「おお、目ぇ覚ましたんか!」
「か、関西弁だと!?」
フィン達によって主神のロキのところに連れてこられたスバルは、まずロキの話し方に驚く。
「自分、名前なんて言うんや?」
そんな驚くスバルにロキは尋ねる。
「え、ええと俺は、じゃなかった、わ、私はナツキ・スバルと申します」
拙い敬語でスバルは答える。周りから見ればクスッと笑われるくらいにその身体は緊張で硬直し切っていた。
「そんな畏まらなくても良いんやで、スバルー。あ、そんでもってウチがこの【ファミリア】の主神っちゅーことになっとるロキや。よろしくなー」
「よ、よろしくお願いします」
ここで、ロキは少しだけ表情を厳しめなものにする。
「なあ、自分は恩恵も武器も持たずにダンジョンに入ったんか。いくら金がないといえどそれは無謀とちゃうか?」
「やっぱそうだよなぁ」
「まあええ。それでも、ダンジョンではウチの子達が迷惑かけたな」
「い、いえ、むしろ助けてもらったんで、むしろ謝罪とお礼を言うべきなのは俺で……」
「畏まるな言うたろ?それに、そういうのはウチら神の言葉で“マッチポンプ”って言うんや。」
「ハハハ……」
あれ、神様って案外日本語通じるのだな、とスバルは思う。
「ちなみに自分、どこから来たんや?」
ここでロキはスバルの出生地を尋ねる。
「俺は日本から来た、ってあっ……!」
「ニホンって、おまっ……!?」
思わず本当のことを言ってしまい焦ったスバルだが、それ以上に焦り、驚いていたのはロキだった。
「ん?知ってるのか?」
「い、いや聞いたことない地名やな。でも嘘はついてへんようやし……」
「何、神様には嘘とか通じない感じなの?」
「そりゃそうや、下界の子供たちの考えることなんてウチらには筒抜けや」
「そうなのか」
やはり神様が下界に存在するこの世界においても、神様は神聖な存在であることを悟ったスバル。
「そんで、自分はウチの【ファミリア】に入りたいっちゅーわけか」
「ああ、身寄りも何もないからな。出来れば入れてくれると助かる」
「もちろん、大歓迎や!なぁ、フィン!」
ロキは笑顔で言う。そして、話を振られたフィンもまた笑顔だった。
「そうだね、ぜひうちの団員になってほしいよ」
「そうか、じゃあ頼む」
こうしてナツキ・スバルの【ロキ・ファミリア】入団が決定した。
一安心するスバル。そこへロキの声がかかる。
「じゃあ、服脱いでくれん?」
「は?」
スバルからすれば青天の霹靂だった。しかし、当のロキはさも普通のことかのように宣った。いや、この世界においては当たり前のことではあるのだが。
「いや、神の恩恵を与えるためや。何もやましいことあらへん」
しかし、どこからかの顔はニヤニヤしていた。
「そうなのか。ーーとかいって実は、なんてことも?」
「なんや?スバルは神の心を読む能力でもあるんか?」
「冗談で言ったつもりがまさかの本気だった!?」
そんな無駄口をたたきつつもスバルはジャージを脱ぎ、ロキに背中を見せる。そして、その際に気づくとロキ以外のメンバーが一度部屋から退出していた。
「まあまあそれはさておき……ほら、終わったで」
「はや!?ただ背中撫でられただけだったぞ?」
「まあ実際そんな感じや。ちょいと待ってな、今ステータスを写しとるから……」
するとここで、少しロキの表情が険しくなる。しかし、当然スバルは背中を向けているため、その変化には気がつけなかった。
「ほい、これがスバルのステイタスや」
「おぉ、ってそうだ、俺文字読めねぇんだった」
スバルはこの世界の文字で書かれたステータスなるものを見たが、当然読むことは出来なかった。
「そや、まだスバルは文字を知らないんだったな。ほな、リヴェリアに教えてもらい。リヴェリアー!もう入ってええでー!」
ロキは部屋の外へ声をかける。そして、フィンとリヴェリアがまた部屋に戻ってくる。
「リヴェリア、スバルに文字を教えたってー」
「なっ?文字を?」
「はい、会話はできるんですけど、文字の読み書きができないんです」
驚くリヴェリアに自分が文字を読めないことを伝えるスバル。
「わ、分かった、これから毎日みっちり教えてやる。」
リヴェリアは先程の驚きからすぐに切り替え、主神の指示に従う。
