ミサトさんを好きになってしまったシンジ君のお話   作:井上ああああ

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動物園で脱走したトラからリツコと猫をミサトが助ける話

赤木リツコ、その日は休日であった。

普段は冷静沈着な科学者・技術者としてふるまっている彼女には意外な一面があった。

 

 

「動物園に行きましょう。」

 

 

彼女は車を走らせ、第三新東京市から離れた動物園に来た。

ここが彼女にとって数少ない娯楽といえる場所であった。

リツコは猫ばかりが集められた場所にくるのが溜まらないストレス解消につながるのであった。

そんなリツコの足元にアメリカンショートヘアがやってきた。

 

 

「にゃ」

 

「か、かわいいいっ~~~~~~~!!!」

 

 

リツコは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。

周囲の人間が見ているが、知ったことではない。

今、必要とされているのは科学者としての自分でも女としての自分でもない。

猫好きの自分だ。

必要とされるものにならなくてもいい。

自分が自分でいられる。

 

 

 

「うーん、たまんないわっ!もうっ!」

 

リツコの足元に別の黒い猫が近づいた。

もうリツコは歓喜で打ち震えそうになっていた。

 

 

「あー持って帰りたい気分だけど、ダメなのよねえ…。」

 

リツコは看板をみた。

そこには『お持ち帰り禁止』の札がたってあった。

 

「まあ、当たり前よねえ…。」

 

そういえばミサトは実験動物であった温泉ペンギンを勝手に飼ったことがある。

本当なら規則違反かもしれないが、リツコは大目に見た。

ミサトが友人だからだけではない。

 

それがペンギンにとっても幸せだからだ。

 

動物実験、リツコは胸が張り裂けるような気分になった。

複数の動物を利用しては死に追い込んだ。

少数の犠牲で大多数は発展する、それが世界のルール。

 

 

普段は論理・理屈の世界で生きている彼女もこればかりは慣れないものがあった。

 

それに比べて今はエヴァを自由に開発できている。

楽な仕事につけただけでもありがたいものだ。

とはいえ、10代の子供に無理矢理エヴァに乗せて戦わせている。

 

結果的に対象が動物から人間に変わっただけの話でしかない。

 

 

今でもミサトの家に行くとペンギンがくることがある。

せめてもの罪滅ぼし、リツコはそのペンギンであるペンペンを甘やかすことにしていた。

 

「あなたたちもいつかきっと、幸せになれる日がくるのよ。」

 

足元にいた猫たちを撫でながらリツコはふといった。

 

 

「リツコだって幸せになれる日はくるわよ。」

 

 

リツコは顔を青ざめた。

げっ、この声…葛城ミサト。

 

同僚で親友だが、ある意味では好敵手・ライバルであるミサトだ。

最近、ミサトとリツコの関係はぎくしゃくしていた。

つい最近、レリエルに攫われたシンジの是非をめぐって自爆を決めたリツコとシンジの保護を主張したミサトとの間で諍いがあった。

 

リツコはゆっくり振り返った。

いつもの制服ではない、私服をきていた。

タンクトップとジーンズというラフな格好だった。

 

 

「な、なんであんたがここにいるのよ!」

 

「え?ペンペンの健康診断。いつもこの近くでやってるの。今日は報告書をもらいに来ただけでペンペンはいないけどね。」

 

「ここにはペンギンもいたのね。」

 

「そうだ、リツコ…ずっと言えなかったけどさ。」

 

 

ミサトは照れながら手を前につけて言った。

 

 

「前はぶって、ごめんね。」

 

 

あの時のこと、感情的になったミサトがリツコを殴打したこと。

気にしてないと言えばうそになる。

 

 

「いいのよ。過ぎたことじゃない。」

 

 

リツコは嘘をついた。

今でも少し痛くなる。

体ではなく心の痛みだ。

ミサトの前でシンジを犠牲にするという決断をしてしまったことが。

リツコもなるべくはシンジを助けたい。

何の感情もないわけがない。

14歳の少年だ。

 

 

