翌日の検査で特に後遺症も無い事が証明され、斑鳩は病室を後にした。その足で職員室に赴くと丁度昼休みだったので織斑先生、山田先生どちらも居た。
「ふむ、検査結果も良好。後遺症も無し。……わかった。午後から授業に出れるという事だな?」
斑鳩は頷いた。
「そうか。あいつ等も心配していたぞ。顔色が悪かった」
「そうですか。……織斑先生は心配してくれなかったんですか?」
と言うとジト目で返してくる。
「ふん、専用機では無いとは言え私に勝ったんだ。そう簡単には死なないだろう」
腕を組んで自慢気に言う織斑先生だったが、ここで思わぬ攻撃がヒットする。
「でも織斑先生、昨日は顔面蒼白で食べ物も喉を通らなかったんですよ?」
山田先生がニコニコしながら何でもない事の様に言うと、織斑先生は顔を赤くしながら睨んで、おもむろに机にあった紙の束を隣の机に置いた。
「ふむ、山田先生は私と違い元気なようだ。これもやってくれるな?」
「……え、えっとぉ……」
「や・っ・て・く・れ・る・な?」
「……はい」
織斑先生の気迫に勝てず頷いてしまった山田先生はガックシと項垂れそのまま机にへたり込んだ。
斑鳩はチラと見て織斑先生にたずねた。
「織斑先生、昨日襲撃してきた機体の解析等は?」
「もちろんしている。だが分かったのは未登録コアを使っているという事だけだ。……あぁ、お前が事件の関係者だから教えてやったが誰にも言うなよ」
勿論です。それでは失礼、と返し斑鳩は職員室を出た。さてどうしようかと考えながら歩いていると布仏と斑鳩は知っているが知っているはずの無い人間がいた。赤い髪と眼鏡が鋭利な印象を与える、制服から考えると3年生、斑鳩の先輩にして最上級生の生徒。だが今最も重要な事は彼女、布仏虚が
「あっ、つぐつぐだ〜!」
さも偶然のように言っているが確実に待ち伏せしている。だが勿論彼女達が暗部の関係者とは言え学友であるし斑鳩が目指す未来を担う人材だ。害す訳には行かない。
「やぁ、本音。奇遇だ。どうかしたのかな?……おっと、これは失礼。はじめまして、一年の斑鳩崇継です。貴方は?」
さもこちらも偶然であるかのように振る舞い自然と会話を引き出す事にする。
「はじめまして。私は布仏虚と言います。本音の姉で、生徒会の副会長をしています」
当たり障りのない会話だ。
「つぐつぐ、時間ある〜?お姉ちゃんが聞きたい事あるんだって〜」
誘ってきた。聞きたい事がある、と言われて、なおかつこの状況と立場だ。普通なら確実に何かあると勘ぐってもおかしくない状況のはずなのにここまで不自然さを消してカフェに誘うかのように言える。これはある一種特技であるだろう。無論、断る必要も理由も無い。何なら丁度聞きたい事があったぐらいだ。
「構わない。何処で話そうか。……あぁ、食堂は勘弁して欲しい。もう昼食は摂ってしまってね」
「ではこちらへ」
そう言った彼女についていけばカウンセラールームのような部屋に着いた。彼女達が誘導したという事は恐らく防諜もしっかりしているだろう。気兼ねなく話せそうだ。
部屋の中には中ぐらいのテーブルとそれの左右にそれぞれ2つずつソファが設置してある。斑鳩は先に腰を下ろし、続いて正面側に腰を下ろした2人を見る。
「さて、聞きたい事とは何でしょうか。怪我の具合ならここで話す必要は無いかと思いますが?」
「……まずは、生徒会副会長として感謝を。あの場に貴方が居なければ、もっと被害が大きくなっていたでしょう」
彼女は頭を下げそう言った。
「頭を上げてください。別に私は大したことはしていません。生徒会長にも言いましたが、織斑先生にやれと言われた事をやっただけです。宿題をちゃんとやるだけで褒められはしないでしょう?それと同じですよ。感謝はいりません」
「そう、ですか。では、次に」
空気が変わった。彼女の目が真剣になっている。
「お嬢様に簪さんを差し向けたのは貴方ですか?」
断言する様に言ったが斑鳩としては何のことだ?である。お嬢様が更識姉である事は分かるが、彼女に簪を差し向けた記憶など無いし、何ならその言い方は簪が私の手駒みたいじゃないか。取り敢えずいろいろ言いたい事を飲み込みまず状況確認から始める。
