【ロキ・ファミリア】の多くの団員が本日の打ち上げ会場である「豊穣の女主人」の店の前に集まっていた。
「リヴェリア様!それにスバル!?」
レフィーヤはリヴェリアとスバルが一緒に来たことに驚き、思わず叫んだ。そして他の団員たち、特にエルフ達も、リヴェリアが見知らぬ男を連れて店の前まで来たのを見たことによる驚きを隠せない。
「なんか、皆さんからの目線が痛い……」
スバルは誰にも聞こえないくらいの声量で一人呟く。
「すまないフィン、少し遅れた」
「いや、問題ないよ。それにスバルの案内をありがとう」
「そう言ってもらえると助かる」
リヴェリアとフィンが言葉を交わす。スバルはその様子からやはりお互いがお互いを信頼しているように思えた。
「これで全員揃ったみたいだし、中に入ろうか」
フィンの指示で店の中へ入る【ロキ・ファミリア】の団員達。
「好きなところへ座るといい。あ、そうだスバル。後でお前の自己紹介をしてもらうからな。考えておけ」
「ああ……お?」
リヴェリアの話に耳を傾けながらスバルが店の中をぐるっと一周見渡すと、奥のカウンター席に一際目立つ白髪の少年がいた。そして、気づいた時にはもうすでに声をかけていた。
「ベル!」
「あっ、スバル!!」
スバルは一目散にベルの元へ駆け寄る。お互い笑顔で顔を見合わせる。
「あの後大丈夫だったか?会えなくて心配したぞ」
「それは僕もだよ。スバルがどうなったのかわからなかったし」
「すまんすまん、あれから色々あって……」
確かにお互い様だな、と思うスバル。
「そうだったんだね。でも、ほんとに無事でよかったよ」
「ああ。そうだ、ベル!俺、【ロキ・ファミリア】に入った」
「そーなんだ、よかったね……ってえー!!??」
幸い店の中は騒がしく、ベルの声はその中にかき消された。それでも店内にいる何人かはこちらのほうを見たが。
「そんなに驚くことか?」
「驚くよ!だってあの【ロキ・ファミリア】だよ?」
「まあ、確かにそうだな」
最初はスバルも驚いたものだ。いや、実際今も実感を持たずにいるのは事実だ。しかし、ファミリアのメンバーがスバルを温かく迎えてくれて、程よい距離感で接してくれているおかげでその違和感をだいぶ少なく過ごせていたことに気づく。
「なんか、僕も誇らしいや。ただ、それと同時になんか寂しさもあるなぁ」
「そうなのか?」
「だって、スバルがなんか遠くへ行っちゃう気がして……もう一緒にダンジョンに潜れないのかなって」
確かに零細ファミリアに所属するベルと、都市最大級のファミリアに所属するスバルが果たして同じパーティを組めるのか、という考えに至るのは当然のことのように思えた。
「そんなことはないよ。まあ、ファミリアの都合とかでそりゃ一緒にいけない日もあるかもしれないけど、いける時は一緒に行こうぜ!」
「い、いいの?」
ベルの表情が少し明るくなる。
「ああ、また一緒にダンジョン探索しよう!」
「う、うん!」
そして、ここで少しベルが顔を赤くした。
「ち、ちなみにさ、スバル……?」
ベルは言葉こそ目の前にいるスバルに向けているが、その目線はスバルの後ろ、【ロキ・ファミリア】が集まっている方へ遠慮がちに向けられていた。
「ん?どしたの、ベル?」
「【ロキ・ファミリア】ってことはさ、あ、アイズ・ヴァレンシュタインさんもいるんだよね?」
「ああ、もちろんいるぞ。ってかベル、お前アイズさんに助けてもらったのに逃げ出したんだって?」
アイズから聞いたことを思い出したスバル。
「あ、ああ、そ、それは、その……」
あたふたするベル。
「どうせなら呼んでこようか?」
すぐそこにいるし、と思いスバルは言う。
「そ、それは……」
しかしスバルの提案に対して、顔を赤くしながらもごもご何か言うベル。
「もしかしてベル、アイズさんのことを好きになっちゃったのか?」
