悪鬼纏身の怪人殺し   作:怪盗偽温羅

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初投稿です、よろしくお願いします。


プロローグ ①

プロローグ

第一話

 

 

 

「……くそったれめが」

 

 俺の目の前に広がるのは少し前までは父親と母親、背丈的に兄と妹が家族揃って食事をしていたのだろうテーブルの上に乗せられた料理。それだけならば、普通の家族の食事場に不審者の男が入り込んだだけですんだのだろう。

 

だが、鼻につく血の匂いと部屋一面に散りばめられた人間の臓器、そして四人家族の無惨に殺された遺体が俺に現実逃避をさせることを許さなかった。

 

逃げるべきだ、人に知らせるべきだ、一刻も早くこの場所から離れてしまいたい。自分の頭の冷静な部分がそう告げてくる。あぁそうだ、今も耳に聞こえてくるこの遠ざかる破壊音からも、逃げ惑う人々の悲鳴からも逃げてしまえばいい。 

 

 そこから逆に向かって駆け出してしまえば一番生き残れる可能性がある。少し時間がかかるだろうが生き残りさえすれば普段通り友人とゲームしたり、好きな漫画を読んで好きな音楽聴く。

 

そんないつも通りの幸せをこれからも送ることができる。今にも座り込んでしまいそうにな足に力を入れ直しながら、頭にはこんな場所に来てしまった経緯と、走馬灯の様に自分の人生とかつての人生が脳裏に浮かんでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 俺の名前は鹿倉竜仁、いたって普通の公立高校に通っている高校一年生だ。成績も容姿も特別優れている部分はないが敢えて言うのであれば昔の癖で体を鍛えているくらいだろうか。あぁ、あとは特徴ではなく特異というのであれば前世の記憶があるということだろう。

 

 前世と言ってもそれほど特別な人生など送ってはいない。普通の家庭に生まれ、高校、大学と進学して就職する。そして友人や家族とともに過ごす。ありふれているが本当に幸せな人生を送れていたと思う。

 

特別なところがあるとすれば俺がかつて就職をしたのが自衛隊だったということだろうか。転生をする前から、お気に入りの音楽を聴きながら漫画を読むことを至上の趣味としていた俺は、恥ずかしながら中二病を患っていたこともある。今でも、好きなキャラやストーリーの考察で友人達と何時間も語り合ったことを鮮明に覚えている。

 

 口に出すのも恥ずかしいが、どんな逆境であっても立ち向かっていくキャラ達に対する憧れは大学生になった頃にも色褪せたりすることはなかった。その憧れに近づくために選んだ手段が自衛隊に入隊することとは、我ながらこの単純思考には思わず笑ってしまいそうにもなる。

 

入隊から二年が過ぎようかという頃だっただろうか、辛いことやしんどいことまみれだった職場にもようやく慣れて、一人前を名乗れる程度に成長できたと思い始めていた時、俺は死んだ。

 

俺の最期は漫画のような劇的なものではなく、駅の改札口を抜けてしばらく歩いたところで、急な胸の苦しみと息苦しさを感じた辺りで記憶があやふやとなっている。だが、転生してしまっているのだから、俺はそこで死んだのだろう。

憧れに近づけたかもわからず、家族や友人達を残して逝ってしまったことには後悔しかない。ちなみに、生まれ変わるまでの間の記憶は定かではないが、時間の経過もまわりの様子もはっきりとわからない場所で、まるで宙を漂うような感覚を味わっていたような気がする。

 

たしかその時に頭に浮かんでいたのは、残してきてしまった家族や友人のことであったり、楽しみにしていた漫画の最新刊であったり、苦楽をともにした同期達の顔であったり、大したことではきっと無いだろうが、俺にとって大事な思いでの数々だった。

 

その中でも特に、どうしてだか大学時代の何でもない友人達との飲み会のことが、脳裏に浮かんできていた。

 

 

 

 

 友人宅のテーブルに各々が持ち込んだ酒やつまみ、そしてそれぞれの推し漫画を広げながら、俺は数人の友人達とともに馬鹿話に興じていた。

 

「諸君、本日は僕の新たな嫁を紹介させてもらおうと思う。とても可愛らしい娘だから、どうか僕に嫉妬はしないでくれたまえ」

「ふざけろ、その台詞もう何回聞いたかわからんぞ」

「何を言うか、愛というのは大きければ大きいほど良いと言うだろう?つまり、大きな愛をもって接すればハーレムすら許されるのさ」

「お前な、まず前後の文脈と倫理観が繋がってないぞ」

 