「あなた、シンジ君のことだけど…。」

 

リツコは声に出した。

 

「やっぱ、好きなのね。」

 

「悪い?」

 

即答だった。

 

「相手は未成年よ。」

 

「好きになった相手が未成年、確かにおかしいことね。でもわかってるわよ。自分が異常だって。ヘンタイよね。」

 

ミサトの目は真剣だった。

彼女は頑固なところがある、言い出したら聞かない。

だから軍人として成功した。

ただ、彼女の考える作戦は正直作戦とはいえない。

彼女は作戦を考えるより、体を動かす方が向いている。

 

「なら、彼が大人になるまでそばにいたらいいじゃない。そこまでやるなら文句は言わないわよ。流石に『手』を出したらどうなるか覚悟してもらえれば…。」

 

「まるであの子の母親気分ね、リツコったら。」

 

「悪い?」

 

リツコはミサトの言葉を返した。

ミサトは母親としては情けない、女としてあの無邪気な少年の愛に答えようとしているのだろう。

それはある意味で正解ではないか、とリツコは思っている。

 

 

「私は、あの子の母親になれないわ。どうしても…。でも…。」

 

作戦課長は自身の腕をつかんだ。

その表情は弱弱しくみえた。

ミサトのいいたいことがわかった。

母親になれない、なら恋人にということか。

 

「自分でもわかってるならいいじゃない、家族イコール親子ではないのよ。ミサト、あなたとシンジ君にはもっと複雑なものができる。それを依存というなら依存でもいいじゃない。彼がエヴァに乗ってくれるんだもの。」

 

 

エヴァに乗ってくれればいい。

リツコは自分の言った言葉の冷たさに愕然としていた。

表向きは道具として、あの子たちをみている。

でも、割り切れるものではない。

本音ではシンジ君にも、アスカにも、レイにもそれぞれの幸せを探してほしい。

 

 

「シンジ君がそれがいいというなら、それでいいと思うわよ。ミサト。」

 

 

リツコは友人を後押しした。

友人が幸せになるなら、シンジ君がそれで幸せならそれがいいんじゃないだろうか。

 

 

「リツコ、あなた本当は…」

 

 

ミサトは口ごもった。

そんな時だった。

 

動物園内にサイレンが鳴り響いた。

 

「使徒?」

 

リツコは声にだした。

 

「いいえ、サイレンの音が違う。ここのサイレンよ!!」

 

 

「まさか…まさか!!!」

 

サイレンの音ともにマイクが鳴り響いた。

 

 

『虎が脱走しました!!!来場されているお客様は避難してください!!!』

 

 

虎!?

そうか、ここには超大型のベンガルトラがいた。

世界でも希少種といわれたベンガルトラ。

その中でも最大の個体がここにいる。

大きさ5m体重1トンを優に超す世界最大のトラ。

そして、動物園で暮らしているのでヒトを恐れない。

 

「世界最大のトラ、名前はサンダー・ジョー。身長5m体重1トン以上…。」

 

リツコは思わず口に出した。

 

「爪でインド象を引き裂き押し倒し、何頭も殺した。村一つを壊滅させたこともあった。ベトナムで中国軍と交戦した戦略自衛隊の精鋭が40名八つ裂きにされた…。東南アジアを渡り歩き殺した数は4000人を超える。そんなバケモノ…。」

 

 

「なんで、こんな動物園にそれがいるのよっ!」

 

ミサトは怒号をあげた。

 

 

「わからない、でも…。」

 

 

「逃げないの?」

 

 

「この子たちが‥‥。」

 

リツコの足元には猫がいた。

リツコは離れられないのだ。

ミサトはそんなリツコをみると怒りの表情から笑顔に変わった。

 

 

「私がトラを止めるわ。」

 

「無茶よ!危険すぎる!」

 

「心配しないで、そこにいてね。あとペンダントもってて。」

 

「バカ!いい加減になさい!アンタは指揮官なのよ!参謀なのよ!アンタって人は本当大馬鹿もいいところよ!」

 

