あきつ丸レポート   作:長串望

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あきつ丸、旧友に会う段


あきつ丸レポートまとめ5

警告:乙種機密指定

皇国陸軍データベースへの許可無きアクセスは固く禁止されています。

違反者及び関連者は追跡、特定の後、停止処分されます。

 

 本文は皇国陸軍秘匿第██工廠被験体「███████」よりサルベージされた文字媒体情報群を再構築した文章です。

 本文は皇国陸軍秘匿第████号指令による乙種機密案件第█████号、計画名「Phantom Pain」に関連する参考資料に分類され、乙種保安権限保有者又は一時付託者以外の閲覧を固く禁止されています。

 

 

 

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 あきつ丸であります。

 歓迎会も開いて頂き、皆さんにもやっと受け入れて頂けた気が、まあ、全くしないのでありますけど。

 余所者として入ってきて、余所者のまま帰っていけるのが一番理想的なのでありますが。どんな意味にせよそうはいかなそうであります。やれやれ。とにかく、仕事と割り切るであります。

 歓迎会から一夜あけて、早朝。習慣づけられた体内時計によって目覚め、習慣づけられた体が寝ぼけた脳を気にした風もなく朝の支度を整えるであります。

 備え付けのケトルで湯を沸かし、持ち込んだイエメンのNo.9をミルで挽き、朝の一杯を淹れる。こういう仕事をしていてよかったと思える利点の一つは、こういった輸入品を優先的に手に入れられることでありますな。

 まあ、秘蔵のコピ・ルアクみたいなのは、流石に気軽な値では手に入らなかったでありますが。そろそろあれも、機会を見つけて飲まないとでありますなあ。

 珈琲の香りを楽しみながら、ダッチコーヒー用に深炒りのマンデリンをカリタのムービングにセット。これで帰って来た時には落とし切っているはずであります。

 珈琲を楽しむ時は、時間をかけることにしているのであります。窓辺の椅子に深く腰掛け、テーブルの上には珈琲とチョコレートだけ。この時だけは仕事のことも、煩わしい俗世のことも忘れて、ただ一杯のコーヒーに全てを凝集するであります。

 そうすると、日頃の不安や緊張と言ったストレスはゆっくりと溶けだしていき、深く香りをかぐ度に肩の力は抜け、指先までぽかぽかするようなリラックスが生まれるのであります。

 モカ・マタリの鮮烈な酸味と爽快な香気が、まだ半分まどろんだ脳を速やかに、しかし心地よく覚醒させていく。さあ一日を頑張ろうという活力が湧いてきて、気力がみなぎってくるであります。

 いや……いやいや、そういうアレではないでありますから。珈琲キメてるとか言わない。これはそう言うケミカルなアレではなく、大自然から抽出された大地の力とも言うべき天然の神秘であり、実際違法性はないのであります。

 全く……また、珈琲を楽しむには珈琲そのものだけでなく環境も大事であります。デジタル重点のこのご時世にわざわざ持ちこんだアナログ時計のかちかちと歯車が刻む音や、すぐ傍の窓から伺える青い海や、メガフロートの街並みなどといった朝の景色が、目にも美しい。

 まあその一角で、D級職員とかいう労働階級の集団がなにやら書かれたプラカードを掲げて行進し、その主張が無慈悲にも艦娘の暇潰しの射撃の的になっていたりするでありますが、そんなものは見なかったふりをすればいいだけのことであります。実際自分は何も見てないであります。

 あ、誤解を招くといけないので一応明示しておくでありますが、的にされているのは掲げたプラカードではなく掲げているD級職員であります。念のため。

 見えない。自分なーんにも見えないでありますな。鎮守府にはそれぞれ、その鎮守府なりの常識というものがあって、いわば郷に入りては郷に従わなければならないのであります。聖書にも書いてあるであります。

 汝、主を前にしては十字を切れ。汝、仏を前にしては合掌してチャントせよ。さすれば天の国への道は実際二倍。

 朝の珈琲を名残惜しくも終えて、さあ、部屋を出るであります。今日も一仕事、の前に、朝飯でありますな。ここの飯はうまいでありますからな、楽しみであります。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 あきつ丸であります。

 朝食を摂りに食堂に顔を出したところ、視線がざくざく刺さって面倒くさい気分いっぱいであります。

 これで絡んできてくれるならそれはそれで対処のしようがあるのでありますが、遠巻きに見られてるだけだと、何ともしがたいでありますなあ。向こうさんも出方を伺っている、というところなのでありましょうが。

