Side 篠ノ之箒
私は、あの男、斑鳩崇継が気に入らない。
初めてあの男と会ったのはここ、IS学園に入学したその日だ。私は一夏と高校生活を送ることが出来ると知り、嬉しかった。数年ぶりの再会だ。どんな顔をしてくれるだろうか。どんなに逞しくなっているだろうか。そんな希望とともに、教室へ入った。
一夏は緊張していたのか自己紹介が少々雑に、というかかなり酷いものになってしまったが、変わっていない。私が最後に会ったあの時から変わってはいなかった。千冬さんに出席簿で叩かれて痛そうにしていたが、千冬さんも相変わらずだ。弟には厳しく甘いのも変わっていないのだろう。自然と笑みが溢れる。そして、その時だった。あの男と会ったのは。千冬さんに促され教室に入ってきたあの男に、教室の全員 私と一夏も含め あ然としていた。なにせ2人目、だ。確かにそれらしきニュースはやっていたような気がするが一夏の事で頭がいっぱいだったせいで気にしていなかった。
背はかなり高く、細め。常に笑みを浮かべ得体のしれない男。それが私があの男に抱いた印象だ。
「初めまして。今日から皆さんと一緒にここで勉強する事になった斑鳩崇継です。年齢は27歳、身長は182cmです。好きなことは機械いじり、嫌いな事は特にありません。よろしくお願いします」
すらすらと自己紹介をし終えると、クラスは悲鳴(?)に満ち溢れた。私は咄嗟に耳を塞いだおかげで被害を免れたが、一夏はもろに食らったようだ。
あの男は山田先生に促され教室の後ろ、一番廊下側の席に座った。その後も色々とあったが、私が自己紹介をすると、私があの人の妹である事がバレてしまった。あの人の妹である事が羨ましいだと!?家族をバラバラにしたあの人が、私は嫌いだ!
少しイライラして声を張り上げてしまったが、その後は概ね順調に進み、HRが終わり、最初の授業が終わる。クラスの者達は一夏に話しかけたいがお互いに牽制しあっていること、緊張してしまう事により動けていない。フフン、残念だったな。私には“久しぶりに会った幼なじみ”という立場がある。そして話しかけようと席をたった瞬間に、一夏が動いた。私に気づいたのか!?そう思い歓喜に浸っていると一夏は私とは逆の方向、あの得体のしれない男のもとへ行ったのだ。何故!?何故、私では無くあの男に話しかけるのだ!……いや、落ち着け私。別にどうということは無い。一夏は優しいから同じ男のもとに行ったのだろう。それに、未だ私の有利は変わらない。周りの女子達はなんだか
「いいわ…腐を感じるわ…ジュル…」
とか何とか言っているが、問題は無い。私は努めて冷静に話かけた。
「済まない、一夏を借りても良いだろうか?」
「一夏君が良いなら良いよ。本人の意思は大事だからね」
「おっ、いいぜ!」
一夏は変わらない笑顔で私に応えてくれた。だが教室では流石に気まずいので屋上に行くことにした。
「久しぶりだな箒。元気にしてたか?」
「あぁ。一夏こそ、元気そうで何よりだ」
他愛もない会話でも一夏とならとても楽しく感じる。話が盛り上がってしまって授業に遅れてしまったが私の気持ちを汲んでくれたのか千冬さんは私を叩くことはしないでくれた。
山田先生の授業はとても分かりやすかったが、一夏はそもそも参考書を捨ててしまい何も勉強していなかったらしい。流石にそれはどうかと思うが、致し方無い。言ってくれれば私が教えてやるのに…。
続く千冬さんの授業ではクラス代表を決める事になった。案の定、票は男性2人に集まった。だがどう見ても相応しいのは一夏だろう。あんな得体のしれない男に任せるなどありえん。そう思っていると、急にイギリスの国家代表候補生、セシリア・オルコットが異議を申し立て、あろうことか一夏を貶したのだ。先の休み時間も奴は一夏を馬鹿にしていたな。あの男はなんか適当にあしらっていた。流石にクラスの皆もオルコットの差別発言には凍っていた。すると一夏が言い返しはじめた。良いぞ一夏!……と思っていたら一夏はあの男を頼った。何故あの男を頼るのだ!するとあの男は腕を組んで言った。
「……君たちは自分が背負っているものの重さを、正しく理解しているか?」
「?」
「何言ってるんですの?」
一夏もオルコットも何を言ってるのか分からないと言った様子だ。あの男は腕を組んで座ったまま話を続けた。
「セシリア・オルコット。君はイギリス国家代表候補生だ。一夏君。君は、世界で1人目の男性操縦者で日本人だ。それぞれの発言は国家の意志もしくは男性の総意として受け取られかねない。君たちの発言1つが国家間の問題になりかねないんだ。それを考えて君たちは発言したか?」
