あきつ丸レポート   作:長串望

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あきつ丸、電脳特化型艦娘と遭う段


あきつ丸レポートまとめ6

警告:乙種機密指定

皇国陸軍データベースへの許可無きアクセスは固く禁止されています。

違反者及び関連者は追跡、特定の後、停止処分されます。

 

 本文は皇国陸軍秘匿第██工廠被験体「███████」よりサルベージされた文字媒体情報群を再構築した文章です。

 本文は皇国陸軍秘匿第████号指令による乙種機密案件第█████号、計画名「Phantom Pain」に関連する参考資料に分類され、乙種保安権限保有者又は一時付託者以外の閲覧を固く禁止されています。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 あきつ丸であります。

 青葉殿(と古鷹殿)との素敵な朝食会を終えて、早速今日の目的地に向かうであります。

 本日の目的地は、電信室であります。これは鎮守府によって無線室だとか通信室だとか色々呼ばれているでありますが、『境界』外と連絡を取るためのアンシブル通信用のアンテナ、中継機、通信機がひとまとめにされた部屋であります。

 実は、一般の方は知らないことも多いのでありますが、『境界』は基本的に電波を通さないのであります。『海域』内で電波をやり取りすることはできるのでありますが、『境界』を超えて余所の『海域』に電波を送ることはできないのであります。

 最初期の、つまり艦娘が登場したばかりの頃はこの通信遮断による弊害が大きく、救援や増援の要請さえできず、勿論敵の情報を送る事さえできなかったのであります。下手すると先行した部隊が無事なのか壊滅したのかもわからなかったのであります。

 しかし、しばらくする内に、『境界』で隔てられた二地点において、艦娘同士がある種の共感反応を起こした事例が観測され、注目を浴びたであります。実験を重ねて艦娘間に『境界』間通信能力があることが判明し、徐々に改良され現在の使いやすい形になっていったのであります。

 まあ使いやすすぎて、艦娘同士が任務中にアンシブル通信で無駄話していたなんて事例も増えていて嘆かわしいでありますが。

 この艦娘の持つ通信能力を機械で再現したのがアンシブル通信機と中継器で、どの鎮守府も必ずこれを設置する部屋が存在するであります。ちなみに中継機さえ『海域』内にあれば簡単な通話やメールくらいなら携帯電話サイズの端末で事足りるであります。

 こういった機械が発達したおかげで専門の艦娘通信士を置いたりする必要がなくなったのであります。今も懐古趣味的に置いている鎮守府もあるらしいでありますが。

 娯楽室などに設置してあるテレビなどもこのアンシブル通信で内地の番組を放映しており、時間差なしでお楽しみいただけるのでありますな。

 さらっと流したでありますが、この時間差なしというのがアンシブル通信の第二のブレイクスルー。最初の頃は試す距離が短かったので気付かれなかったのでありますが、『海域』踏破が進むにつれて通信に全くタイムラグがないことが判明。

 どうやら光の速さを(見かけ上)超えて通信が可能である、ということで、ル・グウィンのSFシリーズに端を発する超光速通信技術の名前をお借りして、アンシブル通信、と呼ばれるようになったのであります。

 ちなみにこの呼称、本人は応答可能Answerableのもじりと説明したそうでありますが、周囲はレズビアンLesbianのアナグラムなんじゃいかと勘ぐったりもしたそうであります。

 海軍がこの呼称を採用したのも、当時この通信機能を研究していた者が、『境界』間でも通信可能であること、光の速さを(見かけ上)超えて応答可能なこと、そして艦娘同士、つまり同性同士でのみ通じあうこと、この三つから、冗談半分にこの名付けをしたのだそうで。

 いやはや、何気なく使っている通信技術一つとっても、歴史があるものでありますなあ。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 あきつ丸であります。艦娘同士が繋がる特殊な通信技術、アンシブル通信についてお話ししたところでありましたな。

 このアンシブル通信のおかげで、艦娘はどんな通信機も中継機もなしに遠隔地に、しかも一瞬で情報を伝達できる――つまり驚異的な諜報員になり得る、とある時海軍は考えたのであります。

 ここアーセナル鎮守府は軍機の塊でありますが、普通の鎮守府でも軍機の一つや二つは抱えているものであります。しかしそれをどんなに隠そうとしても、艦娘が一人それを知ってしまえば、機密はいつでもどこにでも洩れでてしまう。

