あきつ丸レポート   作:長串望

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あきつm「私が大和型超弩級戦艦二番艦武蔵である!」段


あきつ丸レポートまとめ15

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[◆◇◆◇◆]

 

 

 あきつ丸であります。

 すっかりお腹も空いて、さあ新メニューの開拓でもすんべ、と思っていた所、食堂に辿り着くなりじっとりとした視線を受けてたじたじであります。

「遅い」

 島風殿みたいなこと言って、腕組みしてこちらを睨みつけてくるのは摩耶殿でありました。

 えーと、別に自分待ち合わせしてた覚えはないのでありますけど……。

「餡蜜」

 は?

「藪犬庵の餡蜜! 先に食べちまうのも悪いと思ッてずッと待ッてたンだぞ! 遅ェから姐さんとこに確認しに行ッたらもうどッか行ッちまッたッていうしよ!」

 うわぁ、それはまた律儀な……悪いことをしたでありますな。

「大体土産持たせたンだから、受け渡しについて位きッちり連絡入れろよ! こッちはお前のケータイの番号なンて知らないンだぞ!?」

 ぷんすか怒られながら正論で叱られる。言い返せないのが悔しいであります。

 しかしそういう事態になっても、とさかに来てアンシブル通信で一報入れてこないあたりマナーがきちんとしてる娘でありますなあ、摩耶殿。

 アンシブル通信は、『境界』さえ突破するどこでもバリ三、しかもライムラグ全くなしと便利な通信方法に思えるかもでありますけれど、日常的に使ってる艦娘は実はあんまりいないのであります。

 まずキチンと通話するにはある程度集中する必要があるので、ながら会話が難しいこと。次に、思考を送る形になるので、音声ならいざ知らず、文章や画像を送るとなるとかなり明瞭に想起しないと単なるノイズになってしまうこと。

 ここら辺が理由で、アンシブル通信の妨害技術がアンシブル中継器以外あんまり研究されてないんでありますよね。これなら其処等の携帯端末のほうがよっぽど高性能でありますし。

 そして艦娘が日常的に使用しない理由として最も大きいのは、それがマナー違反だからであります。携帯端末なら、マナーモードにもできるし着信拒否もできる。留守電も録音できる。

 しかしアンシブル通信だと着信音もなく一方的に挨拶からスタート。しかも受け取る受け取らないといった選択が難しく、電話に比べてあまりに直接的で、下手すると同時着信もありうる。基本自分のペースを優先しがちな艦娘にとってこれはかなり煩わしい。

 その辺りが理由で、暗黙の了解ともいうべき形で、アンシブル通信といえば緊急時の連絡用、または『境界』間通信用としてきっちりマナーとして区別されているのであります。まあ、中には気にせず使うのもいて、艦娘の中においてさえ空気読めないとして迫害されるのでありますが。

 いやあ、その点、摩耶殿はどれだけ苛立ってもアンシブル通信で怒鳴り込んでこないあたりよくよくマナーのできた方でありますなぁ!

「いや、そういうのいいから」

 三白眼であります。

「はぁ…………もういい。鳳翔さンに頼ンで冷蔵庫で冷やさせてもらってるから、さッさと食ッちまおう。イライラは甘いモンで解決するに限る」

 それには全く同意でありますな。

 あ、自分、ご飯まだなので食券買ってきていいでありますか?

「おう、早くしろよー」

 摩耶殿の許可を取って、厨房へと向かう背中を見送ると、さてさて、早速今日の晩飯を選ぶのであります。

 券売機の前に陣取って、さあ、今日は何にするでありますかなあ。

 実際、食べることくらいしか楽しみないでありますからなあ。

 

 あきつ丸であります。

 摩耶殿も待たせているでありますし、ちゃっちゃと何食べるか決めるであります。

 えーと、D定食は美味しそうなひき肉で作ったハンバーグ。んー、ハンバーグって気分じゃねえでありますなあ。昼ステーキ食ったでありますし、がっつり肉ってんじゃあないんでありますよ。

 でも海鮮ってのもなあ。悪くないんでありますけど、これがなあ。この、『本日の海鮮』がなぁ。夜になったから、朝のとは変わってるんじゃないかなーと期待してたんでありますけど、まあ実際変わってたんでありますけど、これはなあ。

 

本日の日替わり海鮮

・甘海老

・太刀魚

・ギロドゥス

・クラーケン(深雪ちゃんお見事!)

