あきつ丸レポート   作:長串望

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あきつ丸レポートまとめ1

警告:乙種機密指定

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 本文は皇国陸軍秘匿第██工廠被験体「███████」よりサルベージされた文字媒体情報群を再構築した文章です。

 本文は皇国陸軍秘匿第████号指令による乙種機密案件第█████号、計画名「Phantom Pain」に関連する参考資料に分類され、乙種保安権限保有者又は一時付託者以外の閲覧を固く禁止されています。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ██年██月██日午前。天気明朗で波も穏やか。いい日和であります。

 本日付で陸軍特殊船科より██████泊地第██司令部に出向いたしました、特殊船丙型あきつ丸であります。

 身分証明も命令書もありますのでとりあえずその主砲を下げて頂きたいのであります……!

 陸軍で一通りの訓練を受け、色々な都合から海軍の司令部に出向することになったはいいでありますが、出迎えの方との待ち合わせ場所である港で、アメリカン・バッドコップばりにサングラス掛けてくっちゃくっちゃガム噛んでる艦娘にガンつけられてるであります。

 こわっ。

 自分別に何にもしてないはずなのでありますが、もうこれ所属が違うとはいえ同じ艦娘に向けていい視線じゃないのであります。地面に張り付いたガムでも見つめるような視線であります。

 あまりにもヤンキー過ぎる対応とスタイルのせいで一瞬分からなかったでありますが、確かこの方は重巡洋艦の摩耶殿、でありましたか。

 改めて事情を説明しようとしたら、やけにいい発音で「シャルァーップ」と主砲を突き付けられたので黙って両手を上げるのであります。気づけば更に二人の艦娘に後ろに回り込まれ、完全に包囲されているであります。

 えーっと。後ろの二人は確か駆逐艦の睦月殿と如月殿でありましたか。こちらも艤装を展開していらっしゃるであります。いわゆるピンチであります。

 摩耶殿が顎で指示すると、後ろから二人が自分の体をまさぐり始めたのであります。こちらに一瞬たりとも恥じらいを感じさせない、まるで工場の最終出荷チェックか家畜の健康チェックじみた手慣れた手つきであります。こころなしお二人の目つきも屠殺場の豚でも眺めるようなものであります。

 とはいえ自分、大したものは持ち合わせていないのであります。荷物と言えば書類や当座の着替えや日用品を詰めた背嚢ぐらいのもので、あ、それも調べるでありますよね、はい。

 背嚢渡そうと身じろいだら、後ろから睦月殿に連装砲を突き付けられたであります。

「変な動きしたら体の端から順に撃ち抜いてくのね」

 あっ、はい、御忠告ありがとうございますであります。

 如月殿が無造作に背嚢をむしり取って、乱雑に中を漁るであります。

 背嚢から取り出されてぽいぽいと地面に並べられる私物。

 別に不審物も危険物も入ってないので、その点は心配してないでありますが、下着とかまで念入りにチェックされるのは勘弁してほしいであります。

 封筒に入った自分の身分証明書と、出向命令書をざらっと確認して、バッドコップもとい摩耶殿はこちらをじろじろと胡散臭そうに眺めてくるのであります。睦月殿と如月殿は荷物を適当に丸めて背嚢に戻すと、乱暴に渡してきたであります。

 というかここ、バッドコップしかいないであります。なだめる係のグッドコップはいずこ。

「いいか陸軍野郎」

 摩耶殿がくっちゃくっちゃガム噛みながら凄んでくるであります。

「お前が確かにウチに出向してきた艦娘だってのは分かった。だがあたしは陸軍野郎を信用してねえ。お前がちょっとでも妙なコトしてみろ、お前を送り出した陸軍でも判別がつかねえツラにして送り返してやる。わかったな?」

