第一話
「どういうことだ……?」
菜月昴は日本に住む高校三年生の引きこもり、
だったはずなのだが、久々の外出で訪れたコンビニのドアをくぐったらそこはコンビニの店内、ではなく、ヒューマン、亜人、エルフなど様々な人種がいる都市の道で、スバルはその真ん中に立っていた。
スバルの目の前には八百屋らしき店がある。
これは所謂『異世界召喚』というやつらしい。
「異世界ファンタジー、舞台は中世ヨーロッパ風ってところか」
スバルは落ち着いて状況を確認する。
「今の装備はジャージに財布にケータイ、と。にしても俺の格好ここじゃ浮いてね!?」
そのスバルの言葉に応えるかのように、周りの人たちが噂をする。
「ママ、あの人変な服着てるよー」
「しっ!静かに!!」
「聞こえてるっつーの……まあ子供の言うことだ。ここは多めに見てやるとするか。しかし、親子の会話が聞き取れたってことは言葉は通じるみたいだな。字は読めないけど」
目の前の八百屋らしき店に目をやるが、看板や値札などに書かれている文字は読めない。
しかし、置いてある果物はリンゴのようなものやオレンジのようなものと、スバルのよく知る果物に限りなく似ていた。
「おっ、そうだ」
スバルは自分のポケットから財布を取り出す。
「すいません、これって使えますか?」
「あ?これはどこの金だ?ここは“ヴァリス”以外使えねーよ」
やはり日本の円は使えないらしい。
「せっかくのギザ十もここじゃ価値もなしか。にしても、これからどうすれば……っと」
自身が無一文であることを悟ったスバルの瞳には天高く聳え立つ塔が映った。
「とりあえずあそこに行ってみるか」
塔への道中、屋台みたいなものもあった。そこでは、ハッシュドポテトみたいな食べ物を売っていた。
「ロ、ロリ巨乳……」
スバルは屋台の店員を見て思わずつぶやく。金を稼いだら買ってみようか、とスバルは塔へ歩みを進める。
さらに進むと、食堂のような店の前で白い髪で赤い目の少年が、鈍色の髪をした給仕っぽい人からお弁当を受けとっていたのが目に入った。
「けっ、リア充め」
スバルは思わずそんな悪態をついた。しかし、そんなスバルの言葉は彼らに届くことはなかった。
それから歩くこと数分。人の波に押されながらスバルは何とか塔の根元までたどり着く。
「なんか沢山の人が塔の下に入っていくな......俺も乗るしかない、このビッグウェーブに」
そしてスバルは先ほど確認した装備のまま塔の“下”に潜り込んでいった。
周りの人は怪訝そうな視線を送っていたが、当のスバルは自分に向けられていた視線に全く気づかなかった。
「す、すげぇ……」
塔の下に広がっていたのは、ゲームの世界でよく見た“ダンジョン”そのものだった。
「この先になんかお宝があるのか?」
他の人はとっくに先に進んでいる。スバルも他の人たちに追いつこうとどんどん先へ、どんどん下の階層へと進む。
そう、この時スバルはまだ知らなかった。何故、無防備なまま進めてしまっていたのか。
「ったく、俺を召喚した美少女はどこよ……」
その時、
『ッォオオーーー』
「な、なんだ?」
通路を揺るがす振動と共に、下の方から呻き声のようなものが聞こえた。
「おいおい、やっぱなんか武器とか防具とか持ってきた方が良かったのか??」
当たり前のことを呟くスバルだが、無一文のスバルには防具を買えなかった。
「てか、そもそも俺は武器とか売ってる店も知らないじゃん……ん?」
そう口にした時、スバルの目の前に突如、“影”のようなものが現れた。
「なんだこれ……?」
スバルは手を伸ばしその“影”に触れようとする。
すると、スバルの腕はその“影”をすり抜けた。
しかし、その直後だった。
「うっ、うわぁ!?」
その影はスバルの腕を切り裂いた。
驚き、そして後から来る痛み。
スバルのジャージに血の染みが広がっていく……
そして、気づくとスバルは前後左右“影”に囲まれていた。
「まずいまずいまずいまずい……!」
次の瞬間、スバルを囲んでいた“影”が一斉にスバルに近付き、飲み込んだ。
「あぁ……」
視界が真っ黒になり、襲いかかる恐怖と激痛の中でスバルは意識を失った……
ナツキ・スバルは、“影”の餌となり命を落とし……