 取り合えず、朝飯を何にするか考えるであります。その方が大事。

 朝限定の朝定食だとかモーニングセットだとかのランプが灯っているでありますが、なんかそういう気分じゃないでありますな。昨日は結局途中で歓迎会を抜け出したので、つまみ程度の物しか口にしてないでありますし、ここはがっつり腹に入れておきたいところ。

 昨日の昼は深く考えずにカレーにしたでありますが、ここはいろいろチャレンジしてみるべきかもしれないでありますな。カレーを不味く作るのは難しいというくらい、カレーはどこの食堂でもそこそこは食べられるもの。挑戦する気概に欠けていたかもであります。

 最終的に何か定番ができるにせよ、まずは色々試してみて、癖を見てみないといけないでありますな。どうせ飯を食うことぐらいしか楽しみなんてないでありましょうし。

 さて、そうなると気になるのは日替わり定食でありますな。毎日毎日別のメニューを考える、というのはなかなか面倒なもの。恐らくメインの一品が変わる程度のことなのでありましょうが、そこに何を持ってくるかというチョイスが試されるでありますな。

 ん? よく見たら定食以外にも日替わりがありますな。日替わり海鮮丼に、日替わり天丼、日替わり刺身定食………ああ、なるほど。

 海に浮かぶメガフロートでは、海産物を自前で調達できるので、食料としてよく利用しているのであります。鎮守府が『海域』を独占している以上、漁業権もへったくれもないでありますから、取り放題でありますしな。

 なので、鎮守府では、その日どんな魚が取れたかで食堂のメニューが変わることもよくある話なのであります。『海域』毎に生態が異なるので、色んな鎮守府をめぐるツアーも組まれているほどであります。

 どこだかの鎮守府では艦娘の度胸試しとしてしょっちゅう銛一本での捕鯨に挑ませ、獲物をメニューに載せるもので、動物愛護協会(過激派)の襲撃を受けたとか。鯨は人間と同じ位頭がよいとか言う謳い文句だったので、平等主義の方針に従って鯨と同じ皿に並べられたそうであります。

 さあこの鎮守府では何が捕れるでありますかな……。

 

本日の日替わり海鮮

・シビマグロ

・アノマロカリス

・ハルキゲニア?(試食者募集中)

・ヴォーテックス(工廠ペンギンとの関連を調査中)

・現地名ボケザメ(大型軟骨魚類(学名未定))

・多分半海棲鼻行類の一種(毒見済)

 

 ……………さて、何食べるでありますかなー。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 あきつ丸であります。

 ちょっとこの『海域』の海産物が信用できなくなったので、無難に朝定食に決めたであります。チャレンジ精神など捨ててしまえ。

 やっぱり最後には安パイ選ぶ、そんな艦種なのでありますよ、自分は。プラント産の作物と合成食品最高。科学バンザイであります。

 朝定食の内容は、プラント産の白米に、プラント産大豆の味噌を使った味噌汁。プラント産の鶏卵を使用した目玉焼きに、合成肉のベーコンとウィンナー。合成白身魚の焼き物。漬物と選べる小鉢(納豆、生卵、白和え)。ご飯と味噌汁はお代わり自由。ビバ合成食品。

 現代社会御用達の遺伝子調整済みプラント作物と合成食品。安全安定、しかも実際安い。対深海棲艦戦が安定期に入って以降、『海域』産業の特需によって急激に増加した人口を支える科学の成果であります。

 内地の政治家御用達みたいな高級店なんかじゃ、今も天然食品だけを使った料理を出している店もあるみたいでありますが、正直、自分にはあんまり違いがわからんでありますな。うまいはうまいでありますけど、それって老舗ならではの技術点じゃね、という感じであります。

 安価で天然食品を、なんてキャンペーンもたまに見るでありますが、有り難がるのは年寄りばかりで、合成食品が当り前の若い世代なんかだと、「衛生管理もないような自然から採れた物って食べられるの?」、「遺伝子調整もしてないのに食べてもお腹壊さない?」と不評であります。

 『海域』でいくらでも魚介が取れるのに、あまり若者受けがしないので市場で余るとか言う、勿体ない話も出て来てるであります。まあそれでも鎮守府海鮮食べ比べなんてツアーがいまも盛況なのは、怖いもの見たさとか、ゲテモノ食いの根性なのでありましょうなあ。

 戦争前までは遺伝子操作した食物は怖いとか、合成食品は所詮紛い物とか言ってたらしいというのに、不思議なものであります。当時のそれこそ代替食品なんて呼ばれてたものより、格段に美味しくなったのが理由かもでありますが。

 まあ合成食品が出回ったのも、結局は人口の急激な増大に生産が追い付かなかったが故の急場凌ぎがそもそもの始まりな訳で、急場凌ぎでもより旨い物食いたいと思うのは人間の性な訳で、それに全力出してやっちゃうのが日本人な訳で。まあ自然な成り行きなのかもでありますなあ。