 はあ、わかったのであります。

「それからお前はウチの司令部じゃ新入り、一番の下っ端だ。舐めた態度取ってたらこの摩耶様がカーニバルだかんな。わかったな?」

 なんでありますかカーニ、いえ、なんでもないであります。わかったのであります。

「よし、じゃあとっとと司令部に向かうぞ。艤装の展開を許可する、が、ちらっとでも妙な動きしてみろ」

「かわいい新人さんが、物静かでコンパクトなもっと可愛い新人さんになるわぁ」

「如月ちゃんは相変わらずお人形趣味が過ぎるタイプにゃしぃ、いひひっ」

 こわっ。

 陸軍から海軍へ。決して仲の良くない二つの組織間での出向でありますから、きっといろいろ苦労するものと覚悟はしていたでありますが、まさか最初から命の危険にさらされるとは、それも一応味方の艦娘からの危険にさらされるとは思ってもいなかったのであります。

 しかし思えばこの時点で、いえ、もっと前から、きちんと覚悟と諦めを完了しておくべきだったのであります。

 ██████泊地第██司令部、通称『兵器廠〈アーセナル〉』鎮守府に出向などという任務が、平穏で済むはずはなかったのでありますから。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「そろそろ『境界』だ。はぐれるなよ」

 摩耶殿に先導されて海に出て暫く、陸地が見えなくなった頃、摩耶殿がそう言ったであります。

 『境界』を超える感覚は、何と説明したら良いものでありますか。別に壁があったり、目に見える境界線が引いてあったり、そういうことではないのであります。

 ただ、ふと気がついた時には、潮のにおいが、風の流れが、水の温みが、がらりと変わってしまっているのであります。そわりと背筋に軽い怖気の走るような、そんな変化。

 それは艦娘たちが深海棲艦と戦う、『海域』に渡るときと同じ現象。

 海図にない海域。水平線の裏側。歩いて渡ることのできない隣側。外部からは観測することさえ許されない、けれど確かに繋がっている『境界』の彼方。

 深海棲艦との戦いが始まり、連中が『境界』の向こうから訪れることを突き止め、数多の艦隊が、調査隊が、『海域』へと差し向けられたでありますが、未だにその全容は杳として知れていないのであります。

 飽くなき深海棲艦との戦いのため、人類は制圧した『海域』に前線基地である鎮守府・泊地を設置していき、いまや数百万とも言われる基地が、それと同じだけの提督に指揮され、その百倍にも及ぶ艦娘たちを抱えているとか。

 いやはや恐ろしい数であります。

 まあ艦娘は消耗品として扱われるところもあるそうでありますし、実際問題敵の数も不明となれば、いくらいても足りないのでありますが。

 さてさて、『海域』に入ってすぐ、我々は洋上に浮かぶメガフロートへと辿り着いたであります。

 一部を除いて、大抵の『海域』は陸地というものが存在しない茫漠たる海そのもので、ここに前線基地を設置するとなると、当然ながら建築物は水上建築とならざるを得ず、多くの鎮守府・泊地は艦娘・深海棲艦から得られた技術で建築されたメガフロートの形をとっているのであります。

 戦争が技術の発展を促すというでありますが、いやはや、実際深海棲艦との戦いは人類の技術を大いに発展させたものでありますよ。それが完全には解明できていないものであっても、ようは使えればいいのであります。

