一夏達との話を終え、食堂を出た崇継は誰かが自分をつけているのを感じた。誰かはわからないが、この学校でそういう技術を習得しているのはごく一部の人間だけだ。よって十中八九あの
「……誰ですか?そこにいるのは」
「………へぇ、気づいてたんだ。おねーさん自信無くなっちゃうなぁ〜」
予想通り。そこにいたのは更識楯無、
彼女はそう思っているだろうが、崇継からしてみれば情報を得られずとも、自ら開示しなければ良い。何ならここを離脱出来れば勝利だ。
「はは、今のは勘ですし、気にしなくていいですよ」
振り返ってそう言うと、一気に彼女の視線がきつくなった。いきなり表情が変わったが、それを予想していなかったので、崇継も少し動揺した。こんな事でいきなり表情を崩すとは思っていなかったのだ。
「嘘ね。貴方、さっきからずっと油断していなかったもの。誰か探してたんでしょ?」
微笑みをたたえながらそう言った彼女は手に持っていた扇子を広げた。そこには【捜索】と書かれていた。
彼女が言っていたことは半分合っている。そもそも崇継がこの学校、この土地において油断できるような場所は自らが寝泊まりしている部屋しかない。最初から油断などしていないのだ。また、常に周りの動向を逃さない状態、すなわち油断していない状態がデフォルトだった為に、先程彼女の気配を察知した時からそれを逃さないようにしていた。更識楯無はそれを油断しなくなったと認識したのだろう。
だが、先程の通り、それを馬鹿正直に言ってやる必要はない。
「さぁ、どうでしょう。そもそも、ここには私から見れば3通りの人間しかいない。純粋に高校生活を楽しむ為に私に近づく者や男性操縦者のデータを取るために近づく者、そして私に敵意を、男性に対して敵意を向ける者だ。そのような状況を1人で歩く中で、油断するほうがありえないと思いますが」
「なるほどね〜。確かにその通りだね。耳が痛い」
「それでは、授業も始まりますので、ここら辺で失礼しますよ」
そう言って崇継は話を切って教室に戻ろうとしたが、その前に彼女に呼び止められた。
「貴方、最近簪ちゃんと仲良いみたいじゃない?」
「えぇ。同室ですし、彼女の手伝いもしています。私のここでの生活が充実しているのは彼女のおかげと言っても過言では無いぐらいにはお世話になっていますよ。それが、何か?」
すると、きつかった視線が今度は一気に鋭くなった。並の人間ならこれだけで逃げ出すかもしれないぐらいだ。だが、嘘は言っていない。彼女のおかげで学校を楽しめているのは事実だ。
「あの子は私の妹なの。知ってる?」
「はい」
なんてことは無い質問だが、この2人の中ではかなり重要な事であった。やはり、ここ最近簪に視線を向けていたのはコイツだろう。
「……そう。なら、先に言っておくわ。簪ちゃんに何かしたら、絶対に貴方を殺すわ」
まさかのお前を殺す発言。彼女からしてみればかなりの本気なのだろう。が、相手が悪かった。目の前にいるのは、命のやり取りをする事もある本物の軍人。さらに言えば、彼女と同じ暗部、それも一国の情勢を傾けられるほどの情報を管理している人間だ。場数はもちろん、経験も段違いだ。よって彼女の威圧など、対して怖くもない。
だから、崇継は敢えて煽ることにした。
「ハハッ、彼女を泣かせたことならありますよ」
ブチッ
「……は?」
その煽りはクリティカルヒット。先程までのような威圧では無く、殺意が溢れ出した。
「相手を射殺さんとするその目、その身に纏う殺意、素晴らしい。だが」
一度言葉を切る。更識の目は殺意はそのままに、続きを促していた。
「簪が泣いた原因が自分では無いと思っているなら、その考えは改めろ」
口調を自分本来のものに戻して、更識がはっきり認識出来るよう低く、ゆっくりと言った。更識の殺意に満ちたその表情が、揺らいだ。
「……何を」
