あれからもロイヤルで日々を過ごした。
その間およそ二週間程度だろう。
だがその二週間はユートにとって決して居心地がいいものではなかった。
理由としてはやはり、例の模擬戦闘だろう。
本来ならば人間が勝てる相手ではない。
それなのにユートは勝ってしまった。
そのせいで警戒度が上がってしまったというべきか。
別にこの国に手出しをするつもりはないというのに。
「理不尽…だよねぇ…」
「私から言わせてもらえばその強さが理不尽そのものなんですけど…。」
「別に皆みたいに艤装の展開とかできないからいうほど強くないよ?僕は、ね…。」
「いや、十分強いですって…。」
と言っても警戒しているのは上層部だけなようだ。
現にユートの案内人として共に行動している少女―――ジャベリンなどとはすでに打ち解けている。
じまぁ、恐らくは純粋な少女を利用しないかどうかの監視を兼ねているのだろうが。
「それにしてもあの先読み…みたいなのってどうやるんですか?」
「んー。呼吸、目線、筋肉の動き―――それと勘、かな?」
「最後の物だけ急にあやふやになってません?」
そうだからそうとしか言いようがないのだが。
上手く説明できる言葉を持ち合わせていない自分が悔やまれる。
「…ねえ、ジャベリン。君たちは基本的に人と同じなんだよね?」
「そうですね…。」
「…じゃあ、筋肉の作りとかも同じなわけだ。なら、まずは自分の動きを理想の動きから一致させるところから始めようか。」
「理想の動き…ですか?」
こくりと、ユートは頷いた。
「『体が思い通りに動く!』って感覚になったこと、あるでしょ?」
「はい。ありますね。…え?まさか…」
「そのまさか。まずは自分の体を知るところから始めないとね。そうじゃないと先読みなんて夢のまた夢さ。」
「…ユートさんって見た感じ相当若いですよね。どこでそんな経験を…?できれば私も…。」
どこで、その言葉を聞いた瞬間ユートの目から光が消えた。
そしてその目でジャベリンの目を射抜いてくる。
「そっかー…ジャベリンは極寒の氷海や灼熱の旧砂漠、水中で巨大なモンスターを倒したいと。」
「あ、やっぱ遠慮しときます。」
「まぁ人死にはよく出る危険な仕事だからね…。」
あははと笑い飛ばすユート。
その笑顔は何処か悲しそうに見えた。
それは失ったものが多いからか、自分を責めているようにも見えた。
「あんなに強いユートさんでも守れなかったものがたくさんあるんですね…。」
「うん。だからもう失いたくない。向こうに残した仲間も、こっちでできた仲間も。」
「…そういえば…ユートさんはヴィシアとアイリス…どっちに付くんですか?」
「んぇ…?付かないよ?―――だってもう、和解したからさ。僕がここに居るのは情報提供―――を、建前としたアイリスとヴィシアの新体制が整うまでの時間稼ぎ。」
どうやらこの男は色々と頭が回る男らしい。
少なくとも来て間もない世界で自分の価値がどれだけあるかを理解している。
「…それ、私に言っても大丈夫だったんですか?」
「大丈夫でしょ。それこそこっちには色々と渡していない情報あるし。知ってる?情報って持ってる方が有利なんだよ?それだけで商売が成り立つくらいには、ね。」
ユートの世界で最も権威のある組織と言えばハンターズギルドだろう。
世界中のハンターと契約し、狩りの依頼や所持金の管理などが行われ、更に密漁などを取り締まるのだから。
では、逆に最も権威のある仕事は何なのだろうか。
王?それともギルドマスター?
