ミサトさんを好きになってしまったシンジ君のお話 作:井上ああああ
シンジとミサトがデートにいってから1ヵ月近くがたった。
この間に使徒は二体がきた。
一つはコンピュータウィルスのような使徒、イロウル。
リツコの活躍のおかげでエヴァが動かなくても倒すことができた。
シンジはその場に居合わせたことはなかったが、青葉にギターを教わった際に「俺もプログラムを組んで活躍したんだ」と散々自慢されたことを覚えている。
二つ目は虚数空間という謎の別宇宙を操る使徒、レリエル。
シンジと初号機はレリエルの罠にひっかかり、虚数空間の中へと引きずり込まれた。
その中でシンジはもう一人の自分のようなものと会話をした。
リツコにその話をしたところ、「使徒がコミュニケーションを図ろうとしたのではないか」と教えてくれた。
その中で、シンジは確かに母親に会ったような気がした。
父が自分を避けていたのではなく自分が父から逃げたことも…。
初号機が暴走して使徒を内部から引き摺って逃げる事に成功したらしい。
シンジは気が付けば何とか外にでることができた、ミサトが自分に縋りつきながら泣いて自分の無事を喜んでいたのをうっすらみて自分はミサトに愛されているんだなとつくづく感じた。
アスカの話を聞く限りでは初号機を取り戻すために、シンジを犠牲にするか否かでミサトとリツコが揉めてミサトが平手打ちにしたとも聞いた。
シンジはリツコと仲のいいミサトの笑顔が大好きだっただけに少し悲しい気分になった。
レリエル戦から2週間ほどたった。
ネルフ本部で青葉にギターを教わりながら、シンジは話をしていた。
「リツコさんとミサトさんが揉めてるって本当ですか?」
「らしいよ、俺はみてねーけど。」
青葉は嘘はついていなかった。
だが、あり得ない話ではない。
ミサトはシンジに対して非常に入れ込んでいる。
家族以上の愛情をシンジにもっているからだ。
青葉は知っているが、リツコもなんだかんだでシンジのことは気にかけている。
「赤木さんからすれば初号機優先は科学者として当たり前、葛城さんは軍人だからパイロットの生命が最優先…ってことかな。大人の事情だよ。俺もあんまわかんねーけどな、所詮俺下っ端だし。これといった技能もねーしな。」
「ミサトさん、僕のことそんなに大事にしてくれてるんだな。嬉しいな。」
「日向が正直嫉妬してるよ、君のこと。」
「本当ですか?」
「葛城さんと暮らしたかったって…。」
「日向さんやっぱミサトさんが好きなんだな。」
日向さんにも、マヤさんにも聞けない。
日向さんはミサトさんの、マヤさんはリツコさんの部下だ。
それぞれ思い入れがあるからバイアスがかかる。
でも、青葉さんは違う。
そんな話を青葉さんなら聞けるかもしれない。
シンジはそう考えていた。
「あっ、そうそうシンジ君。聞いた?松代で参号機の実験だってさ。」
「参号機、ああトウジがパイロットをするやつか。」
シンジはこっそりミサトの執務室でトウジがパイロットに選ばれるという報告書を読んでいた。
ミサトさんは最近二人っきりの時間を大事にしてくれる。
ミサトを待っている間にこっそりミサトの執務室で書類をみていることがある。
「なんだ、シンジ君の友達がパイロットなのか。」
「うん、明るくていい奴だよ。青葉さんとも仲良くなれると思う。」
「そいつぁいいなー、歌がうまいやつがいい。バンド組んで仲良くしてーもん。じゃあ続きしようか。」
シンジはトウジもパイロットになれるならいいのになと胸をワクワクさせていた。
そんな青葉とシンジのことを加持は見つめていた。
京都で以前関係者から話を聞いた。
マルドゥック機関、パイロットを選出するいわゆるダミー団体。
シンジ君やアスカの通う中学校こそが実はパイロットを選ぶ、いわばスカウト施設のようなものだった。
アスカと机を並べる生徒もシンジ君と笑い合う生徒もみんな候補者だ。
加持はミサトの部屋へと向かった。
「頼まれてたやつもってきたぜ。」
