ミサトさんを好きになってしまったシンジ君のお話   作:井上ああああ

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時系列的に言えば「アスカ来日」後です。
「マグマダイバー」前です。


アスカとシンジが誘拐されてミサトと加持が助けに行く話

シンジが誘拐された騒動から2か月と数週間ほど過ぎたあたりだった。

 

ある人間二人が日本に来たことでシンジの機嫌は悪くなっていた。

まず一人、加持リョウジ。

なんとミサトの元彼氏であったそうだ。

 

顔を合わせるなり「こいつの寝相は治ってないか?」という旨の発言をしてきた。

リツコにその発言の意図を聞いてみたところ、なんといわゆる「元カレ」マウントというものだったらしい。

妙になれなれしいのがさらに腹立たしい。

 

もう一人は惣流アスカラングレー、初対面から傲慢で図々しい横柄な女だったがこれでもエヴァパイロットらしい。

おまけにミサトと自分だけの空間だった家に入り込んで、センパイ顔しているのだ。

 

ただ、それだけならいい…。

だが問題は別にあった。

 

アスカは女のカンとやらでシンジがミサトのことを好きという事を見抜いていたらしく、たびたびミサトのいないところで「早く告白しろ」と迫ってくるのだ。

 

アスカは加持が好きで、ミサトをシンジがとってしまえばもうあとは何も考える事もないと高をくくっているのだ。

 

 

放っておいてほしい、いらぬ心配だ。

 

 

悲しいことに学校まで一緒だ。

席はなんと隣、いい加減にしてほしい。

 

 

「ンハァ~~~~~~~~!!!」

 

 

シンジは荒々しく息を吐いた。

 

 

「あらぁ、バカシンジちゃん…もしかして恋煩いかな?」

 

 

アスカはいたずらに微笑んでからかってきた。

いつもこうだ。

 

 

 

「アスカには関係ないだろ!」

 

「アスカさんでしょ?一応あたしのが先輩なんだけど。」

 

「なんでだよ、年齢同じだろ?」

 

「アンタバカぁ?年齢よりキャリアのが上、社会の常識よ。バカシンジちゃん。」

 

「もういいよ!」

 

 

アスカは大笑いすると、シンジの肩を強引につかんだ。

 

 

「まあまあ、悪い話ばかりじゃないから!いいこと、女はね…男のやさしさに弱いのよ。その点、アンタは合格点なの。おまけに家事もできるでしょ。こりゃ高得点よ。だからもーちょっと!もうちょっと!そう、勇気!好きと本気で言えば…いいやなんだったら押し倒して…」

 

「もういいってば!バカにしないでよ!」

 

アスカはため息をつくとかぶりを振った。

 

「あーあ、男ってマジ子供よね。バカな上にガキ、ガキシンジちゃんよ。そんなことじゃ

大好きなカノジョも振り向いてくれないよーだ。」

 

クラスメイトのトウジはアスカの発言を逃がさなかった。

 

 

「カノジョ!?碇に彼女おるんか!?それって綾波?もしかして…委員長?」

 

 

アスカは得意げに笑うと首を横に振った。

 

 

「それは言えないわねぇ、ネタを明かしてほしいなら30万よこしなさい。」

 

 

アスカなりの配慮だろう。

いらぬ配慮だ。

シンジは何も言わずに学校を後にしようとしたが、職員室の前で同級生の相田ケンスケに遭遇した。

 

 

「なあなあ、シンジ…。お前あのかわいい娘と同居してるんだろ!?」

 

「かわいい?」

 

「ほらあの赤毛の!」

 

 

ああ、アスカか…。

 

 

「あれかわいい?」

 

「かわいいだろ!すっごくかわいいじゃないか!今度紹介しろよ!」

 

「初めて会った時、嫌そうな顔してたじゃないかお前。」

 

「いやーあれがいいんだよ!うんいい!」

 

ケンスケは鼻の先を伸ばしていた。

そして手元にもったクラシックのカメラを持つと自慢気に語った。

 

 

「あの子の写真撮ったんだよ。」

 

「それ盗撮じゃない?」

 

「バカ、盗撮じゃないよ!ジャーナリズムだよ!」

 

「はいはい…。」

 

ケンスケはどうやら、アスカのことが気になっているそうだ。

ふと目の前にアルビノ風の同級生こと綾波レイがたっていた。

 

「あ、そうだ…。これからネルフに行くんだ。じゃあまたね。」

 

「アスカのことよろしく頼むぜ!」

 

「考えておくよ。」

 

 

ケンスケは前はミサトさん推しだったが、アスカに気が変わったらしい。

まあ、どうでもいいけど…。

 

 

「碇くん、機嫌よくないの?」

 

 

「うん。」

 

 

「私の家で休んでいく?」

 

 

「大丈夫だよ。…綾波だけだよ話がわかるのは…。」

 

 

シンジの愚痴を好意的に解釈した綾波レイは顔を赤くしていた。

 

 

「いいの、碇君の気持ちがおさまるならなんだって。」

 

「綾波は本当に優しいんだね、お母さんみたいだよ。」

 

「ナニいってるのよ。」

 

 

するとシンジたちの目の前に一台の車が止まった。

中からはネルフ職員の日向マコトが出てきた。

シンジの以前の誘拐騒動があってからは、ネルフ職員が交代制でシンジたちを迎えに来ている。

 

 

「やあ、みんなお待たせ。」

 

メガネをかけた日向はカッコよく決めた。

 

 

「ああ、日向さん。」

 

シンジは彼のことを知っていた。

以前、ミサトのクリーニングを届けに来てくれたことも何回かあったので顔見知りである。

 

「あれ?アスカちゃんは?」

 

 

アスカの名前を出すと、シンジの顔は不機嫌になっていた。

 

 

「日向さん、僕助手席がいい。綾波ごめん。あいつと相席でもいい?」

 

 

「いいわよ。」

 

 

綾波は無感情に言った。

綾波の反応をみると、日向は首を縦に振った。

 

 

「いいよ、乗りなよ。」

 

 

すると、アスカが手を振りながら駆け下りてきた。

 

 

「おまたせー!!!今日は日向さんなんだー!こんにちわー!」

 

「あの娘かわいいよな、シンジ君。好きなの?あの娘のこと…。」

 

 

日向はボソッとそういった。

またこの手の話か。

 

「いや、僕が好きなのは…。」

 

 

ミサトさんだ。

 

そういえば最近ミサトさんも帰りが遅い。

アスカと顔を合わせるのが嫌だから近所のペット同伴カフェでペンペンと逃げ込んでいる。

加持さんとよりを戻すんじゃないかといわれている。

 

もしもそうなら、僕はエヴァのパイロットやめるかもしれない。

 

 

でも、僕がエヴァのパイロットを辞めたらどうなるんだろうこの世界。

 

