怪物祭での騒動から一夜明けた。
「おはよう、オットー」
「おはようございます、ナツキさん」
昨日、スバルはステイタスの説明を受けてから、またすぐ寝てしまったので、落ち着いて同室であるオットーと話す時間がなかった。
「そういえば昨日、お前は何であそこで助けてくれることが出来たんだ?昨日は用事があるんじゃなかったんじゃねーのか?」
スバルは一緒に怪物祭に行こうと誘ったが断られてしまったことを思い出した。
「ええと、そのですね。僕の言っていた用事というのは……ゾッタムシに言霊の加護を介して『地下にいちゃいけないものがいる』っていうSOSをもらいまして、フィンさんに言う前に自分で事実確認をしようと、地下水路を調べていたんです。そして、そこで見つけたのが」
「あの食人花のようなモンスターだった、ってわけか」
「はい」
スバルがオットーの言葉を引き継ぎ、それを肯定するオットー。
「ってか、マジでゾッタムシとデートじゃねーか!」
「ええそうですよ!何か悪いですかね!?」
開き直ったオットー。
「まあ良いです、続けますよ?」
「悪い悪い」
「そして、広場の方が騒がしかったので、いざ駆けつけてみるとレフィーヤとナツキさんがちょうど襲われそうになっていたところでした。今回は間が良かったみたいです」
「ああ、本当に助かったよ、ありがとう」
「い、いえ、当然ですよ。なんせ……友達、ですからね」
「ーーぷっ……!」
「ひ、酷いですよ……」
オットーは頬をほんのり紅く染めていた。
「いや、ありがとな。本当に」
笑いを必死で堪えながらオットーに言ったスバル。
「感謝の気持ちが全然伝わってこない言葉をありがとうございます」
「それにしてもオットー、お前魔法使えたんだな」
スバルが純粋な疑問を口にする。
「はい、一応。土属性の魔法で防御がメインなんですが」
そういえば【ウル・ドーナ】とか言ってたな、とスバルは思い出す。
「ダンジョンでも使えるのか?」
「はい、なので僕は基本的に後衛の皆さんや、治療をしている人を守る役割をしたりします」
「なるほどな」
一応彼がパーティを組んでダンジョンに潜る時はサポーターをしていると、オットー自身の口から聞いていたが、より実感を得られた。
「しかし、一向にランクアップする気配がないです……」
「そうか」
やはりランクアップは高い壁なのだろう。
「ちなみにランクアップってどうやったらできるんだ?」
進化の石でも必要なのか?とスバルは思った。
「たしか、ステイタスのどれか一つがD以上になり、かつ『偉業』を達成する、だったと思います」
「『偉業』か」
「はい、まあ僕には程遠い話ですけどね。それよりもナツキさん、朝食の時間が迫ってますよ?準備しなくていいんですか?」
「そうだった!なんでもっと早く言ってくれなかったんだよ!」
「ええ……」
そうして今朝も、楽しく言葉を交わしながら食堂へ向かう二人であった。
***
朝食の会場には、すでに多くの眷族が集まっており、談笑しながら朝食を摂る、そんな日常の空気が流れていた。
その中で、どうやらフィン、リヴェリア、アイズ、ティオネ、ティオナ、レフィーヤで武器の修理費を稼ぎにダンジョンに1週間ほど潜るらしいことを彼らの会話を通してスバルは知った。
少しフィンが羨ましい、と思わないでもないが、リヴェリアに自習を進めるように言い付けられているため、スバルは自分のやるべきことに専念できそうだと思っていた。
「なあ、スバル、オットー。今日は暇か?」
と、そう思っていたところにスバルたちのファミリアである【ロキ・ファミリア】の主神、ロキから声をかけられる。
「ああ、まあ俺はせいぜいリヴェリアから言い付けられてる勉強くらいしか無いな」
さっきまでの決意はどこに行ったのだろうか……
「はい。空いていますけど……」
2人はそれぞれ答える。
「ちょいとうちに付き合ってもろてええか?」
「はい」
何か面倒ごとに巻き込まれそうな気がしないでもないが、ファミリアの主神に従わないわけにもいかず、スバル達はロキの同行を了承する。
「おっ、ベート。ベートも付き合ってくれん?」
そして、そこに通りかかった狼人のベート・ローガにも声をかけるロキ。
「げっ」と思わず声が漏れそうになるのを必死で抑えるスバル。酒場の件以降、スバルはベートに対して苦手意識を持っていた。
「ああ?なんで俺なんだよ。それによりによってなんで雑魚が二人もいやがんだ」
「まあまあベートさん、たまにはいいじゃないですか」
「ーー足引っ張んじゃねーぞ」
