チェーホフの銃   作:部分分数分解

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第1話 出会い

人は生まれながらに平等じゃない。これが齢4歳にして知った社会の現実。

 

 

市立折寺中学校、帰りの会中のこと

「今から進路希望のプリントを配るが!皆だいたいヒーロー科志望だよねー」

先生がそう言えば、クラスのみんなは「個性」を発動させながら手を挙げた。そんな中で無個性の僕は、挙げているのかどうか分からないくらい控えめに手を挙げた。

「せんせー、皆とか一緒くたにすんなよ!」

「あー、確か爆豪は雄英高校志望だったな」

クラスがざわめく。雄英高校は倍率300倍、偏差値79の国立高校なのだ。

「俺は必ず入試にトップで合格し、オールマイトを倒す!」

「あ、そういや緑谷も雄英志望だったな」

生徒の志望校を先生が言うのはダメだろ。案の定クラスの視線が僕に集まる。僕を笑い、僕を否定する。

「こらデク!!!なんで没個性どころか無個性のテメーが、何で俺と同じ土俵に立てるんだよ!」

「張り合おうとか考えてないよ…ただ小さい頃からの目標で…それにやってみないと分からないし…」

 

 

放課後。こっそり持って来ているスマホでネットニュースを見る。今朝見た事件がトップにあった。早く家に帰ってヒーローノートにまとめよう。ノートをカバンに入れようとした瞬間、手が伸びてきた。

「おい、話はまだ済んでねーぞ」

「カツキ、何それ」「将来の為のヒーロー研究?マジか、緑谷ー」

かっちゃんは、ノートを個性で爆破した。ノートは中庭に捨てられた。

「お前は勉強でもスポーツでも俺に負けて、個性も無けりゃ、やったことといえば、ノート作りだけか。何でそんなやつが雄英に入ってヒーローになれるんだよ、なあ」

かっちゃんは、僕の首に左手をかけた。薬指の欠けた左手を。息ができなくて苦しい。

「お前ら、帰るぞ」そう言って彼は手を外した。突然空気が取り込めてむせてしまう。

「おー。でもお前もひどいよな、俺ならあんなこと言われたら心折れちゃうよ」「だよなぁ」笑い声が去っていった。ノートを拾いに行かないと。

小さい頃に見たオールマイトの姿に憧れた。自分もあんな風になりたいと思った。けれど現実は残酷で、僕には個性が無かった。僕はヒーローになりたい。けど、心のどこかで、僕はヒーローになれないと思っている。だから、かっちゃんに何も言い返せなかっんだ。だって、かっちゃんは凄く努力してる。付いてる筋肉は毎日弛まぬ訓練を積み上げてきた証だし、学力も頭脳系の個性を持った子にも劣らない。それに対して僕は、ヒーローオタクなだけで、周りよりは少し勉強できるだけで、死に物狂いで何かをしてきたわけじゃない。

かっちゃんがああ言ったのも当然のことかもしれない。

「帰ろう」小さく呟く。通学路を歩いていく。高架下をくぐり、マンホールの近くを過ぎた瞬間、妙な音が聞こえた気がした。

「Mサイズの隠れミノ…」

何だ⁈ヘドロの様な何かが体を覆って身動き取れない。呼吸もできない。(ヴィラン)だ!

「カラダを乗っ取るだけさ、苦しいのは約45秒…すぐに楽になる」

死ぬ!死ぬのか?誰かっ!死ぬっ!

「もう大丈夫、私が来た!」この声は何度も聞いたことがある!僕の憧れで、平和の象徴のオールマイトだ!

「TEXUS SMASH!!!」

オールマイトがヘドロのヤツを風圧で吹っ飛ばした。オールマイト…!聞きたいことが…!まずい…意識が…

「ヘイ!ヘイ!!」へっ、あ!

「良かったー」えーー⁈オールマイトがこんな近くに!

(ヴィラン)退治に巻き込んでしまってすまないね!しかし、もう大丈夫だ。このペットボトルに詰めたからね。君のお陰だ。もう行かねばならないのでね。液晶越しにまた会おう」

待って、サインを…ノートはどこだ?えっと、あった!ってもうサインしてある!いつの間に⁈待って、まだ聞きたいことが…

「それでは、今後とも応援よろしくねーー」オールマイトが大きくジャンプした。オールマイトがするとジャンプは飛行に変わる。僕は思わずオールマイトの足にしがみついてしまった。

「って、こらこら。放しなさい!熱狂が過ぎるぞ!!」

「今放すと死んじゃ、死んじゃう!」

「確かに」

「僕、あなたに聞きたいことが!」口の中に風が入り、目は強制的に開かされる。ちょっと手を緩めたら落ちて死にそうなほどの勢いだ。

「オッケー、分かったから目と口を閉じな!」

オールマイトは、適当なビルの屋上に下ろしてくれた。

「怖かっっった…」

「全く!!階下の人に頼めば下ろしてくれるだろう。じゃ、私はマジで時間がないので本当にこれで!」

「待って!!!」「NO、待たない!」

無個性でもヒーローになれますか?