そんなベルの姿を見たスバルがそう言った。
「す、スバル!シーッ」
「マジか!?」
図星だとわかりテンションが上がるスバル。
そしてスバルはベルの気持ちを知り、彼自身でアイズと言葉を交わすべきだと思い、アイズをこの場に呼ぶのをやめた。
と、そこで、
「よっしゃー!それじゃあみんな遠征ご苦労さん!今日は宴や!!それに、新しいメンバーも入ったことやし、盛大に盛り上がろうや!」
主神の声が掛かり、ここでのスバルとベルの時間は終了となる。
「おっと、良いとこだが集合がかかっちまったみてーだ。じゃあ俺、そろそろ戻るな」
「う、うん、楽しんでね!」
「ああ、またな!」
まだ少し顔の赤いベルに見送られ、【ロキ・ファミリア】の輪の中に戻っていくスバル。
「本当、良かった」
またベルと言葉を交わすことができ、心の底から安心できたスバルは誰にも聞こえないくらいの声で、そう呟いた。
***
「まずは新しいメンバーに自己紹介してもらおかー。ほな、スバル、自己紹介したってー」
「ええと、俺の名前はナツキ・スバル!よろしく!」
いつものように元気よく、声高らかに自己紹介をするスバル。
「スバルー!」
「バルスー!!」
「よろしくなー!」
団員達は明るい雰囲気でスバルを迎える。まあ、中にはあまり歓迎していなさそうな顔をしている者も少なくなかったが。
「よっし、スバルも入ったことやし、盛大に飲もうや!乾杯!!」
「「乾杯!!」」
そして、ファミリアの主神であるロキの声で本日の打ち上げが始まった。
***
「団長、つぎます。どうぞ」
「ああ、ありがとう、ティオネ。だけどさっきから、僕は尋常じゃないペースでお酒を飲まされているけどね。僕を酔いつぶした後どうするつもりだい?」
「ふふ、他意なんてありません。さっ、もう一杯」
ティオネはひたすらファンに酒を注ぐ。どうやら、アマゾネスの双子姉妹の姉のティオネは、フィンのことが好きらしい。スバルの中でティオネに対する「しっかりもの」という第一印象が早くも崩れかけていた。
「本当にぶれねえな、この女……」
それを見たベートが呟く。
「あれ?バルスは飲まないの?」
「いや、まだ未成年だし」
「ん?ミセイネン?何それ?」
年下のティオナに酒を勧められたが、スバルは律儀に日本の法律に従い、断った。
「うぉーっ、ガレスー!?うちと飲み比べで勝負やー!」
「ふんっ、いいじゃろう、返り討ちにしてやるわい」
ロキは向こうでドワーフのガレスに勝負を仕掛けていた。
「ちなみに勝った方はリヴェリアのおっぱいを自由にできる権利つきやァッ!」
「ブッ」
スバルは盛大に口に含んだジュースを吹いた。
「おいおい、そんなの信じるわけ……」
スバルは冷静な頭でそう思い、呟く。しかし、他の男団員は酔っているのか、
「じっ、自分もやるっす!?」
「俺もおおお!」
「俺もだ!?」
ロキの提案に次々と乗っていく。
「ヒック……じゃあ僕も」
「団長!?」
まさかのフィンの参戦に驚くティオネ。
「リヴェリア様!?」
「言わせておけ……」
一方、エルフ達にとっては一大事だった。それでもその当事者のリヴェリアはあまり動揺しているようには見えなかった。
そんな騒ぎの中、アイズは1人黙々とご飯を食べ続ける。
「アイズさん、お酒いかがですか?」
そんなアイズの姿を見た団員達がアイズに酒を持って行こうとするが、
「やめろ、お前たち。アイズに酒は飲ませるな」
リヴェリアがやめさせる。
「あれ、アイズさん、お酒は飲めないんでしたっけ?」
レフィーヤが尋ねる。
「んぐっ……ぷはっ。アイズにお酒を飲ませたらと面倒なんだよ、ねー?」
ティオナが言う。
「そうなのか?」
スバルが少し驚いたように尋ねる。
「……」
アイズは黙ったままだ。少し顔が赤くなっているように見える。
「えっ、どういうことですか?」
気になったのか、レフィーヤが詳しく聞く。
