マブラヴ大好き青年が行くIS世界   作:王選騎士団

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25話

Side 崇継

「まず一旦俺の話を聞いてくれ。いいか?」

 

取り敢えず俺は今の状況を確認する事から始めることにした。何時までも簪に睨まれたままというのは何だか心臓に悪い。いや、別段悪い事はしていないはずではあるのだが。

 

「ここは、学校の保健室であってる?」

 

多分間違いへ無いはずだが念の為。

 

「はい。ここはIS学園の保健室です。崇継さんが倒れてから運び込まれたんです」

 

そうかそうか。良かった、ここが知らない所だと困るからなぁ。

 

「……」

 

すると簪がこちらに恨めしい目を向けてきた。何だってんだ?

 

「崇継さん」

 

今度は真剣な目になる。こちらも真剣に聞く準備をする。

 

「……心配、しました」

 

    

 

「崇継さんがISの事を私よりも知っていて、私よりも強いと知っていても、心配しました」

 

それは……済まない。だが俺にも

 

「崇継さんにも守りたい物があったんでしょう。でも貴方を心配する人が居るって事をちゃんと理解しておいてください」

 

……あぁ、済まない。そして、ありがとう。

 

「いえ。それじゃあ私は」

 

「ちょっと待ってくれ。……君も、私を心配して来てくれたのかな?」

 

「……え?」

 

簪は誰も居ない筈なのにここに居ない誰かに話しかける崇継を不審に思うが彼がそうそう無駄な事をするとは思ってもいないので何かが起こるまで待つ事にした。

数分経った頃だろうか。扉をノックしてから失礼するわ、という声と共に影が入ってくる。簪は誰が入ってきたか見当がついたのか見舞いの荷物をさっさと纏めて出ていこうとしている。

 

「まぁ、落ち着けよ簪。あっちも一応見舞いに来てくれたんだ。嫌悪感をぶつけたまま帰るというのも礼儀に反するだろ。取り敢えず座れよ」

 

「……」

 

簪は渋々ながら彼の言葉に従い再び椅子に腰を下ろす。

 

「…良いかしら?」

 

「構わない」

 

彼がそう言うと部屋を仕切っていたカーテンを引きこちら側に入ってくる。後ろ手にカーテンを閉じこちらを見た彼女はほんの少し目を見開いたが、直ぐに元通りになった。そして簪を見たが、こちらも特に何をするでも無く再び崇継に目を向ける。

 

「悪いね、お茶の1つも出せなくて。こんな状態だから大目に見てくれ」

 

「流石に私も、怪我人にもてなせとは言わないわ」

 

 

Side 3人称

 

崇継と更識は視線を合わせる。特に接点の無い2人に話題などあるはずも無い。学校の被害とかなどは話すことが出来るが物的な被害のみで人的被害は目の前でベッドに横たわって更識を見ている彼のおかげでゼロだ。その代償として彼はここにいる訳だが。それはそれとして更識は口火を切る事にする。

 

「取り敢えず、お礼を言っておくわ」

 

「……私は礼を言われるような事はしていないのだがね」

 

彼は心当たりが無いといった風である。もしかしたら、今回の件は彼からしたら大した事では無いのかもしれない。それでも更識からしたら十分な事をしている。だから彼女は礼を言ったのだ。

 

「生徒の避難誘導への協力、という名目よ。これに関しては、実際にしたでしょう?」

 

「織斑先生に半強制的にやらされた事だから別に良いんだがね。礼を受け取らないのも良くない。素直に受け取っておこう」

 

ここで崇継は言葉を切り、静かに彼女を見据えた。

 

「……一応聞いておくが、君はどういう立場で来て、どういう立場から私に礼を言っているのかな。ほら、生徒会からの礼なら論功行賞とか無いかな、と思ってね」

 

更識は面食らった。初対面から殺気をとばした相手にお礼をしに来たのだ。緊張していた。そして真面目な雰囲気になったと思ったら聞かれたのは“どういう立場でお礼しに来たの?じゃあ何かくれんの?(意訳)”である。ある意味緊張が解れた。

 

「残念ながら生徒会としてでは無く生徒会長としてよ。貴方は先生からの指示とは言えあの場で迅速に正しい行動をした。同じ専用機持ちとして……」

 