 電波は妨害できる。遮断もできる。手紙や、間諜も取り押さえることができる。しかしアンシブル通信は止めようがないのであります。どんな壁も、人も、『境界』さえも。

 そこで海軍が開発したのが、現在どの鎮守府にも必ず据え付けられているアンシブル中継機という名の傍受装置であります。

 アンシブル通信の原理は、共感の法則に基づくと言われているであります。一度接触した艦娘やアンシブル通信機間にある種のラインが結ばれ、それが無線通信で言う周波数として固定されるであります。

 アンシブル中継器はこのラインに流れる通信を傍受し、必要とあればこれを記録することも、妨害することもできるであります。これがある限り、迂闊な外部との連絡は即座に判明してしまい、情報漏洩を押さえることが可能になったのであります。

 なので自分が外部との連絡を円滑にとるためには、ここの中継器を確認して、その癖や、暗号解読の精度などを確認する必要があるのであります。

 ちょろい鎮守府だと本当にざるみたいなものなので、慣れた諜報員にとってはないも同然なのでありますが、ここアーセナル鎮守府のセキュリティクリアランスは最高レベル。アンシブル通信は諦めることを前提にした方がいいかもでありますなあ。

 

 

 

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 あきつ丸であります。通信室は基本的に、外部からの砲撃などの影響が少ない中核部に存在するであります。ここアーセナル鎮守府も同じようで、鐘楼状にメガフロートから突き出た司令部棟の根元に存在したであります。

 鎮守府の情報中枢だけあって、成程厳重なセキュリティでありましたが、まあ中略といったところで侵入させて頂くであります。いくら警備の艦娘が人間サイズで戦車並の性能を誇るといえ、艤装も展開していない、それも建造物内という狭い空間であれば、いくらでも攻略可能なのであります。

 まあ実際のところは退屈そうな寝ぼけ眼の駆逐艦が二人詰めてるだけだったので、『お菓子』を与えて眠ってもらったところを、電子錠を解除して侵入しただけでありますが。

 重要機密施設の重要機密室にも関わらず随分ざるでありますが、そもそも普通はロックのかかった『海域』に手引きなしで侵入する手立てがないわけでありますから、玄関が厳重なほど中はゆるいのでありますよねえ。

 まあ間諜と分かっている奴を泳がせておいてなおこの警備ってのは緩すぎるかもでありますが………或いはこれさえも予想の範囲内なのでありますかね。掌の上ってのは落ち着かないであります。

 この後室内で出会う艦娘によって、掌の上どころか、そもそも警備の必要さえなかったことを思い知らされるのでありますが……やれやれ、間諜も楽じゃないであります。

 

 

 

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 あきつ丸であります。電信室に入ったであります。通常の鎮守府では人間の通信士と護衛の艦娘が最低で一組、普通は三組以上で当直にあたっているのが普通であります。これをどう無力化するかが、そしてどう痕跡を残さないかが腕の見せどころであります。

 この時だけのために、というわけではないでありますが、秘かに持ち込んだ陸軍謹製空間迷彩。可視光だけでなく赤外線や紫外線、熱量や臭い、音までも漏らさぬ空間偏向屈曲機構。耐久性はそれこそ障子紙でありますが、そもそも攻撃されることもないのでありますから無問題。

 そしてその状態から繰り出されるのは、先程警備の駆逐艦を眠らせた『お菓子』……艦娘の思考中枢に対する電脳ウィルス攻撃。対艦娘用に陸軍が磨き上げた電子攻撃の粋であります。

