近界プルルン奮闘記   作:ドドドドド黒龍剣

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第64話

 

「……作戦は成功か」

 

 有吾さんの名義で借りている東京のとある3LDKの一室。

 葵を悲劇のヒロインにし、更には扇風機や翻訳機等のバカでも分かりやすい利益を提示した事でイアドリフと日本の間に正式な同盟を結ぶ事に成功した。ボーダー側が一手として打ってくる手はイアドリフと同盟を結ぶ事。内容は出来ればボーダーにとって優位な方がいいのだろうが、一先ずはイアドリフとボーダーは手を繋ぐ事に成功したとなる。

 

「あ〜あ〜……消えてるわね」

 

 ボーダーの公式サイトをリーナは確認する。

 正隊員になったボーダーの隊員はネット上で名前を晒される。

 二十歳未満が多く在籍しており、如何に自衛隊や自警団の様に懇願した人達で出来た組織であれども異世界から人間という資源を求めてやってきてるとシャーリーがバラして更には三輪を利用したボーダーの株価を急降下させる作戦が予想以上に上手くいった。

 

 ボーダーは公式サイトに名前を載せる事を止めた。

 異世界相手に防衛戦をしていて今回C級という被害者を出してしまった以上はボーダーを辞めさせなければと思う親は続出だろう。そしてイアドリフは向こうの世界の技術を提示したのでイアドリフにスポンサーになりたいという出資者はごまんと出てくるだろう。ボーダーの弱体化待った無しだ……ボーダーは慎重に次の一手を打たないといけない。

 

 原作では一般市民の死者0で尚且つ最初の大規模侵攻と比較して街を防衛する事が出来たと言い、修を生贄に仕立て上げようとした。

 その修は記者会見で遠征をバラす。そして話題は遠征に移り、公開初遠征をすると言う嘘をついて世間に話題を掻っ攫う……が、レグリットが最後の最後で放った爆弾が原因でその1手は使えない。

 

 ボーダーに近界民が居るのではないのか?ボーダーは既に何度も向こうの世界に遠征しているのではないか?それを世間は議論している。

 世界中がトリガー技術を知らず近代兵器をものともしないトリオン兵を倒せるトリガーをどうやって潜んでいた頃のボーダーは入手する事が出来たのか?旧ボーダーがどの様な経緯で誕生したかは知らない。もしかしたら俺達みたいに成り上がって地球の技術を提供していたかもしれない……が、近界民と何かしらのコンタクトがあったのは事実だろう。

 

 葵が麟児達に出会ったとは言わず、向こうの世界からやって来た人達がいると噂を聞いたという話を流したのでボーダーの遠征は秘匿にしているだけで何回もやっている……それを証明する手立てはある。

 それはこの前の一件……アフトクラトルがこちらの世界の調査の為にトリオン兵を、ラッドを派遣した。その際にC級を含めた隊員騒動で駆除したと言っているがその頃には太刀川隊、冬島隊、風間隊は居ない。

 

 ボーダーが総動員でなければ対応することが出来ない案件なのに動いていない。

 何かしらの理由で休んでいる……大学生ならば必要な単位を取得するための授業に出ておけばいい話だが高校生組は違う。高校生は平日は毎日学校に通っているものであり……学校側もグルかそれともスカウト旅に行っていると偽装していたかのどちらかか。

 

「次の一手は…………」

 

 原作知識をとことん悪用しまくっているので原作から大分逸れたところに向かっている。

 次にボーダーがなにかしらの手を打ってくるならば記者会見だ……そしてその記者会見は明日に行われる。三雲修達は五体満足で生き残った……ボーダーは現在火消しに忙しく、この記者会見を利用して一気に火を消そうとしている。

 

 鎮火する為の方法はあるのか?

