図鑑の、インドゾウ先輩ぇ……。
朝起きると、周囲がとても慌ただしくなっていた。まるで、何か事件が起こったかと思わせるほどの騒ぎであった。
足音はバタバタと廊下中に響き渡るように鳴り、人々は声を
これは、ただごとではないなと悟り、私はすぐさまベッドから飛び降りて、ポケモンセンターのロビーまで向かうことにした。
ロビーに近づくほど、騒ぎが大きくなる。
ロビーに着く。そこでは、多くの人が話し込んでいる姿があった。そして、その近くには、レッド君が腰掛けに座っているのが見えた。
私はレッド君を見る。
服装は既に、トレーナー服に着替えられていて、頭の外ハネも整えられていた。
あの横ハネは、ワックスか何かで作っているのだろうか。
昨日の髪質的に自然にはつかないよね?
そんなことを呑気に考えていると、彼は私がいるのに気づいたように、手招きをして私を引き寄せた。
彼は、何やら元気のない様子だ。元気がないと言えば、周りの雰囲気も同じようだ。一体何があったのだろうか。
「一体、何があったの?」
私は彼に訊ねてみた。
そうすると彼は、一度深呼吸をすると、
「……昨日の夜、そこの廊下でお化けが出たらしいんだ。それも、小さな女の子の」
「……女の子の」
よく分からないが、小さな女の子の幽霊が出たのか?
お化けに関して、私は昨日、それらしきポケモンを出しているので、少しドキリとする。ベアビヲ9だ。
でも、そのポケモンはシオンタウンの幽霊の姿をしたポケモンで、到底女の子とは呼べる見た目ではなかった。
つまり、私のものとは別件で幽霊が出たのだろう。ここまでの騒ぎだ。デマではなく、何らかのことが起こったのだろう。
少し怖くなってきた。
「ほら、あそこの人たちが、お化けを見たって人たちだって」
レッド君は、人
「どうも、小さな女の子が壁をすり抜けて行ったらしいんだ」
レッド君はおどろおどろし気に、手をお化けのポーズにして、話し始めた。
うん……?壁をすり抜けた?
レッド君は話を続ける。
「少女は壁にめり込んだ後、手足をバタバタさせた後、奇声を発して消えたんだって」
レッド君の言葉に、私はビクリと身体を
……うん、なるほど。壁にめり込んだ後、何かを叫んで消えたと。
何だか、心当たりがあるなあ……。
「直接見たのは職員の彼女だけらしいけど、奇声に関しては結構な人が聞いてたらしくてね」
レッド君は彼女が目撃者だよ、と言って一人の女性を指差す。その姿は、昨日の壁抜けの実験のときに驚かせた彼女であって……。
「……」
冷や汗が垂れてくる。血の気が引くとはこのことなのか。ブルブルと震えて来てしまう。
彼は私の様子を見て、驚いたように話し掛けてくる。
「わわっ、顔色が悪くなってる?ごめんね!怖い話なんかして!」
違う。コレは怖くて、こうなっているんじゃないんだよ。
私は心の中で叫ぶ。
つまりは、昨日の壁抜けの姿がもの凄い勢いで拡散され、これほどの騒ぎになっていると。
小さな女の子と言うのは腑に落ちないが、十中八九、その女の子は私な気がする。
唾を呑み込む。口元がひくひくと動く感覚がある。
人集りの近くに居た、お婆さんが急に大きな声を出して言う。
「祟りぢゃ!昔、この地で空襲があったときの、あの子の亡霊ぢゃ!」
ちょっと待ってくだされ。過去の悲劇と結び付けられて、盛り上がらないでくれる?!お婆さん、その話
それと周りの人も、そんなことが……みたいな反応止めて。それ、私の
「大丈夫かい、シオリ。水飲む?」
「……飲む」
レッド君から渡された水を飲みながら、その騒ぎを眺める。間接キッスとか、今はそんなこと意識できない。
話がどんどんと大きくなる。何だ、その空襲の女の子のエピソードは。絶対、今作った設定だろ。
……って、うわ。昨日のバグポケの鳴き声を聞いていた人も居るぞ。
そして、何故だか、女の子の心霊話と融合している件。火にガソリンを注ぎ込んでる感じ。これ、どうやって沈静化するのだろう。
そう考えていると、ポケモンセンターの事務室から大きな声が聞こえてくる。
「皆さん!監視カメラの解析が終わりました!」
ポケモンセンターの職員の一人が大急ぎでロビーに走ってくる。
「……?!」
その言葉に私は驚く。
ちょっと、待って。監視カメラとか、あの廊下にあったの?!え、マジで?
