あきつ丸レポート   作:長串望

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あきつ丸、歓迎会に招かれる段


あきつ丸レポートまとめ4

警告:乙種機密指定

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 本文は皇国陸軍秘匿第██工廠被験体「███████」よりサルベージされた文字媒体情報群を再構築した文章です。

 本文は皇国陸軍秘匿第████号指令による乙種機密案件第█████号、計画名「Phantom Pain」に関連する参考資料に分類され、乙種保安権限保有者又は一時付託者以外の閲覧を固く禁止されています。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 あきつ丸であります。

 摩耶殿と別れて、提督殿に用意して頂いた部屋に向かったところでありました。

 艦娘たちが生活する寮や娯楽室、多分全然ないのだろう出撃や遠征用の船渠、指令室、その他艦娘に直接かかわる施設は、メガフロート中央部の司令部棟に集められているであります。

 これは艦で言うところの艦橋構造物にあたり、今朝がた提督殿とお会いした執務室、雪風殿とお会いした屋上展望台、そしてまだお会いしてはいませんが、大和殿のおられる主砲部もどこかにあるのだとか。

 メガフロートの巨大さに対して所属する艦娘というのはかなり少なく、多くても主力二百名以下が一般的で、二軍や予備戦力を加えても五百に届く鎮守府は少ないことでありましょう。

 まあ一部のメガコーポが保有する鎮守府などは、艦娘の実験を手掛けていることもあり、それよりもかなり多くの艦娘を所有していることもありますが、あくまで例外でありますな、そう言うのは。

 ここアーセナル鎮守府では、その性質上、所属する艦娘は非常に少なく、この小型メガフロートでも大きすぎるようで、寮は殆どが空室だとか。

 なので艦娘たちは気が合う者同士でルームシェアしたり、ご近所づき合いしたり、普段よく使う施設のすぐそばの部屋を選んだり、一人で幾つかの部屋を転々としたり、倉庫代わりに使ったり、結構好き勝手自由に使ってるみたいであります。

 まあ、なので自分の部屋が他の艦娘の部屋から極端に離れた一室なのは、別に隔離されてるとかじゃなくて今後の発展性を期待しての自由度の高さが売りなのでありまして、決してはぶられている訳ではないのであります。

 ……チッ。

 まあ仕方がないのであります。

こちらとしてもあまり見られたくないシチュエーションが数多く発生することでありましょうし、いい方向に考えるであります。

 そこはかとなく寂しい気持ちで、頂いた鍵を使い部屋に入るであります。

 フムン。

 なかなかいい感じの部屋であります。

 もともと二人一部屋を前提としたつくりらしく、二段ベッドが一台。据え置きの家具も二人用。それなりに広い作りで、比較的広い縄張りを求める空母型が二隻同居しても問題がなさそうであります。

 台所もいいであります。摩耶殿は簡易キッチンと言っていたでありますが、二口コンロには魚焼き用のグリルも付いているでありますし、フライパンや包丁も置いてあるであります。

 収納も使い勝手のよさそうなもので、これなら私物が増えても楽々管理できそうであります。まあ増える予定はないでありますが。

 内装もお洒落で、壁には絵なんか飾ってあって、ちょっと高級感あるでありますなあ。まあ、なぜダリの燃えるキリンの模写なのかは不明でありますが。正直寄るとかかなり怖いと思うのでありますが、これ。

 前の住人のへそくりでもないかと裏返してみたでありますが、壁にお札が貼ってあっただけなので見なかったふりをするのであります。

 よく見たら部屋の隅にも盛り塩とかありましたが、こちらも見ないふりであります。

 一通り部屋を見て回って、13個の盗聴器と4つの監視カメラを取り外し、隙間に隠してあった式札型の偵察機を窓から放り出し、レーザー盗聴器対策を窓に仕掛け、持ち込んだ新しい鍵をドアと窓に取り付け、ようやく一息ついたであります。

 まあ、予想はしてたでありますけど、この見つかっても構わねえと言わんばかりの量はちょっと意外でありますな。

 この調子だと、複数ある陸軍の暗号通信符丁も割れてるでありましょうから、迂闊に通信での報告はできないでありますな。最初から傍受されてるとわかってたら、暗号文でも安心はできないであります。

