ミサトさんを好きになってしまったシンジ君のお話 作:井上ああああ
シンエヴァ要素少しあります。
ネルフ本部、病室。
ミサトはそこに運ばれていた。
病室のベッドの中でミサトは眠っていた。
シンジはそんな椅子で座りながら、ミサトを見守っていた。
彼の頭の中でコンラッドの亡霊らしき声が聞こえた。
『お前が弱いから、ヤツを守れなかった。お前は女すら守れないただのガキだ。』
否定できない。
僕がひ弱な小僧だから、ミサトさんを守れなかった。
彼女は植物人間の状態になっている。
もう意識はこのまま戻らないかもしれない。
「シンジ君…。」
リツコの声だ。
「先生から話を聞いてきたわよ。肋骨・背骨・胸骨のこれらのほとんどがおれていた、それ自体は問題ないそうなの。でも頭蓋骨が折れていた、ミサトはまるで6トンのトラックではねられたような衝撃を受けていたの。」
「同じ話を聞いたよ、さっき先生から。目を覚ましたとしても脳にダメージを受けているから記憶も戻らないかもだって。」
「あなたのが先に聞いてたのね。」
リツコは俯いた。
相手の片腕は超合金製の物、恐らくはエヴァの装甲と同じ物を使用している。
ということは、ヤツを送ったのはゼーレかもしくは彼らに付随する軍需産業によるもの。
アーノルドはそいつらの差し金にすぎない。
現にヤツの死体は遺体安置所から消えていた。
ヤツを死後も利用する悪がいる。
その悪はほくそ笑んでいる。
リツコはシンジをみた。
手は震えていた。
涙も出尽くしたのだろう。
目は赤くなっていた。
「こんなことになるならエヴァなんかに乗らなきゃよかった。そうすればこの人も生きていられたんだ。僕が攫われさえしなければ…こんなことにならなかったんだ。僕がいたから…僕のせいなんだッ!!!!」
「シンジ君。」
リツコはシンジを見つめることしかできなかった。
子供になんてことをいわせているんだろう。
もう使徒もいなくなった、ゼーレも無力化されたそのはずだったのに。
「違う、私たちの責任よ。敵の存在を把握できなかった。私たちの責任。シンジ君がエヴァに乗っても乗らなくてもこれは起きていた。遅かれ早かれね。」
「でも、それは『もしも』の話じゃないですか。現に彼女はやられて今倒れた。やっぱり僕のせいなんだッ!!!僕が弱くなければ!!!ミサトさんを守れるほど強い男であれば、こうならなかったんだッ!!!違いますか!!」
「シンジ君…。」
リツコはその白い手を優しくシンジの肩に置いた。
その時、シンジは気が付いた。
地面に涙がひしひしと落ちていたのだった。
僕は泣いていない。
悲しみより怒りが勝っていたから。
でも、涙がみえる。
まさかリツコさん…泣いている。
「ごめんなさい、ボク…。」
「今日はもう帰りましょう、疲れたでしょ?シンジ君。」
「はい。」
ミサトさんとの付き合いはリツコさんのが長い。
苦しいのは僕だけじゃないんだ。
シンジは改めてそう思うと、リツコとともに病室を後にした。
「待って。」
シンジは引き留めた。
そして、電気をつけた。
「ミサトさん、暗くて寂しいのキライだからずっとこうしてあげて。」
「わかったわ。」
リツコとシンジはそのまま帰っていった。
帰り道に別の用事があるというと、リツコは青葉を代わりに呼び出した。
その際にシンジはミサトの持っていたペンダントをリツコに渡された。
「よう、シンジ君お待たせ!」
青葉はいつもの陽気な笑顔をみせていた。
「青葉さん。」
青葉の車はミサトのそれに比べるとしょぼかった。
レンタカーだと前にシンジは聞いていた。
助手席に座ったシンジはうつむいたままだった。
青葉は何も言わなかった。
しばらくは。
だが、ついに沈黙を破った。
「大変なことになったよな。」
シンジは黙った。
青葉はサイドミラー越しにシンジをみると微笑んだ。
「そりゃ辛いよな、あんなことがあったんだ。そのまま黙ってくれていいぜ。」
「青葉さん。」
シンジは言葉を漏らした。
青葉は黙ってそれを聞いていた。
「悲しいけど、涙が出ないんだ。わかるかな。」
少しの沈黙の後、青葉は口を開いた。
「強がるなよ。」
シンジは思わず青葉の顔をみつめた。
「そこで思う存分泣いていいから。」
青葉はいつもやさしい。
シンジはずっと我慢していた感情がとうとう爆破するのを感じた。
