宝石商グルの退屈な日々/ウルトラマングルッぺ   作:漆氏

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case 2 奈落の死神と空爆怪獣

「ただいま」

 俺は部屋の扉を開けた。

「おかえり……!」

 銀髪の青年が、待ちかねたように俺を見る。彼の名は黒瀬(くろせ)カケル。ひとつ屋根の下暮らした仲だ。

 カケルは死神のひとりだ。頭部だけで転がってきた時は面食らった。

 それからなんだかんだあって、ちょっとした喧嘩はあったがひとつ屋根の下暮らしてきたんだ。一日たりとも忘れたことなどなかった。

「結構今月も稼げたよ、そろそろ食料補充の日……ってか、買い出しだし明日は休業だな」

「あ、あの……色々とごめんね……」

「いいんだよ、お前養うくらいにはいける。そんなしゅんとすんなって」

 俺は苦笑した。

 

 なんせ俺も大食いなのだが、カケルもよく食う。気持ちいいくらいに。まるで寂れた片田舎(岐阜県羽島郡笠松町)に産まれた優駿(オグリキャップ)みたいによく食う。大食漢ふたりがいる訳で、もちろん家計も食費が大半を占める。

 全力で稼ぎたい。

 そして、カケルに楽をさせてやる。

 その一心で、俺は遮二無二働いて……いちど、体を壊したことがあった。

 その時はカケルを泣かせてしまったんだったな。俺は辛かった。

 しばらくの間は仕事が出来なかった。しかし金銭は必要だ。なので、その間だけは移動販売ではなく実店舗販売に切り替えた。接客はカケルと()()()に任せ、全身は痛いしだるいしでコンディション最悪の中俺は工房の中で指輪を作り続けていた。もちろん指輪作ってるのがバレて怒られた。

 その店は今は自称妹に任せている。昨日在庫を渡したので、この先2ヶ月は持つだろう。

 

 さて。

「夕飯はどうするかね」

 業務用冷蔵庫の扉を開けると、それはきぃ……と静かな音を出し、数少なくなった業務用食品が顔を見せる。

 ふむふむ、鶏胸肉に……これと、これと……あとこれも使うか。俺はあれこれ思案すると、材料を取り出して冷蔵庫を閉める。

 ぱたん、と音がして、俺の思考は直ぐに冴える。

 

 俺が思うに、料理というものは、まず第一に食べた人の笑顔を考え、次に美味しさ、三、四飛ばして五に栄養バランスだ。カルミラ超高速のプリンセス(アグネスタキオン)にとことん怒られかねないが、俺はそれで行く。それが俺の流儀だ。美味しいものを食べて、笑顔になってほしいんだ。

 なので、祭り時には宝石だけではなく料理の露店も出している。

 さあ、料理開始だ。

 

 まずは鶏胸肉にフォークで穴を開ける。んで、分厚いところを切って、酒と塩コショウ、それに『マキシマム』をかけて下味をつける。そのあと片栗粉をまぶし、フライパンで熱した油の中に一枚肉のまま入れて揚げ焼きにする。

「でかい唐揚げ……かな」

 揚げている間に、黒酢ベースのタレを作る。黒酢と醤油を大さじ3、砂糖、水、ごま油を大さじ2入れて混ぜれば完成だ。

 肉が揚がったら全体にタレを絡ませて一口サイズに切る。千切りキャベツの上にのせて、またタレをひとかけすれば──────

「完成だ! カケル、飯をよそっておいてくれないか?」

「うん!」

 

 二人暮らしには少し大きい机を囲み、六枚の一枚肉だったものが置かれる。

 匂いがいい。空腹ボタンを連打する匂いだ。腹が減る匂いだ。

 米を置き、作り置きしておいた副菜とスープを添えて。

「「いただきます」」

 俺は肉を箸で摘み、米に乗せて食べる。

 白米に味が染みる。そして、サクサクの衣からジューシィな肉へと変化した時、俺の目は一気に開かれた。

「うっ……ま」

 タレが、タレがうまい。めちゃくちゃうまい。今ならラーントゥルス星系──ウルトラの国と戦争状態になりかねない星だ──の奴らでも皆殺しに出来そうなくらいに力がみなぎる。

「(黒酢の疲労回復効果に鶏肉、うめぇっての……!)」

「〜〜! 味がしみしみになったキャベツもおいしいです!」

 カケルの前に、俺はあるものを置く。

「これにな、こいつを載せるとまた変わるぜ?」

 