私はあの集団に紛れて映像を見てみる。その映像には、画質が粗いため絶妙に顔は分からないが、私の姿がしっかりと映像が残っていた。
「
「霊を鎮めるなら、シオンタウンが良いよね。誰か空を飛ぶ使える人いる??」
「取りあえず、わたし。ピジョット持ってるよ!」
当然、私の壁抜けの映像も映っていた。確証を得た人々は大騒ぎだ。ピジョットを持っていた若い女性が、空を飛んでシオンタウンまで飛んでいく始末。
「あわ……」
あわわわ、あわわ、その、ごめんなさい、本当にごめんなさい。
私の
私は心の中で平謝りをする。地に
そんなことを心の中で叫んでいたが、噂が
心の底から、申し訳ない気持になった。
◆◆
「大変な騒ぎだったね」
ロビーで祈禱師が
彼女がここに戻ってくるまで、
本当に胸が痛いです。罪悪感でめっちゃ死にそう。
彼女が祈禱師を連れて来たあと、周囲の人は、安心して食堂など一部の機能を再開したのだが。
そんなこんなで、今ご飯にありつけているのだ。他の人も、少しだけ落ち着いてきている。
祈禱師の人は、何か悪霊の気配が凄いとか言って、御札とかペタペタ貼ってる。多分、その悪霊の気配も、幽霊の見た目をしたベアビヲ9のものだと思います。
わざわざポケモンタワーから呼び出してしまって、本当に申し訳ないです!!
旅の途中でポケモンタワー寄るつもりですので、そのときにでもお詫びします。
そう私は誓った。コトネさん、本当にごめんなさい。
一通り謝罪を終えると、お腹がグウとなった。まだ、朝ご飯を食べられていないのだ。取りあえず、肉を一切れ口の中に入れる。
「む、美味しい……」
何だか感触が変だが、凄く美味しい。さっきまで、疲れ切っていたメンタルが回復していくようだ。一体何の肉を使っているのだろうか。
「シオリ、美味しいよね、このお肉!ヤドンの肉って癖があるんだけど」
彼はそう言って私に笑い掛け……、今何て言った?
ヤドン、お前。尻尾だけじゃなくて、他の部位も食べられるのかよ。ヤドンの尻尾ってアイテム、妙にリアリティがあってトラウマだったんだけど。
あれ?そうなると、昨日の夜に出た蟹飯。ご飯の上に、蟹の身のような物が混ざっている料理って、もしかしてクラブだったりする?