「あなたみたいなヒーローになりたいんです!」

気がつくと痩せ細った男がそこにいた。え、誰?どうして?

「私はオールマイトさ」ウソだ!!

「5年前に戦闘により胃袋全摘出、呼吸器半壊の怪我を負った。今は、力むことで見た目を保っているが、ヒーローとしての活動時間は1日3時間程度だよ」

オールマイトはTシャツを捲り、自分の腹を見せた。目を逸らしたくなるような大きな傷跡が肌全体を覆っている。

「プロはいつだって命がけさ。個性がなくても成り立つとはとても言えないよ」

「夢見ることも大事だが、相応に現実も見なくてはな、少年」

彼は去っていった。あの傷跡と彼の言葉が頭から離れない。憧れの平和の象徴と会えて浮かれていた気分は、急速に沈んでいく。上の空で歩いていたら、何らかの事件現場にたどり着いてしまっていた。緊張感のない野次馬が、スマホで撮影している。普段は、僕も野次馬に混ざり、救助の到着を、ヒーローの活躍を待っていた。今行っても虚しくなるだけだろ。

「あいつ、何で!?」さっきのヘドロの敵だ!僕が無理やり彼についていったから、オールマイトがあの敵を詰めたボトルを落としたんだ。僕のせいで!

敵は誰かにへばりついている。すごく苦しいはずだ。早く誰か助けに…!

囚われている子と目が合った。かっちゃんだ。その瞬間、僕は走りだしていた。そしてとにかくがむしゃらに動いていたら、オールマイトが来て助けてくれた。危険を冒した僕はヒーローに咎められ、敵の攻撃を耐えきったかっちゃんは称賛された。家に帰ろうとした時、オールマイトが僕を呼び止めた。

そして、オールマイトは僕に言った。無個性の君だからこそ、私は動かされたのだと。そして続けた。

君はヒーローになれる

 

 

 


 

 

 

「怪我がないようで何よりだったよ、勝己」

「わざわざ心配して来てくれたのか?優しいな」

「何で助けを待ってたの?本気になればあの敵をどうにかできたでしょう?」

「そうすれば野次馬に死人が出ただろうな」

「あなたってそんな優しい人だった?」

「雄英に入るにあたって、「自分が助かるためには他人が死のうがどうでもいい」という思想の持ち主であると判断されるのは、出来る限り避けたかった。

とはいえ、自分の命の方が大事なのには変わりないしな。まあ、救助が間に合ってよかったよ」

「その「雄英に入る」ってのは何でなの?別に人助けが好きってわけでもあるまいし」

「色々あるんだよ、俺にも」

「来週の日曜日はお前の誕生日だな。4月15日だ。何か欲しいものはないのか?」

「毎年それいうけど、その誕生日っていうのは本当なの?」

「この世界で俺だけが唯一知っているからな。決して忘れることはない」

「別に、あなたから貰いたいものなんてないわ。じゃ、無事な様なら帰るから」

「ああ、じゃあ15日、プレゼントを渡しに行く」

 

 

なんだかあいつと喋ると疲れる気がする。こっちのことは全部知ろうとするのに、自分のことはあまり話さない。嘘はついてなさそうだけど、本心は分かりにくい。出会ったときからそうだ。そういえば、ここ私とあいつが出会った場所じゃないか?出会った日のことを思い出す。

 

あれは確か5年前。私は早朝に日課のランニングをしていた。赤信号を待っているときに後ろから1人の少年がやってきた。同い年くらいか?こいつもランニングをしてるのだろうか?と思った記憶がある。少年と私の目が合うと、彼の顔は驚きに染まった。思わず、といった感じで彼は言葉を発した。