 C級が狙われた原因は修が学校でC級のトリガーを使用したからだ。その事を何処かのゴシップに伝えて意識を逸らすことは……無理だろうな。

 

 異世界が人間という資源を求めて戦争を仕掛けてきている。

 誰かを悪にしておいて世間の目を欺くという手段を用いるという手段は出来ない……イアドリフと同盟を結ぶ事に成功したと言ってボーダーにとって都合のいい展開、約束を交わす?……イアドリフと同盟を結ぶ事に成功したと言えば世間は盛り上がるだろう。

 

「ジョン……もう難しい顔はしなくていいのよ」

 

「……そんな顔をしていたか?」

 

「してるわ。とっても真剣な顔で本に一切視線が向いてないわ」

 

「……そうか」

 

「……ねぇ、ジョン」

 

「なんだ?」

 

「このままで大丈夫なのかしら……」

 

「葵は悲劇のヒロインとして家族との再会を果たした。イアドリフは売っても問題無さそうな技術を提供する代わりに日本を相手に同盟を結ぶ事に成功した。ボーダーは三門市という街を提供し電気とトリオンの2つを併せ持つハイブリットな次世代の街に改造すると約束を取りつけた…………成功率が良くて20%ぐらいの作戦を俺達は無事に完遂した」

 

 パソコンに視線を向けずに俺に顔を向けるリーナ。

 このままで大丈夫かどうか心配をするが既に問題が無い。ボーダーにとって都合のいい話や展開でなくイアドリフはボーダーを無視して日本政府に交渉する事に成功した。大規模な侵攻を利用して迅悠一を足止めしていたが、万が一が起きている可能性は多々あった。

 だが、もう無理だ。迅悠一が裏で暗躍してどうこう出来るのはボーダーという組織だからだ。そうでない悪い大人が多い政治の世界で迅は生き残る事が出来ない……あいつは常にトロッコ問題に挑んでいて基本的には1人だ。

 

「そうじゃないわ……葵が帰ってこないって言ったら」

 

「…………そっちの方がいいんじゃないのか?」

 

 俺とリーナは10年、葵はここに来るまでに5年が掛かった。

 葵はトリガー技術で色々とする会社を立ち上げると堂々と宣言していたが、あいつが帰りたいと言えば帰ればいい。葵の家族は葵を受け入れた。葵が帰りたいと言うならばそれはそれで別に構わない。俺達の本来の仕事は日本の道先案内人だから。

 

「…………私は会っても帰らないわよ……レグリットはこう言ってた。家族に会わせるって……家族の元に帰すって一言も言ってないわ」

 

「葵もそれぐらいは気付いているだろう」

 

 家族にただいまの一言を告げる事は出来ても、お帰りは出来ない。

 葵も葵でそれなりの覚悟をしている、だから悲劇のヒロインを演じている。レグリットの言葉遊びに気付かない程馬鹿じゃない。

 

「……私達の居場所は何処にあるのかしら?」

 

「……無いなら作るしかないだろう」

 

 ボーダーにとって俺達は近界民もどきだ。

 ボーダーが連れ帰ったのならばこちらの世界の住人として悲劇のヒロインとしただろうが俺達は自力でここまで来た。

 イアドリフ側からすれば俺達は奴隷から成り上がった異邦人だ……居場所なんてものは何処にもない。都合のいい悲劇のヒロイン扱いされるぐらいならば、どちらでもない人間で構わない。弥助やジョン・万次郎なんかはそんな思いをしていた筈だ。

 

「そう、ね……少なくとも私は一人じゃない。私にはジョンが居る」

 

「ああ、俺にはリーナが居る……だから後続の憂いの様な物は少ない」

 

 無いと言えないのがなんとも厳しいところだ。

 何処にも居場所が無いから弓場達の前であんな歌を歌った……俺もリーナも心の何処かでは誰かに助けてほしいと思っているが、助けなんて待ってても来ないと悟りを開いてしまっている。

 

 なんともまぁ、寂しい話題だと思っているとインターホンが鳴る。

 誰だろうと確認してみれば葵だったので出てみれば葵と両親がいた……

 

「執事の爺さんはどうしたんだ?」

 

「マスコミ・メディアの網から掻い潜る為の囮になってもらっています」

 

 家族との感動の再会を果たしたばかりの葵がやって来た。

 マスコミ・メディアはまだまだ葵に聞きたいことがあるのだろうが葵はもう語りたくは無い。感動の再会を果たして終わり……というわけにはいかないだろう。

 

「君がジョンか……」

 

