Re:ゼロから始めるダンジョン生活   作:Hi-Speed

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第十二話

声がした。

 

どこかで聞いたことがあるような、でも全く知らない声。

 

「……」

 

何かを言っている気がした。

 

何かを願っているような声だ。

 

何かを祈っているような声だ。

 

まだ何を言っているのかは聞き取れない。

 

それでも、その声から逃れることはできなくて。

 

暗闇の中、光る月に手を伸ばし……

 

 

***

 

 

「知ってる天井だ」

 

目が覚めると、スバルはベッドの上にいた。なんか数日前も見た記憶がある景色だなとスバルは呟く。

 

「まさか、死に戻りのリスタート地点も戻ったなんてことは……」

 

「あら、目が覚めた?」

 

そんな不安に満ちた呟きをしつつ身体を起こしたスバルに横から声が掛かる。

 

「あ、あなたは、確かアナキティさん?」

 

スバルが声のした方を見ると、そこにいたのは、【ロキ・ファミリア】所属の猫人の女性、Lv.4のアナキティ・オータムがいた。アナキティは血や泥が付着している布切れを手にしていることから、どうやら自分の看病をしてくれていたのだろうことがスバルにはわかった。

 

「アキでいいよ、スバル」

 

そういえば、団員がそう呼んでいたのを聞いたことがあるなと思い出したスバル。また、今まではすれ違った時に挨拶を交わす程度で、アキとまともに話したのはこれが初めてだなとスバルは思う。

 

「それじゃあ、アキ。あれからどうなったんだ?」

 

まだ完全に回復しているわけではないため、もう一度眠りにつきたい気分だったスバルだが、自分が意識を失ってからの出来事について知っておきたいという思いが勝り、早速アキに事の顛末を尋ねるスバル。

 

「スバル達のお陰で重傷者は1人も出なかったってティオネが言ってたわ」

 

「そうか……」

 

アキの言葉に一安心するスバル。しかし、その後アキは少し声を厳しめにして言う。

 

「でも、無茶しないでよね。だってまだスバルは入団直後のLv.1、駆け出しも駆け出しの冒険者なんだから」

 

「すいません」

 

事実、数回命を落とすほどの危機を、首の皮一枚で切り抜けたスバルからすると、その言葉は耳が痛い。

 

「それに……」

 

そして、また柔らかい口調に戻り、ほのかな笑みを浮かべながら言葉をつづけるアキ。

 

「レフィーヤやリヴェリアさんも心配してたわよ」

 

「そうか、教えてくれてありがとう。それと、看病も」

 

そういえばと、アキにお礼のひとつも言っていなかったことに申し訳なさを感じたスバル。

 

「うん、じゃあお大事にね」

 

そうしてアキが部屋から出ていく。

 

「にしても、他のみんなは大丈夫だったのか……?」

 

特にスバルが蔦に直撃し、意識を飛ばされる直前に庇ったあの子供。どうなったのだろうか、とその子の身を案じるスバル。

 

「自分がしっかり気を配っていれば、こんな心配もしなくて良かったはずなのに」

 

そう自身の行動を反省するスバル。

 

そして、アキが部屋を出てしばらくの間、これまでのことを振り返ったり、これからのことを思ったりなど様々なことに考えを巡らせていたスバルは、中々眠るにも寝付けずにいた。

 

コンコン

 

すると、スバルのいる部屋のドアが遠慮がちにノックされる。

 

「はい」

 

きぃと音を伴いながらドアが少しずつ開かれる。そして、そこから顔を出したのは山吹色の髪のエルフの少女だった。

 

「スバル……?」

 

その声の主はスバルの身を案じ、そっとスバルの名を口にした。

 

「レフィーヤ、か」

 

「はい」

 

スバルには、レフィーヤが少し元気がないように見えた。

 

「大丈夫か?」

 

「ーーそれは、こちらのセリフです」

 

スバルは、どこか怪我をしているのではないかとレフィーヤのことが心配になり声をかけるが、レフィーヤの返事に自分の方が危うい状態であったことを思い出させられる。

 

「ああ、俺は大丈夫だ」

 

