前回からの続き……
水の聖霊王ウンディーネに加護を求めてやって来た、冒険者のカナタ。
彼は夢のお告げにより、世界に隠された秘宝を探し出して、この世界を救う為に旅をしていたのである。
そして、ウンディーネの妹であるエルクシュリッテの案内の下……
カナタはウンディーネに会う為に、大海の神殿へと向かうのであった。
《……チョット待って、このお話って主人公は私だよね?》
一応、そうですね……
《なのに何でこの回の説明に私の事ひとっつも無いのかなぁ?!》
知りませんよ、我輩は台本を読んでいるだけで……
《おかしくない?! 主人公私なのにおかしくない?!》
あ、ちょ……カメラ傾けないで下さい……あ"~そこ触らないでッ?!
《だっておかしいでしょ?! 私主人公なのにぃ~!!》
ハイハイ、もう始めますよ? 第6話~!
大海の神殿……この海洋都市ハルトラウムから海へと伸びる砂浜の道を進み、沖合い2キロ程に位置する離れ小島に建てられた巨大な建築物である。
イタリアのコロッセオとか、ギリシャのオリュンポス神殿とかに良く似た石造りで、外からも見える石柱群の直径はざっと2m弱……高さは何と20mに達する程デカかった。
「……ココが、大海の神殿……!」
《ほぇぇぇ……スッゴくおっきい~……》
それもその筈、今の私は普通のインコ程度……頭の先から尾羽の先まで1mもないのだから、相対的に見え方も人間とはまるで違う。
地面に立ったとして天井が20mも上なら、人間がビルを見上げるも同義なのだ。
「今は干潮だから、歩いてきたけど……いつもは船でないと来れないからね」
街中を通ってきた為、リッテも精霊から人間モードに戻っており、私はリッテの肩やカナタの腕を行き来しながら周囲を見回す。
「なるほど、この神殿の下が精霊界の入口になってるんだね……」
「そうよ……尤も、人間に精霊界へ通じる門は潜れないから、お姉さまを祭壇で呼び出す事になるんだけど」
神殿の中央にある祭壇……街の外れにあった祭壇と比べてもかなり大きく、造りも非常に手の込んだ彫刻や儀式紋様が無数に彫り込まれている。
それを特別な支柱で支えられたヴェールがカーテンの様に覆い隠し、場所も数段ほど高くなっている……政を行う際の邪魔にならない様に、ヴェールは柱に固定できる様な細工も施されており、正面だけ開かれ他は閉められているヴェールが潮風に少しだけ揺らいでいた。
「……コレが、神殿の祭壇……」
「あの場所に供物を捧げ、祈りが届けばお姉さまが出てきてくれるわ……多分」
《……多分?》
付け加えられた「多分」という単語に、私は後から反応したが良く考えてみれば、相手にも呼び出しに応じる時間が無ければ応対などできやしない……対人面会あるあるだ、そういうことなのだろう。
「よし、早速ウンディーネを呼び出そう」
聖霊王への謁見を行うには、供物……一般的には呼び出す相手が好む品を用意し、対象をイメージしながら祈りを捧げる事で相手に認識して貰い、気を引ければ現れてくれる。
現れてくれたらお礼を伝え供物を渡し、それを相手が気に入れば願いを叶えて貰える……と、そういう手順らしい。
「………………」
カナタは目を閉じ、ウンディーネさんに届くよう祈りを捧げている……今回、ウンディーネさんの為に用意した供物は、この地に湧く龍脈水を使って練られた餡が絶品だと言われる「ジョースィーアンのヂクシーモチ」。使われている材料のほとんどが龍脈水を使って栽培された物なので、名実共にこのハルトラウムの名産品だ。
《……来ないね、ウンディーネさん》
お祈り開始から軽く10分は経過したが、何の変化も現れない……
「う~ん、間が悪かったかなぁ……」
『そ、そんな事無いわよ?! 私も一緒にやる!』
そう言ってリッテも祈りを始める、同族の精霊からの思念は否応無く届くハズ……しかし更に10分経っても、反応は全くといって良いほど無かった。
《……来ないね、ウンディーネさん》(2回目)
『そんなぁ~』
「……やっぱり間が悪かったのかな?」
《それとも、別件で手が放せないとか……何かに掛かりっきりだとか?》
カナタ的には焦る必要も無いのだが、妹であるリッテからすれば『普段ならすぐにでも応じてるし、少なくとも相手を見てから願いを叶えるかは判断してたもの!』と、無視を決め込むのは普通じゃないと言う。
《じゃあやっぱり、手が放せない理由があるんだよきっと……》
『う~ん……』
「まぁ、良いさ……場所もやり方も間違ってはないし、日を改めて来よう。
リッテ……そんなにお姉さんが気になるなら、一度精霊界に帰る方が良いと思うんだけど?」
『え? あー……うん……』
リッテは自分が無断で人間界に来た事をカナタには話していないので、カナタの指摘にひきつった笑みで返事を返す。
(まったく……無断で来た事に罪悪感持ってるなら、素直に帰れば良いのに)
呆れてため息を吐く私に、リッテはバツが悪そうに乾いた笑みを続けるしかなかった……