オットーの言葉にそう答えるベート。言い方には棘があるが、自分達のことを案じてくれているような気がしたスバルだった。
「ベートさんってもしかしてツンデレなのか?」
ふと思ったことをスバルは呟く。
「あ?なんか言ったか?」
「いえ、何でもありません!」
ベートの視線を浴び、やっぱこの人怖い、と思ったスバルであった。
***
朝食を終え、準備を済ませた後、ロキに引き連れられオラリオの街を歩くスバルたち。
そんな中、街を歩く女性たちをベートは睨む。そして、それに怯えた女性達がずんずん離れていく。
「あーあ、もったいないなぁ、ベート。か弱い女の子を守ってこその冒険者やろ」
それを見たロキが言う。
「てめーの身一つ守れない奴は巣穴から出てくんな。とにかく、俺は弱い女が1番嫌いだ」
「やーい、このツンデレ狼」
やはりツンデレなのか、とスバルは思う。
「好き勝手言いやがって」
「でも、ベートがホンマは優しいこと、うちは知ってるからな」
「あ?」
「知っとるか、スバル?ベートな、ミノタウロスを逃した時、アイズたんと先陣切って他の冒険者を助けてたって」
「そうなのか?」
初めて聞く話だ、とスバルは目を丸くする。
「てめーの不始末をてめーでつけただけだ。雑魚を助けたつもりはねえ」
「はい、ツンデレ頂きました」
「まじでツンデレじゃねーか」
今度はハッキリと言ってしまった、と言ってから後悔したスバル。
「お?スバルはわかるんか?」
「ああ、まあな」
ロキの言葉に、控えめに同意するスバル。
「おい雑魚、調子乗んなよ」
「すみませんすみません」
ベートに睨まれ、スバルはただひたすら謝ることしかできなかった。
「でも、ベートさんも素直になればいいじゃないですかね?」
「うるせえ行商人」
そんな会話をしながらロキ、ベート、オットー、そしてスバルの四人が向かった先は昨日モンスターが出現したあたりの地下水路だった。
***
地下水路に到着すると、まずはロキが切り出した。
「祭りの当日、ティオネとティオナが調べてくれてはあるんやが、念には念を入れてな」
「頭の回らねーあのアマゾネスどもだったら見落とし放題だろうな」
「ひでえ言い様だな」とスバルは思う。
「お?この先は旧式の地下水路みたいやな」
「って、水浸しじゃねーか」
水の中を歩いていくベート達。ちなみにロキは水に濡れるのが嫌といってベートにおんぶをしてもらっている。
「ん?」
しばらく進むと、大きな穴があった。
「派手にやられとるなあ、これは当たりか?」
「おい、ロキ。降りろ」
「ああ」
ベートの真剣な声に従うロキ。
「あのバカゾネスども、どこを調べて回りやがった?しっかり残ってんじゃねーか」
「何が残ってるんだ?」
「臭いだ」
狼人は鼻が敏感なのだろう、スバルには感じ取れないものがベートには感じ取れていたことが分かった。
「ここは、貯水槽のようですね」
「ああ」
「ロキ、出てくんじゃねーぞ。雑魚達の後ろにいろ」
「あれは……」
「昨日のモンスター……?」
オットーとスバルはそれぞれ言う。スバルは、昨日の光景がフラッシュバックし、思わず足が震える。
「臭えんだよ、てめーら!!」
そんなスバルを尻目に、ベートはそのモンスターの元へ駆けていく。
「無駄に硬え身体しやがって」
戦闘が始まる。ただ、ベートの動きが速く、攻撃している音は聞こえるもののベートの姿を追うのが難しかった。
「うーん、早すぎて全くわからん」
「確かに」
「怪物祭の時は地面の中だったからわからなかったけど、あの球根のような尻尾、ダンジョンに埋まると養分でも吸うんか?」
その時、ぽちゃんと上から音がする。
ロキ達の頭上で、花型のモンスターが口を開けて待っていた。ちなみにぽちゃんと言う音はそのモンスターが垂らした涎の音だった。
「まずい」
「逃げろ!」
「オットー、魔法使え!」
「いいえ、ここだと下手に使うと天井が落ちてくるかもしれません!」
オットーとベートがロキとスバルを助けようとするが、2人のすぐ上で口を開けているモンスターはすでに食べる体勢に入っていて、その助けも間に合いそうもなかった。
「くそ、『シャマ……』」
スバルが一か八かで魔法を行使しようとしたその時、ロキが横の方、さらにいえばベートが向かってきている方に向かって何かを投げる。
すると、モンスターはそのロキが投げたものの方へと方向を変える。
「ベート、行ったでー」
「チッ……食えねえやつだぜ」
ベートはロキによって投げられたものを追うモンスターに蹴りを入れる。
「いいコンビネーションだったで、ベート!息ぴったりや!」