そうだ、加持さんも黙るほど強いところをみせれば僕に寄り添ってくれるはず。

 

でも、日向さんをみているとわかる。

日向さんだってミサトさんが好きだ。

 

残念だけど、日向さんではミサトさんにとっては対象外だろう。

 

なんとなくわかる、日向さんはたまに空気が読めないところがある。

 

 

真剣な会議をしている時に冗談をいって、ミサトさんが無視したことがあった。

 

あの時のミサトさんは本気で怖い。

 

 

ヤシマ作戦の時もそうだったらしい。

 

横にいたリツコさんが顔をドン引きにしていた。

 

ずっと前にミサトさんと飲んでいたリツコさんは何度もネタにしていたのを覚えている。

 

ケンスケも似たようなところがある。

 

ミサトさんの部屋に来るなり頭を下げて「自分をパイロットにしてください」といっていたがミサトさんは「ごめん無理」の二言で切り捨てていた。

 

 

ミサトさんはアドリブにかなり弱い。

 

天然ボケ系にはかなり冷たい。

 

ミサトさんはそういう男をあまり好きにはならない。

 

加持さんよりは日向さんのがライバルとしては楽だよなあ…。

 

シンジはそんな風に考えながら道化じみた顔で見栄を切った。

 

 

 

「僕が好きなのはペンペンですっ!」

 

 

アスカと綾波は思わずコケそうになっていた。

日向はメガネがずれキョトンとした顔になっている。

 

 

ギャグがウケなかった、恥ずかし…。

 

 

「それ、寒いよバカシンジ。」

 

アスカですら心配そうな顔で言っている。

場の空気が凍り付いてる、どうしよう…。

 

僕も日向さんみたいなところあるのかな。

 

 

どうしよう、ミサトさん嫌うかな。

 

 

 

ってこんな考えしたら日向さんに失礼だよね。

 

 

シンジは少し心の中で日向に謝罪した。

 

 

 

 

「いいの、碇くん。私は笑ってあげるから。こういう時笑えばいいのよね。」

 

 

「いいんだよ、優しいんだね綾波は。」

 

 

日向少し考えると真剣な顔でシンジに聞いてきた。

 

 

「…ペンペンって何?」

 

 

アスカは目が白くなっていた。

心の中で「こいつダメだ、空気読めねえんだ‥。」と何回もつぶやいた。

 

 

「日向さん、ペンペンっていうのはね…。」

 

 

その後、車の中でペンペンについて議論が起きた。

シンジにとってはミサトの話よりそっちのが気が楽でもあった。

 

 

その頃、ネルフのトレーニングルーム。

 

ミサトはトレーニング用のタンクトップとカットジーンズに着替えると寝ながら100㎏のバーベルを持ち上げていた。

 

現在で80回目。

 

周囲にいる男性スタッフはミサトのタフさに驚愕していた。

 

ミサトの汗が床に水滴のようにたまっていた。

 

 

その身長からは想像できないが、ミサトは元々従軍経験もあったことからかなり筋肉はあるほうだった。

腹部の傷でみれないが、腹筋は割れている。

 

 

するとそんな彼女の近くに青いシャツに赤いネクタイをつけた元彼氏がふらっとやってきた。

 

 

「よう、葛城。」

 

 

加持だ。

 

 

「邪魔しないでくれない。」

 

 

ミサトは無常に切り捨てた。

 

 

「冷たいぜ、葛城…。君はこんなものを持ち上げるより君はもっとふさわしいものがあると思うんだが。」

 

 

「邪魔しないでって言ったでしょ。」

 

 

「そうか、ならいい。せっかく酒のうまい店をみつけたのに…。」

 

 

ミサトは加持の軽口を無視しようとしたが、できなかった。

 

 

「それはまた今度ね。」

 

 

「お前変わっちまったな、まるで彼を守りたいから今より強くなりたがってるみたいだ。」

 

 

シンジ君のことか。

ミサトはバーベルを置くと、大きく起き上がった。

 

 

「そうよ。」

 

 

もう二度とシンジ君を傷つけさせはしない。

あんな邪悪な人間に。

使徒を倒すためにも、なによりもカレのためにも。

 

 

「あんまり気を向くと疲れちまうぜ。」

 

「そういう優しいところをみると、あなたは変わっていないのね。」

 

 

でも、なぜだろう。

加持を観ても以前ほどドキドキはしなくなっている。

今心にあるのは使徒への復讐。

そして、シンジ君のことだけだ。

 

加持くんへの愛に答えるのはそこから大分先だ。

 

 

「ごめんなさい、加持くん…。」

 

 

「俺を下の名前でいってくれることも、なさそうだな。」

 

 

「私は今より強くならないといけない。心も体も。」

 

 

すると、加持は別の顔になった。

プロのスパイの顔に。

 

 

「コンラッド、あいつはゼーレの元構成員だ。」

 

 

「なんですって。」

 

 

「今から42年前、コンラッドはアメリカで生まれた。本当の名前はドラコ・シュナイダー。ギリシャとドイツの血が混じっていた。自分の裕福な両親と弟妹をバラバラに切り刻んで殺したんだ。退屈な日常にウンザリしたという理由でな。その養護施設こそゼーレの施設だった。そこはゼーレの破壊工作兵を養成する施設だった。」

 

 

「わざと入るために家族を殺した。」

 

 

「やがて14歳の時に名前もマーカス・コンラッドに変えた。そして成人になると、ドイツの大学に通っていた。やがてコンラッドはそこでキールに出会った。そしてヤツに気に入られ養子縁組を結んだ。そこで長い間、CIAとゼーレの双方のダブルスパイ兼破壊工作員として活躍した。ゼーレにとってヤツは飼い犬だったんだ。というか、議長の右腕だった。」

 

 

 

だからか、議長はヤツを恐れている理由。

 

右腕が裏切るとどうなるかわからない。

ゼーレの元構成員。

元というのがひっかかる、大体の場合組織をやめたとしても内部の人間と繋がりがわずかに残っている。

 

 

「本当にやめているのかしら…。」

 

 

「わからん、だがヤツは15年前にゼーレを抜けた。その時、ヤツは何かゼーレの弱みをつかんだんだ。」

 

 

15年前、セカンドインパクトがあったときか。

 

 

「セカンドインパクト…。」

 

 

「ヤツは何かを知っている。」

 

 

「ネルフを狙うのも本当の理由は、碇司令やゼーレがやろうとしていることに怒りを抱いているからなのかもな。」

 

 

「だから、シンジ君をつけ狙っている。」

 

 

「だからゼーレもヤツにはうまく対処できなかった。その後、あちこちでテロと破壊を行いヤツは完全にゼーレすらもうまくコントロールできないホンモノのモンスターになった。噂では東京にN2爆弾を落としたテロリストの正体はヤツといわれているが、恐らく事実だろう。」

 

 

