ミサトさんを好きになってしまったシンジ君のお話 作:井上ああああ
初号機がゼルエルを倒して1ヵ月ほどたった。
ネルフ本部はかなりの修復に時間がかかるようになった。
ミサトも当然仕事量が増えた
アスカとレイは重傷を負って、今でも病室にいる。
アスカに至ってはまだ意識が戻っていない。
第三新東京市の修復費請求、エヴァの修理費請求、各方面に対する始末書。
これ自体は昇格したことから、増えることは本能的にわかっていた。
突如空中から降ってきた四号機の放ったロンギヌスの槍の影響で、なんとか初号機は沈黙した。
今地下にいるアダムに刺さったロンギヌスの槍とは別のモノ、どうやらゼーレはすでにロンギヌスの槍の量産に成功していたらしい。
だが、ミサトは不思議に思った四号機はなくなったはず。
そして、あのフィフスチルドレンとは何者なのか。
詳しくはわからない。
そして、彼女にとって心にとっかかりが残ったのはたった一つ。
初号機からシンジが返ってこないこと。
400%を越えたことにより、シンジは初号機と同化してしまった。
エントリープラグの中にはシンジの衣服のみが浮いていた。
初めて観た時、ミサトはまたリツコに当たり散らしてしまった。
「シンジ君は一体どうなったのよ!」
ミサトはリツコに思わず平手打ちをしてしまった。
リツコとミサトの仲は再び悪くなったが、リツコはある提案をした。
それがサルベージ計画。
以前、エヴァ初号機の中に消えてしまったシンジの母親であるユイを救うために行われたが失敗ししたもの。
ミサトは拘束されてコアがむき出しになった初号機をみつめた。
シンジ君にとってはあのまま中にいたほうがいいかもしれない。
なんとなくだがそう思った。
外の世界にいてもネルフや父ゲンドウを恨む人間の悪意にさらされ、友人を殺してしまった初号機に乗って戦わなきゃいけない。
これが地獄といわずに何を地獄というのだろうか。
私という鎖からも解かれた今、本当の母親とあそこの中で暮らしているのだ。
それがどれほどシンジ君にとって幸せなのか。
否、でも寂しい。
もう一度彼をこの胸に抱きたい。
彼が顔を赤らめるあの表情が、さわやかで割れてしまいそうな笑顔が。
みれるならなんでもする。
アスカは入院生活がまだ続き、ペンペンもそう遠くない未来に海洋学者の従姉妹の家に疎開させる予定でいる。
元々実験動物に過ぎなかった彼を同情し、引き取ってしまった。
引き取ることで心の隙間を埋めようとしていた。
でも、これ以上巻き込むことはできない。
シンジ君の同級生たちもほとんどは疎開するだろう。
傷ついた洞木ヒカリさんもエヴァのパイロットになりたがっていた相田ケンスケもいつか遠くへ疎開するだろう。
いつかはわからない。
あれ以来、洞木さんとはあっていない。
精神衛生上に何か問題がなければいいけど。
すると、近くから日向マコトがきた。
表情が明るい、朗報だ。
「葛城さん、アスカが目を覚ましました!」
この1ヵ月の間、アスカは意識が戻らなかった。
それがようやく戻った。
脳に激しいダメージを受けて、植物人間のようになっているともいわれていたがようやく意識が戻ったのだ。
「よかった……」
ミサトは少し表情が柔らかくなった。
しかし、二号機は修復が難しいレベルの損傷を受けている。
今動かせるのはあの不気味な四号機だけ。
あのフィフスチルドレン、薄気味の悪い少年。
送ってきたキール議長はなんのために送ったのだろうか。
ふと、リツコが近寄ってきた。
「ミサト、始めるわよ」
「わかったやりましょう」
サルベージ計画がようやく始まる。
待ってて、シンジ君。また会えるから。
ミサトは心の中でそうつぶやいた。
その頃、アスカの病室では加持がいた。
「アスカ、元気そうでよかった」
「倒したの?」
「初号機がな」
「誰が乗っていたの?」
「シンジが……」
あいつは戻ってきたのか。