 陸軍による艦娘研究はすでに限界を迎えておりますが、しかしその派生技術の応用や独自の開発は、海軍にも負けぬ別系統の技術力を獲得するに至っているのであります。

 無論、正面から海軍と争ってどうこうできるとは言い切れないでありますが、裏をかいて隙を突いてうまく立ち回れば、目を欺くことくらいははははははははははははははははは。目を欺くことくらいはできるありますます。はて、なにかかなになにかおかしいでありりますな。ああああああきつ丸でありますすすすす。電信室に入ったであります。入ったであります。ありますか入った?電電電信室丸であります。室内は薄暗い黄金のネオンでふらふら立ち止まったり静かに歩き回った!り。はて。はて。はて。はて。おかかかしししいでありますな。ありますな。ありますな。ディスプレイの電源を切れ! 不思議にふら(郵便?)。陸軍のテックを舐めないでよね! カルディスタン。で。で。で。で。つきまとうな! 敵。敵の攻撃を。受けているいるい敵でるいるいるいる。青白いポストおかしいったらないね。たたた対応、対応しなななないい男 ナポリの戦艦 カトウ くる、くる、くる。くりりりり。ナパーム弾の使用を! 駄目だ。ええええり、えり、砂漠ラクダ それが義務なのデス! ごごーす hakku はっくははは てる うけるてる しぇる、しぇ、るし、ぇる、ぼぼう防壁ききき けみめこ まままあわない 気の持ちようよう精神生活 ばかばかなななばかなばなななな サンキュー第一地方裁判所(キルゴア・トラウト) あなたの魂に安らぎあれ それは教?官殿 きざまざまきざまれれれえきざまれれれれるれ ジャックポット! 実際大規模な。目まぐるしいキンシ蝶。れ。れ。れ。咲かせよ心の闇にすみれを。待たれよ!でぃす。ディス、ディスプレイが笑いますか。かくぜぜ隔絶防壁ををををを「あれ?」ておくくてておくれれにヘラブナるまえあとみぎぎぎひだりり「もしかして陸軍の……あー、やりましたじゃ駄目ですよね、これ」カブトムシの味についてドロローサへの道! メロ?ン機関?きか、きかかかききあか機関にきゅきゅQ「えっと、どうやるんだっけ……あ、攻勢解除」救助要請を、っと、あれ? 思考に強制的に割り込んできた破壊的情報が、唐突に途絶えたであります。

 そして呼吸することを思い出し、自分が一歩目を踏み出した姿勢のまま硬直して倒れ込んでいることに気付き、そして見上げた先に困り顔の駆逐艦を発見したのでありました。

「えっと、すみません、お姿が見えなかったので、うっかり脳を焼いちゃうところでした。………まだ生きてますよね? まだ一分経ってないしギリギリ生きてないですか? 致命傷とかで済んでないです?」

 それはさして罪悪感も覚えていなさそうな綾波モデルでありました。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 あきつ丸であります。お使いの端末は正常であります。綾波殿の支えを借りてなんとか立ち上がり、一息ついたであります。

 まだ目がちかちかするであります。くそったれ。何をされたのか。倒れた時に空間迷彩も解けてしまったようでありますし、念のために持ち込んだ身代わり防壁が予備まで焼き切れてやがるであります。ダメージも抜けきらない無防備な状態であります。F██k!

 えーと、くそ、どうするべきでありますかな。侵入がばれちまったでありますから、始末しないと、いやでも艦娘を消したら流石に誤魔化し切れないでありますしくそっくそっくそっすぐに逃げ出さないと、いや、まずこの娘を説得して誤魔化すべきでありますかええい。まとまらない。

 動揺して空回りする自分を、綾波殿は困ったようにパイプ椅子に座らせ、懇願するように手を合わせたであります。

「内緒にしててくれますか?」

 えっ。

「あなた、あきつ丸さんですよね。陸軍の」

 あっはい。

「あなたはまだ壊さないようにって言われてたんです。ばれたら怒られるので、内緒にしてもらえませんか?」

 えっあっはい。

 子供が花瓶を割ってしまった時のような、極めて自分本位で罪悪感の欠片もないお願いをされてしまったでありますが、こちらとしてもばれたら首が危ないので黙っている方が望ましいであります。

「よかった。あ、お菓子食べます? 工場の量産品ですけど」

 いましがた電脳を焼き切りかけた相手に対して、このあっけらかんとした無邪気な態度。久しく見なかった艦娘らしい艦娘というか、第二世代型の見本みたいなタイプでありますなあ。

 配給品らしいチョコレート・バーを一本もらい、部屋に備え付けのコーヒー・メーカーで淹れた沸かし過ぎの安物の珈琲をすすり、ようやく人心地ついたであります。電脳攻撃を受けた後はチョコレートに限るであります。

 一応は向こうも事を荒立てないでくれるみたいでありますから、ここは開き直って、お仕事と行くでありますか。

 綾波殿、ちょっとよろしいでありますか。

「はい?」

 インタビューの時間であります。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 えっと、特型駆逐艦、綾波です。

 これもう録音されてるんですか?