「はじめまして……ここではなんですので上がってください。狭い場所ですけど」

 

「いや、逆だ……我が家に来てくれないか?」

 

「……俺達は隠れておかないといけない存在だ」

 

「……葵から真実は聞いている……本当は葵を拐ったのがイアドリフという国なのも、君が葵に言うことを聞かせる為に手を上げたのを……」

 

「否定はしない……貴方達は葵の親だ、俺を殴りたければ一発だけ思う存分に殴ってくれればいい」

 

 そう言うと葵のお父さんは俺の顔をグーで殴った。葵のお母さんは俺の頬を全力でビンタした。

 

「お父さん、お母さん、ジョンは」

 

「分かっている!分かっているんだ!……この人がお前を助けてくれた。この人が居なければお前は帰る事はおろか生きている可能性も無かった事を」

 

「頭では分かっていても心で納得する事は出来ねえだろ……でも、あんた等の拳は痛いから1発しかくらわない」

 

 俺に対して拳を振るっているのは半ば八つ当たり気味の葵のお父さん。

 近界民に対して一発ぐらいは報復してやりたいという気持ちはあって当然のものだ……だが、大人なのか一発で終わらせた。

 

「ありがとう……本当にありがとう……娘をここまで連れて来てくれて……」

 

「……俺は葵を助けたいから助けたわけじゃない……たまたまだ」

 

 恩義を求めて葵を助けたわけじゃない。その一線だけは変える事は出来ない事だ。

 

「貴方も日本人なのよね…………葵みたいに大々的に会いたくなくても1度ぐらいは顔を出さないと」

 

「……そうっすね……」

 

 葵の奴、余計なことまで語りやがったな。

 俺はどんな顔をして家族に帰ればいいのか分からない。ヤクザやマフィアに走って足を洗うというわけではないが、俺は10年前のあの日から普通の人の道を脱線してしまっている。その事を自覚しているからあの言葉が出ない。出せない。

 

「君達はこの家を拠点にしているが、今日でそれも終わりだ……東京にある別荘を使ってくれ」

 

「……流石にそこまで世話になるわけには」

 

「私はとある会社の重役を勤めている。ボーダーでなくイアドリフのスポンサーになると葵に宣言した……葵はスポンサー第一号だと受け入れてくれる。頼む、使ってくれ」

 

「ジョン、お父さんもこう言っている事ですし……遠征艇を何処かで表に出さないといけません。うちの別荘には広大な庭があります。そこならば遠征艇を出すことが出来ます……何処かで遠征艇のメンテナンスは必要です」

 

「なら何処か工場にしてくれ。流石に屋外だと目立つ」

 

「工場だな、分かった」

 

 そう言うと葵のお父さんは何処かに電話をかける。

 これでいいんだろうか……まぁ、葵の言う通り何処かで遠征艇を出して整備しておかないといけないのも事実だ。何処かの工場っぽい施設に遠征艇を置いて後はシャーリー達にメンテナンスを任せればいい。幸いにも何処かが壊れたなんかは一切無いし万が一を想定して遠征艇の設計図とかは用意してある。

 

「……ここを退居するのはここの家賃分使い果たしてからだから。行くには行くが……俺とリーナは表に出てはいけないんだ」

 

「……悲劇のヒロインは私一人で充分です。でも、今までのお礼をさせてください」

 

「……分かった。リーナ」

 

「……ここの家賃分使い果たしてからね」

 

 出来れば目立ちたくはないのだが致し方あるまい。

 葵の両親達の誘いを断るわけにはいかないとリーナと一緒に葵の東京にある別荘に向かえばかなりの豪邸に辿り着いた。

 

「正式な大使館を建てられるかどうか分からない。だからここを拠点にすればいい……それと廃工場の土地を買い取った。君達がこちらの世界に来る為に乗ってきた船をそこで整備してくれ」

 

「なにもかもありがとうございます」

 

「娘と会社の両方に利益を与える事が出来たんだ。安い買い物だ」

 

 おぉ、富豪な台詞だな

 ともあれコレで生活拠点に関してグレードアップする事に成功した。3LDKで15歳以上の人間6人暮らしはなにかと精神的にキツイ。特に俺は男なので肩身が狭い……いや、今更だな。

