警告:乙種機密指定
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◆◇◆◇◆
あきつ丸であります。
玩具箱の玩具代表とのお話を終えたであります。
自分がこうしてここに送られてきたように、今まで数多くの間諜がここに送り込まれてきたのは、要するに自力で新たな艦娘技術を創り出すことのできない陸軍が、なら出来あいの物をぱくってこようと、そういう話なのでありますな。
それにアーセナル鎮守府の玩具たちは、通常の艦娘の規格から外れている部分が多いのも魅力的なのでありますな。
通常の艦娘はあらかた調べ終えた陸軍としては、イレギュラーのサンプルを入手して比較分析し、リバースエンジニアリングの取っ掛かりにしたいところなのでありますな。
今の陸軍の技術力では、精々が少々の改造を施す程度しかできないでありますからなあ。
まあ正直自分はそこまでやる気ないでありますから、ちまちまそれらしい報告書でもまとめてお茶を濁すであります。
そういうことでこのレポートは残念兵器の皆さんをちまちま紹介していく、日記つきの設定資料みたいな感じになっていくだろうことであります。観察日記みたいな感じでありますな。
観察日記第一号の雪風殿に感謝と別れを告げて、名簿の雪風殿の項にチェックを入れるであります。
さて、次は誰をターゲットにするでありますか。
と思案しながらうろついていたところ。
ガラスの軋むような音が、耳触りに響いたかと思うと、その直後。
―――どおん。
間近で落雷に遭ったような轟音が、恐らくは泊地中に響き渡ったのでありました。
◆◇◆◇◆
あきつ丸であります。
『戦闘妖精』とキャッキャウフフした帰りに、大地を揺るがし空に轟く轟音が鳴り響いたのでありました。まあここメガフロートなので大地も減ったくれもないでありますが。
暫くびりびりと大気を余韻が振るわせて、ようやく轟音は去ったようであります。
一体なんだったのでありますか。
すわ敵襲かと窓から海を見てみたものの、平和な青が広がっているだけであります。
フムン。
まあ分からないものは気にしても仕方がないであります。きっと『海域』特有の自然現象とかそんなものでありましょう。
などと自分を納得させていたら、きゅるる、と腹の方が対抗するように音を立てたのであります。
懐中時計を取り出してみれば、時刻は丁度正午を回ったところでありました。
そう言えば今朝は慣れない土地で予想外に時間を喰ってしまい、朝飯を食い損ねたのでありました。ここは午後の活動のためにも何か腹に入れておきたいところでありますな。
確か食堂が司令部の一階にあったであります。何せ機密の多い鎮守府であまり情報がないので、食事事情の前情報は全くなしでありますから、楽しみであります。
これは自分の持論でありますが、飯のまずい鎮守府は大抵所属する艦娘も可愛そうなくらい貧相なものであります。逆に、艦娘が元気で笑顔の絶えない鎮守府は得てして飯がうまいのであります。
今のところ遭遇した艦娘がバッドコップ気取りのヘタレ重巡洋艦とバッドトリップじみた駆逐艦二隻、腕利きヤクザの駆逐艦が一隻、それに隠居老人めいた伝説の駆逐艦とあまり参考にならないので、いやがおうにも期待が迷うであります。
まあしかし迷ったところで腹が満たされる訳でもなし。さっさと食堂に向かうとするであります。あれこれ迷ったところで、結局腹が減れば飯を喰わざるを得ないのであります。
しかしあの轟音もタイミングが良かったでありますな。
あれがなかったら、うっかり空腹を忘れたまま徘徊して、ガス欠になるところだったでありますよ。
何故かはわからないでありますが、都合よく正午丁度に……。
フムン。
………もしかしてあれ、午砲でありますかね。
◆◇◆◇◆
あきつ丸であります。
午砲(仮)が鳴ったのでご飯を食べに食堂に来たのであります。
券売機の前でカレーにするかD定食にするか少し迷うであります。というかD定食はあってもABCがないのでありますが。
あと気になるのは海鮮系。