・ヒッポカンポス(海洋研究室より頂きました)

・シルバースイマー(仮)

・オヨギサンゴの一種

 

 もうどうなってんのこの海域。

 朝より悪化してるんじゃなかろうか。そりゃあ天龍殿もコンプリートに勤しむわ。

 生態系って言葉がいろいろ信用ならんでありますなあ。まあ深々度『海域』は基本狂ってるでありますけど。

 やっぱり海鮮は止めておくであります。毒見役が横に居ない状態でこの手のゲテモノに挑戦するのはちょっと……。

 

 あきつ丸であります。

 さてどうするでありますかなあ。気分的には洋食はないかなというところ。昼食ったでありますし。饂飩とかラーメンとか、さっと食えて摩耶殿をお待たせしないようなのもあるはあるでありますが、麺類って気分でもないでありますしなあ。

 やっぱり米でありますよ、米。昼飯の時はパンと米の二大巨塔とか言ったでありますけど、やっぱり食いなれた米が一番舌にも心にも嬉しいところ。

 なお、自販機と同じく軽油や精製艦娘燃料はスルーであります。エネルギー変換効率はともかく食事としてあれを摂取する気にはならんであります。字面的にも絵面的にも完全に単なる燃料補給ではありませんか! スニッカーズをマックスコーヒーで流し込んだほうがまだマシ。

 食事を単なるエネルギーの補給だと思っている方は、人生をかなり損していると個人的には思うのであります。食事というのはただものを食べることだけを指すのではないのであります。フードコーディネートという言葉はご存じで?

 食には、使われる素材や、調理された料理だけでなく、それを盛り付ける皿、どのような盛り付けか、何処で食べるのか、誰と食べるのか、何時食べるのか、何の集まりで何を目的としているのか、予算はいくらか、数え上げればきりがないほど多くのことと結びついているであります。

 またその背景にどんな環境、文化、思想があるかといったマクロな視点から、成分や栄養素、組み合わせた時の効能などといったミクロの視点まで、そしてまた提供の仕方、タイミングといった技術的側面まで、あなたが食べる一口には思いも寄らない数多の苦労があるのであります。

 第一、食事なんてただの栄養補給と称して、インスタント食品やレトルト、ファストフードをさっと詰め込むあなたにしても、その燃料補給スタイルさえ様々な企業が練りに練ったフードコーディネートによって支えられているのであります。

 どうすれば手軽に食べられるか。どうすれば面倒がないか。包装は開けやすいか。手を汚しにくいか。保管はしやすいか。手軽さに比して満足感はどうか。飽きは来ないか。そういった様々が、あなたも知らない内に丁寧に準備された上であなたに提供されているのであります。

 でもそんなことは今はどうでもいいであります。

 いま大事なのは何を食うかということであります。悩みとは一つのフードコーディネート。何を食べるかと迷うことすらも、食事を楽しむその一環なのであります。腹を空かせて食を思う。それさえも食を彩る云々かんぬん。

 

 あきつ丸であります。

 悩むのもまた楽しいことではありますが、摩耶殿も待たせているでありますし、早めに決めないとでありますなあ。

 しかしこうして券売機を眺めてみても、なんだかこう、いまいちピンときませんな。出撃などのない小規模な鎮守府とはいえ、内勤の艦娘等を含めれば結構な数の艦娘は養ってるだけあって、品数も豊富で、様々なニーズに応えるいい食堂であります。

 ただなあ、でもなあ………昼あんだけいいもの食べてしまったでありますからなあ。何でもない平日にあんないいもの食べたんでありますよ? ここ暫くお眼にかかったことのないような上等なランチだったわけでありますよ? 飯食うだけであんだけ尺取ったんでありますよ?

