fortissimo~大切な人と日常を護るために~ 作:Chelia
外見は男だろう。…しかし、格好がかなり特殊だ。両手両足には包帯を巻きつけていて全体的には青と黒の服装で肌は隠してある。
さらに、顔も見えないように青い布を巻きつけ目元以外は完全に遮断しているのだ。
武器は背中に刺さっている5本の杖だろうか?
その青い影は紗雪に向けて放たれた極光の断罪者(ジャッジメント)に対して正面に立ち、呪文を唱える。
「三重魔法陣・鏡水!!」
木製のような杖3本を三角形になるように宙に浮かせると、そこから3つの巨大な魔法陣を展開し鏡を出現させる。
その鏡は神話魔術を吸収し、そのまま里村へと跳ね返した。
「なっ!里村!?」
「神話魔術すらも跳ね返す反射攻撃(カウンターアタック)ですって!?」
これには零二も紗雪も驚きを隠せなかった。
里村の切り札である極光の断罪者は無念にも弾き返され、それを全身に浴びる里村。
★芳乃零二 SIDE END★
★天王寺海斗 SIDE★
悠久の幻影の発動…
いよいよ最終戦争が開始されてしまったか…
昼食を食べ終え、紗雪達とわかれたあと更に準備を続ける俺は、日暮れと共に悠久の幻影が発動するのを見た。
海斗のしたかった「準備」は何とか間に合ったが、家に帰れないと使えないな。
とにかく、起こってしまった戦いを止めるために周囲を見渡せば、割りと近くで虹色のレーザーと白と黒の魔弾が飛び交っているではないか。
…よりによって紗雪と紅葉とはな
しかし、慌ててはいけない。
俺は一度家に帰りある物を持ち出すと、魔力を使って青い服で体を覆う。
いわゆる、顔を隠す変装というやつだ。
準備は完了…こうして戦場に駆け込み、極光の断罪者を受けそうになる紗雪を助けることにギリギリ間に合ったというわけだ。
「ふぅ…これが普通の神話魔術なら一瞬で死んでたわー」
「なっ!?今の一撃は確実に里村紅葉を貫いたはず…」
紗雪が驚くも、神話魔術を直で受けた紅葉は悠々と立っていた。
「残念だったわね… あたしの極光の断罪者は相手に与えた罪の数だけ威力があがる。一つも罪を受けていないあたしに対してのダメージは0よ。」
そう、この物凄くご都合主義の能力こそ紅葉の持ち味である。
この時点で紅葉は説明していないが、先程紗雪は当てた瞬間にレヴィアタンの罪を背負わなかった。
理由は紅葉が断罪者(エクスキューショナー)だから。
相手に当てた罪も自分が受けた罪も、何も裁くことが全てではない。「赦す」こともできるのだ。
つまり、一発当ててしまえば相手の感覚は紅葉の思いのままとなる。
だが、そんなことは「知っている」。「知っている」からこそ、俺は紅葉に遠慮なく鏡水を発動できたのだから。
「………にしても、あたしの神話魔術を弾き返すなんて只者じゃないわね… アンタ何者!?」
「……………」
紅葉の問いに答える必要はない。
俺は戦いを止めに来たのだ…そう、天王寺海斗としてではなく「ミストガン」として…
しかし、かなり精神状態が不安定になっているな
紗雪に貰った深い傷、零二を殺さなければいけない心の傷、そして紗雪との戦闘を邪魔された怒り。
今の紅葉は見るからにボロボロだった
なら、一つ悪役を買ってやるとするか…
指をくいくいと動かし紅葉を挑発する
「このっ!」
紅葉がレーザーを放ってくるが、軽くかわしスルー。そして今度は零二と紗雪に向き直り、容赦なく攻める。
「…誰も貴様らの味方と言った覚えもない。」
俺は海斗だと悟られないようかつてない冷酷な声で脅し、持っていた二本の杖で殴りかかる。
零二も紗雪もそれに反応し、ギリギリのタイミングでかわすが、紗雪のやつ…やはり紅葉の七つの大罪(グリモワール)の効果で動きが鈍っているな…回避性能が零二レベルじゃ話にならんぞ。
「アンタの相手はこのあたしだ!!」
「落ち着け里村!今のこの状況を見ろよ!どう見たって一人じゃ勝てないだろうが!ここは休戦してでも俺達で力を合わせないと…」
「五月蝿い!五月蝿い!五月蝿い!あたしの邪魔する奴は誰であろうとみんな敵だ!!」
ダメだなこりゃ…
零二の言葉ですら届かないとなると少し黙らせるしかないだろう。
「ふんっ…!」
「ガッ…ぁっ…」
一瞬で間合いを詰めると杖の柄の部分を里村に突き刺し、地面に倒す。
かろうじて意識は留めているようだが、どの道その体力では動けないだろう。
「里村!」
「人の心配をしている場合か…?」
「兄さん!来るよ!」
手負いの紗雪を見て焦る零二。
そうだ、それでいい…俺の目的は最終戦争を止めること。
それに必要不可欠なのは零二の力だ…紅葉が倒れ、紗雪がピンチの今…その能力を覚醒させろ!