ゼーレすらもうまく対処できない。

そんなバケモノが自分たちを狙っている。

 

 

「そこまで調べていてくれたの、ありがとう。」

 

「いいってことさ、その代わりに唇を…。」

 

加持はそういって、ミサトの顎に手を寄せた。

キスするつもりなのだろう、ミサトも不思議と抵抗しなかった。

 

抵抗しない。

おかしい、何か裏がある。

加持はふと感じ取った。

 

ミサトの場合はもっと抵抗して拒絶するはずだ。

 

だが、しない。

 

その目の中には俺ではない別の誰かがいるんだ…。

 

 

「葛城お前…。」

 

 

情報提供に感謝しているのか、それとも心の中に別の誰かをみているのか。

 

だからキスを拒まないのか。

 

誰か別の人間に心があるのか。

 

 

 

 

そんな時だった。

 

 

「ミサトさん…。」

 

 

思わず、声に気が付いた。

そこにはシンジがいた。

 

 

「し、シンジ君…。」

 

 

シンジは顔色を青くしていた。

そして、涙目になると肩を怒らせながら走り去っていった。

 

 

「待って、シンジ君。」

 

 

ミサトはシンジを走って追いかけた。

拭う汗を忘れていた。

だが、シンジは早かった。

人ごみにまみれると、姿を瞬時で消していた。

 

 

「待ってェ!シンジィ君!」

 

 

ミサトは未練がましそうに言った。

次になるとまたほほを膨らませてまるで子供のように吐き捨てた。

そして、猛ダッシュでシンジを追いかけていった。

 

 

「シンジのぶわっかッ!」

 

 

その姿はまるで失恋した女子高生のようだ。

 

 

そんなミサトをみて加持はふと思った。

 

 

『もう葛城の心の中に俺を占める割合は小さくなっているのかもしれない。』

 

 

それが母親から息子への愛なのか。

いや、違う。

ミサトは母親にはなれない。

なぜなら彼女の心は14歳の時で止まってしまったから。

 

だが、以前とは違いシンジ君がいる。

 

噂で聞いた話だが、シンジ君は家事ができる。

ミサトにはできないものだ。

 

恐らく家事をしていくうちにミサトはシンジに異性を求め始めた。

 

お互いにないものを補完し合うピースだと気が付いたのか。

 

 

「女の恋は上書き保存か…。」

 

 

 

以前の自分を重ねていくうちに、ミサトはシンジそのものが好きになってしまったんだ。

 

シンジがミサトを捨てて走っていると、アスカに出会った。

自販機のアイスクリームで買ったと思われる抹茶アイスクリームを大事そうに舐めていた。

横には日向と綾波もいた。

日向はチョコ、綾波はその肌と同じバニラをなめていた。

 

 

「どったの、バカシンジ。」

 

 

「ミサトさんが、加持さんとキスしてたっ!!!!」

 

 

「えっ!」

 

 

アスカもシンジと同じく肩を怒らせていた。

思っていたが、やっぱり付き合っていたんだ。

なのに加持さんずっと黙っていた。

アタシたちを利用していたんだッ!!!

 

 

 

「あの二人許せないっ!!!!」

 

 

「ネルフの仕事、ボイコットしようっ!!」

 

 

「前時代的ッ!!!あたしついていくわ!!!」

 

 

「大人は卑怯だ!」

 

 

ふとアスカとシンジが日向に目をやると、日向は口から泡を吹いて倒れていた。

なんども「葛城さん」とつぶやいて…。

監視役は倒れている。

今がチャンスだ。

 

「ごめん、綾波!今度ごはん作ってあげるから許して!」

 

「ごめんね、ファースト。日向さんのことお願い!」

 

 

アスカとシンジは連れ添うと、急いで電車の中へと走っていった。

綾波はキョトンとしながら、日向の方をみつめた。

手に残していたチョコレートアイスクリームを取るとなめ始めた。

 

 

 

「溶けたら勿体ないもの。」

 

 

アスカとシンジは電車に急いで乗った。

 

 

「やっぱりね、やっぱり…!!」

 

「ああ、そうだったんだよ!」

 

「ひどいッ!!あたしたちの気持ちを利用してたんだ!大人は卑怯だ!」

 

「そうだ、卑怯者だァっ!!」

 

 

アスカとシンジは二人して叫んだ。

 

 

「でも、シンジ…だからいったじゃん早めに告白しとけって。」

 

「それは関係ないだろっ」

 

「あるよ。」

 

 

電車の中でわめいていた二人だが、ふと気が付いた。

周囲には誰も乗っていない。

 

 

「誰もいないね。」

 

 

「変だね、この時間いっぱいのはずなのに…。」

 

 

シンジは異様に大きな体をした大男が近づいてきたのを感じた。

彼はそれに見覚えがあった。

マスクとトレンチコート、今どきしない格好。

バレバレの変装だ。

 

 

 

「あいつ…あいつっ!!」

 

 

「何あれ。」

 

 

ふとシンジは隣の車両をみた。

そこは死体の山だった。

全てが山積みだった。

下には複数の薬莢、そしてガトリングガンがあった。

 

 

「乗ってた人全員、殺したんだ…。」

 

 

「えっ…。」

 

 

余裕だったアスカの表情は一瞬で恐怖に変わった。

 

 

男はマスクを取り、羽織っていたトレンチコートを脱いだ。

 

 

「よう、坊や!!!」

 

 

野太い声…。

 

コンラッドだ。

200㎝を超える巨体は電車の中で小さく狭そうにみえた。

 

 

「何あれ…。」

 

 

「逃げないと!」

 

 

シンジが動こうとするとコンラッドの長い腕はアスカの肩をとらえた。

素早い、200㎝以上の巨体なのに…。

 

 

「うわあ!!離せこの痴漢!!!ヘンタイ!!!」

 

 

そして、素早い動作でアスカの腹部に一撃を加え黙らせた。

 

 

「うっ!」

 

 

 

アスカの悲鳴が聞こえると、一瞬で気を失った。

 

 

「いやあ~うるさくてイカンねえ!俺が女房とガキを殺したのはねうるさいからなんだ!うるさいのはいけないよ!」

 

 

コンラッドは次に懐からスタンガンを取り出すと、シンジの肩をつかみ首元に電流を与え気絶させた。

 

 

「坊や。またお世話になるぜ。」

 

 

そういうとコンラッドは二人を抱えると、隣の車両に移った。

そこには諜報部の黒服の生き残り一人だけが生きていた。

腕の骨を折り、動けなくしていた。

彼の仲間の死体はそばにある。

 

 

「なあ、お兄ちゃん。今からお仲間に言っておいてよ。二人は預かった。返してほしけりゃ水族館に来いよっつってなァ!出張鑑定お願いしますってな!あとそれからミサトちゃん、ご指名願いしますつってな。よろしくな!」

 

 

コンラッドは生き残りの男を見捨てると、そのまま電車から降りていった。

 