 全く、いつものことながら新シリーズのアニメが始まる度に狂乱するやつだ。数年来の付き合いだがこいつの悪癖は治るどころか悪化の一途ばかりを辿りやがる。

 

「で、これで何人の嫁さんと結婚したんだっけか?」

「良い質問だ、これから紹介する娘を合わせると136人目だな。あぁ、もちろんまだ16歳になってない娘もいるから、その娘達も含めるともう少し増えるがな」

「すぐに答えが出るところが一番怖いんだよ」

 

 他数人の友人達とともに苦笑いを浮かべながら、俺は片手に持った缶ビールを傾ける。

 

「僕からしたら俺の嫁!等と言いながら、クールが変わるごとに嫁を忘れてしまうことの方があり得ないんだがね」

 

 いや、良い風に言っているかもしれんが嫁のプロフィールを丸暗記するだけでは飽き足らず、年齢的に結婚できないからと、成長したキャラと自分とのssを自分で執筆するのは流石にどうかとは思うぞ。

 

「お前はもっと他のことに目を向けられていればなぁ、そうすればハーレムは無理だが彼女の一人くらいはできてるだろうに」

「無理な相談だな、俺の愛の向ける先は物心ついたときからすでに決まっている」

「……物心ついたときからとか筋金入りだな」

 

 ハーレム(二次元限定)野郎を筆頭に、人外趣味、百合、日常、好みのジャンルがバラバラで癖のある奴ばかりが集まったものだ。常識人の俺としてはこんなときは少し、肩身が狭く感じてしまって困りものだ。

 

「自分だけは違うぞ、って顔してるやついるがいるが、お前も同類だからなヒーローオタクめ」

「なんだと、お前らほど頭が逝っているつもりはないぞ」

「いや待て!日常系に片寄っているのはそんなおかしいところはないだろ!」

 

 確かにそれだけだったらともかく、作品の聖地となった田舎に住みたいからといって、ワザワザそこの教員になる男が言っても説得力がないな。

 

「仮に俺がお前らの同類だとしても、漫画のキャラに影響を受けて自衛隊に入隊する奴も同類だろうが!」

「黙れロリコン!貴様のように田舎の学校で小学生との出会いを求めているやつと一緒にするな!」

「のんのん○よりはそんな作品じゃないって何回言わせる気だてめぇ!ぶっ殺すぞ」

 

 いつも通りの流れでオタクとオタクによる下らない争いが起こるが、何度も繰り返してもこの遠慮のえの字もない言い争いは、自分の心をさらけ出しているようで気分が良い。

 

 他の連中も抑圧されるものがなくなるこの空間を、大なり小なり心地よく思っているからこそ、趣味がまったく違っていてもつるむことができているのだろう。

 

「さて、そろそろ恒例の最近の推し作品紹介といこうじゃないか」

 

 酒もある程度入っていい気分になり始めた頃、ハーレム(二次元限定)野郎が本を片手に立ち上がると、まるで司会のような立ち回りで俺たちを見渡した。

 

 何度目かの飲み会から始まったこのイベント、好みのジャンルがまるで違っている俺たちだが、自分と馴染みのない面白い作品を知ることができるこの機会、実際に今までもこれで数々の名作を目にすることができた。

 

 それだけでも十分なものだが、さらに自分の好きな推しを気のおけない友人達に対して布教する。オタクとしてこれに心踊らないなんてことがあるだろうか、いやない!

 

 それぞれの熱意のこもった話を聞き終わったと、俺はこれから自分が語る作品を片手に、全員の顔を見ながら小さく息を吸った。

 

「いつもは王道のバトルものを中心にしている俺だが、今回は少し変わり種でいかせてもらおうと思う。『アカメが斬る!』を知っている者はいるだろうか?」

 

「……バカな、バトルはバトルでもダークファンタジーだと?」

「いつもヒーローがいるような作品ばかり勧めてくるこいつが?いったいなんの冗談だ」

「……確かに自衛隊に入って一人離れるのが寂しくなるのはわかるが、もし何かあったのなら相談に乗るぞ。なんせ僕たちは友達なんだからな」

 

 今までにないほど優しい笑顔を向けてくる友人達だが、どうしよう、こいつらとの付き合いのなかで一番ぶん殴ってしまいたい。

 