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 

 葵が家族との感動の再会を果たして更にはジョン達に別荘等の提供から更に数日が経過した。

 

『以上が今回の大規模な侵攻における被害となっております』

 

 記者会見が行われボーダーは今回の一連の騒動を、第二の大規模侵攻について根付は説明をしていた。

 

「あのおっさん、マジでどうするつもりなのかしら?」

 

 それをテレビで見ていた小南はボソリと呟く。

 世間に秘匿にしていた事をイアドリフがバラしまくった。世間はもうボーダーに注目はしていない。無論、今回の一件で起きた被害等は注目はされるのだろうがレグリットが最後の最後で放った爆弾があまりにも大き過ぎる。

 政治関係に疎い騙されガールな小南でも越えてはならない一線を超えてしまっている事ぐらいは理解する事が出来ている。

 

「迅、あんたどうにか出来ないの?」

 

「無理だよ……幾らオレでも出来ない事はある……特に今回みたいに誰が悪くて誰が正しいのか分からない状況を作り出されて、その中で悪者を作り出さないといけない状況の中じゃな」

 

 こういう政は裏で暗躍している迅の十八番だが、今回ばかりはそうはいかない。

 なにせ秘密にしていることをバラしまくった上にボーダーに対して疑心暗鬼を抱かせたのである。

 

『今回、本部の基地が狙われた原因はなんでしょうか?狙いは訓練生だと聞いておりますが』

 

『おそらくですが緊急脱出機能で本部に帰還すると近界民は知ったのでしょう。如何な腕自慢とはいえトリガーで換装出来なければ捕らえる事は簡単ですから』

 

 そんなこんなで質問タイムに走る。

 どうしてC級が狙われたのか?どうして本部が狙われたのか?それらしい理由をでっち上げて周りを納得させている。

 

『今回の一件は訓練生のC級が狙われたと聞きます。何故訓練生のC級には緊急脱出機能が』

 

『緊急脱出機能もトリガーの一種だ!備え付けるのにも莫大な金や素材、時間が必要なんだ!湯水の如く湧いてくるとでも思っておるのか!』

 

「あのおっさん、記者会見なの分かってんの?」

 

 言っている事はまともであるが態度が思いっきり大きい鬼怒田に小南は少しだけ心配する。

 しかし言っている事はまともである。

 

『国会議事堂前に現れた近界民ですが、ボーダーと交渉をしようとしたが近界民を理由に隊員が発砲したと噂されていますが真偽のほどは』

 

『今はこの大規模な侵攻についての質問を受け付けている。それについては後で答えよう』

 

「……お、変わったな」

 

 本来の世界線であれば修を悪者に仕立て上げてエスケープする作戦だ。

 しかし今回は逃げ道を無くされており修を悪者に仕立て上げてもエスケープする事が出来ないのである。だからボーダーから意識をイアドリフに逸らすことにする。イアドリフを悪者に仕立て上げるのは不可能だがイアドリフとの間になにかがあったと囁やけば向こうは乗ってくれる。

 

 マスコミ・メディアにあること無いことを書かせるよりかは眼の前で起こり得る事実を書かれる方が幾ばくかはマシである。

 迅はコレは根付さんの仕込みである事を見抜いた。

 

「ねぇ、迅……あの葵って子以外にもこっちの人は居るのよね?」

 

「ああ……葵もそうだけど残り2人もイアドリフが拐った人だ……イアドリフも都合のいい話にしている。本人達もそれを承知の上だ」

 

「……」

 

「気に食わないか?」

 

「気に食わないわよ……でも、彼奴等は自力で帰ってきたのよね」

 

 ボーダーの手を一切借りることなく10年という歳月を掛けて日本に帰ってきた。

 小南はジョン達に対して色々と思うところがあり浮かない顔をしている。向こうの世界から自力で帰ってきたなんて聞いたことが無いのだから無理もない。

 

『ボーダーはどうやってトリガーを入手していたんですか、やはり近界民とのコンタクトが会ったのですか!』

 