 

「どわぁはははははははは!」

 

 

太く大きなコンラッドの笑い声は電車・駅中に響きまわった。

 

 

数分後、すぐにネルフに伝わった。

引き取り人はミサト、誘拐した相手はコンラッド。

ミサトは怒り震えた。

 

またしても…。

 

 

自身の執務室へ訪れた冬月に思わず激を飛ばした。

 

 

「いい加減、対人防衛の費用を上げてください!!!」

 

 

冬月はバツが悪そうに地面をみていた。

 

この組織はおかしい。

まるで潰されることがわかっているかのようだ。

 

 

 

ネルフの諜報員たちは、守ることにはたけている。

だが、攻撃をすることは弱い。

その防御力をはるかに上回る相手にはうまくいかないのだ。

 

 

ミサトは肩を怒らせながら歩いていた。

 

 

するとリツコが後をついてきた。

 

 

 

リツコはまるでわかっていたことのように、手を差し出した。

 

 

「ほら、ペンダントと家の鍵。」

 

 

「ごめん、お願い。」

 

 

ミサトは父のペンダントと家の鍵を手渡した。

 

 

「ペンペンはマグロが好き、お風呂は高温じゃないとダメ…でしょ?わかってる。いってらっしゃい。」

 

 

「お願い。」

 

 

「あと日向君、明日は休むって言ってたわよ。」

 

 

「まあしゃーないわね。」

 

 

ミサトはため息をついた。

孤立無援、わかっていたことだがそれでもシンジを守るのは自分の仕事。

ミサトは覚悟を決めると再び銃を持ち出した。

 

シンジ君ごめんなさい、あなたとの約束破るわ。

 

もう一度、人殺し葛城ミサトに戻る。

 

だって、大好きなあなたを守るためだもの。

 

 

ミサトは待たせていた車に乗り込むと、たった一人で約束の水族館へと向かっていった。

彼女の背後には加持がいるのをミサトは気づいていた。

恐らくミサトが気になるから。

 

邪魔だけどまあいい。

 

 

 

その頃、水族館。

 

ここは世界中の魚や魚介類を扱う水族館として有名であった。

コンラッドはこの従業員とスタッフを皆殺しにすると事実上乗っ取っていた。

 

この水族館には目玉のミズダコがいた。

 

全長9m 体重200㎏

 

世界最大の個体であるが、同時に狂暴で生きたエサを残酷に追い詰め嬲ってから殺すことで有名であった。

ついた名前はテンタクルズ。

シンジはこのミズダコの水槽の前で椅子に縛り付けられていた。

ようやく目が覚めたシンジは自分の置かれた状況にやや慣れていた。

 

また誘拐か。

もういいよ。

 

シンジはコンラッドに気が付くとキッと睨んだ。

 

 

「まあまあそう怖い顔するなって!」

 

 

「アスカはどこにいったの。」

 

 

「別室だよ!ビビってガタガタ震えてるよ!ヒヒ!」

 

 

「どうせ、ミサトさんが助けに来るよ。」

 

 

「まあ、そうだろーね!」

 

 

「またお前は負けるよ。」

 

 

「かもしれんね。」

 

 

相変わらず会話にならないやつだ。

 

 

「なんで僕たちの邪魔をするの。」

 

 

「なんで?楽しいからさ…。」

 

 

「それ、本心?」

 

 

 

コンラッドは嘘と真実を話した。

他人の邪魔をするのは楽しい。

 

しかし、目的は違う。

こいつらの邪魔をしたいのではない。

このガキの父親とゼーレが考えている人類補完計画。

これには反吐がでる。

 

なぜか、人類を一つにするそうだ。

 

『一つにしたところで、相手の嫌なところも見えてしまうだけで意味なんてねーだろーが!!!』

 

コンラッドは養父であったキールに怒鳴り散らした。

 

彼が実の家族を殺してキールのところにいったのは、ゼーレたちの持つ力に魅入られていたからだ。

 

だが、俺の想像するゼーレと現実は違っていた。

ギラギラした野心とは縁遠く、形を変えても生きていたいという老醜の極みのような豚どもに支配された農園のようなものだった。

反吐が出る。

吐き気がする。

 

だが、キールは俺を殺せない。

俺に情があるからだ。

 

本当に一つになるなら、俺を中心におけばいい。

 

セカイは俺様のモノになるべきだ。

 

 

そのため、ネルフに的を絞った。

ネルフを攻撃し、挑発し邪魔をすることでゼーレに自分の存在を証明できる。

 

 

そして、その後ゼーレを乗っ取り俺こそが世界の王になるんだ。

 

 

「坊や、俺はねドラゴンになりたいんだ。」

 

 

「ドラゴン?」

 

「ドラゴン、知らんかね?ドラゴン、万国共通で力の象徴。その力で東洋では神、西洋では悪魔として崇められていた。」

 

 

コンラッドは幼いころからドラゴンにあこがれていた。

人々から恐れられ敬われるそんなドラゴンになりたいと思っていた。

やがて、それは映画の世界の怪獣になった。

自由気ままに暴れるゴジラに、空を飛んで街を破壊するキングギドラに。

あこがれるようになった。

 

やがてその憧れはゼーレになった。

 

ゼーレの暴力・権力・富⋯これらに憧れた。

 

だが、ゼーレの実態は違った。

 

そこには何もない。

 

さながら箱の中の砂のようなものだった。

 

リリスとアダム、それさえあれば世界を上手いように操れる。

否、世界を己の好きなように書き換えることができる。

 

 

 

「この地上、それは大きな力によって支配されている。それはなんであれ、そうあるべきしてそうなっている。…なのになぜ君達は有効に使わないんだ?その力さえあれば世界を征服することだってできる。なのになぜだ。」

 

「そりゃ…使徒を倒すため…。」

 

 

「それもあるかもしれない、だが本当は違う。そしてその理由はくだらない。だが俺はドラゴンになりたいんだ。つまり世界最強になりたいのさ。」

 

「はあ…。」

 

 

シンジは首をひねった。

このおじさんの言ってることはわからない。

でも⋯なんとなくだけど、この人はパワーに飢えた人なのはわかる。

 

 

「いってることがわからんか、まあいい…。俺はなそんな坊やが好きだぜ、なんせ無駄口を叩かない。それがいい。」

 

 

「僕はおじさんが嫌いです。」

 

 

「そうか、わかった。」

 

仕方ない、こいつはガキだ。

わからせるのは論より証拠だ。

 

 

「おい!」

 

 

コンラッドは命令をだした。

すると奥から、見知らぬ女性が男に引きずられてやってきた。

女性の顔はボコボコにされ、口と鼻から血が出ていた。

 

シンジは動揺した。

 

 

「え?」

 

 

「坊や、大人になれよ。大人ってのは自分の力量をわかってるもんだ。強い奴は弱いものを好きなようにあつかっていいんだ。こんな風にな。」

 

