近界プルルン奮闘記   作:ドドドドド黒龍剣

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サブタイトルをつけるならば【その一言はまだ言えない】


第66話

 

「イアドリフが悪か善か分からない、敵か味方か分からない状況を作り上げた……だが、私の個人的な主観では玄界(ミデン)にとって我々は悪だろう。この日本と言う国は50年以上も戦争とは無縁な泰平の世を築き上げてきた。幕末と呼ばれる時代や大正や昭和初期に日本と言う国が他国に乗っ取られる危険性もあった……先人達が多くの犠牲を払ってまで築き上げてきた物を全て壊した」

 

「なんだ?自分達が悪かったと今更罪悪感でも抱いているのか?」

 

 リーナを家族に会わせる算段がついた帰路、トリオン体で見た目を偽装しているシャーリーは重たく口を開いた。

 今になって自分が悪だと認識しているならば今更で、もう遅いとしか言いようがない。

 

「いや、過去を振り返っていただけに過ぎない……私は王族で外交を担当している。普通の人が背負わないであろう業も背負う覚悟は出来ている」

 

「その割には重苦しい口取りね」

 

「……もっと早くに生まれていたら、ルミエよりも賢かったら……君達を」

 

「それは言うな……あんた達に対して憎しみや憎悪は抱いているわ。戻したいって思う時間もあるわ……けど、無理なものは無理なのよ。あのクズならばこう言うわ。『必要な犠牲だ』って」

 

 ルミエの屑ならば確実に言いそうな事をリーナはハッキリと言った。

 必要な犠牲……犠牲という物自体を代価に求める世界を間違っているとシャーリーは思っているのか険しい顔をしている。

 

「私達はイアドリフを豊かにさせる為の必要な犠牲よ……あんたが今まで食べた動物の肉や魚だって1つの命だけどあんたが生きる為に奪った……コレと私達がなにが違うの?会話が出来るから?心を持っているから?人間だから?……あんたのそれは同情じゃない、ただのエゴよ」

 

「……私は本当にダメな女だな……此処に来るのも此処に来てからもお前達の世話になりっぱなしだ」

 

「それは違います……ルミエがあのまま生きていたのならばもっと酷い事になっていた。ボーダーという組織を解体させるぐらいには追い込む。一般民衆を味方に取り付ける。外国にトリガー技術を売り渡す……貴女が見せた優しさで今がある……甘さと優しさは違う。それを貴女は理解する事が出来ている」

 

 リーナの言葉で更に落ち込むシャーリーをレグリットはフォローする。

 ルミエならば日本以外を口説き落とそうとする。ボーダーと提携する道を選ばずに独自の路線に突っ走る……そう考えればシャーリーが下した判断はマシな方だろう。日本と同盟を結んだ。ボーダーと同盟を結んだ。後はイアドリフの発展の為に頑張るだけだ。

 

「後はこの国の王に会うだけか」

 

 今後のスケジュールをシャーリーは確認する。

 ボーダーのトップと握手を交わした。日本のトップとも言える総理大臣と握手を交わした。しかしまだ天皇陛下とは握手を交わしていない。

 日本と言う国と同盟を結ぶ為、仲良くしましょうの握手を公の場で交わせば大体終わる。何処かの国の首相やら大統領やらがイアドリフと同盟を結びたいと何時言い出してもおかしくはないだろうが、その辺りについては俺の管轄外だ。トリガー技術を用いた第三次世界大戦が勃発したとしても俺は責任を取らない。俺の仕事は道先案内人だ。俺は全と個ならば個を選ぶ。見知らぬ誰かを助けたいと思うほど善人じゃない。

 

「……俺とリーナと葵を踏み台にして高みを目指せ……迅からか」

 

 犠牲を支払ったのならば、それ相応の代価を頂かないといけない。俺達はもう覚悟は出来ているからそれでいい。

 シャーリー達に色々と言いたいこともあるがその前にと迅からメッセージが入る。

 

「…………」

 

「なにが来たんだ?」

 

「準備が出来たみたいだ」

 

 なんのとは言わないが準備は出来たとの連絡があった。

 シャーリー達はなんの準備なのか分かっているので険しい顔をしている。

 

「……私も、その場に」

 

「それはなりません。貴女には貴女の仕事がある……どうあがいても私達を敵と認定するのは確か……傷付くのは、汚れるのは私に任せてください」

 

「お前等くだらない事を言うならば無駄にデカい乳揉むぞ……お前等の仕事は別にある。恨みや憎しみを一手になって引き受ける前にやるべきことをやれ」

 

