレで良かったのか?」
例によってこの展開を読んでいたジョンにシャーリーは通信を取る。
『まぁ、いいんじゃねえの?どちらにせよ電気とトリオンの両方が使えるインフラ整備とかした街が必要になるのは確かだ……三門市管轄下なのはちょっと癪に障るが、イアドリフにとって不利益なのは無いに等しい……俺達が欲しいのは技術であって人材じゃねえ。トリオンと電気で動く家電の設計図とかがあればそれで問題ない』
「そうじゃない……君はもう戦わなくていいんだぞ?」
イアドリフにとって有益かどうかは後になって分かることでシャーリーはそこを気にしていない
ジョンは日本政府に交渉を結ぶ為の道先案内人の役割を十二分に果たした。迅悠一と言う交渉において最大の障害になりうる存在を足止めしてボーダーを出し抜く事に成功している……ジョンの役割はもう果たしている。
ボーダーと言う組織があるのだから、こちらの世界の防衛はボーダーに任せればいいだけの話だ。それなのにジョンはまだ戦おうとしている。
「お前の仕事はもう終わりだ……これ以上なにを望む?」
ジョンにもまだなにか思惑があるのでは?とレグリットは疑う。
『……お前等のせいで俺はもう後戻りする事が出来ないところまで行っちまった。だったらひたすら真っすぐ進むしかない、ただそれだけだ』
「っ……」
「……そうか。ならばある程度はボーダーの力になれ。そこは好きにしろ」
『シャーリー、謝るんじゃねえぞ。ここで俺に謝ったらルミエから始まった全てを否定する……ルミエ達の屍を踏み台にして高みを目指せ』
「…………分かった…………ところで」
『なんだ?』
「いったい何時になったら本当の名を教えてくれるんだ?」
『教えるわけねえだろう……とはいえ、あの実力派エリートが余計な事をする。仮に俺の本名を知っても使い分けろ、基本的にはジョンで通せ』
「…………分かった。ジョン、これからもよろしく頼む」
イアドリフもジョンと密約を交わした。
ともあれイアドリフは日本政府に続いてボーダーとの同盟関係に結ぶ事に成功したのであった。
いや〜早くジョンと迅のヤングマスターズとかを書きたい。
感想お待ちしております
今後の展開
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そろそろ原作にいけ
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もう少しオリジナルをやれ。