海がすぐ傍なだけあって刺身定食とかが陸より安く食べられるのは、鎮守府の食堂のいいところでありますが、ある程度陸から離れた『海域』って生態系そのものが違ってくるので、正直ギャンブル過ぎるのでありますよなあ。
そう言えば某鎮守府が、ウナギが回遊のルートに一部の『海域』を経由しているという調査結果を出したのが、『境界』外漁業が盛んになり始めた切欠でありましたなあ。『境界』を如何にして潜り抜けているのか、未だに判明していない謎なのであります。
一説によれば一部の深海棲艦の回遊にくっついて越境しているのではないかとの仮説もあり、鎮守府による『海域』の生態調査は運営本部にも推奨されているのであります。
中にはその『海域』外への輸出が禁じられている品もあるので、そこに行かないと食べられない鎮守府名物にまでなるようなのもあったりするようでありますが、自分はまだそこまで特殊なのは食べたことないでありますなあ。
タウイタウイ泊地の第32司令部が養殖し始めたシーラカンスくらいでありますかなあ。内地のシーラカンスよりやや小ぶりながら身が締まっていて、やや顎がシャープな、タウイタウイ・シーラカンス。
しかし生きた化石と名ばかりはあるものの、「淡泊というより水っぽい」、「味の薄いカニ肉というか、いっそ歯ブラシでもしゃぶってるみたい」、「これは魚というより泳ぐワックスなのでは……?」という声が高いシーラカンス。
驚嘆すべきは、そして賞賛すべきはそんなシーラカンスの品種改良を続け、そして美味しい調理方法まで開発してしまった司令官、通称シーラカンス提督であります。
刺身はまずお勧めしない、としながらも、焼き物、煮物、蒸し物、揚げ物と多彩な調理法を編み出し、甘めのソースで絡めたシーラカンス・ステーキは食堂でも随一の人気だとか。
問題はワックスを多量に含むので人間が食べ過ぎると腹を下すことでありますが、艦娘にはむしろ燃料補給になっていいと好評だとか。
なんでこんな採算取れなさそうな生き物の養殖を始めたかというインタビューに対して、商品であるシーラカンスを「あのクソ雑魚」と呼ぶシーラカンス提督は虚ろな目で応えたそうであります。
「無計画な鎮守府設立に、無職人口を減らそうという政策でホームレス生活からろくな説明もなしに着任させられた最悪の状態からスタート。
資材の確保のために休日返上で働かせる潜水艦どもの木の洞みたいな目に見つめられる毎日に精神を病み、どうにかしなければ、としか口にしない日々を送るうちに、ついに自分の食べるものさえ捻出できなくなった。
採れる魚と言えばろくな栄養もなさそうな、味も最悪なクソ雑魚だけ。しかも腹に詰め込んでもすぐに下して、我が鎮守府自慢の天然の水洗便所にゲラウトする。つまり海にな。そのアウトローどもを餌にしたクソ雑魚を喰わざるを得ない苦痛の輪廻。
しかし艦娘どもは食っても食っても腹を下したりしないことに気付き、奴らの餌をクソ雑魚で賄うことで時間を稼ぎ、クソ雑魚からワックスを絞り取り燃料に加工する技術をひねり出した。難産だったね。オレの排出腔はフィッシュポリッジのひり出し過ぎでワックス開発されちまったくらいだ。
シーラカンス印の燃料で艦娘どもの補給を誤魔化し、余剰分を余所に売ることで財政は上向きになった。エンジンがちょっと焼けつくくらいだからな、売れたよ。ところが今度は漁獲量が多くなりすぎて生態系を壊しかけた。だから養殖した。
幸い、クソ雑魚どもがてめえら由来のポリッジでもすくすく育つことは俺が証明済みだったからな、リサイクルも兼ねて一石二鳥だ。クソ雑魚の料理を始めたのは、養殖が安定してからだ。
その頃にゃ俺も毎日とは言わないがブーツの靴底みたいに分厚いビフテキだって、雑巾みたいにでけえオムレツだって食えるくらい財政はよくなってたが、食った後に出口が緩まない飯に体が寂しくなってな。
ようするに、俺がワックスを美味く食べたいから始めたのさ。それだけだ。クソ雑魚どもを食いにわざわざ内地からいらっしゃる観光客の皆様方に言えるのはこれだけさ。
Kiss my Ass.」