「詩織…?」

「私のことを知っているの⁈」

「その反応は不自然じゃあないか?普通心当たりのない相手から名前を呼ばれたら、どなたですか?とか、お会いしたことありました?とかだろ。」

「そう?別にそんなことないと思うけど…」

「いや、おかしい。お前、記憶がないんだろ。ギリギリ名前は分かるが、その他の自分に関する情報がほとんどないんだ」

「……」

「図星か」

「あなた何者?何で私の名前を知ってたの?」

「俺は爆豪勝己だ。なぜお前の名前を知っていたのか?だったな。それは…

「いや、やっぱり知ってるはずないわ。そういう個性なの?」私が尋ねると彼は周囲を見渡した。そして、植木の近くを飛んでいたモンシロチョウを両手で捕まえた。刹那、大きな爆破音がした。彼は掌を見せた。掌の中には、粉々になり、ところどころ焦げたモンシロチョウの死骸があった。

「俺の個性は見ての通りだ。なぁ、何で知ってるはずないんだ?お前、記憶がないんだろ。俺はお前が記憶をなくす前に知り合っていた。記憶がないってことは、会っていたとしても分からないってことだ」

「だから、それがあり得ないの!」私は迷った。どこまで彼に話すべきか。彼と私は知り合いだった。それは多分正しい。彼は私の知らない私の記憶を知っている。だから、私は私自身を知る為に一番正しいと思うことをすることにした。

「私は、この世界とは別の世界に生まれていた…らしい。3ヶ月ほど前、気がついたらこの世界にいた。恐らく、誰かの個性で転移したようだ。その個性名は走者交代(バトンパス)、自分と他人の位置を入れ替えるというもので、副作用として記憶の喪失、混濁があるらしい。副作用は距離が遠ければ遠いほど大きくなる。全ての記憶を失ったということは、地球内ではなく、別の世界から飛ばされた…のではないかと考えられるらしい。名前に反応したのは、名前は覚えていたからではなく、ポケットに入っていたハンカチに名前の刺繍がされてあったから、それを自分の名前だと判断しただけ」

「その推察が正しいとして、何でそんなことが言えるんだ?誰がそんなことを言った?」

「ある人がその走者交代の個性の持ち主を探してたそうだよ。私と位置を入れ替えた人…面倒だからこれから転移者(トリッパー)とでも呼ぼうか、そいつと一緒にいたとき、個性が発動され、転移者は消え、私が現れたらしい」

「根拠はある程度納得できた。だが、その「ある人」がお前にこの事を詳しく伝えた理由が分からない。一体その「ある人」って誰なんだ?」

「別に伝えた理由なんてないでしょ。ただ知っていることを教えてくれただけだよ。あ、もう青だ。行くね」

「待てよ。まだ聞きたいことが山ほどあるんだ。近くに公園があっただろ。そこで座って話そう。」私たちは少し移動し、公園の東屋の下で、向かい合って座った。これ以上話せば、自分の秘密がバレる可能性が高いことは理解していた。だが、私は彼の提案に乗ってしまったのだ。

「そうだ。お前、個性についてはちゃんと思い出せたのか?自分の個性と扱い方は、ちゃんと把握してるのか?」

「別に、個性の使い方ぐらい分かってるわ」

「…なぁ、その「ある人」ってオールフォーワンじゃないか?」彼は焦っているような表情だった。彼は淡々とした喋り方をするが、感情がないという訳でもないらしい。

「何でそう思ったの」動揺を隠すことはできなかった。

「否定しないんだな。お前がいた元の世界には個性なんてものは存在しなかったし、お前が個性を持ってるはずはないんだよ。だってさっきの話では、お前は「生まれ変わった」のではなく、「飛ばされた」だけなんだからな。それでもお前に個性があるってことは、誰かから与えられたんだ。そして、やけに転移者の個性について詳しかったのも、それで納得が行く。オールフォーワンは、走者交代(バトンパス)が欲しかったんだ。デメリットはあるが、強力で便利な個性だしな。でも、そいつはオールフォーワンから逃げようと、できる限り遠くへ行こうと自分の個性を発動した。世界すら跨ぐほどに。オールフォーワンはさぞ悔しかっただろうな。絶対に手の届かないところに逃げられたんだから。でも、入れ替わったお前には、利用価値がないわけでもないって気づいたんだろう。記憶がなく、個性もない少女は簡単に洗脳できるし、駒として使うでも、実験台として使うでもいい。そして自分の持っている個性を与えたんだ」

「黙って聞いてれば、好き勝手に言い過ぎよ。先生は、私を大事にしてくれてる。単なる駒だと思ってるなら、絶対にくれないようなすごい個性もくださったのだし」

「事実を言っただけだ。オールフォーワンがお前に転移者のことを詳しく伝えたのは、お前にはここ以外居場所がないのだと、自分に従うしかないのだと植え付けるためだ。お前は洗脳されてるんだよ。個性を与えられたといったな。それも、いらないゴミを押し付けただけだ。自分の本当に大事な個性は渡すはずがない」

