それは、当然の反応だった。
いかなる兵器であっても目にのに圧倒的な存在に適うはずがない。
それだけが真実なのだから。
だから、別に、ジャベリンが艤装の砲塔を向けなかったのも。
ベルファストやウォースパイト達が戦力を民間人の避難に集中させたのも。
誰もそれの前に立ちはだかろうとしなかったのも。
全てが必然だった。
あの
その身に迸る閃光がそれを物語る。
だが、そんな化物を前にただ一人立ち向かうものが居た。
それが、
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それはベルファストに頭防具の事を指摘された日からそこまで日が経過していない平和な日の事だった。
突如多くの機械が故障し、使い物にならなくなった。
「電気…!?」
近くに雷でも落ちたか。
エリザベスはそう考えて窓から外の様子を見た。
――――が、快晴。
雲一つないいつもの青空が空に浮かんでいた。
ならば何かと見上げた瞬間に目に入ってきたのは―――黒い影。
それはかつて襲来したリオレウスによく似ていた。
が、その頭部には特徴的なトサカが存在しており、また、よく見れば金色と黒色の甲殻に覆われていた。
少なくとも「ソレ」はユートが言っていたリオレウスとはまた違う生物であることは確か。
そして、エリザベスは「ソレ」と目が合った瞬間息が詰まり、思考が覚束なくなった。
足も小刻みに震えだしている。少なくとも真面目に「ヤバい」というのは知覚できた。
が、既にエリザベスは腰を抜かしており、その場にへたり込むだけであった。
そして「ソレ」はエリザベスを獲物と見たか、一直線に突進してくるではないか。
「―――陛下ッ!」
間一髪、ベルファストの声でその場から飛び退くことに成功した。
が、それは簡単に母港の執務室の壁を粉砕し机を踏みつぶし、更にもう一つ大きな穴をあけて向こう側へと飛び出す。
「あれが…!あんなのがうじゃうじゃいるっていうの!?」
「…どうやらそのようですね…ッ!?」
「ソレ」は自身の突進が当たっていないと察知するや否や再びその目をエリザベス達に合わせた。
「マズイ」
頭の中に警鐘が鳴り響く。
今の「アレ」は確実に手に負えない、と。
「ベルファストはさっさとここの住人たちの避難を始めなさい!私が時間を稼ぐわ!」
「しかし、陛下―――!」
「私の方が小回りが利くでしょう!早く行きなさい!」
だからここは役割を分担する。
自分は体は小さいとはいえ、装甲は戦艦級だ。
艤装できっちりと守れば二、三発は貰っても大丈夫なはずである。
だから艤装を展開できれば、とエリザベスは考えた。
勿論それは希望的な観測でしかない。
そもそも海に行ったところで艤装を展開することができないかもしれない。
もしかしたら一撃貰っただけでいとも簡単に沈んでしまうかもしれない。
それでも自分はやらねばならないのだ。
「全くもって無茶な提案をしちゃったわね…。」
おそらく自分は本領を発揮できる海にたどり着くことなく目の前の生物に餌とされる。
希望的観測はあくまで希望的観測でしかないのだから。
「…ごめんなさいね、枢機卿さん。あなたの狩人さんも帰せそうに――――。」
「ソレ」は大きく嘶くと蛍光色の雷を纏う翼を大きく振りかぶってエリザベスに飛び掛かった。
ほんの一瞬が永遠にも等しく感じられて、自分はここで死ぬのだと。
そう感じた。
が、どうやら運命はまだエリザベスの味方だったようだ。
「まさか【
呆れたような声と共に思いっきり突き飛ばされた。こんなタイミングで自分を救いに来るものなんかそれこそ一人しか思い浮かばない。
「無事かい?―――女王サマ?」
「ええ。」
「それは重畳。君も早いとこ逃げた方がいいよ?」
そう、それは本来ならばいっしょに避難しているはずの存在。
例え誰だってあんな化物を相手にしたくはない。
だが。
今のロイヤルにおける目の前の化物に対する
それを認めたくないが「彼」以外ありえないのだ。
「…お願い。ロイヤルを守って。」
「―――分かった。そのクエスト、受けよう。」
前を見据えて一歩大きく踏み出したその男は―――刃の切っ先を化物へと突き付けた。
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「さて、と君は早くここから逃げたほうが良い。―――ずっと僕を付けてる人?」
「…それは出来ない相談ですね。がいちゅ…ユート様。」
ユートはそれとなく避難を促す。
その言葉に反応して現れた一人のメイド。
「シェフィールド…だっけ?…早いところここを離れた方がいいよ。」
「しかし…この騒ぎに応じてあなたが脱出しないとは限りません。」
「疑われているねぇ…。」
心外だとばかりに肩をすくめるユートにそのメイド―――シェフィールドは鋭い言葉を飛ばした。
「そもそもの話脱出するも何も僕はこの世界の人間じゃないんだ。地理も何も分からないのに何処へどう逃げると?」
「ここからアイリスまでの道のりなら知っているはずですが?」
「…はぁ。分かったよ。そんなに残りたいなら残ればいい。」
ユートは天上天下無双刀を抜刀し、鋭い目線を襲撃者に向けた。
「電竜―――ライゼクスか…。最後忠告だよ。早く逃げて…!」
襲撃者―――ライゼクスはユートを認識するや否や襲いかかってくる。
それは確かに強力な一撃だった。
少なくともシェフィールドやエリザベスがまともに喰らったらミンチ待ったなし位の威力はある。
が、ユートはそのすべてを最低限の動きで躱して見せたのだ。
そのまま母港を揺らし、執務室に着地するライゼクス。
「巻き込まれてけが負ってもそれは僕の所為じゃないから悪しからず!」
「陛下を背負っていては無理は出来ませんね…。分かりました。撤退しましょう。行きますよ、陛下。」
シェフィールドは残ろうとしたがそれでもクイーン・エリザベスの身の安全を優先した。
これでユートにとってのお荷物は消えたのだ。
そして、ユートとライゼクスは互いに向き合う。
互いの視線が交錯するのと、互いが前に向かって突進するのはほぼ同時だった。
これより始まるのは反逆者と狩人のぶつかり合い。
その様子を眺める者がいることに誰も気づかないまま一人と一匹は激突し始めた。
登場人物紹介
・ユート
無双開始ィィィィ!とはならない。
ちなみにレウスX一式であることを忘れているバカ。
・クイーン・エリザベス
流石に雷落ちれば電気製品が使えなくなることくらい知っているよねって話
・シェフィールド
履いてない人。ユートの事は未だに信用できない様子
・ライゼクス
被害者