一応危機は乗り越えた。
「心配した?」
「してねーよ」
ロキの揶揄う言葉にお約束のような返事をするベート。
「まあオットーもスバルもありがとなー」
「いえ、ヒヤッとはしましたが」
「本当だよ、死ぬかと思ったわ」
しかし、と呟くスバルにベートが続ける。
「攻撃が碌に効いてねえ」
「あー、そういや打撃にめっぽう強いらしいで。アイズの剣、レフィーヤの魔法は効果が抜群だったわ」
ロキがそんな情報を後出しする。
「先に言えっつーの……たく、魔剣を使うのは馬鹿馬鹿しいな……」
そして、そう言ったベートはスバルの方を向く。
「おい、お前の魔法を貸せ」
「は?」
スバルはベートの鋭い眼差しと声に驚いた。
「いいから、お前の魔法を出せっつてんだ」
「あ、ああ」
ベートの言っていることが理解できないまま、スバルは自身の魔法を発動させる。
「シャマク」
「チッ、弱ぇ……」
特に何も起きなかったが、ベートは再びスバルに向かって言う。
「おい雑魚!30秒だ」
「え?」
「行商人の魔法はこの水路じゃ使えねえ。そしてお前のただのやつじゃ攻撃できねぇ。お前のをチャージして俺に渡せ」
「え、渡せって……」
「お前のを俺にかけろ」
ベートの言っている意味が理解できず混乱するスバル。
「でもそしたら……」
ステイタスが下がってしまうのでは?と思ったが、よくよく考えればベートはLv.5で、その効果を発揮させるためには80秒のチャージが必要だったことを思い出したスバル。
「いいから早くしろ」
「わかった」
スバルは初めてチャージを使った。すると、スバルの右手に魔力が集まっていくのが感じられた。
「【シャマク】」
スバルはベートに向けて右手に纏っていた魔力を放つ。そして、放たれた魔力が一気にベートの足元へと吸収される。
「お前ら臭えんだよ!」
スバルのシャマクを纏ったベートの脚が次々とモンスターを蹴散らしていく。
「すげー……って、何が起こったんだ?」
ベートの姿を見て素直にそう漏らすスバル。
「ナツキさん、本当にあなたはLv.1のヒューマンですか?」
オットーもベートが纏う魔力を見て言う。
「というと……?」
「あんな火力、普通のLv.1の人間は出せませんよ」
「ああ、そう言うことか。まあ俺もよくわかんないんだが……」
友達であるオットーに隠し事をするのは少し後ろめたい気もしたが、一応スキルのことは伏せておくことにしたスバル。
「第一印象が酒癖と口の悪い人だったが、これ見るとやっぱベートさんも凄いんだなって思わされるな」
そんなスバルの言葉を聞いてか、ロキが呟き始める。
「ベート、知っとるか?好きの反対は嫌いやなくて無関心や。嫌ったり、嘲ったりするんは大なり小なりベートの言う雑魚ってもんを気にかけてる証拠なんやで」
たしかにベートの言う“雑魚”は文脈的には発破を掛けるときに使っているような気がしないでもないと思うスバル。
「さっきうちとスバルのことを心配してくれたやろ?いつも悪態ばかりついているくせにな」
ベートの為人がだんだんわかってきた気がしたスバル。
「そういうのを神々はこういうんや」
ロキが口角を上げ、片目を瞑りながら言う。
「ツンデレってな」
そんなロキの言葉が彼の耳に届いたかはわからないが、ベートが攻撃のギアを上げる。
「消し飛びやがれ!!!」
「
オットーも思わず彼の二つ名を呟く。
スバルの魔法を纏った彼の脚が、モンスターたちを一掃していく。
こうして、ベート(とスバルのアシスト)により貯水槽にいたモンスターは全て片付いた。
***
「結局収穫はこの変な色の魔石だけか」
ロキの手にしている魔石をまたスバルは、確かにこの前のダンジョン探索で拾っていたものと色味が違うなと思う。
「ティオネも同じようなものを持ってたな」
ベートが言う。
「新種のモンスター、僕も情報探っておきます」
「おう、オットーのお友達にもよろしく伝えといてな……って、お!ディオニュソスやないか!」
彼らの行先からは、神とその眷族が歩いてきていた。
「誰だ?」
「ディオニュソス様と、その眷属、【ディオニュソス・ファミリア】団長のフィルヴィス・シャリアさんですね」
スバルは誰なのかわからなかったが、オットーが説明してくれた。どうやら有名人のようだ。
「待て」
「ん?」
ベートのその声に、スバルたちは驚いたが、言われるがままに歩みを止める。
「アイツらだ」
ベートの声が、より鋭さを増す。
「地下水路に残っていた臭い、アイツらから同じ臭いがする」
どうやら運命は、まだスバル達をホームへと帰してはくれないようだ。