fortissimo~大切な人と日常を護るために~ 作:Chelia
「どういう事だ… みんなが死なずにすむ、具体的な方法があるというのかい?」
「ああ。俺が掛けに勝って話したかったことは…龍一、お前にその内容を説明した上で協定を結びたかったということだ。」
「一体どうすればいいの?」
「その答えは下で話そう。お前達の家主も待ちくたびれていることだろうからな。」
質問してきた紗雪と零二を見てそういう。
流石に最終戦争の内容を苺さんの前ではと零二は否定してくるが、もう少し気を回すべきだろう。
あれだけの惨状を見て何とも思わない女性なんて、もうほとんどの確率で「コッチ側」の人間だよ…
「里村紅葉。君はどうする?聞くか聞かないかは君の自由だ。」
「………」
「…里村」
しばしの沈黙のあと、紅葉が口を開く。
「心配しないでれーじ。とりあえず、話だけは聞いといてやるわ… だけど、あたしは人に踊らされるのは嫌いなの。どうするかはあたしが決める…」
「(重々知ってるよ…)ああ、それで構わない。それじゃ、場所を変えようか…」
移動している時、俺は零二に耳打ちした。
「鈴白なぎさをここに呼べ」と。
下に降りると相楽苺は新聞を読んでくつろいでいた。
…のんきな奴だな。上ではもっと危険な話をしているというのに
「おやおや、全部終わったようじゃの?」
「いや、はっきり言って半分も終わっていない。ここからはお前も混ぜて話をする。」
「ち、ちょっと海斗!?」
単刀直入に言ってやったが、苺本人は全く動揺していない。
こりゃ黒だな。
そして、俺は先程の話を続ける…
最後の一人になるまで戦わずに済む方法…それはすなわち、首謀者であるオーディンを倒すことだ。
元々悠久の幻影は強力な概念魔術で構成された空間であり、それには術者が存在する。
なら、その術者さえ倒してしまえばもう悠久の幻影は発動することはないということだ。
「確かに可能… でも、これだけの巨大な魔術空間を作れる相手を倒すなんて無理なんだよ…」
「だからこそ、こうして仲間を集めているというわけだ。」
「そこには同意せざるを得ないわね…私と黒羽紗雪は始まりの大地(イザヴェル)で、確かに首謀者がオーディンであるという話を聞いたわ。」
紅葉が言う。あの有塚陣が偉そうに語っていた内容…確かにそういう見方をすることもできる。
みんながその話に納得し始めている頃、来客が訪れた
ピンポーンとインターホンがなる
「芳乃くーん?言われた通りの住所に来たけど、ここでいいのー?」
「ああ、いらっしゃい鈴白… ここは俺んちだよ。」
なぎさが家に来たようだな…
先程零二に至急来るようにと呼ばせたが、案外家の近くにいたのかもしれない。
「お、お邪魔します?って、紅葉!…龍一まで!?」
「な、なぎさ!?」
「待ってくれ!何故なぎさまでここに呼ぶんだ!」
二人が慌てて声をあげるが隠していても意味はない。
いずれ話す時は来るのだから…
「俺が零二に呼ばせた。…この意味がわかるだろう?」
「ま、まさか…」
紅葉の顔が引きつる。
「そう。鈴白なぎさは召喚せし者だ。俺が学校に潜入したのは、召喚せし者の大半…すなわち、お前達がいるからという事になる。」
「本当に…鈴白もなのか?」
「こんな真面目な話をしている時に嘘をつく必要はないだろう…」
ふにゃ?と頭にハテナマークを浮かべるなぎさにもこの話の説明をするが、案の定理解できていなかった。
ただ、悠久の幻影にいたという自覚があるのは本人の口から聞けたので龍一や紅葉もそれで納得した。
紅葉に関しては、知人がみんな召喚せし者であって決めた決断に迷いが生じてしまった。
「紅葉…君の決断とは、なぎさを護ることじゃないのか?だが、そのなぎさは召喚せし者…」
「知っててあたしに質問してきたのね… なんて答えようと、あたしはアンタに従うしかないから…」
「そういう意味ではない。10人の召喚せし者全てを倒し、君が自殺すればなぎさを助ける事もできるだろうからな…」
不謹慎だが、先程提案したオーディン討伐と同じようにこれもやろうと思えばできてしまう。
だから、道を間違える前に紅葉も味方に加えたい…
「んー… んで、みんなはどうするの?」
いつもの表情の紅葉に突然戻ると、いきなり周りの意見を聞きはじめた。
「私は海斗に協力する… こんな戦争は、一刻も早くやめるべき…」
「俺も、みんなと殺し合いするくらいなら共闘の道を選ぶかな… さっきはいきなり襲われちまったけど、俺は里村とは戦いたくなかったぜ?」