 

コンラッドは腕を伸ばし女の首をつかんだ。

 

 

シンジは動揺した。

 

 

「やめてよ、おじさん!やめてよ!」

 

 

静止はきかなかった。

 

 

「俺は殺さないさ…。俺はね。」

 

コンラッドは女性の首をつかむと、水槽の中に造作もなく捨てた。

 

 

「この水槽にはな、世界最大のタコがいるんだ。そいつはサメも殺して食っちまう。触手で生きた獲物を絞めて骨を砕いて散々玩具にしてその後食い殺すんだ。」

 

 

 

 

すると、水疱がぶくぶくとたつと血がぶわっと上がっていった。

シンジは顔を青くした。

こいつ異常だ。

 

 

「これが自然の摂理だ。世界はな、わかればわかるほど…嫌な物がみえるんだよ!それを受け止めろ。死を受け入れろ。そうすりゃ世界はより綺麗に見えるはずだ。理不尽で残酷で狂っているんだよ、この世界は!」

 

 

 

 

 

 

コンラッドはシンジをみていなかった。

シンジはわかった、こいつは何かに裏切られひどく傷ついている。

だから人を傷つけるんだ。

そして、それを心から楽しんでいる。

 

だけど、こいつの気持ちはわかりたくない。

わかりたくもない。

 

 

コンラッドは女を連れてきた部下に命令を出した。

 

 

「俺がもし戻ってこなかったら、そしてあの『女』がここに来たら、このガキをこの水槽の中へ落とせ。そしてお前は逃げろ。いいな。」

 

 

「はい。」

 

 

コンラッドはピンと指をはねるとシンジに向かい合った。

 

 

「そうだ、坊やお前のパパが本当は何をしているか知っているかな?」

 

 

「え?」

 

 

「今度会った時に教えてあげよう。それまで死ぬんじゃないぞ。今日は楽しかった。坊やと話ができてうれしかった。今日誘拐したわけはね、金じゃないんだよ。君とお話したかっただけなんだ。」

 

 

僕はうれしくもなんともないよ!!

シンジは言い出しそうになったが、言えなかった。

怖い。

 

 

 

「じゃあな、坊や。また会おう。碇シンジ君。どこに逃げても俺が追いかける。だから逃げるなよ。お前が逃げれば死体は増える。そしてお前を必ず最後に殺す。誰を殺しても何があっても必ず最後にズタズタにする…。後悔しても手遅れだぞ。」

 

 

シンジは名前を呼ばれて震えあがった。

 

あのおじさんは親戚のおじさんのように軽い。

だけど、軽いからこそ簡単に人を殺す。

そこが怖い。

 

 

怖い?

 

よくよく考えればこいつはただの男だ。

 

僕は使徒を倒してきた。

怪獣たちを。

 

 

こんな奴…ただの勘違い野郎だ。

 

 

 

 

「倒す。」

 

 

 

勇気を出して声に出した。

ミサトさんに出会って辛い目にもあった、だけど勇気をもらった。

僕は世界を守る。

 

 

「世界は僕が守る。」

 

 

コンラッドは足を止めた。

 

 

「ナニ?」

 

 

こいつは倒さなきゃいけない。

今度会った時、必ず仕留めてやる。

この男の歪んだ狂気に。

シンジはそう思った。

 

こいつはミサトさんも手にかける。

ペンペンも綾波もアスカもトウジも委員長も父さんも青葉さんも日向さんも副司令も…僕の愛するすべての人を。

 

こんな奴を放っておけない許さない。

 

僕の大事な人に傷つけさせはしないぞ。

 

 

 

「お前を倒す。僕は強くなってやる。」

 

 

「俺を?坊やが?」

 

 

「…必ず倒す!!絶対に!!!世界は僕が守る!!!僕はお前を許さない!!覚えていろよ!!コンラッド!!!お前が殺した人間のためにもお前を倒す!!覚悟しろ!!使徒を倒した後にお前を倒す!!」

 

 

叔父さんの言う通りエヴァが世界を支配できる力があるなら、僕はそれを正しく使う。

それはこんな悪人に世界を渡すためじゃない。

 

 

コンラッドは微笑みを浮かべた。

 

 

「倒す!?」

 

 

そうか、こいつ男になりやがった。

俺の足をナイフで刺したあの時、何かが変わったんだ。

ヒーロー様になったんだ。

クソ・ファッキン・ド・ヒーロー様に。

 

こいつぁ楽しい!!!

 

 

「ハハハハハハ!!」

 

 

男を上げやがったな、このド畜生が。

コンラッドは大きな笑いとともに涙が出てきた。

彼はシンジに少しばかり親愛が浮かんでいた。

 

 

「そうか、楽しみだ。また会おう。今度会った時はフレンチを食べよう。」

 

 

コンラッドは涙を浮かべた。

 

 

「死ぬなよ、シンジ。絶対に死ぬなよ…。死なれちゃ面白くない。簡単に造作もなく死なれちゃなァ。がんばれよ、絶対に。負けるなよ。あんなバケモノ連中になんか負けんじゃねェぞ!」

 

 

負けるなよ、その言葉コンラッドは特に強めた。

そうか、俺は息子が欲しかったんだ。

そして俺を殺してほしかった。

 

その息子がこいつだ。

 

 

「死なない!負けない!お前を倒すまでは!ぜったいに!」

 

 

コンラッドは中指をたてるとドアを蹴破り去っていった。

 

シンジは誓った。

 

この悪魔は倒さなきゃいけない。

こいつは人間じゃない。

ミサトさんのためにも、みんなのためにもこの悪魔は止めなければいけない。

例え僕が好きでも関係ない。

あいつを許さない。

 

 

一方、ミサトは水族館をみていた。

いつものように見張りは手薄。

 

まるで「攻撃は行けるけど、防御は弱い奴」だ。

あえて弱くしているのかも。

 

手持ちのハンドガンを持つと、周囲をにらんだ。

 

 

「加持くんいるんでしょ、さっさと出てこないと置いていくわよ。」

 

 

すると背後からガサゴソという音を立てて加持が姿を現した。

 

 

「すごいな、大したもんだ。」

 

 

「あんたと会ってない9年の間にあちこちで戦争してたのよ。」

 

 

「それで経験を積んでもう変わったわけだ。」

 

 

「あの子に会うまで私は復讐しかなかった⋯でも今は違う、あの子がいる⋯だから私は戦える。あの子のために私はもう一度人殺しにもなれる。復讐はしたい、でもそれ以上にあの子が…好きなの。」

 

「もう俺なんて眼中にもないわけだ。」

 

 

加持くん、それは…そうかもしれない。

でもそれは違う。

やっぱりあなたを愛してる。

でもそれ以上に…。

ダメだ、声に出して言おう。

 

 