なお、私達は知る由も無いが……この時、ウンディーネさんは絶賛戦闘中(前話)でした。
翌日、買い直した供物(昨日のは欲望に負けて摘まみ食いした、後悔はしてない)を持って祭壇に行った所……なんとウンディーネさんは私達の到着を待っていた。
『……リッテ、やはり
『う"っ、お姉さま……』
バツが悪そうに視線を切ったリッテ……肩をすくめ少し呆れたウンディーネさんだったが、すぐにカナタへと向き直り、お仕事モード全開! といった感じで仰々しく語り初めた。
『……まずは謝罪を。昨日も訪れていたと聞いてな……突発的な問題の解決に手を取られていたのだ、済まない』
「やっぱりそうでしたか……街の人達からは、とても真摯な方だと伺っていましたので」
『街の者達が? ……そんな事を』
『お姉さま……いえ、我らが聖霊王……彼の者は、我等が祝福を授かりたいと』
何やら、思う処があったらしい……少しだけ考え込むウンディーネさんだったが、リッテの言葉に思考を中断し、顔を上げた。
『そうだな……その前に、
突然、仕事モードを断ち切ってフランクな物言いにシフトしてきたウンディーネさん……聖霊王として謁見に応じてるんだからちゃんとやり通しなさい、と言いたくなったが……
「……えっと、カナタです……
『カナタ、か……急に済まない、義妹の肩に留まっているその子には、先に素を見せてしまっていてな……何とか仕事だと割り切って頑張ったのだが、あまりにも肩肘張り過ぎてしまって自分で噴き出しそうになってしまった……許してくれ、ふふっ』
合点がいった私とカナタだが、リッテは『えぇ……?』といった感じで呆れていた……
その後も最初とは打って変わり、フランクに話し始めたウンディーネさんはもう止まらない……続けて勢いのまま、旅の目的や出立の経緯……私と同じ転生者だという事実もあっさり受け入れ、転生の件を知らなかったリッテは驚愕し……
……気が付けばカナタとウンディーネさんは、1時間近くも互いの事を語り合っていた。
・
・
・
『……いやはや、実に楽しい時間だったよ、カナタ』
「僕もです。こんなに話が合う方は」
あれから、ウンディーネさんとカナタは色々な事を話し合った……聖霊王達は転生者の件を最初から知っていた様で、元の世界の事とか、好きな食べ物……前世での趣味……その他色々な内容が飛び交った。
フランクな付き合いが出来る間柄を求めていたウンディーネさんと、裏表が無く、嘘を吐かないお人好しなカナタ……意気投合したのは必然だったと思う。
『さて……名残惜しいが、私はこれでも多忙な身でな……君も要件をすっぽかされるのは歯痒いだろうし。
……受け取れ、これが我らの叡水の加護だ』
『……で、なんでアンタまで加護を貰ってんのよ!?』
《そりゃ、私は貴女を探し出す様にウンディーネさんに頼まれたし……その報酬代わりだって、お姉さんも言ってたでしょ?》
私まで加護を貰った事に納得が行かないリッテ……でも探して、と頼まれたのは事実だし、カナタの事もあってすっかり忘れてたけど、無事に連れ帰った事も含めて、ウンディーネさんには大変喜ばれました。
……あの後、リッテはウンディーネさん直々に猛烈なお説教を喰らい、罰として街までカナタを送って"必ず"戻るように厳命されたのである。
なお、後ろの影から見張り役がしっかりと見ているので、このままバックレたりは出来ないと思う。
「そういえばリッテ……その子、精霊界に連れて帰るのかい?」
『《えっ?!》』
私とリッテは揃って素っ頓狂な返事をしてしまった……そういえば、私の獣魔契約はリッテを主として交わされたものだから、このままだと私は精霊界行きになってしまうのである。
《ほら……私、一応ただの鳥ですから……精霊界には入れないと思うんですけど~?》
『そ、そうだよね……どうしよっか……?』
《従魔契約がないと、私ただの野鳥に逆戻りなんですけど? さすがに勘弁して欲しいです……せっかく自由に世界を見て回りたかったのに……》
そう……従魔契約で敵対しない代わりに人間の支配地域でも自由に往来、しかもこの契約によってギルド経由で簡易的ながら身柄まで保証されるのだから、この利点を無くしてしまうのは非常に惜しいと思っていた。
『……じゃあ、僕が主を代わろうか?』
『《えっ?!》』(2回目)
……そうだ、カナタは(暫定)勇者として世界中を渡り歩き、遺跡に眠る秘宝を手にしてこの世界の守護神を復活させる為に旅をしている。
そのカナタに付いて行けば、一石二鳥じゃん? 鳥だけにw
《そうだよ、その手があった! カナタ、お願いできる?》
「僕としても、一人旅はそろそろ飽きて来ててね……話し相手ぐらいは欲しかったんだ」
『…………』
ん? 何やらリッテが黙ってこっちを睨んでいる……え、もしかしてこのままバックレついでにカナタの度に強引に付いて行こうとか思ってた?