 メガフロート。水上建築物とはいえ、極めて巨大にして精密なこの人工島は、揺れなど感じさせないしっかりとした地面の感触を脚に返してくるであります。

 話によれば、船舶並の航行機能を有し、複数の『海域』を巡回するメガフロートもあるとのことでありますが、もっぱら噂ばかりで実際に目にしたことはありません。

 辿り着いた我々を出迎えてくれたのは、えーと、確か駆逐艦の叢雲殿でありましたか。秘書艦として選ばれることも多いと聞くのであります。

「ようこそ██████泊地第██司令部へ。陸軍から連絡は来ているわ」

 この人もバッドコップ勢かと身構えてしまったでありますが、思いの外に普通の対応をされてしまったであります。

 まあ普通の対応をされるのが本来であってしかるべきで、むしろ摩耶殿たちの方がおかしいのでは。等と思っていたら案の定、応対の仕方について叱られ始めたであります。

「摩耶。出迎えて来いと言ったわよね」

「うっす! 任務完了っす!」

「完了じゃないわよスカタン。誰が捕まえて来いっつったのよ」

 ちなみに今自分、後ろ手に手錠掛けられてるであります。そろそろ慣れてきちゃったであります。

「えー、でも姐さん、陸軍野郎っすしー」

「えーじゃないわよ。ほら、手錠外して」

 渋々という様子で手錠を外して下さる摩耶殿。

 というかあんたが姐さんじゃないのかと。駆逐艦にへいこらする重巡って。

「全く……大人しい娘だからよかったわ。あんたね、もしこの娘が反撃してきたら、怪我じゃ済まなかったわよ」

「いやぁ、姐さん、さすがのあたしでも手加減ぐらい、」

「あんたが、怪我すんの」

 いや、あの、本人が黙っている横で導火線短そうな爆弾で火遊びするのやめて頂けるでありますかねえ。なんでそんな喧嘩っ早そうな人煽ってるでありますかこの人。

 案の定、舌打ちされた揚句、ぶぇぱっ、と痰まで吐かれたであります。

「姐さん姐さん、そりゃ姐さんほどじゃあないですけど、あたしだって重巡洋艦のはしくれですぜ?」

「知ってる。で?」

 ビキッ、とか効果音鳴ってそうなんで止めて頂きたいであります、ほんと。

「ほんっとよぉ、陸軍様はよぉ……姐さんにこんなこと言いたかねえが、こんな案山子にあたしが手古摺るなんてのは聞き捨てならねえですぜ」

「手古摺るとは言ってないわよ。怪我するだけ。あんたが」

 あの、自分そろそろ提督殿にお会いしたいんで、あっ、はい、駄目でありますね、わかるであります。

「はぁー…………」

 思い切りため息をつく摩耶殿。そしてガシガシと頭をかいて、ポケットから煙草を取り出し、イムコで火をつけると一服。

 最後に海に向けて痰を吐いて、にかっと笑ってこちらの肩を叩いてきたであります。

 どうやらクールダウンしてくれたようであります。

「後で殺す」

 あ、全然違ったようであります。

 単に叢雲殿の前だから控えただけみたいであります。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

「悪かったわね」

 摩耶殿と別れて、提督のおられるという執務室に向かう途中、不意に叢雲殿がそうおっしゃったであります。

 だんまりで連れて行かれるので、軽くドナドナな気分を味わっていたところだったので、聞き逃しかけて思わず生返事してしまったであります。

「摩耶はあれで貴重な駒なの。舐め切って迂闊に手を出して、怪我されると面倒だったから」

 いや、ですから重巡洋艦にぶん殴られたら怪我するのはこちらなのでありますが。

「陸軍の連中がうちに来るのはこれで何度目かしらね」

 あ、聞いてないでありますか。はい。とはいえ迂闊に文句も言えないであります。

 こちらはろくな武装も持ってきていない揚陸艇で、相手はベテランの上、重巡洋艦を顎で使う駆逐艦。

 しかもこちらなんて気にしてない風に前を歩いていくでありますが、頭部センサーがこちらの一挙手一投足を監視してるであります。ナムリスでありますかこの人。

「うちの存在なんてのは上層部じゃあ公然の秘密みたいなものだし、視察だなんだと理由つけられちゃ断れない。とはいえスパイどもに餌だけ与えて返すわけにもいかない」

 かつかつとリノリウムの床を歩いていく叢雲殿は、如何にも自然体で、しかし隙のない歩みでありました。

「うちに首突っ込んだ馬鹿どもは、丁寧に処置をした上でのし付けて送り返してるんだけど、あんたみたいのがまた送られてきたあたり、前回がうまく行ったからって調子に乗ったみたいね」

 ――ひうん。

 それは流れるような動作でありました。

 機関部の回転も最低限。力むところのまるでない自然な身のこなし。水の流れるように燐光があふれ、手元で微粒子が凝集し、電探をモチーフにしたような長物が構築されると同時にこちらの喉元に突き付けられたであります。

 この間僅かに一秒未満。速度といい、艤装の限定展開といい、極めて高い練度が伺える一瞬でありました。

「別に記録に傷がついたとは言わないけど、たった一人生きたまま逃がした――しかも人間相手に」

 静かな瞳がこちらをじっと見つめてくるであります。

「あんたはそいつと同じ歩き方をするのよ、陸軍の狗ッコロ」

 あんまりにも穏やかで自然な圧力だったので気付くのが遅れたでありますが、これ、ばしばし殺意が向けられてたみたいでありますな。流石にバッドコップ摩耶殿を顎で使う駆逐艦。ヤクザの事務所でありますかここ。

