吸血鬼は窯の女神の眷属となりて   作:一般的曇らせ愛好家

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第六話

ぱちり、と瞼が開く。

 

「...んぅ...」

まだ眠く、微妙に重たい瞼を擦りながらぼやけた視界を動かす。

時計を確認すると、朝四時。ブラック企業に出社するにあたっての早朝起床はもうぐっすり寝てもよくなった今もなお、体に染み付いて取れない。

 

ふと気づいた。

ヘスティア様がいない。

昨日一緒にベッドで寝たはずなんだが...?

 

ベッドから落ちていないかと見てみるも居ない。

これはまずいとベル君に声をかけようとしたが、直前で止めた。

 

ソファーに潜り込んでベル君と一緒に寝ている...

そんなにアイズ氏に嫉妬していたのか?

外見と不相応な威厳を放つ我らが主神も、また一人の乙女だったという訳か。

 

子供っぽい所もあるからなぁと納得し、二人を起こさないようにそろりそろりと必要なものを用意してホームを出る。

 

「行ってきまーす...」

 

聞いてはいないだろうけども、そう小声で呼びかけて、早速武装を整えに向かう。

 

...この時間に空いてるかな?

 

 

四軒回った。二軒は6時から開店で、一軒は定休日だった。くそう。

 

だが、その甲斐あって格安で良い武装を手に入れられた。

今度は壊さないようにしないとな...

盾が壊れるなんて、余程のイレギュラーがない限り起こらないはずなんですけどね?

 

おかしいなぁ、と首を傾げつつ装備の点検に取り掛かる。

 

左腕にはカイトシールドを上下反対にしたような盾をしっかりと固定する。

構えて防御にも使えるし、叩きつけられるし、先端で突き刺すこともできると、かなり攻撃的な盾だ。

最初見た時はどっかの鍛冶師が作成ミスしたものが流れて来たのかと思った。

 

売れ残って流れ着いたというあたり、似たようなものか。

作成ミスではなく、鍛冶師の気が狂っていたかアホだったというオチだ。

馬鹿らし。これを買う私の方が馬鹿かもしれないが。

 

次に、右腿にナイフのホルスターをしっかりと固定する。

ナイフではなく直剣にしようかとも思ったのだが、この小柄な身体が満足に振り回せるようなものは見当たらなかったのだ。

 

このナイフも何か問題作だったらしいのだが、店主の特に問題は無いんだがなぁ、という言葉を信用して、いちゃもん交渉によって格安で良品のナイフを手に入れることに成功した。

 

何度か素早く引き抜く動作をして、固定した場所やホルスターに問題が無いことをしっかりと確認してから歩き出す。

 

もうそろそろ5時になる。ベル君が起き出してくる時間だ。

 

ソロ散歩兼買い物をしっかりと楽しんだ私は、今日も生活の為に働くことの覚悟を決め、ファミリアへと帰るのだった。

 

 

「うぅ...お腹すいたぁ...」

 

そんなベル君の情けない声と鳴り響くお腹の音をBGMに、私たちは大通りをダンジョンへと向かって歩いていた。

 

ヘスティア様がベル君に乗っかって一緒に寝ていたことにびっくりして、ご飯も食べずにぱっぱとホームを出てきてしまったらしい。

ベル君の初心さもしっかりと平常運転で安心した。これが無いとベル君って感じがしないのだ、と馬鹿な思考をしつつ、返事をしてやる。

 

「しょうがないなぁ、行く途中で何か買っていくかい?」

 

こんな朝っぱらとはいえ、まばらだが人通りはあるのだ。

需要があるなら供給もあるだろう。

 

軽く周りを見渡して、空いている鎧戸を探していると、唐突にヘンな感覚が背中を走り抜けた。

 

ばっ、と後ろを振り向き、周りを見渡す。

ベル君もこの感覚に気付いたらしく、同じように周りを見ている。

 

何だろう、明確に何があるという感覚ではないのだが、この感じ、アイツに喋りかけられた時と同じような...

上位存在が、無遠慮に眺めてくるような感じだ。

 

考えを巡らすが、考えすぎだろう。と結論付けた。

あまりにも唐突すぎるし、アイツはしばらく見てるだけにするよ。と言っていたし、こんな雰囲気を出せるようなやつも見当たらなかった。

 

フラッシュバックしただけか、と理解して、ベル君の額にデコピンをして歩み出す。

 

「何時までそうしてるんだい?気づいてないかもしれないから忠告してあげるけどね、君、非常に不審者的だよ」

 

突然大通りのど真ん中で立ち止まり、警戒態勢に入っていたのだ。

奇異なものを見る目で見られていたことは間違いないだろう。

これ以上の恥は私はかきたくないのだ。

 

すっとぼけた顔をしているベル君をもう一回小突こうとしたところで、真後ろから声が聞こえた。

 

「あの...」

 

振り向くと、近くの店で一人で片付けや準備をこなしていたウェイターさんが声をかけてきていた。

 

ほれ見たことか!不審者に間違われてしまったじゃないか!

