篠ノ之束との出会いから数日後
崇継は本音と簪の間の位置、アリーナの観客席に座っていた。この日はクラス代表対抗戦が行われる日だ。篠ノ之束との遭遇を乗り越え、簪に説明を保留してもらい、シスコン生徒会長からの視線に耐え、一夏からの弟子入り要望を却下し続け、気づけばはや数日。ようやくゆっくり出来る……はずが無かった。
如何に崇継の原作知識が曖昧とてこのぐらいはまだ覚えている。そう、IS学園への襲撃だ。ゴーレムだったか?が3体、未登録のコアを搭載していた。……どう見積もっても主犯はあの
だが崇継はそうする事を良しとはしなかった。これは誰にとってもメリットのある話だからだ。IS学園側はそのお粗末なセキュリティーを。一夏は自らの未熟さを。篠ノ之箒は自らの無力さと認識の甘さを。凰鈴音にとっては自らが正しい判断が出来るということを、一度の機会で確認できる。そんな千載一遇のチャンスを崇継が逃すはずもなかった。これでも一応崇継は一夏を大事にしている。死なせるつもりは毛頭無い。だが、それでもこれは“織斑一夏”の物語だ。斑鳩崇継に依存してはいけない。自分を守れるだけの力は身につけて欲しいが為に、崇継はこの判断を下した。そして今回崇継は観客側だ。大勢の生徒がパニックに陥るであろう事を予想し、AMWS−21の60mmの弾は音響弾も装備してある。あとは、その時を待つだけ。
「つぐつぐはどっちが勝つと思う〜?」
ふと、隣にいた本音が質問してきた。崇継は少し思案する素振りを見せ、5秒ほどで答えた。
「う〜ん、少し難しいな。どちらにも勝ち筋はあると思うよ。一夏君のは当たれば絶大なダメージだからね。でも、凰鈴音のIS、甲龍の武装、龍砲も強力だ。一夏君がどこまで対応出来るか、もしくは凰鈴音がどこまで対応させないかによって決まるかな」
本音はへぇ〜そうなんだ~と感心したようだが、反対に簪はジト目で崇継を見ている。その視線に気づいた崇継は苦笑いを浮かべた。
「どうしたの〜?かんちゃん」
「おや、一夏君を褒めたのが気に食わなかったかな?でも嘘をつくのは良くないからね」
本音は純粋に簪に問い、崇継はあえて的外れな事を言うことによって話を逸らそうとした。
「いや、崇継さんはどっちが勝つと思う?という質問に対して答えてない。崇継さんが言ったのを簡単にすると『どっちも勝つ可能性があるよ?』って言ってるのと同じ。ちゃんと答えて」
「なるほどね~。確かに、つぐつぐ質問に答えてないね〜。結局どっち〜?」
崇継は両手を挙げ降参の意を示し、ため息をついた。すると、タイミング良く試合のアナウンスがかかった。
『これより、クラス代表対抗戦を開始します』
アリーナのカタパルトから双方発進し、空で向き合う。崇継は少し気怠げな眼差しでそれを見ていた。一方の簪は親の仇を見るかのような目である。
『それでは、試合開始ッ!』
試合の展開は一方的だった。武装が剣1本だけの一夏に対し、手数も経験も勝る凰に利があるのは火を見るより明らかだった。だが、一夏も負けたとは言え専用機持ちの代表候補生に対しあと少しという所まで行ったという事実がある。
実際に、一夏は砂煙を利用し不可視の弾丸を避ける事に成功している。そして、それを見た凰が動きを止め、一夏に何かを語りかけた。今度は崇継は口の動きから何を言っているか調べる事はしなかった。しても意味が無いからだ。この試合はもうすぐおじゃんになる。
2人が会話を終え、動こうとした。その瞬間だった。
ドガァァァン!!