『この前の訓練生であるC級隊員も騒動して動いたトリオン兵というロボットの駆除に一部のボーダー隊員が見掛けられなかったと聞いております。向こうの世界に何度も遠征しているという話は事実ですか!!』

 

「まずいわね……」

 

 小南は焦る。取材記者達が言っている事に間違いは何処にも無いのだから。

 現にボーダーは近界民とコンタクトを取っていた。現にボーダーは過去に何度も何度も遠征をしている。この前のラッドの駆除の際に太刀川達が居なかったのを調べようと思えば簡単に調べる事は出来る。

 

「大丈夫……オレのサイドエフェクトがそう言っている」

 

「ここからの逆転があるわけ?」

 

 このままだとボーダーに対してあること無いことを書かれてしまう。

 ただでさえイアドリフが爆弾を持ち込み爆発させてボーダーの株を急降下させたと言うのにここからの逆転がありえるのかと小南は疑問に思っていると……シャーリーとレグリットが現れた。

 

「彼奴等は…………なにをするつもりなの?」

 

「火消し作業だよ」

 

『はじめまして、私は皆で言うところの近界民(ネイバー)だ。向こうの世界、近界(ネイバーフッド)のイアドリフという片田舎な国からやって来たシャーリーだ……今回襲ってきた国とは無関係な国、と言っても君達からすれば人種差別レベルで近界民を敵だと思うだろう。今回の一件でそうなって当然な事をしていると理解している』

 

『今回こちらに足を運んだのはボーダーという組織に対して正式な同盟を結びにやって来た……答えられる範囲でならば幾つか質問に答えよう』

 

『水無月葵が向こうの世界でこちらの世界に関して色々と噂を聞いたと言っておりますが噂の出どころは?』

 

『真偽は不明だが、向こうの世界に関してえらく詳しい人が居た……私の予見ではおそらくは表に出てくる前のボーダーに所属していた人が向こうの世界で放浪しているのだろう』

 

 何処までが真実で何処までが仕込みなのかは分からないが、一先ずは世間の目をボーダーからイアドリフに移す事に成功した。

 レグリットが軽く爆弾を放ってくる。しかし言っている事はあながち間違いではない。現に有吾は近界を放浪していたのだから。嘘をつく時のコツは嘘の中に一部の真実を混じえる事である。

 

『つまり向こうの世界に何度か遠征しているという話は本当だと?』

 

『でなければ一部の謎が明かされないだろう……近代兵器をものともしないロボットをどうやって解析する?サンプルをどうやって入手する?』

 

「ちょ、ちょっと迅ホントに大丈夫なの?」

 

 色々と不穏な空気が流れ込んでおり小南は焦る。

 迅も真剣な目でテレビを見つめており、レグリット達から見える水無月葵が関連していない様々な未来から色々と予測する。

 

『その辺りの詳しい話に関してはボーダーに任せる……私達がここにやってきたのは同盟を結びに来た』

 

 シャーリーは自分達がやって来た理由を述べる。

 

『ボーダーに話し合いをしようとして発砲されたから日本政府に交渉しに行ったらしいですが?』

 

『その件に関しては我々の認識が甘かった……この国では50年以上の泰平の世が続いている、戦争を語り継ぐ世代は居ても戦争を実際に経験した世代は居なくなっている。そんな中で戦争が起きているのならば、被害にあったのならば誰だって激しい憎悪に身を焦がす……私達を撃った彼は市民を守る為に私達を倒した。彼は悪くはない、彼の怒りや行動は正当なものだ』

 

 だから彼は悪くはないとレグリットは主張する。

 

『では、何故今になってボーダーと同盟を?』

 

『ならば問います。数百年前ならばこの国から他所の国に行くのは命懸けの冒険で政府の一大プロジェクトでしたが、今ではどうでしょうか?犯罪履歴が無く高額ではあるもののお金さえあれば誰だって何処にでも行ける時代で、大抵の場所は踏破されています。そんな中で未知の大陸が発見されたのならばどうなりますか?未知の大陸には今まで我々にとって常識だった物とは根底が違う物で文明が築き上げられているならばどうですか?仮にこの日本という国と中国という国の間に新しい島が浮上すれば領土問題に発展します……我々の技術もそうです、下手に与え過ぎれば争いの火種になる……だからボーダーを間に置く。ボーダーはこちらの世界で唯一トリガー技術とこちらの世界の技術の両方を持ち合わせた組織でなにをしていいのか分かっている』