バカシンジめ、私がお膳立てしてやったのにのこのこ戻ってきていいところ盗みやがって。
まあ、でもみんな助かったんだから今回は勝ち星を譲ってやるか。
「よっぽどあいつ、ミサトが心配だったのね」
「かもしれないな」
あの二人はいわば磁石のようなもの、お互いに引き合い呼び寄せあう。
それを加持は割って入ることはできない。
「でもな……シンジ君は初号機に取り込まれたんだ」
「えっ!!」
取り込まれる、どういうことだ。
そうか、シンジはシンクロ率だけなら高かった。
シンクロ率がよければいいというわけではない。
アスカは震えた。
もしかしたら自分もそうなってるかもしれない。
エヴァ、もしかして自分はとんでもないものに乗っていたのかも。
「加持さん‥私がもしもエヴァに乗れなくなっても世界は私を受け入れてくれるかな」
アスカは不安そうだった。
加持はそんなアスカを優しく抱き寄せた。
「俺は受け入れる」
アスカが自分の命を救ってくれたあの時、加持は決めた。
こいつが大人になるまで傍にいる。
ゲンドウの耳にもシンジのサルベージ計画の噂は入った。
初号機がシンジを取り込んだと聞いた時、やはりと思った。
ゲンドウが人類補完計画を始めた理由、それはユイにあうため。
ユイ・シンジ・レイ・そして自分が一つになることで家族同士が再会をするためであった。
それもシンジとゲンドウの仲がよくなったこともあり、彼は放棄しようとしていた。
そんな時にバルディエル・ゼルエルの相次ぐ襲来だ。
アダムも本来なら自分に植え込むためであったが、ベークライトで保存し総司令公務室で冷凍保存している。
こうなってしまった以上、もう一度計画を始めるべきか否か……。
「ユイ、シンジをどうする気だ」
ゲンドウは初号機を観ながらつぶやいた。
そして、再び闇の中へと消えていったのだった。
海、赤い海。
シンジは目を覚ました。
ここはどこだろう。
自分は死んでしまったのか、赤い海のなかにたたずんでいる。
赤い血の海の中は妙に暖かく気持ちがよかった。
いつまでも浮かんでいたかった。
シンジはまた眠った。
もうエヴァのパイロットでいることも疲れてしまった。
『死なれちゃ面白くない。簡単に造作もなく死なれちゃなァ。がんばれよ、絶対に。負けるなよ。あんなバケモノ連中になんか負けんじゃねェぞ!』
ヤなやつの声が聞こえた。
でも、もうどうでもいい。
シンジはそのまま赤い海のなかへいることにした。
外の世界ではサルベージ実験が始まった。
しかし、結果は失敗。
帰ってきたのはプラグスーツのみであった。
周囲のすべてが落胆していた。
リツコは心の中でぼやいた。
誰にも弱い自分をみせたくないから。
『帰りたくないの? シンジ君』
思えばたった一人の14歳の子供にすべてを託しすぎた。
リツコは冷たくし過ぎたのだと少し反省した。
ミサトはたまらず、研究室を抜けて初号機のもとへ駆け寄っていったのがリツコにはみえた。
「葛城さんはシンジ君のことが本当に大好きなんですね」
隣の席にいたマヤは思わず漏らした。
「ええ」
否定はしなかった。
だって事実そうなんだから。
シンジ君はミサトを欲しがっている、ミサトはシンジ君を欲しがっている。
だから、帰ってくるはず。
そう、リツコは判断していた。
だが違った。
「この世界は彼が生きるには理不尽で残酷だもの、母親の庇護のもと生きていくのがいいのかもしれない」
しかし、初号機パイロットがいなくなったらどうなるのか。
それはリツコにもわからなかった。
ふと、初号機ケイジからミサトの泣きながら、シンジのプラグスーツを抱きしめていた。
まるで、シンジを抱きしめる代わりのように。
ミサトの悲痛な叫び声はネルフ本部中に響くかのように届いた。
「人一人、人一人助けられなくて、何が科学よ!」
目から大粒の涙を流している。
あんなミサトはリツコですらみたことがない。
ミサトの気持ちは痛いほどわかる。