「マスターに同意なんだよ!」
「そうだね… 僕も戦争には反対派の人間だ。特に断る理由はないよ。 天王寺先生、さっきは突然襲ってすみませんでした。」
「わ、私はまだよく理解できてないから紅葉と龍一に合わせるよ…」
5人の中で反対する者はいなかった。
まあ、叶うのであればみんな生きて日常に戻るのがベストだと、誰もが理解している。
確かにここにいるのは全員異能の力を持った人間だが、それを殺し合いに使う事を強制された被害者という共通点もある。
「わかったわ… これだけボロボロの状態でアンタ達と敵対しても特にメリットはないし、あたしも力を貸すわよ…」
渋々と紅葉も承諾する。
「それで、僕達は具体的に何をすればいいんですか?」
「基本的には共食いをしなければそれでいい。悠久の幻影が発動したら互いに連絡を取り合い、1箇所に固まること。そうすれば、やられにくくなるしな。」
「13時間の時間制限はどうするの?」
「…逆に考えろ、「13時間も」あるんだ。それに、悠久の幻影自体、当分発生することはないだろう。」
そう。それが、今回俺がみんなを襲った本当の目的。
俺と零二が最終戦争に招かざる召喚せし者だということは説明した。
零二の方は理由は不明だが、参加者として普通に戦闘を行なっている。
だがしかし、俺の方はというと俺の能力、孤独な幻影(ミスゲイション)により常に存在を隠した状態で悠久の幻影内にいる。
(このように常時発動し続けている能力のことをパッシブスキルといいます。)
そして、俺の魔法はオーディンですら見破ることはできない。
魔力反応により異例の存在がいることはわかってしまうが、その現場の鮮明な映像は霧がかかったように見ることができない。それは始まりの大地で観測を行なっているであろう有塚陣にもいえることで、俺の存在を見るには直接現場まで赴かなかければならないのだ。
そして、今回の戦闘はかなり大規模なものだった。
俺を除く、零二、サクラ、紗雪、紅葉…そして龍一。
これら5人の召喚せし者を圧倒し一度に倒す寸前まで追い詰めたのだ。
どこの誰かもわからないような人間に最終戦争の参加者を喰われそうになり、ましてやその中にはオーディンと同じ三極神のロキとトールもいる。
参加者以外に召喚せし者が倒されたとしても儀式に影響はないが、もし俺がこれら全ての召喚せし者を倒した場合6人(最終戦争の半数)分の魔力を手にするだけでなく、二極神の力も手に入れてしまうことになる。
だからこそオーディンは、自ら作ったルールさえも強引に書き換え、悠久の幻影を消した。
つまり、死者はでていないのである。
「つまり、その行動にオーディンが警戒を示したってことね。」
「流石は紅葉、大正解だ。そして紗雪、俺は先程悠久の幻影が消えた時に誰も死んでいないと言ったろう?」
「うん………」
「悠久の幻影は強力な概念魔術… それを強引に書き換えてまで、オーディンは戦闘を中止させた。 これには、相当の魔力負荷がかかるだけでなく同じ概念魔術を再構成するのにしばらく時間がかかるんだ。」
「…つまり、一度ルールを書き換えた悠久の幻影が元に戻るまで発動できない?」
「そういうこと。まあ、そういう目的があったにしろ、君達を傷つけてしまったことは事実だ… 改めて謝罪させてもらうよ…」
なぎさ以外の人間がようやく、今回の海斗の本当の目的を理解する。
そして、この人がついに口を開いた。
「ほほう…中々やるのう… 流石は零二の使者といったところじゃ。」
「え、俺?」
「なっ!? 貴様何故それを!!」
零二が首を傾げているが俺にとってはそれどころの問題ではない。
零二の使者だと?俺が未来から来たということはこの世界の誰一人として知る者はいない。
ましてや、未来世界でもロキ以外にこの事実を知る者はいないのだ。
「あっはっは!おねーさんを甘く見るでないぞ?」
「ちっ…」
「あれだけみんなを言いくるめてたセンセーを圧倒するなんて、相楽さん何か知ってるんですか?」
「うむ… 今ここで話してやってもいいのだがのう…」
これだけお膳立てをされてしまった。
何故かはわからないが、相楽苺は俺の正体を知っているらしい…
過去世界の紗雪がいるがゆえ、できるだけ話したくはなかったが信用を固めるため話しておくのもいいかもしれないな
「待て。それは、…俺の口から言おう。」
「そうじゃの… 天王寺海斗。己の正体、ここで明かすのじゃ… 少なくとも私はそのほうが良いと思うぞ?」
