管制室を出た崇継はダリル達の元では無く、一夏達の所へ歩いていった。彼らの元に着く頃には既に2人は戦いを始めていた。
一夏達は真剣にその戦いを観戦していた。
3人に声をかけ座る。
簪と楯無、2人の戦いは意外にも拮抗していた。
かたや国家代表候補生。
かたや現国家代表。それも人口の規模が大きく、競争が激しい国ながら、本国の人間を押し退けてみせた上での。
専用機というアドバンテージを消してみせたとは言え、国家代表とその候補生の実力には大きな隔たりがある。それだけ国家代表と言うのは力が求められる。
普通の人が見たなら、直ぐに国家代表の方が勝つと決めつけるだろう。そしてそれは正しい。
それを分かっている簪は専用機の有無という差を消して尚余りある差を埋めるべく数多くの事をしてきた。それは情報収集であり、精密な機体設定であり、整備である。
国家代表として公の場に立っている楯無はそこで手の内を晒すことを、国家代表であるが故に避けられない。簪は彼女のあらゆるデータを集めた。
その成果故か、試合は平行線をたどっていた。
だが簪の機体、打鉄弐式は実弾を主な装備とする機体だ。ただ闇雲に撃っていてはジリ貧になってしまう。
その対策として薙刀も装備しているようだが近接戦になったとしても、打合いには向かない。これは楯無の機体の槍、“蒼流旋”の形状が原因だ。大型かつ質量も大きい故に弐式の薙刀では振動で斬る*1前に物理的に破壊される可能性が高いからだ。
その為簪の勝ち筋は2つだけ。
1つは、わずかながらでも良いからシールドエネルギーに差をつけて時間切れを狙うこと。
1つは純粋に相手のシールドエネルギーを0にすること。
だが前者はほぼ不可能だ。楯無に耐久で勝てる相手はこのIS学園、ひいては世界にもそう多くはいないだろう。何より、その勝ち方では簪も楯無も満足しない。
その為実質的に後者のみが選択肢となり、2人はそれを選ぶ。
今、2人はこれまでのわだかまりを乗り越えるため、そして目の前のISのエネルギーを0にするために戦っている。簪も楯無も、自分の全てをつぎ込んでいる。
だからこそ。
「………勝てない、と断じるのは無粋だろうな」
「崇継さん?」
「いやなんでもない。一夏こそよく見ていろ。あれが、君が目指すべきものだ」
「は、はい」
結局、勝負は楯無が勝利した。
途中まではある程度拮抗していたが、それは楯無にとって未知の機体の情報を集める為の時間だったらしい。楯無は終始、ミサイルを徹底的に注意していた。ミサイルが自らに届く前にナノマシンで誘爆させたり、ミサイルを打つと自分まで巻き添えをくらう位置に近づいてランスで打ち合ったり。楯無の方が試合慣れしていて、細かな所でも最良と言える選択をしていた。
崇継は一夏達が呼び止める間もなく出ていく。
(取り敢えず、2人の問題はこれで解決するはず。あとは……あの2人、か)
そう考えながら、崇継は少し早めの夕食をとりに食堂へ歩みを進める。
そして夕食をとり、自分の部屋に戻って扉を開ける。
「あら、おかえりなさ〜い!」
そして、居るはずのない人が出てきて、扉を閉めた。
部屋を間違えたのかと思って扉の横を見てみれば、自分の部屋の筈の番号がしっかりと彫られている。自分が歩んでいるここも、既に何回も歩いた。他学年用の宿舎に入ってしまったという事もない、筈だ。
「何故……?」
だから、そう独り言ちてしまうのも仕方ないのだ。脳内が混乱の渦に包まれるなか、今度はあちら側から扉が開けられた。
「もう、せっかく出迎えてあげたのに!人を見るなり扉を閉めるなんて、失礼よ?」
ウインクしながらそう言ったのは、先程まで妹と戦いを繰り広げていた生徒会長、更識楯無その人であった。夕食をとったからと言っても先程からあまり時間は経っていない筈だというのに制服に身を包み、身だしなみも完璧だ。
よく見れば、後ろ、部屋の奥に簪も居る。疲れた顔をしているのは先程の戦いが原因か、それとも。
「いや、いやいや。失礼も何も、君がここにいる方がおかしいだろう」
「?仲直りしたんだから、一緒に居てもおかしくないでしょ?」
「いや、そういう事では無くてな」
全身からウキウキ?オーラが出ているのが見えるのは気のせいでは無いだろう。
「取り敢えず、入って入って!」
彼女にせっつかれるまま部屋に入り(自分の部屋のはずだが)、椅子に座らされる。
簪も自分の椅子に座っていて、楯無は2人の前に立っている。
「で?なんで君がここにいるんだ?いい加減答えてくれ」
「ん〜?さっきも言ったでしょ?簪ちゃんと一緒に居たかったからよ。まぁ、あともう1つ。貴方にお礼を言いたかったの」
そう言うと楯無は深々と頭を下げた。綺麗な姿勢だ。
「私は、貴方のお陰で大事なものを失わずに済みました。本当に、ありがとうございました」
「私も。崇継さんのお陰で専用機も完成したし、お姉ちゃんと仲直り出来ました。本当にありがとうございます」
2人揃って崇継に頭を下げる。別に感謝されるようなことをしたつもりが無いので居心地悪くなってしまう。
「2人共頭を上げて。私の方が居心地悪くなる」
2人は頭を上げる。
「別に大した事はしていない。大人として、君達が楽しい学校生活を送れるようにしただけだ」
「「でも………」」
「気にしなくて良い。過ぎた感謝は居心地が悪くなる」
「……分かりました」
「簪ちゃん…」
「良いんだよ、お姉ちゃん。これでもう、終わり。ほら、頭上げて」
ようやく楯無も顔を上げた。崇継はふっと笑った。
「というわけで、お帰り願う」
「ちょっと!せっかく良い雰囲気だったのに!」
自然と笑みが溢れる。
(家族とは、こうあるべきだな)
「まぁ、帰るのは後でも良いが、2人とも明日にでもちゃんと謝っておけよ」
「「?」」
2人共まるで分からないといった感じだ。こうやって見えない努力を重ねている上で振り回されるなんて。涙が出てくる。
「布仏達にだ。全く、簪はともかくとして君はかなり迷惑をかけただろう。しかも一回や二回では収まらない回数をな。そうだろう?」
「ギクッ」
「それは…そうだね…。虚さんにもちゃんと謝らなきゃ」
「まぁ、良い。人として、通すべき筋は通せということだ」
その後、楯無と呼ぶよう強要されるなどといった事もあったが、1つ言えるのは。確実に姉妹は、再びあるべき形へ戻ったということだ。
前回のあらすじいる?
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