あの男は2人の今回の悪い点を示した。流石にそれが理解出来ないわけではない2人は、黙るしか無かった。するとあの男は胸ポケットから細長い何かを取り出した。なんだ?あれは…ボイスレコーダー!?何故あんなものを!そう思っているとあの男はグーを作りおもむろに手を上げ一息に振り下ろした。バキッという鈍い音とともにそれは既にバラバラになっていた。おそらくあれは復元出来ないだろう。再びあの男は口を開いた。
「まぁ若いうちに出来ることはしておいた方が良いから、よく考えてからふざけなさい。人生のうち学生でいられる時間は短いからね。・・・という訳で、織斑先生」
今度は千冬さんの方を向き、
「なんだ」
「クラス代表を決めるのはISを用いて、勝った者が決めればよいかと」
と提案した。千冬さんもそうしようと考えていたのか
「なるほどな。それで良いだろう」
秒もかからずに決定となった。ここであの男は信じられない発言をした。
「そうですか。では、私は今ここで棄権しますので」
目を閉じそう言った。流石に千冬さんも見逃す訳にはいかないのか
「貴様、話を聞いていなかったのか?貴様は他薦されているのだ。否が応でも出なければならんぞ」
呆れながら返答したが、言い訳は既に考えてあったのだろう。冷静に返した。
「そもそも、高校のクラス代表に何故私のような大人がならなければいけないのです。それに、私の実力は織斑先生も知ってらっしゃるでしょう?話になりませんよ」
なるほど確かに。あの細い体では大した強さは発揮できないだろうし、一夏より強いはずも無いだろう。そして1人減れば更に一夏がクラス代表になり易くなる。良い事ばかりだ。千冬さんは逡巡するも、まさに道理であった為か崩せないと悟ったのだろう。
「・・・分かった。不服だが仕方あるまい。斑鳩の棄権を認める。よって勝負するのは2人だけだ。勝負は1週間後、アリーナにて行う。今日のところはこれで解散!」
不服そうにそう言い、こうして初日の授業は終わりを告げた。私は一夏を剣道場に誘った。この数年でどれだけ成長しているか見たかったからだ。そうしてワクワクしながら臨んだ結果
「どういう事だ!何故変わっていない!それどころか腕が落ちているではないか!」
変わっていないどころか腕が落ちているという衝撃の事実が発覚した。一夏はISの操縦を教えてくれなどと言っていたがそれどころでは無い!
「今日から1週間、ひたすら剣道だ!」
そう言って私は一夏を鍛える為に何度も何度もひたすら練習した。練習後に風呂から出た所を一夏に目撃され、焦る事もあった。ここでもまたあの男に阻まれた。あの男を見ると一夏が安心するのは何故だ!
そこからまた数日経ち、クラス代表決定戦の日。私と一夏はアリーナの管制室に千冬さん、山田先生と共にいた。待てど待てど一夏の機体は届かず、時間稼ぎも辛くなってきたところであと50分程度だと連絡があったらしい。だがここまで既に1時間以上待っているのに、ここからまた50分待つのは辛い。ここで何を思ったか千冬さんはあの男を呼び出すように山田先生に頼んだのだ。
「織斑先生?」
「ここで奴とオルコットをエキシビションマッチとしてぶつける。良い時間稼ぎにもなる筈だし、オルコット側もデータを採れる。win-winというやつだ」
アナウンスしてから直ぐに現れた。
「で、何故私が呼ばれたのですか?」
少し不機嫌そうなオーラを出して居た。部屋は少し不穏な雰囲気に包まれ千冬さんと私、あの男は少し不機嫌になっており、山田先生と一夏はそれを見ておろおろしていた。このままでは話が進まないと思ったのだろうか、あの男が話を進めた。
「そもそもこの試合は一夏君とオルコットの試合でしょう。私は拒否しましたよね」
答えたのは千冬さんだった。
「あぁ。だがまだ織斑のISが届いていないんだ。届くまであと何分あるかも分からない。なので、お前に出てもらいたい」
すると斑鳩が遂に表情を崩し
「チッ、あのクソ倉持が。納期すら守れんのか。たかが男性操縦者用ISごときの為に人を蹴り落とすようなやつらを、何故待たねばならんのです」
と言った。……正直言って、不快だった。私は奴を睨みつけた。それに気づいたのか奴もこちらを向いた。
「何だ、篠ノ之。言いたいことがあるならさっさと言ってくれないか」
“言いたいことがあるならさっさと言ってくれないか”だと?