 シャーリーとレグリットはコレに同行しようかと考える。

 しかしシャーリー達はまだ忙しい、最後の仕事である天皇陛下との会合を残している。それさえ終われば完全にイアドリフが日本で根付く事が出来る……公の場での行為でここでボーダー側が邪魔が入ったらどうなるんだろう……まぁ、流石にそれをすればボーダーと言う組織が終わりを迎える。ボーダーもボーダーでギリギリのラインを渡り歩いている。天皇陛下との会合の際に銃撃事件なんて起こしたら歴史の教科書に載るレベルの大惨事だ。

 

 誰かが汚れる役を演じなければならないと思っているだろうが、そんな事をしなくても俺はとっくの昔に汚れている。

 シャーリー達は色々と言いたそうだったが、シャーリーとレグリットもやらなきゃいけない事がある為にそこには同伴する事は出来ない。新幹線に揺られて富士山などを眺めた後に東京に戻り、葵の別荘に戻った。

 

「三門市の拠点となるビルを購入したそうです」

 

「ビル購入って……」

 

「コレからの事を考えれば安すぎる買い物です……此処に居れば他の人達にも迷惑がかかります。ボーダーと同盟と提携をするので今度からは三門市を拠点にします……ただし遠征艇は工場に置いておきます」

 

 葵がサラリととんでもない事を語る。

 ビルを購入した、葵の家がとてつもないお金持ちなのは知っているがビルを購入したとサラリと言うとは俺とは縁遠い世界の住人だと思い知らされる。

 

「あっちこっちに拠点を置いたりして大丈夫なの?お金とか」

 

「お金の心配はしないでください。トリガー技術を用いた家電等を欲しいと言うスポンサーはごまんと居ます……ルルベット、貴女は私の護衛をお願いします」

 

 色々とやり始めたので問題は出てきていないのかと気にするルルベット。

 葵はコレぐらいは初期費用として当然のもので痛くも痒くもないと言い切る。俺はその事に関しては深く気にしない。

 

「ボーダーと提携するって言うけど、具体的にはなにをするわけ?ぶっちゃけボーダーに全部丸投げしても問題無いでしょ」

 

「兵の質を向上させる……幸いにも俺のトリガーはボーダーのトリガーと類似している……既に十二分に強い奴を上に上げるのは無理でも下で燻ってる奴を上に上げることぐらいは俺にも出来る。まぁ、近界民(ネイバー)の力なんて借りないって子も居るだろう」

 

「…………あたしだけ…………」

 

「今回の遠征は暴力でなく和平を求めるもので殆ど成功している……ルルベットは葵の護衛だ」

 

 この遠征で自分だけ全くと言って役立っていない事を気にするルルベット。

 エンジニアとして知識があるわけでも優れた指揮能力を持っているわけでもない、物凄く強いかどうか聞かれればそうでもない。ボーダーで言うところのマスタークラスレベルの実力者ではあるが、そこまでだ。

 

「……あたしに出来る事は無いの?」

 

「俺はお前を売るほど外道になりきれない…………葵達にも見せたくない一面もある………………」

 

「その言い振りだとあるのね。あたしにも出来ることが」

 

「無いよ。くだらない事を考えてるなら無駄にデカい乳を揉むぞ」

 

「……別に、あんたならいいわよ……」

 

「そういう自分を大事にしない発言は止めろ。将来の為に取っておけ…………」

 

 大丈夫おっぱい揉む?って言われたら揉むけども。

 

 

 ※

 

 

 

「結局こうなるんだな」

 

 1月31日、明日からランク戦が行なわれる。

 俺はと言えばとある県のとある市の市役所の一室にいた。

 

「……私達は見届けないといけないからね」

 

 今頃はシャーリーとレグリットは天皇陛下と会合を果たしている。

 色々と小難しい話をするが最終的には仲良くしましょうの握手を交わすだろう……俺一人でいいんだ、俺一人でいいのに色々と余計なのが、リーナと葵とルルベットが付いてきた。

 

「流石に無いと思うけど、お前が裏で余計な事はしてないだろうな?」

 

「いくらなんでもそんな事はしないよ……オレが此処に付き添っているのはオレの自己満足、自分勝手なエゴだ」

 

 本音を言えば居てほしくない迅もこの場にいる。

 迅が居るのはただの自己満足の為……迅から見えるラプラスの悪魔が揺らいでいないという事は嘘ではない、迅は自分のエゴの為にここにいる……という事はハッピーエンドは迎えないんだろうな。

 

「お前は余計な口出しをするな。ボーダーの人間……そこから先に踏み込むのならば、俺は潰す」

 

「ああ、約束する。オレは見届けるだけだ……例えどんな未来でも、ジョンは全て覚悟を決めた。コレはメガネ君達にはまだ見せちゃいけない。何時かは通らないといけない道だけど」

