Re:ゼロから始めるダンジョン生活   作:Hi-Speed

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少し詰め込みすぎたかもしれません。


第八話

打ち上げから一夜明け、スバルは異世界生活2日目を迎えた。

 

今朝起きた時は普段の自分の部屋ではなかったため少し驚いた。しかし、目が冴えていくうちに昨日自分が異世界に召喚されたことを思い出していった。また、一日経ったことで本当に自分が異世界召喚されたのだなという現実味がスバルの中でより増していった。

 

まだ朝食まで時間があるということで、軽く散歩でもしようかとスバルは自分の部屋を出て、ホームの中を散歩し始めた。そして、リヴェリアとロキが話をしているところを見かけ、そこへスバルは歩いていく。

 

「おはよう、スバル」

 

「おはよう」

 

「おはよーさん、昨日はよく眠れたかー?」

 

「ああ、ぐっすりとな」

 

「それは良かった」

 

スバルの昨日はいきなりオラリオに飛ばされたり、何度も死んだり、新しい友人と出会ったり、ファミリアに入り宴会まであったりと、とにかく色々なことがあった。特に「死」という1人の人間が一生に一度、最後に待ち受けるそれを何度も経験した割にスバルはぐっすりと眠ることができた。恐らくファミリアの団員の多くが温かくスバルを迎えてくれたことがその理由の一つだと思うが、特に彼のルームメイトとなったヒューマンのオットー・スーウェンがとても気の合う者だったからかもしれない、とスバルは思った。いや、やっぱり普通にバタバタしていて疲れていただけかもしれないな。うん、そうに違いない。

 

 

「にしても、アイズの元気がないな」

 

リヴェリアかそう口にした。

 

「そうなのか?」

 

「ああ、珍しいを通り越して、不可思議だな」

 

言われてみれば確かにアイズさんの表情は曇っているように見えるな、とスバルは思う。ただ、スバルにはアイズがあまり感情を表情に出さないような人に見えていたために自分の思い過ごしか、とも思っていた。

 

「いつもなら遠征後だろうがかまわずダンジョンに突っ込むんやけどなぁ」

 

「やはり昨日の酒場の一件か」

 

酒場の一件、と聞いてスバルはその発端となった存在のことが気になる。

 

「あの、ちなみにベートさんは今どこに……?」

 

「あそこだ」

 

「え……げ!?」

 

昨日の威勢の良さがどこにもない、しょんぼりとしたベートがそこにはいた。少しだけスバルはベートに対する印象が変わったのを感じた。

 

「ああ、あいつは酔いが覚めたらすっかり忘れてたで」

 

「自業自得だな」

 

「はは……」

 

「まあ、アイズたんのことはあの子らに任せるか」

 

見下ろすと、ティオナ達がちょうどアイズの元へ駆け寄っているところだった。

 

「そうだな。そうだ、スバル。昨日も言ったが今日は私がお前の勉強に付き合おう」

 

「本当にいいのか?」

 

「ああ、お前には教えることが山ほどある。並大抵のやつでは到底捌ききれん」

 

「では、お願いします」

 

「ああ、では朝食の後に私の部屋へきてくれ」

 

「わかった」

 

「ちなみに私の部屋の場所はわかるか?」

 

「ああ、昨日レフィーヤに教わったから覚えてるよ」

 

「そうか、ではまた朝食後に」

 

そう言ってリヴェリアは一足先にその場を離れる。

 

「スバル、よっぽどリヴェリアに気に入られたんやな」

 

そのリヴェリアの背中を見ながらロキは言った。

 

「そうなのか?」

 

「ああ、そうやな。あんなに柔和な表情をするのも珍しいんやで?これは、行き遅れに片足突っ込んどるリヴェリアにもついに春が来たんか??」

 

「はは……」

 

ロキの言葉に困惑するスバルであった。

 

 

***

 

 

朝食後、スバルはすぐにリヴェリアの部屋へ向かった。

 

「まずは文字からだな」

 

そう言うリヴェリアの手には大量の本がある。

 

「はい」

 

「今から覚えるのは共通語(コイネー)だ。神々の使用する神聖文字(ヒエログリフ)は覚える必要はない」

 

「わかった」

 

「生活する上で最低限の文字を今日は学ぶ。これから1週間で読んだり書いたりできるようにしたい」

 

「お願いします」

 

そして始まったリヴェリアの指導。少し厳しめなところはあるがわかりやすく、そのおかげかスバルはものの数時間で基本的な文字をマスターした。

 

