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[◆◇◆◇◆]
着任三日目。一〇三〇。
ぽいぽい教徒と和解し、ムツリム達が侵攻している商業地区港湾方面にやってきたわけでありますが。
どうも街というより、倉庫街といった感じでありますなあ。民家や商店などは全然なく、車両の通れる大きな道路が規則正しく並べられ、その間に規格ものの倉庫を並べたような区画であります。
「この辺りはキャピックやイクサスから出荷される物が保管される地域たからアル。輸入品なんかもここのとっかの倉庫にあるはずアルネ」
成程。他の区画との接続部に近いところに集積所を作ったのでありますな。作ったのか自然にそうなったのかは知らんでありますが。
既に武力的布教を始めていると聞いたのでどうなっているかとひやひやしていたでありますが、倉庫街であればそんなに人的被害もなさそうでありますな。見たところ静かで穏やかでありますし、適当に車でも盗んでちゃっちゃと進んじまってもよさそうであります。
「アキツマル、静かなのが不味いアル」
フムン?
「ぽいぽい教に封鎖されているとはいえ、ここは本来今日も通常営業してるはずだたアル。イクサスやキャピックからの積み荷を降ろし、分類し、倉庫に運搬し、また倉庫の品を発注に合わせて運ぶアル。
ここで働いてるはずの人、どこ行ったアルか?」
静かで穏やかな倉庫街。人の声もなく、車の走る音もなく、鳥の囀りさえも聞こえない。およそ人の気配を感じさせない、荒涼とした風だけが、影もない道を駆け抜けて行ったであります。
ここで働いていた人たちは何処に行ったのか。そして何かがあったというのならば、それをなしたであろうムツリム達の姿は何処にあるのか。
「まるでメアリー・セレスト号アルネ」
リー殿の呑気な呟きが、静寂に包まれた倉庫がに小さく木霊するのでありました。
[◆◇◆◇◆]
着任三日目。一一〇〇。
人っ子一人見当たらない倉庫街を歩き回って早三〇分。いまだに第一町人を発見できずにいるどころか、ムツリムとのエンカウントすらなしであります。
幾つもの倉庫を見て回ったでありますが、何処にも人影はありませんでした。しかし、その痕跡だけは至る所で見受けられたのであります。つい先程まで作業していたような形跡。まだ湯気の立つ珈琲。中途半端に荷物を持ち上げたフォークリフト。火のついたまま転がった煙草。
それらは皆、乱暴に連れ去られたとか、殺されて死体を持ち去られたとか、そういう暴力の気配が伺えない不可解な消失でありました。まるで我々が訪れるまでは変わらない日常を過ごしていて、我々が近づいた途端に掻き消えてしまったかのようでありました。
なんともはや、不気味であります。
リー殿ではないでありますけれど、これではまるでメアリー・セレスト号でありますなあ。
「ネー、アキツマルー。誰もいないなら早く先に進むヨロシ。時間はとんとん進んで戻らないのコトヨ」
まあ、そうしたいのはやまやまなんでありますけれど。
しかしこうも怪しいと、最低限退路は確保しながらでないと危険であります。うっかり確認しなかった倉庫からムツリムの集団がどっと現れて襲ってくる、なんてことがないとは言い切れないであります。多少時間はかかってもこの異常な事態。危険は潰しながら進みたいであります。
「フーン。アキツマルてさー、いつもそんなコト考えてるアルか?」
「はあ、まあ、職業病でありますかねえ。リスクを冒さなければいけない状況もありますけれど、そうでないなら極力リスクは減らすのが大事でありますから。自分が死なない事が最優先であります」
スパイ物の映画となんかだと、命懸けのやり取りやらスタント紛いのことやら冒険じみた賭けなんかが常套手段でありますけれど、そういうのは結局どうしようもなくなったどん詰まりにやることなのであります。無理をしなければいけないのは作戦に無理があるから。
痕跡を残さず、仕事だけ終えて帰るには、無理は極力減らさなければならんであります。来た時よりも美しく、これ今月の陸軍情報部のスローガンであります。遠足もスニーキングミッションも諜報活動もおんなじであります。残していいのは残した方が都合のいいネタだけであります。
ともあれ、引き続き調査を続けながら進むであります。
エンカウントゼロのまま過ぎ去った三〇分に、少々不気味なものを感じながら、我々は倉庫街を進むのでありました。
[◆◇◆◇◆]
着任三日目。一一〇〇。
人っ子一人見当たらない倉庫街を歩き回って早三〇分。いまだに第一町人を発見できずにいるどころか、ムツリムとのエンカウントすらなしであります。
幾つもの倉庫を見て回ったでありますが、何処にも人影はありませんでした。しかし、その痕跡だけは至る所で見受けられたのであります。つい先程まで作業していたような形跡。まだ湯気の立つ珈琲。中途半端に荷物を持ち上げたフォークリフト。火のついたまま転がった煙草。
それらは皆、乱暴に連れ去られたとか、殺されて死体を持ち去られたとか、そういう暴力の気配が伺えない不可解な消失でありました。まるで我々が訪れるまでは変わらない日常を過ごしていて、我々が近づいた途端に掻き消えてしまったかのようでありました。
なんともはや、不気味であります。
リー殿ではないでありますけれど、これではまるでメアリー・セレスト号でありますなあ。
「ネー、アキツマルー。誰もいないなら早く先に進むヨロシ。時間はとんとん進んで戻らないのコトヨ」
まあ、そうしたいのはやまやまなんでありますけれど。
しかしこうも怪しいと、最低限退路は確保しながらでないと危険であります。うっかり確認しなかった倉庫からムツリムの集団がどっと現れて襲ってくる、なんてことがないとは言い切れないであります。多少時間はかかってもこの異常な事態。危険は潰しながら進みたいであります。
「フーン。アキツマルてさー、いつもそんなコト考えてるアルか?」
「はあ、まあ、職業病でありますかねえ。リスクを冒さなければいけない状況もありますけれど、そうでないなら、」
「そうじゃなくてさー」
「フムン?」
「消えた住民心配なんてそんな偽善者みたいなコト考えなから、仕事がどうだ任務がどうだ他人なんか知たこちゃないて偽悪者みたいなこと言てるアルか?」
「…………フムン」
偽善者だとか偽悪者だとか、随分な言われ様でありますな。別にそんな偽善者みたいな考え持ち合わせちゃいないでありますし、そういうのを偽善と吐き捨てながら見捨てられない偽悪者って訳でもないでありますよ。
ただ、自分には仕事をしている一人の大人として、本音と建て前っていうのがあるというだけの話であります。そしてそれはどちらが真でどちらが偽だということもない。薄っぺらな理由しかない本音もあれば、深い意味合いのある建前もある。
「つまり?」
「街が異常事態にあるのに見捨てて放っておくとかすっげー後味悪いしすっきりしないし寝覚めも悪けりゃご飯も美味しく食べられない。あと死にたくもないので警戒するに越したことはないって感じであります」
「偽悪者乙」
「もう好きにするでありますよ」
にやにやと鬱陶しくにやつくリー殿を引き連れて、溜息を一つ。
まあ、実際、偽善者は偽善者だろうと思う。自己陶酔とか自己満足以上の意味などないのだ。そしてそれを中途半端に恥じるから偽悪的態度で誤魔化そうとする。面倒な性格であります、全く。
ともあれ、引き続き調査を続けながら進むであります。
エンカウントゼロのまま過ぎ去った三〇分に、少々不気味なものを感じながら、我々は倉庫街を進むのでありました。
[◆◇◆◇◆]
着任三日目。一一〇〇……うん?
人っ子一人見当たらない倉庫街を歩き回って早三〇分、でありましたかな。いまだに第一町人を発見できずにいるどころか、ムツリムとのエンカウントすらなしであります。
幾つもの倉庫を見て回ったでありますが、何処にも人影はありませんでした。しかし、その痕跡だけは至る所で見受けられたのであります。つい先程まで作業していたような形跡。まだ湯気の立つ珈琲。中途半端に荷物を持ち上げたフォークリフト。火のついたまま転がった煙草。
それらは皆、乱暴に連れ去られたとか、殺されて死体を持ち去られたとか、そういう暴力の気配が伺えない不可解な消失でありました。まるで我々が訪れるまでは変わらない日常を過ごしていて、我々が近づいた途端に掻き消えてしまったかのようでありました。
なんともはや、不気味であります。
リー殿ではないでありますけれど、これではまるでメアリー・セレスト号でありますなあ。
…………確かリー殿でありますよね、メアリー・セレスト号発言。
「ネー、アキツマルー。誰もいないなら早く先に進むヨロシ。時間はとんとん進んて戻らないのコトヨ」
…………そう、そうでありますなあ。時間は戻らないでありますな。
しかしこうも怪しいと、最低限退路は確保しながらでないと危険であります。うっかり確認しなかった倉庫からムツリムの集団がどっと現れて襲ってくる、なんてことがないとは言い切れないであります。多少時間はかかってもこの異常な事態。危険は潰しながら進みたいであります。
「フーン。アキツマルてさー、いつもそなコト考えてるアルか?」
「はあ、まあ、職業病でありますかねえ。……この話、前にもしなかったでありますかね?」
「エ、そうだたアルか? そんな気もしないでもないでも……」
リスクはあんまり負いたくないし、見捨てて放っておくのも後味が悪いって……いや、しかしどこでそんな話を? そんな状況があったでありますかね……?
ともあれ、引き続き調査を続けながら進むであります。
エンカウントゼロのまま過ぎ去った三〇分に、少々不気味なものを感じながら、我々は倉庫街を進むのでありました。
[◆◇◆◇◆]
着任三日目。一一〇〇。
人っ子一人見当たらない倉庫街を歩き回って三〇分位のはず、なんでありますけど、いや、本当に……?
倉庫の中を覗けば、人影はやはりなし。テーブルにはまだ湯気の立つ珈琲を発見であります。
「…………ゆげ」
「どうしたアルか、アキツマル?」
「まだ、湯気が、立っているでありますな」
「…………ホントにどうしたアルか?」
酷い既視感のようなものを覚えながら、つい先ほどまで作業していたような痕跡を見回す。倉庫の中程には、中途半端に荷物を持ち上げたフォークリフト……。
「リー殿、多分、そっちの奥に……落ちてないでありますかね」
「落ちてるて、何が…………アー……これ、見覚えが、アル、ヨーナ……」
「煙草……火のついた、ままの、煙草……灰の長さも、変わらない……」
つい先程まで作業していたような形跡。まだ湯気の立つ珈琲。中途半端に荷物を持ち上げたフォークリフト。火のついたまま転がった煙草。見覚えのない見慣れた景色に、頭痛がする。初めて見る景色だ。だがしかし、確かに嫌になるほど見てきた景色……!
「ちょ、チョトアキツマル! どこ行くアルか!?」
すぐに表に駈け出した自分を追いかけて倉庫を飛び出すリー殿。
見渡せば、規格ものの倉庫が立ち並ぶ変わり映えのしない倉庫街。
いや、いや、いや違う! 変わり映えがしないのではない!