「悪酔いなんて目じゃないっていうか……ロキが殺されかけたっていうかぁ」
「ーーティオナ、お願い、やめて……」
アイズは顔を真っ赤にしてそう呟く。
「あははっ!アイズ、顔赤〜い!」
「ははっ!」
スバルもみんなに釣られて笑う。
しかし、だんだん視界がぼやけてくる。
「あれ、バルス?どうしたの?」
ティオナがスバルの顔を覗き込む。
「え?」
レフィーヤからもそんな声がこぼれ落ちる。
気がつくと、スバルの頬を一筋の水が伝っていた。
「あれ、なんで?」
「どこか痛いの?」
アイズが尋ねる。
「いや、そう言うわけじゃないんだ」
そう、これはきっと安心とかぬくもりとかからくる、優しい安堵の涙だ。
スバルにとって突然決められた運命。頼れるものが何もなかった世界で、普通に生きていれば人生の終わりに一度しか経験しない「死」を短い期間に何度も経験し、自分自身の無力さを文字通り痛感した。それでも彼の周りにいる、彼よりも強いさまざまな人が、彼をファミリアの一員として、まさに家族のように受け入れてくれた。そんな温かさが彼の強ばった心を優しく包み込んでくれたのだ。
だから、スバルは心に誓った。ここにいる人に何かを返せるように、この定められた運命の中でもがくことを。そのせめてもの意思表示を感謝の言葉に含めてスバルは言う。
「ありがとう、みんな」
「うん!」
「はい!」
「スバル」
ここで隣で話を聞いていたリヴェリアが声をかける。
「お前はもうこのファミリア、いや家族の一員だ。ここはお前の居場所だ」
「ああ」
さらに溢れてきそうになる涙を堪え、その代わりに今できる精一杯の笑顔で応えるスバル。
そうして、だんだん宴会の熱も上がってくる。
すると、
「そーだ、アイズ!そろそろあの話をしてやろうぜ」
少し離れた席にいる狼人のベート・ローガがこちらに向けて口を開く。
「ええと……」
アイズはベートが何のことを言っているのかわからない様子だった。
「あれだって、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロス!最後の二匹の片割れ、お前が5階層で始末しただろ!?そんで、ほれ、そこの雑魚の片割れのトマト野郎の!」
スバルは頭から氷水をぶっ掛けられたかのような感覚を覚えた。そして、先ほどまで心地よい温かさを保っていた心に冷たさが一気に広がっていく感覚を覚えた。
「それでよ、いたんだよ。そいつみたいにいかにも駆け出しっていうようなヒョロくせえ冒険者が」
ベートはスバルのことを指差しつつそう言った。スバルは思わずベルの方を見ると、少し俯き加減になっていた。無意識のうちにスバルはテーブルの上で両手を強く握りしめていた。そして、そのスバルの様子を見たリヴェリアが、スバルの手に自分の手を優しく添えて言った。
「抑えるんだ、スバル。我慢だぞ」
「でも……」
「お前が言っても火に油を注ぐだけだ。あれには好きなだけ言わせておけば良いさ」
「わ、わかった」
一応はリヴェリアに従うことにしたスバル。
「アイズが間一髪のところでミノを細切れにしてやったんだよ、なっ?」
それでもベートは止まらない。
「それでそいつ、あのくっせー牛の血を全身に浴びて……真っ赤なトマトになっちまったんだよ!くくくっ、ひーっ、腹痛えぇ……!」
「うわぁ……」
ティオナは顔を顰めながら呻いた。
「アイズ、あれ狙ったんだよな?そうだよな?頼むからそう言ってくれ……!」
「ーーそんなこと、ないです」
アイズは少し俯きながら、小さめの声で言う。
「それにだぜ?そのトマト野郎、叫びながらどっか行っちまってっ……ぶくくっ!うちのお姫様、助けた相手に逃げられてやんの」
「……くっ」
真面目そうなレフィーヤも吹いていた。
「アハハハハッ!そりゃ傑作や!冒険者怖がらせてまうアイズたんマジ萌えー!!」