 ところで先程仰ってた「丁寧な処置」とやらは具体的には。

「ソルベとか」

 えっ。

「輪切りのソルベとか」

 アッハイ。

 和やかな会話で道中イベントをこなし、ようやく執務室に辿り着いたであります。

 ノックもなしに無造作に戸をあけて入っていく叢雲殿に続いて、一応礼儀上一声かけてから入室したのでありますが、なかなか趣味の良い部屋であります。

 調度品は派手さはないものの品のあるアンティークで揃えており、それも単なる装飾としてだけでなく実用品としての機能性が見て取れるであります。

 書棚に並べられた書籍も教養の感じられるラインナップで、趣味の範囲も広そうであります。

 香を焚いているという訳ではないのでありましょうが、何処か品の良い香りがするであります。

 まあそのように、全体的に総合的に、評価は高めにつけて良いでありましょう。

 いやはや全く。

 胡散臭い。

 であります。

 一見して、部屋の主の教養の高さと実用主義を伺わせる、海軍士官らしいリベラルな空気のある部屋に見えないこともないでありますが、よく出来すぎであります。

 調度品は実用的なのに、殆ど使用された形跡の見られない未使用品。書棚の書籍は背表紙の見栄えだけで選んだような関連のなさ。当然こちらも、手垢もつかぬ新品ばかり。

 品の良い香りと感じるのは、硝煙の臭いを隠そうとした消臭剤のものでありますな。なかなかいい品を使っているでありますが、艦娘の鼻を誤魔化すには少々足りないようであります。

 まあ部屋の評価はその辺にして、問題は肝心の部屋の主であります。

 事前に聞いた話によれば、こちらの提督殿は結構な箱入り娘だそうで、一般常識にやや欠けるところがあり、指揮は殆ど秘書艦に投げっぱなしだとか。それ以上のネタは仕入れてこれなかったので、気になるところであります。

 ところが。

 一通り見回してみたのでありますが、どうも誰の姿も見当たらないのであります。タイミング悪く席を外しているところでありましたか。

 と思って叢雲殿を見やると、気にした風もなくデスクの向こう側に回り、椅子に手を伸ばしてゆすり始めたのであります。

「ほら、起きなさいよ。お待ちかねの狗ッコロが到着したわよ」

 何やら声をかけているでありますが、こちらからだと誰か座っているようには見えないのでありますが。

 結構大きめなデスクの陰とはいえ入口から見えないとなると、相当小柄だとしてもやたら妙な体勢でいないと無理だと思うのであります。

 …………もしかしてアレでありますかね。

 叢雲殿にしか見えないイマジナリ―アドミラルとかそういう落ちでありますか。

 いやでも、やり取りした上では一応まともに見えたでありますし、薬物のキメすぎにしろ心療内科の担当にしろ、幻覚が見えてるような精神状態には……まあ一見そう見えないのが一番ヤバイ、その、キ印なのかもでありますが。

 いやいやいや。いくらなんでも初対面の艦娘をそこまで疑うのもよろしくないであります。きっと最近流行りか廃りか知らないでありますが、犬提督とか猫提督とかハムスター提督とか観測者の数だけ姿のある量子力学的提督なのかもであります。