「ポート切り替え! 壹番閉鎖、參番解放! ショートカットキー拾肆番!」
自在蔵を起動し、カメラ付きのクァッドコプターを取り出す。
カ号観測機といった武装を装備できない自分が俯瞰風景を得るためにはこうした機械の助けが必要になるのであります。クァッドコプターのカメラの無線送信器を網膜ディスプレイに接続し、論理コントローラーで上空へ飛ばす。
「アキツマル? 急にとしたアルネ?」
リー殿を無視して、クァッドコプターから送信される画像に注視する。遥か上空へと飛んだ無人航空機からの画像は、予想通りの問題を提示してきていた。
携帯端末を取り出し、ドローンからの画像を映してリー殿に渡してやる。
「……これは…………コピー&ペーストってレベル違うアルネ」
そこには碁盤目状に広がる倉庫街の姿があった。規格ものの、全く同じを姿をした倉庫が立ち並ぶ光景。そしてそれは、カメラの映し出す限りにおいて何処までも広がっていた。
全幅精々1.5㎞程度の鎮守府の敷地面積を大幅に超えて、カメラの解像度の限度まで。
しかも先程からの強烈な既視感。どうやら時間感覚や短期記憶にまで影響が出ているであります。
「ワーオ……何アルかこれ? 倉庫街がこんなに広いとは知らなかたアルヨ」
「そんな訳ねーでありますよ」
「たよねー」
どうやら我々はエンカウントしていない所か、すっかり完全に完璧に、ムツリムの罠の中には待っていたようであります。認識・記憶阻害の効果付の、無限ループ型の結界か。気づいた今となっては認識・記憶阻害も解除されたでありますが……問題はこのループ。
殆ど丸々倉庫街を巻き込んだ大型結界。最初から誰かがやってくるのを見越した上で仕掛けていやがったでありますな……。これだけの大規模となると、恐らく今回の取締役の殺害以前から仕込んでいたのでありましょう。
全くどれだけ用意周到というか……。或いはどんな計画が誰によって為されるか関係なく、いずれ使うだろうといういざという時の備えとしてこの手のものをあちこち仕込んであったのかもしれないでありますが……やれやれ。
「とーするアルネ、アキツマル? ワタシが終わらせてもいいのコトヨ?」
「バッドエンドでリセットってのは最終手段であります。とにかくさっさとこの結界を解除して、ムツリムどもを止めるであります。思いの外時間喰ったみたいでありますからな」
網膜ディスプレイ上の時計を改めてチェック。今まで結界によって阻害され改竄されていた認識が、正常なものに戻る。
現在時刻は一三〇〇。二時間半の足止めは、相応の代償を支払ってもらうであります。
[◆◇◆◇◆]
着任三日目。一三一〇。
ムツリムの無限ループ型結界に閉じ込められた我々。
しかもこちらの認識・記憶にまで阻害をかけてきやがったせいで二時間半も足止め喰らったであります。術者見つけたら見つけたらただじゃすまんであります。
「張り切るアルネ、アキツマル」
当たり前であります。無駄に時間喰わされたせいで昼飯くいっぱぐれるところだったんでありますよ。本来なら今頃何かしら現地食を口にしている筈だったのに。
「呑気アルねえ」
仕方なしに糧食をかっ込んで、缶珈琲を啜りながら調査開始であります。
「でもアキツマル、魔術師だったアルか?」
「違うでありますよ」
「えっ」
結界を張ってくるということは、敵ムツリムには魔術師、法術師など、術師と総称される特殊技術者がいることは間違いないであります。この特殊技術は艦娘技術が発見される以前から存在していたもので、長らく公にはされていなかった秘匿技術でもあります。
艦娘、というより艦霊を扱うなどと言う当時で言えばオカルトでしかない発想を技術的に支えたのが、当時魔術的技術の秘匿管理を携わっていた宮内庁、より正確には陰陽寮であります。魔術の公表を渋った欧州魔術協会を出し抜いて艦娘技術を開発し、対深海棲艦戦線を構築。
単体の深海棲艦相手になんとか対処しているような程度だった欧州も、深海棲艦という未曽有の危機に対し魔術の秘匿を緩和、ある程度の技術交換を開始……と言いうよりそうせざるを得ない程に動揺していたわけでありますが。
魔術的技術即ち神秘。魔術師にとって神秘の漏洩は死活問題でありました。神秘とはいわば大いなるものから流れ出す一筋の水の流れ。人類はその受け皿。魔術という者を知る者が増えれば増える程、受け皿は増え、扱える力は増える。
しかし使い方を知る者が増えれば増える程、流れ落ちてくる水の分け前は減る。艦娘技術という神秘の一種が爆発的に普及したことで関わる技術者は増え、神秘の力は激減……しなかったけれど、したのではないかと魔術協会は大いに動揺した。
実際には陰陽寮の仕掛けた一つの博打だったであります。艦娘技術は厳密には魔術の儀式ではない。艦霊から直接魔力を引出、艦霊という幻想の一部を顕現させる。殆どの神秘知識は伏せられたまま、ただ艦娘を作る術だけが広められた。艦娘という存在だけが知名度を得たまま。
「魔術の使い方を知っていることと、魔術を理解して知っていることは別物であります」
工具の使い方と教本通りの理屈を覚えれば、機械の修理位できる。或いは機械を組み立てることも。けれど、その裏にある闇を知らなければ、ブラウン管の悪魔の存在を証明することも否定することもできはしない。
陰陽寮は艦娘を広めることで世界に脅しをかけた。いままで根源に至るためにせっせと築き上げた秘めて密にする為の努力と妨害工作、それをいまや容易く破ることが出来るのだと、それが可能な数と暴力が艦娘にはあるのだと。神秘を暴かれたくなければ、協力しようと。
そうして極めて小さな範囲において技術交換は行われ、艦娘は各国で改良を続けられ、科学技術の皮をかぶったオカルティズムの結晶に成り果てたのであります。
今も魔術協会は陰陽寮を疎んでいるであります。
その為、欧州では陰陽寮対策として独自規格の艦娘の開発を進めたものの、最初に量産に漕ぎ着けたのが早々と陰陽寮と昵懇になった独逸・伊太利の両国だったりと、あまり足並みそろってないであります。
「アキツマルー、それ長くなるアルか?」
「あ、失敬」
えーと、なんだったでありますか。そうそう、魔術を使えることと魔術を理解し知っていることは別物だという事。
自分は魔術師ではない。というよりほぼ全ての艦娘は、魔術的知識を持たされていないし、艦娘を指揮する提督にしてもそう。未だに神秘は秘されたまま。魔術を行使できるものは相変わらず極々少数。人口爆発後の今となっては、戦前より余程小さな割合であります。
しかし神秘で動く艤装は動かせ、神秘で動く『自在蔵』を保有する。大量生産された魔術はもはや工業製品と大差ないのであります。それは、使用のし易さという点においても。
銃の構造を知らなくても引き金は絞れる。爆薬の成分を知らなくても爆破スイッチは押せる。理屈は分からなくてもアダプタをコンセントに挿せるし、電池は替えられる。理屈は知らなくても操作方法を知っていれば十分なのであります。
特に自分は陸軍所属艦。この手の術式については、霊力の殆どを自在蔵に持っていかれている魔術適正かなり低めの自分でも、知識だけは豊富に持っているのであります。
何故陸軍所属だと詳しいかと言えばほら、
「カトウ?」
「違うけど違わないでありますかなあ」
元々陰陽寮と昵懇だったのは帝国陸軍なのであります。海軍に肩入れして運営本部と癒着したのは深海棲艦が現れてからの事であります。
護国その他の為、陸軍は霊的な防壁にも力を入れていたのであります。それが舞台が海になったというだけであっさり手のひらを返しおってぐぬぬ、というのが陸軍上層部の悔しいところ。
ここで陸軍に救いとなったのが陰陽寮も一枚岩ではなかったこと。海軍に大いに肩入れするようになった土御門家に対し、幸徳井家は術師アシヤを引き入れて陸軍につき、表面上は両軍支えて国家磐石など笑顔を交わしながら水面下で呪いあっているとか。
まあともあれ、艦娘技術の深い所にはさしもの幸徳井家も手が出なかったようでありますが、ならば艦娘なんぞあしらえるようにと術師をマスプロダクトできるよう、軍人でも簡単な術を扱えるよう呪術セットを構築。自分はその簡易術師、言ってみれば術使いの教育済みであります。
本職魔術師と魔術勝負なんざできねーでありますが、野良術師の結界程度、読み解けないことは、まあ、よっぽど実力者でもなければ、可能だと思うんでありますよね、うん。
「そこで逃げるのヘタレアルネ」
うっさい。魔術師の能力はピンきりで判断しづらいんでありますよ。
ただまあ、この手の結界は構造さえ把握してしまえば自分でも解除できるはず。さっさと解除してしまうでありますよ。
着任三日目。一三二〇。
「ねーアキツマルー、まだアルかー?」
退屈そうにフォークリフトを玩具に遊んでいるリー殿。
操縦して、ではなく、パズル感覚で解体してという恐ろしい子供でありますが。
一方で自分が何をしているかというと、クァッドコプターをあちこち飛ばしているところであります。これは別に遊んでいるわけではなく、結界の基点を探しているのであります。
通常、範囲結界を張る時には何処から何処までを区切るのかという基点が打ち込まれているであります。それは結界の端であったり、逆に結界の中心であったりであります。小さなものであれば中心に一つ打ち、一定範囲を覆うことでも済むであります。
ある程度範囲が広い大規模結界の場合や、強力な結界を張る場合、一つではなかなか厳しい。特にループ型の結界は、ループ地点付近に基点が打ち込まれていることが多い。クァッドコプターを遠くまで飛ばし、ループして逆の地点から現れる、その境界を探しているのであります。
一見して無限の広さを持っているように見えるこの結界内は、実際には限られた空間をループしているに過ぎないであります。高高度からの映像では、自分が複数映っているのも確認済みであります。
延々と倉庫が続いているように見えるので恐ろしく広く見えるでありますが、実際に存在する倉庫は数えられる程度。手書きの地図をしたため、大雑把に基点があるだろう地点をチェックしていくであります。式を検めんと解らんでありますが、恐らくは四隅と中央、この五つ。
後は基点がどんな形をしていて具体的にどこにあるのかという事でありますけど……。
「こればっかりはさっぱりわからんでありますな」
「なんでアルか?」
フォークリフトを素材に直したリー殿と地図を覗き込む。
基点として使用されるのは魔方陣であったり魔法式であったり、置物であったりシンボルであったり、術者によって色々であります。魔術師であれば魔力の痕跡を辿ったりして探せるのでありますが、自分にはあいにく魔力探知能力はない。
なので近くまで行ったらそれらしいものを調べてみる、ということくらいしかできんでありますなあ。
「うへぇ、それワタシも手伝うアルか? 面倒臭いのコトヨ」
まあ、ある程度あたりはつけてるので大丈夫でありますよ。
魔術にとってシンボルは非常に大事な物であります。魔術を作るのはいわば『ことば』の力。認識であり、記述であり、意味づけであります。全く無関係の物を、全く無関係の術に使うことは、出来なくはないでありますけれど著しく効力を損なう。
炎を扱う術ならばサラマンダー等の火を象徴するもの、また呪文にも火に関わるものを込めることが多いであります。また様々な術を使う術師であれば、自分自身を象徴する何がしかのシンボルやキーワードを必ず持ち合わせている。
では、敵がムツリムであるとした場合、そのシンボルとは何か?
「……ムツ、アルネ」
「そう。陸奥モデル、或いは聖獣り陸奥たか。これに関わるものを探すであります」
まずは一番近い、東端の基点を探すであります。
着任三日目。一三三〇。
結界に覆われた倉庫外の東端。東西南北中央の五つにある筈の結界の基点の最初の一つを探して来た訳でありますが……。
「アキツマルー、ホントにここアルか?」
「多分この建物だと思うんでありますけどねえ」
東端に位置する倉庫。恐らくこの倉庫のどこかにあるとは思うのでありますが、いざ探すとなると手掛かりがどうにも。
ムツリムの仕掛けた結界。基点も恐らく陸奥や聖獣り陸奥たかに纏わる物とは予測されるのでありますが、自分もリー殿も魔術的素養はない。魔力を辿ることも痕跡を探すことも出来ないので、兎に角それらしいものを目視で探すほかないのであります。
「ムツ関連てとんなのがあるアルか?」
フムン。
陸奥と言えばそうでありますなあ。火災事故から炎や、引き上げられた菊の御紋、いや、そういう小難しい辺りではないかもでありますな。
陸奥と言うよりムツリムという宗教団体から考えれば、聖獣り陸奥たか、或いは蝸牛をモチーフとしたものが基点に使われていると思うでありますよ。
「カタツムリ……巻貝とか、渦巻きとか螺旋もアルか?」
ああ、そういうデフォルメされたものも考えられるでありますな。
「………………」
フムン。どうしたでありますか、リー殿。そんな苦虫でもダース単位で噛み潰したような顔して。
「コレさぁ……こういうのも螺旋アルかね」
そう言ってリー殿が示したのは、箱にぎっしり詰まった螺子でありました。
更に言えば、軽く見渡しただけでその手の螺子やら旋盤やら回転する系の工具・機械はてんこもり。しかも誰かがうっかり倒した状態をそのまま再現しているのか、倒れて床一面にぶちまけられた螺子も。
いやまあ、さすがにこんな小さなものではないと思うでありますし、何かしらしっかりと固定されたものを用いているとは思うでありますが……。
「絶対?」
「うぐ」
「それ絶対にそうって言い切れるアルか?」
そう、とは言い切れないのが魔術を知っているだけに過ぎない非魔術師の辛いところ。一つ一つしらみつぶしにするのは時間がかかりすぎるし、適当に決め付けて、違ったからとあとで戻ってくるのも面倒すぎる。
はっきり術式が刻み込んであるタイプなら自分でもわかるでありますが、かといってそれをこの中から見つけられるかというと…………。
こんなクソ下らないことに時間かけたくないでありますしお腹減ったでありますしいい加減七面倒になってきたでありますしゲームだったらこのあたりでクソゲー認定してコントローラー放り投げているところであります。
「アキツマルー、もういいんじゃないアルか?」
「もういいって何がであります?」
「これ飛ばしてもいいイベントアルよー。難解なたけの面白くもないパズルに頭捻るの止めて難易度下げるヨロシー」
まあ、うん、そうでありますよねえ。なんか負けた気がするので嫌だったでありますけど、これ以上ここでぐだぐだするほうが嫌でありますしなあ。それに嫌がらせという意味であれば、結界を仕掛けた側の期待を盛大にぶち壊したほうがいい嫌がらせになるでありますし。
よし。
そうするであります。
そうしちまうであります。
もう、やっちまうであります。
「リー殿、ゴー!」
「うぉー!あい!にー!」
基点ごと更地にするという脳筋解決法が倉庫を、機械類を、散らばった螺子を、多分基点を粉砕する!