 しかし定期連絡は入れないとでありますし、面倒でありますなあ。

 取り合えず、初日の定期連絡として、特に問題なしの一報だけアンシブル通信で報告し、二段ベッドの下の段に倒れこむであります。

 なんだか色々疲れた気分でありますし、お腹も一杯でありますし、あと下手に動きたくないので、晩飯まで寝るのであります……。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 あきつ丸であります。

 夕餉の時間まで寝ていようと思ったのでありますが、中途半端な時間でスマホが鳴りだしたので、渋々起きて表示を確認するであります。

 知らない番号でありますな……しかしこのスマホはプライベート用の物ではなく、官給品の仕事用のもの。悪戯電話や間違い電話ということはなさそうであります。

 甚だ面倒ではありますが、出なかった場合、後で何かあった時が怖いので、仕方なく通話ボタンを押して耳にあてるのでありました。

「叢雲よ。いま大丈夫かしら」

 おや。スマホから聞こえてくる声に、思わず姿勢を正すであります。

 まだ何もしていないはずなのでありますが――あ、いや、摩耶殿との仲良しスキンシップが耳に入ったのでありますか。あれは確かにちょっと激しい「お話」でありましたが、ちゃんと仲直りしてダブルピースまでする中になったわけでありまして。

「なんのことよ?」

 あ、いえ、なんでもないであります。

「まあいいわ。あんたが、陸軍艦が来てることは皆には通達してるけど、今晩夕食の席で改めてあんたを紹介するわ。必ず出席しなさい」

 えーと。つまり歓迎会のお報せ、ということだったみたいでありますな。まあ字面通りに皆さんが皆さん歓迎してくれる訳ではないでありましょうが。

 一応こちらが露骨な諜報活動の尻尾を出さなければ泳がせてくれるみたいでありますから、歓迎の席で、こいつが挨拶代わりだと言わんばかりに四方八方から制圧射撃されるようなことはなさそうであります。

 まあいつそうなってもおかしくはないという緊張感を抱きながらの歓迎会はさぞかし胃にもたれるのでありましょうが。

 了承の返事をして通話を切り、時刻を確認。開始までまだ間がありますな。かといって折角歓迎会で会えるのでありますから、あえていまから艦娘との面会に行くのも微妙。さて、どうしたものでありますか。

 取り合えず身支度をして、のんびり部屋を出るであります。適当にぶらぶら寄り道しながら向かえば、丁度よい時間帯に食堂につくことでありましょう。

 

 ―――――。

 

 さて。修理ドックや出撃ドックを見物し、適当に施設を冷やかしたところで、少し胸も軽くなったので、いい加減食堂に行くであります。

 食堂では既にパーティの準備が仕上がっているようで、後は開始を待つばかりのようでありました。立食パーティ形式のようで、いくつかの大テーブルに和洋中と様々な料理が並べられいたであります。

 隅の方にはドリンクのコーナーもあり、お茶やジュースの他、アルコールの類も豊富であります。そして恐ろしいことにこれらもご当地ブランドのようであります。酒も造ってるでありますか、ここ。

 ちらちらと向けられる視線に曖昧な笑みを浮かべて会釈しながら奥へ向かうと、やっと来たと言わんばかりの顔つきの叢雲殿に捕まったであります。

 あ、いや、そりゃ開始ちょっと前に到着ってのは主賓としてどうかとも思うでありますけど、いやでも間に合ったでありますし、それに提督殿もまだみたいでお姿も見えないでありますし。

「提督がまだだからまずいのよ」

 ずるずると端まで引きずられていかれ、苦虫でも噛み潰したような顔の叢雲殿に凄まれるであります。

「提督は筐体の調整に手間取って、もう少し遅れるみたいなのよ」

 はあ、まあ相当サイバーパンクな見た目してらっしゃるでありますし、整備に時間がとられるのも致し方がないのでは。

「あんたみたいに物分かりがいい奴だけならいいわよ。でもうちの連中は提督に敬意なんてないどころか、単にタダ酒が飲めるから集まったか、暇を持て余して顔を出しただけのような連中なのよ。それが開始が遅れるとなったら帰られるかもしれないし、下手すると酒と飯だけ持ち逃げされるわ」