そして、声を上げ咽び泣いたのだった。
翌日、シンジは病室にまた訪れていた。
その翌日も、その翌日も…。
週がまたいだ。
日曜日のことだった。
病室に冬月とシンジがきていた。
冬月は将棋の本を、シンジはミサトをみていた。
「冬月さん。」
「なんだね。」
「こんなことを言うとすごくきついことなのかもしれない、でも…。」
「言いなさい。」
「父さんが母さんの元にいきたがってた理由がわかった。人類補完計画をしようとした理由がわかったよ。」
冬月は本を止めた。
そうだ、私と碇ゲンドウはユイ君のもとに還ろうとした。
人類を巻き添えにして。
「シンジ君。」
「愛してる人を失うことがこんなにつらいってわからなかった、父さんはきっと同じ気分だったんだ。トウジを失った時、父さんも大事な人を失えばいいんだと思った。でも、それは思ってはいけないことだったんだ。」
冬月は何も言えなかった。
シンジの言葉を肯定も否定もしなかった。
言える言葉はこれしかなかった。
「人は何かを失っても、前に進むしかない。碇とユイ君が教えてくれたことはそれだったのかもしれん。」
冬月の言葉を聞くと、シンジはミサトのペンダントを彼女の首に巻いた。
これはミサトの物だ。
やがて、二人はいつもの面会を終えた。
さらに日と週が過ぎた。
それは月になっていった。
シンジは高校に通った。
同じ高校に綾波レイも洞木ヒカリもいた。
新しい友人もできた。
しかし、シンジは空虚な毎日を過ごしていた。
病室には日向がよくきていた。
言葉は交わさなかったが心は一つだった。
シンジはふと、ミサトのいない部屋をペンペンと過ごした。
ペンペンは最初ミサトがいないことに夜鳴きをして主人を求めたが、彼ですら慣れてきていたらしい。
シンジはミサトの病室に行ったあと、ペンペンのお世話をして寝るのが日課だった。
たまにリツコや冬月、青葉がシンジと一緒に泊まることもあった。
だが、ミサトは戻ってこなかった。
気が付けばシンジは電車に乗っていた。
いつ乗っていたのかもわからない。
誰もいない、夕暮れなのかもわからない電車の中。
その中でシンジはシートに座っていた。
ふと、電車は止まった。
「シンジ。」
声がした。
父ゲンドウ。
死んだはずの。
顔をみようとおもったが、おぼれげでうまくみえなかった。
再び電車は動いた。
「父さん、母さんを失った時どんな気分だった。」
「一言では言えない。」
「僕は父さんから逃げた、何で逃げたのかわからない。父さんが怖かったのかも。」
「俺もお前から逃げた。」
「でも今になったら父さんの気持ちがわかるよ、辛いよね。」
僕は最低なことを想った。
父さんだって大事な誰かを失えばいい。
でも、間違っていた。
父さんだって多くを失っていた。
シンジはそう思った。
父は少し黙ると、口を開いた。
「そうか。」
電車は止まった。
そして、ウィンという音が聞こえた。
ドアが開いたのだろう。
「シンジ、まだ早い。あきらめるな。」
父はそういうとシンジの前から姿を消した。
朝日が差し込んだ。
夢だったのか?
シンジはソファーにいた。
ペンペンは姿がいなかった。
ペンペンの冷蔵庫のドアが開いていた。
「まさか!ペンペンが!」
シンジはゾッとした。
やめてくれ、ペンペンまで奪わないで!
立ち上がり、姿を探した。
「ペンペンッ!!!」
すると、惚けなく風呂場のカーテンが開いた。
「よっ!バカシンジ!」
声がした。
アスカの声だ。
手にはペンペンを抱きかかえていた。
シャンプーの臭いがツンとした。
二人でシャワーに入っていたのだ。
そういえば、ここに住んでいた時アスカはよくペンペンと風呂に入っていた。
「アスカ?」
「にししし、ドイツからきちゃった!バカ後輩が心配だったからね!」
アスカの口には笑顔が浮かんでいた。
そして、シンジはアスカに今までのことすべてを話した。
すると、アスカは首を縦に振って今までのこと聞いていた。
「でもさ、諦めるのは早いんじゃない。」
アスカはドライに言った。
そして続けた。
「だってさ、死んでないわけじゃない。」
「え?」
確かにそうだ。
死んだわけじゃない。
アスカはシンジの肩をポンと叩くと笑顔をみせた。
「だから、心配するなってことよ!ねえ加持さん!」
加持も来ていたのかっ?