着任三日目。一四〇〇。
リー殿に臨時収入を支払って、基点が打たれていると予想される地点ごと破壊して更地にするという脳筋極まる解決法を選択し、尺もないので東西南北の基点を根こそぎにしてきたであります。
しっかし……こりゃあ確かにシャアルゥジァ探偵社に依頼する奴がいないというのがわかるであります。結界内部だから割と好き勝手やってるでありますが、何の保証もなしにこの力を行使するにはかなりの勇気と度胸がいるであります。
そりゃあ倉庫ごと破壊するように依頼したのは自分ではありますけれど、まさか文字通り跡形もなく、ここまで徹底的な破壊が行われるとは思わなかったであります。自分も結果だけなら同じ事はできるでしょうが、過程が段違いであります。
足柄殿の一喰いと同じく手加減ができないタイプでありますし、足柄殿以上の手加減する気のない範囲殲滅力であります。
途中原付があったので鍵をあれそれして足に使っているでありますが、リー殿は器用に荷台の上に立ってご満悦。大暴れしてすっきりしたようであります。願わくばその暴力が自分には向かいませんようにと祈ることしかできんでありますな、これは。
ともあれ、基点がどんな形をしていたのかどのように隠されていたのかを全く知らないまま最後の基点、結界中央へと向かう我々。このまま最後の基点もリー殿に任せて、イージーモードというかデバッグモードというか、むしろチートバグで楽勝だと……よかったんでありますけど。
目的地である倉庫からきらりと刹那瞬いた光に、リー殿の首根っこを引っ掴んで原付から飛び降り、近くの倉庫の陰に飛び込む。次の瞬間には轟音と共に目的の倉庫が爆発炎上し、崩れて行く。
そして先程まで乗っていた原付は見えない巨人の振るうハンマーに横合いから殴りつけられたように、飴細工のように拉げながら空を舞い、爆散。それでもまだ破壊の力を残した見えざるハンマーが、進行方向にある倉庫を盛大に貫き、内部で轟音と共に爆発炎上。
どうやら、最後の基点は楽には終わらせてはくれないようでありました。
[◆◇◆◇◆]
着任三日目。一四一〇。
尺がもったいないのでまきで結界攻略していたところ、最後の基点に辿り着く直前に攻撃を受けたようでありました。
「今の、見えたでありますか?」
「ホーゲキ。多分41㎝のホーダンアルネ」
倉庫の陰で念の為聞いてみたら、こいつ肉眼で砲撃視認してやがったであります。
もしかして助けなくても自力でどうにかしたのでは……?
しかし41㎝、ね。41㎝口径の砲弾。
そんな大口径の砲を積んだ艦娘。結界中央に陣取る、戦艦級の艦娘。
最悪であります。まさかそんなものを、結界の基点にしやがるとは。
最後の基点が、生きた艦娘だとは。
「あら。あらあら。今のアンブッシュが避けられるなんて」
いっそ穏やかなほどにのんびりとした声。崩れゆく倉庫の瓦礫を軽々と押しのけながら、炎の中を悠然と歩み出る二メートル越えのその艦影。
「すこしはやるじゃない。お姉さん本気になっちゃうかも」
長門型戦艦二番艦。栄えあるビッグセブンの一艦、陸奥。厚い装甲に強力な砲を持つ、多くの艦種の中でもゴリ押しに定評のある凶悪な戦艦モデル、しかもビッグセブンと対峙する羽目になるとは……。
しかも、余裕をもって髪をかきあげたその左手には、違法ケッコン指輪。力むこともなく自然に球状に展開させた物理保護が、燃え盛る倉庫の残骸を吹き飛ばし、沈黙させる。
限界突破の高練度戦艦。しかも今まで相手した連中とは違い、艤装を展開済み。
対するこちらは?
練度九八の非武装の揚陸艦。通常兵器を山と積んだ、艦娘相手に狡い手しか使えない通常兵器しか積んでいない『自在蔵』。格闘技に慣れない重巡を目くらましする程度の武術。物理保護破り? 砲構えた相手に? 持久力も折り紙つきの戦艦相手に?
あとは勇気だけだとかサイボーグ戦士みたいに言ってみたいもんでありますけど、生憎そんなものは教練過程で無くしてきたであります。冷たい頭脳と冷たいハート。生存を優先する教えが、すぐに逃げろと警鐘を鳴らしているであります。
「アキツマルぅ。わかてるアルね? 自分でもわかてる、そうアルね?」
にたにたと楽しそうに笑いながら、リー殿が埃を払う。
「万全に構えた戦艦相手じゃ、勝てないてわかてる、違うアルか?」
勝てない。そうだ。
保有する最硬にして最強の盾、不知火殿を破った着る戦艦ビルフィッシュを持ってしても無理だ。無敵の戦闘半径に入り込む前に、さしものメタクロモリ装甲も削り殺される。あれは足を止めての殴り合いでしか活躍できない産廃だ。
幼い子供に言い聞かせるように、小さな掌が優しく肩を包む。
「一言いうだけでいいアルヨぉ。『やっちまえ』て。それで全て終わるアルネ。被害を気にしなくていい結界内。今までの四つと同じアルヨ。イージーモードのボーナスステージ。ネ?」
白いかんばせを、熟れた柘榴のような真っ赤な笑みがにっかりと割る。
それが最適解だろう。街ごと壊す、敵も味方も根こそぎの最悪の駒。被害を気にしなくていいなら、シャアルゥジァ探偵社という鬼札を切るには、最適のシーンだ。
だが。しかし。けれども。
「…………結局『それ』アルか。どんだけマゾヒストアルか。縛りプレイにも程があるのコトヨ」
「それしか遣り方を知らんのでありますよ」
「偽善者にも程があると思うアルけど、まあ、好きにするヨロシ」
好きにさせてもらおう。
『自在蔵』を起動し、ポートを切り替える。バフもデバフも装備も整える前に始まった不意打ち戦闘。
それでも、この遣り方は変えられない。
全く毎度の事ながら我ながら、なんて難題でありますかねえ。
こんなのを相手に殺さずに済ませるなんて、何たる、難題。
[◆◇◆◇◆]
着任三日目。一四二〇。
さぁって。格好つけたはいいけれど。どうしたものでありますかねえ。
ガチ武装のビッグセブン。高練度戦艦。こちらは準備もなしに砲に身を晒している。
不知火殿の時は耐久性の低い駆逐艦。しかもある程度はネタをつかんでいる相手。守りを固めて精神を攻めて、あとは一発当てるだけでありました。バフもデバフもやりたい放題だったので割かし楽に行けたでありますが……。
高練度、というか、ケッコン艦というのは基本的に相手しちゃいけない分類なんでありますよね。元々が艦霊とかいう強大な霊の分霊を降ろしている艦娘は、霊力が馴染めば馴染むほど物理法則に干渉して体格に見合わない力や驚異的な耐久力を得るであります。
ケッコン指輪は、本来艦娘がそれ以上艦霊の侵食を受けないように課せられたリミッターを外してしまうものなのであります。提督、つまり人間と精神を強く結ぶことで、艦霊との親和性を高め、超常の力を得るのがケッコンカッコカリという儀式なのであります。
当然、ケッコンする人間は艦娘との精神的繋がりだけでなく間接的とはいえ艦霊からの干渉を受けることともなり、定期的なサニティチェックが義務付けられる危険な儀式であります。ジュウコンを平然としてるような提督は色んな意味で壊れているのは確定的に明らか。
足柄殿は違法ケッコンの相手を非常に適当に選んでいたようでありましたが、精神を曝け出すことになるケッコン相手の方は相当真剣に向き合ってケッコンを選んだことでありましょう。……カラッとした足柄殿の性格的に、無理矢理ケッコンしたとも思われないでありますし。
さて。ケッコンによってリミッターを外した艦娘は、そうでない艦娘とは一段階、或いは一次元違う生き物と言っていいであります。度が過ぎたものなどは、何度殺してもその場で復活するような化け物――つまりは第一世代に迫る程とも聞くであります。
足柄殿の場合、本気ではあったけれど全力ではない状態でありましたし、その上でこちらに有利になるように場を、状況を、流れを整えたのであのように倒すことが出来たでありますが、生憎と陸奥殿にはこちらに主導権を渡す気はないご様子。こりゃあこっちの事が漏れてるな。
殺すつもりのアンブッシュと言い、最初から艤装を展開し油断なく物理保護を薄く展開している体勢と言い、あの一戦は筒抜けとは言わないまでもある程度伝わっているようであります。今も彼女は、弾切れを狙って受け身で構える自分を見抜いて、視に徹している。
姿だけ見ればただの面白い恰好をしたおっとりお姉さんでしかないが、実態は面白い恰好をした危ない戦艦であります。命にかかわる範囲において。
「あらあら。どうしたのかしら? 怖いの? 別に私は動かないなら動かないで構わないわ」
にっこりと、強者だけが持つことを許される余裕に満ちた自然体の笑み。
「でも、あなたがまだ僅かな可能性をかけてさっきから探しているもの、見せてあげる」
豊満な胸元を広げ、谷間を見せつける陸奥殿。面白い恰好をしたアブない女! しかしそこには目を逸らせぬ一点!
ムツリムの聖獣り陸奥たかを模した、渦巻き状の刻印であります。
「これが、これこそが、結界最後の基点。残念ながらあなたの一番考えたくない、でも一番可能性の高い仮説通り、基点はこの、陸奥よぉ♪」
結界を暴くには倒さなければならない。逃げに回れば結界から出ることさえかなわない。
最低でもムツリムの本格進攻まで足止めされ、抗おうとすれば強大凶悪なフル武装ケッコン戦艦という無理ゲー。並の艦娘ではまず突破できないいやらしい罠であります。
「ほーらアキツマルー。ワタシ手ェ貸さないアルからねー。ちゃっちゃと済ませるヨロシ」
クソ。暴れる機会を奪ったからか、早々に距離を取って高みの見物決め込んでやがる。
是非もなし。致し方なし。クソッタレ。
「来ないなら、こっちから行こうかしらぁ?」
楽しげな微笑み。躊躇いなく絞られる引き金。再びの砲声が、開幕の合図でありました。
着任三日目。一四二二。
砲声が聞こえた時には基本的に手遅れであります。
音速を遥かに超える砲弾は、砲声よりも早く届くからであります。
幾ら艦娘の身体能力が優れているとはいえ、砲弾を視認するのはなかなか難しいものであります。特に自分の素体は並程度。公定練度一〇〇近いとはいえ、リミッターも解除されていないし、霊力の殆どは『自在蔵』に回され身体強化度合いはかなり低めであります。
しかしそうなると、砲弾は自分を直撃、上半身は瞬時にネギトロ、下半身は衝撃波で吹き飛ばされツキジめいた無残な躯を晒す羽目となってしまうのであります。一発大破は御免被るので、これはもう、避けるしかないでありますな。
大きめにひょいと身を逸らしてやれば、先程まで自分のいたあたりを、空気ごと捩じ切る様な暴力が通り過ぎていく。しかし艦娘合金製の霊力満ち満ちた砲弾も、槌でなぐり付ける様な衝撃波も、その軌道から外れればそよ風程度しか感じられぬものであります。
道化じみた挙動で砲弾を回避した自分に、陸奥殿が僅かに目を見開くのが見て取れる。仮面なんぞ付けた黒尽くめのひょろりとしたやつが、平然と砲弾避けをして見せたのはいい余興になったようでありますなあ。
艦娘の砲撃は、基本海上戦。距離を置いて常に動き続けながら撃ち合い、相手の動きを予測して射撃修正を繰り返す、そういうやり方。だから避けるというよりは、相手の弾が中らない内に、こちらの弾を上手い事中ててやるのが肝要。
艦娘と深海棲艦が互いの息遣いを感じられる様な距離での近接戦なんてのは、まあ見目も派手で如何にも戦って御座いという具合、カメラワークも楽なので報道にはよく用いられるでありますが、実際はなかなか見られるものでもないのであります。
陸上戦においては、今度は格闘戦ばかりで砲雷撃はかえって少なくなるであります。海と違って地上は障害物が多く、流れ弾で周囲を破壊してしまうでありますから、目撃者も建築物も全て破壊していいという状況でもなければまずできんであります。
なので地上における砲雷撃は、それこそ長距離からの支援砲撃や狙撃が関の山。中東の『混迷海域』では今日も元気に海上以上に砲弾での殴り合いが行われている筈でありますが、そういうのは本当に例外であります。
相手の陸奥殿も、どういう経歴かは知らんでありますが、少なくともこの監獄艦アーセナル鎮守府居住区において、砲撃に慣れているということはまず有り得ないであります。そんなに砲撃がしょっちゅうある様では、鎮守府が持たない。
当然、砲弾避けのスキルは精々直観頼りか馬鹿げた身体能力頼り。つまりは力技。多少のダメージは装甲厚でカバーできる戦艦モデルはもともと回避スキルを軽視しがちでありますからなあ。まあ問題は力技で物理をねじ伏せるケッコン艦とかいう化け物でありますけど。
勿論自分にそんな力技はできないであります。砲弾避けのメソッドは銃弾避けと同じことであります。相手の視線、挙動、筋肉の動き、そういったものから射撃のタイミングを推し量り、射線から身を外す。ね、簡単でしょ?