 何そのアウトローども。思った以上に統制のとれていない艦隊であります。

「提督は気にしないでしょうけど、私はそういうの嫌いなの。例えあんたがくそったれの陸軍野郎でも、歓迎会を開くとなればきちんと遂行する」

 律義というか几帳面というか、苦労を拾って背負うタイプの方みたいでありますな。

「だから、任せたわ」

 …………わっつ?

 何やら肩までつかまれて力強く何がしか託されてしまったでありますが、なんでありますか。いま何を任されたのでありますか。

「私はとにかく早く調整が終わるように急かしてくるから、その間、あんたが挨拶ってことで場を持たせなさい。いいわね?」

 わっざふぁっかーゆーとーきなばうと?

「いいわね?」

 アッハイ。

 叢雲殿の強力なカンムス眼光に負けてしまったであります。

 じゃあ任せた、とマイクを握らされて、小さなステージに立たされてしまったであります。先程までちらちら向けられていた好奇の視線が、今やざくざくと音を立てて全身に刺さるようであります。

 なんでありますかこの新人いじめは。社長の挨拶もまだなのに、無礼講の音頭取りを任される憐れな新入社員でありますか。あ、胃が痛くなってきたであります。

 しかし黙っていても仕方がないのであります。視線の圧力は刻一刻と強くなっており、実際、まだかよ、と舌打ちが聞こえてくるのであります。こうなってはもう、やるしかないのであります。

 マイクを握り締め、顔を上げ、覚悟を決めるであります。

 えー……本日はお日柄もよく、お集まりいただいた皆様には、

「ひっこめー!」

「つまんねえ挨拶してんじゃねえぞゴルア!」

 ああっ、早速待ちきれないで飲み始めた一部の飲兵衛どもからブーイングが!

 しかし開始まだほんの数秒。提督殿が帰ってくるまでなんとか持たせなくては。

 ブーイングを交わしながら適当な挨拶と自己紹介を終えて、さあ、いざ、いま、陸軍で鍛えられた技を見せつけるときなのであります。

 えー、それではご挨拶代わりの一発芸といたしまして、強襲揚陸艇あきつ丸、人間ポンプやるでありまーす。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 あきつ丸であります。

 提督が間に合わないので一発芸で間を持たせる羽目になったであります。開始一時間、そろそろネタが尽きそうでヤバイであります。しかし任されたからには逃げるわけにはいかないのであります。

 えーでは、続きまして、こちらのテーブルでテーブルクロス引きを、あ、さっきやったでありますか、はい、はい、こりゃまた失礼。

 まあこんだけ披露して何でありますがね、隠し芸っていうくらいでこんなに晒しちゃうと商売あがったりなんでありますので、皆さんコレ今夜限りの特別出血サービスってことでね、もう一回見たいなってのあったらいまの内にお願いしますでありますよ。

 はいそこ元気が良かった。手を挙げるのいちばん早かった皐月殿。はい、はい、あ、さっきのね、トランプでね、投げてね、胡瓜切断するの、はい。じゃあそれでね、それでいくでありますよ。

 アッ、でもトランプあったでありますかな。さっき全部投げちゃったでありますからね。あったかなー、予備あったかなー、あ、あったあった、口からだばぁ。はいトランプ口から出てきたでありますよー。キタナクナイヨー、キチャナクナイヨー、そゆこと言うとタメよー、オキャクサン。

 はいじゃあトランプ投げるでありますよー。でももう胡瓜ないでありますからねー。あ、じゃあそっちのね、燃料缶にね、それね、はいわかったであります。じゃあ皐月殿、合図でね、それを上にね、こう投げるでありますよ。空中で全部当たったらご喝采。

 はいじゃあいち、にー、の、さんっ、はい、はいっ、はいはいはいっ、やっ、イヤーッ!