…………うん、海鮮系はやめるであります。やっぱカレーでありますな。外れないし。
◆◇◆◇◆
あきつ丸であります。
ちょっと嫌なワックスだったので、海鮮系は考えないことにして、結局カレーライスにすることにしたであります。
結構腹が減っていたので大盛にしても良かったのでありますが、鎮守府の、特に艦娘向けの食堂の大盛って結構場所場所で量がまちまちなのでありますよ。
普通のカレーライスがそもそも大盛だったり、盥みたいな大皿で出してくる正規空母専用みたいなのだったり、鎮守府の個性が出るところであります。
以前伺った鎮守府では百グラム単位で指定できる所もあったのでありますが、大抵の艦娘はそう言うまどろっこしい単位が嫌いなので、結局キログラム単位になり、最終的には自分で飯を盛るスタイルになってたであります。
同じように辛口甘口も判断の難しいところで、親切なところだときちんと「自殺志願者でない方はお控えください」などの注意書きがあったりするのでありますが、酷い所は平然と劇物通り越して毒物になってるでありますからなあ。
まったく、あんなに泣いたのは、訓練だとかいって物理保護なしでみどり剤の直撃かまされた時以来でありましたなあ。
まあそんなこんながあるので、初めての食堂では基準を知るためにも並盛で挑むのがベストであります。
料金投入口にトークンを投入し、購入可能のランプがともったカレーライスのボタンを押すと、かたんとプラスチック製の食券が落ちてくるであります。
それを握りしめて、少年のような気持でいざ、と受け渡し口に向かおうとしたところで、「あ」とこちらを凝視する姿があったのでありました。
◆◇◆◇◆
あきつ丸であります。
食券一枚買うのに二回も費やしていたところ、ガンつけられたであります。
「おう。おうおうおう。陸軍野郎じゃアねーかこの野郎」
バッドコップこと摩耶殿でありました。
サングラスは外していたでありますが、口の悪さと目つきのやさぐれっぷりとヘタレ臭は間違いないのであります。
知らない人のふりして通り過ぎようとしたのでありますが、チンピラ特有のディフェンディングで道を塞がれるであります。
「おいおいご挨拶もなしたァ寂しいじゃねえか、え?」
いやいや、殺害宣告してきた人に気さくに挨拶するほどこちとらフレンドリーじゃないでありますし。
むしろ腹減ってるときに面倒くさそうなのに絡まれてもノータッチで済ませてやろうという心の広さととって頂きたいのであります。
大体飼い主の方と話ついてるんでありますから、狗ッコロは大人しく骨でも咥えて走り回っているか、アホ面晒して自分の尻尾でも追っかけまわしてバターになるまで回ってろって話なんでありますよ。
というような本音を、オブラートに包んで糖衣で固めて癖字の処方箋にまとめて、出来るだけ悪意のなさそうな丁寧で腰の低い態度でお伝えしたのでありますが、むしろ余計怒らせたみたいであります。
「ほんッとてめェらは馬鹿にしてやがるよなァ……!」
うーん。どうして怒らせてしまったのでありますか。精一杯やったつもりなのでありますが。
そう言えば教官殿からもよく、お前はもうちょっと交渉がうまくならないとな、と言われたものであります。笑顔で話しかけても、申し訳なさそうにしても、うまく行ったためしがないのであります。
昔から、胡散臭いだの人を見下してるだの目が嘲笑ってるだの誠意というものが生まれつき欠けてるんじゃないかだの色々言われてきたでありますが、自分としては全然そんなつもりはないのでありますが。
やれやれ、まったく困った話であります。
◆◇◆◇◆
あきつ丸であります。
平和的交渉に挑んだのに逆切れされたであります。これだから蛮族は。
「容赦しねェぞゴルァ!」
瞬間湯沸かし器よろしく突沸して、大振りに拳を振り上げて殴りかかってくる摩耶殿。
怒らせてしまったことでありますし、陸軍の間諜として泳がされている身としては、出来るだけ騒ぎは起こしたくないので大人しく殴られてあげたいところなのでありますが、こちとら装甲もさほど厚くない揚陸艇。
――迫り来る拳。鼻息荒い顔。