艦娘の砲の場合、手持ち砲などは銃と同じ扱いで問題ないでありますが、たとえば陸奥殿の、腰回りに接続された艤装に積まれた主砲は、基幹部の電脳からの信号によって作動する所謂論理トリガーで操作されるであります。
これは目には見えない信号で動くので、発射のタイミングを推し量るのは無理なんじゃないかと思う方もいらっしゃるでありましょうが、まあ、実際無理であります。なので他の部分を見て推測するであります。
陸奥殿の場合、主砲は八門。その全てを個別に操作するのは難しく、一斉射の時でも火器管制システムが自動で照準を合わせ、あとは論理トリガーで発射、となるであります。マニュアルで砲門を操作するのは相当神経を使うので、超長距離狙撃の時くらいでありますかねえ。
実際の砲撃戦においては、特に現状のような一対一の場合においては、メインで使うのはどれか一つ、又はローテーションで一門ずつ使っていくというのがセオリー。沢山の砲門を使うのは神経使うし、一斉射は艦娘本人にも負担が大きいでありますしな。
まあそういう訳で、砲門の動きから射角の調整を推測し、その終了が砲撃の準備完了。後は艦娘の視線や挙動から砲撃タイミングを読んで避けるだけ。火器管制システムは特注品の艦娘でもなければユニバーサルスタンダード、国際規格。癖を覚えれば楽なものであります。
なぜこのメソッドを多くの艦娘が用いないかと言えば、習熟に時間がかかるし、当たる前に当てるという脳筋戦法が戦艦勢を主軸に流行っているということもありますし、手間暇かけて覚えさせてもコストに対してメリットがあまりないことが大きいでありますかねえ。
結局これは弱者のメソッドでありスキルなのでありますよ。もし戦艦がこれを使えるようになれば、一方的に相手をタコ殴りにはできるでありますが、その戦艦に時間をかけてスキルを仕込むのは時間と金がかかる。実戦で覚えようとすれば覚える前に沈む。
大量生産の利く兵器に習熟度を求めるのは、本当に余裕のある鎮守府位のものなのであります。自分の場合は覚えないと死ぬので、陸軍で徹底的に仕込まれたであります。仕込まれたというか、刻み込まれたというか、拷問されたというか。
最初は椅子に縛り付けられて只管脳天に銃弾を撃ち込まれ、恐怖で目を瞑ったり体が緊張したりしなくなるまで続けたであります。その後も同じ感じで、ひたすら銃撃砲撃を受けて、癖やタイミングを文字通り身に刻みつけたであります。
弾薬費に修復費とアホ程コストのかかる手段ではありますが、艦娘は基幹部の電脳さえ壊れなければ死にはしないので、幾ら撃っても死なないんだから楽だよねと言わんばかりに虐殺されまくったであります。お陰様で自分の脳漿の味とか要らん事まで覚えたでありますけど。
まあ、そんな訳で自分は一対一で向き合ってるならまず確実に避ける位は出来るであります。勿論身体能力的にかわしきれない時もあるにはあるでありますけど。
問題は躱せたところで、こちらには向こうに攻撃する術がないというこれに尽きるんでありますけどねえ。
着任三日目。一四二五。
あれから三度。偏差射撃を重ねて射撃精度を徐々に高める陸奥殿をおちょくる様に回避を重ねていたでありますが、それきり砲撃が止まったであります。表情は相変わらず余裕のまま。
弾切れ狙いで無駄弾を撃たせるのは難しそうでありますな。こちらのスタミナ切れと向こうの弾切れ、双方を天秤にかけて砲撃を切り上げたようであります。かといって格闘戦に切り替えようという気配が見えないのは……。
「今ね。どうしようかしらって考えてるの」
陸奥殿はおっとりと頬に手を当て、悠然と微笑む。
「近くに行って、ちょっと小突いてあげれば、貴女をミンチにするのは簡単に思えるんだけれど」
言葉の内容と、柔らかな微笑のギャップが酷い。
「でも、提督が駄目だって言うのよね。貴女は随分格闘技が達者なんですってね。関節技に鎧通しなんかの物理保護破り、聞いてるわ」
ああ、やっぱりこちらの情報が漏れてるみたいでありますな。駄々漏れであります。
ある程度は晒しても問題がない範囲でネタを小出しにしてきたでありますが、思ったより情報拡散が早いでありますな。『自在蔵』に関してはともかく、物理保護破りはついさっきの……いや、時間感覚を狂わされていたでありますから、実質四時間以上前、か。
ん? でも陸奥殿が基点という事は結界が立ち上がった後は陸奥殿自身も外部と連絡が取れなかった訳で、そうなると足柄殿との戦闘結果が陸奥殿に伝わるまでは、自分たちが倉庫街に辿り着くまでの精々三、四十分かそこら。
これは公表していないし、目立った外見もしていないので解りづらいでありますが、自分は戦闘なり何なりをする際には常に通信妨害を行っているであります。不知火殿との交戦時に使用した電子妨害の類でありますな。
この影響下にあって伝達ができたという事はかなりの速度で移動したか艦娘間超光速通信であるアンシブル通信か。アンシブルジャミングは技術的難易度と、アンシブル通信自体の伝達可能情報量の少なさから、優先度が低くて余り装備が充実してないのでありますよなあ。
とはいえアンシブル通信であれば伝えられたのは口頭説明可能な部分くらい。映像記録はないと見ていいでありますから、そこまでネタが割れたわけではない、かも知れない。うーん。考えすぎるのが自分の悪い癖とは思うでもありますが、それで命を永らえているのも事実。
まあいい。適当なところで切り上げるであります。陸奥殿はこちらの格闘技術と物理保護破りを知っている。時間はたっぷりあったのだし対処法も何かしら考えてきているかもしれない。といったところであります。
一秒ほどそのような思考に費やすことを許したのは、陸奥殿もまたゆっくりと考える姿勢をとっていたからでありました。
「どうしたらいいのかしら。提督に言われてから、ずっと考えていたの。近づかずに、姿を見せずに、遠くから奇襲をかけたのもそれ。でもなかなか決め手が見つからないの」
物憂げな溜息は実に艶やかでありますが、砲塔はこちらから離れない。
「私、これでも尽くす女なのよ。提督の為に頑張ってきたわ。今回もそう。提督のため、貴女を倒す。でも貴女は……勝つ事にさえ拘りを持っていない。負ける事も厭わない。そもそも戦闘自体に価値を置いていない。目標を達成しさえすれば戦闘なんてどうでもいいのね。
だから貴女を逃がさず倒す為に、その為だけに、提督と私はこんな結界まで用意したの。突貫工事だったから私の出力がなければ維持できないような結界だけれど……それでも貴女が逃げ出さず、同じ土俵で戦わざるを得ないよう、舞台を整えられた」
がちがちがちがちがちがちがちがち。
八門の砲が、こちらを明確な殺意を持って捉える。
「提督は貴女を最大限に警戒しているわ。真っ白なキャンパスの隅にぽつんと滲んでしまったしみのような奴。取るに足らない障碍のように思わせて、最後の最後で構図を狂わせ、全てを台無しにしてしまうトリックスター。さあ、道化もここまでよあきつ丸!」
酷い云われ様であります、という皮肉を口の端にあげる暇もなく、陸奥殿の八門の主砲が一斉に火を吹いたのでありました。
[◆◇◆◇◆]
八門の主砲から繰り出される八つの牙。陸奥の霊力をぞろりと吸い上げた霊子弾頭が艦娘合金製の砲門から飛び出し、大気を引き裂き、着弾と同時に目標周辺ごと根こそぎに焼き尽くす。爆轟。並の艦娘なら物理保護を貫かれ基幹部諸共全身を蒸発させている一撃だ。
しかし陸奥は構えを解かない。気を抜かない。手応えの無い砲撃に弛むほど、陸奥の戦歴は甘い物ではない。
今の一撃は、所詮小手調べだ。回避されるのは分かっていた。例えそれが面制圧を前提とした過剰暴力であっても、あれは何処からか這い出ている。
砲撃によって舞い上がる土煙に目を凝らし、すぐに異常に気付く。土煙が濃い。陸奥の砲撃は強化コンクリートの地面を軽々と粉砕し、その粉塵を舞い上がらせていたが、それだけにしてはいやに濃密な煙だ。晴れる気配もない。むしろ広がっている。確実に。
火器管制システムに能動アクセスし、センサー類の数値を確認する。予想通りだ。粉塵に紛れた金属微粒子によって電波は攪乱され、電探がまともに利かない。赤外線吸収素材も使っているのか、熱反応も確認できない。見通せない程濃く、強い臭いで鼻も利かない。
扇状に砲撃し場所を伺うか。弾切れしないよう格闘戦に切り替えて警戒すべきか。煙に巻かれる前に離れるべきか。そんな下らない事に頭は使わない。煙幕を使われることは事前に予想済みだ。その対処も。
陸奥は素早く屈みこみ、先程倒壊させた倉庫の一部、屋根を構成していたトタン板を引っ掴み、霊力を流し込む。霊力がトタン屋根の端まで満ち溢れ、疑似的な身体の延長部分として認識される。達人が剣を自身の体の延長と認識するようなものだ。それをもっと直接的にしただけ。
霊力と物理保護によって強化されたトタンの一枚板を振りかぶり、陸奥はためらいなく振りぬく。自身の身長を超える巨大な『うちわ』の一振りが、辺りを覆いかけていた煙幕を強引に剥ぎ取る。更にもう一振り。僅か残された煙を瓦礫ごと吹き飛ばす。
霊力で強化されたとはいえ、所詮馴染ませた訳でもないただの銅板。二振りで拉げたトタン板は、霊力侵食に耐えかねてぼろぼろと朽ち果て崩れ落ちていく。
「さて。丸裸にされた気分はどうかしら?」
対象の位置は、背後でも横でもない。真正面。着弾地点から動いていない。こちらが煙幕に動揺してどう行動するか観察していたのだろう。大方奴の目はあの煙幕を見通す何がしかのからくりがあるはずだ。
ふざけた仮面で表情は見えないが、物理保護に乱れが見える。今度のアンブッシュは一本取れたようだ。陸奥は笑みを濃くする。この程度の手は想定済みだ。そしてこの語どんな手札を切ってくるか。全てではないにしても大まかには対策は練ってきている。
奴の特殊兵装『自在蔵』が収蔵している兵器の全てを把握することはできていないが、大した問題ではない。奴の兵器がどれだけ多岐に渡ろうと、奴の性能上運用できるのは人間の軍人が使用できるような兵器に限られる。対策を取られた対艦兵装などおそるるに足らない。
何より、どれだけ凶悪な兵器を保有していようと、使うのは奴だ。あきつ丸だ。性能以上に、性格上奴が運用できる兵装はかなり限られてくる。
「どうしたのかしら? 次は何を使ってくるの? 何でもいいわよ、お姉さんは。超チタン艦娘合金さえ軽々と焼き切る対艦プラズマ・カッターかしら? 物理保護すら正面から撃ち抜く重金属粒子砲かしら? それとも艦娘をプレス加工できる超重力地雷かしら?」
余裕を装っているのか、未だ動きを見せない対象が、こちらの言葉にピクリと反応する。それはそうだろう。それらの兵器はまだこの鎮守府で見せたことは無い筈だ。そして恐らくは、今後も使うことはない。だが陸奥は知っている。提督が教えてくれたのだから。
「使わないわよねえ、そんなの。使えないものねえ、そんなの。だってあなた」
陸奥は知っている。だって、提督が教えてくれたのだから。
「誰かを殺すことが、出来ないんだものねえ」
人を殺すことも、艦娘を殺すこともできない。命という重みを背負うことが恐ろしくて堪らない。自分の手を汚すことも、巻き添えにしてしまうことも、それどころか目に映る範囲ならば、知り得る範囲ならば、自分と関係ない死にさえ手を伸ばす甘ちゃんも甘ちゃん。