スバルは、そう答えればレフィーヤが少しは元気を取り戻してくれるのではないかと思ったが、むしろレフィーヤは暗い顔になっていた。

 

「すみません」

 

スバルはレフィーヤにどう声をかけたらいいのか迷っていると、レフィーヤの口から謝罪の言葉が紡がれる。

 

「何が?」

 

実際スバルはレフィーヤが何に対して謝罪しているのか、その見当がつかなかった。

 

「私が詠唱にためらったせいで、スバルを傷つけてしまいました」

 

「いや……」

 

と言葉を続けようとしたスバルだったが、レフィーヤは僅かに首を振った。

 

「わかっては……いるんです」

 

レフィーヤはまるで懺悔のように、ぽつり、ぽつりとつっかかりながらも自分の想いを言葉に乗せて紡いでいく。

 

「でも、身体が動いてくれないんです……そして、またしてもあの人に助けられてばかりで……」

 

スバルからは、レフィーヤの目には少し涙を浮かべているように見えた。

 

「これでは、あの人には追いつけません」

 

スバルの頭の中に、先日聞いたばかりのレフィーヤの憧れの人物、金髪の少女が思い浮かぶ。そして、スバルは以前「気持ちを切らさなければ辿り着ける」なんて軽々しくレフィーヤに向かって言ったことを後悔した。そして今もなお、彼は彼女にかけるべき言葉を見つけられずにいた。

 

「すみません、こんな話を聞かせてしまって」

 

「いや、良いんだ。少しでも気が紛れたのなら、それで良い。気にしないでくれ」

 

「でも……」

 

「それに、こんな俺に出来ることなんて、誰かの話し相手になることくらいだろうからな」

 

「そんなこと……」

 

「いや、事実だろ」

 

と、先ほどまでとは逆の立場になってしまったとスバルが思うと同時に、こんな会話を続けていたらお互いに傷つくだけでは、とに気まずい雰囲気となる。

 

すると、レフィーヤがスバルの方に身を乗り出す。

 

「お、おい」

 

レフィーヤはスバルの怪我をしたところを包帯の上から優しく撫でる。

 

「き、傷は痛みますか……?」

 

「いや、今は痛くないが……」

 

すると、レフィーヤは少し微笑みながら呟く。

 

「ーー本当、無茶ばかりして……」

 

「ん?何か言ったか?」

 

「な、何でもありません!」

 

自分の素直な思いを思わず声に出してしまったことに対して恥ずかしさを覚えたレフィーヤ。

 

「そうか」

 

「でも……」

 

そういえば先ほどから謝罪ばかりで、まだスバルに感謝の気持ちを伝えてなかったことに気づいたレフィーヤは笑顔で伝える。

 

「ありがとう、スバル」

 

「ああ」

 

2人は見つめ合う。2人の間には無言の時間が続く。やはりレフィーヤは笑った方が良いな、とスバルは思う。すると、レフィーヤの顔がだんだん赤くなっていくのがスバルには分かった。

 

「わ、私、そろそろ戻りますね。また何かあったら呼んでくださいね」

 

顔を赤くしながらも、先に切り出したのはレフィーヤだった。

 

「あ、ああ。ありがとな」

 

「いえ、お大事に」

 

そう言って、レフィーヤはスバルの部屋を後にする。

 

「あの人には追いつけません、か」

 

最後のやりとりよりも、その前の彼女の言葉がスバルの頭から離れなかった。

 

***

 

コンコン

 

「ん?」

 

レフィーヤとの会話で多少は心が晴れたのか、スバルは気がつくと眠りについていた。そしてスバルの意識は、そんなノックで現実へと引き戻される。

 

「いつのまにかまた寝ちまってたのか……ってはい、どうぞ」

 

ノックに返事をすることを忘れていたため、急いで返事をするスバル。

 

「そう慌てなくてもいいぞ、スバル」

 

と、そんな言葉がここ数日で一気に聞き馴染みのある、綺麗な声で紡がれた。

 

「その声は、リヴェリアか?」

 