だが彼女はここで1つ致命的なミスを犯した。いや、普通の人では大した事は無いものだったが、彼女はもう1人この場にいる人物の事を失念していた。

 

「ふざけないで!」

 

彼女、更識楯無は妹である更識簪の地雷を見事に踏み抜いた。

 

「………」

 

「か、簪ちゃん?!」

 

崇継はチラと簪を見るも直ぐに視線を外し静観のスタンスを取ることにした。一方の当事者である更識は何故簪が怒っているのか理解出来ず、なおかつ急に怒鳴ってきた事にひどく動揺している。

 

「貴方と崇継さんが同じ!?」

 

簪は立ち上がる。

 

「生徒会長なんて大層な座について、専用機も持っているのに何も出来ず全てが終わった後に来た貴方と」

 

語気は強く、有無を言わせぬ気迫を纏い

 

「あの場で死にかけてまで他人を守った崇継さんが!?」

 

一歩一歩ゆっくりと更識に近づきながら

 

「ふざけないでよ!使えない力になんの意味があるの?間に合わない専用機に存在意義なんてあるの!?」

 

問を投げかけた。

更識は今まで自分が知っていた簪とのギャップに戸惑い質問が理解出来ていないのか何も言えない。そんな様子に業を煮やし簪は最後に一発大きいのをぶつけた。

 

「ねぇ!答えてよ!」

 

流石にこれ以上病室で騒がれるのは面倒だ。崇継は静止をかける。2人とも崇継を見てから何も言わなくなった。だが簪は一度床を見てから覚悟を決めた。

 

「更識楯無生徒会長。私は貴方に勝負を申し込む」

 

「!?」

 

「生徒会長の座をかけて私と勝負して。貴方みたいな人間に、生徒会長の座は相応しく無い」

 

今度こそ更識は動揺し今まで手に持っていた扇子を落とした。簪はそれを見ることも無く纏めていた荷物を持って出ていった。崇継は相変わらず感情を感じさせない顔だ。更識は簪が出ていった瞬間に崩れ落ち床を見つめている。

 

「……なんで……」

 

「“なんで”だって?はは、面白い事を言うね」

 

更識の誰に向けたものでも無い呟きに崇継は反応した。この状況なら普通慰めの言葉をかけるべき立場なのであろうが、そんな事はしない。

   ここで1つ、崇継の話をしよう。彼は今、ある程度自分の好きなように動いているが、原作をぶち壊そうとも一夏からヒロインを奪おうなどとも考えてはいない。ただ1人の大人として、彼らが1人の人として真っ当に生きていけるようにしたいだけなのだ。その為には彼らに厳しく当たる事も必要だ。崇継はそうやってこの物語の担い手達(登場人物達)の楽観視した所を変えていきたいと思っている。それが彼の願いを叶える事にも繋がるからだ。

だが勿論、相手が崇継の意図を完璧に理解出来ない事もある。今回がその典型的な例だ。……意図を明確に伝える意志が無いとは言え、言葉が足らないと言われてしまえばそれまでなのだが。

 

「彼女をあんなふうにしたのは君だというのに」

 

「何ですって……!」

 

「自分の姉が日に日に疲れ、やつれていくのを見て心配して声をかけた彼女に対する返答は『簪。貴方は何もしなくていいの。無能なままでいなさいな』だったかな」

 

更識は床に既に崇継に向けていた視線に動揺を滲ませる。何故、という感情が隠しきれていない。

 

「言っただろう?簪を泣かせた、と。彼女から聞いたんだよ。一方の言い分だけで判断するのはどうかとも思うが……はっきり言おう。巫山戯ているのか?彼女の専用機持ちに対するコンプレックスは彼女が個人で拗らせたものだとしても、今の言葉を返されその後何も言うこともなくひたすらストーキングされる。君が好かれる要素など何処にある?まだ目を合わせて決闘の申込みをしてくれる事に感謝しても良いぐらいなんじゃないか?」

 

「それ、は……」

 

更識は何も言い返せない。

 

「まぁともかく、妹と観衆の前で醜態を晒さないようにする事だ。今日は部屋に帰れ」

 

流石に弱っているとは言えここから寮まで大した距離では無い。帰るよう促すと、弱々しい歩みで部屋を出ていった。

 

「……はぁ、ようやくゆっくり出来る」

 

そう言い彼は瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

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