「さぁ?それはお前が一番良く知ってるだろ?俺はただ、簪が抱え込んでいた物を吐き出させただけだ。じゃあな」
先程の殺意から一転、悔恨と言わんばかりの表情を浮かべ俯いた彼女を放置して、崇拝は教室に戻っていった。
その後、午後の授業も終わり、放課後。
崇継は簪と合流し、整備室へ向かっていた。ここで崇継は簪に昼に起こった出来事について話すことにした。
「簪。今日の昼、君のお姉さんに会ったよ」
「…」
歩みを止め、簪は俯いた。崇継も数歩歩いた所で止まり、簪の方へ振り返る。
「そ、それ、で…」
「あぁ、なんの事はない。君に何かしたらどうなるか、と言われただけさ」
簪は下げていた顔をバッと崇継に向けた。その顔は信じられないといった表情だった。崇継は苦笑いしてしまった。
「ハハッ……気分を悪くしたなら謝ろう。だが、一応君のお姉さんは君のことを気にかけているようだ」
Side 簪
お姉ちゃんが私を?あんな事言ったのに?ありえない。私はそう思った。おそらく顔に出ていたのだろう、崇継さんは私の顔をじっくり見て、言った。
「人は誰しも、秘密を持っている」
……?
「それが他人に言えるようなものであろうと無かろうとね。彼女にもそれはある筈だ。君が被害者なのは私もよく知っている。だが、だからこそ、君の方から歩み寄ろうとしなければならない」
…なんで、ですか?私は何も、していない!
「全くその通りだよ簪。でもね、だからだよ。君とお姉さんの喧嘩からもう3年たった。君も、あの時分からなかったことが分かるようになった筈だ」
………はい。お姉ちゃんにはお姉ちゃんのやるべき事が、ありました。でも、
「そうだ。あちらから謝るのが筋ってものだ。だから君が歩み寄るんだよ。君が逃げるから謝れない、という言い訳を潰しにかかれ。まずは話し合いからだ。それか、君が作ったものを見せつけるのも良いかもしれないね」
…!
「君は、お姉さんに証明したかったんだろう?なら、君が作ったもので戦って、一泡吹かせてみようじゃないか」
……分かりました、やります。お姉ちゃんに証明して見せる。
「うんうん、良い目だ。覚悟が見える。それじゃ、今日も始めようか」
はい!
Side 3人称
今日も打鉄弐式の作成を整備室で行った。あと少しだが、おそらくクラス代表対抗戦には間に合わないだろうというのが2人の見解だ。
「それじゃ、今日はここで終わりましょう」
簪が終わりを崇継に伝え、工具を片付け、整備室を出た。
2人は食堂で夕飯をとった後に部屋に戻った。いや、戻ろうとしたが、トラブルに巻き込まれた。
「だから、部屋は交換しないと言っているだろう!」
「あら、大丈夫よ?私、一夏の幼なじみだから。って訳で、さっさと変わってくんないかしら?」
トラブル、再び。
「あ!崇継さん!」
一気に周りがこちらに目を向けた。篠ノ之は不機嫌に、凰鈴音はゲッとなり、一夏は救われた〜と安堵していた。
だが、現在崇継の隣には簪がいる。彼女にとって織斑一夏は好ましい存在では無い。彼女も篠ノ之と同様、一気に不機嫌になった。
そんな事はつゆ知らない一夏。あっ、その人が崇継さんと同室の人ですか?なんて呑気に言いやがる。
「始めまして、俺、織斑一夏。よろしくな!君の名前は?」
「……」
一夏は2人から逃げるように簪に近づき、握手しようと簪に手を伸ばした。が、簪は手を伸ばさないばかりか一夏の言葉に反応すらしない。一夏は不審に思い、隣にいる崇継を見た。その目はクラス代表決定戦において、機体の調整の時に一夏に声をかけた時の目だった。朴念仁の一夏は珍しくこの目からなんとなく理解した。この人が、崇継さんが言っていた人だ、と。
だが、それに痺れを切らしたのは
「貴様ら、何をやっている。全員部屋へ戻れ!」
周りの生徒達は蜘蛛の子を散らすように部屋へ戻っていった。崇継ももちろん戻ろうとし、簪もそれについていこうとしたが織斑先生に止められ、凰鈴音が声を出した。