「ああ、そうだ。私だ。その様子だと今の今まで寝ていたのだろう?少し待っててやるから、水を飲むなり、身なりを整えるなりしろ」

 

「ありがとう、そうさせてもらうよ」

 

そして、スバルはベットから起きた。若干頭がくらっとした。

 

「さすがに傷は魔法で癒せても、抜けちまった血までは回復できねーみたいだな」

 

ベットにもう一度腰を下ろしながらそうつぶやくスバル。

 

少しの間、クラクラする頭を整え、その後洗面台まで歩いて行き、水を飲む。少しずつ目が冴えてくる。

 

「顔も洗っとくか」

 

リヴェリアに言われたことは守っておこうと思い、軽く顔を洗い、鏡を見て、身なりを整える。

 

「よし」

 

スバルはもう一度ベッドまで戻り、腰をかける。そして、廊下で今も待っているであろうリヴェリアを呼ぶ。

 

「リヴェリア、待たせた。もう入ってきて良いぞ」

 

返事の代わりにガチャリとドアが開く音がした。

 

「待たせたな……ってあれ?リヴェリアだけじゃないのか?」

 

スバルの部屋にはロキ、フィン、リヴェリア、ガレスが入ってきた。

 

「誰が私だけだと言った?」

 

「いや、言ってないけど……」

 

スバルがリヴェリアだけだと思っていたのには理由があった、それは彼らの気配のなさだった。いくらスバルが部屋の外に気を配っていなかったとはいえ、誰かがいれば、それも今回のように複数人いれば何かしら気配に気づくはずだろう。それなのに、スバルは全く気配を感じなかったのだ。それは、声をかけてくれていたリヴェリアとて例外ではなかった。神や上級冒険者ともなると自分自身の気配くらい簡単に消すことができるようになるのだろうか、とスバルは思った。

 

「すまんなぁ、スバル。病み上がりなのに押しかけてもうて」

 

ロキがまずスバルの体調を案じる。

 

「大丈夫だ、だいぶ良くなったぞ」

 

「そりゃ良かった。な、リヴェリア?」

 

「ああ、そうだな」

 

スバルは、そこでなぜロキがリヴェリアに同意を求めたのかが分からなかった。

 

「まあ、リヴェリアが本気で治療しているシーンは超レアやしな」

 

と、先の言動の理由をロキの言葉から押し図ろうとするスバル。

 

「ん?てことはこの治療はリヴェリアがしてくれたのか?」

 

「ま、まあ、そうだな」

 

リヴェリアは、スバルから目線を逸らしながら答える。

 

「あんときのリヴェリアは凄かったで。な、フィン?」

 

「そうだね、スバルがモンスターにやられたって知らせがホームに届くと同時に、あのリヴェリアが自分の仕事を投げましてまでスバルのところへ駆けつけようと大慌てでホームを出て行ったんだから」

 

「おい、フィン!」

 

フィンの言葉に顔を赤くしたリヴェリア。

 

「ありがとう、助かったよ」

 

スバルは素直に露な言葉を述べる。そして、そのスバルの言葉にリヴェリアはさらに顔を赤くする。

 

「ま、まあ良い。今の話は忘れてくれ」

 

「それはできないな」

 

「なんでだ?」

 

少し口調がキツくなるリヴェリア。

 

「だって、俺にとってリヴェリアは命の恩人だからだ」

 

そのスバルの言葉に、リヴェリアは一瞬言葉を失う。

 

「そ、そうか、そうだな。まあ、それにしてもお前は本当に怪我の絶えないやつだな」

 

リヴェリアは、スバルから目を逸らしながらも、スバルに対してそう言った。

 

「それに関しちゃ俺も同感だ。別に怪我したくてしてるわけじゃねーんだよな」

 

「それでも、お前が傷付けば、悲しんだり、不安になったりする者もいることを忘れないようにな」

 

今度はしっかりスバルと目を合わせてそう伝えたリヴェリア。

 

「ああ、忘れないよ」

 

「ところで、【ロキ・ファミリア】の重鎮たちが総出で俺の部屋に来たってことは、何か話があったんじゃないのか?」

 

話が逸れていることに気づいたスバルは、話の流れを戻そうとする。

 