「優れた参謀は優れた兵士であれってね。」

 

ミサトはいたずらそうに舌をだすと父の形見のペンダントを手渡した。

リツコは呆れながらそれをとった。

 

「無事でいてね。」

 

 

リツコの心配の声に微笑みでかえすと、ミサトは監視員に聞いた。

 

 

「トラはどこにいるのっ。」

 

 

監視員の男の手には麻酔銃があった。

表情は恐怖で震えていた。

 

銃を撃つことになれていない。

 

 

 

 

「そんなこといえるわけないでしょ!」

 

「心配しないで、私は軍人よ。止めてみせるわ。麻酔銃とトランシーバーを貸して。」

 

 

男はミサトを少しみると、銃を手渡した。

 

 

「そこまでいうなら、お願いします!この麻酔銃は象用のものですが、あいつには3発あてなきゃダメです。」

 

「ここの猫と私の友達を守ってあげて。」

 

「わかりました。」

 

ミサトは駆け出した。

そして、無線を手に取ると一心不乱に駆け出した。

 

『こ、こちらサイエリア…すべての動物の避難は完了!一人やられた!次は…う、うわあああああああああああああ!!!!』

 

男の悲鳴が聞こえた。

手遅れだったのだ。

 

サイエリアか。

 

ミサトは手元にあったマップをみると急いで駆け出した。

これ以上犠牲者は出さない。

奇跡を待つより捨て身の努力、ミサトの哲学だ。

 

やがて、サイエリアにつくとそこはすさまじい惨状であった。

 

複数のサイの死体、そして監視員や警備員と思われる死体が山のようにあった。

捕食した様子がない。

こいつは殺しを楽しんでいる。

 

その中にトラがいた。

 

 

「サンダー・ジョー…。」

 

大きい。

まるでトラックのような大きさだ。

5mのトラはミサトをみるなり、唸り声をあげ牙をのぞかせた。

 

『ツギ、オマエ…』

 

まるでそういうようにトラは唸り声をあげていた。

その顔と口の中は血の赤で真っ赤に染めあがっていた。

 

流石にあの大きさの獣相手に白兵戦は不可能。

ミサトはバキの世界の住人ではない。

 

「凄まじいバケモノ顔ね、使徒のがまだかわいいわ。」

 

サンダージョーは唸り声をあげると、かけながらミサトによってきた。

 

 

「早すぎる、麻酔銃を撃つ余裕もないっ!」

 

 

ミサトはすぐさま、逃げた。

だが、ジョーは素早かった。

 

ジョーはとびかかった。

 

ミサトは本能的に近くにあった鎖を持つと、鞭のように振るった。

 

ガンッ!

 

鈍い音とともにジョーはひるんだようすだった。

 

 

 

 

だが、長くは続かない。

 

ミサトはジョーがひるんだすきを見逃さなかった。

鎖を持ったまま、ミサトはジョーの背中に飛び乗った。

そして、素早く鎖をまきジョーの首に巻き付けた。

 

 

「くらいなさいっ!!」

 

 

そして力の思うままに一気に締め上げた。

世界最大のトラは苦しみの悲鳴をあげると手の爪とアゴを使いもがき苦しんだ。

 

やがて、鎖の先にジョーの爪が引っかかってしまった。

 

 

「まずい!」

 

 

鎖がジョーの爪の力に負け徐々にひび割れていくのがみえた。

なんてパワーなの?

ただのトラなんかじゃあない。

本物のモンスターだ。

 

 

「まずい、このままじゃ…。」

 

 

すぐに背中から飛び降りると近くにあった木の上に飛び乗った。

 

 

ジョーは鎖を爪で引き裂いた。

そして獲物のミサトがいなくなったことに気づくと怒号の歯ぎしりをした。

 

 

 

ガチガチガチ…。

 

 

あんな歯や爪でやられたら一瞬で死ぬ。

あのまま背中にいれば殺されていたかもしれない。

だが、このまま放置すればとんでもないことになる。

トラは木登りができる。

このまま、ここにいれば殺される。

早く麻酔銃で黙らせないと。

 

 

「ママー!!ママッ!!!」

 

 

声が聞こえた。

迷子!?