 あ、勿論プラント栽培や合成食品技術も海軍の特許であります。『海域』産の技術なのでありますな。市場に出回っている合成食品の多くは、海軍直轄の工場で生産しているもので、信頼と実績の伝統品なのであります。

 一応機密の鎮守府であるここアーセナル鎮守府の工場の製品も対外輸出しているようで、定期船が僅かな輸入品を運んできては、山盛りの商品を積んで帰っていくのが週に一度は見られるのだとか。

 必要な資源の殆どが自前で、しかもアホほど調達できるってのが、ホント『海域』産業の強みでありますよなあ。そりゃ陸軍に勝ち目ないでありますよ。いまどき、内地でないと手に入らない資源ってホント少ないでありますからなあ。

 『海域』で海底油田がぽこぽこ見つかり、油田に頼っていた中東圏が経済的壊滅に追い込まれ、いまや反艦娘団体のメッカと化し、内戦と国際紛争の坩堝となり果てた位であります。それをいいことに海軍の新兵器実験場扱いされているのは世間的には秘密であります。

 とっとと連合海軍に加入して『海域』産業に進出していればよかった、なんて専門家は言ってるでありますが、対人の地上戦のデータが欲しかった海軍があえてこじらせたっていうネタは、これホントの秘密であります。だって陸軍も丁度よかったでありますから。

 かつてソビエトでは人は畑で採れるとか謳ったそうでありますが、いまや人は海で捕れるというぐらいで、人的資源さえメガフロートで増え続けている訳でありますから、ほんと人間の繁殖力というか侵食力というか、そう言う節操のない蔓延りっぷり、深海棲艦も目じゃないでありますよ。

 うーん、朝飯前にどうでもいい話を展開してしまったであります。さめる前に飯、飯であります。

 

 

 

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 ドーモ、恰好よくない方のあきつ丸であります。帝都大戦に出演してた?って聞かれるのいい加減飽きたであります。あとげんじんしんも。外套が格好いいのは認めるでありますが。

 さて、合成食品オンパレードの朝飯であります。珈琲とかの嗜好品は自分みたいに拘る人が多いので天然物がいまも主流でありますが、ご飯は合成物と遺伝子調整済み作物が多いよねって話でありました。

 まあ珈琲とかが天然物主流なのは、南米とかの珈琲農家を牛耳るカルテルが頑張っているからでもあります。合成麻薬も進歩する中、昔ながらの天然物を栽培する伝統的農家の皆さんの頑張りは、根絶される所か一部提督業と裏で協力体制をとることで一層の発展を見せているであります。

 まあそう言う頑張りは『境界』の向こう側の内地でやってもらうとして、こっちはのんびり飯でも食わせてもらうであります。艦娘も素体は生体由来でありますからなあ。人外の兵器とはいえ、腹が減っては戦が出来ぬのであります。

 しかし白米と味噌汁の組合せってどうしてこう、犯罪的なまでの旨さと実家の様な安心感が同居するのでありますかなあ。合せ味噌ってのがまた優しいであります。自分はどちらかというと赤味噌の方が好きでありますが、でもそこに白味噌の甘みも加わって、ほうっ、とくるのであります。

 目玉焼きはやっぱり、半熟でありますな。といっても、突いたらどろっと流れ出すくらいではなく、あくまでとろおりと盛り上がる位。そこに醤油をホンの一垂らし。それで十分であります。色々と試してみたでありますけど、自分にはこれが合うみたいでありますなあ。

「あの……」

 この焼魚、イエスでありますな。皮の裏の上等な脂や、身のほろりと崩れる食感まで、たまらんであります。昔、最近の子供は魚が切身で泳いでると信じてる、なんて嘆きがあったらしいでありますが、合成切身って正しくそれなのでありますよね。

「あのですね、」

 ほらあの、チキンジョージみたいな。切身製造工場で培養されて造られてる訳でありますよ。その状態で美味しくなるよう品種改良というか遺伝子操作してる訳で、もはや魚という生物じゃなくて切身という概念でありますよなあ。いやホント、生命倫理何処へ。

「恐縮ですが……」

 まあ自分たち艦娘の素体も合成品、言うならば合成人間なわけで、そんなのが何億と蠢いている訳でありますから、いやはや苦界は恐ろしいものでありますなあ。もはやクローンとかそういうレベルじゃないでありますし。

「あ! の!」

 おおっと。

 飯を食うのに夢中で気づかなかったでありますが、どうやらずっと話しかけられていたようであります。驚いて顔をあげると、そこには青葉モデルの艦娘の姿が。手にした盆には同じく朝定食。小鉢は白和。うーん、生卵よりあっちの方が良かったかもであります。