「なら言わせてもらおう。たかが男性操縦者のISとはどういうことだ!一夏が乗るISだぞ!大事に決まっているだろう!」
お前のような奴ならともかく、一夏が乗る機体だ!生半可なものではいけないだろう!
だが奴は心底冷静にこう言った。
「そうか。それを被害者の前でも言えるのか?」
「?どういうことだ」
コイツ、何を言っているんだ?
「この学年に、一夏君用のISを作るために、専用機を作る筈の計画が取り潰された者がいる!貴様は、それを知った上で、同じ事をいえるのか、あぁ!?」
いつもの奴と違いすぎる態度と雰囲気に私は気圧された。何も喋ることが出来ず、無意識に一歩下がっていた。奴は私を数秒睨むと視線を千冬さんに戻し
「で?織斑先生。俺は何をすれば良いんでしたっけ?」
と聞いた。既に先程の雰囲気は消え去っていたが、私はまだ動けなかった。
「織斑のISが届くまでオルコットと試合をしてもらいたい。出来れば次の試合に影響がでない範疇で頼みたい」
「クソつまらない試合になりますがよろしいですね?」
「構わん。とりあえず時間を稼いでくれ」
今度は斑鳩が条件をだし、了承を取れたことにより承諾したようだ。
「分かりました。着替えてきます」
と言って奴は去っていった。奴の姿が完全に見えなくなってから、ようやく私は動くことが出来た。
……はっきり言おう。あの時、私は恐怖、それも“本能”と呼ばれるものを味わった。奴がISスーツだろう何かに着替えて戻ってきて千冬さんと喋っていた時も、私は怯えていたと思う。
「斑鳩、あと40分ほどで着くそうだ。だがその後の設定で少なくとも10分かかる。それまで保たせてくれ」
「分かりました。……いいか一夏君。君のISで、夢を断たれそうになった者がいる。君が纏うISはその人の恨みも詰まっている。だからこそ君はそれを纏わなければならない。君が望んだ事では無いだろうが、ここに来てしまったからには通用しない。だがその恨みが詰まったISは必ず君の力になる。それを知った上で、ISに乗って欲しい」
一夏に向けて言ったのだろう。私は奴を見る事は出来なかったが、言われた一夏の目には光が灯っていた。
「では。『ラプター』」
そう言うと奴は己の機体を展開、カタパルトに接続し山田先生の合図と同時に射出された。観客席のざわめきがこちらにまで伝わってくる。
「織斑一夏君のISの到着が遅れているため、エキシビションマッチとして、オルコットさんと斑鳩さんの試合を行います。この試合は通常通りのルールで行いますが、制限時間を50分とします。制限時間内に相手のシールドエネルギーを0にするか、50分たった時点でのシールドエネルギーの残量によって勝敗を決めます」
ようやく奴が居なくなった事に安堵すると、今度は奴の試合の不甲斐なさに怒りを覚えた。私はこんな、攻撃も出来ないような不甲斐ない男に、怯えていたのかと。
だが奴の試合を見ていくうちにみるみる形勢は奴に傾いていった。私にも直ぐに分かった。
結局奴は何をする事も無く一夏の専用機が届くまでの時間を稼ぐという目的を達成した。奴が戻ってくる前に倉持技研のスタッフがやって来て搬入作業を始めた。千冬さんも憤慨していたが、倉持技研の人はそんなのには対応しない、とばかりにのらりくらりと対応し、千冬さんが根負けしていた。倉持技研のスタッフ達が出ていくと同時に奴は戻ってきて、あの時の私を見つめた時の様に、静かな怒りを込めた目で一瞥し部屋に入ってきた。
「ようやく届きましたか。全く納期すら守れんゴミ共め」
相変わらずの口だが千冬さんももう慣れたのか
「だが彼らがここまでしたのは分からんでもない。ただでさえ男性操縦者用の機体と言う事に加えて束が作った物だからな。解析しようとしたんだろう」
と言った。あの人が一夏の機体を!?と驚いたが、すると、奴も
「……なるほど」
と一見ただの頷きに聞こえるが、興味を隠しきれない声で返答した。確かにISにおいてあの人が手を加えた、というのはそれだけで魅力的だろう。
「では、そろそろ戻って良いですか?人を待たせてるので」
だがその場で追求する事はせず千冬さんに許可を取ってから一夏に頑張れよ、と言って千冬に一礼してから出ていった。
その後も一夏への指導の事で一悶着あったが、最も語るべきはあの時の事だろう。
一夏がセカンド幼なじみと称する中国人、凰鈴音。彼女が奴に向けて放った言葉は本当に爽快だった。