「ーーてことで、少しは読めるようになったか?」

 

「ああ……ただ、まだ覚えたてだから、明日になったら忘れてるかもしれないけど」

 

「とりあえず今はそれでいい。では、試しにお前のステイタスの写しでも読んでみるか?」

 

「おぉ、昨日俺が読めなかったやつだ」

 

「ああ、ちなみにこれがそうだ」

 

そうして、リヴェリアはスバルに一切れの紙を渡す。

 

「どれどれ……『ナツキ・スバル、Lv.1……』おお、読めるぞ!」

 

「覚えがいいな、スバルは」

 

リヴェリアは関心しているようだった。

 

「それほどでも。ええと、続きは『力: I 0、耐久:I 0……』って全部ゼロかよ」

 

「最初は誰だってそうだ。ちなみにステイタスのマックスは999だ。100ごとアルファベットが変わっていくようになっている」

 

「なるほど」

 

「ーーそして、昨日も言ったが、お前には魔法が発現している。ここからは魔法に関することを教える」

 

「お、来ました!」

 

確かに【魔法】の欄には何か文字が書いてある。しかし、内容はまだよく読めない。

 

「お前に発現した魔法『シャマク』は少し特殊な【速攻魔法】だ」

 

「そっこー魔法?」

 

スバルはいまいちピンとこない。

 

「普通、魔法を発動させるためには詠唱式を唱える必要がある。『詠唱』には魔法を放つ砲台を作り、詠唱を唱え終えて初めて魔力を充填させ、発動させる、という役割があるんだが、お前に発現した魔法『シャマク』には詠唱式がない。つまり、魔法の名前を唱えるだけでそれを発動ができる、と言うわけだ」

 

「なるほど。じゃあ、『シャマ……』」

 

指を天に向けて、早速魔法を発動させようとしたスバルの口をリヴェリアが即座に塞ぐ。

 

「馬鹿者。お前がそれを口にすれば発動すると言っただろう。まだ魔法の効果も説明していないのだぞ?迂闊すぎる」

 

「すみませんすみません」

 

リヴェリアの厳しい声に思わず萎縮するスバル。

 

「まあ良い。それでシャマクの効果だが、基本的には相手の視界を奪うというものだ」

 

「なるほど、“紗幕”ってことね」

 

「あとお前の場合、チャージをして発動することで相手のステイタスを減少させることができるようだ。具体的に言うと、相手のレベルを一つ下げるということらしい」

 

スキルの内容をそれとなく伝えるリヴェリア。

 

「レベルを下げる?そんなことができるのか?」

 

レベルが一つ違えばそこには大きな壁が存在する。昨日のレフィーヤの言葉を思い出す。

 

「ああ」

 

「まじか」

 

「ただ、私も見てみないことにはわからない」

 

「リヴェリアもみたことがないのか?」

 

オラリオ一の魔導士であるリヴェリアでも見たことがない魔法。果たしてどんなものなのだろうか、とスバルは期待と不安が混ざったような感覚を覚える。

 

「ああ、相手のステイタスを減少させるシャマクの実物を見たことがない。だからここからは過去に読んだ文献の知識になるが、説明を続けるぞ」

 

「はい」

 

「相手のステイタスを減少させるためには、相手のレベルに応じたチャージが必要となる。言い換えれば、レベルの高い相手には長時間のチャージが必要だということだ」

 

「なるほど」

 

「確か、相手がLv.2なら20秒、Lv.3なら40秒と、だんだんチャージの時間は多くなっていくはずだ。もちろんそれに伴い、消費される精神(マインド)の量も増えるからな」

 

「そりゃそう簡単にステイタスなんて下げられるもんじゃないよな」

 

「ただ、Lv.1の相手にチャージして発動させたものや、チャージ不足の場合はただのシャマクになるからな」

 

「了解だ」

 

「あと、相手のステイタスを減少させたときに獲得できる経験値(エクセリア)は半分だ」

 

「えぇ……って思ったけど、ズルして勝って強くなったところでってことか」

 

「そうだな」

 

それに、とリヴェリアは続ける。

 

「魔法を使う上で気をつけるべきは「精神枯渇(マインドゼロ)」だ」

 

「『精神枯渇(マインドゼロ)』?」

 

「ああ、要するに精神(マインド)を使い切って、生命活動に一時的な支障をきたす精神疲労(マインドダウン)のことを指す」

 