「よ、よろしくお願いします」
「そうや、今日は遠征の打ち上げをやるんやけど、そこでスバルの歓迎会もやろうや」
「まじか!?」
「いいね」
ロキの提案にフィンも賛同する。
「『遠征』ってなんだろう……?」とスバルは思ったが、自分の歓迎会を開いてくれることに喜びを感じた。
「そうやな、それまでに誰かうちのファミリアのこととか教えてもらい」
「僕は少し用事があるから……」
先程の紙を見ながらフィンはそう言った。
団長には団長の仕事があるだろう、と推測するスバル。
「ではラウルにしよう」
「そうやな……あっ、ラウルにはお使いを頼んどったわ」
「それに、まだラウルは50階層でくらった毒が抜けきってないだろう?」
「そやったな。ラウルにはすまんことしたなぁ」
リヴェリアの指摘にロキが申し訳なさそうな声で答える。どうやらラウルと呼ばれた人は神や幹部からの信頼が厚そうなことがわかった。
「では……」
リヴェリアが口を開こうとしたと同時に部屋のドアがノックされ、遠慮がちに開かれる。
「し、失礼します……リヴェリア様、少し良いですか?」
そしてそこから顔を覗かせたのは、エルフの少女だった。
「どうしたレフィーヤ。今、少々立て込んでてな」
「い、いえ、今日の勉強の時間になったのでその旨をお伝えしようかと思ったんですが」
「そうか、もうそんな時間だったか。悪いが今日は休みだ。その代わりと言っては何だが、新しく来たこいつの案内をしてやってくれないか?」
「え?わ、私がですか??」
エルフの少女は驚きを隠せない。
「レフィーヤ、僕からもお願いするよ」
「は、はい!わかりました!ではそこのヒューマン、こっちへ来てください!」
「わ、わかったよ」
「ほな、レフィーヤ、よろしくなー」
ロキがそう言うと、レフィーヤと呼ばれた少女はスバルを連れて部屋を出る。
「ええと、あなたは……?」
部屋を出た2人。エルフの少女からすれば見知らぬ少年であるスバルに尋ねる。
「俺はナツキ・スバル。今日からこのファミリアでお世話になることになった。」
「そうなんですね。私はレフィーヤ・ウィリディスです」
「レフィーヤさんか、よろしくな」
「こちらこそ、スバルさん」
お互いに軽く自己紹介を済ませ、2人は黄昏の館の中を見て回ることになった。
***
スバルとレフィーヤがいなくなった部屋には、ロキ、フィン、リヴェリア、さらには【ロキ・ファミリア】の幹部たち数名が集まっていた。
「ナツキ・スバル……」
ドワーフが呟く。
「ふん、あのトマト野郎の連れだろ?雑魚に用はねぇ。帰らせてもらう」
狼人が不機嫌そうに言う。
「まてベート」
「うっせえババア」
いつものように2人の言い争いが起こる。
「ベート、これ見てみぃ」
そこへロキが入り込む。
「あん?なっ……!?」
***
ナツキ・スバル
Lv.1
力:I 0
耐久:I 0
器用:I 0
敏捷:I 0
魔力:I 0
《魔法》
【シャマク】
・速攻魔法
・相手の視界を奪う
・チャージして発動させた場合、相手の全ステイタスを減少(相手のレベルを一つ下げる。相手のレベルに応じてチャージの時間は変動する。また、その際に得た経験値は半減)
《スキル》
【
・早熟する
・寵愛が続く限り効果は持続
・陰魔法に対するチャージ実行権
***
ステータスを見た狼人が少し目を見開いた。
「魔法とスキルが両方発現しているみたいだね」
フィンが呟く。
「速攻魔法?儂は聞いたことないのう」
「それに、ステータスを下げるなんて……」
「私も文献でしか見た事がないが、無詠唱で発動する魔法、速攻魔法なるものが世の中にはいくつか存在するらしい。『シャマク』も確か、その一つだ」
オラリオ一の魔道士であるリヴェリアはドワーフやアマゾネスの女戦士が口にした疑問に答える。
「フッ、気色悪い名前のスキルだな」
少しだけ少年のステータスに興味を持った狼人が呟いたことで、全員の注目が彼に発現した魔法からスキルへと移る。
「確かにな。それに“寵愛”という言葉もな」
リヴェリアが狼人の意見に賛同する。
「しかも、これレアスキルじゃない?何よ、『早熟する』って!」
それに続いてアマゾネスの姉妹の姉が口を開く。