 

私が頭を全力で回して必死の弁解をしようとしたのだが、その前に相手から二言目が飛んでくる。

 

「これ、落としましたよ...?」

 

そう言って見せられたのは、紫紺色の結晶。魔石だった。

ベル君は慌てふためいて巾着袋の中身を確認しているが、おかしい。

 

何がおかしいって、昨日魔石は私の分もベル君の分も全て換金したからだ。

特に私の方は血まみれになっていたからポーチの中身は念入りに確認した。

ベル君の巾着袋は確認しなかったから、もしかしたらベル君が換金し忘れたという可能性はある。特に昨日は疲れていたし。

 

なんかきな臭い気がするので警戒して、ベル君にやり取りは全部任せることにした。

 

最初は疑問に思いつつも感謝していたベル君だが、空腹なのを見抜かれて、朝食を渡されたあと、晩御飯をこの店、『豊穣の女主人』で食べるようにと誘導されてる。

 

...あほらし、ただ商魂たくましいだけだったか。

可愛らしい見た目とは裏腹に、内面は非常にしたたかな女性だったようだ。

 

「シル、シル・フローヴァです」

 

だが、何だろう、この違和感は。

 

店員さんと名前を交換して、歩き出す。

 

表現できないけれど、確かに何か感じていた違和感。

それは、財政がカツカツで節約しなければいけないのにも関わらず、結局食事に行く約束をしてしまったベル君をからかっていたらすぐに何処かに行ってしまった。

 

「君って奴は、本当に恋多き少年じゃないかね?ん?」

 

一人だけ朝食を手に入れやがったベル君に腹が立っていた私が少しばかりの怒りを込めて煽る。

 

そんなバカみたいな軽口を叩いて、改めてダンジョンに向かう。

こういう所でパーティは連携を高めていくのだよ。

 

嘘だが。

 

 

私たちはT字路で左右に分かれ、物陰に潜み敵を待ち構えていた。

 

新しい武装に早く慣れたいのもあって、いつもよりもハイペースで二人で敵を狩っていたのだが、突然コボルトの集団に出くわしてしまったのだ。

 

普通コボルトは徒党を組むことは無い。凶悪な犬のような見た目をしているこのモンスター基本的には1~2匹で行動しており、今回のように十体もの群れは初めて見た。

 

激レアな事態に遭遇することができたのはゲーマー冥利に尽きるが、それによって命の危機に陥るのであれば、それは全く歓迎すべきことではない。

 

先手を取って攻撃を仕掛けたことでベル君と一緒に二匹は片付けたのだが、八匹も残っていた上にしっかりと包囲網を組んで襲い掛かってきたのだ。

二人いるとはいえ流石にちゃんと陣を組んできた八匹を同時に相手にするのは厳しい。

 

そして、二人して逃げ出して、今に至る。という訳だ。

 

ずっと逃げていても他のモンスターに出くわしたら今度こそ逃げ場がなくなってしまう。どうしてもここで撃退するしかなかった。

 

少しづつ迫ってくる地を揺らすような沢山の足音に覚悟をしっかりと固める。

 

ベル君がしっかりと短剣を握りしめ、私が盾を構え、目を交わす。

そのタイミングで目の前に血走った目の獣の顔が姿を現した。

 

左腕を振りかぶりながら素早く飛び出し、ベル君が向かったやつとは別のコボルトを倒しに行く。

ベル君が飛び出してきた個体の心臓を一突きしてすぐに仕留めたことで、他のコボルトに動揺が広がる。

 

先頭の二匹に狙いを定め、体勢を立て直される前に距離を詰める。

左の個体を勢いのまま蹴り飛ばし、右の個体の喉に盾の先端を叩きつけて潰す。

そのまま地面に叩きつけ、ナイフを腿から引き抜き、眼に突き刺して止めを刺した。

 

一匹目。

 

ベル君が殺した個体を盾にして突っ込み、また一匹始末しているのを見て、ようやく動きを再開した個体が三匹。

ナイフを引き抜いて先ほど転がした個体に投擲する。

 

ダーツのように真っすぐ飛んだナイフは足に突き刺さり、苦悶の声を上げコボルトの動きが止まる。

直ぐには向かってこれないと判断し、先ほどの三匹に向かって跳び跳ね、上から盾を叩きつけることで一匹の頭をぐちゃりと散乱させる。

 

二匹目。

 