「クソッ!俺に力があれば!」
その時、零二は謎の声を聞くこととなる。
(力ならあるんだよ!)
どこから聞こえる?
答えは自分の中だった。
心の奥から知らないはずの…なのに何故か懐かしい声が聞こえる。
この声は一体…
零二は半ばパニックになりながらもその声に耳を傾けていた。
(今こそ紗雪ちゃんや紅葉ちゃんを助けるときなんだよ!マスター。心の奥にあるマスターの力を開放してほしいんだよ!)
んなこと言われても…
いや、確か紗雪や里村…そして、この謎の男も魔法を使うときに名前を言ってたよな?
俺にももし、その力が眠っているんだとしたら…
「紗雪!魔法を出す時に使う名前はなんだっけか?」
「えっ…?げ、魔術兵装(ゲート・オープン)のこと?」
「それだ! てめぇが何者かは知らねぇよ… けどな、俺は立った今決断した。お前等がこんな馬鹿げた殺し合いをしてるっていうなら、俺はそれを止めるために自分の力を使うってなぁ!」
そう言い放つと俺のことを睨みつける零二。
そうだ、それでいい…サクラの力を開放し全力で俺を倒しに来い。
そうすれば、少しは上手く自分の力を扱うことができるようになるだろう
人は極限の状態に追い込まれてこそ真の力を発揮する。
俺は、自らを悪役…敵にすることによって零二と紗雪の前に立ちはだかった。
しかし、目的は殺すことではない。
俺の目的は順調に達成されていった
「行くぜ包帯野郎!魔術兵装!!」
零二のその言葉と共に、桜色の眩い光が発生。
そして、今回の目的となる人物がようやく姿を現した。
「………久しぶりだね、「マスター」。」
「そうだな…「サクラ」。」
「女の子を…召喚した?」
その場の状況を飲み込めない紗雪は唖然としていたが、この少女こそ、紗雪の二丁拳銃や紅葉の七つの大罪に負けない力を誇る零二の戦略破壊魔術兵器(マホウ)、「サクラ」なのだ。
入ってくる入ってくる入ってくる入ってくる…
サクラを召喚した瞬間、俺にもどんどん情報が入ってくる…
最終戦争に召喚せし者、そして紗雪や里村が命をかけて戦っている理由がサクラを通じて零二の脳内に刻み込まれていく。
これが、零二とサクラの力。
二人は「召喚せし者」と「戦略破壊魔術兵器」の関係として二心同体。
互いの持ち得る情報を、言葉を介さなくても伝え合うことができるのだ。
「これで、ようやく俺も同じステージに立てたってわけだ…」
「召喚せし者として覚醒したか… なら、その力を使い全身全霊を持ってこの俺を倒してみろ…」
だが、覚醒だけで満足されても困る。目の前で紅葉を倒した相手に憎しみを持ち、その感情に任せて殴りに来い。もっともっと戦場で様々な状況を味合わせ、お前を成長させてやるよ、零二。
「兄さん!私も力を貸す… さあ、これで3対1。どうみても貴方が不利だし、大人しく撤退するのをオススメするけど…」
甘い、甘すぎる…
紗雪は何か勘違いしているようだが撤退するのを推奨するのは逆の立場だろう。
何故なら、覚醒したての零二と手負いの紗雪では俺の「相手にすらならない」のだから。
「………」
俺は無言のまま一瞬で間合いを詰めると、零二を杖で斬り裂こうとする。
木製の杖じゃ敵は切れないって?
それは、人間の考える概念の上での話しだろう…
召喚せし者に人間の常識は通用しない。杖の先に少しばかり魔力を加えてやれば、刃物のように扱うことだって難しくはない。
「速い!?」
人間の目では捉えることができない俺のスピード。
それを持って零二を斬り裂こうとすれば、サクラが立ちはだかり、桜色の魔力障壁を展開させる。
「マスターには指一本触れさせないんだよ!」
「あれがあの子の能力…って、感心している場合じゃない… はっ!」
感覚を失いながらも紗雪は跳躍する。戦場において冷静な紗雪は常に周囲の状況を記憶しながら戦う。
紗雪は紅葉の言葉を忘れてはいなかった。
「かすっただけだからせいぜい数分。」
なら、その追加効果はそろそろ切れるはず!