「私の個性は「毒と薬」。先生は、僕はあまり使わないから、って私にくれたけど、これはとても便利で強力な個性よ。今ここであなたを殺せるくらいには」

「いーや、お前は俺を殺さない。俺を殺せば永久に過去を取り戻すことはできないからだ」

「ねぇ、もうそろそろあなたが話す番でしょ?あなたはどうしてこの世界に来たの?昔、私とはどういう関係だったの?何でオールフォーワンのことを知ってるの?…あなたは私に何をして欲しいの?」

「俺はお前と同じだよ。自分の意思とは無関係に誰かの個性に巻き込まれてこの世界に来た。元の世界ではお前と知り合いだったんだ。オールフォーワンのことを知っているのは…偶然だ。あの男は、影の支配者として長い間裏社会に君臨しているからな。都市伝説とまでなっているが、それがただの伝説ではないことを知っている人間は、少なからずいる。そして最後の問いだが……俺はお前に幸せになって欲しいんだよ」少し予想していたとはいえ、驚いた。元の世界で知り合いだった2人が、同じく個性に巻き込まれて別の世界に転移される。そんなことあるのか?

「もっとちゃんと説明して。「誰かの個性に巻き込まれた」とする根拠は?それに、知り合いだったって言うけど、それならあなたの知る限りの「私」を教えてよ」

彼は、スマホをウエストポーチから出し、あるブログ記事を開いた。

「これ何語?読めないんだけど」

「そうか、少し待ってろ」彼は目にも止まらぬスピードで文字を打ち込んだ。

「大まかにだが、日本語訳した。読んでみろ」

 

 

   前世の記憶を持った人間が見つかる?転生の個性持ちか。

私は、〇〇国の⬜︎⬜︎地域において、転生ができるという個性を持った女性を見つけた。個性名は輪廻転生(リィンカーネーション)彼女の個性は、死亡後、別の人間となって生まれ変わるというものだ。その際、同時に死亡した人間は、同じく生まれ変わるらしい。しかも、同じ時に。彼女本人は前世(正確には一回目の個性の発動から、何度も繰り返された人生の全て)を明確に覚えている。しかし、同時に死亡した人間は転生後、前世の記憶を覚えていない、あるいは覚えていたとしてもごく僅かであるようだ。転生した人間には共通の特徴がある。背中に原因不明の十字架のアザがあることだ。もしあなたが十字架を背負っているならば、あなたには「前世」があるのかもしれない。

 

 

「俺の背中にも十字架のようなアザがある」

「でも、「同時に」死亡するというのはどうなるの?あなたは違う世界で死んだのでしょう?「同時」とは言えなくない?」

「それについては俺も分からない。「時間」という概念は誰も明確に説明できないものだからな。だが、俺がこの世界にいるのは、この個性の影響だろう。転生の個性持ち… 「リンネ」としようか、 こいつと俺の生まれた日は1日違いだったが、時差を考慮すると「同時」だった。これで全く関係ない方が不自然だ」

「なるほど。それならそうかもね…いや、ちょっと待って?どうやってあなたはこの女の誕生日を知ったの?それ以前に、この記事のライターは、どうやってここまでリンネの情報を調べたの?」

「問題はそこだった。自分の個性を他人にここまで喋るか、普通?こいつの個性は相当珍しい。俺なら近しい人間にも個性のことは伝えない。しかも、この「同時に転生する」って部分は、本人でさえ把握するのはほぼ不可能だ」

その通りだ。この個性社会において珍しい個性は、ネットに晒されることが多い。ネット上で誰かの個性を面白おかしく取り上げ、妄想し、持ち主の個人情報が拡散されることすらある。もちろん国は、他人のプライバシーの侵害行為であるとし、ネットでの個性を含めて個人情報の扱いは、慎重にすべきであるとしている。そもそも、なぜ個性が周囲の人間に伝わるのか。分別のつかない子供は、自分の個性について周りに喋ってしまう。持っている力を自慢したくなってしまうのだ。そうして本人の口から告げられたその人の個性は、学校生活の中などで皆が知る情報となる。だが、リンネは違う。この女は、自分が 輪廻転生という個性であることを理解し、それゆえに起こり得るトラブルを想像することができた。自分が黙っておけば日常生活の中で、まずこの個性について気が付かれるはずはない。何でライターは彼女の秘密を暴けたのだろうか?