 

『つまりボーダーが中間監理すると?』

 

『いや、違う。ボーダーにも情報を開示する。ボーダーにも意見を求めるだけ……ボーダーもボーダーで色々とそれで利益を上げれる』

 

『利益ですか?』

 

『詳しい話はボーダーに聞いてください……この街に関わる重大な出来事です』

 

「この街って…………なにをするつもりなの?」

 

 ただでさえ街を戦場に変えてしまっているというのにコレ以上余計な事が巻き起これば流石にまずい。

 ここからボーダーにとって有益な未来はあるのかと小南は考えているとカメラはシャーリー達でなく城戸に向かった。

 

『……イアドリフと提携し、数年以上掛けて電気とトリオンと言うエネルギーを用いたハイブリットな次世代の街に三門市を作り替える』

 

 城戸の一言に記者会見の場はざわめく。

 

『それは今まで秘匿にしていた技術を公開するというわけですか!』

 

『トリガー技術を完全に公開するというわけではないが、電気や石炭などの化石燃料以外で動く扇風機や洗濯機等を作り市民に実際に使ってもらう予定だ……無論、そのトリオンというエネルギーの代金は取らない』

 

「……コレって要するに家を玉狛(うち)みたいに色々と改造するって事なの?」

 

「ああ……三門市全体を改造する。街の人達からトリオンを回収出来る様にインフラ整備をする……多分だけど、学校の身長と体重の検査でトリオン能力も計るようになると思う。千佳ちゃんの一例があるから、もしかしたら気付いてないだけでとんでもないトリオン能力を有している子が居るかもしれない」

 

 ぼんやりとだが迅には見えている。

 来年からボーダーと提携している三門第一高校の身体検査の際にトリオン能力を測定する装置を持ってきて生徒達のトリオン能力を測っているのを。

 

「……ここまでやらないとボーダーを守り切る事が出来ないのね」

 

「向こうは今まで積み上げてきた物を全てぶっ壊してきたからな……」

 

 一手でも間違えればボーダーが政府公認の民間組織の自警団から本格的な自衛隊に切り替わる。

 麟児が企てジョンが調整したボーダーを無視して日本政府に交渉を持ちかけるという作戦はボーダーが今まで積み上げてきた物を全て崩壊させる作戦だ。亀裂が走ったものはその隙間から徐々に徐々に割れていく。だったら新しい器を用意するしか無い。

 

 ボーダーと言う組織に対して世間は一気に疑いを持つだろう。今まで築き上げた信頼は一気に壊れただろう。

 1度でも道を踏み外した者が元に戻るのは容易ではない。ボーダーは今まで築き上げた信頼と信用を失いかけている。だから新しく信頼できる物を用意した。

 

『それだけではないだろう?向こうの世界に遠征する計画も企てているだろう?』

 

 ボーダーが4年間掛けて積み上げてきた物が無駄だったと言わせない為にあの手この手を費やしているがレグリットは平気な顔をして爆弾を投げる。

 

『……現在、ボーダーはイアドリフと提携して向こうの世界に関して調査しに行くことを計画中だ……過去最大のプロジェクトと言っても過言ではない』

 

『過去最大か……』

 

 それは過去にあった事を認めているんじゃないのか?とシャーリーは疑問に思い呟く。

 コレでもう誰が悪いのか誰が正しいのかわけがわからない状況を作り出す事には成功した。そして世間は真実の情報を求める。悪と正義を選り分ける事なんて最早どうでもいいと世界中が注目している。未知との遭遇はそういうものである。

 

 シャーリーは城戸の前に立った。

 カメラマン達は城戸とシャーリーにカメラを向けてシャーリーは手を差し伸べた。

 