「あなたのことは今でも大好きよ、でもそれ以上にシンジ君が好きなの。」

 

 

「なら仕方ないな。俺はお前を守るだけさ。」

 

 

「ありがと、これが終わったら酒奢らせて。」

 

 

「俺は安いビールじゃなければなんでもいいぜ。」

 

 

ごめんなさい、加持くん。

今でも大好き、でもあなた以上にシンジ君が好き。

彼を愛する力の方が強い。

これが恋か、親子か、姉弟か…わからない。

でも、彼の前では私はあの子のすべてになれるから。

女神なんかにはなれない、でも私は彼が好きなの。

 

 

「あなたはアスカを頼むわ、私はシンジ君を…。」

 

 

「じゃあ、生きて必ず会おう。」

 

 

「ええ、必ず…。」

 

 

そういうミサトを加持は見つめるだけしかなかった。

山の上、崖の上水族館が下にあった。

 

 

あいつは成長したんだ。

それを俺は見守る事しかできない。

あいつを守れるのはシンジ君だけだ。

元より、俺はあいつの父の代行でしかなかった。

 

それでいい、それで。

 

俺が助けるのはアスカだ。

 

あいつは俺が好きだ、あいつの愛には答えられない。

少なくとも今はな。

 

 

「アスカ、必ずお前も守ってやるからな。」

 

 

俺ができることはそれだけだ。

加持はそういうと手元にあるハンドガンを抱えて同じく崖を駆け下りていった。

 

 

ミサトはガレージの脇に構えてる車の影に隠れた。

ハンドガンを構えた。

特別性のサプレッサー付きだ。

 

シンジ君はこんな私好きじゃないだろう。

 

でも、彼を守るためなら鬼にもなる。

 

 

ミサトは銃弾を見張り数名に撃ち込んだ。

相手の頭を打ち破った。

 

 

「畜生!!!あの女だっ!!!」

 

 

男の一名が大声を上げた。

ミサトは無視してありったけの全弾を男たちに浴びせていった。

気が付けば死体の山だった。

 

シンジ君が今の自分を観ればどんな顔をするだろう…。

 

 

怖がるか失望するか。

 

 

いや、彼が自分を嫌おうとかまわない。

彼の命を救うためならば。

 

 

「ごめんなさい、シンジ君…あなたのために私は鬼になるわ。」

 

ミサトはハンドガンをホルスターにしまいなおすと、男の持っていたアサルトライフルを手に入れた。

水族館のドアを蹴破るとそこには何人もの守衛がいた。

手には銃を持っていた。

明らかにカタギじゃない。

 

「あ!お前は!」

 

 

ミサトは寸分たがわずアサルトライフルを撃ち込んだ。

ライフルの弾が水槽にぶち当たるのが目に見えた。

 

 

「ごめんなさい…。」

 

魚たちに謝った。

彼らは犠牲者だ。

 

 

仲間たちが何人か集まってきた。

ミサトは横っ飛びでスウェイすると、足場に身を寄せた。

そして、ライフルを取り出すと男たちに一心不乱に浴びせた。

複数の男たちはそのまま死んでいった。

 

何匹の魚が犠牲になった。

これがペンペンだったら…。

 

「ごめんなさい。」

 

また同じことを言った。

 

魚たち、愚かな人間をどうか許して。

ミサトはそう思い、許しを請うた。

 

 

そんな時だった。

 

 

「おねえサンだね。」

 

 

聞きなれた声が聞こえてきた。

前の中国人だ。

 

 

「ワタシのやり方わかってるよね。」

 

 

「銃無しでしょ。」

 

 

「坊やの居場所、タコの水槽前この下の階だヨ。でもあなた私倒せるかな?」

 

 

「あなたの名前聞かせて。」

 

 

「ウォン・リーよ、ヨロシクね。」

 

 

「私は葛城ミサト…。」

 

 

リーはいつものように青龍刀を持っていた。

怪鳥のごとき掛け声を上げるとバク転をしながら青龍刀を振りかぶった。

ミサトは男のように軽やかなバックステップをとると、青龍刀を避けた。

 

「いい動きだァ…。」

 

リーは感動していた。

ミサトはリーの青龍刀を持った腕の膝の部分に蹴りを軽く当てた。

 

 

「ぬ!」

 

リーは激痛から青龍刀を離した。

 

 

「強いネ」

 

 

そして、例のごとく前転すると足をそのまま浴びせ蹴りの状態でミサトの首にあてた。

 

 

「うっ!」

 

 

ミサトの首に激痛が走った。

そして、ミサトの首に激痛が走るとリーはトドメの蹴りを浴びせようと蹴りを入れてきた。

これが次当たれば負ける。

そう思いミサトはふわっと飛び上がると、男がしたように空中で一回転をした。

 

 

 

「なに!」

 

 

リーは驚愕した。

まさかこいつ俺のマネをするとは…。

 

 

そのまま浴びせ蹴りをリーの側頭部に叩きこんだ。

 

 

「おぶっ!」

 

 

ミサトの渾身の一撃はリーの頭蓋骨に響き、完全にノックアウトしたのだった。

 

 

「見よう見まねよ。」

 

 

ミサトはリーが教えた図通りに進むべく階段を下りていった。

懲りないやつ、でもあいつの蹴りはすさまじい痛さがある。

一歩違えば死んでいたかも…。

 

 

 

一方加持も次々と刺客を倒して進んでいった。

一人のガードを捕まえると、両足に銃を浴びせた。

そして、引き摺ると顔をつかみ壁にたたきつけた。

 

 

 

「攫ってきた少女はどこだ。」

 

 

刺客の一人をとらえると、顔面を何度も何度もコンクリートの壁に打ちぬけた。

加持は笑っていなかった。

 

 

加持らしい笑顔は抜けていた。

 

 

 

 

「サメの水槽の近くだ。」

 

「そうか、じゃあな。」

 

 

そう言い残すと、無表情に男の頭を銃で撃ちぬいた。

感情が湧かない。

感情らしい感情は15年前に死んだ。

葛城との生活で戻ってきたはいたが…。

それもだいぶ前だ。

 

加持は荒事が好きではない。

 

体格はいいが、実は腕相撲はミサトに勝ったことがない。

 

しかし、並みの男以上の腕力はある。

 

暴力よりも交渉が自分のスタイルだ。

 

だったはずだ。

 

 

 

「こんなマネは俺のスタイルじゃないな…。」

 

サメの水槽、この近くだな。

加持はサメの絵が描かれた水槽の近くにたどり着いた。

するとそこにはターバンを巻いたインド風の男が立っていた。

年齢は老年だろう。

冬月と同年代にみえた。

 

しかし、手にはサーベルがあった。

 

「加持さん!!」

 

 

アスカがいた。

両腕を縛られているが、無事だ。

 

 

「アスカ、無事か。」

 

 