「ありがとう。」
ミサトは始末書に追われていた。
「やっぱり、シンジ君の通う中学校こそが本当のマルドゥック機関だったってわけさ。」
「じゃあ洞木さんや相田君も…。」
「ああ、お前の昇進祝いに来てた子か…間違いなく候補者だ。」
加持は思い出したようにスーツケースから別の書類を取り出した。
「あと…この書類にも時間があれば目を通してくれ。」
「ありがとう、加持くん。」
「この組織の裏で隠れているものは何なのか俺たちも知る日が来てる。」
「そうね‥。」
以前、ミサトは加持とともに地下にあるアダムをみた。
仮面をした白い巨人。
だが、ミサトは南極で観たそれとは形状が違うように思えた。
「なんとなくだけど、地下にあるあれ…アダムじゃないようにみえる。」
加持は黙った。
まだすべてを知るには程遠い。
「あ、そういえば松代に出張に行くんだろ。なんか土産買ってくれよ、俺とアスカの分。できればシャツがいいかな。」
加持は道化じみた顔でそういった。
最近のミサトはピリピリしすぎだ。
「ペアルックはやめた方がいいと思う。」
「あのな、そうじゃなくて…。」
加持は焦って訂正した。
その顔は少し困惑していた。
ふと、時計を見ると時間が過ぎていた。
「ごめんごめん、アスカの送迎いってくる。」
「ありがと、加持くん。」
「あとそうそう、お前最近根詰めすぎだぞ。遊びにいったらどうだたまには・・・。」
「そうね・・・。」
またシンジ君と外食でもいくか。
「加持くん、アスカとごはんたべてくんない。あたしシンジ君と遊んでから帰るから。」
「任せとけって。」
加持はほくそ笑んだ。
やはり、あいつにはシンジ君が似合う。
俺はあいつにとって過去の男のほうがいい。
その頃、第一中学校。
鈴原トウジが物思いにふけっていた。
シンジには黙っていたが、エヴァのパイロットに選ばれた。
あいつにはどうしてもいえなかった。
これがなぜなのかわからない。
繊細な部分があるシンジにもしも、自分がエヴァのパイロットになると明かせばどうなるかわからないからだ。
友人を思っていえなかった。
仕方がないのでアスカに相談に乗ってもらうことにした。
「惣流、大事な相談があるねん。あとで屋上にきてくれ。」
思い切ってそういってみた。
真剣な表情で聞いてみた。
すると仲の悪いアスカはバカにした態度ではなく真剣な顔で一言「わかった。」とだけいった。
洞木は習い事があるので先に帰ってしまったのだ。
もしも彼女がこの状況をみたら勘違いするだろう。
当然、ケンスケにも言えない。
あいつはパイロットになりたがっていたが、できずにいた。
親がネルフの関係者なのに…。
すると奥上に惣流・アスカ・ラングレーがきた。
「話って何。」
ケンスケはアスカに惚れてしまったらしいが、なんとなくその理由がわかった。
夕焼けに照らされたアスカの顔は美しかった。
「なあ、惣流…。俺な…。」
いつものワシじゃない。
俺だ。
アスカは驚いた。
ふざけた鈴原じゃない、真剣な顔だ。
「なあに?」
真剣な表情の人間をバカにする気にはなれない。
アスカは真剣に聞いた。
「何かあって呼んだんでしょ、言いなさいよ。このあたしが相談相手になってあげるわ。」
もしかして、プロポーズじゃ。
断ろう。
ヒカリに申し訳ない。
それにあたしには加持さんがいる。
そうアスカが早合点した先であった。
「エヴァのパイロットに選ばれたんや。」
「え?嘘…。」
アスカは面食らった。
マジで?
こいつが参号機パイロットなの!?
「シンジにはいうなよ。あいつには繊細なモンがあるから。ミサトさんにも俺からいうて黙ってもうたんや。」
また一人称が俺になってる。
素の彼はこうなんだ。
「参号機?」
「うん。」
屋上で夕焼けに照らされたトウジの背中は小さくみえた。
怖がってるんだ。
そりゃそうだよね、誰だって不慣れなことは怖いもん。
「なあ、エヴァのパイロットになるって怖いんか?」
怖いか?