 ここの食堂美味しいでありますけど、でも、比べてしまうと、なあ。

舌が完全に肥え切ってしまったでありますよ。このままでは何を食べてもスピローズのランチと比べてしまって、まともに飯が楽しめんであります。

 フムン。ここは仕方がない。あれでいくであります。

 券売機にトークンを投入し、ボタンをプッシュプッシュ。キャバァーン。落ちてきたプラスチック製の食券を手に取り、受け渡し口へ。

「大盛り、飯抜きで頼むであります」

「え。ほんとにいいんですか? なんか辛いことでもあったんですか?」

 受け渡し口の艦娘に食券を渡したら、正気を疑うような目で見られたであります。でもちゃんと作ってくれるであります。

 盆にお冷を五つほど並べ、少し考えてもう一杯追加し、料理を受け取って摩耶殿の待つテーブルへ。苦行を控えた修行僧のごとき心持で椅子に腰を下ろし、待たせたでありますな、割り箸を割る。これで舌を叩き直してやるであります。

「…………………なに、それ?」

「キムチ丼大盛りご飯抜き」

「ハラキリマゾが過ぎンだろ……」

 

 あきつ丸であります。

 今後美味しくご飯を食べるため、美味しすぎる味覚記憶を排除するべく、キムチ丼大盛りご飯抜きという狂気の沙汰に挑むも、食堂艦娘の気遣いか気違いか飯の分までキムチを詰め込んだキムチメガ盛りという倍プッシュに出迎えられるのでありました。

 じゃくじゃく、じゃくじゃく。

「あのさァ……」

「んぐっ、んっ、ふ、なんでありま、ふか?」

 じゃくじゃく、じゃくじゃく。

「それ、旨いか?」

「あぐっ、ふっ、んっぐ、うまそうに、みえる?」

 じゃくじゃく、じゃくじゃく。

「辛くないのか?」

「けふけふっ、くっ……辛い。辛(から)くて、辛(つら)い」

 じゃくじゃく、ごっくごっくごっくごっくごっく。

「ぐへぇ………流石にこれをおかわりとかはできねぇであります」

「する必要ねェだろ!?」

 くっそう。くそう。辛い。つらい。一杯二杯の水では洗い流せないレベルであります。

 ここまで苦しめられたのはす○家でキムチ牛丼メガ盛り25辛を頼んだ時以来であります。

 確か当時、プラス1辛20円、だったように思うであります。

 このプラス1辛というのはキムチの漬け汁を追加、ということであります。

 気になって何辛まで行けるかと聞いてみたら、「分からないが多分果てしなくいける」などと言うので、これは、この挑戦は受けねばな、と。売られた挑戦は買う所存であります。

 最初は切りよく50で行こうと思ったところ、流石に店員もビビった、らしいであります。厨房で驚愕と相談を繰り広げ、在庫を確認の結果、50もないので、申し訳ないが、とのこと。まあない袖は振れないというでありますし、仕方がないであります。

 まあそこで止めておけばよかったものを、うっかり25個はあるんですけど、とか零しちゃうからもう………そりゃあ、そんな挑戦受けるでありますよ。受けちゃったでありますよ。25辛ください、と。

 結果、少しして提供されたのは、丼のふちまでひたひたに、塗料のごとき真っ赤な漬け汁に浸った牛丼と、入りきらなかったもので、と別添えで小鉢に注がれて持ってこられた漬け汁。自分で頼んでおきながら何でありますが、入らなかったなら止めろよ、と。