 

 ホントにロクでもない男だ……グランドクソ野郎とは言わないけど、厄介な存在だ。

 とはいえ葵がこの場に居てくれたからありがたい。葵はサイドエフェクトが効かないサイドエフェクトの持ち主だから今から葵が関与する未来は視えない筈だ。

 

 俺はトリガーを起動してケビンマスクの仮面を付ける。

 

「失礼するよ」

 

「!」

 

 トリガーを起動して待っていると部屋に3人の大人の男性が入ってくる。

 

「Japanese mafia, yakuza?」

 

「あ〜お嬢さん、そういう風に見えるかもしれないけれど違うからね」

 

 3人の見た目は厳つかった。

 リーナはその見た目から思わずヤクザを連想するが、1番若くて厳つくない見た目の男性が違うと否定をしている。

 

「私は大学で歴史関係の教授を務めている……最近は神智学と戦史にハマっててね。特に異世界から人間という資源を求めてやって来ている近界民(ネイバー)や近界民の持つ電気や石油等の化石燃料以外を動力源に動く技術は興味津々だよ」

 

「おいおい、戦争仕掛けてくる馬鹿野郎に興味を抱くのかよ?」

 

 1番厳つくない見た目の男性が近界民に関して友好的だと見せれば色黒の男性が呆れていた。

 

「日本と言う国が戦争から縁遠くなっただけで現に今でもこちらの世界でも紛争地域と呼ばれる場所は存在している……ただ不運にも日本が標的になってしまった。そう考えて割り切らないといけない。とはいえ今の時代で戦争を知ってしまう世代が生まれて憎悪の念に身を焦がし……それを利用するのは少々許せないがね」

 

「ガキの方が利用しやすいからかは知らねえがガキを採用するって事ぁ大人の責任は相当に重大なもんだ……今回の一件は一杯食わされたってところかね」

 

 色黒の男性は迅を強く睨みつける。

 ボーダーは子供が多い組織だから大人がちゃんとしっかりとしないといけない。三輪の憎悪を利用した例の動画の一件を2人は知っているのでその件に関して色々と思っているんだろう。

 

「いや〜アレは全面的に今まで放置していたボーダーの全責任ですよ。少年に非はありません」

 

「誰が悪か決める上での場でガキを生贄にしたら組織はおしめえよ……それで、ボーダーと近界民がなんの用事だ?」

 

「気付いてたんですか?」

 

「驚くことはねえ。こんなん誰でも分かることだ……過去にこの街に1度だけボーダーのスカウトがやって来たがそれ以外はボーダーに関して関わり合いは全くと言ってねえ街だ。ここは神戸や名古屋なんかの日本を代表する街でもなんでもねえ……まさかとは思うが三門市の次にこの街を弄るって魂胆(ハラ)じゃねえだろうな?」

 

 鋭い眼光で俺達を睨んでくる色黒の男性。

 近界民を敵とみなしている、と言うよりは平穏な日常を脅かそうとするならばぶん殴ると言ったところだろうな。

 

「次に弄る街は何処か決めてないよ……長次郎おじさん」

 

 色黒の男性……親戚の長次郎おじさんにこの街を弄るつもりは無いことを言えば長次郎おじさんは目を見開く。

 迅に視線を向けるのだが迅は表情1つ変えない。俺に鋭く睨みと威圧感を与えてくる。

 

「会見の場を望んだのはそちら側だ。近界民と言えども同じ人間ならば顔を見せないというのは失礼な筈だ」

 

 そして最後のヤクザ顔の男が顔を見せろと言う。

 長次郎おじさんは俺に対して警戒をする。ヤクザ顔の男は素顔を見せろという。

 

「まぁまぁ、兄さん落ち着いて……ケビンマスクのマスクはロビン王朝(ダイナスティ)のルールで素顔を見られれば石を持って王家を追われると言われている」

 

「詳しいんだね、秋雨おじさん」

 

「…………そこの彼女がケビンマスクの仮面を付けていたからキン肉マンの売上が上がったのだよ。ゆでたまご先生もどうぞ使ってくださいと言ってるしね」

 

 一番厳つくない見た目のおじさん……叔父である秋雨おじさんはピタリと空気が止まったかの様に黙った。

 しかし直ぐになにかを悟ったかの様にキン肉マンの事を教えてくれる。

 

「……トリガー、オフ」

 

「っ……」

 

「おめえ……っ……」

 

 秋雨おじさんと長次郎おじさんはトリガーをオフにして生身の肉体に戻った俺を見て驚く。

 秋雨おじさんは表情を変えないが精神は揺らいでいるのは闘志から分かる。長次郎おじさんは表情を変えているから分かりやすい。

 