怖くないといえばうそになる。
だって、死ぬかもしれないもん。
アスカは思い切っていってみた。
「そりゃ怖いわよ。」
「そうか、お前が怖いんだったら俺は…ワシは…どうなるんや。」
「心配しなくてもいーわよ、何かあったらあたしが守ってあげるから。じゃなきゃヒカリに申し訳ないじゃん。それに物事には慣れってもんがあるのよ。」
「そうか、怖いんか。」
アスカは思わず笑った。
「大丈夫大丈夫、あたしに任せなって!ここだけの話シンジもこのアタシがいなけりゃ死んでた時はあったんだよ。」
「お前に相談してよかったわ…なんかちょっと楽になったかもしれん。綾波は何を考えてるかわからんところあるし。シンジには言えんし、誰にもいえんかったんや。」
「あっははは!アンタさぁ、人を選ぶ目ってもんがあるわね。」
アスカはトウジの肩をポンと掴んだ。
「そういや、シンジと誰が付き合ってるか気になってたわよね。」
ごめんね、シンジ。
バラしちゃうかも。
だって、コイツが気にしてるんだから言ってあげなきゃ助けになんないよね。
それに、いずれ仲間になるんだから不安は一緒に共有しないと。
こいつに勇気をあげたい。
だから許してね。
「あれね、ミサトなの。」
トウジは目を点にした。
「・・・やっぱそうなんか。昔から怪しいと思ってたんや。あいつが一回ここを去ろうといった時なんか駅まで追いかけてきたんやであの人。好きなんやったらそりゃ必死になるよなあ。」
おもえば家の中に二人だけで住んでた。
そりゃそうなってもおかしくはないわな。
トウジはそう思った。
「ミサトはシンジが大好きだもん、なんで大好きになったかわかる?あたしはね、あいつがエヴァのパイロットになったからだと思うんだ。だからアンタもその気になればヒカリがさらにあんたにホレちゃうかもよ!」
アスカなりのハッパだった。
これでトウジが勇気を出してくれたらいいのに。
「そ、それほんまか?」
トウジに笑顔が戻ってきた。
いい傾向だ。
かわいい後輩の面倒はみてやるのがエリートであり、先輩の役目。
「で、ヒカリにはいったの?」
「いわなアカンか?」
「そりゃ行った方がいいに決まってるでしょ、アンタバカぁ?」
「じゃあ、言わなあかんか…。」
「しゃべってよかったでしょ、これからが本番よ。頑張りな。」
すると、屋上に女教師がやってきた。
「惣流さぁーん、お迎えがきたわよ。」
「っはぁーい!」
アスカは振り返った。
「あといっておくけど、アンタにはぜーーったいに負けないからね。覚悟しなさい。バカ後輩。」
口調はきつめであったが、顔は笑顔だった。
それに対してトウジも笑顔で返した。
「上等や、クソ惣流先輩。」
トウジは映画でみた中指をたてるポーズをとると、アスカを帰したのであった。
アスカも笑顔であった。
そうか、あいつも怖いのか。
じゃあ仕方ないな。
怖くても仕方ない、だってあいつが怖いなら俺だって怖い。
でも、怖くても俺には妹サクラや委員長を守るという約束がある。
そのためならエヴァのパイロットになるのもかまわない。
トウジはケータイを手に持つと電話をかけた。
留守電だ、かまわん。
残そう。
「あのな、委員長。わしエヴァ参号機のパイロットになるんや…シンジにだけはいわんといてくれよ。」
トウジは思いのたけをぶつけた。
想い人のために。
ミサトはシンクロテストしに来たシンジを執務室で待った。
シンジの成績はいろんな意味でいい。
すこぶるいい。
ミサトはそれが心配だった。
私がいる事でエヴァへの依存が強まっていく。
あの子にはせめて自由な人生を味合わせてあげたい。
人は愛をつないでいく、そこから歴史を作っていった。
人の歴史は愛だ。
神話もそうやってできていった。
誰かが愛を教えて、また愛を産む。
私はあの子に愛を教えたかった、そして勇気を。
それがあの子への鎖になるなら…解いたほうがいいかも。
「そうやって捨てる気ね。」
思わず声に出てしまった。
「一度彼を乗せてしまった船、最後まで見守ろう。彼がまた、やめたいというまで…。」
