fortissimo~大切な人と日常を護るために~   作:Chelia

2 / 19
帰ってきた月読島

★芳乃零二SIDE★

 

4年ぶりに懐かしき故郷に足を踏み入れる。

都会では絶対に味わうことのできないこの自然。この空気。

やっぱり俺は何よりもこの島が大好きなんだと戻ってきて改めて思い知らされる。

 

「帰ってきたんだな…俺。」

 

カバンを持ち上げ、芳乃零二はそう呟いた。

せっかく戻って来れたしやりたいことはたくさんあるのだが、まずはこれから改めて居候としてお世話になりにいく相楽家に挨拶するのが最優先であろう。

 

家主である相楽苺。

戦争孤児だった「俺達」を引き取り、島にいる間ずっと世話をしてくれていた人だ。

外見も若く見えるし、本人も喜ぶのでおばさんではなくお姉さん的存在として見ることにしている。

 

「俺達」

 

俺の他にももう一人、こうして苺さんにお世話になっていて何より俺の義妹にあたる存在がいる。

 

名前は黒羽紗雪。

 

紗雪とは、都会に行っている間もメールのやり取りをし、今朝も今日この島につくと連絡を入れたところだ。

 

(おかえりなさい… 兄さん…)

 

絵文字のない素っ気ないメールの文章だが、紗雪なりに愛情が篭っている…らしい

 

紗雪にももうすぐつくと連絡を入れた為、できるだけ早く向かいたいのだが…

 

「迷った…」

 

故郷で道に迷ってしまった。

てかなんなんだよこの島に不似合いなでっかいショッピングモールは!

俺がいた頃はこんなのなかったぞ…

見慣れない建物だったのでなんとなく…なんてて入るんじゃなかった。

端から端まで目視で届かないほどでかいこのショッピングモール…まずはこっから出ないとな。

そう思っていた矢先、女の子の声が聞こえた。

 

「あのぉ…」

 

「………ん?」

 

確実に自分の背後から声がかけられているため、反射的に返事をしてしまう。

見ると、制服を着ている黒髪の少女が俺に声をかけていた。

ってことは、少なからず明日からこの島の学校に転入する俺と知り合いになるかも知れない。

結局無視はできそうにないな…

 

「ここ、どの辺りかわかったりします?」

 

「いや、さっぱりわからん… 見た所迷子っぽいが、残念ながら俺も迷子だ。」

 

恥ずかしいのか、歩き疲れているのか顔を赤くして聞いてくる少女に正直に答える。

 

「そうですか… あはは…じゃあ私とおんなじですね… 友達と映画を見に行く予定だったのですが、完全に道に迷ってしまって…」

 

「わわっ!?ごめんなさい!」

 

突然鳴り出すケータイに慌てて出る少女。

 

「もしもし紅葉? え?今どこにいるのって?それが迷っちゃって…って!上映時間始まるから一人で見る!? ひ、ひどいよぉ… さよならって…えっ!?ちょ!」

 

プツ…ツーツーツー…

 

うわ…電話先の子の話一言も聞いてないのになんか会話の内容がすんげえよくわかるんだけど…

ここはちょっとSっ気をこめて

 

「振られたな」

 

「うえーん… 方向音痴には大目に見てくれてもいいのに…」

 

「一体何を大目に見るんだよ… ま、そっちの予定も無くなっちまった見たいだし、のんびり出口探すか?」

 

「そうですね… あ、私は鈴白なぎさっていいます! 貴方は?」

 

「俺は芳乃零二。見たところタメっぽいし、敬語はなしで行こうぜ?俺はそっちの方がやりやすいからな」

 

「じゃあ、芳乃くんって呼ぶね?よろしく!」

 

「おう!」

 

こうして、俺と鈴白のショッピングモール脱出探索が始まったわけだが…

いやぁ宛にならない。鈴白もずっと島で育ってきた島人(しまんちゅ)らしいが、何で現地人なのに道に迷ってんだ?

とまあ、二人で歩きはじめたはいいものの全然出られる様子はない。

しばらく歩いていると、頼りになりそうな人を見つけた。

 

「紗雪!」

 

愛する妹に声をかけてみるも、何だか物凄い怒った顔で睨み返された。

え、俺なんかしたっけ?

 

「………」

 

「お、おい…どうしたよ?」

 

「………!!」

 

睨んでくるだけで何も言ってくれない紗雪に何かしたかと必死に考えを巡らせるが何も出てこない…

そんな時、後ろにいた鈴白が口を開いた。

 

「あ、あれ…? もしかして私のせい?」

 

「兄さんは少し見ない間に随分と女たらしになったんですね…」

 

冷たく言い放たれる4年ぶりに会った妹の第一声。

くそっ、中々ショックだ。

 

「い、いや…これはだな…」

 

「実は私も芳乃くんも、二人して道に迷っちゃって… 一緒に出口探してたんだ。 だから、多分黒羽さんが思ってるのとは違うと思うよ?」

 

ん?黒羽さん?