 まあともかく、えーと、なんでありますかな。自分今日はまだ何もしでかしてないでありますが。

「あ、いえ、そうじゃなくてですね。もしかして、以前お会いしてないかと」

 え、なに、ナンパ? と思うような台詞でありました。うーん、しかしどうでありますかね。青葉モデルは結構どの鎮守府にも配属されてるでありますし、それこそ会うだけならかなりの数と会ってるでありますからなあ。

「ほら、あの。五年前のカディス第三鎮守府の、グスマン提督殺人事件で一緒に捜査させていただいた……」

 あー………あー、あー、あー思い出した。客員として訪れてたのを容疑者扱いされて、頭に来たもんで同じく容疑者扱いされたこの娘と真犯人をあぶり出したのでありましたな。

「そうですそうです! 覚えていて頂いて恐縮です!」

 なかなか印象に残る事件だったでありますからなあ。結局物凄く下らなかったので詳細は記述しないでありますが。確か当時はイギリスのプリマス第五鎮守府所属だったと思うでありますけど、転属でありますか?

「あー、えっと、まあいろいろありまして。相席しても?」

 勿論。その色々を始めとして、お互い話のタネはいくらでもありそうでありますし。早速お聞かせ願うのでありますよ。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 あきつ丸であります。朝飯食いながら現代社会の食について考えていたら、意外なところで知り合いに遭遇したであります。

 しかし青葉殿、よく自分がわかったでありますな。陸軍艦モデルは数が少ないとはいえ、艦娘のご多分にもれず、合成素体の容姿はクローン培養で瓜二つ。よほど改造が激しいとか、アンシブル波長の違いが読み取れる艦でもないと難しいはずでありますが。

「いやぁ、間違える訳ないですよ。火吹きはともかく、剣呑みまで出来るあきつ丸モデルは他に見たことがない」

 ああ………成程。間諜やるには萬に通じる必要があるとかで教官に散々仕込まれた宴会芸は、確かに他にはできないでありましょうな。

「いやぁ、本当に懐かしい。ここに来てから外の知り合いとは連絡もできなかったもので、こうして旧知の方と会えるなんて、青葉、ホントもう嬉しくて……」

 喜んでもらえるのはこちらとしても嬉しいでありますが、こういうの慣れないのでちょっと戸惑っちゃうでありますな。

 自分、色々な鎮守府を短期間ずつ転々として、あんまり一つ所に落ち着いていられなかったでありますから、懇意の人も艦娘も、なかなか作る機会がないのでありますよ。

 陸軍艦ってこともあって、結局、戦車道とかのスポーツ交流を通してでないと、なかなか健全なお付き合いってできないのでありますよなあ。その点、青葉殿とは偶然とはいえ、同じ境遇として意気投合したでありますからな。

 いやホント、友達っていいものでありますなあ。それで、青葉殿はどうしてこちらへ。あの後、取材旅行の続きだとかで南米に向かったとか……。

「あー、いや、あのですね。あれ実は嘘でして……」

 嘘?

「ホントは、任務で中東に行ってまして……」

 中東って、あそこ激戦区じゃないでありますか。何をしに……。

「それが、なんでもあそこで」

「青葉」

 不意にかけられた声に、青葉殿が完全に静止したかと思うと、急激に血の気を引かせ、俯いてしまったであります。

 その肩にほとんど慈しむように置かれた手の主は、古鷹モデルの艦娘でありました。

「青葉」

「いッ、いやッ、ななななにも言ってないですッ、青葉なにもッ!」

 再びかけられた声に、激しく動揺する青葉殿。先程までの朗らかな様子から豹変して、今や断頭台の前のしなびた青菜であります。

「いいんだよ、青葉。別に言っても」

「なッ、なにも、なにもッ、言ってないですッ、言わないですッ!」

「今なら蛙一匹で済むからね」

「アバッ、アバババーッ!?」

 恐怖のあまり失神する青葉殿! かろうじて失禁は免れたもののその顔はうら若き乙女がしていいものではない!