 よーし覚悟完了であります。相手がどんな提督であるにせよ、むしろ提督などいなかったにしろ、平然と受け入れて見せるであります。

 驚きすぎて失礼なことを言いまくるというベタな展開など、このあきつ丸にはないのであります。

 などと一人覚悟を決めたあたりで提督殿(?)が目を覚ましたらしく、何やら欠伸の音など聞こえてきたであります。

 そして叢雲殿が丁寧な手つきで『それ』を持ち上げ、ことりとデスクの上に置いたのでありました。

 驚かない、平然と受け入れる、と数秒前に覚悟したばかりでありましたが、いざ目にした『それ』はなかなか意表をつかれるものでありました。

 ほう、と眠たげに欠伸をする『それ』に、思わず二三、瞬き。

「ああ、おはよう。ようこそアーセナル鎮守府へ。

 私がこの司令部の司令官。通称『匣入り提督』だ」

 デスクの上にはのっぺりと白く塗られた金属の匣が置かれていたであります。

 匣の中には綺麗な娘がぴったり入っていたであります。

 色素の抜けた白い髪に、血色の透ける頬。

 人形のように小奇麗な顔の中で、悪戯気に笑う口元と、きょろりと好奇心に満ちた瞳がやけに生々しい生気に溢れていたであります。

 しかし、人間がこのような状態で生きていられるというのでありましょうか。

 胸から上だけが匣詰めされた状態で。

 黙って見つめる自分に、提督殿は、つまらなそうに言ったであります。

「なんだ、あんまり驚かないね。私を見て驚く顔を見るのが、ささやかな私の趣味なのだが」

 それはまた、何とも悪趣味でありますな、となんとか答えると、提督殿はただおかしそうに喉の奥で笑ったであります。

 ―――ああ、生きてゐる。

 嗚呼、成程。箱入り娘で常識に欠ける、指揮などする気もなさそうな提督。

 あえてぼかして自分に教えてくれただろう教官殿に、感謝の言葉を捧げるであります。

 月のない夜は気をつけろよクソ教官。であります。

「まあいいや。陸軍からの要請は確認してるよ。君は陸上での陸軍主体による艦娘運用のため、各所の鎮守府に出向し、現場でのやり方を学び、比較検討し、陸軍に適した運用法を模索するとか何とか、そんな建前だったっけ」

 建前ではなくて公式の声明でありますよ。

 と一応訂正してみたでありましたが、鼻で笑われたであります。

「まあいいけどね。出向だろうと視察だろうと諜報だろうと、好きにしていくと良い。ついに虎の子の艦娘まで投入してきたんだ。歓迎するよ。盛大にね」

 うーん。なんだか過大評価されている気がするであります。

「叢雲」

「はいはい」

 提督殿に促されて、叢雲殿がなにやら紙挟みを寄こしてきたであります。挟まれた書類は、名簿、でありますか。

「それ、うちに所属してる艦娘のリストね。宛がってる部屋の番号と、よくいる場所も一応書いておいたから、会いに行くといい。うちは余所の鎮守府みたいな通常業務はぜんぜんやってないから、お勉強したいなら面接くらいしかできないよ」

 通常業務は皆無でありますか。まあ事前情報からも、この鎮守府が対深海棲艦活動をほとんどしていないとは聞いているでありますが。

「ああ、喋りすぎてお腹減った。眠い。叢雲」

「はいはい、補給するわよ。あんたはもう下がっていいわ」

 この匣入り提督の補給とやらもちょっと気になるところでありましたが、まあ長居しても仕方がないでありますし、早速個別面談にでも行くであります。

 短く挨拶を残して退出し、さて気楽に行くでありますとスマホを取り出し、イヤホンをつないで耳に当て、リストを頼りに出発であります。

 平穏無事に済むといいのでありますけど。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 ……………。

「毎度のことだけど、いいの?」

「多少うろつかれたところで問題ないよ。陸軍が運用法を学びたいっていうんだ、いくらでも見ていくといい」

「運用法ねえ………もう少しましな建前持って来いっての」

「海軍は情報公開を惜しまなかったからねえ。核心以外は」

「その核心でしょ、連中が欲しいのは」

「そう。艦娘を建造し、運用し、整備し、維持することは陸軍にもできる。でも何故そうできるかが分からない」

「艦娘を生みだし、動かしている原理を連中は知らない。極秘中の極秘だ。強権を振りかざそうにも、運営本部は宮内庁の御膝元だ。海軍は運が良かっただけ。陸で事が起こっていれば、真逆の形勢だったろう」