ってことは二人は知り合いなのか?

まあ、この狭い島に学校は一つしかないし鈴白は制服(紗雪は私服だが)を着ているところを見ると予想できなくもない。

考えを巡らせると紗雪が口を開いた。

 

「隣のクラスの人。殆ど話したことはなかったけど…」

 

「あはは…そうだね そんなことより、芳乃くんと黒羽さんはどんな関係なの?」

 

「ああ、そういえば俺の話してなかったな。俺は元々島人なんだけど、今日4年ぶりに帰ってきたばっかなんだ。んで、見慣れないこの場所に迷っちまったってわけ… 紗雪とは居候させてもらってる家が同じだから義兄妹の関係だな。血はつながってねぇけど…」

 

「ん… でも、兄さんのこと信用してないわけじゃない。今のはちょっと早計だった… ごめんなさい…」

 

「気にすんなよ… それより、俺と鈴白を出口に案内してくれないか?苺さんに挨拶しに行かなきゃならないからな。」

 

「ん… わかった…」

 

「ありがとね、紗雪ちゃん!」

 

「誤解しちゃってごめんなさい… こっちよ…」

 

色々あったけど、とりあえずみんな笑顔になってなにより。

というか、紗雪のやつしばらく見ないうちに綺麗になったな…

最初は怒ってて気づかなかったが、笑っているところを見るとちょっと可愛いと思ってしまった。

って、いかんいかん!俺達は兄妹だぞ…

何考えてんだか…我ながら重度のシスコンだな。

 

「それじゃ、私は家こっちだから 芳乃くん、紗雪ちゃんまたね!」

 

「おう、またな鈴白」

 

「学校で…」

 

鈴白と別れて俺たちもようやく家につく。

苺さんは玄関で出迎えをしてくれていたらしく、外で待っていた。

…が、相変わらず何をしているのかわからない人だ。

黒い帽子に黒いマント。外見がどう見ても魔女なのだ。趣味なのか仕事で使っているのかは俺にはわからないが、とりあえず触れるとやばそうなので直接聞いたことはない。

 

「久しぶりじゃのう零二よ!」

 

「ただいま…であってますかね?苺さん」

 

「それで構わんよ。しかし随分と時間がかかったのう…」

 

「兄さんが難破してたので」

 

紗雪が言いながら軽蔑の目で、苺さんはからかうような目でこちらを見てくる。

 

「ふむふむ…つまり、零二も立派な男になって帰ってきたということじゃの!」

 

「っつ!?///」

 

「してねーよ!苺さんもからかわないでくださいよ…紗雪が赤くなってるじゃないですか… 新しく出来たショッピングモールで、ちょっと道に迷ってしまって…」

 

「確かに、あそこは迷うかもしれんのう… あんな大きい店は島じゃ初めてだしの」

 

「紗雪の機嫌も損ねちゃったし、今晩は俺がご馳走しますよ。買い物しにもう一回でてきます」

 

「久しぶりの零二の食事とは楽しみだのう!これをもってきけ!」

 

…紙?まさか小遣いか!?

 

「地図じゃ」

 

確認する前に言われた。

ですよねぇ…

 

「ど、どうも… それじゃ、行ってきます。」

 

「行ってらっしゃい、兄さん…」

 

笑顔で見送ってくれる紗雪がなんだか眩しかった。

 

そしてショッピングモールに戻ってきた俺。

地図もあるし今度は迷わんぞこの野郎!

ご馳走って言っちまったし、ちゃんと仕込みから入れたいからさっさと帰らないとな…

食材を求めて店を探そうと思った矢先、鈴白とは全然違うタイプの声が、またもや俺に話しかけてきた。

 

「ちょっとそこのかっこいーお兄さん?」

 

今度は困ってなさそうなので気づかないフリをする。

俺の直感が正しければこいつはやっかいタイプだ。

 

「おにーさんってば!!」

 

くそっ、無視は無理か…

 

「お、俺か?」

 

「そーよ!どうみてもそうじゃない! その…当然こんな事を言うのもなんだけど… 私と…デートしてみない?今なら私、すんごいお買い得なんだけど!…どうかな?」

 

…なんじゃそりゃ。

いくら俺でも初対面の奴にデートに誘われたことなんかないぞ?

鈴白や紗雪より小柄な感じで赤髪。外見は中々可愛いんだが…まさかこの年で男釣って遊んでんのか?