駆逐艦ならまだしも重巡洋艦の拳を受けたら物理保護を突破されて一発大破しかねないでありますし、いくら陸軍式のしごきを受けたとはいえ痛いのは嫌でありますし、着任当日から早々に船渠のお世話になるのも縁起が悪いでありますし、何より。
――意外に鋭いストレート。腰の入ったいいパンチであります。
何よりきゃんきゃん五月蝿ぇ狗ッコロに黙って噛み付かれて舐められるのも嫌であります。困ったら、頭にきたら、言い返せなくなったら、その他特になんでもなくても暴力に頼る蛮人はいけ好かないのであります。
――怒りに任せて繰り出しながらも、きちんと型ができている。真面目な拳。
ああでもこちとら間諜でありますしなあ。もうばれてるとはいえ、決定的な尻尾掴まれるまでは向こうも泳がせてくれるでありましょうし、それまでは快適な生活のためにも怪しまれるようなことして点数下げたくないでありますし、うーん。
「うぉらぁああああああッ!」
あー、もう面倒臭い。であります。
「―――ぁあああああッ!?」
迫り来る拳にそっと掌を添えて、運動エネルギーのベクトルを逸らしてやり、自らの力でくるりと手を後ろに回させ、体勢を崩してダンスでもするようにぐるんとこちらに背中を向けさせる。ぐいりと捻りあげて関節を極めてやり、膝を蹴って地面に転がし、腰の辺りに跨り拘束。
こっちが色々悩んでいるというのに全く五月蠅い。
あー、しかししまったであります。どうしましょう。えー、と、襲われたショック、そう、ショックと恐怖で咄嗟に身体が動いて摩耶殿を拘束してしまったでありますなー。これは困ったでありますなー。不可抗力でありますなー。
「あ痛だだだだだだだッ! 曲がらないッ、そっちには曲がらないからッ!」
まあ何事も暴力で解決するに限る、というインストラクションもありますから、これは仕方のないことでありますな。
いや、暴力などと言うと語弊がありますな。そのような非文化的、非文明的な行為ではないのであります。これは、そう、和平交渉。いわゆる肉体言語による交渉でありますよ。
大体海軍の化け物どもとはいえ、艤装も展開していない艦娘が、陸で陸軍艦に楽に勝てると思っているほうがおかしいのであります。こちとら人間殺し続けて何百年の陸軍様。人型してる限りいくらでもえーと交渉しようがあるのであります。
「もげるッ! もげるからッ!」
そりゃあちょっと上品とは言いかねるかもしれないでありますが、最低限文化的な交渉でありましょう。勿論交渉でありますから、段階を踏み、落とし所を模索していくであります。
「無理無理無理無理ッ! 人体が立てちゃいけない音してるッ!」
具体的には五秒ごとに数ミリずつ深く極めて差し上げるのであります。このとき大事なのは、時間と角度、どちらもきちんと間隔を定めて行うことであります。
ルールがなければゲームが破綻するのと同じで、拷も、交渉もルールが大事であります。ルールがわかればこそ、その結果が容易に想像できるようになるわけで、妥協点や落とし所を決めやすいのであります。
勿論ルールを決めるのはこちら。ルールに従うのは向こう。これ大事であります。交渉の優先事項は主導権を握ることなのであります。
「ご、ごめんなさいッ! ひぐッ、すみませんッ! もうしませんからッ!」
悲鳴に嗚咽が混じり、謝罪と嘆願が頂けたところで解放して差し上げるのであります。
いやー、重巡洋艦の割に随分あっさりと降参してくれるような痛がり屋さんで意外ではありましたが、よく茹でた蟹の脚みたいにぱきょりと腕を捥いでしまう前に参ってくださって助かったであります。
ほら、蟹食べる時も蟹の汁が服にかかったりしたら嫌でありましょう? それと同じことであります。
それにいい加減食堂内の視線も集まってしまったでありますから、えぐえぐと痛みに嗚咽する摩耶殿を引き起こし、仲良く肩を組んで口角を上げさせた上で食堂に向けてダブルピースさせ、全然なんでもないですよ&こいつと仲良しなんですアピールをさせておくであります。