「なにやってんのあんた」

 アッ、叢雲殿。

 待ちに待ってたのでありますけど、急に来られてそういう冷めた視線送られると、ちょっとこちらとしても辛いものがありますし、ギャラリーも拍手するタイミングで来られたもんだから、いまいち盛り上がりに欠ける中途半端なアトモスフィアであります。

 カンッ、カッ、カカカラカラと音を立てて転がる空き缶が侘びしさを強めるであります。

「…………なによ」

 折角暖まった場を白けさせた秘書艦に対する視線は冷たいのであります。しかしそこはろくでもない「ぼくのかんがえたさいきょうかんむす」どもをまとめ上げる秘書艦殿。気にした風もなく席に着くと、無造作に匣をその隣の席に置いたであります。

 匣の中には綺麗な娘がぴったり入っていたであります。

 色素の抜けた白い髪に、血色の透ける頬。人形のように小奇麗な顔。

胸から上だけが匣詰めされた、悪い冗談のようなこの人が、アーセナル鎮守府指揮官、通称匣入り提督なのでありました。

 手間取ったという調整とやらがどのようなものだったのかは分からないでありますが、提督殿本人は至って変わりなく、退屈だったのか眠たげに欠伸など漏らしている始末であります。本当にあれで生きてゐるのでありますなあ。

「ほら、挨拶くらいしなさいよ主催者」

「んー……えー、じゃあ、うんと、ぶれいこー。後は好きにしていいよ」

 挨拶とも言えないぞんざいな提督殿に、しかし艦娘たちは文句もないようで、誰ともなく乾杯の音頭が上がり、主催者不在のままなあなあで始まっていた宴会は、歓迎会という本来の目的不在のまま続行のようであります。

「お疲れ様。悪かったわね」

 ぐったりと席に沈む自分に、ビールを注いでくださる叢雲殿。

 まあなんとかなったので別にいいのでありますが、提督殿の調整とやらは問題なかったのでありましょうか。随分時間がかかったようでありますが。

「ああ、いつものことよ。こんな体だからね、時々不具合も出るのよ」

「いまも改良中だからね。コンパクトだけど、君たち艦娘の技術を利用したハイテクなんだよ、これでも」

 まあ、このサイズで人間の胸から上だけを生かし続けられるというのは相当なハイテックでありますが。

 いろいろとこの体についてとか、どうしてそんな体になったのかなど聞いてはみたいのでありますが、さすがに尋ねてみるにはまだ早いでありますかね。もう少し親しくなってからの方がよさそうであります。なのでまあ、割とどうでもよさそうな質問でも。

 その体でご飯って食べられるでありますか?

「一応は食べられるよ。コンパクトに見えるけど、艦娘由来の空間技術を利用しててね。下手な人間より上等な消化器官が詰まってるんだ」

 フムン。

 見た感じ膝に乗せられるくらいのサイズなのでありますが、見た目通りの性能という訳ではないようでありますな。生命維持機能だけでも相当なスペースを必要とするはずでありますが、そこに冗長とも言える消化吸収機能まであるとは。

 艤装の圧縮保管などに見られる空間技術の応用は陸軍でも目下研究中の最先端技術でありますが、それを人間用の機器に用いるとは、いやはや海軍の技術力は目を見張るものがありますな。運営本部――宮内庁の協力があるとはいえ。

「だからってあんまりこいつに餌やらないでよ。運動もできないんだから、栄養管理が面倒なのよ」

「えー、いいじゃんか少しくらい。ほら、あーん、あーん」

 大きく口をあけて催促する姿は、雛鳥のようでありますな。

 叢雲殿は駄目だと言っているでありますが、なるほどこれは餌付けしたくなる気分も分かるのであります。本人が自分では食べ物に手を出せないという不自由さも同情を誘うのであります。

 なので自分も早速餌付けであります。えー、と、うーん、近くにいい感じのがないので、ここは仕方がなく、先程余興で作った涙巻の残りを投入であります。

「えぶっふぉぶへぇ!」

「このクソ両生類ィ!!」

 や、ちょ、待っ、ちょっと好奇心に勝てなかっただけで、あ、ら、らめェ!?