『イアドリフという国と日本という国の同盟を結ぶ事はもう終えた事だが、ボーダーと言う組織とイアドリフという国は正式な同盟を結ぶ事は出来ていない……近界民(ネイバー)全てを敵だと認定するならば構わない。そうなって当然な事を過去にしてきた……だからこの手は弾いても構わない』

 

「…………ってぇ!出来るわけがないでしょう!!確信犯よ、あいつ!」

 

 この公の場で握手を拒めばボーダーは友好的な近界民も敵だと話し合いすらしないと言ってるも同然だ。

 友好的な近界民の存在も秘匿にしていてその近界民の存在が露呈した以上、城戸は1つの組織の長として拒む事は出来ない。仮にここで拒めばボーダーの株価は更に下がり政府がボーダーを乗っ取って城戸をクビにする。例によって詰み()の一手まで持ち込んでいる。

 

『長い付き合いになるがよろしく頼む』

 

『……ああ……』

 

 組織と個人の一感情を秤に乗せれば組織を選ぶしかない。

 この場で拒めばボーダーは完全に終わってしまうので城戸はシャーリーが差し伸べた手を握って……握手を交わした。

 

「迅……大丈夫なの?」

 

「この握手でボーダーが乗っ取られる未来は回避された。これをきっかけにボーダーに入りたいって人も増えるし、スポンサーになりたいって企業も増える……けど、城戸派にとっては完全敗北だ」

 

 近界民を徹底的に排除する派閥の城戸派の長ともいうべき城戸が向こうの世界の人間と握手を交わした。

 コレによって色々とボーダー内で反感を買うのは確実だろう……だが、そうでもしないと組織というものが動かなくなる。ボーダーを解散させろという未来は完全に回避する事が出来た……城戸派の完全敗北と引き換えにだ。

 

「視えなかったの、この未来を?」

 

「記者会見をするのは確定だった。だから、そこは根付さん達に任せる方針だ……オレは神様でもなんでもない。進める線路を切り替える事は出来るけども限界があるよ」

 

 もっといい未来がなかったのか小南は尋ねるが、今回の一件は完全に迅は出し抜かれた。

 記者会見はするのは確定、出し抜かれたのは予想外だが今向かっている未来の中で最善の未来に向かっている。

 

「……他にも居るのよね?」

 

「ああ……ジョンは紛れもなくこっちの世界の人間だ……けどっ……」

 

「けど?」

 

「……もう一人居るけど未だに姿を現さないけども、近い内に会うことになる未来は視えてるよ……多分、向こうはオレの力を欲している。遊真の情報が正しかったらその子は日本人じゃない、唐沢さんとオレの予知をフルに使って家族との再会を果たして日本で暮らせる様にするつもりだ……」

 

 迅は言えなかった。

 知らなかった気付かなかったとはいえ10年掛けて帰ってきたジョンを近界民扱いした事を。

 既に諦めてしまっているが本当は心の何処かで助けてほしいと思っている……でも、助けることは出来なかった。こっちの世界に自力で帰ってきた。自身を人殺しの近界民もどきと言った、言わせてしまった。

 

 自分に視えるのは未来だけだ。並行世界は見えない。

 でも、でももし拐われなかったらきっと自分達と一緒に笑い合いながら過ごしている。

 嵐山の様に顔になれるわけじゃない、柿崎の様に上に登りたいけど停滞しているわけでもない、弓場の様に先陣を切るわけでもない、生駒の様に面白いわけでもない、縁の下の力持ちになるだろう。

 

 今までだって迅は多くの人を見捨てた、トロッコ問題に挑んで救えなかった命は大勢居る。

 今更1人ぐらいはどうだっていい……なんて思うほど迅は壊れてはいない。1人で背負い込んでしまうものの、迅はまだ壊れてはいない。

 だからジョンを酷く気にしている。自分達が成果を上げる事が出来なかった末路の1人だと思っている。

 

「……まだ消えないか」

 

 迅にはまだ視えている。ジョンが見知らぬ誰かにぶん殴られてしまう未来が。




頑張ったらなんか1万越えたよ。
記者会見、修の乱入は無いです。城戸派の完全敗北です。
感想お待ちしております

今後の展開

  • そろそろ原作にいけ
  • もう少しオリジナルをやれ。
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