お前はそれで今までやってこれただろう。卑怯に姑息に立ち回って、負わないでもいい重荷を背負い、要らない苦労を買いに買い漁って、何とかやってこれただろう。だが陸奥は、陸奥と提督は、その弱点を、欠点を、どうしようもない欠陥を幾らでも攻めたててやる。
敵の命さえ奪えない甘ったれ。或いはそれは美徳と言えるかもしれない。だが陸奥は容赦しない。何故なら提督がそれを望むからだ。提督は長い事をそれを待っていたのだ。調査を重ね、対策を練り、作戦を纏め、そうしてようやく、偶然がこいつを連れてきてくれたのだ。
「私個人には恨みはないけれど、提督が貴女の首を所望なの。だから、貴女がどれだけ足掻こうと、全て叩き潰して粉微塵にしてあげるわ」
対陸軍密偵あきつ丸専用に建造され訓練され調整された怪物は、この日ようやく出逢う事の出来た運命の相手に、これ以上ない程の歓喜と殺意にあふれた微笑みを湛えるのだった。
長かった。本当に長かった。工廠で建造され、識臣に刷り込まれた人格がすっかり馴染み、電脳が大量生産のコンピュータから艦娘の自我へと目覚め、初めて自分の主人と出会った時から、本当に、長かった。
提督が数ある艦娘の中から、その中でもまだ多い陸奥モデルからユニバーサルスタンダードモデルを選択したことには、何の意味もなかった。当時の提督のポケットマネーで購入できる最大戦力が一番安い国際規格だったというだけのことだ。
だから、この陸奥がその中から選ばれたことにも何の意味もない。順番通りに出荷され、定価通りで購入され、規定通りに簡易鎮守府に所属登録をなされた。それだけのことだ。だが陸奥に不満はなかった。何の理由もなく選ばれた、それこそが運命だと感じてさえいた。
提督は陸奥を道具として扱った。道具としてしか扱わなかった。それも汎用の道具としてではない。復讐の為の、単一の目標を打ち倒す為だけの、ただそれだけの使い捨ての道具として。陸奥に不満はなかった。寧ろ満足さえ覚えていた。幸福すら感じていた。
それは陸奥が兵器としてその生涯を十全に全うできるという事だったからだ。多くの艦娘が漠然と生まれ、理不尽に生き、不条理に沈んでいく中、陸奥は目的を持って生きることが出来る。陸軍の密偵、あきつ丸を沈める。これ以上ないシンプルな生きる理由という奴がある。
そしてまた、陸奥は目的を果たせば終われる。無為に生き続けることなく、綺麗に終わることが出来る。人生に明確な理由があり、果たすべき勤めがあり、そして完成がある。これがどれほど幸福なことか、無意味に無関係に無価値に無責任に生きる艦娘にはわかるまい。
自分が何かの為に存在しているという確信。それは陸奥の幼い自我に一本の強固な芯となった。あきつ丸を倒す。その為に自分はいる。そしてあきつ丸を倒した時、自分という存在は完成する。陸奥は提督の為というより、もはや自分の存在価値の為に鍛錬を重ねた。
深海棲艦と紙一重の所で命の遣り取りをするのも、演習という名目で余所の艦娘を襲撃するのも、激痛を堪えながら違法な改修を受けるのも、違法ケッコン指輪によってもたらされる精神侵食の苦痛さえ、自分という存在を完成へと導く福音だった。
提督がなぜあきつ丸を恨むのかは知らない。興味もない。提督にとって陸奥が道具であるように、陸奥にとって提督は自分が完成する為の導き手に過ぎない。数年間で急速に練度を上げ、一方的に他者を虐殺することに慣れても、陸奥の心は一つだった。あきつ丸の事だけだった。
魔術協会に追われ、陰陽寮に追われ、偽造していた簡易鎮守府の登録さえ剥奪され、辛うじて死刑を免れこんな監獄艦に押し込められても、提督は復讐の炎を絶やさなかったし、陸奥もまたあきつ丸を忘れたことはなかった。まだ見ぬ彼女を、自身を完成させる最後のピースを。
だから、居住区の下らない諍いに首を突っ込んだ何者かが待ち望んだ相手だと知った時、陸奥は鼻にもかけなかった神に生まれて初めて感謝した。運命というものを賛美した。そして今、こうして本物の彼女を前にして、陸奥の幸福は絶頂にあった。
彼女の為に自分は生まれてきたのだ。彼女を沈める為だけに自分は存在しているのだ。そして彼女を磨り潰した時、陸奥は本当の意味で完成するのだ。その瞬間を思うだけで、陸奥は底知れぬ深い所から溢れ出る歓喜に背筋を震わせ、笑みを零した。
「恨みはないわ。そういうことじゃないの。憎しみとか、怒りとか、そういうマイナスの感情じゃあないの。敵とか、味方とか、そんなのじゃあないの。難しいわね。感じていることを言葉にするのって、本当に難しいわ。でも、きっと、そう、これが、これがそうなのね。
愛してるのよォッ! あなたをッ! あははははははははははッ!!」
陸奥の主機が唸りを上げ、違法改造された艤装が莫大なエネルギーに異常過熱を開始する。増設された吸排気口と放熱板が赤熱する。
叩き潰す準備は出来ている。さあ、見せてみろ。
甘ったれた羊の皮を脱ぎ捨て、『混迷海域』を渡り歩いたという殺戮の技法を見せてくれ。
毛細血管が破裂し、流れる鼻血もそのままに、陸奥は壮絶に笑ったのだった。
[◆◇◆◇◆]
着任三日目。一四三〇。
おもしろい恰好のアブナイ女という印象だった陸奥殿でありますが、ガチで危ない女でありました。キャラ的な意味でも物理的な意味でも。
唸りを上げる踵の主機。煙突は黒煙を上げ、ユニバーサルデザインの艤装には見られないスリットが激しく熱気を吹き出す。後方に伸びた放熱板は赤熱し、異常な高温を予感させるであります。どうやら違法改造しているようでありますな。
艦娘は練度を上げれば上げる程、艦霊の霊力を多く扱えるようになり、攻守ともに物理法則を捻じ曲げて強化されるであります。しかし同時に艦霊からの侵蝕も強くなり、精神に異常をきたすことがあるであります。
基幹部の改造やケッコンカッコカリなどによって段階的に枷を外すことで一層艦娘は強くなるでありますが、その危険性から最終安全弁ともいうべき枷が、未だに存在するであります。今後更なる段階的強化は計画されているでありますが、完全に自由にはならんでありましょうな。
そこで、ある程度練度が行き詰った艦娘を更に強化するのが、素体や艤装の強化改造であります。例えば赤菱重工の機械化素体や重武装艤装。例えば里見製薬のバイオ艦娘。アプローチの仕方は様々であります。改造だけでなく追加で通常装備を増やすこともあるであります。
今日日鎮守府の主力で一切改造していない、追加装備もしていないという艦娘の方が珍しいと思うであります。カラコン位の気分でサーモカメラや高解像分析カメラなどを目に仕込んでたりは普通でありますな。
で、違法改造とは。これも定義が難しいんでありますけど、ざっくり言ってしまうと法規制による保安基準を満たしていない改造のことであります。艤装は艦霊の霊力によって動く理外の兵器。暴走や自爆の危険性から保安基準が定められているであります。
この保安基準を無視し、危険性を度外視して出力を向上させたり、砲の耐久性を上回る火力を発生させたりの改造が違法改造であります。ガチで開発した強化艤装とかが優秀なのは事実でありますが、違法改造艤装は瞬間的には出力で上回ることもあるので油断できんであります。
あれ程の熱量ではそう長くはもたない筈。普通であれば開幕から繰り出すような大技ではない筈でありますが…………どうも、陸奥殿の口ぶりから察するに、どうやら自分のネタが割れたのはここ数時間の事ではなく、かなり以前からのようであります。
一体どこから漏れたのかというのはまあ身に覚えがあり過ぎるので考えても仕方がないのであります。自在蔵の仕組みは機密も機密でありますが、陸軍の艦娘が特殊兵装を保有していることは多少なり知れていた方が箔も付くし、牽制になるでありますからな。
そしてまた陸奥殿の言う提督とやらが何者で何故自分を恨んでいるかでありますが、こちらも身に覚えがあり過ぎるのでわからんの一言であります。自分、ガチで潜入するとき以外は別に顔も体つき服装も変えてないでありますし、ぶっちゃけ広告塔みたいなもんでありますし。
寧ろこういう手合いをフィッシングして、芋蔓式に係累を引きずり出すのが常套手段であります。大抵の場合三課の広告塔は専ら餌の役割で、食わせるもうまく吊り上げるも一課の胸三寸でありますが。
ともあれ、敵は自分に恨みを持ち、自分に復讐を誓う人間の手駒。そうなると、恐らく対『自在蔵』の戦法としてこのチョイス。どの様な物かはわからんでありますが、まともにやり合っても楽しくはなさそうであります。とりあえず距離を取って、
「取り合えず距離を取る、かしら?」
掌から『自在蔵』を開き取り出したフラッシュバンを、光と共に何かが切り裂き、あらぬ方向で炸裂させる。自動的に展開した瞬膜式の遮光膜越しに、僅か一歩でこちらに迫った陸奥殿と、フラッシュバンを切り裂いたらしい得物がその手に握られているのが見えました。
艤装に増設されたタンクに繋がれた超硬化セラミックスの『柄』。そしてそこから延びる青白い炎の『刀身』。両手に構えられた二振りの『剣』が、汗さえ乾く程の熱気と、背筋が凍る様な恐怖を携えて、燃え盛る。
『不明なユニットが接続されました。システムに深刻な』『艤装に異常過熱を感知しています。速やかに主機の運転を中止し、メーカーにご連』『出力設定が不正改造されている恐れがあります。不正改造は艤装の品質を著しく損な』『排熱が不十分です。吸排気口に異物がないか確』
けたたましい警告音声。それらを一つ一つキャンセルしながら、陸奥殿が熱に浮かされる様にうっそりと笑う。
「ダメよ、ダメダメ。もう二度と離さない」
構えなおす様に軽く振るわれた二振りの炎刃が、強化コンクリートの地面を容易く溶断し痕を残す。
プランD。所謂ピンチでありますな。
[◆◇◆◇◆]
重さのない炎の刃が、大気を焼き切り、強化コンクリートの地面を溶断し、あきつ丸の余裕を断ち切る。違法改造の果てに積まれたこの特殊兵装は、先程からエラーと警告を吐き出し続けている。
超高圧メタアセチレンガスブレード。魔術によって精錬されたアセチレンガスと、圧縮した酸素ガスを燃焼補助として併用し、艦霊の齎す重力素子が生み出す斥力フィールドで形成されたその“刃”は五千度以上に達する。
水を燃やすスチームプラズマ・カッターや、重金属粒子を用いる対艦プラズマ・ブレードと基本的な仕組みは同じだ。違法改造によって造られたこのブレードは斥力フィールドが甘いので放出熱を抑えきれず、異常過熱の原因となるが、許容範囲内だ。殺しきるまでの間ならば。
「ちっ……!」
舌打ちするあきつ丸。こちらに向けようとする手を認識した瞬間、陸奥の刃が反射レベルで振るわれる。視界の端で両断されて落下する何か。逆の手が動いた瞬間、陸奥の刃が反射レベルで振るわれる。視界の端で両断されて落下する何か。
後ずさるあきつ丸を追おうとすれば、その豊満な谷間に膨らみを見つけ、陸奥の刃が反射レベルで振るわれる。豊満な谷間で両断されて落下する何か。振り抜いた直後を狙った蹴り足。砲塔を素早く旋回させてこれを受け、爪先から飛び出る何かを反射レベルで切断!