だからこそ悔しい。
「シンジ君を返して……返してよ!」
おそらくはリツコに言っていたものだろう。
そりゃ、私だってシンジ君に戻ってきてほしい。
道具として割り切れればどれだけいいか。
でも、そうじゃない。
そう思うと、リツコは自分の白衣をギュっと握った。
「センパイ」
マヤはそんなリツコをみて胸が張り裂けそうな気持ちだった。
「いいのよ、マヤ。私少し疲れたみたい」
リツコは研究室を抜けようとした。
どれだけ、自分が割り切れればいいか。
子供を使い、偽りの正義を振りかざす組織に身を置くのはいい加減しんどくなってきた。
母親の幻影を負い、母を抱いた男に抱かれて、数少ない親友をだまし続けて生きるのには疲れていた。
赤い海の中、シンジは浮かび眠っていた。
すると、何か声が聞こえてきた。
『シンジ……』
自分を呼ぶ声に気が付いたシンジはそのほうへと向かっていった。
女性の声だ。
この声には聞き覚えがある。
ふと気が付くと、陸地のような部分があった。
そこには女性が座っていた。
女性は赤ん坊を抱えていた。
横には夫らしき男性が立っていた。
しかし、顔にはもやがかかっていてみることはできなかった。
『セカンドインパクトの後に生きていくのか、この子は。この地獄に』
『生きていこうと思えばどこでも天国になるわよ。だって生きているんですもの』
セカンドインパクトの話?
『名前きめてくれた?』
『男だったらシンジ、女だったらレイと名づける』
シンジ、もしかしてアレは……父さんと母さん?
男はやがて、どこかへ去り姿を消していった。
女の顔にかかっていたモヤは消えた、するとそこには写真で写っていた母そのものがいた。
「母さん……」
「あなたを待っている人はいるわ、シンジ。いってあげて」
そういうと、母は子供を抱えながらゆっくりと去っていった。
陸地に残されたシンジに声が聞こえてきた。
『シンジ君!』
この声はミサトさんだ。
そうだ、ミサトさん。
ミサトさんだ。
「会いたい、ミサトさん」
シンジがそう思うと、世界は光に包まれて行った。
初号機ケイジ、ミサトはシンジのプラグスーツを抱きしめながら泣いていた。
帰ってこない。
何をやっても帰ってこない。
だって、もうこれ以上打つ手はないのだから。
「シンジ君をかえして……」
誰に訴えていたのかわからない。
だが、ミサトは訴えた。
目の前でトウジ君を殺されたヒカリさんの気持ちがわかった。
大事な人間を失うというのはどれだけ辛いか。
父の時とは違う、もっと違うものだ。
その時だった。
何かが流れる音が聞こえた。
ミサトは音に気付き振り返った。
「シンジ君……」
帰ってきた。
私のシンジ君。
ミサトはシンジを優しく抱き寄せた。
眠っている。
まるで、ずっとそうだったように。
気が付けば、ミサトはシンジの頭にキスをしていた。
すると、シンジの目がかすかに動くのがみえた。
まるで、おとぎ話の姫が目覚めるように。
「中で母さんにあったんだ……」
そういうとまた眠っていた。
今は眠らせたままにしよう。
「おかえりなさい」
ふと、気が付いたシンジは全裸だった。
このままでいさせるのは恥辱だ。
ミサトはジャケットを脱ぐとシンジの体に巻き付けた。
そして、抱きかかえながら救護班のもとへと走っていった。
リツコはミサトの歓声に気が付くと、ケイジまで下りてきた。
科学は奇跡を起こした。
いや、違う。
エヴァ初号機の中にいる碇ユイが、ミサトの声に反応したのか。
彼女はミサトを認めたんだ。
あるいは、シンジがミサトを愛する力が自分への愛より強いことを認めたのか。
愛の力。
当初、ミサトがシンジを引き取ることに違和感があったが……どうやらそれは間違いだった。
シンジの心に愛を産んだミサトが勝ったのだ。
「本当にあなたはロジックじゃないのね……」
リツコは思わず漏らした。
ふと、目には涙が浮かんでいた。