《……リッテ、それはさすがにダメだよ? お姉さんは帰って来いって言ってたでしょ?》
ウンディーネさんの言葉を出した途端、キッと睨み付けが強くなる……『分かってるわよそんな事くらい!』って顔だ。
「……リッテ」
カナタもそれで察したのか、さすがに首を横に振った。
「この旅はアテも何もない、そして途方もなく時間の掛かる旅だ。義理とはいえ聖霊王の一族を連れ回す訳には行かない……況してや、キミ自身はまだ上位精霊には至ってないんだろ?」
精霊が人間界で活動出来る時間はそれほど多くない……上位精霊として、仮初ながら自身の肉体を創り出せる程の力を得れば、その制約も取り払われるが……今のリッテは借り物のアイテムの力でそれを誤魔化している。
アイテムは使用し続けていればいずれ壊れ、力を失う……不意のタイミングで人間界に留まる力を失ったリッテは精霊界へと強制送還されてしまい、力を身に付けるまで二度と出られなくなるのである。
「このまま付いて行くと言うなら、僕はキミをこの場で強制送還させる……それくらいは出来るからね。
でも、僕はそこまでしたくはない……そうしたら、キミとは二度と顔を合わせられなくなる」
カナタの言葉に、無言を貫くリッテ……理解はしているのだ。
この場で分かれ、いつか再開した時に上位種へと覚醒していれば、その時はキミ自身の決断で付いて行く事に賛成するし、お姉さんの説得も力を貸す……でも、今この場で我が儘を通すなら、再会や同行のチャンスが有っても即座に切り捨てる……という一種の脅しなのだと。
『……また、会える……よね?』
数分の戸惑いの後……か細く、しかし訴えるような視線と共に投げ掛けられた問いに、カナタはこう応えた。
「ちゃんと上位精霊になって、お姉さんのお墨付きを貰えたなら……必ず機会は巡ってくるさ」
無意識の女誑しモードへ移行しているカナタに、クリティカルヒットされてしまったリッテ。
『……絶対……絶対にまた、会いに来てよ?!』
終いには泣きじゃくるリッテを慰めながら、カナタと私は街へ続く夕暮れ時の道をゆっくりと歩き続けた。
その翌日……ハルトラウムを出発し、私を肩に乗せたままカナタは1人……遺跡探索の下準備として、次の聖霊王が住まう地の最寄りの都市を目指して旅を再開していた。
《……ねー、カナタ~》
「なんだい?」
《そろそろさ~、私の名前くらい付けてよ~》
そう……契約者が変わった事で、リッテから付けられた名前も無意味となり獣魔契約は無効化……カナタを主として新たな獣魔契約が結ばれたのだが……効力を発揮するには1つ問題があった。
「……そう言われてもさ……実は僕、命名とかそういうの……苦手なんだよ」
同じ転生者のくせに、ロールプレイとか平然と熟すくせに……何よ、名付けが苦手って?!
《あのさぁ、ギルド受付のお姉さんも言ってたでしょ? 「次の街へ入るまでの間に、ちゃんと契約書に新しい名前を書かないと、従魔契約は効力を発揮しませんから、くれぐれも注意して下さいね?」ってさ!》
そうなのだ、カナタが命名を渋ってるせいで契約書上の私の記名欄は空白……このままじゃ折角の従魔契約書もタダの紙切れである。
《……次の街までだからね?! それまでには絶対考えてよねッ?!》
「分かったよ……分かったから、耳元でピーチクパーチク鳴かないで……お願い」
《カナタがちゃんと! 名前付けてくれるまで! 私は鳴くのを止めないッ!!》
喧しく騒ぐ青い小鳥を肩に乗せたまま、暫定勇者は次の街へと向かうのであった……
……はい、これでハルトラウムでのお話はオシマイです。
次回なのですが……実はカナタが受けた加護はまだウンディーネ1つだけという事が判明。
最寄りの聖霊王は、なんと鳥ちゃんが既に加護を貰ったあのイフリートさんの住まう「ミラノ活火山」……つまり最寄りは「ラントリウム」。
来た道を戻る羽目になった鳥ちゃん、どんな波乱が待ち受ける事やら……
次回、「霊鳥騒ぎ再び?」 お楽しみに~♪
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