ミサトはシンジと行くためにファミリーレストランの予約をした。
私は彼の女神にはなれない。
ならせめて、彼を受け止めてあげたい。
一緒に寄り添い、彼が逃げるまで私から飽きるまで寄りそおう。
ふと、外を見るともう夜になっていた。
すると、シンジがやってきた。
「ミサトさん、お待たせ!」
「おっそいわよ、シンちゃん。早くレストランに行こ!」
「うん!」
ミサトはシンジの腕をつかみ手を組んだ。
「あっ、ミサトさん…プレゼントがあるんです。」
「えっ、プレゼント。」
ミサトは思わず顔が赤くなった。
すると、どこからかシンジは月のようなオブジェをかたどったイヤリングを取り出した。
シンジの顔はミサトより赤くなっている。
「父さんがこれ、母さんに買ったっていってて…。」
思わずミサトはシンジを抱き寄せた。
「シンジ君…。」
ごめんなさい、シンジ君。
アタシがバカだった。
鎖なんて思ってごめんなさい。
あなたは私のことが好きなんだもの。
それは鎖なんかじゃない。
シンジはミサトの胸と温かい手の感触を感じた。
そして、シンジはそっと、ミサトの背中を優しく抱き寄せた。
「ミサトさんが大好きです…。」
月がシンジの細い首筋をうつした。
まるで月がシンジを守るように…。
こんな細い首の男の子に世界を守ってもらってる。
ワタシだけでもこの子を守れるなら釣り合いはとれる。
ミサトは思った。
このまま時間が止まってしまえばいいのに。
世界中の時をとめて、このままずーっと閉じこもっていたい。
二人のままで。
ミサトは目を閉じると、シンジとそのまま抱擁をしあったのだった。
ゲンドウはそっと、ミサトに抱き寄せられるシンジをみていた。
「よかったな、シンジ。」
あいつは大人になった。
もう父などいらんのだ。
ヤツの好きにさせよう。
「ユイ、お前も満足だろう。あいつは幸せだ。」
だが、俺のした罪はどうあがいても逃げられるものではない。
何よりも葛城ミサトの父を欺き、利用したこの罪を知れば俺は殺されるだろう、あの女に。
だが、それもいい。
俺がいればシンジは傷つくが、あいつといると癒される。
なら、癒し合えばいい。
それでシンジが幸せになるならば…。
やはり、俺はシンジにとっていらないのだ。
ヤツ、葛城ミサトが真実をわかるように仕向けよう。
そして、彼女の裁きを受け入れよう。
シンジが幸せになるにはそれしかない。
ゲンドウはひっそりと去っていった。
同刻、駅近く。
洞木ヒカリは塾を終え帰ろうとしていた。
いやだな、先生こんな時間まで残すことないじゃない。
ヒカリはそうおもった。
そんな矢先だった。
ふと、目の前に体格のいい白人の男がやってきた。
「ドモ、すいません…公園はどこにありますか。」
あ、きっとネルフの人だわ。
新しい人なのね。
ミサトさんの友達か何かだわ。
だってこんなに体格がいいもの。
鈴原の従兄に襲われたあたしたちを助けてくれたあの人は凛々しくて美しくてカッコよかった。
あんなお姉さんになれたらいいな。
ヒカリはそう思い、満面の笑顔で答えようとした。
「えーっと、この先を…。」
だが、次の瞬間だった彼女の首筋に凄まじい電流が走り一瞬でヒカリは気を失ったのであった。
「すまねェな…お嬢ちゃん。」
黒髪で蒼目をした巨漢。
マーカス・コンラッドはほくそ笑んだ。
月あかりはマーカスを妖しく映した。
ヒカリはコンラッドの部下の手で車に運ばれた。
「吹けよ風、呼べよ嵐、月よ…俺を色濃く美してくれ。」
車の中でコンラッドはシューベルトの魔王を流した。
まるで冥府の馬車を引くがごとく、ヒカリとコンラッドを乗せた車は動き始めたのであった。
続編はやったほうがいいですか?よくないですか。
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やったほうがいい
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やらなくてもよい