そっと視線を逸らしてくれた皆様の好意に感謝しつつ、券売機にトークンを投入し、飛び切りのオリジナル笑顔で摩耶殿を券売機に押し付けるであります。
丁度いいからちょっとお話しするであります。奢りますから好きなのを買うであります。いいですとかそういうのはいいでありますから、とっとと選ぶであります。自分は腹が減っているのであります。
オリジナル笑顔にリラックスしてくれたのか、弛緩した様な顔つきで、プルプル震えながらボタンを押す摩耶殿。キャバァーン。落ちてきた食券を、震える摩耶殿に代わって取ってやり、受け渡し窓口に向かうであります。
食堂というと鳳翔殿や間宮殿、また或いは鎮守府に雇われた人間の職員といったイメージがありますが、摩耶殿に尋ねたところによれば、何人か料理の得意なものが持ち回りで当番をしているとのことでありました。
このアーセナル鎮守府にも鳳翔殿と間宮殿はいらっしゃるようで、このお二人がまとめ役として、昼は間宮殿が、夜は鳳翔殿が仕切っているようであります。
まあ実際、それだけのことを聞き出すまでに、出来上がった料理を受け取り、席に着き、不思議なことになぜか怯える摩耶殿を宥め賺してと時間を取られたでありますが。
「鳳翔さんは、朝から仕込みはしてるンだけど、昼は大和の世話に行ッちまうんだ」
泣き腫らした目で注文したサラダをつつく摩耶殿。ていうかなんでありますかサラダって。昼飯時にサラダだけって。女子力のつもりでありますか。涙目でサラダフォークでつんつんつつくヘタレ重巡とか、勝てるわけねーのであります。
しかし、大和、というと、あの大和殿でありますか。どの鎮守府でも決戦兵器としてその戦力に期待しつつも、維持費だけでも阿呆みたいにかかるので決戦のときだけ空から降ってきたりしねーかなーと思っているという、あの。
「あー、うん、その大和。あたしは見たことねーンだけど、『ここ』の艦娘の例に漏れず、すげー艦娘らしい」
アーセナル鎮守府らしい大和殿、でありますか。それだけの決戦兵器となるとぜひとも情報は得ておきたいところであります。尋ねてみたところ、摩耶殿も、詳しいわけではないと前置きしつつも、知っていることを吐い、教えてくれたであります。
「よくは知らねーけど、バカみたいに火力はあるけど、バカみたいに資材バカ食いするもんで、出撃させるどころか普段は休眠状態にさせて、維持費を抑えてるらしい」
フムン。
大抵の鎮守府は大和殿を出撃させたがらないものでありますが、いくら小さめな鎮守府とはいえ一般生活レベルの出費すら惜しむとは、どうやら相当の燃費の悪さのようであります。あと取り合えずバカバカ繰り返す摩耶殿の頭の悪さも相当のようであります。
「だからもう、最初から出歩かせる事は考えないで、固定砲台としてメガフロートの主砲代わりに据え付けてるらしい。あ、あとなンでも機関部と直結させて、余剰エネルギーを鎮守府の動力に回してるらしい」
うーん、さすがにちょっと想像がつかないであります。しかし要するにその大和殿を一時的にでもどうにかできれば、鎮守府の動力をダウンさせることができるかもでありますな。まあ、どうにかできれば。
「一応、眠らせッぱなしだと不具合があるかもしれないから、一日一回だけ起こして、動作点検をしてるらしい。ほら、鳳翔さんが世話しに行くって言ったろ?」
ああ、成程。大和殿のお世話というのは、要するにその点検なり整備なりなのでありますな。しかしそういう仕事であれば寧ろ明石殿のような工作艦や、人間の技師の方が向いているように思うのでありますが?
「んー、まあ、殆どはセルフチェックッて言うか、大和自身ができるみたいなんだよな。鳳翔さんはメンタルのチェックッつーのか、カウンセリングッつーのか、そういうの」
あー。まあ艦娘である以上、身動きもとれず一日中寝っぱなしともなれば、精神的に参るかもしれないでありますからな。機械的な不具合よりも寧ろそういった精神的な不具合の方が要注意というわけでありますな。
「まあでも鳳翔さんも見かけによらず大胆なこと考えるよな。大和の気晴らしにはアレが最適なんだろうけど、アレで結構な燃料食うらしいし」
アレ?