 

 

「まずいわ。」

 

ジョーは反応した。

目の前に人間の子供がいる。

まだ5歳児だ。

ターゲットが変わった瞬間だ。

血に染まりあがった赤い目は迷子の少年をうつした。

 

 

そうはいくか。

これ以上人を殺させはしない。

 

 

「おい、バケモノッ!!!!!!」

 

 

ミサトは少年以上に大きな声をあげた。

ジョーは木の上にいるミサトの存在に気が付いた。

 

ミサトはその隙に麻酔銃をつきつけた。

そして、引き金を引いた。

 

パァン…

 

 

ジョーの頭に麻酔弾は突き刺さった。

 

 

グギャアアアアアアッ!!!!!!!

 

 

 

 

トラは悲鳴を上げた。

そして、それは怒りに変わった。

木の幹をじりじりを引き始めた。

その振動はミサトの足元にも響いた。

 

ミサトは冷静に新しい銃弾を再装填した。

 

 

「笑え、このド畜生!!!」

 

 

ミサトは銃弾を再び放った。

 

二つ目はジョーの目に突き刺さった。

 

 

 

 

グギャアアアアアアッ!!!!!!!

 

 

また悲鳴を上げると、のたうち回りながらジョーは地面をかきむしった。

 

3発目。

ミサトは再装填した。

 

 

パァン!!

 

 

最後の麻酔弾はトラの首に突き刺さった。

 

 

 

グギャアアアアアアッ…ア…ア…!

 

 

 

トラはのたうち回りそして、とうとう眠り始めた。

ジョーが倒れたこと気が付いたミサトは地面に降り立った。

 

哀れなトラ。

でも、あなたは虐殺を楽しんだ。

もう次はない。

殺処分される身。

 

 

「もうお眠りなさい。」

 

 

 

そして、少年の手を取るとそのまま逃げた。

 

 

「サイエリアにジョーがいます、あとのことはお願い。」

 

 

やがて、ミサトが戻っていくのと同時に戦自の特殊部隊が入り込んでくるのがみえた。

ミサトは少年の母を探した。

すると、ミサトと変わらない年齢の女性が少年を迎えに来た。

 

「ありがとうございます、ありがとうございます。」

 

 

女性はなんどもなんども詫びをいれた。

ミサトは少年に手を振ると、リツコを探した。

 

 

「まさか、あなた本気でやるなんて…。」

 

 

横でみていたリツコが思わず言った。

その手元には猫がいた。

ミサトは照れ臭そうに頭を搔いた。

気が付けばもう夜だ。

 

 

「じゃあ、もう帰るわ。」

 

ミサトはそういうと照れ臭そうに手を振った。

多くの職員が感謝の声を上げる中、ミサトは黙ってさっていったのだった。

 

 

「あいつの正義感、バカだけど本当にすごいわね。」

 

リツコは呆れて言った。

そして、職員に猫を返すと彼女も去っていった。

 

リツコはその数週間後、ジョーが東南アジアのジャングルに帰されたことを知った。

恐らくは動物園生活にウンザリしていたのだろう。

そのほうがいいとリツコも思った。

また、ミサトに対する考えも改まった。

 

 

バカから奇跡を起こすバカへと。

 

 

 

 

そして、東南アジア某所ジャングル。

王は王国に帰ってきた。

紆余曲折はあったが、帰ってきたのだ。

かつてサンダージョーといわれた虎の王は片目を失ったが、それでも十分だった。

狭いコンクリートよりも、ここの方があっていた。

暴れた理由もストレスによるものだった。

ミサトは一つだけ間違えていた。

彼は虐殺を楽しんだわけではない、そこに犠牲者がいた。

それだけなのだ。

 

 

かつて自分の住処であった崖の上に立つと大きく吠えた。

それは王の帰還を意味していたのだ。

続編はやったほうがいいですか?よくないですか。

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