ミサトはその光景を忘れなかった。
リツコもなんだかんだで情が残っているのか。
「付き合ってくれてありがとうリツコ」
ミサトはねぎらいの言葉をかけた。
その光景をマヤもみていた。
マヤは思わずもらい泣きをしていた。
葛城さんは心底シンジ君を愛していた。
その気持ちが神様に届いたのか。
脇でみていた綾波はニッコリと笑っていた。
「よかった、碇君」
そんなレイの横にいたゲンドウもさわやかな笑顔をしていた。
レイはそんなゲンドウの笑顔を見逃さなかった。
シンジは担架に入れると、そのまますぐに検査が行われた。
それと同じころ、ドイツ、キール・ローレンツの邸宅。
暗い部屋の中でキール議長はカヲルに連絡を取っていた。
「タブリス、気分はどうだ。馴れたか」
「味気ない場所だよ、月のほうがよかった」
「お前は音楽が好きだろう、ピアノのある部屋を用意させた」
「ありがとう、リリン」
「私からのプレゼントだ。堪能するがよい。任せるぞ」
「音楽を教えてくれてありがとう」
渚カヲル。
ヤツを送ったのはたった一つ。
我らの悲願を達成させること。
その時だった。
プシュン。
音がした。
と、ともに電気が消えた。
キールにはわかっていた、誰がしたのかを。
「お前か」
キールのバイザーの電気のみがついていた。
すると、そこにコンラッドがいた。
思えばこいつに出会った時、まだ若造だった。
歴史を知らぬ若造。
それを拾い、ゼーレの教育施設で教育をさせた。
親を殺してまで入ろうとするその精神、凶暴性……実に優秀だった。
やがて、彼は象徴になった。
対抗する組織への戒めの象徴。
ゼーレが持つ力・恐怖の象徴。
マーカス・コンラッド。
それが硫酸や毒液でやられ、全身やけどを負いこのような姿になった。
バイザー越しでもその異常な風貌がよくわかる。
ピエロを思わせるマスクのような人工皮膚。
他はともかく、顔の損傷を100%治すのは不可能だった。
「聞いたぞ。何度も我らの邪魔をして、そのせいで傷つき、ようやくその姿になり我らの意志がわかったか。痛み、苦しみ……そのような物からすべて解放してやろう」
「痛いほどにアンタらの気持ちはわかる」
そうか、こやつも大人になったか。
わかっていた、いずれは私の考えに近づいてくれる。
だから、コイツを他の連中から守っていた。
キールはほくそ笑むと、コンラッドに近づいた。
「不要な体を捨て、魂だけの存在になる。それが補完計画だ。ようやく我らの目的・真意わかってくれたか。助けてやろう、我が子よ……」
そして、養子であるコンラッドを抱きしめた。
はずだった。
腹に何か冷たいものを感じた。
ナイフだ。
「バカな……」
キールは久々に感じる痛覚に震えた。
「なぜだ……。なぜ貴様は……」
「痛みってのはな、生きる証拠なのさ。俺は他人と一つなぞにならんよ。特に貴様とはな。世界は精神ではなく物理的な破壊によって終わるべきなのさ。痛みを伴う終わり。アンタと俺の違いは痛みを受け入れるかそうじゃないかの違いだ」
キールはこんな人間に親愛を感じていた自分の愚かさを詫びた。
こいつを潰せばよかった。
見どころがあるやつ、そう思っていた。
そして、いつかは自分を頼りにするだろう。
いつもそうであった。
何度も何度も反発してはすり寄る。
これを繰り返していた。
今回もそうだと、キールは思っていた。
「お前はやはり……破門にして正解だった」
血だまりの中、キールは恨み言を吐いた。
やがて血を吐くととうとう息絶えた。
「アンタのお仲間も近いうちにあの世に行く。せいぜいあの世で補完されるといいぜ」
コンラッドはほくそ笑んだ。
俺は心臓の鼓動が鳴り響き、この心の炎が燃え尽きない限り俺は死なない。
今日という日は俺の時代なのだ。
GW中に進めれるところは進めます。
続編はやったほうがいいですか?よくないですか。
-
やったほうがいい
-
やらなくてもよい