小首をかしげる自分に、摩耶殿は、ほら、と適当に中空を指しながら、答えたであります。
「さッきの、お昼丁度のやつ。あれ大和の主砲」
さっきの……お昼丁度の。
というと、鎮守府自体を震わせたような、あの轟音午砲のことでありますか。
「そうそう。気晴らしにッて、起き抜けに一発ぶちかまさせてやってるンだと。出力は抑えてるらしーけど、毎日のように変態技師どもが増設だの改造だのしてるらしいから、日に日にうるさくなってたまンねーよなー」
アレで抑え気味とか。アレで未完成とか。
直接砲撃を見なくてもバカみたいな威力の想像できる砲撃を行う大和モデル。
そりゃあ表に出せないわけでありますな。それこそ最終決戦に控えたモデルであります。
持って帰れば間違いなく自分の任務は文句なしの評価で完了でありますが…………陸軍に管理維持ができるでありますかねえ。今日日、『海域』の資源で潤っている海軍と違って、陸軍は素寒貧でありますからなあ。
第一、持って帰れるようなサイズに収まってるとは思えないのであります。ここは諦めるのが一番でありますな。
一応、その内面会の予定を組んでおくだけに留めておくであります。
……しかし話しながらも食べ進めていたでありますが、ここのカレーライス美味しいでありますな。個人的にはこっちの方が重大な案件であります。
肉や野菜はごろごろと大きめのサイズながらスプーンでも容易く割れるほど柔らかく、濃厚なルゥは辛すぎず、かといって控えめでもなく、旨みと調和した素晴らしく香り高い一品であります。
米もまたよいであります。内地からの輸入品ではなく、このメガフロートで栽培しているものらしいのでありますが、いまだ品種改良を重ねている試験運用の品種とはいえ、なかなかに滋味深い。
ぜひともブランド化して内地にも輸出してほしいところでありますが、まあ一応ここの存在は軍機でありますからなあ、なかなか出来ない相談なのでありましょう。
まあでもここにいる間は好きなだけ食べられるでありますし、役得として今のうちに楽しんでおくであります。
多くのメガフロートが内地から遠いこともあって、結構な割合を自前のプラントで賄っているご時勢ではありますが、ここアーセナル鎮守府はなんと食料品の輸入率が殆どゼロという数字を達成しており、極力外部との接触を絶ちたいという軍機保守のためとはいえ、相当な努力があったことでありましょう。
何せ、他の鎮守府が輸入だけでなく民間企業の受け入れなどをしている中、ここアーセナル鎮守府は、見た限りにおいて食品以外も全てが自社ブランドという徹底振り。嗜好品どころか薬品ですらここで作っているというからびっくりであります。
殆どの鎮守府が都市と一体化している昨今、構造体の殆どを自給自足のためのプラントと自動工場、そして実験施設に割いているのはここくらいでありましょうなあ。
これ、普通に視察して勉強させてもらって内地の工場に生かすだけでも相当陸軍の利益になると思うのでありますが、なんで陸軍は最初から全力で間諜送り込んだ挙句返り討ちにあい続けて関係悪化させてやがるんでありますかねえ。
こういう第一次、第二次産業を疎かにしてるから陸軍は発展性に乏しくなるのでありますよ。いくら小手先の技術力を挙げたところで、肝心の根っこである兵站を海軍と『海域』資源に頼りっきりだから、発想も乏しい頭がちがちの組織になるのでありますよ。
なんてことはまあ、陸では絶対に言えないので、ここだけで零しておくであります。
えー、で、まあまたいつものように脱線したでありますが、要するにここのカレーはとても美味しいということであります。
そんなサラダだけとか、いやまあきっとこのサラダも美味しいのでありましょうが、でもそれだけとかいうのはさすがにもったいないのでありますよ、摩耶殿。
「あー、いや、このサラダも正直苦手ッつーか、あたし普段ここで食べないから」
ほほう。そう言えばフォークでつついてはいたでありますが、結局一口も食べていないのであります。自分が強要したので注文しただけということでありますか。勿体無いから、と寄越されたので、折角なのでいただくであります。
フムン。
期待通りこのサラダも美味しいのであります。瑞々しく新鮮で、使われているドレッシングもくどすぎずさっぱりと心地よい味わいであります。
野菜自体の旨みもよその鎮守府のそれとは比べ物にならず、或いは内地のものよりも美味しいかもしれないであります。いやほんと、海上プラント産も馬鹿にできないでありますなあ。
使っている肥料が違うのでありますかな。まあ自動工場も最先端のものとのことでありますから、きっと特殊な化学肥料とか作っているんでありますな、きっと。
などとむしゃこらサラダを食べ終えたところで、気づいたであります。
普段ここで食べないという事は、摩耶殿はどこで食事を?