「…………」

 

 一番ヤクザな顔の男は眉を動かしたが直ぐにジッと俺を見つめてくる。

 リーナや葵、ルルベットに対して視線を向けていたはずだったが今では俺にだけ凝視している。俺は懐に手を入れて肌見放さず持っていた懐中時計を取り出した。

 

「この時計は……(オレ)が誕生日プレゼントにって取り寄せた……」

 

「ああ……カッコいいから憧れて欲しいって長次郎おじさんに頼んだ少し高目な写真を入れる事が出来るアンティークな懐中時計だ」

 

 パカリと懐中時計の蓋を開ける。

 懐中時計側にはアラビア数字でなくローマ数字が刻まれた時計があった。もう片方には……5人の家族写真が入っていた。

 長次郎おじさんと秋雨おじさんは写真を見る。写真と俺を見比べる……最後のヤクザみたいな顔をしている男は写真を1度だけ見た後に俺を睨みつけてくる。

 

「やはり嘘だったか……いや、まだ居たと言った方が正しいのか……そこにいる水無月葵はイアドリフに救われたんじゃない、イアドリフに拐われたのだろう?」

 

「……」

 

「隠さなくてもいい、都合のいい悲劇のヒロインを作り上げた方が互いの国に利益がある……なによりも彼女が家に帰る事が出来る……感情論と利益の損得勘定の両方で有益な事だろう……君達全員か?」

 

「違うわ。あたしは向こうの世界の人間、近界民(ネイバー)よ」

 

「つまりそこの金髪の嬢ちゃんはこっちの世界の住人……くっそややこしい事になるな」

 

 秋雨おじさんが色々と空気を呼んでくれた。

 司法取引や悲劇のヒロインの方がなにかと都合がいいと秋雨おじさんは納得し、長次郎おじさんはリーナを見つめる。日本人が拐われたのならば都合のいいヒロインに出来るが、そうでないならばややこしい立ち位置である。

 

「……」

 

「……」

 

「ちょ、ちょっとさっきから無言で睨み合った状況じゃない……なにか一言ぐらいないわけ?」

 

「……なにを言えばいいんですかね?」

 

 1番厳つい顔の男と俺は睨み合う。

 なにか言葉を交わすわけでも行動をするわけでもない。ただただ無言で睨み合う。俺は頭を無想状態に切り替えようとするが出来ない……人の生き死にに左右されない様に心を乱さない特訓を重ねた筈なのに頭のスイッチが切り替わらない。

 リーナと葵はここからなにかあるんじゃないかと思っているが中々に発展しない。

 

「……ボーダーは言っていた。過去に神隠しの様に居なくなってしまった行方不明者の中には近界民(ネイバー)に拐われたかもしれないと……迅くん、君はボーダー隊員だな。嘘偽り無く答えてくれ……君達が見つけたのか?」

 

「いえ……自力で帰ってきました」

 

 ようやく重い口が開いたかと思えば迅に対して男は問いかける。

 ここでボーダーが見つけて連れ帰って来たという嘘を迅は言わない。最初に言った通り自分勝手な自己満足のエゴの為にここにいる。仮にくだらない嘘をつこうものならばトリオン体に換装してぶっ倒していた。

 

「……変わらないな」

 

 写真と男を見比べても何一つ変わっていない。

 変わっていないのはこの人だが変わってしまったのは俺の方…………なにもかもだ。

 

「信じてくれって言っても疑うよな。費用はこっちで持つからDNA鑑定をしてくれよ」

 

「大丈夫だよ、半分一致する結果(未来)は視えてる」

 

 いきなりの事で色々と頭が追いつかないのは無理もない。

 だから順序良く、幾つかの手順を踏んでからしようと思ったが迅には未来が、結果が視えている…………。

 

「……今更だよな。俺の事を」

 

 なにを言い出せばいいのかが分からなかった。

 胸の中でドギマギしているのでなんでもいいから言葉を出そうとすると男は……父さんは俺を思いっきりぶん殴った

 

「何故だ…………何故あの子の様に『ただいま』と言わない!!」

 

「ああ…………こうなってたのか…………」

 

 迅には俺がぶん殴られる未来が視えていたんだろう。

 俺がぶん殴られる姿を見て迅だけが驚かず、迅だけが1人悲しそうな顔で納得していた。




尚、長次郎おじさんの見た目は泥水次郎長似である。
海外の骨董品とかアンティークを扱っている古美術商している人である。
感想お待ちしております

今後の展開

  • そろそろ原作にいけ
  • もう少しオリジナルをやれ。
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