崇継と簪が夕食を取り終え寮に戻ってくると、道に人だかりが出来ていた。恐らく一夏だろうと目星をつけ、簪に織斑先生を呼ぶように頼んでから人だかりに近づいた。生徒達は崇継を見ると直ぐに道を開けてくれたので思ったより早く真ん中に辿り着いた。そこには案の定一夏とはだけた服を着た箒が居り、部屋のドアには無数の穴が開いていた。
「うわぁ!箒やめろぉ!」
「問答無用!」
一夏が箒の木刀でシバかれそうになっていたので、すんでのところで箒の木刀を上から掴んで止めさせた。
「!」
「崇継さん!」
「やれやれ。流石にこれは見逃せないな。危ないだろう」
一夏は心底安心したような表情だったが箒は自分の剣を止められた怒りで不機嫌になっていた。彼女は崇継を睨んで
「ふん、男がこの程度で音をあげてどうする。それに一夏なら問題ない!」
などと無責任な事を言ったが、崇継は途中まで聞き流して一夏に話しかけた。
「大丈夫かい?危ないところだったね」
「あ・・はい。ありがとうございます」
「この件についての話は後で他の人に話してくれ。それより一夏君、その痣はなんだい?」
そう、一夏の体には無数の痣があった。教室で会った時は長袖の制服を着用していた為気づかなかった。否、気づいていない振りをした。だが流石にこれは大人として看過出来ない。
「こ、これは・・・その、さっき転んじゃって」
何と優しい事だろうか。崇継は感動した。だがその優しさは今、必要ない。
「ダウト。転んだ程度でそんな怪我にならないのは私がよく知っている。それは今日の特訓でできたものだね?」
「・・・はい」
これにはため息をつかざるを得ない。暴力が教育として許されたのは昔の事だ。織斑先生にも言えることだが、何か根本的に間違ってはいないだろうか?まぁ織斑先生については興奮した生徒を鎮圧するのに必要だったからかもしれないが。ともかく、ここは織斑先生に任せた方がいいだろうと考え、辺りを見回して
「織斑先生」
「・・・はぁ。で、これはどういうことだ?斑鳩、報告しろ」
あくまで彼女は今来た振りをするようだ。彼女は手を叩いて周りの生徒達を部屋に戻してから斑鳩に報告を求めた。
「私が来たときにはこの状況になっていましたので、詳しい事はこの2人から聞いてください」
「・・・・分かった。斑鳩も部屋に戻れ。明日また聞くことがあるかもしれん」
「分かりました。失礼します」
そう言ってから崇継は自室に戻った。その後は簪と今後の予定について話し合ってから眠った。
翌日、崇継は朝食を部屋でとった。料理は簪に満足してもらえる出来だったようだが、本人は複雑な顔をしていた。崇継は先に寮を出て教室に向かうと一夏はもう席に座っていて多数の女子に囲まれていた。崇継が教室に入れば皆彼の方を向いたが、もう慣れたのか直ぐに自分の用事に戻った。本人としてはそっちの方が楽なのでたいして気にしていない。
「やぁ、おはよう一夏くん」
「っあ、お、おはようございます」
やはり元気がない。他の人の前ではどうにか取り繕っているようだが、そこそこ付き合いのある崇継にはそう見える。ふと箒の方に目を向ければ彼女は親の仇を見るような目で崇継を見ていた。私と一夏の時間を邪魔するなとでも思っているのだろう。
(幼い。実に幼いし、くだらない。人を傷つけて得られるものなど恐怖だけだ。友情も好意もプラスになるような物は一切得られないとなぜ分からない)
流石に崇継も切れそうになるが、そもそもこれは本人達の問題だ。どちらかが外部に助けを求めるまで彼は介入出来ない。もちろん助けを求められればすぐさま介入するつもりだ。
だが今の時点では特になさそうなので普段通りに挨拶してから自分の席に座った。その日の授業も既に知っていることばかりでつまらないと彼は思った。
放課後、簪と寮で合流してから整備室に向かった。丁度人もいなかったので道具を取ってから打鉄弐式の作成に取り掛かる。