 がくりと崩れ落ちそうになる青葉殿を支えて、そっと楽な姿勢を取らせてやる古鷹殿。青葉殿の恐れ様と、古鷹殿の労わりは、何か致命的なギャップを感じさせるであります。

「えーと、あきつ丸、だったかな」

 アッハイ。

「君は青葉の友達みたいだね。少なくとも青葉はそう思ってる」

 まあ、そうでありますね。自分としても、仕事関係なしでの関係だと思ってるであります。

「じゃあ、あんまり青葉から色々聞きだそうとはしないでね。じゃないと青葉は貴重な友達を一人減らすことになるし」

 何でもない風にそんなことを言いながら、古鷹殿は朝食らしい、小振りなアノマロカリスに殻ごとかぶりついたであります。

 脅すような威圧もなく、構えることも気取る事もなく、本当になにも気にした風もない自然体は、かつて仕事でよく嗅いだ『慣れた』ものの態度でありました。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 あきつ丸であります。青葉殿と話してたら殺戮天使古鷹殿に穏やかに脅迫されたであります。後どうでもいいことでありますが前回青葉殿と古鷹殿がとっちらかってたであります。誤字こわい。

 えーと。自分、もうなんかいろいろ胃が痛くなるような環境なので、できれば青葉殿とは仲良くさせて頂きたいのでありますが、お喋りも駄目なんでありますかねお母さん。

「お母さんじゃないよ。保護者だけど。別にお喋りくらいならいいよ。ただ、うっかり青葉が口走るようなことがあったら、私は青葉を悲しませないといけないかな」

 口走る。そう言えば青葉殿も失神する前、言ってないとか何とか言っていたでありますな。

 青葉殿は何か自分に言ってはいけないことでもあるのでありますか? そもそも取材旅行中だった青葉殿がこんなところに居るのも疑問でありますし……ああ、そう言えば旅行は嘘だったでありますか。

「うーん。そうだね。君の方でそれとなく察して止めてくれたら、私も青葉のうっかりで青葉を悲しませなくて済むし、一応、説明だけしておこうか」

 穏やかに微笑みながら、古鷹殿は左右異なる色の瞳で、こちらをきろきろと眺めたであります。

 なんて言うか、このオッドアイという奴でありますか。左右の色彩が違うからか不思議な、そう神秘性のような雰囲気を感じさせるであります。そうでなくても古鷹殿の鷹揚な微笑みは、どこか浮世離れしているというのに。

 古鷹殿はアノマロカリスをまた一口齧り、ゆっくりと語り始めたであります。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 古鷹型重巡洋艦の古鷹だよ。ここでは主に青葉の保護観察を務めてる。出来れば仲良くしたいんだけど、青葉には怖がられて、なかなか懐いてもらえないんだよね。

 何処から話そうか。君を場合によっちゃ丁寧にすり潰さないといけない理由。青葉が喋っちゃいけないこと。青葉がここに居る理由。色々あるから、まあ、じゃあ、最初から話そうか。そもそも青葉が何者だったのかってこと。

 本当はさ、君も薄々は感づいてたんじゃないかな。青葉が嘘をついていたんだって告白した時も、本当はなんのことか察してたんじゃないかな。青葉はあれで素直な娘だけど、君は違う。君は当時から随分ベテランで、ひねくれ者だったろうから。気づいてたんでしょ、同類だってこと。

 そう、青葉も君と同じ間諜だった。君が陸軍の直轄なのと、青葉が一鎮守府の狗だったって違いはあるけど。今更隠さなくてもいいよ。何もしない内はこっちも何もしない。雉も鳴かない内は放っておけ。そう言われてるからね。

 青葉はある鎮守府の狗として教育され、色んな鎮守府や組織に取材旅行として諜報活動を行っていた。私はその方面のことはよくわからないけれど、優秀だったんだと思うよ。そして残念なことに間抜けだった。極めて優秀な、間抜けだった。

 君との邂逅の後、青葉は中東に向かった。何のバックアップも得られない激戦区に、単身潜入して、しかもあろうことか当時連合海軍が実施試験していたもにょもにょに関する最高機密情報を丸々一式手に入れてしまった。

 で、内容がよく理解できなかったからって間抜けぶりを発揮して、現地の前線基地をしらみつぶしに訪問して、関連するものもしないものも、一切合財の機密を根こそぎにして、とんでもないことに気づかれる前に無傷で帰ってきちゃった。しれっと行ってヘラっと帰ってきた。

 いや本当に、馬鹿みたいな話だよね。彼女の飼い主の方も、まさかそこまでするとは思わなかったろうね。重大機密を手に入れたはいいものの、どうしたって扱いきれない代物だ。で、困ってる提督を見て、青葉はまた間抜けっぷりを発揮したのさ。

 『返しに行った』んだよ。そっと元に戻して、見なかったことにしようとしたんだよ。まあ、流石にこれはうまくいかなかった。なにせ機密を盗まれてすぐのことだ。恐ろしいことに『返し終える』まで無事に終わらせて、その帰りにとっ捕まった。

