ウマ娘 紅の軌跡If もし物語開始前から三人が迫っていたら   作:小鳥遊 小佳夏

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クレナイの心と、それを埋める心

「・・・ここは・・・」

うっすら目を開けると、知らない天井が見えた。左右に首を振ると、白いカーテンが見える。両手足が動かない。

「あ、そっか、私、有馬で・・・」

少しすると、最後に見えた記憶がよみがえった。有馬のラストスパート。何かにとられた右足。そのまま芝にたたきつけられる記憶。衝撃。私は転倒して、病院に担ぎ込まれた、というところなのだろう。

「ダメだ・・・眠い・・・」

意識が戻ったのもつかの間。すぐに睡魔に襲われた私は、また目を閉じて静かに眠るのだった。

 

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「結論を言うと、命が助かって何より、というところでしょうな」

「そう・・・ですか・・・」

しばらくして、安定して意識を取り戻せるようになった私。現在の病状を聞くと、両足と左手複雑骨折。右手単純骨折。内臓破裂やらのダメージ多数。他、体の各部骨折座礁筋肉損傷擦傷出血etcetc。まあまず生きててよかったねというレベルの大けがをしたようだ。

まあそりゃ、あれだけのスピードで転んだらそうもなるだろうけど。

「また走れるようになりますか?」

「なんとも言えないですね。まず歩けるようになるかもわからない。よしんば歩けるようになったとして、走れるかはあなたのリハビリと努力次第といったところでしょうな」

「わかりました、ありがとうございます」

それを聞いた私の心には、ぽっかりと大きな穴が開いていた。

 

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それから少しして、私の右手が動かせるようになったころ、いろんなウマ娘達がお見舞いに来てくれた。ウマ娘以外の一般のファンも、たくさんの見舞いの品や手紙や千羽鶴なんかを送ってくれた。多すぎて保管なんかに困るくらい。

んで、ウマ娘のみんなはお見舞いの品を持ってきてくれるのはありがたいんだけど。ありがたいんだけど!!! オグリとスペ、あんたらは量ってもんを考えんかい! 何を思ってフルーツ1箱ずつ持ってくるかなぁ!? もうたくさんあるのに食べきれるわけがないだろうに。

まあそんなトラブルもありつつ治療に専念していると、少しずつではあるが体に回復の兆しが見えてきた。

そんなある日、私はルドルフたち三人を呼んだ。

 

「来てくれてありがとう、ルナ、スズカ、テイオー」

「いや、構わない。それよりも今日はどうした」

ルドルフを中心に、三人は私のベッドわきの丸椅子に座る。私はそれを見て、ぽつぽつとしゃべりだした。

「私のこれからについて。あなたたちにだけは相談ができる。

まず私の体だけど、私の見立てで行くと、歩けるようにはなると思う。でも、また走れるかはわからない。よしんば走れるようになたっとしても、勝てるかがわからない。この長い治療生活の間で、筋肉は完全に衰えた」

三人、静かに聞いてくれる。

「私があれだけ走ることにのめりこんだのは、勝ちたいから。負けるとすごく悔しい。なんなら死にたくなるほど悔しい。だから勝つことに専念してきた。誰よりも体を鍛え、勝てるように専念してきた。幸いにも体はこのトレーニングについてこれた。タキオンとは違い、どこまで追い込んでも壊れない体だった。

みんなに指導をしていたのも、それを生かして自分のトレーニングにつなげたいから。早くなるためなら、実験しようが何をしようが、何でもやった。

でも、これではまた1からのトレーニングだ。それに一度壊れた体だもの。どれだけ修復しようと、一度壊れると次も壊れやすい。そんな体でどこまでいけるかわからない。もし勝てないなら、それで絶望するくらいなら、もう走りたくはない」

「そうであれば、トレーナーになるのはどうだろうか。以前話もしたように、トレーナーの枠なら空いている。君の知識であればトレーナーになっても事欠かないだろうし、元から君の指導には人気がある。悪い選択肢ではないはずだ」

ルドルフがそう提案してくる。確かにそれは、元々私に用意されている、というそれも期待されている道だ。

「ええ、それはその通りなのだけども、今はまだ、それも選びたくはないかしらね」

「それはまたどうしてか、聞かせてくれるだろうか」

「私、嫉妬深いから。自分が走れないのに誰かの走りを見ていると、絶対自分も走りたくなって、動けない体を憎むと思う。もっと長年走れば納得できるかもしれないけど、今はまだ無理。それこそ自傷くらいならしてもおかしくない。実際、今もしたいけど体が動かないし、それにまだ自分の体に見切りをつけたわけでもないから、なんとかなってるの。

だから、もしは知らない道を行くとしたら、ウマ娘とは関係ない道になると思う」

「そうか・・・」

「でもね、私は今まで走ることしか考えてこなかった。そんな私が今更他の道に歩めそうな気はしない。そもそも年齢的に、今からほかの学校に行けるのかもわからない。社会になじめるのか、集団生活ができるのかもわからない。とても、不安しか感じない。

とれる道がここまで何もないとなると・・・命を絶つことも考えている」

そこまで言った後に三人の顔を見ると、みんな一斉にため息をついた。

「まあ君なら言ってもおかしくはないと思ったが・・・」

「まさか本当に言うなんて・・・」

「そうだね、これはちょーっとお話が必要かもね」

そして一斉に立ち上がり、右腕を三人で掴んでくる。

「まずこれだけははっきりと言っておくが、私は君が死ぬことを絶対に許さない」

「私も、もし先に死んじゃったら、後を追いかけるわ」

「そうだね、ボクも死ぬときはクレナイと一緒がいいな」

「え、あの、みんな・・・?」

それから三人は目を合わせ、一緒にこう言った。

「「「私は(ボクは)、クレナイ(レイ)のことが好きだから」」」

「だから絶対に死ぬことは許さない」

「もしあなたが学園をやめるというのならそれについていくわ」

「もし復帰したいというのなら、ボクたちが全力で面倒を診るし、トレーニングにも付き合う」

「「「だから、死ぬなんて絶対に言わないで」」」

それに対し、うんと言えない私だったが、言わなくてもこの三人が絶対に阻止してくるだろう。

そう思うと、愛されているなとか、愛が重いなとか、なんかいろいろ考えてしまう私であった。


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