 はあ。

 ここアーセナル鎮守府では電信室に詰めていて、通信関係と電子防諜を担当してます。

 具体的に、ですか?

 うーん、そうですね。例えば外部からハッキングを受けたときなんか、綾波が防御して、反撃します。

 電信室で取り扱う『境界』間通信の仕組みはどこも同じで、鎮守府内外の電子機器でやり取りされる電子情報を、中継機でアンシブル通信に変換し、『境界』を超えさせることで『境界』間通信を可能にしています。

 また、一定範囲内――普通は『海域』内全域に及びます――で交わされる艦娘同士のアンシブル通信を傍受・記録しています。

 艦娘個体の認識と通信の傍受は、中継機の中枢である多層艦娘電脳演算機構が、鎮守府『海域』に艦娘の進入が感知された際、そのアンシブル波長を記録して一方的にアンシブル・コネクティングが行われることで可能になります。

 要するに『海域』に進入した時点で全ての艦娘は自動的に中継機に登録されて、アンシブル・ラインが結ばれてしまうんですね。しかもパッシブ・ソナーみたいなものなので艦娘からはそれが認識できないんですよね。

 なので不法侵入はすぐにばれるのです――まあ、通信士がちゃんと仕事してればですけど。

 そうです、あきつ丸さんも御存じでしょうけど、中継器って本当に中継器なだけなんですよ。傍受して、記録もしますけど、この子には自律性というか自主性というか自分で考える頭がないので、走査して吟味して判断してっていうのはすべて手動です。通信士のお仕事です。

 あ、勿論ある程度の傾向とか、判断基準みたいなプログラミングはどの鎮守府でもしてますので、半手動って感じですかね。要注意艦娘の通信は即座にチェックするとか。

 で、うちの場合はこの通信士が綾波一人です。あ、別に人手不足とかブラックとか言うことじゃなくて。綾波もここでの仕事好きですし。単に綾波一人で十分っていうだけなんです。

 綾波は、まあ、雪風さんみたいに最初からそういう風に調整された訳じゃないですけど、所謂一つの特化型ってやつでして。電脳特化型、というんですかね。アンシブル通信を利用した電子戦とサイバー攻撃、AC(アンシブル・コンバット)に優れた駆逐艦なのです。

 最初は、出くわす敵の深海棲艦が不調なことが多いっていう程度だったんです。でも段々、綾波が対峙する時とそうでないときの敵の不調率が歴然としてきまして、綾波の方でも意識して敵艦に不具合を発生させるようになりまして。

 深海棲艦も段々耐性をつけて、綾波もそれにつられてどんどん強くなって、それで運営の人に注目されたみたいです。綾波は自分にできることをしてただけなんですけど、同じ艦隊の艦娘も脳を焼かれちゃったので。

 それで綾波が、コンピュータや電脳における電子攻撃めいたことをアンシブル通信で行ってることが分かったんです。そうなんです。実は最初の頃って、今ほど艦娘の電脳や、ACって普通じゃなかったんですよ。

 綾波の改造と解析が進むにつれて、アンシブル通信の利便性や危険性が発見されて、それ以降の艦娘の電脳保護や、防壁プログラムが発達し、今のACM(アンシブル対抗手段)に繋がってるんですよねえ。人に時代ありです。あ、艦娘か。

 あきつ丸さんが表の駆逐艦を眠らせたのも、あれ電脳にウィルスか何か紛れ込ませたんでしょう? 早業でしたね。陸軍のACプログラムはあんまり解析が進んでないので、気になりますねえ。

 え? さっきのですか? さっきのあれは綾波の攻勢プログラムですよ。プログラムって言っても、関連性のない286の自己増殖型ミームを単一標的に同時投射して防壁を物量で侵食するだけのものですけど、一般的な艦娘の電脳や人間の心理防壁位なら簡単に焼き切れる優れモノです。

 名付けて『ママ・ヒットンのかわゆいキットンたち』。うちに侵入したスパイさんの廃人製造数ナンバーワンの素敵なプログラムです。あ、あきつ丸さんはまだ壊すなって言われてますから、安心してくださいね。さっきのはうっかりです。うっかり。