ベル君に飛びかかってきた一匹が往なされて壁にぶつかり転がっているのを見て、そいつの頭を渾身の力で蹴り飛ばす。ぽきりという小気味のいい音がして首が明後日の方向に捻じ曲がった。

 

三匹目。

 

ベル君がもう一匹の腹を掻っ捌いて臓腑をまき散らし下ごしらえしている。

コボルトの血って美味しいのかな?最後の一体はベル君に任せることにしようか。

投擲したナイフを回収しに最初に相手した個体のもう片方に向かう。

瀕死の身体に刺さっているナイフを引き抜き、喉を踏みつけて潰す。

 

四匹目。

 

丁度ベル君も最後の一匹を仕留めたみたいで、これで合計八匹。

無事に乗り切ったみたいだ。

 

二人して脱力してしまう。

八匹もの群れを相手にしたのだ、疲労感も当然ながら襲ってくる。

 

もしかしたらとても強い...それこそ最前線で戦ってるような人たちが所属しているファミリアの人達なら、立ち回りなんかももっと上手いだろうから、楽に乗り切ることができたのかもしれない。

ヘスティア・ファミリアの構成員は今のところ二人、私とベル君だけだ。

 

当然教えを受けられる人なんていないし、戦い方だって我流と言えば聞こえはいいが、実際のところ素人同然なのだ。

 

まぁ、ベル君と二人で行動できるなら、足りないところを補えるからまだマシな動きは出来るだろうがいつも二人一緒とは限らないのだ。溜息を吐きながらエイナさんに教えられた教訓を思い返す。

 

地形を利用する。深追いは決してしない。一対一の状況になるように心がける。

どれも基本的なことだが、同時に大事なことだ。

しっかりとエイナさんに教えられたことを意識できれば、しばらくは二人でもどうにかなるだろうか。

 

これからのことについて考えながら、先ほど討伐したコボルトに向かい直す。

モンスターは、体の中に魔石と言われる紫紺の結晶を持っている。

 

私達冒険者はこの魔石を換金することで生計を立てている。

ホームにある魔石灯もこの魔石から作られていて、冷凍庫やら発火装置やら様々なことに応用が利くので非常に便利なのものなのだそうだ。

 

詳しく説明を聞く気もなかったが、どうやら魔石は魔力が結晶化したものらしく、これが動力源になってモンスターは動いているらしい。

だから、この魔石を砕くことでモンスターを仕留めることもできるらしい。

勿論金にはならないが、命が関わるときにまで金の心配はしていられないだろう。

 

目が濁って、喉が潰れていて非常に不味いビジュアルになっているコボルトの胸にナイフを突き立て、切り開く。

 

血が飛び散って、顔にかかる...口に入った。おいしくない。

口の中に広がる灰を溶かした水のような味を我慢しつつも、非常時以外には決してこいつらの血を飲まないことを心に決め、胸をえぐって魔石を摘出する。

 

出てきたのは爪ほどの大きさしかない紫紺の結晶。

『魔石の欠片』とでもいうべき代物だ。

 

浅い階層にいるモンスターは基本このサイズの魔石しか持っていない。そして、小さいということは換金額も少ないのだ。

強いモンスターになるほど大きい魔石を持っているらしく、深い階層に行くにしたがって儲けも増えていくということになる。

 

魔石を抜かれたコボルトは、突然体の色素が抜け落ちていくかのように真っ白になり、灰になって崩れてしまった。

魔石は身体の維持にも関わっているらしく、このように無くなると体が崩れてしまうらしい。

 

戦っている最中に偶然魔石を壊してしまって、突然敵が灰になったらびっくりするだろうなぁ。

 

そんなことを考えながら、他の死体の処理に取り掛かる。二人がかりとはいえ、八体もあるのだ。素早くやらないと他のモンスターが血の匂いにつられて寄ってきてしまうかもしれない。

 

慣れた動きで胸を開き、ナイフを振り下ろす。

その動作を何回かやっていると、すべての死体が灰になった。

 

魔石はしっかりとポーチにしまい込み、苦労に見合った収穫に喜び顔でベル君に声をかける。

 

「そっちは終わったかい?」

「うん、今終わった」

 

ベル君もこの成果は嬉しいらしく、顔が緩んでいる。

私もふぅ、と一息つくと、ベル君から声が飛んできた。

 

「ネイア!これ見て!」

 

んお?顔を向けると、ベル君が何かを握りしめていた。

近づいてみると、それは『コボルトの爪』だった。こんな風に、身体が灰になった後に何か体の一部分が残ったりすることがある。

 

それをドロップアイテムと言い、時折モンスターが落とす。慣れ親しんだ用語だ。

魔石を失ってもまだ独立して残るほど強い力を持っていたもの。この場合で言うとコボルトは特殊な力を特に持っていないので、魔力だろうか。

 