「ふ、ふふっ……ごめんなさい、アイズっ、流石に我慢できない……」
ロキ、ティオネも吹き出してしまった。そして、それに続くかのように周りの団員達からも笑い声が上がる。
「ああいうやつがいるから俺たちの品位が下がるっていうかよ」
流石にリヴェリアも痺れを切らしたのか、口を挟む。
「いい加減そのうるさい口を閉じろ、ベート。ミノタウロスを逃したのは我々の不手際だ。巻き込んでしまった少年に謝罪することはあれ、酒の肴にする権利などない。恥を知れ」
リヴェリアの言葉のおかげで少しだけスバルの心に余裕ができた。そして、彼女の非難に、ティオナたちは気まずそうに視線を逸らした。しかし、ベートだけは違った。
「おーおー、さすがエルフ様。でもよ、ゴミをゴミと言って何が悪い」
「二人ともやめえ」
熱くなってきた2人をロキが宥めようとする。
「アイズはどう思うよ?自分の目の前で震えるだけの情けねえ野郎を」
「ーーあの状況じゃあ、しょうがなかったと思います」
「なんだよ……じゃあ、質問を変えるぜ?あのガキと俺、ツガイにするならどっちがいい?」
「ベート、君、酔ってるの?」
「うるせえ、ほら、アイズ、選べよ。雌のお前はどっちの雄にめちゃくちゃにされてえんだ?」
フィンが間に入ろうとするが、ベートは構わず続ける。
「ーー私は、そんなことを言うベートさんとだけはごめんです」
「無様だな」
「黙れババア……じゃあ、お前はあのガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら、受け入れるってのか?」
先ほどベルの気持ちを知ったばかりだったスバルはもう限界を迎えていた。スバルは無意識のうちに口を開いていた。
「なんでそんな話になるんだよ?ってか、なんであいつをみんなして笑うんだよ!こんなのただの悪口じゃねーか!」
「うるせえ、雑魚は黙ってろ。言っただろ?ああやって逃げる雑魚が山ほどいるから“冒険者”の品位が下がるって。それにな、お前もあのトマト野郎と変わんねーんだよ」
「なんだと?」
「モンスターどもから逃げた挙句、助けが来たらすぐに倒れたんだってな?情けないったらありゃしねー。力もないくせに調子に乗るなっつってんだ」
完全実力主義を掲げるベートに、何の力も持たないスバルは何も言い返せなかった。
「すまない、ベル」と心の中で呟き、ベルの座っている方をちらりと見ると、ベルは俯いていた。その表情を伺うことはできなかった。
「いいか?雑魚じゃアイズ・ヴァレンシュタインに釣り合わねえんだよ」
スバルは一瞬、全ての音が消えた感覚を覚えた。
ガタッ
そして、そんなスバルを現実に引き戻したのは一つの物音だった。
その音がした方に顔を向けると、店の奥の方で先程まで俯かせていた顔をそのままに白い兎が席から立ち上がり、店の外へ一目散に逃げ出すところがスバルの目に入った。
「ベルさん!?」
女性店員の声が響く。
「なんや?食い逃げか?」
「ベル!」
スバルは彼の名を叫びながら店の外まで出て彼を追いかけようとしたが、ベルは一人、バベルの方へ走り去っていった。場違いながらも、彼の足の速さに感心してしまう。そして、そのスバルの横にはアイズ、そして、少し後ろに先程の女性店員がいた。
「ごめん、スバル……」
アイズが呟く。
「いや、アイズさんは悪くねーよ」
「そう……戻ろっか」
「ああ」
「……ベル」
アイズが少年の名を口にする。
「くそ……渡しそびれたじゃねーか……」
スバルは服に括り付けてあった、今日のダンジョン探索で得たベルの分の金を入れた袋に、指先で触れた。布越しにも金貨の冷たさが十分に伝わってきた。
***
店の中に戻ると、リヴェリアの隣にロキが座っていた。
「すまない、スバル。お前自身とお前の友人を傷つける形になってしまって」
リヴェリアが謝罪する。