「なるほど、MP切れを起こすってことか」

 

スバルは現代知識と絡めながら理解していく。

 

「ダンジョン内では命取りだ。気をつけるように」

 

「わかった」

 

ここで、リヴェリアは少し強調するように言う。

 

「いいか、スバル。お前に発現した魔法、シャマクの本質は“分離”だ。先ほど、視界を奪うと言ったが、あれの原理は何かで相手の目を覆うと言うよりかは、対象の肉体と意識を分離させて起こっていると考えた方がいい」

 

「なるほど、よく分からん」

 

何となくのイメージはできるが、まだその本質にまでは手が届かない気がしたスバル。

 

「まあ、今はわからなくても良い。とりあえず、魔法については以上だ。あとは実践する時に教える。それでは次にダンジョン内での行動についてだな」

 

「あれ……?」

 

「な、何だ?」

 

先ほど渡されたステイタスの写し。スバルにはその【スキル】の欄にも何か書いてあるのが見えていたが、リヴェリアはわざとらしいほどにそれの言及を避けた。気になるところではあったが、スバルは一応スルーする。

 

それよりも、ここまで休憩がないにも関わらずまだ講義が続くことに、不安と不満が高まってきた。

 

「ええと……まだやるんすか……?」

 

「ああ、お前は無防備で6階層まで進出した前科があるからな。他のやつよりも念入りにやるぞ」

 

「まじか……」

 

それからスバルはリヴェリアにダンジョン内での行動などを教わることになった。まだリヴェリア先生による特別講座は終わらない。

 

 

***

 

 

「集中して取り組めたな。ここで、休憩も兼ねてお前の武器を決めようか」

 

基礎的なことを一通り学んだところで、リヴェリアがそう声を掛ける。

 

「おっ、休憩……?」

 

そういえば昨日、防具は買ったが武器はホームにある武器で試してみよう、みたいな話をしたことを思い出したスバル。

 

「武器を決めるのだぞ?あくまで休憩はそのついでだ。一度外へ出るぞ」

 

「ああ」

 

そして二人は黄昏の館の中庭に出た。

 

「とりあえずナイフと槍と剣と弓矢を持ってきた」

 

そういうリヴェリアの手には、飾り気のないシンプルな作りをしたナイフ、槍、剣、そして弓矢があった。

 

「おお」

 

「どれから使ってみたい?」

 

「ええと、じゃあ弓矢で」

 

「ああ、わかった」

 

リヴェリアに教わりながらスバルは弓を構える。

 

「あの木の幹を狙ってみろ」

 

「ああ」

 

「距離は大体10〜15mといったところか」

 

「メドル?」

 

リヴェリアが口にしたのは耳馴染みのない言葉だった。

 

「ああ、距離の単位だ。知らないのならまた教えてやる」

 

「わかった、ありがとう」

 

おそらくメートルのようなものだろうと察するスバル。それと同時に、これは補講が入るだろうなとも察した。

 

「では、矢を放ってみろ」

 

「はっ」

 

放った矢は木の幹の中央に命中した。

 

「当たった……!」

 

「ほう、スバルは筋がいいのかもな」

 

リヴェリアは素直に褒める。

 

「ありがとう」

 

「でも、弓矢だけだと火力不足だな」

 

「では、次に槍を使っても良いか?」

 

スバルは次に槍を手にした。

 

「いいが、槍の扱いは私よりも……」

 

「スバルは槍を使うのかい?」

 

「フィン、か……?」

 

と、そこへ声をかけたのは丁度中庭を通りかかったフィンだった。そういえばダンジョンで助けてもらった時にフィンは長い槍を持っていたな、とふと思い出すスバル。

 

「ああ、試しに素振りしてみたらどうだい?」

 

「ええと、こうか?」

 

スバルは自己流で槍を突いたり振り回したりする。

 

「うん、いいね。じゃあ、次はそれで僕を狙ってみてよ」

 

「え?」

 

「要するに対人戦というやつだね」

 

「これって、本物の槍だよな?万が一当たったら」

 

「大丈夫、それは絶対にないから」

 

そう言いつつ、フィンはどこからか取り出してきたモップの柄の部分を持ち出す。どうやら、フィンはスバルの攻撃をそれで対応するつもりらしい。

 

「おう、そこまでいうならやってやらあ!」

 

なめられていると思ったスバルは無我夢中で槍をフィンに向ける。

 