アリーナの外壁を突き破り、それは現れた。
IS、と形容するにはいささか異形という言葉に尽きる存在。機体色は深い灰色、手が異常に長い。首らしきものは視認できず、頭と肩が一体化しているように見える。人が乗っているかは崇継以外には分からないが、人が乗っているのか
会場内の生徒は一瞬のうちにパニックに陥り、出入り口に群がっているが開かないのかそこで渋滞している。
崇継はと言えば座ったままで前のめりになって侵入者を観察している。両隣の簪と本音も最初のうちは驚いていたようだが、一切動じない崇継を見て頭が冷えたようだ。 最も、落ち着いただけで打開策は見つかっていないが。取り敢えず喫緊の課題として、2人はここから逃げ出さなければいけないことを理解した。
「た、崇継さん!何してるんですか!早く離れましょう!シールドバリアがあるとは言え、アリーナの外壁を突き破る威力の武装が有るはずです。ここも安心とは言えませんよ!?」
「そうだよつぐつぐ!早く逃げようって!」
「……あぁ、そうだね。あの機体の構造面白そうでね。分解して観察出来ないかなと」
技術者としてここは譲れないのかは分からないし、本当に純粋に興味を惹かれているのかも分からないが、実に楽しそうな笑みを浮かべている。こんな時に何で、と簪は思ったが口には出さなかった。
ふと階段を登る途中振り返ると一夏が無謀にも直線で突っ込んでいった。思うところが無い訳では無かったが今は逃げることが最優先だ。すると、崇継のISにコールがかかった。
「はいはい、斑鳩です」
『斑鳩か!今どこにいる!?』
どうやら呼び出したのは織斑先生のようだ。
「アリーナの観客席です。今出口に向かっていますが、開いてないので出れませんね」
『そうか、分かった。今整備部や生徒会のメンバーを集めて外部からアクセスしているが、セキュリティの突破に時間がかかる。加えてあの愚弟だ。何分持つか分からん』
自分の弟なのにそんなボロカス言う?確かに弱いけど。かんちゃん、そんな事言っちゃだめだよ〜。なんて会話があったが崇継は聞かなかった事にした。
「で、私がすべき事は生徒の沈静化ですかね」
『あぁ。出来れば内側から物理的に開けられるか試して欲しい。出来るか?』
「織斑先生、NOと答えさせるつもりの無い質問を出すのは止めてくださいよ。一応試してみます」
『ありがとう』
そうして通話は終了した。崇継はちょうど階段を登り終わり、溢れんばかりの生徒の外縁部についた。
「つぐつぐ、どうするの〜?これだけ人がいると話が通じないかもしれないよ〜?」
そう、今にもパニックに陥っている生徒もおり、かなり騒がしくなっていた。だが、崇継は質問に答えの実演をもって返答した。
バン!
銃声が響く。生徒達はパニックが1周回ったのか、逆に落ち着いたようだ。そして、生徒達が銃声の発信源を見ると、片腕のみISを展開し、銃を天に向けている男性がいた。自らに視線が集まったコトを悟ったのか、ISを解除し腕をおろした。誰も彼もがその一連の動きから目が話せない。すると、彼は生徒に向かって話し始めた。
「……君たちが日頃から使っているISというものは、あの様なものから人々を守る為にある」
アリーナの中心に体を向け、一夏と凰と戦っているものを指差す。
「そして君たちはこの様な状況になってしまった際、最も冷静でいなければならない。パニックに陥るなど論外。一目散に逃げようとするなど愚の骨頂」
皆が真剣に聞いていた。聞かざるをえなかった。聞かないという選択肢は無かった。実際に今、自らは取るべき行動を間違えたと理解したから。冷静になってしまったから。
「君たちに求められているのは操縦者としての能力もそうだが、常に冷静でいられるその心だ。だが今恥じることは無い」
一度崇継は言葉を切り、生徒達に向き直した。
「君たちには時間がある。心を鍛えるチャンスはまだあるという事だ。真に恥じるべきは、今の出来事から学習しない事だ。学びは常に自らの近くに潜んでいる。これからの学園生活で何を得るかは君たち次第だ。今日この場所で起こった事、君たちの行動。脳裏に焼き付けると良い。こういう経験が君たちの糧となっていく」
そう言って崇継は出口に向かいながら織斑先生に回線を繋いだ。モーセの海割のように人だかりが開いていく。
『なんだ』
「取り敢えず生徒は沈静化しました。これからドアを開けられるか調べます」
言うが早いか崇拝はラプターを展開しドアをノックした。その音を聞いて、崇継はこう言った。
「これ多分いけますね。ドア破壊しても大丈夫ですか?」
『壊せるのか!?』
織斑先生は流石に壊せるとまでは思っていなかったのか心底驚いた様子だ。
「ええ、音紋を調べて大体の構造は把握しました。固定具を破壊した後ドアは蹴り飛ばします。危ないのでドア付近から人を退避させて下さい」
『分かった』
崇継は両手のAMWS−21の60mm弾を先程の音響弾からモジュールごと変更した。
『斑鳩、ドア付近の生徒の退避が完了した。やってくれ』
「了解」
先程崇継がドアに近寄った際に人はドアから離れているし、銃を構えた崇継に近づく馬鹿もいないので警告する必要は無い。
そして、崇継は銃を4度、ドアの四隅に打ち込んだ。着弾してすぐに、爆破されたのか煙と音が発せられた。崇継はAMWS−21を投げ捨てると回し蹴りの要領で足を押し出すようにする。金属がへこむ音とともに凄い速度で扉は飛んでいった。
周りの生徒達があ然としている中、崇継はISを解除し背中を向けたまま言った。
「冷静に、かつ迅速。何より安全を重視して出ろ」
そして、生徒達は言われた通りに出ていく。簪と本音を見送って、崇継はアリーナのIS用の出入り口に向かっていった。
未だにIS学園の設備の全貌と配置が分かりません。今更ながら作者はにわかです。
前回のあらすじいる?
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いる
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いらない