 

「どうかな…って言われてもな…そんな難破みたいな事言っちゃダメだぞ?」

 

「だって…今その、逆ナンパってのしてるんだもん!」

 

「ぎ、逆ナンパぁ!!??」

 

「そ、そんな大声ださないでよ!私だって難破なんかしたことないし…その…恥ずかしいんだから…」

 

え…今こいつなんて言った?難破したことない?

念のため金目のものなんか持ってないと予め言っては見るが、そんなつもりで話しかけたんじゃないと逆に怒られた。

 

「ええと、つまりお前は普段はお前は清楚で可愛い女の子だが、つい魔が差して俺に難破してしまったと?」

 

「前半はあってるけど、後半が全然ちっがーう!!」

 

「…じゃあなんなんだよ」

 

「…………れ…………もん///」

 

「ん?なんだって?」

 

「だーかーら!一目惚れだったんだもん!」

 

えっ…?

何だか泣きそうな目でこっちを見ている。

流石に疑い過ぎたか?

仮にこの子の言ってることが全て本当なのだとしたら確かに失礼なのだが、今時こんな事を言って話しかけてくる人なんてそうはいない。

しかも、逆ナンパの理由が一目惚れって…

もう一度相手の目をじっと見てやるが、真剣な眼差しでこちらを見つめ返してくるだけだった。

嘘を付いているようには見えない。

かといって、名前も知らないような相手にいきなりオッケーするほど俺は女たらしでもない。

そもそも、俺は用事があるからデートはしてやれないし、ここははっきり言っておくか…

 

「悪いんだけど、俺はこれから用事があるから一目惚れが本当にせよ嘘にせよ、デートはしてやれないんだ。ごめんな?」

 

「じ、じゃあその用事が終わってからでもいいからお願いっ!」

 

真剣に頼み込んできた。

まあ、普通に金目当てならここで諦めるだろうし、やっぱりマジなのか?

 

「すまん、今日ばっかしは本当に無理なんだ。久しぶりにこの島に戻ってきたばかりで、今日くらいは家族水入らずの時間を取りたいからな」

 

「戻ってきたばっか…?」

 

「ああ、俺は元々島人だが、見ない顔だろ?しばらく都会に出てて今日帰ってきたんだよ」

 

「そっか…」

 

すごい残念そうな顔をされたが嘘はついてない。

申し訳ないが、紗雪や苺さんとの約束があるからな…

 

「じゃ、じゃあ!名前教えて!今度もし会ったらその時は運命ってことで!」

 

「芳乃零二だ…」

 

「私、里村紅葉!じゃあまたね!れーじ!」

 

こうして里村と別れる。

今度もし会ったらとか言っておきながらまたね!って会う気満々じゃねーか…

制服着てたし、もしかしたらって思ったけど年下っぽそうだし変に期待させるよりはいいか…

さて、買い出しに行こう。

 

そしてその夜

 

「やはり零二の飯は上手いのう!」

 

「うん、とってもおいしい…」

 

約束通り俺は二人に夕食を振る舞っていた。

4年間バイトと一人暮らしを続けたお陰で家事は得意だからな。

 

「兄さん、明日から学校に来るの?」

 

「そのつもりだ。とりあえず、手続きとか踏まなきゃ行けないから紗雪と行く時間はズレちまうけどな。」

 

「そう… 後片付けは私がするね?兄さんもゆっくり食べて?」

 

「ああ、サンキューな」

 

先にパクパクと食べ終わると紗雪はキッチンに向かって行った。

 

「…出来た妹じゃの」

 

「はい、俺にはもったいないくらいです。苺さん、またこれから迷惑おかけしますね?」

 

「これこれ、迷惑なんて言って頭を下げるでない。私とて何の考えもなしにお前らを養ったりしないぞ? ちゃんと家事もしてくれるし、なによりお前達二人がこの家を明るくしてくれるから私も毎日頑張れるんじゃ。むしろお礼を言いたいのは私のほうじゃよ… よく帰ってきたな零二。」

 

「苺さん…」

 

「お主も明日は忙しくなるじゃろ?今日はゆっくり休むといい…」

 

「それじゃ、お言葉に甘えさせてもらいますよ」

 

夕食を終えると、先に部屋に戻らせてもらった。

本当に懐かしいな…

バイトして、金ためて、ようやくまたみんなで暮らせるんだ。

そう、紗雪と苺さん…二人と暮らすために俺はこの4年間頑張ってきたのだから。

明日からまたこの島で生活できると思うと胸が高なってくる。

こんな幸せな日常なら、いつまででも続いてくれ…

そういう願いを込めて、眠りにつく零二であった。

 

★芳乃零二 SIDE END★

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。