「くそっ!」

 

しかし、その槍の先は一向にフィンに届かなかった。

 

「はっ!」

 

「うん、ここまでにしようか」

 

そういってフィンはモップの柄でスバルの頭をコツンと優しく叩いた。

 

「はあ、はあ……」

 

スバルは【ロキ・ファミリア】団長かつLv.6の実力をその肌で実感した。

 

「駆け引きとか戦い方を学んでいけば戦えるようになるね。槍の使い方も初めてにしては上手だし、これだったら練習すれば上手く扱えるようになるよ」

 

「はあ、はあ、マジか!?」

 

息を切らしながらもフィンに褒められ嬉しくなるスバル。

 

「ああ、僕も空いてる時に教えてあげるよ」

 

「ありがとう」

 

「うん」

 

「リヴェリア、槍にするよ」

 

そばで黙って様子を見ていたリヴェリアにスバルは言った。

 

「ああ、それが良いだろう。そうだ、ついでにナイフもやっておくか?」

 

「わかった」

 

そしてスバルはナイフの使い方のレクチャーを受け、スバルの武器は槍とナイフに決定した。

 

「そういえばスバルは明日、怪物祭(モンスターフィリア)に行くのか?」

 

リヴェリアは他の武器をしまいながらスバルに尋ねた。

 

「ああ、ティオナに誘われてて」

 

「じゃあ、そのための小遣い稼ぎにでも行くか」

 

「え?」

 

「昨日買った防具でお前の所持金はほぼゼロに近いだろう?」

 

「確かに……」

 

こうして、リヴェリアに連れられてダンジョンに潜ることになったスバル。

 

 

***

 

 

「ここが良いな」

 

リヴェリアが選んだのは5階層の広めのルーム。ちなみに、今のスバルの装備は昨日購入したライトアーマーと武器のナイフと槍だ。

 

「まずは槍での戦闘だ」

 

「え?魔法は?」

 

スバルは早く自分の魔法である『シャマク』を使いたくてうずうずしていた。

 

「馬鹿者。魔法を使う前に、最低限の戦闘能力を身につけなければならない。自分に迫るモンスターから身を守れないと、魔法の行使に影響が出る」

 

しかしリヴェリアはそんな浮かれ気味のスバルに釘を刺すかの如く言った。

 

「なるほど」

 

そこへ、一体のコボルトが登場。

 

「いけ、スバル」

 

「ああ」

 

コボルトと目が合う。少しだけ驚いたスバルだが、すぐに槍をコボルトに向け、思い切り突き刺す。槍に撃ち抜かれたコボルトはすぐに灰になり、代わりに魔石がコロンと音を立てて落ちる。

 

「ふう」

 

スバルは記念すべき初勝利を挙げた。

 

「まだまだいくぞ」

 

しかし、リヴェリアの声によりそんな喜びを噛み締める間もない。

 

「え?まじ?」

 

スバルがルームの入り口に目を向けると、確かにそこにはまたコボルトがいた。

 

「ふっ!はっ!」

 

そして、10回ほど槍での戦闘を繰り返したところで、

 

「よし、次はナイフだな」

 

「え?」

 

スバルは「魔法じゃないの?」という顔をしていた。しかし、リヴェリアは有無を言わさずスバルにナイフを出させる。

 

「入り口から入ってくるモンスターを狙うぞ」

 

「ああ」

 

そこで、また一体のコボルトが顔を出す。

 

「いけ」

 

スバルはコボルトの元へ走っていき、ナイフでその身体を思い切り切りつけた。コボルトは灰となって消えた。

 

「良いな。もう少し続けよう」

 

それからしばらくはナイフを使った練習をした。最初こそモンスターに対するためらいがあったものの、練習を重ねるごとにそれがだいぶ慣れてきて、モンスターをより素早く倒せるようになった。

 

そしてついに……

 

「ーーさあ、スバル。お前の魔法を発動させろ」

 

「待ってました!」

 

リヴェリアからやっと魔法行使の許可が降りる。

 

目の前のコボルトに手のひらを向けてスバルは自身の魔法を唱える。

 

「シャマク!」

 

黒い霧のようなものがスバルの手から発射され、それがコボルトを覆い尽くす。すると、コボルトは急に視界を奪われ平衡感覚を失ったのかフラフラとふらつき、終いにはその場に倒れ込んだ。

 

「フッ!」

 