 せめて一言いえよ、と思わないでもなかったでありますが、こんなクレイジーな注文をしらふでかましてくる厄介なお客さんと、少しでも会話したくないのは深夜バイトの切実な本心でありましょう。自分でもそうするであります。誰だってそーするであります。

 ともあれ、こいつを食うにはなかなか苦労したであります。なにせ丼の最下層、一番下の米にまで染み透った漬け汁のために、もはや触感は飯というより雑炊。時間をかければかけるほど漬け汁を吸うため、見た目以上に重かったであります。

 最終的に舌が麻痺した上に心が麻痺した状態で平らげ、さて問題は残った小鉢の漬け汁。途中で牛丼にかけつつ使おうかとも思ったでありますが、かけたところで泥沼が沼に変わる程度だったので結局最後まで残ってしまったでありますが……。

 結論から言えば、飲んだであります。ちびちび飲んだのではからいにもつらいにも程があるので、一気飲みであります。もう舌が麻痺してたので実際は辛いとは感じなかったでありますが、後々響いてきたのは内臓であります。

 トウガラシに含まれるカプサイシンの毒性は劇物相当。辛さとはすなわち痛覚への刺激。発汗を促し、心筋に作用するというのは、弱ければ薬効でありますが、十分毒物と言っていい代物。素人にはお勧めできないであります。

 あきつ丸レポートは健全な食文化の振興を傍から応援しております。皆様のご協力と食文化への一層のご関心を一歩離れて煽っていきたいと思っております。よしなに。

 

 あきつ丸であります。無事赤い海ことキムチ丼大盛りご飯抜きを平らげた所であります。食堂艦娘の気遣いでおかわりなんぞ盛られないよう気を付けて返却台に返し、追加でオレンジジュースを購入。

 辛い物を食べて舌が麻痺してしまった、というときにはディスパライズより甘いものであります。辛味で麻痺してしまった舌を、甘味が回復してくれるのであります。なので激辛料理を食べている最中に甘いものを飲むと、舌が慣れることなく何時までも激辛を楽しめるマゾ仕様。

 まあ、ともあれ舌も回復させて、藪犬庵の餡蜜であります。

 色取り取りの寒天に、求肥餅。干し杏に柔らかな漉し餡。散りばめられた雛霰。小さな芸術品と呼んで差支えない素敵な餡蜜が今、自分の席にいつの間にか腰かけたやつに食われてる。

 食われてる。

「ギョギョーッ!?」

「落ちつけあきつ丸! 水木しげるの漫画に出そうな顔しやがッて!」

「ばっ、おまっ、それっ、」

「フムン………餡蜜だな」

「自分のなッ!」

「美味かったぞ」

「フハーッ!?」

 こちらの抗議も狼狽も完全に無視して、ちんまりとした餡蜜をぺろりと平らげたのは、2メートル半の体を灰色のつなぎに窮屈そうに詰めた、大和型超弩級戦艦2番艦武蔵モデルの艦娘でありました。

 

 

 

 

[◆◇◆◇◆]

 

 

 

 あきつ丸であります。

 地獄キムチ丼を平らげ、安息の地へと向かったあきつ丸。しかしそれを待ち受けていたのは余りにも残酷な現実であった、みたいな感じであります。

 食堂の安物の椅子をぎしぎしと軋ませて何とか腰かけている、それ殆ど空気椅子なんじゃないのという状態の、身長2m半の巨体。大和型超弩級戦艦二番艦武蔵。服装こそ今はつなぎではあるものの、色々属性詰め込みすぎた視覚的暴力が、自分の餡蜜を奪い取った暴虐の塊であります。

「というか摩耶殿もなんで止めないんでありますか!? 自分の餡蜜でありますよあれ!」

「あたしに止められると思ッてンのか」

「正論すぎる!」

 縮尺間違ってるとか出てくる作品間違ってるとか言われかねないこの巨体。そりゃ文句も言えまい。

 ほんともう、この戦艦勢はもう、ほんともう………お前ら男塾とか北斗の拳とか其処等辺の存在でありますから……オーラででかく見えてるレベルでありますから……。もしくはキャプテン翼……。

 それで、こちらの方は一体……?