すると、ミサトの部屋から加持が出てきた。
「シンジ君悪い、電話入れるべきだったかな。」
加持はいつもの笑顔だった。
「加持さん?」
「ここに来たのは他に理由があるんだ。葛城め、俺に借りたDVD返すの忘れて取りに来たんだ。あいつが眠っている間に。借りたものぐらいは返せよなあァったく!あ、みんなには内緒だぞ。」
嘘だ、本当はミサトさんが心配できたんだろう。
あわよくば、僕からミサトさんを奪おうなんてまだ思ってるかもしれない。
シンジは遠い目で加持をみた。
「それと、一言だけいっておく。葛城の石頭は中々割れない。心配しなくても大丈夫だ。」
「石頭?」
「あいつ、頑固だろ?」
確かにそういえばそうだ。
「そんなことよりも、シンジ君。君に言っておかなきゃいけないことがある。」
「なんですか。」
「君を襲ってきた連中はゼーレの差し金だ。」
「ゼーレ。」
ミサトさんから聞いた。
ネルフを裏で操り、世界の裏で隠れていた秘密組織。
まだあったのか。
「でも、あいつらは消えたはず。」
「キール議長と補完委員会はな、今のあいつらは違う。もっと危険で狂暴だ。前ほどの権力はもうない。だからこそ恐ろしいんだ。」
「でも、弱くなったって事だったら問題ないんじゃ。」
「違うね、世の中は力で縛り付けられたほうが意外とマシだったということがある。」
ミサトさんも同じことを言っていた。
統率のとれない力は暴力を呼び、混沌を産む。
「だから気をつけろ。」
真剣な目をしていた。
恐らく本当のことだろう。
でも少しうれしかった。
加持さんも自分を仲間と認識してくれているんだ。
その後、1泊すると加持とアスカはミサトの家で過ごしてまたドイツに帰っていった。
アスカと加持が来たことでシンジは少し心に余裕ができた。
アスカと加持を見送った後、シンジはペンペンを抱きながらバルコニーからみえる夜空をみあげた。
そして、あることを思いついた。
「ミサトさんのためにチェロを弾こう。」
前に言っていた、ミサトさんにチェロを弾いてあげると。
それをやろう。
もしも、そうすればミサトさんは帰ってくるかも。
シンジはほくそ笑むと、作戦を思いついた。
水の中。
ミサトは水の中にいた。
紅い水の中。
服はきていなかった。
「ミサト。」
声が聞こえる。
加持の声に似ていた。
「ミサト。」
この声に聞き覚えがあった。
「父さん?」
「ミサト、お前はよくやったよ。」
紅い水の中に父が浮かび上がった。
顔はみえなかった、だが父だ。
「父さんようやく会えた。」
「お前はよくやったミサト。」
父さんに褒められた。
ミサトは嬉しく感じた。
そして、加持似た声をしていた父をみてやはり加持をみて父を求めていた自分に気が付いた。
「お前にみせたいものがある、私についてきなさい。」
「みせたいもの?」
ミサトはふと気が付くと、日常の中に戻っていた。
その先にはシンジ君が通う学校があった。
「ここは?」
「エヴァのない世界、ネオンジェネシスだ。」
父は姿が見えなかった。
だが、声が聞こえた。
「そんなものがあるの!?」
「ある、現実と虚構の間の世界だ。」
そこにはもう一人の自分がいた。
黄色いシャツをきていた。
高級車を乗り回していた。
「もしかして…。」
「君と彼はこの世界でも知人だ。」
ふと、シンジ君がみえた。
シンジはかけよるとミサトに挨拶をかわしていた。
『ミサト先生、おはようございます!』
『おはよう、碇シンジ君。』
もう一人のミサトはシンジの頭を掻くと肩を抱きながら学校の中に進んでいった。
二人は校舎の中へと姿を消した。
「ここでは君と彼はただの知人だ。」
すると、まるでビデオテープを早送り再生したように時間が過ぎていった。
「ここの彼は別の女性と結ばれる。」
「もしかして、私は死んだの?」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。」
やがて、村をうつした。
その先のミサトは少し老けていた。
横には加持がいた。
加持は少しやつれているようにみえた。
なぜかわからないが、カヲルもいた。
『おーい!ミサトさーん!』
声が聞こえた。
シンジの声だ。
『スイカ、もらいにきたよー!』