「人の心配をしている場合か、君は。」

 

 

「そういうアンタはどうなんだ。」

 

 

「まあ、銃を置け。ここからは『男の戦い』だ。」

 

 

「サーベルを持ってるアンタが銃を置けとはね。」

 

 

老人はニヤリと笑うとサーベルを持ちとびかかった。

加持はすばやく脇にそれ、サーベルをかわした。

サーベルは壁に刺さり、抜けない状況になった。

加持は銃を撃とうと引き金に引こうとした瞬間だった。

老人は手刀を加持の肩に叩きこんだ。

 

「ぐあ!」

 

加持は悲鳴をあげ、肩を抑えた。

その拍子で銃を落としてしまった。

 

「我が祖はトラ、我が名前はラー・シン!」

 

シンと名乗る老人は手で加持の首をつかんで地面に引き倒した。

加持が想像してる以上に男の力は強かった。

 

 

「わしは60を超えてるが、いまだに現役!インド最強とはわしのことよ!」

 

 

加持は地面に倒れ伏し、シンの怪力にしばし苦しめられていた。

手を伸ばし何かをつかもうとしていた。

しかし男の力は見る見るうちに強くなっていく。

 

「ぐあっ!」

 

 

意識が遠のいていった…。

なんて力だこの爺…。

首を締め上げる力、非常に強い。

 

 

 

 

「我が腕はトラの爪よ、このまま息果てるがよい。」

 

 

アスカはあわてていた。

加持が死んでしまう。

このままでは…。

 

「加持さん‥。」

 

 

アスカは足が自由なことに気が付いた。

 

 

加持さん、私が守る番よ。

正直怖い、でも加持さんが死ぬ方がもっと怖い。

 

 

「こん畜生!!!」

 

 

ジャンプするとシンと名乗る男の耳に噛みついた。

老人は予想外の攻撃だったが、冷静に腕を離しアスカの腹部に膝をうちあてた。

 

 

「哀れな小娘、愛は汝の心を弱めると知れ。」

 

「うっ!」

 

 

アスカは地面に倒れた。

だが、シンの動きに隙ができた。。

加持は全力の力で起き上がり、シンの腕を両腕で解いた。

 

 

「貴様!まさか解くか!」

 

 

シンの怒声が響いた。

 

加持は余裕がもどってきた。

 

 

「アスカ、ありがと。」

 

 

そして、そのままグーパンチをシンの顔面めがけて叩き込んだのだった。

シンは金歯が折れると、そのまま地面に倒れた。

 

 

「レディに手を出すなんてインド最強が聞いてあきれるな。」

 

 

加持は倒れているアスカを起こした。

そして、ナイフで両腕を縛っているロープを切った。

アスカは思い焦がれた加持の胸の中へ飛び込んでいった。

 

 

「大丈夫か?アスカ、乱暴されてないよな。」

 

「ううん、大丈夫!だって加持さんがいるもん!へーき!ナニもされてないよ!」

 

 

でも、怖かった。

特に電車にいた大男。

ただ者じゃない。

あれは私たちとは違う世界の住人。

悪魔だ。

 

「前にドイツでこういうことあったよな。」

 

 

そんで俺が助けに行って、コイツが俺に惚れたんだっけ。

最初はクソみたいに敬遠していたのにな。

まあ、今となってはいいもいでだ。

 

 

「あの時みたいに助けにくるって、信じてたよ!」

 

「あの時のほうが楽だったな、今回は焦ったよ本当。」

 

「まーた、余裕だったんでしょ。」

 

「そんなことはないさ、無事でよかった。海老天でも食うか?」

 

 

すると、アスカは気が付いた。

背後に銃を持った刺客がいた。

加持を狙っている。

 

「加持さん!!!」

 

 

アスカは一回転すると加持を庇った。

銃声は響いた。

加持は一瞬何が起きたかわからなかった。

 

アスカの背中に大きな穴と血が出ていることに気が付いた。

 

 

「アスカ!」

 

 

アスカが死ぬなんて考えたくない。

 

 

 

「この野郎!!!」

 

加持はナイフを投げると、男の胸に突き刺した。

気が付いた、その時加持の顔は怒りで満ちていた。

俺に感情があったなんてな…。

 

男は胸を抑えると地面に倒れそのまま息を引き取った。

 

 

「アスカ・・・・アスカ!!!なぜこんなことを!!」

 

 

そういうとアスカは笑顔で答えた。

 

 

「だって…好きだもん…加持さん……。」

 

 

加持は頭を抱えた。

畜生…。

なんで俺のために…。

俺はこんなことされる人間じゃないんだ。

セカンドインパクトの時に、ガキの時に夜盗をしていた。

それが国連軍の兵士にバレて捕まった際に仲間を売った。

その結果、仲間と弟を殺された。

その時、俺は人間じゃなくなった。

人間らしい幸せなんて俺に必要じゃない。

 

死ぬべきはアスカじゃない、俺の方だ。

 

 

そういえば、アスカの笑顔に癒された自分がいた。

俺を慕ってくれる数少ない存在。

プレイボーイ気取りのできそこない二枚目半を許してくれるアスカ。

 

そんなアスカが死ぬなんて…。

否、させない。

 

 

 

「バカ!バカアスカ!俺のために…死ぬんじゃないぞ!死んだら許さねえぞ!死んじまったらもうデートしねえぞ!わかってるな!」

 

 

シンジ君は葛城に任せよう。

俺はアスカを助ける。

加持はアスカを抱えると、そのまま外に走っていった。

 

 

「絶対に助けるからな、アスカ!」

 

 

加持は気が付けば泣いていた。

いつだろう、最後に泣いたのは…。

 

 

 

ミサトはその頃、何人も倒していき、ようやくタコの水槽の近くにたどり着いた。

シンジは椅子に縛られたままだ。

 

「シンジ君を離しなさい!」

 

ミサトは銃を構えた。

だが、男は素早かった。

シンジの乗った椅子を蹴り飛ばすとそのままタコの水槽の中へと落としていった。

シンジは事前にわかっていたので冷静に息を吸い込んでいた。

 

ミサトが以前訓練で教えてくれたやり方だ。

攫われて水の中に落とされそうになったたときは息を吸い込む。

 

 

 

「じゃあな、お姉さん!」

 

 

男はそういうとダッシュで逃げだしていった。

速い。

だが気にすることではない。

ミサトは大きく息を吸い込み、ジャケットを脱ぐとタコの水槽の中へと飛び込んでいった。

 

シンジ君は…いた!

 

椅子に縛られたままだ。

素早くナイフを取ると、シンジの方に向かって一目散に泳いでいった。

シンジをつかみナイフで手足のロープを切り裂いた。

 

 

 

無事だった。

 

長かった道のりが…。

 

だがシンジの息が持たない。

ミサトはシンジの顎をつかむと、頬を優しくなでた。

一生こうしていたいが、そうはいかない。

 

 

ミサトはシンジの唇に自分の唇を重ね、息を吹き込んだ。

キスだ。

ミサトはもっとロマンチックな状況でシンジの唇を奪いたかった、だがそれもできなかった。

 

 

 

シンジの顔は赤くなった。

これって、ファーストキス・・・・?