 ───────────トッピングの定番、白髪ネギだ。

 カケルは白髪ネギを肉とキャベツに載せ、口に放り込む。白髪ネギの風味がタレによく合う、と言いたげな顔だ。

 俺は冷蔵庫からビールを取りだし、缶を開ける。『カシュッ』と小気味いい音が鳴り、俺は我慢できなくなりグラスに注いでぐっと一気飲みする。

「ふふっ」

「ん?」

 カケルが笑った。

「グルさん、髭ついてる……」

「……あっ」

 ──────────顔が暑くなってきた。これはアルコールのせいだ。おかしいな、いつもは強いのに。

 嘘だ。

 恥ずかしさで身悶えしそうだ。

 その日は、顔を赤くしながら就寝した。

 

 翌日の早朝、俺の住む町である『吉良斐町(きらびちょう)』に耳慣れてしまった警報が流れてきた。

『怪獣警報、怪獣警報。直ぐに家に隠れなさい』

 俺は窓を開ける。自衛隊の到着は遅そうだ。

空爆怪獣(クウバクカイジュウ) ビーコゥ……なぜここに……」

 空爆怪獣(クウバクカイジュウ) ビーコゥ

 体長 30m

 体重 65t

 もともとビーコゥはメコウア星の固有種だ。群れを生して飛ぶ怪獣で、重さはB-29並だったか。確かメコウア星は3642年前に文明が自壊したはずだ。

 俺は居てもたってもいられなくなって、窓を開けて飛び降りる。

 光に包まれ、俺は巨大化する。

 

『シュウワッ』

 ビーコゥはなかなか鳴かない。俺は一機を地上から撃つ。案の定、避けられた。

 俺はさらに光弾を撃つ。一機撃墜。次だ。

 ビーコゥは編隊を組んで接近してきた。速度が早く、対応できるか怪しい。なので、俺は身構えた。

 刹那、撃ってくるはバルカン砲。普通なら人間をミンチにできるそれが四方八方から撃たれる。並大抵のウルトラマンでもダメージを受けるものだ。

 

 しかし、俺は全くの無傷だった。

 大胸筋バリア──────────

 初代ウルトラマンが得意とする防御方法で、ネロンガの電撃やメフィラス星人のグリップビームを完全に跳ね返したという逸話もある。俺もそれを扱えるんだ。

 挑発するかのように、俺は大胸筋を強く叩く。

 ビーコゥは高速で飛んでくる。

『クェエエエッ!!』

 ─────しめた! 

 俺は内心ほくそ笑んだ。

 ビーコゥが鳴く時、それは冷静さを欠いたときだけだ。つまり、今ビーコゥは激情に身を任せている! 

 

 俺はマッハで空を飛ぶと、曲芸飛行を行った。ビーコゥも対抗して、編隊を組んで接近してくる。しかし、哀しいかなビーコゥは、最大で654km/hしか出ないのだ。無理に近づくせいで、ビーコゥの羽がもげていく。気づいた一部の個体は速度を落とし、バルカン砲を放つが、俺には当たらない。それどころかフレンドリーファイアで同士討ちだ。

 その中で、俺は信じ難いものを見てしまった。

 一機が胸もとのスリットから爆発物にも似た抜け毛を落としたのだ! 

 まずい、と俺は察した。アレは史実でB-29の使ったそれとほぼ同型だ! 

 町が焼かれるのはもう沢山だ! 

 俺はバリアを展開して爆発物を受け止め、跳ね返す。

 しかし、爆弾はどんどん落ちる。故に空爆怪獣、故にビーコゥ(B公)だ。

『気圧ドーム!』

 俺は気圧を操り、町を覆う。ドームの気圧差でビーコゥの爆弾が処理される。

 

 俺はドームを張った上で、空に飛び立つ。

 高度3万フィートを飛ぶ快感、そしてAN-M2 12.7ミリ機関銃のような光弾で撃ち抜ける爽快感。にっくきB公やっつけろ、にっくきビーコゥやっつけろ! そんな声が聞こえる気がした。幻覚だが。

 アクロバティックな飛行にあわせ、編隊が着いてくる。急加速、急停止。それはまるで即席の航空ショーのようになってきた。俺は飛行機雲を創り、ある絵を空に描く。

「わぁ、すごーい!」

 地上から、そんな声がした。俺は耳がいいから聞こえるんだ。

 俺は、最後にドデカい花火を打ち上げることにした。

 ビーコゥを空高く上げて、それを重力で固定! 

『グルシウム光線ッ』

 青い光線がビーコゥを貫き、綺麗な赤い花火が何発も破裂したッ! 

 静かに朝焼けが大地を包む其の少し前、僅かな朝と夜の狭間に、まるで太陽をお出迎えするかのような花火。

 さあ、マルロクマルマル(六時)だ。俺も仕事の支度……の前に、カケルと朝飯を食べないとな。

 カケルの笑顔さえあれば、他のことなんかいらないのさ。

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