「私が大和型超弩級戦艦二番艦武蔵である!」

 見りゃわかるよ視覚情報がそのまんま自己紹介でありますよあんたは。

「以上!」

 以上じゃねーでありますよ。

 しかしこの、武蔵があと十隻いれば第二次世界大戦は勝てた、と言わんばかりのオーラ。もしかして最後のぼくのかんがえたさいきょうのかんむすなのでありましょうか。まあ大和殿には実際にはお会いしていないので、最後ではないでありますけど。

 しかし、最後の一隻は確か電脳特化型の亜種だとか。亜種というのが何を指すかはわからないでありますが、しかし電脳特化型、というタイプには見えんでありますなあ。なんだこのインテリメガネのガテン系。

 戦艦モデル、それも大和型の演算能力は極めて高いでありますが、普通のモデルでももてあますほどの火力と装甲を差し置いて電脳特化にする意味も分からんでありますし。うーん。謎であります。

「あー、あのだな。武蔵はその……」

 口ごもる摩耶殿。気にした風もなく山のようなカレーを頬張る武蔵殿。

 この泰然としたご様子。摩耶殿の困ったような苦笑い。もしや何か特殊な艦娘なのでは……?

「うちの鎮守府の、用務員さンだ」

 はぁ?

「正確には設備管理部の艦娘ッて扱いなンだが」

「私がアーセナル鎮守府設備管理部部長武蔵である!」

 うるせえ!

「おかわりを所望する!」

 食券買ってこい!

 

 あきつ丸であります。現れるなり視覚的暴力と略奪行為を振るった艦娘が、実はぼくのかんがえたさいきょうのかんむすでもなければ戦闘要員でもなく、設備管理部所属のとどのつまりが用務員筆頭であったというクソみたいな夜であります。

 考えてみたら、痴女みたいな服じゃなくつなぎ着込んでたのもそれが理由なのでありますな。よくよく見てみたらちゃんと設備管理部と刺繍も入ってるであります。ただ、遠くからでも見分けがつくようにと大きめに本人の名前も刺繍されているのが、そこはかとなくヤンキーっぽい。

 武蔵って。でかでかと武蔵って。

 いや、いい名前でありますけど、つなぎにでかでかと刺繍された武蔵の二文字はチーム名かと疑われかねんでありますなあ。武蔵モデルは褐色に銀髪とか見た目からしてアレでありますからなあ。

 しっかし、なんでまた戦艦クラスを用務員になんてつけるんでありますかね。大抵どこの鎮守府でも設備管理部なんてのは、人間の職員がやっているか、駆逐艦の仕事であります。駆逐艦では背が低いので、軽巡が入ることもあるでありますけど。

 戦艦や空母と言う艦種は出撃させて何ぼの主力でありますから、普通は後方勤務になることってないのでありますよなあ。もちろん、その演算能力が必要とされたり、特別な事情があったり、というのはよくある話でありますが……しかしそれにしても、大和型であります。

 決戦兵器と呼ばれることもある大和型。消費もでかいので普段は待機していることが多いでありますが、それでも用務員やってるというのはなかなか聞かないでありますなあ。

 まあ、世の中、海もないエジプトはスエズで掃除婦やってる長門モデルもいるらしいでありますし、おかしなことでもないのかもしれないでありますが。

 しかしまたその用務員の武蔵殿が何の用で、

「私がアーセナル鎮守府設備管理部部長武蔵であるからだ!」

 それはもういい。

 

 あきつ丸でありm

「戯言はこの辺にしてだ!」

 始めたのはてめぇだゴルァ!