先程の紅葉ではないが、全てお見通しというわけか…
「自分で言うのもなんだが、俺にはおかしな点が多くある。特に、紗雪と龍一はいくつか思い当たる節があると思うがな…」
「わ、私の心を読んだかのような話をしたりとかそう言うの?後は初めて会った時、私と兄さんの関係を詳しく知ってたこととか…」
「僕は戦闘面だね… 立ち回りで気になったけど、先生はもしかしたら僕達の手の内を全て知ってるんじゃないですか?」
二人共鋭いというか、長年戦士として生きているからか勘はバッチリのようだな。
「そうだな…大正解だ。お前達のいうように、俺はそれら全てを現場判断するような神の頭脳は持ち合わせていないし、未来を見る魔法は使えない。」
零二達は特に何も感じていないので頭にハテナマークを浮かべているが、恐らくこちらのほうには食いついてくるだろう。
「結論から言うと、俺はこの世界の人間ではないんだ。」
「えっ…?」
「またまた、何を言い出すのかと思えば…」
紗雪を始めほとんどの人間が驚いた表情をする。
ふざけたことを言ってると紅葉が突っ込もうとするが、それを苺が制した。
「残念ながら真実じゃよ。何もかも。」
「嘘…だろ…?」
「なら、先生はタイムスリップでもしてきたって言うんですか?」
流石だな。先読みの具体例を出したからか、過去世界やファンタジー、並行世界を差し置いて未来の話を持ってきたか
「似たようなものだ。俺は、一年後の未来世界から来た人間。その世界において芳乃零二。君とは親友だったんだよ…」
「だからさっき…苺さんは俺の名前を…」
未来世界。
まあ、今のこいつらには想像できないだろうな…
俺の住んでいる一年後の月読島が、何もない廃墟と化しているなんてな
「特に紗雪、そして紅葉。きみたちとは仲良くさせてもらっていた だから、本当に悪意はないんだ… 俺はこんな残酷な儀式を止めて君達を護りたい。そのためにこの世界に来た。」
「未来から来たとか何かすごそうだね!紅葉!」
「そ~言われたって実感なんか湧かないわよ… 一年後のあたしが何考えてるか知るわけないし。てか、ホントにあたしと仲よかったの?」
(私はなんとなくわかる気がする… たった2日しか会ってないのに、何だかずっと海斗のことが気になる… 海斗に良い所がいっぱいあるから、未来の私は仲良くしてたのかな?)
紗雪は胸に手を当て何やら妄想しているようだが、ちょっとばかり紅葉に信憑性を見せつけてやろう。
「ほう、相楽苺の言うことは信じられるが、俺の話は信用ならないと?」
「別に?あたしは自分の目で見たものしか信用しないって決めてんのよ…」
「君の考えていることなんて大体予想はつくさ… さっきもそんな話し方をしていたという自覚はあったが、気づいていなかったのか?」
「へぇ… 大体わかる…ね… じゃあ今あたしが何考えてるか当ててみなさいよ!」
なんつーガキみたいな言い草だ…
まあ、こういうのに乗っかる俺も悪乗りが過ぎるというか。
「面白い… 君の思考からパンツの色まで全部当ててやるよ。」
「ふふん、面白いわねそれ。あたしの下着の色当てられるかしら?もちろん、ノーヒントだからね!」
「黒の勝負下着。」
「ぶーーーーーーーーっ!!!!????」
速攻で即答してやったわけだが…
あ、思いっきり吹き出した上に顔が真っ赤になってる。
こりゃ図星か…
「な、なななななんで知ってんのよ!!見たでしょ!!」
「いや、今日里村と先生が会ってからずっと一緒にいたけど、お前が寝てる時もそんな余裕はなかったと思うぞ?」
大好きな零二に苦笑いされ、なお突っ込まれている。
この俺を挑発するからだ、ざまあみろ。
「ぷっ…」
「あははははっ!」
紗雪となぎさが笑い出した。
龍一も笑いそうになっているが、女性のためと必死に笑いをこらえている。
「こらーっ!笑うな!黒羽紗雪!なぎさもーっ!」
「ぷっ…会長がいなくてよかったな、里村。」
いや、零二も笑ってたわ…
確かに雨宮がいたら大惨事だな。
とりあえず大勢の前で赤っ恥をかいて両手をぶんぶん振り回す紅葉を零二となぎさがなだめている。
「少しは信用できそうか?」
「はい…痛いほど…」
涙目になる紅葉。
あー…そうか、犬猿の仲である紗雪の前で恥かいたのも影響してるのか…
そう思いながら紗雪のほうを見ると何だか機嫌が悪かった。まあ紗雪の言いたい事は言われなくてもわかるがな
(何で里村紅葉の下着の色を海斗が知ってるの!!)