 捕まえた上層部も、どうしたものかと頭をひねった。だってどんな凄腕テロリスト集団かと思えば、尋問室に入れられた時点でビビって泣き出すような小娘だったんだから。

 しかも尋問してみれば、出るわ出るわ機密の数々。それも追求すればするほど後から後から際限なしに、あちこちの施設や組織の重要機密がぼろぼろ出てくる。もし世に出てたら何人首を切られたか、いくつ組織が解体されたかわからない量だ。

 それでまた間抜けなのが、それを何で活用しなかったか、公開しなかったのかって聞かれて、またまた『内容がよく理解できなかったから』取り合えず放置しておいたってんだからね。

 青葉は完全記憶者なんだ。どんな些細なことも覚えていられる。機密書類も難解なプログラムも、全て頭に入れて持ち帰れるハンズフリーな工作員。でも、それを理解できる脳があるかっていうと別問題だったみたいでね。

 青葉の処分はだいぶ揉めたみたい。これだけの機密を知って生かしておくわけにはいかないけど、青葉の脳内には既に原本の失われた情報や、反艦娘団体の重要機密も入っていた。改めて書き起したり、誰かに管理させたらまた盗まれるかもしれないけど、現状のままならその心配もない。

 それにこれだけ記憶してもまだ容量の余る優秀な諜報員兼記録媒体は他にない。放っておけないけど、でも消してしまうにはあまりに惜しい。

 それで、丁度いい所があるじゃないかって放り込まれたのがここだよ。ハルマゲドンが来るまで大事に大事に鍵をかけている武器倉庫。アーセナル鎮守府。産廃の掃き溜め。

 そして私は、その掃き溜めの中で青葉がうっかり何かのネタを漏らしたりしないようにつけられた監視役ってわけ。青葉は殺されるんじゃないかってすっごい怯えてるけど、心外だよね。私は単にネタを聞いちゃった奴を、いなかったことにするだけなのにね。

 まあ青葉が怯えるのも分かるけど。青葉のいた鎮守府には、情報規制のためにロメロ部隊が送られたからね。久しぶりの出動で大いにはしゃいで、飼い主から艦娘、関係者、飼い犬飼い猫飼い金魚に至るまで、メガフロートひとつまるまる処分されちゃったから。

 私は作戦に参加してないけど、青葉にとっちゃ大分トラウマになってるだろうからねえ。私は青葉が可哀想で可愛くて、たまらないんだけど、なかなか理解されなくて辛いよ。

 まあそう言う訳で、青葉と仲良くするのは構わないし、青葉が笑顔になるなら私はどんなことでも許すけど、でももしうっかり青葉が何か漏らすようなことがあれば、私はとてもとても残念なので、気をつけてね?

 

 

 

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 あきつ丸であります。虐殺天使古鷹殿に、青葉殿の非常に真実味の感じられない、嘘吐くにしてももうちょっと考えろよと言いたい過去話を伺ったであります。

「まあ、幾らか偽装も混ぜてるから、いくら疑って貰ってもかまわないけど、一つだけ確かなのは、私は君が青葉の友達でも、仕事はするってことくらいかな」

 まあ、それは疑いようがないでありますけど。だってこの人、友達とか言う言葉が陳腐に思えるような眼してるでありますもん。

 艦娘は素体に人間由来の部品を使ってるでありますけど、その表層精神構造は対人用にかなり人間に近く調整されているでありますけど、結局のところ深海棲艦を殲滅するための兵器でしかなく、古鷹殿はまさしくその兵器としての在り様としては正しいのかもしれません。

 ただまあ、生物として意思を持って生きて来て、人間社会で慣れ合いながら過ごして来た身としては、こういうのに懐けってのは無理のある話だと思うであります。

 アノマロカリスを食べ終えて、じゃあねと去っていった古鷹殿。そして途中からタヌキ寝入りかましてやがった青葉殿は途端に息を吹き返し、一息ついたようでありました。まあ、あの人多分今もどこかから監視しているでありますけど、わざわざ言うことでもありますまい。

「いやー、すみませんね、妙なことになっちゃって。あの人も多分悪い人じゃないんですけど、人として色々アウトな所があるんですよねー」

 いなくなった途端、ずけずけという娘であります。

 監視対象の身分としては随分優しくしてもらっているようでありますが。

「んー、まあ、それはそうなんですけど、でもあの人、青葉のこと人として見てないですし」

 まあ人を人とも思わない感じでありましたな。まあペット扱いくらいは致し方ないのでは。

「あ、いや、そう言うじゃなくてですね、なんというか、気に入られてるは気に入られてるんですけど」

 箸でもそもそと白身魚を解体しつつ、青葉殿は言葉を探すであります。

「ほら、あれ。お気に入りはお気に入りでも、珍しくてちょっと気に入ってる万年筆みたいな」

 ペットどころか文房具扱いでありました。

「いや、青葉も最初は古鷹さんと色々話してみたんですけど、なに一つかみ合わないですもん。人とモノの区別があんまりついてないんじゃないですかね、あの人」

 物を大事にしてるとか人を蔑ろにしてるとか、そういうことじゃなく、どっちも興味なさそうでありますしね。

 終始絶えない微笑みと穏やかな空気の古鷹殿でありましたが、あれも多分別に機嫌がいい訳じゃなくて、喜びも怒りも悲しみも嬉しみも何一つ心動かされるもののないフラットな精神してるんでありましょうなあ。