「だからって、いくらうちを探ったってそんなもの出てきやしないのに」

「そうだね。うちは鎮守府というより研究所で、研究所というより物置小屋だ。でもだからこそなんだよ」

「どういうこと?」

「連中は艦娘の原理を知るのは諦めたのさ。自前で作れないなら、既にできた技術を掠め取ればいい。うちには、アーセナルにはそれがごろごろしてる」

「呆れた。艦娘の一人だって簡単に拉致できる訳ないじゃない」

「人間にはね」

「………だから艦娘を送り込んできたっての?」

「さあね。何にせよ、あれの動向には気をつけないとね。早速堂々と玩具で遊んでるみたいだし」

「玩具………? ―――あっ!」

 

 ―――ブッ

 

 ありゃ、早速盗聴がばれたでありますな。

 高かったし、出来れば回収したかったんでありますが、まあ経費で落ちるでありましょう。

 まあ泳がせてくれるうちはのんびり泳がせてもらうでありますよ。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

・グッドコップ、バッドコップ

アメリカの典型的警官のイメージ。

暴力的な警官と、一見優しそうながらその暴力をちらつかせて穏やかに吐かせようとして来る警官の二人組。

 

・カーニバル

摩耶つながりで、「蒼き鋼のアルペジオ」(Ark Performance)のアニメ版より、メンタルモデル・マヤの発する「カーニバルだよ!」から。

 

・『兵器廠〈アーセナル〉』鎮守府

様々なツイ鎮がある中、検索しやすく差別化しやすいようにと鎮守府の通商を考えた結果。

なお由来はアニメ「クロスアンジュ 天使と竜の輪舞」(サンライズ)の舞台である収容所にして軍事基地である「アルゼナル」。いろいろアウトなアニメである。

 

・『境界』

異世界、異空間とされる『海域』がこの世界と接する部分。

 

・歩いて渡ることのできない隣側

この表現は「灼眼のシャナ」(高橋弥七郎)に登場する、この世の歩いていけない隣にある異世界、『紅世』より拝借させてもらった。

 

・『海域』

異世界、異空間とされる。深海棲艦がやってくる世界。

ゲームにおける海域というものを描写した結果。

参考としてキタユキ氏の「#加賀さん観察日記」及び8号氏の「黒い艦これ漫画」を下地にしている。

とくに『海域』のさらに外、『外海』の存在は「黒い艦これ漫画」にかなり影響を受けている。

 

・ビキッ

「疾風伝説 特攻の拓」(原作:佐木飛朗斗、作画:所十三)に出てくるとされる擬音。

実は読んだことが無く、疾風をかぜと読み、あまつさえ特攻をぶっこみと読むというのはつい最近知った。

 

・貴重な駒

実は摩耶という艦娘はそれなりに重要なポジションだったのだった。あれでも。

 

・ナムリス

「風の谷のナウシカ」(宮崎駿)の登場人物。漫画版にしか登場しない。

特殊なヘルメットをかぶっており、取り付けられた眼が全方位に反応している、とされる。

 

・艤装の限定展開

艦娘の艤装は通常、圧縮されて格納されている。ひとまとめになっているこれ等をバラで取り出すのは公定練度つまり単純な出力とは異なる技術的練度が必要とされる。

 

・輪切りのソルベ

「ジョジョの奇妙な冒険」(荒木飛呂彦)に登場するマフィアのメンバー。ボスの正体を探ったことから、生きたまま足元から輪切りにされ、ホルマリン漬けにされてチームに送られるという壮絶な処刑を受けた。

 

・イマジナリーアドミラル

種氏による「ふぶキチ♀提督に振り回される吹雪bot」に連なる「3-2-1ばかりで隊長に会えないまるゆ」においてイマジナリーアドミラルか、と身構えるシーンがある。

 

・犬提督とか猫提督とかハムスター提督とか観測者の数だけ姿のある量子力学的提督

量子力学的提督は寡聞にして存じ上げないが、観測者の数だけ姿のある量子力学的審神者というネタはPixivで見かけたことがあったように思う。

 

・―――ああ、生きてゐる。

「魍魎の匣」(京極夏彦)より、匣に入った娘。

勿論、「箱入り娘」というのはこういう物理的な話ではないので、念の為。

 

・玩具

直前にボディチェックされた癖に平然と仕掛けて見せた盗聴器。

そのほかにもこれ以降、どうやってかボディチェックを掻い潜った品物をボロボロ出してくるのだが、残念なことにどなたからも突っ込まれなかった。

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