「あー………うん。部屋に簡易キッチンもあるンで、自分で作ッてる。軍人とかD級職員の人間用の食堂もあるけど、行ッた事はねーな」
何故か口ごもるように言う摩耶殿であります。食堂があるのに自炊でありますか。寧ろ高くつくと思うのでありますが、まあ変に詮索しないほうがいいのであります。まだ知り合ったばかりでありますし。
それより気になるのは、D級職員というのであります。他の鎮守府では聞いたことのない言葉でありますな。
「ああ、要するに、なンつーのかな、研究員とか以外の、工場やプラントで働く労働者とか、メガフロートの整備保守をする一般技師とか、そういうの。あたしは連中とはあンまり付き合いがないから詳しくはないけど」
フムン。
軍機に触れる仕事をする研究員と、メガフロートの実生活部分を支える労働職員を分けているわけでありますな。
メガフロートの運用にどうしても人手が要る以上、全てを軍人で固めるより、きっちりと職場を分けて民間の労働者を雇用するのが一番現実的なやり方というわけでありましょう。
理想を言えば軍人と艦娘だけで回せれば機密保持には最高なのでありましょうが、小型とはいえ通常であれば3万人程度は住まうことの出来るサイズのメガフロートを維持運用するには無理がありますからな。
他の鎮守府であれば、軍機などというものは極々一部に留まるでありますから、対深海棲艦をはじめとする軍務以外のメガフロートの運用、都市機能の管理、プラントでの労働、『海域』資源の採取などは基本的に民間企業に任せているのが実情であります。
寧ろ、メガフロートという土地と工場を民間企業に貸し与えて、居住・労働してもらい、その都市機能からつながるライフラインに支えられて軍務を遂行しているという形が多いでありますかね。
軍務から都市機能まで単一の組織としてやっている所もありますが、そういうところは大抵提督自身が企業の長であるか、支部長であるという軍需公社なのであります。有名なところでは岩崎ファンド、大洋水産、里見製薬、赤菱重工などのメガコーポが軍需産業の一環として積極的に関わっているであります。
いわゆる軍産複合体というやつでありますが、その矛先が深海棲艦ということもあって、反軍需拡大派もあまり強くは出れないのが現状であります。反対運動がないということではないでありますが。
いまや大企業・メガコーポは『海域』での活動を重点とし、鎮守府にもどのメガコーポの系列かと言う派閥があるほどであります。特にバイオ艦娘を誇る里見製薬や、重武装型艦娘を産出する赤菱重工などは勢力争いのついでに深海棲艦を駆逐していると揶揄されるほどであります。
えーと、それで何の話でありましたっけ。
ああ、摩耶殿が自炊してて、D級職員がどうのという話でありましたな。
フムン。労働階級がD級ということは、管理者である側の提督殿や運営側の研究者達が、A級やB級ということになるのでありますかな。
「いや、AやBはない。D級だけらしい」
ほほう? ではDというのは単なる序列や区分のことではなく、何らかの略称であるということでありましょうか?