次々と繰り出されたスタンロッドと手榴弾とフラッシュバンとチェーンネットをすべて容易く溶断。そのどれもが、直撃を受けた所で大した事のない時間稼ぎの目くらまし程度の代物だ。しかし脅威度に関わりなく、陸奥に幾重にも刻まれた鍛錬は容赦なく反射的に切り捨てる。
格闘技術に優れたあきつ丸。実戦的な格闘技に慣れていない多くの艦娘は、達人の域にある技に警戒して距離を置こうとする。だがそれこそが奴の狙う所だ。非力な奴にとって、幾ら技術が高かろうと、力押しが許される至近戦は常に命を賭けざるを得ない。
もっと注意すべきなのは変幻自在の殺法を生み出す『自在蔵』。多種多様な兵器と、それを扱う奴のセンス。一度距離を取られれば、予測できない無数の兵器によって接近を拒まれ、幻惑されているうちに倒されている。
故に、逆に互いの息遣いがわかる程の密接距離を保つのがベスト。当然格闘スキルは十全に鍛えておくのが前提だが、艦娘の戦闘センスをもってすれば習得はあまり難しい所ではない。戦争兵器の権化たる艦霊とカラテは切っても切り離せぬ戦闘概念。相性はいい。
そして距離を詰められたならばあとは自在蔵の警戒だ。これも理屈自体はそう難しくはない。自在蔵は特徴として、奴の全身至る所から兵器を取り出せるらしい。だが取り出してから使用するというアクションが必要である以上、出だしはつかめる。
よしんば直接射出できるものであったとしても、自身も巻き添えになりかねない密接距離、怯むには値しない。陸奥はこの出だしを見て取る術を丸一年かけて鍛え上げた。いまや対艦スローマシンから放たれる超音速のラグ・ボール球のビーンボールも容易く切り捨てられる。
挙動を見張る視覚、筋肉の軋みさえ聞き取る聴覚、艦霊の侵食によって齎される超感覚だけでは得られない、技術を突き詰めた先にある経験だけが作り出す直感、それらが『自在蔵』の気配を感じ取った瞬間、陸奥の体は反射的に刃を振るい、これを切り払う。
どんな兵器を繰り出そうと、出だしの時点で全て切り払い、潰す。これが提督が考案し、陸奥が体に叩きこんだ『自在蔵』対策だ。射撃より先に挙動を見て躱す銃弾避けと理屈は同じだが、それよりも先、拳銃に手が伸びた瞬間にこれを払うのである。
全て出だしを潰せば、あきつ丸は格闘戦に応じざるを得ない。だがそこで障害となるのが、この超高圧メタアセチレンガスブレードの防御不能の刃である。重さという重さのないこの刃は、あまりにも速く振るわれ、そしてそれを受ければ容易く溶断される。
電脳を護る基幹部外殻、超チタン艦娘合金でさえ容易く損傷せしめる超高温の刃。これを無手で捌き続けることがどれだけの負担を強いるか、想像に難くない。逃げることを許さず、時間稼ぎも許さず、一方的にこちらが攻め続ける、必殺の型!
自分の不利を悟っているのか、起死回生の隙を作らんと次々と繰り出される手榴弾、ナイフ、火炎瓶、拳銃、盾、油壷、それらを全て切り払い、陸奥はなおも踏込を止めない。前進に次ぐ前進。あきつ丸の基本戦法、「やられたら嫌なことを徹底的にやる」と同じことである。
「ほら、ほらほらァ! どうしたのかしらァ!? こんなものなの!? お姉さんまだこんなのじゃ満足できないわァ!」
袈裟切り、胴薙ぎ、唐竹、逆袈裟、突き、一瞬とて止まることなく、陸奥は刃を振るい続ける。鼻血は止まらず、呼吸を阻害するが、気にも留めない。
陸奥はいま、決して長くはない艦生の中で、最高の一瞬を迎えようとしていた。自身が完成を迎えるその一瞬を。生体脳を快楽物質が駆け巡り、電脳との相互フィードバックによって何重にも増幅される快感。自分の股座が失禁したように濡れそぼることも気にせず陸奥は切る。
「もっと! もっともっと! もっともっともっと! 私を! 楽しませてよォ! あはははははははははははッ!」
予想よりもあきつ丸は長持ちだ。最後の瞬間が余りにも呆気なかったらどうしようかという心配は杞憂で済んだようだ。
いっそ、この取るにも足らない僅かな時間が、永遠に続けばいいのに。顔すら知らず、声さえ知らず、話した事も触れ合った事もないあきつ丸を殺す事を吹き込まれ続けて生きてきた。全身の細胞に沁み込んだやも知れないその運命の相手とのダンスに、陸奥はこれ以上なく幸福だった。
だが終わらせなければならない。恋い焦がれていた相手を、焦がすだけでなく焼き尽くさねばならない。悲しい事だ。辛い事だ。だがその瞬間を思うだけで、陸奥の子宮は締め付けられる様にうずくのだった。
「ごめんね! ごめんなさいね! でもッ! これもッ! 私の愛なのッ! うふッあははははははははッ!」
毛細血管が破れ、あちこちで筋繊維が断絶し、それでも艦霊の侵食が陸奥の体を維持し、修復し、戦闘を続けさせる。
陸奥は決めた。あきつ丸を殺そう。出来るだけ早く殺す。そして自分の命が燃え尽きるまでの短い間に、彼女の死体を愛そう。焼きながら焦がしながら、彼女の腸を咀嚼し、切り開いた腹の中の彼女の子宮を、濡れそぼった股座に導こう。
生まれたばかりの艦娘は教育によって如何様にもその人格を左右される。たった一人の対象を殺す事を目的に生み出され育てられた艦娘陸奥の人格はこれ以上ない程に歪み切っていた。艦娘教育の盛大な失敗例の見本例に出来そうな程に。
対するあきつ丸は、高温を伴う猛攻にか、自分の兵器を出だしで潰される不利にか、それとも哄笑いながら鼻血と涎を盛大に垂れ流し下半身からどろりとした粘液を洩らしつつ迫る汗だくのおもしろい恰好のアブナイ女にドン引きなのか、動きが鈍りつつある。
どうなるあきつ丸。どうするあきつ丸。そろそろほのぼの日常系の看板が怒られそうな展開が続くが本当にどうするあきつ丸。後果たして居住区編は今年中に終わるのかそこんとこどうなんだあきつ丸ゥ! それとどうして出てくる艦娘が皆変態になるんだ説明しろあきつ丸ゥ!
理不尽なバッシングを受けつつも平常運転を続けることを誓うのがあきつ丸レポート。なおこのレポートには暴力的な表現やグロテスクな描写が含まれます。お楽しみください。
[◆◇◆◇◆]
陸奥の剣戟は生半のものではなかった。通常の剣とは全く使い勝手の異なる超高圧メタアセチレンガスブレードを自分の手足の様に振るうのは容易い事ではない。違法改造によって高出力を得た代わりに異常発熱する艤装と、炎の刃そのものの生み出す熱量の中では尚更だ。
最初は艤装の生み出す熱に耐えるだけで精一杯だった。無意識に展開してしまう物理保護が、熱から身を守ってくれる代わりに戦艦クラスの霊力を目に見える速度で削って行った。熱で朦朧とした意識が常態になり始めた頃、陸奥は生体脳の呪縛から解き放たれた。
艦娘は皆無意識のうちに、頭部に収まった生体脳が生み出す感覚に引き摺られる。当然だ。人の体で、人と同じ様に感じる為の造りなのだから。だが陸奥は常に熱で朦朧とする意識の中で、ある日唐突にコツをつかんだのだ。生体脳からの刺激をカットし、電脳で考えるコツを。
痛覚や温感の信号をカットするのは、技術ではなく感覚だ。戦場で長生きする艦娘が、ふとした切欠で掴む言語化できない感覚。陸奥はそれを掴んだのだった。掴んで、離さなかった。雲の様なあやふやなそれを、執念で握りしめた。
意識が鮮明になると、物理保護の調整はすんなりと済んだ。素体を構成する蛋白質が凝固しない程度の最低限の物理保護を自然に纏えるようになった。艤装の生み出す熱は、もはや陸奥にとって心地よくも頼もしいものとなった。
ガス・ブレードの扱いは余程に苦労した。超高圧高温で燃焼するプラズマで刀身を構成するガス・ブレードは、実体剣と違い重量というものが感じられない。まるで玩具のような軽さだ。しかしその切れ味はどんな名刀をもしのぐ。
何気なく振るって、自分の手足を切り落としたことは一度や二度ではない。しかもそれが一振りではない。両手に一振りずつ、左右二振りを自在に操らなければならない。触れれば何物をも溶断できる刀身だ、片手持ちでも威力は落ちない。だが左右の手を別々に動かすのは困難だった。
利き手と同じ動きが出来るようになるまで、飯を食う箸を左手で握り、尻を拭く紙を左手で掴み、本を捲る時も左手だけを用いた。左右の手を別々に動かすために、片手でお手玉をしながらもう片方の手で字を書くような訓練も繰り返した。地道な努力を、陸奥は執念深く重ねた。
そして陸奥は最終的にはピアノとドラムを覚えた。アマチュアのコンクールに出場してそこそこの成績を収めるまでになった。その時貰った賞状は今でも額に入れて飾ってあるし、貰った賞金に提督と二人で味を占めて、コンクール荒らしをして出禁にもなった。
剣術を学ぶべく幾つかの道場で学んだが、ガス・ブレードを扱う上では差異が大きかった。学べることはよく学んだが、ガス・ブレードを自在に扱うまでにはあと一歩届かぬ何かがあった。陸奥は扱いの難しいガス・ブレードで何度も自分を焼き、提督は資料を漁り届かぬ何かを探った。
そして天啓があった。煮詰まって焦げ付きそうになった心身を休めようと、安っぽい映画館で海戦以前の古い映画のリバイバルを見て、提督と陸奥はそれに出会ったのだった。二人は映画を見終えるや否やレンタル・ビデオ屋に向かい、シリーズ全てを借りた。
まずは途中で離席せずに済むように、十分な飲食料を買い込み、休憩なしの通しでシリーズを観た。全てを観終えた後、作品の感想を言い合い、十分に作品への理解が済んだ所で、二人は重要なシーンをピックアップし、纏めて行った。
ファンサイトを漁り、必要であれば文献を取り寄せ、翻訳し、糧とした。
そしてそれらから得られた情報を基に、陸奥はガス・ブレードで実際にその動きを試し、実戦の中で映画的演出と現実の差異を埋めて行った。
十分な時間をかけて動きを体に叩き込み、反射神経で刃を振るえる域になると、提督は慎重に演習を組んだ。陸奥は捨て駒である。目的達成のための、使い捨ての道具である。それ故に、その瞬間に最大限を発揮できるよう、提督は陸奥を常にベストコンディションに保った。
実弾演習という名の野良試合で、陸奥は見事修行の結果を見せつけた。敵の動きを先読みし、砲弾を切り払い、六対一で囲まれた不利な戦況を見事に覆した。その時、陸奥は確かに奥義を会得したのだった。防御の型、ソーレスのフォームを。
フォースを持ち得ぬ艦娘故、その剣技は純粋な身体能力と優れた反射神経、そして自身を焼きながらも積み重ねた長く苦しい修行の結果であった。ミディ=クロリアンに愛されぬ艦娘は、それでもなお心にオビ=ワンの姿を刻み、ライトセーバーのフォームを会得したのである。
かような地獄の如き修行の果てに辿り着いた、違法改造による超高出力艤装と超高圧メタアセチレンガスブレード二刀流の合わせ技。その熱量故に短時間しか持たないが、逆に言えば短時間で全て片を付けられるという自負があるからこそのこの炎の流法。
その炎の嵐とさえ表現できる猛攻を、あきつ丸はいまだにギリギリの所で凌ぎ続けていた。素手では捌けぬ炎の刀身を、手榴弾の爆風で一時掻き消し、或いは盾を使い捨てに躱し、細かな傷は負いながらも致命傷を避け続けている。
『自在蔵』から引き出されるアイテムを、陸奥は確認も必要ない反射レベルの斬撃で全て切り払い続けていたが、それでもなお底を見せない。或いは『自在蔵』の膨大な所蔵を、陸奥の残り少ない持ち時間で削り切るのは不可能かもしれない。