「俺もそれを調べるのには苦労した。まずライターの使っているアドレス、過去の投稿から氏名、住所、電話番号を把握。本人とその周囲の人間の個性を調べた。そして見つけたんだ」そう言って2枚の顔写真を見せた。

「まず、この男がライターだ。その個性名は個性探し(ダウジング)。目を瞑って探したい個性を念じ、指をおいたところにその個性の持ち主がいる、というものだ。そして、隣の女は男の恋人だ。個性名は個性晒し(サーベイ)。目が合った相手の個性を隈なく知ることができる。2人は、珍しい個性マニアだったらしい。男の方が、存在するかもしれない個性とその持ち主を炙り出し、女の方は会って話を聞く。そして、面白い内容は発信したくなるんだろうな。こいつらのサイトには似たような記事が沢山あった。しかし、これらの記事は本人からの了承を得ずに挙げられたものらしい。流石にまずいってことで2人は活動を停止。記事も削除された。それが、今から一年ほど前のことだ。偶然この記事を発見した後、俺はライターの過去の行動を調べ、彼らが出会った人間の個性を片っ端から調べた。その中で個性が不明な人間、無個性だとされる人間を当たっていき、年の割に成熟しすぎている少女を見つけた。そしてそれがリンネだった、という訳だ」

「リンネも気の毒だね。勝手に自分の情報を暴かれて、広められて。もし現状が死にたくなるくらい悲惨な人がいて、この女と一緒に死ねばもう一度人生をやり直せるとしたら、心中してしまいたいって思うかもしれない。自分の命が単なる来世への片道切符としてしか見られないってことでしょう?」

「そういうことになるな」

「あなたが、私と同じように、別の世界から来たってことはわかったわ。記事によると、前世の記憶ってほとんどないんでしょう?でもあなたは、かなり、ひょっとしたら全ての記憶を持っているかのようだよ。それは何故?そして、あなたにある記憶ってどんなものなの?私はどんな人間だったの?答えてよ!」

「俺は、偶然記憶を取り戻しただけだ。そして、記憶の中身については、お前が知る必要はない」

「何で?何で答えてくれないの?私は、自分の事を知る必要がある!」

「お前に幸せになって欲しいからだ。知らない方が幸せだ」

だんだんイライラしてくる。何でこうも頑なに私と自分の過去を言いたがらないのだろうか。

「そんなに過去の私は不幸だったの?」

「違う!……違うはずだ。幸せな記憶を持つってことが辛いんだ。大事な家族や友人や恋人が、もう二度と会えないところにいる。思い出すたびに、彼らとは二度と会えないんだと突きつけられる。そして、思い出さないようにしようとすることもできないんだ。だって、俺が思い出さなきゃ、あの人たちの存在はなかったことになってしまう。決して解放されない苦しみをお前に背負わせることはできないんだ」

「あなたの気持ちを完全に理解したとは言い切れないけど、これ以上あなたに聞くのはやめておくよ」

「そうしてくれると助かる」

「もう帰るね」

「またな」お互いに反対方向へ歩き出していた。また会うことがあるのだろうか?彼はまだ計り知れない人間ではあるし、隠していることだらけなのだろう。でも、私を大切にしたいと思っていることは確かだ。ゆっくり考えていけばいいか。そう思った。

 

 

思えば、あれから4年か。長かったような気もするし、あっという間だった気もする。彼とはその後何度も会い、色々なことを、主に悪事だが、をした。お互いに少しずつパーソナルな話もし始めた。その中で、彼が雄英に行くと知り、警戒した。先生や弔さんにヒーローの卵と接触しているとバレるのはまずい。逆に、彼も敵と仲良くするのは良くないはずだ。今は、敵とも仲間ともつかない絶妙な関係だが、これからはどうなっていくのだろうか。自分の選択が間違っているような焦燥感と、先生たちに対する後ろめたさで心がゆれ動く。というより、選択できてないことに焦っているのだろうか?先生に恩返しをしたい一方、自分の昔の知人を捨てられないでいる。どちらも選ぶことはできないのだから、ちゃんと勝己を殺すなり、最低でも距離を取るなりしないといけない。分かっているのに、自分の知らない自分の過去に執着してしまう。また今日も彼の元に行ってしまった。怪我をしようと、死のうと私は気にするべきではないのだ。もうあの辺りに行くのはやめ、連絡を取り合うのもやめよう。

そう心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

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