ウマ娘 紅の軌跡If もし物語開始前から三人が迫っていたら 作:小鳥遊 小佳夏
シンボリルドルフは以前は生徒会会長として様々取り仕切っていたが、クレナイがチームを開設するのと同時に生徒会を引退すると表明していた。以前からルドルフがいなくても生徒会が回るように分担をしてきたルドルフだったが、彼女の手腕を引き継げるものはおらず、どうしてもエアグルーヴ以下残存メンバーでは対処しきれない事案が発生することがあり、未だに会長職に残留。基本はエアグルーヴとナリタブライアンが仕事をこなし、どうしても対応できないときのみ会長として手腕を振るう顧問というのが適切な役回りになっていた。
今日はそんな会長としての手腕を振るう日。そんなときにクレナイはルドルフに連れられ、一緒に生徒会室にて仕事をこなしていた。毎回生徒会メンバーではない私が仕事していいのかと思うのだけども、ルドルフ曰く。
「レイだから何も問題はないさ」
とのことである。
「(仕事するのはいいけど、あんまり私の性に合わないのよねぇ)」
そんなことを考えつつ、目の前の仕事を片付け、ちらりとルドルフを見る。彼女は机に積まれた書類に目を向けて集中している。
よし、私の仕事は終わった。ここから逃げよう。とそろーりと席を立ち扉へ向かおうとルドルフに背を向けたその時、ルドルフから声がかかる。
「レイ、わかっているぞ」
「やっぱりルドルフからは逃げられないのね・・・」
舌打ちをし、ため息をついて席に戻ると、ルドルフが不満そうな表情をこちらに向けていた。
「ルドルフなんて他人行儀な呼び方はやめてくれ。昔のようにルナと呼んでくれといつも言っているだろう」
そう、私はシンボリルドルフとは幼馴染である。昔は一緒に遊ぶこともあり、互いにルナ、レイと幼名で呼び合っていた。トレセン学園に入ってからはルドルフ、クレナイと呼んでいたが、ある時を境にルドルフが幼名で呼び合おうと言ってきたのだった。
「はいはい、ルナ」
私が投げやりにそう呼ぶと、満足そうな笑みを浮かべ、また書類に目を落とす。
「あ、ルドルフ。この書類なんだけど」
私が一つ聞こうとしていたことがあったのを思い出し、ルドルフに問いかけると、今度は目も上げずに一言返してきた。
「ルナ」
ルナと呼べということなのだろう。
「ルドルフ」
「ルナ」
「・・・ドルフ」
「ルナ」
何と呼んでもルナとしか返さない。私はため息をついて、「ルナ」と呼びかけると、ようやく顔をあげた。
「なんだ、レイ」
「この書類のここ、なんか違和感を感じるのだけど」
それは学園の経理に関する書類だった。何回か見ていたからわかるのだが、ある品目の単価になんとなく違和感を感じる。
「ふむ・・・確かにな。まあレイのいうことだからもし私が違和感を感じなかったとしても何か変なんだろう。あとでエアグルーヴに調査させる」
いや何よその謎の信頼は。
まあとにもかくにもこれで私の仕事は完全におしまい。応接用のソファーに座り、おいてある紅茶セットから自分の分を入れて一服する。
「なんだ、私には入れてくれないのか?」
「自分で入れればいいじゃないの」
「私はレイの紅茶が飲みたいんだ」
「はぁ・・・わかったわよ。入れてあげるから早く終わらせちゃいなさい」
そうしたら間違いなくルドルフの書類裁きのスピードが上がった。そこまでして早くほしいのね・・・。
半ば呆れつつ彼女の分の紅茶を入れて待っていると、私の隣に一気に書類を片付けたルドルフが座った。
「はい、紅茶。残念ながら私の血も唾液も入ってないわよ」
「むぅ、入れてくれてもいいんだがな」
・・・。ジョークのつもりだったのだが、まさかの肯定で返されてしまった。皇帝が肯定・・・いや、これ以上は言うまい。
すると唐突にルドルフが私の耳に近づいてきて囁いた。
「まあ私としては、君の何かを入れて飲んでみたい気持ちも強いが」
と言ってそのまま耳にハムっと甘噛みしてくる。
「っ!?!?!?」
ぞっくぅぅぅううと体がと耳と尻尾が震える。そのままあむあむとしてくる会長を突き飛ばし、ソファーの端っこまで逃げる。
「な、なんばしよっと!?」
驚きすぎて博多弁が出た。いや私はそっちの方には一切行ったことが無いのだが。
「いやなに、おいしそうだったから、ついな」
「ついじゃない! ついじゃ!」
そうしていると、生徒会室の扉が開く。
「会長、戻りまし・・・って会長。この部屋をそういう用途に使うのはおやめくださいと常々・・・」
入ってきたのはエアグルーヴ。私とルドルフの位置関係を見て、またルドルフのが私に何かしたと察したらしい。
そう、"また"の言葉の通り、私はちょくちょくこういうスキンシップを仕掛けられている。じゃあなんで生徒会室に来るかって? 来るときは手をつないで連行されてくるし、逃げようとしても逃げられないから。一度本気で逃げようとしたら、足首と椅子の足を手錠で繋がれた。まあ、うん。そういうことよ。
「別にこれくらいいつもやってることのはずなんだがな。毎回そう驚かなくても」
「いつも"あなたから一方的に"やってくることよね。ほんとやめてって言っても止まらないだろうから言わないけど、突然はやめてくれると助かるわ」
そう返し、ようやく落ち着いたのでソファーに戻る。そう返したとこでまた突然やるんでしょうけど。
そこからはエアグルーヴ、更に戻って来たナリタブライアンも混ぜてのお茶会となった。だいたい生徒会の手伝いをする日はこんな感じで過ごしている。
ちなみに例の書類の違和感だが、調べたら理事の一人が予算をちょろまかそうとしていたことが発覚。ルドルフに
「やっぱりレイはすごいな」
と感心された。