 フリーダムに我が道を突き進む武蔵殿。二杯目の山盛りカレーを綺麗に平らげ、徐に話を切り出してきたであります。えー、もうなんでありますかー。もう待ちくたびれたでありますよー。摩耶殿とモンティ・パイソンとホーリーグレイル談義するので忙しいんでありますけどー。

「まあそう言うな。私も何も理由なくお前の邪魔をしようというのではないぜ」

 不敵な笑みで懐から封筒を取り出す武蔵殿。中から三つ折りの書類を取り出して、こちらに放ってくるであります。すげぇ嫌な予感。

 とりあえず受け取ったからには開いて検めるしかないであります。

 えーと、なになに…………請求書、だと……?

 しかもちょっとお財布的に厳しいというか、手持ちからはちょっと支払えない額なのでありますが。

「忘れたとは言わせんぞ。お前が細工してくれた自動販売機六台。それに廊下にワイヤーを張るために打ち込みまくったビスと重力地雷とやらで破砕したタイル。比叡の踏込で割れたタイルは向こうに請求してあるから安心しろ」

 なっ、ば、馬鹿な……。

「何してンだお前………」

 仕方がなかったのであります! あれは仕方がなかったのであります! 島風殿を捕まえるためにはいろいろと仕込が……そう、そうであります! そもそもあれは比叡殿の依頼! 比叡殿が支払うべきでは!

「あそこまでやれとは言ってない、とのことだ。第一口約束だろう。契約書も交わさず、お前の独断でやったのだからお前に支払い責任がある」

 ご尤もでありますクソウ!

 あ、そ、そうであります。そういえば金剛殿も壁を壊してたであります。あれは請求しないでありますか? 自分ばっかり請求されるのはおかしいであります!

「あれは保険が下りた」

 ふぇあ?

「鎮守府所属の艦娘はみんな保険に入ってるからな。軽い物損くらいなら保険が下りる。給料からの天引きもできるから手間いらずだ。客分のお前は保険に入っていないから、全額きっちり払ってもらおう。何、手持ちが心許ない? 陸軍の経費も落ちそうにない? 車を修理に出したばかりで貯金も余りない? なあに、安心しろ。このくらいの額ならすぐに稼げるだろう。知ってるか? 特注品の艦娘は、指一本でも高く売れるぞう。内臓なら闇相場で売れば一発だぞ?」

 いっそ慈しむかのように肩に回された巌のごとき腕の中、不肖あきつ丸、借金請求に見舞われるのでありました。

 

 あきつ丸であります。

 思わぬ高額請求に見舞われ、強制労働施設行き50年とか、内臓を幾つか脱脂綿と交換するとか、そういった系のアルバイトは幸いにも免れたであります。

 設備管理部の武蔵殿から、経理にはもう話は通してあるから、と高額アルバイトをお受けしたのであります。お受けしたというか押し付けられたというか、負債をちらつかされて断れなかったのでありますが。

 まあ、全額支払ってなお余りのある賃金が入るとのことでありましたし、鎮守府内部の部署とかかわりを持てるというのも悪くはないであります。まあ、極めて胡散臭くて非常にキナ臭くて、危険の香りがするでありますが……。

 負債がある以上断れないので前向きに考えたいのでありますけど、どうもなあ。どうにもなあ。嫌な予感ってやつは如何ともしがたいであります。予感というか。確信というか。掌の上で転がる虫けらだって、慣れてくりゃ皺の模様から立ち位置だってわかってくるものであります。

 依頼内容は、鎮守府居住区での人探しであります。人探しというか、艦娘探しというか。何でも、居住区で働いており、定期的に顔を出して報告するはずが、ここ暫く連絡の一つもないとのこと。

 ああ、やだやだ。面倒事のにおいぷんぷんであります。

 鎮守府側、つまり看守側を嫌っている収監者たちの街、居住区。そこで働いているということは、素性を隠して潜伏しているか、報酬のために協力している現地協力者でありましょう。