「俺が『アカメが斬る!』って言ったのがそんなに意外か?」

「いやすまない。王道ものばかり勧めてきた奴が珍しく他のジャンルを言ったのでな、少しからかい過ぎてしまった」

 

 まぁ確かに、普段の俺を知ってる奴からしたら、珍しいチョイスをしていることは確かだな。

 

「いいか、『アカメが斬る!』の面白さはな、ダークファンタジーという評判に恥じない物語の展開もあるが、俺はそれ以上にそれぞれのキャラクターに魅力があると思っている」

 

『アカメが斬る!』は、中世的な危険種と呼ばれるモンスターが存在するというファンタジーな世界観でありながら、冒険やモンスター退治ではなく、腐敗した帝国と戦う暗殺者達の物語だ。

 

 国の為政者達が、罪のない弱者である国民達に暴力や殺戮の限りをつくし、主要人物達が予想もつかないところで亡くなってしまったりと、万人に受ける作風ではないかもしれないが、とても面白い漫画だ。

 

「それだけ聞くとただの暗い話だけど、お前がドハマりするんだからまだあるんだろ?」

「もちろん。バトルシーンもな、[帝具]と呼ばれる兵器を主要人物は持っているんだが、それがピンチに威力が上がる銃、万物を斬るハサミ、全身鎧を呼び出す剣、こんなものを使って戦うんだ。中二心が疼いて堪らないだろ?」

 

 特に俺が好きなのは、この全身鎧の帝具、[悪鬼纏身インクルシオ]だ。もうネーミングだけでも堪らないが、デザインが必要最小限の装甲にマント、さらに竜の危険種を素材にして奥の手には透明化ときたものだ。これは間違いなく少年心に響くこと間違いなしだろう。

 

 ダークファンタジーでありながら、少年漫画のような武器とは。ものの見事にそのギャップにやられたのも良い思い出だ。やはりギャップ萌えとはいいものだ。

 

「それはギャップ萌えとは言わない!僕の嫁を愚弄するつもりか!」

 

 何やら雑音が聞こえてくるが、俺達はそれを無視して話を進める。さぁ、ここからが一番大事なところだ、気合を入れ直さなければ。

 

「この作品の軽い概要をわかってもらえたところで、さっきも言ったキャラクターの魅力に移りたいと思う」

 

 正直、キャラクター全てを語っていきたいところだが、長すぎる説明をするとこの飲み会の時間だけではとてもじゃないが時間が足りそうにないし、こいつらの集中力も持たないだろうし、一人に絞っていくのが無難だな。

 

「『アカメが斬る!』の主人公でタツミという少年がいるんだがな、こいつは貧困に喘ぐ故郷を救うために、幼馴染み三人で帝都に出稼ぎの旅に出たんだ。ところが他の二人は帝国の貴族に残虐に殺されてしまっていたんだ」

 

「ふむ、大抵のダークファンタジーなら復讐に走るパターンだな」

 

「その貴族は後の暗殺者仲間と出会ったことで、タツミが殺したんだが、物語の本番はここからなんだ」

 

 俺はその後も、復讐ではなく故郷のために自分が殺し屋として汚れ仕事引き受けた精神、殺し屋にしては甘い性根の優しさ、仲間や民のために燃える魂、といったタツミの魅力を熱く語った。

 

「結局はいつものヒーローオタクだった、ってことだな」

 

 やりきった心地よい疲労感に浸っていたところ、友人達は納得したような顔に苦笑いを加えた表情をこちらへと向けてくる。

 

「もちろんだ。やっぱり俺はどんな苦境のなかでも立ち向かうヒーロー的なキャラが好きだ。こればかりは一生変わる気がしないな」

 

 こんな雑談が数時間は続き酒もだいぶ入って眠気が襲ってきた頃、ハーレム野郎(二次元限定)がふいに呟いた言葉が、飲み会の後も脳裏に張り付いて忘れられなかった。

 

「こんな偏屈な連中ばかりが集まるなんて、僕は最初思いもしてなかったよ。けどさ、遠慮をしないで本音の言葉で殴り合える友人がいるなんてさ、最高に幸せだと思わないか?」

 

 あぁ、その通りだよチクショウ。という返事を素直に返すのが気恥ずかしかった俺は聞こえなかった振りをして、睡魔に身を任せる。

 

 目蓋を閉じた暗闇のなか、そこに映るのはもうすぐ離れてしまう友人達と過ごした光景と、先ほどまで語ったタツミの漫画での各シーンが浮かんでは消えていた。

 

 

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