「何で里村紅葉の下着の色を海斗が知ってるの!!」
うわ、一字一句同じじゃん。
誰かピタリ賞くれよ
「恐らく、それに答えると紗雪も恥かくからやめておいたほうがいいな。」
「な、尚更気になる………」
ネタを挟んでしまったが、俺は苺に詰め寄った。
こんな話をさせた現況の正体も知っておかなければこちらの気が済まない。
「で、そちらも話をしてもらえるんだろうな?」
「うむ。これは、海斗が私に気づいた時話しても良いとロキに言われておるのじゃ」
「ロキ…だと?」
「ロキって誰のこと?」
「おそらくは、未来世界のマスターのことだと思うんだよ!」
まだ状況がうまく飲み込めないなぎさにサクラが解説していた。
まあ、北欧神話なんて興味なきゃ調べたりしないよな普通。
「結論から言えば、お主がこの世界に来るために未来世界とこの世界の橋渡しをしたのが私じゃ…」
「何を言っている?俺は自分の意志でここまで来たが…」
「何もわかってないのう… お主の総魔力は、あのオーディンにも引けを取らないくらい圧倒的な物。そんな莫大なエネルギーを持つお主がその全てのステータスを維持したまま来るとなれば歴史の歪みが大きくなってしまう。」
「だから、ロキと協力することで俺を安全に通す門(ゲート)を作ったということか…」
「その通り、ロキからは一通りの話は聞いておる。お主が行き詰まった時は力になってくれと念押ししておったよ…」
「そう…か… あの野郎…」
「あの野郎って…それ俺のことなんだよな?」
「あっはっは!確かにそうじゃの!」
零二が突っ込むと苺は大笑いしていた。
「これで、一通りの話は済んだみたいだね。これから共闘関係を結ぶ以上、連絡は取れるようにしておいたほうがいいと思うけど?」
「そうだな…」
龍一の提案で皆それぞれにアドレスを交換し始めるが…
「えー!黒羽紗雪のなんかいらない!」
「私も非常に同感。貴女のアドレスでケータイが壊れたらどうしてくれるの?」
「んなウイルスみたいなものあるか!」
「貴女なら何をしでかすか分からないもの…」
また喧嘩が始まった。
「な、なあ… 未来でもあの二人はこんなに仲が悪いのか?」
「いや、むしろ俺から言わせるとどうしてここまでいがみ合うのかが理解できないんだが…」
少なくとも、俺の知る世界の紗雪と紅葉はそこまで仲悪くなかったんだよなぁ…
龍一となぎさの説得により、何とか二人にも交換をさせるが物凄く不服そうな顔をしていた。
この後はとりあえず解散することに。これ以上色んな話を続けても疲れるだけなので、とりあえず明日また全員で集合し話の続きをすることになった。今後の細かな方針などを説明するために、俺の方も準備をしなくてはな…
龍一と紅葉がかなり消耗していて危険なため、サクラとなぎさが付き添っていくことになり4人は家を出ていった。
「さて、私も少し休ませてもらうかの… 晩御飯になったら呼んでくれるか?」
「わかりました、俺の方は体大丈夫なんで用意しておきますね?今からだから簡単になっちまいますけど…」
「紗雪。帰る前にもう少し話をしたいんだ…一緒に散歩でも行かないか?」
「えっ… あ、でも今日は遅くなっちゃったし兄さんの手伝いをしないと…」
「俺の方は気にすんな。元々今日は俺の当番だし、俺も少し一人で今日の状況を整理したいからな。」
「わかった… じゃあ、行ってきます兄さん。」
「おう、行ってきな…」
零二がキッチンに向かうと、俺は紗雪を連れ出し外へ出るのであった。
★天王寺海斗SIDE END★