「今日の学校はどうだった?」
「・・・久しぶりに、普通に受けられました。内容は知ってることばかりだったけど、楽しく感じました」
「それは何より」
日常会話をこなしながら最初の点検を行い、準備が終わった。ここで崇継が簪にある提案を持ちかける。
「簪。今日少し調べたが、整備部というものがあるらしいな」
「え?あ、はい。ありますけど、どうしたんですか?」
「彼女達の力を借りるのはどうだろうか。確かに俺もいるにはいるが、人手があって損はしない。彼女達は経験を、それも専用機に触れるというまたとない機会に。君はそれの完成を短縮させる為の人手を手に入れられる。損はしないと思うけどね」
「・・・。分かりました。そうします」
「OK。話はこちらで」
「いえ。私の機体なので、私がやります」
「分かった」
そして翌日。朝、教室に入ると布仏という生徒に声をかけられいきなり
「ありがとうございます!」
なんて言われた事件と、整備部の人達が簪のIS作成に協力した事を除けば特に何事も無く1週間がすぎ、クラス代表決定戦の日になった。
その日はクラスが浮ついていた。それもその筈。世界で2人しか居ない男性操縦者と国家代表候補生などという
退屈な授業を乗り越え、放課後布仏と共に簪と合流してアリーナの席を確保すると布仏が話しかけてきた。
「つぐつぐはどっちが勝つと思うの〜?」
因みにつぐつぐは彼女がつけたあだ名である。呼び方に悪意がある訳でもないのでそのままにしている。
「どうだろうね。簪は?」
「オルコットさん。というか織斑が負けてくれれば何でもいい」
「はは。そんな言ってやるな。彼はそもそも知らないんだ。それに彼だって望んだ事じゃない。ま、私も一夏君が負けるとは思うけどね」
「え!?」
簪は心底驚いたようだ。対戦するのが自分の嫌いな一夏とはいえ同じ男性なら男の方を応援しないのかと思っていると、それが顔に出てしまっていたようだ。
「一夏君を応援しても良いんだけどね。負けるのがほぼ確定してるような人を応援するほど私も気前が良い訳ではない。まぁ応援した方が面白いというなら応援はするけどね」
簪と布仏はちょっとひいた。それにしても試合が始まらない。先程から時々アナウンスされてはいるようだがはっきり言って聞こえない。すると、崇継が口を開けた。
「・・・・意図的に聞き取れないようにしているな」
「え?何でそんな事を?」
簪は崇継が言ったことの意味が分からず聞き返した。
「恐らくだが時間を稼ぎたいのだろう。そしてこのタイミングで時間を稼ぎたいとなると、思い当たるのは3つ。操縦者が体調を崩したか、ISに整備不良があったか。そして」
崇継は言葉を切って簪の方を向いた。簪は少し考えると直ぐに思いついたのかハッとなって崇継に言った。
「そもそもISが無い?」
「ああ。そして体調不良ならそもそもこの時点で中止になる筈。整備不良はそもそも整備するほど乗っていない。ここに送られてくる段階で整備不良があったなら別だがな。この事から察するにISが届いていないのだろう。・・・チッ、専用機作成を放棄するばかりか納期すら守れないとはな。つくづく技術者としてのプライドが無いようだな、倉持は」
崇継はプライドもへったくれも無い倉持の行いに憤慨した。同業者として恥ずかしい。自分の手で粛清したい。少し雰囲気が変わったようで、周りの2人が心配している。すると今度は明瞭な声で放送がかかった。
『1年の斑鳩君。1年の斑鳩君。至急アリーナの選手控え室までお越しください。繰り返します・・・』
「「・・・」」
「はぁ。やれやれ。済まない2人共。席を外させてもらう」
2人に断りを入れてから崇継は控え室へ向かった。
次回はクラス代表決定したところで終わると思います
前回のあらすじいる?
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いらない