 よく晴れた麗かな午後に、通い慣れた道を散歩していくような、そんな平穏な精神状態で散々お仕事してきたんでありましょうな。おお怖い怖い。

 そんなのに付きまとわれて、全然変わった様子の見えない青葉殿も大概だと思うでありますが。え? 自分? 自分はほら、他人事の蚊帳の外でありますから。

 

 

 

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特殊艦娘ファイルを更新しました。

・偵察特化型艦娘、戦術偵察艦『戦闘妖精』雪風

・砲撃特化型艦娘、超戦艦級『最終兵器』大和

・諜報特化型艦娘、隠密諜報艦『ぶらり敵地散策』青葉with虐殺天使古鷹←New!

 

 

 

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Tips.

 

>小ネタ

 

・イエメンのNo.9

中東はイエメン共和国で栽培されている珈琲豆。

いわゆるモカ・マタリ。コーヒールンバで有名。

ワインや花の香りに例えられる芳醇な香りに独特の酸味、甘く澄んだ爽やかな後味が特徴的。コーヒーの貴婦人、コーヒーの女王とも。

No.9というのは等級の表記で、欠点豆が比較的少ない。

 

・コピ・ルアク

世界で最も高価な珈琲とも言われる。

インドネシア語でジャコウネコの珈琲。

珈琲の実を食べたジャコウネコの糞から種を取り出し、洗浄・乾燥させて焙煎したもの。

独特な豊かな香りとコクがあるが、高価なのは希少価値故からであって、万人向けに美味しいという訳でもない。

 

・ダッチコーヒー

所謂水出し珈琲。

カフェイン等の刺激成分が抽出され辛いため飲み口がすっきりしているが、コクは深い。

専用の器具もあるが、ガラスポッドなどに粉と水を入れて冷蔵庫で一晩置くだけでもできる。

ある程度以上深煎りでないと酸味ばかりで美味しくない。

 

・マンデリン

アラビカ種の珈琲。

酸味が少なく苦み成分が強い。水出し珈琲に向くという。

 

・カリタのムービング。

珈琲機器メーカーのカリタが売り出しているウォータードリップ・ムービングのこと。

要するに水出しコーヒー用の器械。

一滴一滴水を落とす滴下式で、抽出に八時間ほどかかる上にでかいので邪魔くさいし、準備も手間がかかるし、とにかく面倒くさく実用的ではない。

しかし見た目が如何にも涼しげな上、抽出している姿は文句なしに優雅で、淹れる時間そのものさえ楽しみたい方にはお勧めの非常に贅沢な一品。

 

・汝、主を前にしては十字を切れ。汝、仏を前にしては合掌してチャントせよ。さすれば天の国への道は実際二倍。

聖書には多分書いていない。

 

・捕鯨

『海域』で多数の鯨が発見されたこの時代、絶滅はまずないとされ、反捕鯨団体の主張はもっぱら人間と同じくらい頭がよい動物だからという一点にかたまっている。

いかにも人間中心の愚かで低レベルな主張である。

鯨は地球で二番目かそのちょっと下くらいに賢く、圧倒的差をつけられて三位に甘んじているヒトザル風情が物を言っていい立場にはないことは銀河ヒッチハイクガイドが無くてもわかることだ。

 

・動物愛護協会(過激派)

会長は高度な知能を持ち人間社会に恨みを持つゴリラなのではないかという根も葉もない噂があるが、ゴリラの方が紳士的であることから信憑性は低い。

 

・シビマグロ

小型のマグロ。ビンナガのこと。ビンナガマグロ、ビンチョウマグロ、トンボマグロなど。

脂ののったものはビントロなどと称される。

いわゆるシーチキンの材料になる。

 

・アノマロカリス

カンブリア紀の海に生息していた捕食性動物。

名前は奇妙なエビを意味する。

エビの尻尾のような二本の触手と、輪切りのパイナップルのような丸い口を持つ。

味はわからない。

 