 しかたないじゃないですか、姿が見えないのに誰かいたから、てっきり敵かと……え? なんでわかったか、ですか? お忘れですか、あきつ丸さん。アンシブル波は『境界』も超えるんですよ? 空間屈曲くらいじゃあ隠せませんよ。

 

 電脳特化型艦娘、アンシブル戦闘艦『廃人製造機』綾波でしたー。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 あきつ丸であります。お酒飲みながらレポート書いちゃ駄目でありますよね。ぐだるぐだる。でもポケッタブルなモンスターでもレポートは書けるときに書いておけよって言われたでありますし、仕方ないでありますな。

 ともあれ。綾波殿がアンシブル通信を利用した電子攻撃特化型の、人の脳焼き切っても自分のことしか考えないようなクソッタレのサイコパス艦娘だということは分かったであります。まあ第二世代型の艦娘って大体ろくでもないサイコパスぞろいでありますけど。

 第二世代型の艦娘は、第一世代型で多発した暴走事故の轍を踏まないよう、クローニング技術で製造された合成人間の素体に、識臣で基礎知識と対人表層人格をインプットした電脳を搭載しているのでありますが、これが曲者であります。

 この基礎知識と対人表層人格って、ガチで最低限の代物なんでありますよね。普通に会話したり、一般的な道具や機械の扱いは出来るでありますが、情動とか感情とか、そういうのまではうまくインプットできなかったのでありますよね。

 まあ第二世代が登場した当時は対深海棲艦戦が拡大し続けていた時期でありますから、最低限指示聞いて敵を攻撃できればよかったんでありますよね。そんな環境下で学習し、成長した対人表層人格は、戦争が落ち着いた現在にはあまりなじまなかったのでありますよ。

 一般社会にも艦娘が進出するようになるとどうしても折り合いのつかない個体が増えまして、より現代社会に即した形として第三世代型が研究されているであります。より人間に近い、より人間らしい対人表層人格を持つ艦娘が。

 まあ結果としてそれが問題を劇的に解決したかというと、そこら辺は長くなるのでまた今度。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 あきつ丸であります。電信室に引き籠って趣味と仕事と両立させている究極のインドア派綾波殿とのんびりティータイムであります。ちなみに綾波殿の趣味はB級映画鑑賞とアニメ批評とクラッキングと人格破壊。

 ちなみに最後にこの部屋を出たのは定期メンテナンスで強制的に引きずり出された時だそうであります。四半期に一度しか出やがらねえとかとんだハダカデバネズミだと思うべきか、一年に四回も部屋から出る外向的なモグラハナアルキと考えるべきか迷うところであります。

 いくら艦娘は新陳代謝がゆっくりとはいえ、三か月もこもりっ放しではいろいろ大変なのでは、と思ったのでありますが、このデキル引き籠り、24時間電信室に詰めることを条件に、風呂にベッドにトイレに大型のテレビにと色々増設してやがるであります。

 洗濯は日に一回担当の艦娘が回収してクリーニング済みの衣類を置いていくそうであります。食事は気が向いたときにデリバリーさせる仕組み。掃除は週に一回、担当の艦娘がくるみたいであります。

 随分好待遇というか、よくそんな生活が許されるものでありますな。羨ましいものであります。と首を傾げてみると、

「仕事の質に対する、当然の報酬ですよ」

 とさも当然のように言われたであります。

「当鎮守府に対する不正アクセスは現在のところ一日平均十三件。綾波がここに常駐するようになってからの防壁突破率は堂々のゼロ%です。侵入者への反撃は自慢の攻性防壁で160%なのです」

 むふん、と胸を張る綾波殿。なんでありますかその160%とかいう頭の悪い数字。

「トレースして不正アクセス元を焼き切るのが100%。その上で関連する端末情報を洗い出して焼き切るのが大体60%。飛び火防壁とか報復防壁とか言われて、流石に対策され始めたので100%には届かないですけど」

 ああ、陸軍でたまに電算機室が炎上してたのって……。

 一応陸軍のネットワーク技術は電脳技術の普及や社会インフラの電子的整備などに先だつセキュリティ構築の段階で、海軍以上に洗練されていると自負するものなのでありますが……結局のところ突出した個人のハッキングスキルには及ばないところがあるのが現状であります。