否。
ユートの世界では学者が最も権威のある仕事ではないだろうか。
これはあくまでユートの考えだが。
「さて、と。また情報を吐きに行ってきますか…。」
「その…がんばってください…?」
余りに悲壮感に満ち溢れたその背中にジャベリンは乾いた笑いを出す事しかできなかった。
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「…帰りたい。」
「それは無理な話ですね。」
「ですよね。」
「そもそもあんな危険な世界に送り届ける手段がないじゃないですか。」
「…おぅ…」
暫くこの世界で過ごして分かったことが一つある。
このロイヤルでの生活は絶望的なまでに自分とは合わないという事だ。
今まではよく命の危機にさらされてきた。
良くも悪くもそれが刺激となっていたのだろう。
アイリスなら戦闘狂の気があるが、相当な強さのガリソニエールとかが喜んで相手をしてくれるだろうに。
だが、このロイヤルには模擬戦をしてくれる相手も居ない。
はっきり言ってユートはロイヤルでの生活に飽きていた。
「アイリスに戻りたいなぁ…」
「それも無理な話ですね…。」
そして、いい加減にダンケルクのお菓子が恋しくなってくる。
あの程よい甘さのショートケーキはまた食べたいものだ。
が、アイリスへの帰還が遠のけばそれも叶わない。
というかアイリスへ戻るのが遅れれば遅れるほど大老長への報告も遅れてしまう。
早く対策をしなければならないというのに、この場で足止めなんて食らってはいられない。
いざとなったらジャベリンたちには悪いが力づくで脱走しようと考えて―――止めた。
「流石に戦争を引き起こしたくないからなぁ…。」
「…あなた一人でも勝ちそうですけどね。」
「…え?ベルファストは僕を何だと思ってるのさ?」
「そうですね…失礼を承知で申し上げれば"
「うわぁ辛辣ぅ。」
「事実ですから。」
そんな事を思っていれば情報の確認係であるメイドのベルファストが苦笑しながら自分の評価を述べてくれた。
「
「普通の人は筋肉の動きだけで予測など不可能ですから…。」
「…え?それでよく生き残れ―――そういえばここは世界が違うのか…。」
そんな評価を下したベルファストも目の前の男の規格外さには困惑するばかりだ。
恐らくはこの男にこの世界の常識なんてものは通用しないだろう。
それほどまでに目の前の男はこの世界から逸脱している存在だった。
「でもベルファストは割と経験積んでいるでしょ?」
「…それは…。ですが、それは何処で…?」
「まぁ仕事柄、色々と、ね?」
色々―――それは彼があちらの世界で行っていたという「仕事」の事だろうか。
彼は自分の事を赤裸々に語った。
本当かどうかはともかく少なくとも彼は何度も悪質な密猟を繰り返す者を人知れず葬っていたという。
ハンターというのは人と自然の調和を為す者だという。
そしてその調和を乱す者は世界の敵。
故にどのような事情があったにせよ、そう言った輩は消さねばならない。
「でも…どうして…?」
だが、別に密猟していても人類への脅威が減るのならばいいのではないか。
そんな疑問を持たずにはいられないベルファストだった。
しかし、その疑問はユートの次の言葉で消し飛ぶことになる・
「…あくまでモンスターも生物。自然の一部なんだ。だから彼らにも何かしらの役目があるのさ。」
「役目…ですか。」
「そ、例えば増えすぎたアプトノス―――草食種を捕食して数を減らしたりとか、ね。」
その言葉に何も返せない自分が居ることにベルファストは驚いていた。
この男の言葉はあたかも見てきたような―――いや、実際に知っているように聞こえる。
それに自然に増えた草食種が野山を食い荒らして土砂災害―――なんて事には覚えがある。
だからそれを適度に駆除する役目を持つモンスターの内の一体があの赤い飛竜――リオレウスなのだろう。
「だから僕たちは人間の敵となりそうなモンスターしか狩らないんだよ。」
「…だからこの世界に来たモンスターを容赦なく狩っていたのですね。」
「うん。この世界に『おいしい餌がある』なんて覚えられたら目も当てられないでしょ?」
それは暗に自分達が餌でしかないと言っているのと同義だ。
だが、何一つ反論できない。
事実として自分達ではあの飛竜には勝てないであろう。
確かに対空砲を直撃させれば何とかなりそうなものだが恐らくはその前に食われるのがオチだ。
客観的に考えれば考えるほど彼がどれだけ聡明なのかを知ることができた。
「…それにしても、暇だな…。」
「そうですか。ならこの世界の礼儀作法でも叩き込んであげましょうか。」
「メイド長直々にか。…厳しそうだし遠慮しとこうかな…。」
「そうですか。残念です。ですが一言だけ言わせていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
ベルファストはずいっと顔を寄せるとフルフェイス型の防具であるレウスXヘルムを取り外そうとしてきた。
「頭の防具は取った方がいいのでは?」
その後ロイヤルにはとんでもない美丈夫が居るとのうわさが立ったがそれはまた別の話である。
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「さあ、お次は"反逆者"よ?あなたはどんな可能性を見せてくれるのかしら?」
霧深くどこかおどろおどろしい雰囲気を感じさせる場所で声が響く。
「ねー、もうさぁくっつけちゃおうよ、この世界とさぁ…。」
「そんなことやったらこの世界は滅亡待ったなしよ。だから、まだ我慢よ。今はこっそりサンプリングしたクローンで様子見よ。」
邪悪はついに動き出す。
明確な意思と悪意を持って。
それが古の龍たちの怒りに触れる行為だとは露知らずに。
世界が完全に一つになるときは遠くはないのかもしれない。
登場人物紹介
・ユート
人外筆頭
・ジャベリン
無事に人外の道の一歩を踏み出した
・ベルファスト
人外な思考に呆れる
・セイレーン
なんかクローン仕込んでる
・古の龍
色々とヤバいことになる気がする
一ヶ月ぶりですね。
待 た せ た な !