「へぇー。あの子、将来有望なんだ!」
アマゾネスの妹も明るい声でそう言ったところで部屋のドアがノックされる。
「失礼します」
「おお、ラウル!ナイスタイミングや!」
ドアから入ってきたのは1人の人間の男だった。
「すまんなー、安静にしておらなあかん時におつかい頼んで」
「い、いえ、大丈夫っす」
ここで、ロキは少し表情と声色を変える。
「それで、どやった?」
「アキと一緒に都市の入り口で検問をしている【ガネーシャ・ファミリア】に確認してきましたけど、都市の外から来た者で、恩恵を持っていない、見慣れない格好をした人間の男を見た者は誰もいなかったっす」
「やっぱりそうか……」
「どういうことだ、ロキ」
リヴェリアが尋ねる。
「あいつ、都市の門を潜らずにどうやってこのオラリオにきたんやろうな」
「な?」
何名かは顔を強張らせる。
「まあ商会や地下通路、さらには知られていない抜け道なんかもあるやろうから、そっからこれば門を通らずに、さらにいえば検問に引っかからずにオラリオん中入ることもできるやろ。でもな、スバルは自分の出身地が”ニホン”っちゅったんや」
「ニホン?」
「確かに彼はそう言ってたね」
「ああ、どこだかは知らないが」
「聞いたことない地名じゃのう」
【ロキ・ファミリア】創設期から所属する3人も“ニホン”についてはわからない様子。
「ずばり、スバルは”異世界人”や」
「イセカイジン?」
ロキが口にした初めて聞く言葉に少し困惑する団員達。
「ああ、要するに、この世界とは別の世界線から飛ばされてきた、ということやろうな」
「じゃあ、スバルは門を通ることなくこの都市の中に突然召喚された、ということになるのかな?」
フィンが確信をついた予想を口にする。
「まあ、それが1番妥当な線やないかな」
ロキもフィンの意見に賛同する。
「にわかには信じがたいな……」
「いまいち想像できんのじゃが、その坊主がいた世界のことをロキは知っとるのか?」
ドワーフが神に尋ねる。
「天界にいたときにチラッと見たことはあるな……まあ、そこでの生活とこの世界での生活は根本から異なっとる。当然使う文字もな」
「それで、スバルが会話はできても文字の読み書きができなかったのか」
リヴェリアは納得したように言った。
「そういうことやろうな……そして、このスキル。どう考えてもスバルをこの世界に送り込んだのはこのスキル名にもある”魔女”やろうな」
「ちなみにその異世界からこちらの世界に連れてくるなんてことができるのは……」
「まず、うちら神以外にありえへんやろうな」
フィンの言葉を引き継ぐようにロキが自分の予想を言う。
「だとすると、その”魔女”を名乗る神に心当たりは?」
「いや、これといったのはないな」
フィンの問いにロキは答える。
「ちなみに諜報員の可能性は?」
「多分やけど、向こうの世界もこっちの世界んことを認識してへん。スパイなんか送れるわけない。まあ気になりはするけど、今は様子見でええんちゃう?」
向こうの世界、“ニホン”を知るロキの言葉には説得力があった。
「そうだね。今はそれよりも新種のモンスターだね」
フィンのこの一言でこの話は区切れる。
「あれ、そういえばアイズは?」
そして、アマゾネス姉妹の妹がふと気づく。【ロキ・ファミリア】の幹部が集まる中、1人だけ欠けていたことに。
「あの子が『早熟する』なんてスキルがあると知ったら、どんな無茶をしだすか分からない。アイズにはこのことは伏せておいてくれ」
リヴェリアがそう言った姿は、まるで娘を思う母のようだった。
「わかった」
「ここで幹部達にスバルのスキルやその存在について共有したのは、これによって生じた“違和感”で混乱が生じないようにするためや。特にスバルのスキルについては、ファミリア内はともかく、スバル自身にも絶対に教えないように頼むで。ほな、みんなは解散してもろてええよー。また打ち上げでな」
ロキは全員の顔を見ながらそう言った。
***
「どうなるんやろうな……」
ロキは団員が去り1人になった部屋で、彼のステータスの写しを見て呟く。
そしてこの日、のちに世界を救うもう一人の英雄が静かに産声をあげていたことを、この時は誰も知る由もなかった。