「まってくれ、よく分からない。まずお嬢様って言うのは誰の事かな」
「更識楯無生徒会長の事です。私達布仏の家は代々更識家に仕えているのです」
「うん、なるほど。で、差し向けたっていうのはどういう事かな。第一その言い方だと簪が私の手駒みたいになってしまっている。彼女は私の友人だぞ。人の友人を手駒みたいに言うのは辞めてくれないかな」
「……申し訳ありません。……昨日、楯無お嬢様が貴方の病室から戻って来た際、お嬢様の顔色がとても悪かったのです。話を聞いたところ簪お嬢様に勝負を挑まれた、と。ですがそこに至るまでの事は話していただけませんでした。正直に申し上げますとお二人の仲は数年前よりとても良いとは言えないものでした」
「あぁ、簪から聞いた」
「しかし最近になって簪お嬢様は笑顔を見せられることが多くなりましたし本音との付き合いも戻ってきました。貴方と同部屋になってから、です。なので貴方が関係しているのではないか、と」
虚はそこで再び崇継の目をはっきりと見た。崇継は今回はちゃんと意思を持ってその目を見る。
「なるほど。……そこまで知ってるなら話が早い。簪が生徒会長の座を賭けて勝負を申し込んだのは知ってるな?」
いきなり語調が変わり驚きはしたものの虚は頷いた。
「それを話す前にだが更識……めんどくせぇな。更識姉で行こう。ともかく更識姉がストーカー行為に及んでいたのは知ってるか?」
「……」
虚は数分間考えに考えた結果、苦虫を噛み潰したような表情で首を縦に振った。
「ずっと誰かから見られている事に気づいて以降、少しは怯えていたよ。誰からの視線か分からないんだからな。それが喧嘩で疎遠になったとは言え実の姉だ。対話しようとしてもあちらが逃げていく。鬱陶しがるのも分かるだろ」
虚は苦悶の表情を浮かべ、逆に本音の顔からはどんどん笑顔が失われていっている。
「そして今回の襲撃だ。簪にとって、いや簪だけに限らないかも知れないが、専用機という物には名誉とそれに相応する義務があるものだ。ま、これは彼女が勝手にコンプレックス拗らせただけかも知れないがともかく。言葉にはしていなかったが、“一年の専用機持ち達が頑張り、一人は死にかけた事態なのに学園最強の専用機持ちは一体何をしていたのか”って事だ。力なき正義が無力であるのと同様に、間に合わない専用機に意味があるのかと簪は問うた。が、更識姉は答えられなかった。そこで啖呵を切って行ったって訳だ。……他に聞きたい事は?」
話し終えた時には本音は真顔になっていたし虚は頭を抱えていた。自分が仕える人物がストーカーして自分から地雷踏みに行ったのを見てこうならない人の方が少ない、と言うかいないだろう。
頭をおさえながら虚は話を纏める。
「つまり、楯無お嬢様が簪お嬢様をストーキング。楯無お嬢様はそれで簪お嬢様の顰蹙を買い、挙句地雷を踏んで勝負を挑まれ消沈している所を私が発見。私が勘違いして貴方をここに呼んだ……という事ですね?」
少々大げさな部分があふ気もするが大枠は間違って無いので肯定を返す。すると虚はおもむろに立ち上がり素晴らしく綺麗な姿勢で腰を曲げ頭を下げた。
「本当に申し訳ありませんでした。まさかこんなにもお嬢様がやらかしているとは思っておらず、弁解も出来ません」
「別に謝らなくていい。主を気に掛けるという、従者としては在るべき姿だ。今回は、主がどうしようもないやらかしをしただけだ。気にするな……と言いたいが」
一度言葉を切る。
「何故止めなかった?ストーカー行為をしていると知らなかったのか?」
「……」
何も答えられない。止めていなかったのは事実だったからだ。
「どうせあの人だから、と理由をつけて今まで放置していたんだろう?そういう事をしていると今回のような事が起きる。間違っている事をしているのなら間違っていると言うべきだ」
「……はい」
頭を下げたまま彼女は声を絞り出して答えた。
「なら良い。……あと5分で授業が始まる。遅れるなよ」
そう言って崇継は教室を後にした
前回のあらすじいる?
-
いる
-
いらない