だがそれでも、あきつ丸自身を削り切ることはできる、その確信が陸奥にはあった。『自在蔵』の所蔵は膨大かも知れないが、それを扱うあきつ丸は時と共に傷を増やし、防御不能の攻撃をさばき続ける負担は心身ともに多大な疲労となっている筈だった。
そして陸奥の発する熱が、あきつ丸の生体を徹底的に苛め抜いている。すでに動きの鈍くなってきているあきつ丸と、寧ろ回転速度を上げていく陸奥。勝負は見えている。
あきつ丸は陸奥を殺さずに倒そうとし、そしてそのあとの事さえ考えている。だが陸奥は、陸奥には、これが全てだ。ここが全てだ。後も先もありはしない。この瞬間だけが陸奥の全てだ。あきつ丸を轟沈せしめた後、陸奥の命はないのだ。
陸奥の生涯はあきつ丸の死を持って完成し、そして自決するまでもなく、既に止めるすべのない艤装の異常過熱によって陸奥は内側から爆発し、死ぬだろう。後などないという決定的な覚悟の差が、陸奥の剣戟をこれ以上ない程に鋭いものにしていた。
確かにあきつ丸は予想よりも長く持っている。思っていたよりもずっと粘り強い。最後の邂逅がここまで長く楽しめるダンスになるとは思いも寄らなかった。だが、勝つのは陸奥だ。
赤い風車が、今まさに命を刈り取ろうとしていた。
[◆◇◆◇◆]
前回の粗筋。
あきつ丸に恨みを持つという謎の提督の命に従い、二刀ガス・ブレードを振るい猛撃を仕掛ける陸奥。追い詰められ、ついに炎刃が生み出す赤い風車があきつ丸の首を狙う。どうなるあきつ丸。どうするあきつ丸。
陸奥は勝利を確信した。
あきつ丸が『自在蔵』から繰り出そうとするあらゆる武器を切り払い、得意の格闘戦さえ防御不能のガス・ブレードで封じ込め、圧倒していた。
陸奥のフォームは既に防御の型であるソーレスから、攻撃重視のシエンへと変わっていた。その内なる艦霊に肉薄せんばかりの攻勢意志は、究極の剣、ヴォーンスカーの型、猛りのフォーム、ジョヨーへと、或いは迫らんとしていた。
今もまた、あきつ丸の両手から現れんとした何がしかを、確認するよりも早く反射的に切り払い無力化した。もはや、蓄積される熱とダメージによって鈍くなってきたあきつ丸に、何が出来ようか。陸奥の腹の奥がぎゅうと締め付けられるように疼き、股座が濡れそぼる。
これで終わる。この一刀で終わる。あきつ丸の生命が終わり、陸奥の艦生が終わる。完成し、完結する。ただ目の前の小娘を屠るためだけに生み出された、ただその為だけに荒れ狂う嵐が、ようやく終わる。私はずっと「そう」なりたかったのだ。「そう」なれるなら、「そう」しよう。
燃え盛る紅蓮の炎の中、炎刃は青白く煌めいて――
「え」
――そして消えた。
あきつ丸のほっそりとした白い首を断ち切るはずだった超高圧メタアセチレンガスブレードは唐突にその機能を停止し、ただその柄だけが虚しく振るわれる。
何故、と。どうして、と。一瞬、只の一瞬、反射さえも忘れるほどの呆然とした空白に、あきつ丸の刃が突き立った。
陸奥の心臓の上、結界の基点を正確に貫く対艦ナイフの冷たい刃。ただでさえ乏しい揚陸艦の霊力が、『自在蔵』に殆ど持っていかれているその出涸らしが、それでも魔術式を容易く切り裂く。
何故、と零れ落ちた疑問に応える様に、キャンセルし続けていたエラーがわめきたてる。
『規定値以上の異常過熱を感知しました。艤装システムを強制終了します。急速冷却は艤装の変形を招く恐れがあります。自然冷却をお願いします。又、給排気口又は放熱器の故障の場合、冷却前の開放は深刻な破損の原因となります。十分な冷却後、最寄の工廠まで――』
エラー音声は聞えている。だが、その意味するところが頭に入ってこない。不正改造された艤装は、高出力モードの高熱にも、超高圧メタアセチレンガスブレードの加熱にも耐えられるはずなのだ。少なくとも、計算上、経験上、陸奥自身が限界を迎えるまでは。今までは、そうだった。
だが事実として、主機は停止し、缶は緩やかに燃焼を止め、論理制御は一切を拒否される。
足元がふらつき、力が入らなくなり、膝をつく。燃え盛るままに燃え尽きるまでに、回転し続けるエネルギーの奔流に任せて動き続けていた身体は、急停止に耐え切れなかった。
震える手を持ち上げて胸元にやれば、確かに突き立った対艦ナイフ。艦娘の強化骨格をすり抜けて、正確に心臓と、その真上に刻まれた渦巻状の刻印、結界の基点を物理的にも霊的にも断ち切っている。痛覚信号をカットしていたとはいえ、違和感さえ覚えないほど自然に。
何故。どうして。わからないまま、込み上げて来たものを吐き出す。赤黒い血の塊が、びしゃびしゃと強化コンクリートの地面にぶちまけられ、じゅうじゅうと音を立てて焼け焦げる。血が焼ける匂いに、陸奥は思わず顔を顰め――そして気付く。血が焼ける、だと?
確かに陸奥は、艤装も、ガス・ブレードも、共に高温を発し続けていた。だがそれで何故、強化コンクリート製の地面が滴る汗を、吐き出した血をライデンフロスト現象の果てに蒸発させ、焼き焦がすというのか。排熱が全て地面に向かったとでも言うのか。
そこで陸奥はようやく気付く。温感をカットし、全ての意識をあきつ丸に回していたから今まで気付かなかった。だが、ほんの少し見回すだけでその応えは全てそこにあったのだ。
膝をついた陸奥の周囲は、赤々と燃える炎に囲まれていたのであった。
「な、に? 何で……何が、燃えて……?」
「演習ではこういう事態については対策してなかったで有りますかね」
仮面越しに、気だるげな声が聞こえる。手袋越しの掌から、ずりゅりと取り出されたのは、缶。
艦娘用精製燃料缶。
見回せば炎の中、切り払った手榴弾やフラッシュバン、スタンロッド、ナイフ、チョコレートや煎り大豆といった物に紛れて、幾つもの燃料缶が切り裂かれ、その中身をぶちまけていた。当然それらは、ガス・ブレードの炎の刃に触れ、瞬く間に燃焼を開始したことだろう。
「好き嫌いは兎も角として、補給用に必要でありますからな。この手の物資は多めに積み込んで来てるでありますよ」
精製燃料はさぞかし高効率で燃えたことだろう。周囲の酸素を奪いながら、陸奥の気づかぬ間に熱を生み出し続けたことだろう。
「ば、かな、そんな、そんな事位で……ッ」
「勿論、それだけじゃ耐えそうなので、もう一手間」
ことん、と目の前に放り投げられたのは、スプレー缶らしきものだった。これも多分、切り払った気がする。
「噴霧式の特殊ベークライトであります。主に機械類とかの表面を防水コーティングに使う応急処置用品であります。動きを阻害する程の硬化性はないでありますけど、熱に反応してすぐ固まって、かなりの高熱にも耐える便利な品でありますよ」
まるで商品説明のような淀みない言葉に、陸奥は慌てて艤装の給排気口を覗く。艤装にはオレンジ色の樹脂がまだらにこびり付いていた。絶えず空気を呼吸していた給排気口は、撒き散らされたベークライトを吸い上げてしまったのだろう、びっしりと樹脂に覆われている。
擦れば剥がれるようなチャチな代物だ。だが恐らく、樹脂は給排気口を塞いだだけでなく、内部にまで入り込んで空気の循環を停止させ、艤装を故障に追い込んだのだ。正規品のフィルターであれば通さなかっただろう。エラーを確認すればすぐに分かっただろう。
だが、異常加熱を解決する為の給排気口の拡大とフィルターの簡略化、そして戦闘に集中する為のエラー音声のキャンセルが致命的な故障へと繋がった。勝利するための不正改造が、逆に陸奥の弱点となっていたのだ。まともな艦娘相手のまともな環境での演習ではわからない欠点に。
全身から汗を滴らせ、破断した毛細血管から絶えず鼻血を垂らし、艤装が冷め切り回転が途絶えてしまった今、陸奥の身体はこの高熱環境下で立ち上がる余力すら持ち合わせていなかった。
例えあったにしても、心臓を貫かれた素体は、電脳からの指示で全身の筋肉でかろうじて血流を維持している有様だった。最早戦闘行動は不可能だ。戦艦クラスの自身がこうして這い蹲っている中、平然と炎の中に佇むあきつ丸がひたすらに不審だった。
睨め上げるような陸奥の視線に気づいたのか、あきつ丸は一つ肩をすくめて、仮面を外して見せた。その深海棲艦めいて青ざめた顔は、しとどに濡れている。その髪もまた海にでももぐってきたばかりのように雫を垂らしている。見ればあきつ丸の全身もまたそのようであった。
完膚なきまでに陸奥を行動不能にして見せたこの揚陸艦は、極めて不本意そうに心臓に突き立てたナイフを眺め、気だるげに解説して見せた。
「自分、兵器を山と積んだ戦闘型ドラえもんみたいに思われてるでありますけど、任務はあくまで潜入工作とか諜報とかその辺りであって、武器弾薬以上に補給物資とか支援物資とかそこら辺の方が大事でありますし、当然比率もそっちのほうが多いんでありますよ」
かざした掌から、水芸のように流れてくる水が、艦娘のステーキでも焼き上げそうなほどに熱された強化コンクリートに落ちてもうもうと蒸気と成り果てる。
「例えば、キンキンに冷えた冷却水とかの方がね」
余りにもシンプルな、何処までも簡単な、熱いなら冷やせばいいというクソッタレな真理が、陸奥の積み上げてきた何もかもをガラガラと突き崩していくようだった。乾いた笑みが、意識とは無関係に漏れ出てきた。無意味だった。全くの無意味だったのだ。
積み上げてきた修練。研ぎ澄まされた武技。何隻もの艦娘を犠牲に、何年もの時間と引き換えに、苦痛と苦悩と一握りの希望とを胸に築き上げた陸奥の功夫は、無意味だったのだ。特殊な兵器でも馬鹿げた威力の破壊でもない、市販の燃料とスプレーとキンキンに冷えた水に敗れる様な。
おまけに、陸奥は、手加減されたのだ。あれ程までに煽り、挑発し、徹底的に追い詰めたつもりでいたのに、陸奥は陸奥の晴れ舞台を演じさせてもらったのだ。今まで積み重ねた武を無駄にしないよう、最後に披露させてもらったのだ。
やろうと思えばあきつ丸はもっと簡単に陸奥を封じ込められただろう。有り余るほどの冷却水を目の前から放水してやるだけで、陸奥を終わらせられただろう。ガス・ブレードはかき消され、艤装は熱疲労と水蒸気爆発で砕け、それで終わりだっただろう。
それでもあきつ丸は陸奥の剣を受けたのだ。無駄に資材を放出し、無駄に手傷を負い、無駄に時間を使って、それでもただ自分を屠る為だけに造られた陸奥の艦生を受け止めるべく、全霊の小手先の小細工で、手抜かりなく手を抜いて、陸奥を受け止めたのだ。
それならば。それならば最期まで騙してくれればいいものを。ぎりぎりまで追い詰め、そしてそれでもあと僅か届かなかったという、無念と、そして程々の満足感を胸に斃れさせてくれれば良かったのに。
「この…………偽善、者……ッ」
「そりゃどうも」
手を抜かれたから、まるで相手にされなかったから、勝負をさせてくれなかったから、「だから」まだ負けていないと、今度こそ勝つと、その為に生きろと。そう言うのか。
ここで死ぬのだと、勝っても負けてもここで斃れるのだと、その決意をあきつ丸は見抜いていたのだ。見抜いて、そして、『嫌がった』のだ。少しでも関わった相手が、死んでいこうとするのを、『嫌だなあ』と思ったのだ。
その為に、その『嫌だな』というその程度の為に、あきつ丸は悪役を買って出たのだ。まるで相手にせず、適当にあしらって、からかって遊んだのだという、そういう振る舞いをしたのだ。悔しさで、未練で、ふざけるなと言う憤りで、陸奥が再起する為に。
面倒臭そうに不本意そうに、気だるげにくたびれ気味に、苦虫でも噛み潰したような顔を、あきつ丸は仮面で隠す。自分の遣り方に、自分のスタイルに、恥を思うならば最初から遣らなければいいのに、それでもそれが、それでもこれが、彼女のスタイルなのだ。