そこへスバルが自身のナイフを突き刺す。コボルトは消え、代わりに魔石が出現した。

 

「良い調子だ。ただ、低級のモンスターは今みたいにシャマクをかけるだけで平衡感覚を失うが、これから先戦っていく相手はあんなにうまくいくとは思わないでくれ」

 

「ああ、わかってるよ」

 

「それなら良い。では次は複数の相手にかけることをやりたいな……おっ?」

 

そんなリヴェリアの言葉に反応したかのように、ルームの入り口からはコボルトの群れが入ってきた。

 

「うわ、こんなにたくさん!?」

 

「ああ、お前ならいけるぞ」

 

「リヴェリアに言われるとなんだかできる気がするな」

 

「気持ち多めに精神(マインド)を消費するイメージだ」

 

イメージを膨らませたスバルは声高らかに自身の魔法を唱える。

 

「シャマク!」

 

1番後ろの個体以外のコボルトが先ほどと同じようにふらつき、倒れた。

 

「くそ!1匹漏らしたか」

 

そして、スバルはまずシャマクがかからなかった一体を片付け、その後、シャマクにかかった5体を倒す。

 

「まあコボルトとはいえ同時に5体もかけられれば満足だ」

 

「しかし、俺、本当に魔法使えたんだな」

 

自分の手のひらを見ながらスバルはつぶやく。

 

「まだ精度を上げていく必要はあるが、今日はこのくらいでいいだろう」

 

「ふう」

 

やっと帰れる、とスバルは少し気を抜いた。

 

「少し気が抜けている今のように、ダンジョン内の立ち回りはまだ改善の余地が大いにあるが、それはまた教えよう」

 

「すみませんすみません」

 

スバルは背筋をピンと伸ばし、再び気を引き締める。いくら隣にリヴェリアがいるとはいえ、ここはダンジョンだから油断をしてはいけないなと反省するスバル。

 

「スバル」

 

そんなスバルにリヴェリアが声をかける。

 

「愚直に、堅実に、着実に力をつけろ」

 

「はい」

 

そう言ったリヴェリアの表情は、子を思う親のようだった。

 

 

***

 

 

「リヴェリア」

 

バベルの一階にたどり着いたスバルはリヴェリアに言う。

 

「どうした?」

 

「俺、少し行きたいところがあるんだ。先帰っててくれないか?」

 

「良いが、あまり遅くなるな」

 

「ああ、分かった」

 

そう言ってスバルは一人、ギルドへ向かった。

 

「すみません、エイナ・チュールさんはいらっしゃいますか?」

 

ギルドの受付嬢にそう言ったスバル。

 

「はい、少々お待ちください」

 

少しすると、奥からエイナが顔を出す。

 

「あれ?ナツキ氏、どうかなさいましたか?」

 

「どうも、エイナさん。あの、お尋ねしたいんですが、ベルのホームってどこらへんにありますかね?」

 

「クラネル氏のホームですか?ええと、個人情報ですので……」

 

「ですよねー」

 

やっぱ無理だよな、と思うスバル。

 

「ちょっとこちらへ来てもらってもいいですか?」

 

エイナにそう言われ通されたのは防音仕様の面談室のようなところだった。

 

「ベルくんのホームは……この辺りかな」

 

エイナは先程までの丁寧な口調ではなく、だいぶフランクな口調でスバルに地図を見せながらベルのホームを教えてくれる。

 

「あの、自分から聞いておいて何ですが、こんなに簡単に他の冒険者の個人情報を教えちゃって大丈夫なんですか?」

 

「本当は良くないけどスバルくんはベルくんの友人みたいだし、それにあのリヴェリア様に目をかけられているってだけで、十分に信頼に足るなって思ったからだよ」

 

前者はともかく、後者は理由として強い説得力を持ちそうだ。

 

「そ、そうなんですね」

 

「それとも、本当に悪いことを企んでいるのかな?」

 

「い、いえ。ただ、昨日のダンジョン探索で得た魔石、もう換金しちゃったんですけど、それを山分けにしようって言っていたのに渡しそびれて……」

 

「ほらね?」

 

エイナは微笑みながらスバルに言う。

 

「え?」

 

「冒険者の中には、そうやってパーティを組んでも報酬を山分けにしなかったり、しっかり渡さなかったりすることが多々あるの。でも、君は正直に取り分を渡そうとしてる」

 

「いや、それって当たり前のことなんじゃ……」

 

「本当ならね。でもその当たり前ができる人が少ないんだよ」

 