事は食堂で起こった。私は彼女と一夏と昼食を共にすべく食堂へ入り、食事を受け取ったが座る場所が無かった。そんな時、一夏は目ざとく見つけたのだ。……ちょうど3人分の席が空いていたテーブル。奴が座っていたテーブルを。彼女が居るだけならまだしも何故奴と一緒に昼食を取らなければならないのか。だが一夏と昼食を取れないのは辛い。結局私も席に座ることにした。席順は時計回りに一夏、私、奴、凰となった。座るやいなや凰は斑鳩をじろじろと見て、次にこう言ったのだ。
「……モヤシね」
空気が凍った。周りの生従達は動きを止めた。私は少し、いやかなり感心した。彼女とは気が合うようだ。私が思っていたそのままを言ってくれた。良いぞ。もっと言ってやれ。
奴は視線を凰に向けはしたが何もしなかった。
彼女も周りの空気は理解したのだろうが嬉しい事に彼女は止まらなかった。次々と言葉を発していく。
「如何にも縦にしか伸びなかった、って感じ。顔はそこそこだけど冴えてる訳じゃないし、その貼り付いた笑み、なんか胡散臭いわ。それに、アンタのISって
一夏を含めた周りの者達は、奴を煽るような発言もそうだが、奴が何もしない事に最も恐怖を抱いていた。これから何が起こるのかと。そもそも、何もしないのは何も出来ないほど怒っているからではないのかと、そう思っているようだった。私だけはもっと言ってやれと、お茶を飲んだ。
そうしていると、一夏がついに動いた。
「お、おい鈴!流石に今のは良くないぞ。崇継さんに謝れよ」
「な、なんでよ。私は思ったことを言っただけよ。それに、これに反応しないって事はそれこそ本当のことなんじゃないの〜?」
「ッ、りn」
「なるほどね」
「「!」」
ついに奴が口を開いた。何を言い出すのかと戦々恐々だ。
「確かに。全くその通りだよ、凰鈴音。君が最初だ、そこまで気づいたのは。その洞察力は尊敬に値する」
凰は何でも無いように礼儀としてだけ返答した。
「そ、ありがと。で?アンタが一夏に近づいたのは、アンタもデータ取りかしら?」
凰は視線をキツくして奴に質問した。その目は暗に言っていた。一夏の敵になるなら容赦しないと。もし敵になったとしても奴程度では一夏に勝てないだろうと私は確信しているが、奴は答えた。
「くれるのかい?なら喜んで貰うよ。でも、君は要らないのか?」
「…ッ」
歯を食いしばる凰を尻目に、奴は一夏の方を向いた。
「一夏君。これからこの学校には君のデータを取ろうとしてくる輩が、彼女を含めて、大勢来る。これは、確実だ」
「え…?でも、鈴は」
「恐らく彼女がここに来たのは君のその、さっき言っていた言葉を借りればセカンド幼なじみ、だったかな。彼女が君の知り合いだからさ。何も知らない人同士が1から関係を築くより、ある程度の関係がある人を送り込んだ方がやりやすいということだ」
ここで再度奴は凰に視線を向け、それにつられて一夏も凰を見た。
「彼女がこうやって何も言葉を発しないのも、一応はそれが事実だからさ。でもね一夏くん。ここで大事なのは、それが一・応・であるということ」
「一応…?」
言葉の意味が分からず私も一夏も困惑する。
「あぁ。彼女がここに来る為の条件はさっき言った通り君のデータを取ることだったろうが、彼女は彼女の意志でここに来た。これから来るであろう者たちも、ここには大半の人が自らの意志で来たのだろう。だからこそ、その意志は尊重してやってほしい」
「分かりました……鈴」
「…なに」
先程の話で一夏に嫌われたと思ったのだろうか、凰は先程までの元気が嘘のように落ち込んでいた。一夏はそんなことは気にしないとばかりに笑顔で鈴に向いた。
「そんなに落ち込むなよ。俺はそんな事で怒ったりしねぇって。それに、鈴は俺に会いに来てくれたんだろ?嬉しいぜ」
「…本当?」
「あぁ、だから元気だせって」
「うん!」
凰が笑顔になったのを見届けて奴は席を立った。
「それじゃ、私は教室に戻るよ。ちなみに、あと5分で次の授業が始まる。急ぎなさい」
食堂はえぇ〜ッ!という悲鳴に包まれたが、私は問題無く食べ終わった事は書いておこう。
おそらくこれが年内最後の投稿になると思います。今年から始めましたが、皆様読んでいただきありがとうございました。来年もまたよろしくおねがいします。
前回のあらすじいる?
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いる
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いらない