自身の完成。陸奥という艦生の完結。彼女を屠る為だけに造られ、彼女を屠る為だけに沈んで行く、その完全無欠のシナリオを徹頭徹尾否定され、陸奥は崩れ落ちた。無念があった。沸き立ちそうな憤りがあり、泣きたい程の悔しさがあった。
そして妙な清々しさが陸奥の胸中にあった。或いは陸奥の胸に居座っていた、ぎゅう詰めにされていた、陸奥の物ではない重荷が全て放り出された、その不思議と心地よい空虚感があった。素体が限界を向かえ、意識を失いつつある中、陸奥の心は今までになく晴れやかだった。
陸奥は完成できなかった。まだ完結を許されなかった。届かなかった。至らなかった。それはつまり、陸奥という戦艦は、陸奥の艦生は、まだ高められるということに他ならなかった。奇妙な心地の中で、陸奥はゆっくりとその意識を手放した。
一方、主に艦娘用精製燃料由来の火災に対して専用消火器で消火作業に勤しむあきつ丸は、消火器の泡に塗れ、その上全身汗だくで鼻血と涎と膣分泌液で汚れた、焦げ臭さを含むなんともいえない異臭を放つ陸奥を見下ろし、後始末の面倒臭さにどこまでもげんなりさせられるのだった。
[◆◇◆◇◆]
着任三日目。一五〇〇。
陸奥殿との戦闘を何とか終わらせ、その後始末も終える頃にはこんな時間になっていたであります。段々後始末の手際がよくなる自分が嫌になってくるであります。
ともあれ、結界の基点を破壊した事によって、この無限ループ結界が解除された事はクァッドコプターの映像で確認済み。どうやら結界は現実空間に対して上から貼り付けられた架空空間だったようで、自分たちや陸奥殿といった実体を除いて全て霧散し、現実空間に影響はない模様。
結界が解かれ、露にされた倉庫街は、日常通りの通常営業とは行かないようでありましたが、住人がちゃんといて、イクサスとキャピックの襲撃に備えている真っ最中のようでありました。あの結界は本当に、侵入者だけを拾い上げて閉じ込める一方通行のものだったようでありますな。
消火を終え、近くの倉庫に陸奥殿を放り込み、退去中の住人に訳を話して『アイズ』の名の下に原付を徴収したであります。まあ『アイズ』の名を出さなくてもこのクソ忙しい時に『アイズ』印の仮面とかいうキワキワのスタイルの奴にカツアゲされたら誰でも穏便に済ませると思うでありますが。
退屈して昼寝ぶっこいてたリー殿を起こして荷台に載せ、再び先を急ぐであります。なんだかんだこの倉庫街で四時間半も時間を取られたでありますからな。かなりのロスであります。残り九時間耐え切れば任務終了と思うより、敵に時間を与えたというほうが大きいであります。
イクサスとキャピックに自由な時間を与えれば与えるほど、自分が対処しなければならない問題は大きくなるのであります。それこそ時間が来るまで耐えられない程に。キャピックはもうかなりの部分まで作業を終えているかもしれないでありますし、完成しているかもしれない。
イクサスはイクサスで、というよりムツリム過激派を率いる『提督』とやらは、自分を恨んでいるとのこと。そいつに四時間半も時間を与えてしまったとなれば、それは自分に対する対策を、陸奥殿以上の精度で用意しかねないということ。
陸奥殿の戦術も、あれは確かに『自在蔵』封じとしてはかなり良い方法でありました。いくら『自在蔵』が「何でも出来る」という究極の器用貧乏兵器であっても、それを予備動作なしで繰り出せるというわけではない。扱うのが自分である以上、自分の反応速度以上には繰り出せない。
無数のショートカットキーを仕込んで、早撃ちを鍛えているとはいえ、状況に適したものを状況に適したタイミングで繰り出せるかというと、映画版のドラえもんを見れば分かるとおり、なかなか難しいのであります。
今回本格的な戦闘用ではない、精々一時しのぎの鎮圧用武器とか補給物資とかそういうので対応したのも、陸奥殿を相手にする上で最適だったというより、陸奥殿が早すぎて戦闘用のポートへの切り替えが間に合わず、間に合わせで対処したというのが本音。
咄嗟に無数の備品から状況に適した組み合わせを、状況に適した作戦に従って繰り出すとか、いくらなんでも普通は無理であります。陸奥殿の攻撃を何とかしのいでいる間に、パターン化した動きを見極めて、その間に試行錯誤した結果であります。
後から考えると熱疲労とか狙ったほうが早かったでありますよなあ。冷却水くらいなら安く済んだのに、燃料缶やらベークライトスプレーやら、勿体無いことしたであります。
まあそういう次第で、『自在蔵』はあくまでも事前に作戦を練り、どんな相手にでも適した戦法を自在に組めるというのが最大の利点であって、いざ相手を前にしてからどうこうってのは本来悪手でしかないのであります。
現状、攻め入る側であるにもかかわらず相手の情報を殆ど知らない自分は、こちらの情報を入念に揃えて待ち構えている『提督』とやらに対して非常に不利。恐らく陸奥殿との戦闘も、どこからか監視されていたことでありましょう。対電子工作をしている以上、生身の誰かによって。
いや。『提督』とやらが結界を張ってきた、つまりは魔術師である以上、霊的な手段によってか。使い魔でも飛ばされていた場合、自分には対処できんであります。一応、陸軍に協力する陰陽術師幸徳井家の伝手もあって、幾つか霊的な対策もあるにはあるでありますが……。
高価い、んでありますよね。工業化されマス・プロダクトされる艦娘とは違い、陰陽術は今も手工業。近代化されライン化されても、どうしても手数が足りない。その為、魔術的技能の全然ない自分でも扱えるような品となるとどうしてもアホほど高くつくのであります。
だからいくつかは常備してあるとはいえ、たかが使い魔潰しに気軽に使えるほどではない。そう、この金銭面も『自在蔵』の弱点でありますな。湯水のように使えば、当然湯水のように金銭が流れて行く。経費で落ちる範囲であれば兎も角、限度を過ぎれば監査も入る。
ここに来てからまだ三日目なのに、なんだかんだ出費が激しいでありますからな。押さえていかないと不味いであります。給料使う当てがあんまりないとはいえ、自腹切るのも限界があるでありますからな。
そんな非常にしょっぱい戦況と非常にしょっぱい懐事情に頭を悩ませながら、べぺぺぺぺぺぺぺとエンジンを回し、ラッタッタは港湾地区へ向かうのでありました。
[◆◇◆◇◆]
Tips.
>小ネタ
・メアリー・セレスト号
マリー・セレス号とも。1872年にポルトガル沖で、無人のまま漂流していたのを発見された船。
航行が十分に可能な状態にもかかわらず、乗組員が忽然と姿を消していたという。
・クァッドコプター
プロペラを四つ持つ回転翼機。ドローンとも。
・土御門家
ざっくり説明すると安部清明の子孫。
この世界では陰陽師として貢献しているようだ。
・幸徳井家
ざっくり説明すると、安部より生まれて土御門と陰陽頭を争い負けた家。
この世界では土御門の補佐、スペアとして扱われて相当根に持っていたようだ。
・術師アシヤ
陰陽師蘆屋道満に連なるものと予想されるフリーランスの陰陽師。
蘆屋道満はざっくり説明すると、特に悪いこともしてなかったのに安部清明にぼろくそにされた陰陽師。
・うぉー!あい!にー!
我愛你。この場合、愛してるぜー!といったところだろうか。
・基点ごと更地にするという脳筋解決法が倉庫を、機械類を、散らばった螺子を、多分基点を粉砕する!
Twitter上でありとあらゆるものを粉砕するバイオゴリラbotを参考にした。
・アンブッシュ
奇襲。「ニンジャスレイヤー」世界においてはアイサツ前のアンブッシュが一度だけ認められている。それを防げないようなものにイクサの資格はないのだ。
・あとは勇気だけ
「サイボーグ009」(石ノ森章太郎)に登場するサイボーグ009こと島村ジョーの台詞。加速装置以外にどんな武装があるのかと聞かれて。
・確定的に明らか
いわゆるブロント語。明確である時に用いる。
・面白い恰好をした危ない戦艦
元ネタは小学生bot氏の漫画における長門の独白「おもしろい格好のアブナイ女」。
現在氏はPixivを退会してしまっているため閲覧は出来ない。
・ツキジめいた
「ニンジャスレイヤー」で頻出する用語。マグロが並ぶ築地市場の光景を死体が打ち捨てられた荒涼たる景色になぞらえているのだろう。
・仮面なんぞ付けた
性懲りもなく仮面をつけたまま砲弾避けをしてのけている。
・椅子に縛り付けられて只管脳天に銃弾を撃ち込まれ~
「魔術士オーフェン」(秋田禎信)において、「牙の塔」では椅子に縛り付けて恐怖で目を閉じなくなるまで殴りつけるという修行があったような気がする。うろ覚えだ。
・霊子弾頭
艦娘の用いる砲弾は高密度の霊子を纏っている。霊力とか魔力とかそういう風に呼ばれるものだと思えばいい。これによって、体から離れた砲弾であっても艦霊の力を纏い、遠隔の敵に有効になる。
・愛してるのよォッ! あなたをッ! あははははははははははッ!!
「アーマードコアV」に登場する主任なるキャラクターの台詞「あぁぁいしてるんだぁぁぁぁ君たちをぉぉぉぉ! ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」から。
・超硬化セラミックス
「風の谷のナウシカ」(宮崎駿)などに登場する超物質。靱性に欠けるが熱に強く、頑丈。
・不明なユニットが接続されました
「ア^マードコアV」にて運用されるオーバードウェポンなる超兵器を使用する際に流れる警告。本来AC用ではない規格外の兵器を無理矢理接続して使用するとされる。
・プランD。所謂ピンチ
「アーマードコア・フォーアンサー」に登場するフラジールなる機体の搭乗者CUBEの機体破損時の台詞「プランD、所謂ピンチですね」から。
・超高圧メタアセチレンガスブレード
元ネタは「天上天下」(大暮維人)の登場人物である圓円が用いた武器超高圧アセチレンガスブレード通称SABBから。
・超音速のラグ・ボール
「コブラ」(寺沢武一)に登場するスポーツ及びそれに使用されるラグビーぼボール様のボール。容易く人命を奪うことがある。
・ソーレスのフォーム
映画「スターウォーズ」シリーズに登場するライトセーバーの型の一つ。
・ミディ=クロリアン
映画「スターウォーズ」シリーズに登場する超常の力フォースを媒介するとされる微生物。
アホ程強いダース・ベイダーはあれでも身体をサイボーグ化しているので血中ミディ=クロリアンは全盛期に及ばない。
・炎の流法
炎のモード。「ジョジョの奇妙な冒険」(荒木飛呂彦)第二部に登場する敵役エシディシの用いる戦法から。
・赤い風車
ムーラン・ルージュ。「緋色の風車」、「見えざる腕」(Sound Horizon)などに登場する表現。
赤い髪を振り乱し、首を駆る姿を形容しているようだ。
ところでSABBの刀身は完全燃焼の青色なのだが、ここでは赤色になっている。温度が低下しているということだ。
・ずっと「そう」なりたかったのだ。「そう」なれるなら、「そう」しよう。
「HELLSING」(平野耕太)に登場するアンデルセン神父の同様の台詞から。
・チョコレートや煎り大豆
非常に雑にバレンタインイベントを消化していた、
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