・ハルキゲニア

トリステインをはじめ大小多くの国家が存在する大陸。ではない。そっちはハルケギニア。

恐らく教科書などで見かけたことがあるであろう、どちらが上でしたかわからない何やらとげとげした生き物である。

こちらもカンブリア紀の生き物。

味はわからない。

 

・ヴォーテックス

学名はバレノルニス・ヴィヴィペラ (Balenornis vivipera)。

アフターマン(ドゥーガル・ディクソン)に登場する、五千万年後の南極海で絶滅した鯨に代わりニッチを埋めたペンギンの子孫。

体つきはかつてのクジラに近く、嘴は水中のプランクトンを濾し取るために多孔質のふるいになっている。

味はわからない。

 

・ボケザメ

恐らくムカシオオホホジロザメ。

所謂メガロドン。動きがとろく泳ぎも遅い為艦娘達からボケザメと名付けられた。

味はわからない。

 

・多分半海棲鼻行類の一種

動物学者によれば哺乳綱鼻行目オヨギハナアルキ科に属するハナアルキの一種ではないかとのことであったが、専門ではないため断言しかねると慎重な姿勢でのコメントだった。

ハイアイアイ群島では絶滅した鼻行類が『海域』で再発見される例は今回が初めてではないが、鼻腔の粘膜部を海水にさらすという特殊な進化を遂げた海棲のオヨギハナアルキは珍しく、トビハナアルキと並んで『海域』各地への伝播経路のなぞに一歩迫ったとも考えられる。

味は淡白で、鳥に似ているらしい。

 

・プラント

所謂植物・動物工場。人工光源・空調設備・溶液培養などによって工業的に生産される。

遺伝的に改良されており、無菌状態で育つ。

鶏卵のプラントという場合、バタリーケージをより効率化させた形となる。つまり卵の生産に必要な部位だけを培養し、電気刺激とホルモン剤によって卵を生産している。

 

・合成食品

一口に合成食品と言っても幅広い。プラント産の原料を加工・合成したものも合成食品であるし、プランクトンから精製されたものも合成食品。酵母を成形した合成食品。

本文中で言及する「昔、最近の子供は魚が切身で泳いでると信じてる」のと同じ様だとされる合成切り身などは、部位ごとに培養液内で培養された組織クローンである。

 

・「衛生管理もないような自然から採れた物って食べられるの?」、「遺伝子調整もしてないのに食べてもお腹壊さない?」

「夢違科学世紀 ~ Changeability of Strange Dream」(上海アリス幻樂団)において、筍の味は知っているが天然の筍というものを知らないという独白がある。

また鴇の味噌汁は(合成で)食べられるのかもしれないとも。

合成食品ばかりの世界では、天然物は却って奇異だろう。

 

・中東圏

人類同士で争っていた「最後の分配戦争」において、産油国としてある種の特権階級にあったが、深海棲艦の登場によって人類同士で争う余力を失い、また『海域』資源の発掘によって人類が持ち直したことから相対的に価値が低下し、経済的危機に陥る。更には『混迷海域』に巻き込まれ、政治的に壊滅する。

 

・帝都大戦

帝都物語の劇場版第二弾。

魔人加藤保憲のマントは実に格好がいい。

 

・げんじんしん

東風谷さんちの早苗さんのことではなく、アカツキ電光戦記のムラクモのこと。

こちらもマントが格好いいが、現人神をげんじんしんと読んでしまった。

 

・チキンジョージ

「14歳」(楳図かずお)に登場する、鶏肉製造工場から何故か生まれてきてしまった鶏面人身の怪人。楳図かずおという時点で問答無用の説得力を誇るトラウマテイストである。

 

・結局物凄く下らなかったので詳細は記述しない

あきつ丸レポートでちょくちょく見受けられる。

一応考えていないでもないのだが別に期待されている訳でもないし書いてはいない。

 

・その肩にほとんど慈しむように置かれた手

「特別料理」(スタンリィ・エリン)において使用された表現。

常連になりすっかり肥えてきた男性の肩に手を置き、ずっと秘密にしていた厨房を見せてくれるという段で用いられた。どうなったかは定かではない。

 

・「アバッ、アバババーッ!?」

ニンジャスレイヤーに於いてよく見られる悲鳴。余り女性的ではない。

 

・ロメロ部隊

艦娘を殺すために組織された運営本部直属の艦娘部隊。

艦娘の殺し方に関して右に出るものはない。

「ステーシー」(大槻ケンヂ)より、ロメロ再殺部隊。

 

・飼い主から艦娘、関係者、飼い犬飼い猫飼い金魚に至るまで、メガフロートひとつまるまる処分

「零崎軋識の人間ノック」(西尾維新)にて、零崎人識がマンションの住人及びペットに行った所業。

 

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