 

シンジをつかむとミサトは水面へと向かっていった。

水面に上がると、シンジを近くの足場へとむかわした。

 

 

「シンジ君…無事だったのね。」

 

そう言おうとした矢先だった。

足元に何かが絡みつく気配を感じた。

 

 

触手、そうかここはオオダコの水槽!

 

オオダコの怪力はミサトの足を引き込んだ。

 

 

「み、ミサトさあああん!!」

 

シンジの悲鳴が聞こえた。

ミサトは冷静に大きな息を吸い何とか酸素をいれようとした…。

だが、オオダコの触手はミサトの首と右腕にも絡みついた。

触手はヌメヌメとミサトのノースリーブ状の腕に絡みついた。

 

「・・・!!!」

 

苦しい。

首に絡みつく触手が特にすごい。

ミサトは思わず口から水疱が垂れていくのを感じた。

 

 

 

 

大きさは9m近くある。

 

凄まじい大きさだ。

 

オオダコはミサトの腕と首を締め上げるとそのまま海水の中へと引きこんでいった。

まずい…殺される。

 

触手は強くミサトを締め上げていった。

吸盤は張り付き、はがれそうにもない。

 

 

 

 

でも、シンジ君が無事でよかった。

 

ミサトの意識は遠のいていった。

 

 

シンジは目の前で起きたことが信じられなかった。

あのオオダコにやられる。

あの女性のようにミサトさんは殺される。

 

ダメだ…。

 

シンジはふと、近くに消火用の斧があるのが見えた。

 

靴を脱ぎ、思いっきりたたきつけると斧を取り出した。

 

 

「これならミサトさんも戦えるはず…。」

 

 

 

 

シンジはそういうと、斧を思いっきり水の中にたたきつけた。

 

それはミサトも見ていた。

ミサトはそれを見逃さなかった。

 

余っていた腕で斧をつかむと思いっきり自身の首をつかんでいたタコの触手を切り裂いていった。

タコは血を流し、ミサトの足や腕をつかんでいた触手を離すと水槽の地下へと焦って逃げていった。

 

 

ミサトは素早く逃れると、水面に浮かび上がっていった。

 

 

大きくせき込み首を抑えると足場へと進んでいった。

 

 

 

「ごみん、まーた助かった!ありがとう!」

 

 

「ミサトさん…。」

 

 

「大好きよ、シンジ君。愛してる。」

 

 

ミサトはシンジを優しく抱きしめた。

シンジはミサトが無事なことを安心すると、冷静に言った。

 

 

「騙されないよ、加持さんのが好きなんでしょ?」

 

 

「加持くんも好きだったよ、でもねシンジ君はその倍以上に大好き。」

 

 

ミサトはそういうと両手で優しくシンジの顔をつかむとシンジの唇と自身の唇を重ね合わせるキスをした。

 

「ンんんんんん!!???!!!!!!!!…」

 

シンジは顔が赤くなった。

ミサトは1分以上続いたキスからシンジを解放した。

そして、股間が膨張するのを感じた。

 

 

「ぼ、膨張してしまった…恥ずかしい…。」

 

「シンジくん、私は大好きって言ったよね。あなたは…どう?」

 

 

アスカが言っていたな、早いうちに告白しろって。

 

 

「僕はミサトさんが好きです、愛してます…。でもこれは使徒を全部倒してから言いたかったな…。」

 

 

ミサトは心底シンジをかわいいと思い、何度も何度もキスをしようとしたが…。

ふとここは監視カメラがあることを思い出し、その場を去ることにしたのだった。

 

「アスカは無事かな?」

 

 

シンジはふといった。

ミサトはジャケットを羽織ると、ケータイの存在に気が付いた。

するとリツコからメールが届いてるのに気が付いた。

 

 

『アスカ、撃たれてる…でも無事。あなたたちは?ペンペンが夜泣きして寝れない。もうこのまま仕事いかないから。』

 

リツコからだ…。

 

 

「アスカはケガしてるだけだって、家に帰ろ。」

 

「うん!でも、ミサトさんケガしてないよね…また…。」

 

「首が痛いかも。」

 

 

「それ、折れてない?」

 

「病院いこっか…。」

 

 

 

シンジとミサトはお互いの手を握るとそのままミサトの愛車のアルピーヌのもとへと向かうのであった。

もう朝になっていた。

朝日が差し込んでいたのだ。

 

 

その頃、近くの病院ではアスカが目を覚ましていた。

近くには疲れて椅子の上で眠っていた加持がいたのだった。

その寝ている顔は普段のハードボイルドな加持とは想像もつかないマヌケで愚かそうな寝姿だった。

 

 

「加持さん…。」

 

 

アスカの声に目を覚ました加持はうっすらと目を開けた。

 

 

「アスカぁ?無事でよかったぁあ。・・・・昼まで寝かせてくれ。おやぅみ・・・・。」

 

 

そういうと、また加持は大きないびきをたてながら眠りの世界に入っていった。

アスカはこんな加持の間抜けな姿をみてさらに愛おしい思いにかられるのであった。

加持にもアスカに対して少し何か揺れるものを感じていた。

それ以降、アスカとの付き合いを真剣に少し考えなおすようになった。

 

 

幸い、ミサトにケガはなかった。

首に軽い打撲と傷を負っている程度だった。

加持はミサトを恋人ではなく相棒として改めて認めることにした。

しかし、奇妙なことにリーとシンは姿を消していた。

奴らとまた会うことになる、ミサトはそう誓った。

コンラッドも同様だ。

 

リツコはミサトがシンジとキスをしたことを知ると、ミサトからシンジを奪おうとゲンドウに提案したがゲンドウはそれを知ると信じられないような優しい微笑みでこういった。

 

 

「愛の形は人それぞれだ。それでよい。」

 

 

それを脇で聞いていた冬月は呆れた声をあげながらも、ふと感じた。

人類補完計画以外の形で幸せを見つけられるならそれはこいつのためなのかもと‥。

リツコはゲンドウのいったことを思い返すと、さらにゲンドウのことが好きになっていくのを感じた。

ゲンドウはメールでシンジに返した。

 

「よくやったな、シンジ。」

 

 

 

 

その頃、松代。

三号機が運ばれていた。

 

それを天でコンラッドはみていた。

その手の中には「バルディエル」と書かれていたサンプルがあった。

 

 

「碇シンジ、お前のすべてを奪ってやるぞ。」

 

 

コンラッドはほくそ笑み、邪悪に嗤ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

続編はやったほうがいいですか?よくないですか。

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