 ある程度以上にネットに精通してくると、現場におけるナノ秒単位での判断やミリ秒単位でのやり取りが必須スキルとなるのでありますが、これは教育や訓練でどうにかなる類の物ではない、戦場の勘といった代物になってくるのであります。

 陸軍も優れた技術者をそれなりの数は擁しているでありますが、もとが高度な演算能力を前提に設計された艦娘の電脳が相手だと、厳しい所なのであります。まあ空母クラスの演算能力ならともかく、駆逐艦の演算能力に手も足も出ないってのは情けないところでありますが。

 まあどうやら単なる駆逐艦とはもはや呼べない程度には改造されているようでありますから、その演算速度も見た目通りの物ではないようでありますが。

「ところで、ここには何のご用で来たんでしたっけ?」

 あ、そうだったであります。うーん。どうするでありますかな。こっそりシステムに有線侵入して細工するつもりだったのでありますが、こうなると難しいでありますな。もう脳を焼き切られそうになるのは御免であります。

 取り合えず、いまは頂いたチョコレート・バーを安物のコーヒーで流し込むであります。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 あきつ丸であります。結局、うまい言い訳を考えるのが面倒くさくなったので、施設見学の一環だと言い張ることにしたであります。

「はあ………でも見張りの娘たち眠らせてましたよね」

 死ぬほど疲れてたみたいなので。

「迷彩は……」

 いちいち対応させてはお邪魔かと。あと視線を気にしない自然な労働環境が見てみたかったので。

「……………」

 やる気のない言い訳に、胡乱げな視線を向けられてしまったであります。

「まあ、いいです。面倒くさいですし」

 幸いにも自分の職務と趣味に露骨に引っかからなければ見逃してくれるタイプの物臭だったようであります。

 しかし、とはいえ、いくら物臭でも部外者が侵入したとあっては、後々提督殿に報告が行ってしまうかもしれないであります。ちょっと挨拶に来ましたよくらいの報告ならいいでありますが、微に入り細を穿つような報告だと困るであります。

 報告するにしてもできるだけマイルドな方向に収めて頂きたいところ。かといって脅しも効かなければゴーストハックも通じないファイアウォール。フムン。

 ここは鼻薬でありますな。

 綾波殿、確かB級映画とアニメがお好きだとか。

「そうですよー。絶妙なバランスで下らないのが好みです」

 ならちょうどよかったであります。

 暇潰しになるかなと思って持ってきたKarate Kommandosがここにあります。

「Karate Kommandos」

 チャック・ノリスのアニメであります。

「チャック・ノリスのアニメ」

 交渉は大変スムーズに完了したであります。お互いがお互いに得をする取引を陸軍は推奨しているであります。お前によし。俺によし。うんよし。ウィンウィンであります。

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

Tips.

 

>主な訂正箇所

 

・電脳特化型艦娘演算機構→多層艦娘電脳演算機構

特化型の艦娘との混同を避ける為、

 

>小ネタ

 

・アンシブル通信

アーシュラ・K・ル=グウィンのSFシリーズに登場する超高速通信技術。

レポート編纂者はオースン・スコット・カードの「エンダーのゲーム」で知った。

 

・共感の法則

「金枝篇」(ジェームズ・フレイザー)にて語られているという共感魔術理論の法則。

「接触したもの同士には、何らかの相互作用がある」というもの。

アンシブル通信は主に、そのうちの感染の法則(以前は一つであったもの、互いに接触していたものには、離れた後も神秘的な繋がりが存在する。よって、片方に起こったことは他方にも影響を与える)によるものと考察されている。

 

・空間偏向屈曲機構

空間迷彩。艦霊の齎す重力制御技術、所謂空間兵装技術の応用。

空間を薄く折りたたむことで、自分の存在を外部から切り離し、迷彩効果を得る。

ただし、内部から外部を確認するために完全には隔絶できず、また出力の関係から衝撃などに弱い。

 

・電脳ウィルス攻撃

第二世代艦娘の本体は胎内腰部に存在する電脳である。

極めて高度かつ優れた自律知能である電脳はそうそう容易くはクラッキングできないが、電子的攻防は常に一進一退のいたちごっこで、一時的な目くらましやまやかし程度は珍しくもない。

 

・室内は薄暗い黄金のネオンで~

一連の混乱した文章はMother2よりムーンサイドを参考にしている。

 

・ディスプレイの電源を切れ!