このドロップアイテムは大抵高く売れる。

モンスターの中で異常発達して強力な力を持っていた物だから、武器や防具の材料に使われるらしい。

 

本来ならばこのようなドロップアイテムや魔石は、『サポーター』と呼ばれる非戦闘員...まぁ、言ってしまえば荷物持ちが持つのだが、私たち二人しかいないので(略

 

今はベル君にバックパックを持ってもらっているのだが、どうしても動きが遅くなってしまうのもあるので、早くこの現状をどうにかしなければいけないなと思う次第である。

フリーのサポーターを雇うという手もあるが、うちの零細ファミリアにそんなことが出来る余裕は無いのだ。

 

ベル君のバックにドロップアイテムを放り込み、ハイタッチする。

これ一個で魔石三個分くらいの儲けになるのだ。思わず喜んでしまうのも仕方ないことだといえる。

 

一息付けたので、最初に仕留めた二体のコボルトを解体しに戻ろうとしたところで、後ろからゴブリンの叫び声が聞こえた。

 

「...連戦?」

 

若干の悲壮感が伝わってくるベル君の言葉に頷きを返し、敵襲に備えるのだった。

 

 

その後、何回かギルドに戻り溜まったドロップアイテムや魔石を交換して潜り続け、ホームに帰ってきた。

 

 

ネイア・リーク

 

 

Lv.1

 

 

力:I67→H131

 

耐久:H121→H163

 

器用:H124→H142

 

敏捷:I80→H102

 

魔力:I0

 

 

《魔法》

 

【】

 

《スキル》

 

徹底忠誠(ヘスティア・ファナティック)

 

・忠誠心が干渉を受けない

 

真祖(トゥルー・ヴァンパイア)

 

・吸血可能

 

・体表に付着した血液を吸収可能

 

・血液操作

 

 

相変わらずスキルの内容が消されているのは良いとして、何だこのステイタスの上昇度!?

 

私は驚愕の表情を浮かべて自分のステイタスを眺めていた。

ちょっと引くくらい上昇している。熟練度上昇トータル140越えって...えぇ、なんか恥ずかしいな...これ私のスキルの影響だよね?

こんなに上昇幅が大きいのは予想外だったけど、上がる分には問題は無い...よな?

 

複雑な感情を抱きながらも、とりあえずはベル君の分のステイタスの更新を待つことにする。

ヘスティア様も嬉しさと面倒ごとになりそうな予感で苦悩しているようだ...微妙な表情をしている。

 

ベル君の方も凄く伸びてるんだろうなぁ...

 

 

ベル・クラネル

 

 

Lv.1

 

 

力:I82→H120

 

耐久:I13→I42

 

器用:I96→H139

 

敏捷:H148→G225

 

魔力:I0

 

 

《魔法》

 

【】

 

《スキル》

 

【】

 

 

うわぁ。

熟練度上昇トータル160オーバー。しかも敏捷に至ってはGにまで行ってるよ...

 

私が頭を抱えていると、ベル君が更新されたステイタスを見て慌て始めた。

 

「神様、コレ、これ、書き間違えたりしていませんか...?」

 

まぁ、そういう反応にもなるよな...ベル君はステイタスが異常に上昇する理由を知らないわけだし。

 

ヘスティア様の方を見ると、あからさまに機嫌が悪くなっている。

 

あっ、確かベル君の方のスキルってアイズ氏への思いが元でしたよね...?

そうもなるかと私が納得していると、どんどんベル君が火に油を注ぎ始める。

 

私関係ないですよという雰囲気を出して隠れていると、とうとうベル君もヘスティア様の不機嫌さに気付いたようだ。

 

「あ、あの...神様...?」

 

ただし、気づくのが少しばかり遅かったようで、散々ステイタスが上昇していることを質問されてイライラが頂点に達していたヘスティア様はそっぽを向いてしまった。

 

「...知るもんかっ」

 

そのままクローゼットから特注の外套を取り出し、動揺してタジタジなベル君の前を通り過ぎて出て行ってしまった。

 

「ボクはバイト先の打ち上げに行ってくる。君たちもたまには二人で羽を伸ばして、どこかで豪華な食事でもしてくればいいさっ」

 

バタン、と扉が閉まる音が響く。

...出店で一体どんな打ち上げをするんですか?

 

ベル君が明らかに落ち込んだ様子でこちらに声をかけてくる。

 

「ねぇ、ネイア...僕、何が悪かったのかなぁ...?」

 

...気持ちは分かる。

上手いこと事実をごまかしつつ、私は珍しくベル君を慰めながら、豊穣の女主人へと歩みを進めるのだった。

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