シンジの横にはおぼろげだが、ミサトより若い女がいた。
メガネをかけているようにみえた。
だが、顔はよくみえなかった。
そして、再び世界は暗転した。
やがて、虚無の中父の声だけがした。
「君はがんばったんだ、別の世界でも彼を守り死んだ。彼はその結果この紅い水で覆われない世界を選んだ。いずれここも元の地球に戻り多くの人々が戻っていくだろう。君が彼にそれを選ばせた。」
ふと、別の世界がみえた。
『大人のキスよ、帰ってきたらつづきをしましょ。』
自分の声だ。
その先の自分は腹部から血を流していた。
やがて、そのまま世界は再び暗転した。
「ここから先が大事だ。」
世界は再び赤い海で覆われた。
その中でペンダントが浮かんでいた。
父の姿はみえなかった。
「君はどの世界を選ぶ。」
ミサトはふと考えた。
加持と結婚をしながら、シンジ君とも仲のいい世界。
それもいいかもしれない。
「私は…。」
そんな時だった。
チェロの音が聞こえた。
パッヘルベルのカノン。
チェロ。
「シンジ君。」
世界は再び形を作った。
その先にはシンジがいた。
病室の中でチェロを弾いていた。
ベッドの上でミサトは頭と腹部に包帯を巻いていた。
そうか私はあの男に倒されたのか。
シンジ君の制服が違う。
高校のものだ。
それだけ時間がたったのか。
答えは決まった。
「父さん、私は彼と生きます。この世界で。ここで生きていきます。」
「ミサト。」
世界はまた紅い水で覆われた。
父は再び姿をみせた。
その手にはペンダントがあった。
「お前はよくやった、だがこれからも頑張るんだ。」
ふと、ミサトは気が付いた。
紅い水の中に自分たちだけではない別の男女がいた。
碇ユイ、そして碇ゲンドウ。
「あいつを頼みます、葛城さん。」
「あの子をお願いします、葛城さん。」
二人はそのまま、紅い水の中に消えていった。
私たちと同じ世界の彼らだったのか、別なのかわからない。
「おめでとう、幸せにな。」
父の声が聞こえた。
そして、ペンダントがみえた。
「ありがとう、お父さん。」
「さよなら、ミサト。」
「さよなら、父さん。」
恐らくこれが永遠のお別れだろう。
父とあうことはない。
話したいことがいっぱいあった。
「いずれお前もここにくる、でもそれは遠い先の話だ。その時にいっぱい話をしよう。」
心の声が読めるのか。
さようなら、父さん。
今の間は。
いずれここに来るのは遠い先の話だ。
ミサトはペンダントをとった。
やがて世界は光に包まれた。
シンジはミサトの寝ていた部屋の中でチェロを弾いていた。
曲はカノン。
冬月の特別な計らいで防音室に移動してもらった。
青葉はシンジの作戦を聞くと、レンタカーを使いチェロを運んでくれた。
様子をみに日向が来ていた。
これが功を奏すかわからない。
一生帰ってこないかも。
でも、これで自分が満足するならそれでいい。
そんな時だった。
シンジはふと、ベッドをみた。
声が聞こえた。
「おはよう、シンジ君。」
彼は微笑んだ。
そこに、目を覚ましたミサトがいたのだ。
シンジは声を出した。
「おはよう、ミサトさん。」
二人の時間はゆっくりと止まっていった。
太陽は二人を照らすと、そのまま光り輝いた。
これで番外編も終了です。
アンケートは来週の6月4日まで受け付けます。
その審査をみて、次回作の内容/是非を考えます。
最後までよんでいただきありがとうございました。
続編・番外編があるとするならどんなものがみたいですか?
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アスカと加持を主役にした活躍
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レイとカヲルを主人公にした活躍
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ゼーレに代わる抵抗勢力の暗躍
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帰ってきたゼーレ
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帰ってきたコンラッド