「雷電、今すぐにゲーム機の電源を切るんだ!」と言われて電源を落としたプレイヤーは果たしてどれくらいいるのだろうか。

「MSXノ デンゲンヲ キレ!」と、実はメタルギアの頃からあるセリフだったりする。

 

・カルディスタン

何故か耳に残っていて書いたが、攻殻機動隊 ARISEに登場する地名であったようだ。

なお編纂者は観ていない。

 

・カトウ

恐らく「重機甲兵ゼノン」(神崎将臣)に登場するトウノと、帝都物語の魔人加藤がごっちゃになり、カタカナ表記のカトウとして記憶されていたものと思われる。

 

・ナパーム弾の使用を! 駄目だ。

FPSソフト「Battlefield1942」における「敵の潜水艦を発見!」「駄目だ!」が元ネタかと。

 

・ええええり、えり、砂漠ラクダ

Eli, Eli, Lema Sabachthani?

 

・それが義務なのデス!

恐らくRPG「クロノトリガー」において荒廃した未来の自動工場で相対することとなるマザーブレーンのイメージと、TRPG「パラノイア」の「幸福は義務」あたりがまざったのではないか。

 

・気の持ちようよう精神生活

「ニンジャスレイヤー」のいちエピソードである「ラスト・ガール・スタンディング」作中に於いて歌われ、公式で音源化されたオリジナル楽曲「ラブ王侯」の歌詞より。

 

・サンキュー第一地方裁判所(キルゴア・トラウト)

カート・ヴォネガットの小説内に登場する架空の小説家とその作品名。

編纂者はWeb漫画「胎界主」にてその存在を知った。

 

・目まぐるしいキンシ蝶

恐らく錦糸町とかけていると思われる。

 

・咲かせよ心の闇にすみれを

ナイトウォッチ三部作のひとつ、「わたしは虚無を月に聴く」(上遠野浩平)に登場するフレーズ、「夜の果てを視るように、心の闇にすみれを咲かせよ」より。

 

・カブトムシの味についてドロローサへの道!

「ジョジョの奇妙な冒険 Part6 ストーンオーシャン」(荒木飛呂彦)より、DIOの遺した天国に行く方法にまつわる14の言葉、「らせん階段」 「カブト虫」「廃墟の街」「イチジクのタルト」「カブト虫」 「ドロローサへの道」「カブト虫」「特異点」「ジョット」 「天使」「紫陽花」「カブト虫」「特異点」「秘密の皇帝」より。

 

・メロ?ン機関

メロン器官。イルカなどの頭部に存在する脂肪組織。エコーロケーションの音波を集中させるために用いるとされる。

 

・電脳攻撃を受けた後はチョコレートに限るであります。

「ハリー・ポッターシリーズ」(J.K.ローリング)より、吸魂鬼に気力を奪われたときはチョコレートがよいとされることから。

 

・ママ・ヒットンのかわゆいキットンたち

コードウェイナー・スミスのSFシリーズである、「人類補完機構」シリーズの同盟の短編及び同作中に登場するテレパスによって狂気を伝播させ侵入者の精神を破壊する防衛機構より。

 

・ポケッタブルなモンスターでもレポートは書けるときに書いておけよって言われた

「ポケットモンスター」ではレポートは書ける時に書いておかないと後で後悔する。

 

・識臣

「バイオメガ」(二瓶勉)より。合成人間たちはこの識臣内で仮想的な成長過程を経験するという。

 

・ハダカデバネズミ

完全地中棲で蟻のような新社会性生活を営む。「新世界より」(貴志祐介)でこの生物を知った。

 

・モグラハナアルキ

地鼻類モグラハナアルキ科モグラハナアルキ属。強靭な鼻でトンネルを掘り、地中生活を送る。

 

・死ぬほど疲れてたみたい

連れを起こさないでくれ。死ぬほど疲れてる。

 

・Karate Kommandos

地上最強の男、チャック・ノリスのアニメ。五話で終わった。コミック化もされている。四巻で打ち切り。

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