「ほな、本題に入ろか」

 

すると、リヴェリアが見覚えのある一枚の紙をベッドの横のサイドデスクに乗せる。

 

「率直に言おう。スバル、君にはスキルが発現している」

 

フィンがそう言う。

 

「やっぱりそうだったのか」

 

「なんだ、心当たりはあったのか」

 

「ああ、前に文字の勉強をしたときに見せてもらっていたから知っていたぞ」

 

実際いくつか心当たりはあった。まずは自身の“死に戻り”の力だ。これは恐らく異世界召喚の特典であり、神が自分に授けてくれたものであろうことがスバルには予想ができていた。ただ、それをそっくり伝えるわけにもいかないため、スバルはもう一つの根拠である、ステイタスのスキル欄について言及した。

 

「そして、そのスキルは、どうやらレアスキルというものに分類される、貴重なもののようだ」

 

「レアスキル?」

 

「ああ、少なくともここにいる者は誰もスバルに今回発現したスキルについて知らなかった」

 

「ああ、儂も見たことがないスキルだったのう」

 

「なるほど」

 

まあ、そんな何人も死に戻りを経験してるわけないよな、とスバルは納得する。

 

「そんで、そのスキルの効果っちゅーのがちょいと厄介でな。今日はそれを伝えようと思っとる」

 

ロキは、ステイタスの内容を詳しく説明し始める。

 

ーーー

 

ナツキ・スバル

 

Lv.1

 

力:I 0→ I 89

耐久:I 0 → G 216

器用:I 0 →H 150

敏捷:I 0 → G 247

魔力:I 0 → G 213

 

《魔法》

 

【シャマク】

 

《スキル》

 

【魔女超愛】

 

ーーー

 

 

「はっきり言うで。スバルの成長速度、これは明らかに異常や。確かにちっちゃい頃のアイズはこれくらいで伸びていた時期もあった。やけどな、あの子はそれなりに場数を踏んでいたんや。それに比べてスバル、自分は圧倒的に場数が足りん」

 

レベルの低いころは経験値が上がりやすいのがRPGのお約束ではあるが、これでは伸びすぎなのか、とスバルは思う。

 

「そこで出てくるのがスキルっていうわけか……」

 

「そや、話が早くて助かる。スキルの名前は【魔女超愛】。効果はズバリ、『早熟する』や」

 

そうして、共通語で書き記されたステイタスをフィンが読み上げる。

 

それを聞いたスバルは、

 

『恐らく“早熟する”というのは、死に戻りをした時の経験値が加算されるからだろうな。もしくは“死線”を何度も超えているからか……?

あと気になるのは、“寵愛が続く限り効果は持続”という記述だ。もしかして、この『死に戻り』には回数制限がないってことを言ってるのか……?まあ、知らない相手に勝手に愛されてるのも怖い話だが』

 

このスキルを見たスバルはそっと呟く

 

「まずは魔女の正体を突き止めないと……」

 

「ん?なんか言ったか?」

 

スバルの呟きを上手く聞き取れなかったリヴェリアがそう尋ねる。

 

「いいや、何でもない」

 

「そうか。そうだ、このスキルのことはアイズには内緒にしておいてくれ」

 

「ああ、別にそれくらい良いが……」

 

「あいつがこのスキルのことを知れば、無茶しかねないからな」

 

リヴェリアは至って真面目にそうスバルに伝える。

 

「あはは、そんなまさか……っておい、まじかよ」

 

周りの反応を見る限り、どうやらリヴェリアの言っていることは冗談ではないらしいことがスバルには感じ取れた。

 

「そういうことだから、アイズには内緒で頼むよ、スバル」

 

ファンにも念を押されたスバルは、「ああ」と答えるのが精一杯だった。

 

 

***

 

「なんや、あのスキルにかかってる異様なまでのロックは……」

 

ナツキ・スバルに発現しているスキルには、厳重なロックがなされており、スキルの内容を一部しか読み取ることができなかったのだ。

 

「まだ何かありそうやな、これは詳しく調べなあかんな」

 

静かに、されど熱く神は呟く。

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