 ちょっとしたジョークのつもりで提督の口にワサビの塊ぶっこんだら秘書艦にぶん殴られて危うく轟沈するところであります。

 まったく海軍は手が早くて困るのであります。

 むせにむせて、叢雲殿からジュースを貰ってストローでちゅーちゅーごくごくと必死に飲み干し、ようやく落ち着いたらしい提督殿は、全く普通の女の子にしか見えないのであります。

 胸から上だけが匣詰めされているような異常な状況でなければ。

 しかし、この生命維持匣が恐ろしくハイテックな代物なのはわかるでありますが、いくらなんでもこれでは文字通り手も足も出せないでありますし、無防備にもほどがあるのではないかと。

 今日日、空間技術よりもっとローテクな、艦娘の素体を応用した義肢くらいいくらでもいいものが出回っているでありますし、せめて自分で動き回れるくらいの方が便利だと思うのでありますが。

「何言ってんのさ。そんなことしたら自分で動き回らなくちゃいけないし、自分で書類仕事もしなくちゃいけないじゃないか」

 うん、そう言うことがしづらくて不便じゃないかなっていうことだったんでありますが、駄目だこいつ。

「いいのよ、こいつはこれで。誰もこいつに実務なんか期待してないんだから」

「あ、酷いなぁ」

 一応指揮官なのに酷い言われようでありますなあ。

「いいんだよ、これで。実際、私は艦隊の指揮どころか、ここの管理だって叢雲に丸投げしてるしね」

 それで給料もらえるというのが羨ましいでありますな。

「まあ私の本業は知的労働だからね。ブレインさえあればいいのさ」

 フムン。ということは、このアーセナル鎮守府が、鎮守府とは名ばかりの艦娘技術の倉庫であり、研究所であるということと合わせると、提督殿は研究職が本業なのでありますかな。

 まあでも、表には出せないような技術の研究って、エリートなのか左遷組なのかわかりづらいものがありますな。ちなみに提督殿はどういった研究を、

「ボケガエル」

 おろ?

「『これ』はうちでも特別なとびきりの軍機なの。あんまり首は突っ込まないことね」

 フムン。突っ込むと?

「二度と陸でケロケロ鳴けないようにするわ。……ここから出られるとしての話だけど」

 oh... 

 世間話の体で情報収集しようとしたら、秘書艦殿に脅されたであります。

 流石にお目付役の目の前で堂々とやりすぎたかもでありますが、しかしちょっと聞いただけでこれとは。

 過保護なだけなら可愛らしいものでありますが、どうやら提督殿自身が、このプレミアものばかりの玩具箱の中でも、一等レア度の高いプレミアム・グッズのようでありますな。

 尤も、番犬殿の目が怖いでありますから、迂闊に手は出せないでありますが。

 さて、これ以上ちょっかい出してると本当に噛みつかれかねないでありますから、適当に宴の輪に混じって親交でも深めるでありますかな。と思って席を立ったのでありますが。

「酒がないよー? 酒がー」

「もう、隼鷹さんたら、さっき飲んだでしょ?」

「一応同じ空母とは思いたくないわね……加賀?」

「………ひっく」

「っぽいー! ぽーいー!」

「うるせぇのです発情した牝犬かなのですー」

「おう、俺の酒が飲めねえってか」

「ひぃいい、ワレアオバ! ワレアオバー!」

「うう……金剛さァん……」

「オウ、ブッキー大丈夫ネー?」

「気合! 入れて! 飲みます!」

「オロロロロロロロロ」

 ………帰ろう。帰ればまた来れるから。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 あきつ丸であります。

 歓迎会という名目の酒を集るだけの混沌とした宴から逃げ出した、歓迎会という名目の酒を集るだけの混沌とした宴の一応の主賓であります。

 まあ主催者不在でも、余所者の隠し芸を肴に飲んだくれる連中でありますから、今更主賓がいなくなったところで何ら問題はないことでしょう。というか、そもそも主賓というものを理解していたかどうかさえ謎であります。