知らず知らずの内に、ポケモンを食べていた件。
……個人的にはケンタロスとか、カモネギを入れた鍋って美味しそう。
「今度、鍋食べてみない?」
「カモネギの旬っていつだったかな」
レッド君にそう言うと、少し考える素振りを見せながら、そう返答された。
カモネギに旬とかあるんだ。そして、案の定食べられるカモネギパイセン。鴨葱なんて、名前をしてるのが悪いんだよ。
そんなことを話していると、コトネさんは祈禱を終えたらしく、その場で喋り出した。
「……。これで、悪霊の退治は終わりました。念の為に御札なんかも無料でお配りしてますが、どうしましょうか」
コトネさん。祈禱とかも無料でやってくれていたんですか……。
お金を払いにいこうとしている人に、人の役に立てるのなら、私も本望です……とか言ってる。ヤバい、心の綺麗さが段違いだ。
また、心が死んできた。ちょっと、お布施を渡しに行ってくる。
「……これ、少ないですが、お布施です」
私は申し訳なくなって、財布から千円札を出す。
「はい?……いえいえ、そのお気持が嬉しいんですよ」
もし寄付をするなら、本部の方にしてくれ、と彼女は続けて言う。
ま、眩しい。ゲーム版では、悪霊に取り憑かれていたとは言え、ヘゲ・・・ケケーッ!とか言っていた人とは思えない。
これは、私が惨めになる。ところで、コトネさんのファンクラブって何処にありますか。入会したいです。
何というか、めっちゃ良い人だ。
そして、私は、罪悪感で心がどうにかなりそう。
お金に関しては、本部に振り込みました。ポケモンタワーの維持費にでも使ってくれ。
◆◆
「22番道路に寄るの?」
「……うん」
ポケモンセンターから離れたあと、私はレッド君に頼んで寄り道をさせて貰った。場所は勿論、22番道路だ。
ここを真っ直ぐ行くと、シロガネ山。右折するとチャンピオンロード。左折すると26番道路からジョウト地方へと繫がる、物語の終盤に訪れる場所である。
しかし、今回はある理由によってそこへいく。それは……
「あーッ!レッド!…………と、誰だ?」
ライバルのグリーン君が待ち構えているからだ。
ゲームでは、彼は旅立ってすぐにチャンピオンロードに行こうとするのだ。ジムバッジを持っていない、と見張りのおじさんに阻まれるのだけど。
そこで、彼はレッドとポケモンバトルをすることになる。ここは現実世界なので、居ないかも……と思っていたけれど、居て良かった。
レッド君はグリーン君の質問に答えるべく、口を開く。
「グリーン。彼女はシオリだよ!一番道路で出会ったんだ!」
「へえ、ポケモンバトル強いのか?」
この人たちってポケモンバトルにしか興味がないのかな?早々にポケモンバトルの話をしだすの、どうかと思う。
しかし、これは昨日、気になってレッド君に聞いてみたんだけど、初めて会ったトレーナーはバトルするのが礼儀とか言われた。私の方がおかしいらしい。
だから、ゲームであんなにバトルしてたのか。凄い世界だな。
そんなことを考えていると、レッド君はグリーン君に答える。
「彼女の腕前は、グリーン以上だよ!」
レッドの言葉にグリーンは眉を
レッド君、煽りよるな。煽り耐性なさそうなグリーン君にそんなこと言ったら逆上されそう。
多分、今のレッド君よりも強いグリーン君相手に、どうしてそんなに威張れるのかしら。
ゲーム時代、ここで負けたんだよね。やけに強いんよ、ここのグリーン君。
研究所で戦ったときより、めっちゃレベル伸びとるやん……って思ったものだよ。
「言ったな、レッド!……シオリ、オレとどっちが強いか勝負だ!」
やっぱり、こうなった。
そもそも、ここに来たのは、これから彼が捕まえるであろうコラッタのことを忠告をするためなのだ。
祈禱師の件で、思い出したのだ。
シオンタウンのポケモンタワーで、主人公であるレッドは、ライバルであるグリーンに再会するのだ。
ポケモンタワーはポケモンを供養する、
そこで彼は、相棒のラッタを供養していた……と言う話があるのだ。
公式では明言されていないが、ポケモンタワー以降、彼の手持ちであるラッタがバトルに登場しないことから、それが示唆されている。
そのときのセリフも意味深であり、彼のポケモンが亡くなったのだと、推測できるものとなっている。
そんなことを、コトネさんを見て思い出して、ここまで来たのだ。
マジでコトネさん、さまさまだ。もう、足向けて寝られない。
しかし、これは、ポケモンバトルをしないと話を聞いて貰えないパターンっぽいね。……しょうがない。
「……瞬殺するから、待ってて」
私は二人に向かって、そう言った。
なんとなくで出した祈禱師コトネの株が上がる上がる。
「……瞬殺するから、待ってて」
そんな中二臭いセリフを吐いた萩原栞。やめて!栞。そんなセリフ吐いたら後で死ぬほど後悔することになるよ。
次回、冒頭で正気に戻る。デュ○ル・スタンバイ!