「なるほど」

 

”冒険者”の品位が下がる。スバルの頭の中に昨日のベートの言葉がよぎった。いわゆるチンピラのような、弱いものを甚振る冒険者も少なくはないだろう。そして、そういった人に限っていざ命の危険を感じた際には我が身可愛さで一目散に逃げていくのだろう。ベートの言いたいことが少しはわかった気がしたスバル。

 

「それに、ベルくんは真っ直ぐすぎるくらい正直だから、騙されないかっていつも心配なの」

 

「確かに……」

 

武器も防具も恩恵も持たない、目つきの悪い見ず知らずの人間をサポーターとして一緒にダンジョン探索をしてしまうくらいには真っ直ぐで優しいしな、とスバルはエイナの言ったことに納得する。

 

「スバルくん」

 

「はい?」

 

「これからも、ベルくんをよろしくね」

 

「はい」

 

「それと、君もダンジョン探索がんばってね。応援しているから」

 

微笑みながらエイナは言った。

 

「はい、がんばります!!」

 

エイナに見送られながらスバルはギルドを出る。

 

「はぁ、E・M・T(エイナさん・マジ・天使)……」

 

ギルドを出たスバルは、思わずそう呟いた。

 

 

***

 

 

「ここだよな……?」

 

エイナが教えてくれた場所には、古びた教会があった。そして、スバルはドアをノックする。

 

「ごめんください」

 

「はい……ってスバル?」

 

中から顔を出したのはベルだった。その身体にはまた生傷を増やしていた。恐らく今日もダンジョンに潜っていたのだろう。

 

「ベル!」

 

安堵感とともに少し大きめの声で彼の名を呼ぶスバル。

 

「よ、よくここにいるってわかったね」

 

「ああ、まあ色々聞いて回ったんだ」

 

「エイナから聞いた」と言っても良かったが、あまり大っぴらにするべきではないだろうとスバルは考え、そのことは伏せた。

 

「それで、どうしたの?」

 

「昨日の酒場のことでな」

 

「あっ」

 

ベルはハッとする。

 

「昨日はすまなかった」

 

「いや、いいよ」

 

そしてベルは、スバルに向けた目に確かな意志を宿らせ言う。

 

「スバル」

 

「なんだ?」

 

「僕決めたんだ」

 

ベルは熱のこもった声で言う。

 

「僕、強くなるよ。もっともっと、強くなるよ」

 

「ああ」

 

スバルはどうやらベルという人間の強さ、彼の心の強さ、意志の強さを知ることができていなかったらしいことに気づく。

 

「それと、これ」

 

「これって?」

 

実はスバル、ギルドでベルのホームを聞いた後に一度ホームへあるものを取りに戻っていた。

 

それは、

 

「昨日のダンジョン探索で得た魔石、邪魔だったから換金しちまったんだけど」

 

「えっ?嘘?そんな、いいのに……」

 

「いや、山分けって言ったのは俺だ」

 

筋は通させてもらう、とスバルは金の入った袋を渡す。

 

「そう言うことならありがたくもらうね。って、こんなに?」

 

「ああ、昨日換金したら24000ヴァリスだったから、2人で半分ずつで12000ヴァリスだ」

 

「でも、なんか多すぎる気がする……」

 

「そうなのか?」

 

「うん。だって、この量のお金って僕がオラリオに来てから今まで稼いだ分くらいの量だよ?いくら2人で探索したとはいえ……」

 

「まじ?」

 

記憶が曖昧だったからあまり気にしていなかったが、確かに今日もらった魔石が入った袋は自分がダンジョンで探索していた時よりも大きかった気がするな、とスバルは今更ながら思う。

 

「てことは、ロキかフィン、リヴェリアあたりが多めにくれた、と言うことか……?」

 

そう呟きながら、今度彼女達に何かお礼をしなければと思うスバル。

 

「まあ、昨日迷惑かけた分も含めて、もらってくれ」

 

「う、うん!ありがとう」

 

「じゃあまたな!」

 

スバルは長居するのもあまり良くないだろうと思い、早めにベルのホームを出て自らの家路についた。

 

 

***

 

 

「俺も、強くなれるかな」

 

夕焼け色に染まるオラリオの街を歩きながら、スバルはそう呟いた。




説明的な要素が多くなってしまいましたが、これにて第一章が終了です!
次回から第二章になります。引き続きよろしくお願いします!
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