「んー……あたしも詳しいことは知らない。姐さんも教えてくれねーしな。まあでも、姐さんがあたしに教えねーッてことは、あたしが知る必要がねーか、知らない方がいいッてことだ。
――あたしはそれに逆らわない」
……フムン。
叢雲殿に『従う』のではなく、『逆らわない』。
ちょっとしたニュアンスの違いにすぎないと言えばそうかもしれないでありますが。
盲目的に命令に服従するのではなく、分かった上で、察した上で、その裏にある好意を受け入れる。それは狗の忠誠ではない。
人の、信頼であります。
「………あンだよ、じろじろ見やがッて」
いえいえ、なんでもないのでありますよ。
自分は腹もくちくなったし、用意して頂いた部屋にでも行ってみるであります。
「あ? ああ、そッか。ンじゃな」
ひらりと手を振る摩耶殿を置いて、食堂をあとにするであります。
フムン。
一日で色々見方が変わるものであります。
最初は面倒くさいバッドコップ。次はヘタレの狗ッコロ。そして最後はまるで人間の女の子であります。
揚陸艦に関節決められてタップしたり、たかだか腕が捥げそうになったくらいで泣きわめいたり、ご飯は自炊してたり、自分が言うのも何でありますが、随分人間臭い艦娘でありますよ、彼女は。
なんだか調子狂うでありますなあ。
ああいう本当の女の子みたいな艦娘。
◆◇◆◇◆
Tips
>小ネタ
・というかD定食はあってもABCがないのでありますが。
アーセナル鎮守府ではDはあってもABCがないものがちょくちょく見られます。材料はDです。
・タウイタウイ・シーラカンス
インドネシア・シーラカンスがいるのは知っているがタウイタウイ……フィリピン辺りまで生息しているのかはよく知らない。
近いからいいやと思ってタウイタウイにしただけだが、「淡泊というより水っぽい」、「味の薄いカニ肉というか、いっそ歯ブラシでもしゃぶってるみたい」、「これは魚というより泳ぐワックスなのでは……?」という味覚情報は実際に食べた記録が残っている。腹を下すのも本当。
シーラカンス提督がどうやって燃料を生成しているのかは不明だが、浮袋に空気の代わりに油脂が詰まっているのは事実。
・みどり剤
大日本帝国陸軍、陸軍化学研究所で開発された催涙作用を持つ化学毒物。
一号と二号があり、一号は一塩化メチルフェニルケトンを用いたもの。原料は一塩化酢酸、三塩化燐、ベンゼン。催涙性を持ち、眼に焼けるような刺激を与え、皮膚、粘膜に触れると疼痛を起こした。
二号は臭化メチルベンゾールを用いたもの。原料はトルエン及び臭素。こちらも催涙性を持ち、濃度が濃い場合は悪心、頭痛を引き起こしたという。
当然訓練だろうと何だろうと人様の顔面に吹き付けていいものではない。
また、当然そんな毒物と比較させられるカレーは食事としてまともではない。
・チンピラ特有のディフェンディング
不思議な事にチンピラとして程度が低い程、肩を揺らしたり電車で大股を開いたり無駄に進路を妨げたりとディフェンス能力が高い。
・バターになるまで回ってろ
「ちびくろサンボ(著 ヘレン・バナマン)」で有名なワンシーンより。寅たちが気の周りをまわっている内に溶けてギー(とかしバター)になってしまいパンケーキの材料にされる。
・何事も暴力で解決するに限る、というインストラクション
サイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー(著 Bradley Bond, Philip Ninj@ Morzez)」に登場するニンジャ、ザイバツ・シテンノのひとりであるレッドゴリラ=サンの教え。
・仲良く肩を組んで口角を上げさせた上で食堂に向けてダブルピースさせ、全然なんでもないですよ&こいつと仲良しなんですアピールをさせておくであります。
古き良き笑顔矯正。是非イラスト化して欲しいワンシーンである。
・キャバァーン。
サイバーパンク・ニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー(著 Bradley Bond, Philip Ninj@ Morzez)」で多用される電子的効果音。アニメイシヨン4話で実際に聞ける。聞こう。
・プラント産も馬鹿にできない
こうは言うが基本的にこの世界の野菜は大体自動工場、つまりプラント産である。他に印刷野菜なども存在する。ここでいう馬鹿に出来ないというのは、プラント産だからとひとくくりにはできず、改良努力によって品質に差異が出る事をさしている。
・D級職員
ABCはいない。
財団職員ではない。
・岩崎ファンド、大洋水産、里見製薬、赤菱重工
メガコーポ。企業。それらしい名前にそれらしい業種をくっつけたもので、深い意味のある名づけではなかった。
ただ、里見製薬に関してはサトミタダシ薬局店からの連想だった記憶がある。
・バイオ艦娘
バイオニンジャから。
恐らく生体改造技術を利用しているのであろう。
・重武装型艦娘
恐らく機械的な火砲を強化した類。