 それからの連絡が途絶えて、確認して来いと。

 死んでりゃ追加捜査もありそうでありますし、生きてるなら謀反の気配あり。やーだーもーうー。自分そういう暴力の気配ほんと苦手なんでありますよう。殴りあったり殺し合ったり、野蛮であります。

 戦艦連中とか空母連中とか、結構深海棲艦関係なく殴り合いや殺し合い大好きでありますけど、理解できんでありますなあ。平和主義の自分にこういう仕事任せてどうなるものかと………ああ、あんまり表沙汰にならんでありますもんな、自分だと。

 仕事の仕方に関しても、うっかり死んだときに気にしなくていいってのも。

 これ客分に対する仕打ちでありますかねえ。まあ完全に間諜ってのばれてるので、当然といえば当然かもな仕打ちではありますけど。

 まあこれも信用を得るためのお仕事と考えて、まじめにやるしかないのでありますかなあ。

 

 

 

[◆◇◆◇◆]

 

 

 

>>録音記録a.██.██より抜粋開始

 

「ちょっと、どういうつもり?」

「何が?」

「あのカエルの事よ。居住区の件で送り込んだって」

「ああ、それね」

「それねじゃないわよ。ただでさえ派閥争いの動きが見えてるのよ?」

「そうらしいねえ」

「あんたねえ……。アイズが連絡忘れるのはいつもの事じゃない」

「あの娘も無精だからねえ。とはいえ今回は、多分派閥の縄張り争いで忙しいんだろうけど」

「それって、要するに、もう『調整』に入ってて、夢中ってことじゃないの?」

「まあそうだろうねえ」

「そんなとこに放り込んだら、ただじゃすまないわよ、あのカエル」

「ただじゃすまない、というよりは、ただで済ましちゃ面白くない」

「なんですって?」

「折角監視の目も緩い、動きやすい舞台を用意してあげたんだ。あれがどこまでできるのか、ちょっと見てみたくてね」

「それで死んだら、」

「そこまでってことだね」

「………」

「あれに武力はそこまで求めていないけど、あるに越したことはない。それに土壇場の派閥間抗争の中で、どう決着をつけさせるのか。最低でもスペックデータ以上のものは見せてくれないとね」

「信頼性に乏しいとはいえ、一応はあれ、ようやく手に入れた布石なのよ?」

「だからこそ慎重に試してみないとね。普通なら壊れる高さから落として試さなきゃ、今日日携帯ゲームも開発出来やしないよ」

「随分時間をかけて仕込んだのよ。これでしくったら次は、」

「待つ分には困らない。仕込みもやり直せる。大事なのは確実性だよ」

「…………」

「君たち艦娘は目先の事に囚われやすい。即決力があることはいいことだ。けれど人間の悪意は百年かけて一匹の蝶を絡め取る。自分が哀れな蝶になりたくなければ、百年伏して蜘蛛にならなければ」

「連中が安心しきったところで、玩具箱をひっくり返してやるんだから」

 

>>抜粋終了

 

 

 

[◆◇◆◇◆]

 

 

 

Tips.

 

 

>小ネタ

 

・どれだけ苛立ってもアンシブル通信で怒鳴り込んでこない

普通はマナーだなんだと言ってもキレたら怒鳴り込むくらいのことはする。

あきつ丸のような諜報員はアンシブル中継器にひっかかるので気を付けるが。

 

・美味しそうなひき肉

伯邑考……。

 

・甘海老

握り寿司などで目にすることが多いか。

生で食べると甘みがあり、そのため甘海老の呼び名がある。

 

・太刀魚

見た目が太刀に似ていることから太刀魚、帯に似ているため帯魚(たいぎょ)が語源、立ち泳ぎするから立魚など諸説ある。

肉は柔らかく美味である。

 

・ギロドゥス

ジュラ紀中期から白亜紀後期にかけて生息していたとされる魚類。

縦長で横から見ると円形と、マンボウに似ている。

 