「なんや、ベートの言ってた子ってスバルの知り合いやったんか……そりゃ悪いことをしたな」
一応ベートは「そこの雑魚の片割れ」と言っていたが、酒の席ということもありそれを気に留めていた者は少なかったのだろう。ロキも反省の色を示す。
「いや、酒の席だししょうがないだろ。それに、ベートさんの言ったことも間違いじゃないしな」
確かにリヴェリアやティオナ、レフィーヤやアイズはスバルのことを受け入れてくれたが、他の団員はそうとは限らないだろう。都市でも随一の実力を誇る【ロキ・ファミリア】。中には自分たちの実力に矜持を持つものも少なくないだろう。おそらくベートもその一人だろう、とスバルは思う。そのためスバルはベートに対して怒りはしたが、彼の言い分が間違いだとは思えなかった。
その後宴会は冷静さを少しは取り戻し、特に問題も起こらず終了した。
しかし、スバルの心には確かなしこりが残っていた。
***
打ち上げが終了し、店を後にする前にスバルは奥のカウンターの方へ歩いて行く。
「すみません」
「はい」
奥からでてきたのは緑色の髪のエルフの女性だった。
「あの、この店の店主の方はいらっしゃいますか?」
「今、呼んできます」
しばらくすると店主と思われる、ロキに「ミア母ちゃん」と呼ばれていた女性の方が出てきた。
「ああ、あんた、【ロキ・ファミリア】に新しく入ったっていう坊主かい」
「はい。すみません、自分の所属するファミリアの団員の言動で、ベルに、あの少年に不快な思いをさせた挙句、食い逃げまがいのことをさせてしまって。さらには、お店にも迷惑をかけてしまって……」
「なんだ、あの坊主の知り合いだったのかい」
「だから、ここは俺が彼の分も払いますから、彼のこと、多めに見てやってくれませんか?」
ベルにまだダンジョンでの取り分を渡していなかったこともあり、スバルはミアに言った。
「その心構えには感心だが、金を払わずに逃げたのはあの坊主だ。つまり、あの坊主が払わなければ意味がないだろ。だから、あんたの金は受け取れないよ」
しかし、ミアはそれを拒否した。
「そんな……」
「まあ、少しはあんたの顔に免じてあいつが戻ってくるのを待ってあげるさ。これでしばらくしても戻ってこなかったらケジメをつけに行くけどね。ただ、次はないよ」
「は、はい」
どうやら、悪い人ではなさそうだ。ただ、”ケジメ”と言う言葉には恐怖を覚えた。二度とこの店で食い逃げなんてできまいとスバルは思った。
「ふふ、ベルさんは良い友人を持たれたようで、安心しました」
そこへ話を聞いていたのか、奥から鈍色の髪の女性、そして先程のエルフの店員の二人が出てきた。特に鈍色の髪の女性は、よく見てみるとダンジョンに行く前、ベルに弁当を渡していた人だった。
「あ、あなた方は……?」
「私はシル。シル・フローヴァです。そして、こっちが」
「リュー・リオンです」
「シルさんにリューさん、か。今日は本当に迷惑をかけて、すまなかった」
「いえ、また来てくださいね」
「はい!」
シルさんの笑顔に少し救われた気持ちになるスバル。
「なあ、坊主」
「なんですか?」
ミアに呼び止められるスバル。
「”生きる”ことに必死になりな」
スバルはその言葉にハッとする。
「生きて帰ってきたやつには盛大に酒を振る舞ってやる。そうすりゃ、勝ち組だ。そうだろ?」
彼女の言葉がスバルの心に響く。
「くたばっても、諦めんじゃないよ」
「はい」
そして、スバルは店を後にした。彼の心の中で渦巻いていた闇が、少しだけ、ほんの少しだけ晴れた気がした。
以前、スバルのスキル名について誤字報告をいただきましたが、「寵愛」ではなく敢えて「超愛」と書いています。一応理由はありますが、それをお伝えできるのはこのペースだとかなり先になりそうです。(何せ今回の第七話でやっとスバル君のオラリオ生活1日目が終了ですので……)