 ………まあ、正直なところ、そう言った飲んだくれの中に、明らかにこちらに注意を向けているのがいるみたいなので、居心地悪くなって逃げて来ただけでありますが。

 んー。あれどういう視線なのでありますかね。

 例えば摩耶殿の警戒心は分かりやすいものでありました。要するに飼い主の叢雲殿が陸軍を敵対視しているから、それを察してのこと。

 叢雲殿が自分を警戒するのは、陸軍嫌いから。陸軍嫌いは、恐らく散々間諜に迷惑をかけられたから。彼女らの警戒は尤もなもので、こちらとしても慣れたものであります。

 しかしそうでない、もっと好奇心に傾いた視線だったのは確かであります。

 例えば提督殿。彼女には警戒心が見られないのであります。こちらがどう動くのかを常に観察はしているようでありますが、それはあくまでもモルモットの挙動を眺めているようなもの。子供のような好奇心だけであります。

 そこまで極端ではないものの、感じられた視線にはそう言った好奇心が見られたのであります。こいつは一体何をするのだろうかと、期待し、待ちわびているような。

 思えば雪風殿と面会した時も、そのような空気でありました。こちらの接近に感づいていたというのもあるのでありましょうが、待ち構えていた、という雰囲気でありました。話をしながらも彼女は確かに自分を値踏みするように見定めていたのであります。

 それは罠に迷い込んだ愚かな小鳥が、どう足掻くだろうかと見守る悪趣味な好奇なのでありましょうか。それとも……。

 まあ、深く考えても仕方がないのであります。自分は自分の仕事をするしかないのであります。やりたくなくても仕事は仕事。果たさねばらないのであります。

 自分はそのためだけに生かされているのでありますから。死にたくなければ、 務めを果たさねばならないのであります。

 どの道、先などないのだとしても。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

Tips.

 

 

>主な修正箇所

 

・陸軍のアンシブル通信の周波数→陸軍の暗号通信符丁

アンシブル通信の設定がまだ固まっていなかった頃の名残。

 

>小ネタ

 

・トランプ投げ

Mr.隠し芸こと堺正章がトランプを投げて火を消す芸を披露していました。

 

・口からだばぁ。はいトランプ口から出てきたでありますよー。

カードフロムマウスというトランプを用いたマジック。

ふじいあきらの代名詞的トリック。

 

・匣の中には綺麗な娘がぴったり入っていた

魍魎の匣(京極夏彦)が元ネタ。

むかし、匣入り娘がプールでスクリューか何か使って泳いでる漫画を読んだのだけれど今回探して見つけられなかった。残念。

 

・このサイズで人間の胸から上だけを生かし続けられる

空間技術によって見た目以上のサイズがあるようだが、元ネタの魍魎の匣でも巨大な建物サイズの機械につなげて生命活動を維持するのがやっと。

繋がりを思わせるルー=ガルー(京極夏彦)においても夥しい機械に繋がれていた。

 

・艦娘由来の空間技術

艦娘が艤装を圧縮して格納できることを始めとした様々な技術。

艦娘、正確には艦霊の齎す重力素子によって成り立つオーバーテクノロジー。

元ネタは破壊魔定光(中平正彦)に登場する重力制御装置アクティヴデバイス。

 

・涙巻き

ネタにワサビだけを巻いた巻きずし。

食べると涙があふれ出てくるというネーミングだろう。

 

・両生類

カエルなどと並んで作中よくあきつ丸に対して使われる呼称。

海の物である艦娘であるが海軍所属ではなく、陸軍所属ではあるが海軍が秘密を握っている艦娘であることから、どっちつかずの意。コウモリ。

主に海軍側からの別称であるが、陸軍内部でも使うものがいることからわかるように、自陣からですら信頼を得ている訳ではない。

 

・艦娘の素体を応用した義肢

クローン技術を始めとした生体義肢。特に艦娘の素体は、切ったり張ったりを前提とした抗体反応の少ないものがあり、義肢としての仕様が既に実用段階にある。

 

・特別なとびきりの軍機

匣入り提督が海軍に入ったのはこのような体になった事が原因のようであり、そして匣に入る以前に胸から上だけでしばらく生存していたらしい。詳細は現時点では公開されていない。

 

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