跳躍したまま、次の一撃を放つためにルーンを練り上げる。
紗雪の予想通り、発砲直前に罪の追加効果は切れた。
「行ける…っ! 福音の魔弾(ヴァイス・シュヴァルツ)!!」
放たれた一対の魔弾はミストガンを直撃するが…
「………その程度か?」
ドーンという激しい爆発音がするが、そこには無傷の相手が立っていた。
おかしい…確かに命中させた時に手応えがなかったのは紗雪も感じてはいた。
しかし、福音の魔弾の特性は敵の音を追跡すること。いくら躱そうともどこまででも追尾し、絶対に外すことのない魔弾なのだ。
「それで終わりなら、今度はこちらから行こう。孤独の幻影(ミスゲイション)…」
その言葉の直後、ミストガンの姿は消える。
正確には霧の力を使い自分の姿、気配、存在を全て消しているのだ。
「音も…聞こえない…」
「幻覚作用と隠密(ステルス)能力を応用した、かなり高度な魔法なんだよ…」
その魔術の高さから、相手を強者と判断したサクラと紗雪は苦い顔をし攻撃に備える。
一方零二は相手の魔法の特性、弱点を見極めようとしていた。
「何故かは知らねえが、俺が相手を見ることによって俺とサクラの脳内にどんどん情報が流れ込んでいる… これがサクラの能力なのか?」
零二がその力の性能を理解するまで遊んでやりたいが、手加減してやるつもりは毛頭ない。
敗北という二文字を味わってもらおう…それもまた、零二が成長する上で必要なことだ。
俺は姿を現したり消したりしながら三人に連続斬りを決める
「ぐっ…」
「は、速くて目で負えないんだよっ…」
「ぐぁぁっ………!」
地面に倒れる三人。
しかし、この程度の攻撃が敗北の決め手になるとは誰も予想することはできなかった
「俺があえて大技を使わずに、小技でお前達を攻める理由… それは、サクラの能力を警戒するだけではなく俺の技の発動条件を満たすためでもある…」
「なっ!?私の対魔術兵器戦略思考(ミーミスブルン)が読まれてる…?」
当然のようにサクラが驚くが、そんなことはどうでもいい…
いずれにせよ、これでチェックメイトだ。
「…拘束の蛇(バインド・スネーク)。」
俺がその言葉を唱えると、零二、紗雪、サクラ…そして紅葉の4人に赤い蛇のような紋様が体中に巻きつき始めた。
「な、何だこりゃ!?」
「きゃぁぁぁぁっ!?」
ビリビリと電撃の音と共に、全員が地面に倒れる。
「拘束の蛇を受けた者は、いかなる行動もすることは許されない。マホウの使用は愚か、指一本動かすことはできないだろう。」
せめて動かせるのは口くらいなものである。
俺の拘束の蛇の発動条件は、相手の体に触れてその蛇を相手の体内に仕込ませること。
だから、あえてマホウで一掃せず一人一人に杖を介して蛇を埋め込んで行ったのだ。
「こんなの…反則っ…!」
紗雪がそう言うが、命を掛けた戦いには反則も何もない。
勝ったほうが勝者なのだ。
そして、一度蛇の呪いを受ければそれを自力で解くことはほぼ不可能と言っていいほど至難の業。
「さて、見せしめに誰から殺してやろうか…」
そういって杖を一本振り上げる
「やめ…やめろおおおっ!!」
零二が叫ぶ。
だが、まだダメだ…奴が動くまで俺はこの行為を続けなければならない
「せっかく呼んで貰えたのにマスターの役に立てないなんて…」
「相手が…強すぎる…!」
サクラは涙目に、紗雪は圧倒的実力差の相手に悔しそうに唇を噛み締めていた。
俺が魔法陣を展開し、杖を振り降ろそうとするとそれをさせまいと落雷が落ちてきた。
…おいおい、こりゃどんな大乱闘だよ
元々、零二と紅葉の対決に紗雪が乱入し、その対決に更に俺が乱入する。サクラが戦闘に参加し、そして更にお前まで邪魔しに来るって言うのかよ
2人から始まった戦いは気づけば6人に…
最終戦争序盤からとんでもない戦いが繰り広げることになった。
「大丈夫かい?零二。」
「なっ…!?龍一だと!?」
落雷と共に現れた少年は、零二の親友でありライバルである皇樹龍一だった。