「ちょっと、アンタねぇ!一夏が握手しようとしてんのに、無視は無いでしょ!巫山戯てるの!?」
「凰。私は貴様に喋っていいとは言っていないぞ。口を慎め」
織斑先生はピシャっと言い放ち、次いで崇継に目を向けた。
「また貴様か。つくづくトラブルメーカーだな」
やれやれと言った感じただが、崇継も望んでトラブルに首を突っ込んでいる訳では無い。
「織斑先生、確かにトラブルに巻き込まれる回数が他より多いとはいえ、私がトラブルを作っているわけではありません。そもそもなぜ私が止められたのです?これは一夏くんと彼女達の問題の筈です」
崇継もそう言い放った。織斑先生は苦笑してそうか、すまないと謝罪してきた。流石に崇継もこれには強く出る事が出来ず、織斑先生の素顔を多少なりとも知っている3人は信じられないようなものを見た目だった。と言うより信じられないものを見たのだ、実際に。
「コイツ等は少し我が強すぎる。それにまだひよっ子だ。状況の説明に主観が入ってしまう。その点、貴様は事件に巻き込まれておらず、私よりも年上、社会を知っている。第三者として、証人として、最も信頼しやすいのだよ」
「なるほど。それはありがたいですね。願わくば私が証人として必要とされる事が起きないのを願うばかりです」
織斑先生はハハッと豪快に笑ったあと、事件を起こした3人の方へ向き直り、で?何があった?説明しろと崇継に問うた。
「そちらの3人に向いておきながら私に聞くのは意味不明ですが……そうですね、相変わらずの痴話喧嘩です」
「「ちょっ!」」
「黙れ。人の話を黙って聞けんのか、お前たちは」
一応簪にも何があったか確認した。彼女も崇継と同じことを報告した。
が、“痴話喧嘩”。その一言で織斑先生はすべてを理解した。彼女は呆れ果て、凰鈴音に部屋を変えられるのは寮長だけであるから、さっさと戻れと言い、喜んでいる篠ノ之箒にも近く部屋替えがある事を伝えた。
「済まなかったな更識、斑鳩。部屋に戻っていいぞ」
「…はい」
「では、失礼します」
そうして2人は部屋に戻った。斑鳩は自室の扉を開けながら簪に話しかけた。
「全く、彼の周りはいつも騒がしいね。あれぞ高校生、って感じだ」
崇継は笑いながらだが、簪は呆れていた。
「うるさすぎです。もうちょっと静かにしてくれてもいいと思う」
先程の事件で不満が溜まったのか、珍しく言葉の節々に棘があった。まぁそうだね、と言いながら部屋へ一歩入った。だが、何かがおかしい。原因は直ぐに見つかった。
窓が、空いている………?
「 ッ!」
(誰だ?なぜ
動かない崇継を不審に思った簪が部屋に入ろうとするのを右手で制し、自分より後ろに行くよう言う。
「……崇継さん?どうしたんですか?」
「……誰か、いる。下がってくれ。俺の背中に隠れてくれ」
「え…?」
崇継の尋常ならざる雰囲気を感じ取った簪は、大人しく崇継に従った。ちらっと見た崇継の目は見開かれていた。
崇継は部屋の電気をつけ、一歩ずつゆっくりと進んでいく。姿勢だけ見れば悠然としているだろうが、その実いつでも行動を起こせるし、緊張による圧倒的なプレッシャーがただよっている。
そして、そこには。
「ん?おやおや、やぁっと帰ってきたね!」
ベッドの上に、その人物はいた。
「君とは一度会って話して見たかったんだ!」
青と白のフリルがふんだんにあしらわれた服を着て、頭には特徴的なウサ耳をつけている人物。
今更なんですけど話の前書きに前回のあらすじ書いたほうが良いですかね?
前回のあらすじいる?
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いる
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いらない