・クラーケン

北欧の伝承にある海の怪物。ダイオウイカのような頭足類をイメージすることが多いかもしれないが、タコやウミヘビ、鯨、甲殻類やドラゴンなどさまざまな伝承がある。共通するのは島と見間違うほどの巨大さということである。

今回「深雪ちゃん」が捕まえたのはおそらく攻撃的な大型イカの一種ではないか。

 

・ヒッポカンポス

ギリシア神話に登場する半馬半魚の海馬。

ここでは『海域』特有の海生哺乳類の一種で、神秘的要素はなく魔獣でも霊獣でも神獣でもない。

ここでいう海洋研究室とはアーセナル鎮守府に所属している研究団体の一つ。同様の研究者団体は多くの鎮守府に存在する。

 

・シルバースイマー(仮)

テレビ番組『フューチャー・イズ・ワイルド』に登場する未来の生物。

甲殻類の子孫がネオテニー化して幼生のまま繁殖するようになったものとされる。

(仮)とついているのは、それらしい外見から仮称しているだけであり、実体はまだ生物学者の研究中だから。

 

・オヨギサンゴ

多分何か元ネタがあったと思うのだけれど定かではない。

多分ポケモンのサニーゴあたりだろうか。

 

・スニッカーズ

マース社の再像・販売しているスナック・バー。

ピーナッツ入りのヌガー、ピーナッツのキャラメル絡め、ミルクチョコレートの外殻から構成される。

 

・キムチ丼大盛りご飯抜き

「戯言シリーズ」(西尾維新)の狂言回しいーちゃんが、美味しすぎる食事に慣れてしまった舌を治すために学食で頼んだもの。要するにキムチ大盛り。

 

・す○家でキムチ牛丼メガ盛り25辛を頼んだ時

レポート編纂者の実体験。

 

・自分でもそうするであります。誰だってそーするであります。

「ジョジョの奇妙な冒険」(荒木飛呂彦)第四部「ダイヤモンドは砕けない」に登場する虹村形兆の台詞「おまえは一枚のCDを聞き終わったらキチッとケースにしまってから次のCDを聞くだろう?誰だってそーする。おれもそーする」から。

 

・ディスパライズ

ペルソナシリーズに登場する「サトミタダシ薬局店のうた」から。

 

・ギョギョーッ!?

さかなくんさんではない。水木しげるの漫画で頻出する驚きを表す叫び。

 

・フハーッ!?

こちらも同じく水木しげるの漫画で頻出する。

 

・男塾とか北斗の拳とか其処等辺の存在

どれも同じ人間とは思えない身長差の人間が同時に存在する。

 

・キャプテン翼

頭身がいろいろ話題になる。

 

・「私が大和型超弩級戦艦二番艦武蔵である!」

「魁!!男塾」(宮下あきら)に登場する江田島平八の台詞「わしが男塾塾長江田島平八である!!」から。

 

・武蔵があと十隻いれば第二次世界大戦は勝てた

上述の江田島に関する逸話で、アメリカ大統領に「EDAJIMAがあと10人居たらアメリカは敗北していただろう」と言わしめたというものがある。

 

・エジプトはスエズで掃除婦やってる長門モデル

あきつ丸レポートはアフリカの星逆氏の「スエズ鎮守府」を応援しています。

 

・モンティ・パイソンとホーリーグレイル

モンティ・パイソン・アンド・ホーリーグレイル。

1974年に公開されたモンティ・パイソンによる低予算で作られたコメディ映画。イギリスのアーサー王伝説をもとにしたパロディ作品。

 

・強制労働施設行き50年

「賭博破戒録カイジ」(福本信行)より、「地下行きだっ…! 1050年地下行きっ…!」から。

 

・内臓を幾つか脱脂綿と交換

「魔人探偵脳噛ネウロ」(松井優征)にて素敵な資金捻出方法として提案されたひとつ。

 

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